2011年06月01日

『マイ・バック・ページ』

mybackpage
『マイ・バック・ページ』公式サイト

監督:山下敦弘

出演:妻夫木聡、松山ケンイチ、忽那汐里、石橋杏奈

2011年/日本/141分

おはなし Yahoo!映画

全共闘運動が最も激しかった1960年代後半、週刊誌編集部で働く記者・沢田(妻夫木 聡)は、理想に燃えながら日々活動家たちの取材を続けていた。ある日、梅山と名乗る男(松山ケンイチ)から接触を受けた沢田は、武装決起するという梅山の言葉を疑いながらも、不思議な親近感と同時代感を覚えてしまう。

*******

ネタバレあります。

東大安田講堂事件から浅間山荘事件まで 1969年から1972年の間を背景に行われた事件の物語。
それが『マイ・バック・ページ』という映画だ。
私は何週間前に川本三郎のエッセイのような原作を読んでいたのだが映画では主眼としては
沢田という記者と梅山というラディカルで場当たり的な目標もない左翼の活動家のふたりの
話である。

なんの雑誌か忘れたけど、この映画を描かれている時代を同時代で生きてきた某映画評論家が
時代背景を貶していた。あの時代はこんなものではなかった的なことでね。
だけどこの映画は1969年から1972年という時代を描いてはいるんだけど、主眼はふたりの男の
理想に向う奇妙な関係を描いていると思う。彼らはあの時代を描いているのではなく人間を
描いているのと思う。でなければラストに奥田民生と真心ブラザーズに“マイ・バック・ページ”
を歌わせないでしょ。

映画としては、面白くないわけではないんだけど、どうも沢田のナイーブさがあまり好き
ではないのだ。なぜラディカルな左翼思想の持ち主の梅山をどこかで信じ、共犯関係になって
しまうのがあまり理解できないのだ。それは原作においても同じである。
このように書くと「だから、お前はあの時代を知らないのだ」と言われそうだが、先輩記者で
左翼に関してシンパシーを持っている中平が何度か止めようとしたのも振り切って関係を
深めていく。疑問を持ちながらも京大全共闘議長を巻き込んでね。そして映画の終わりに
向って話は進んで行くんだけど、なんであんな目標もない男を追ってしまったのだろう?
あの時代に生まれていない私は本当に疑問なんだな。

映画としては、随所に山下敦弘らしさがちりばめられているけど、私にはよくわからない
部分もないとは言えない。原作にある程度、忠実なのだが 具体的に自衛官刺殺の部分は
完全に作り手の想像で作られている。それはそれでいいと思う。
この映画で印象が残ったのは、自衛官刺殺事件が行われている間に喫茶店でスパゲッティー
を食べてる姿だ。同士が人を殺そうとしている時にだ。この落差はなかなか奇妙で嫌いじゃない。

梅山という活動家は自称でしかなく、私からしたらラディカルでありつつ自分の手を汚す
ことはしない。梅山という男は左翼思想にかぶれた詐欺師にしかみえないのだ。
その梅山を演じた松山ケンイチはスゴイと思う。あの奇妙な存在感はなんなんだろう。
それだけで彼に拍手を送りたい。もちろん梅山を演じている松山ケンイチにだ。

また脇役がかなりか輝いている。長塚圭史の東大全共闘議長、山内圭哉の京大全共闘議長、
古舘寛治の週刊東都記者などなど 豪華でありこの映画にフィットしていると思う。
三浦友和の「社会部はそんなに偉いんですか!」との質問に「偉いんだよ!」の一言で
相手を身動きさせない力があると思う。今の三浦友和じゃないと出来ないよ。
妻夫木聡は、純粋でナイーブな感じがしたけど、そこがちょっと引っ掛かったかな。

原作を読んでこの映画を見ながら思い出したのは雑誌のカバーを飾る倉田眞子の存在。
私は原作を読んでいるので彼女が自殺することは知っていた。
だが、それをナレーションだけで処理するのにはかなり不満がある。
沢田の週刊誌のカバーガールであり一緒に映画館へ行って映画を見たりする仲なのに
このあっさりとした終わりには残念だった。この事件を最後にでも使って欲しかった。
まあ、ラストで沢田が周りをはばからずに泣いてしまうところにリンクしてはいるんだけどね。

この映画はいつでも熱くなることが出来るツールというか事件が多いにもかかわらず
どこか淡々としていたりするのだよ。そしてどこかで熱さを挿入する。
これは監督のセンスでありバランス感覚なのかもしれない。

評価するのは難しいのだが山下敦弘と脚本の向井康介はかなり頑張ったと思うし、
時折みせるきらりと光る瞬間をふたりで作り出しているのは確かだ。
評価がわかれる映画だと思います。

そういえば『ユリイカ 2011年6月号』で山下敦弘の特集をしている。
『マイ・バック・ページ』の宣伝もかねているのかもしれませんがなかなか
中身は濃いですよ。ちょっとオススメかな。


rabiovsky at 00:45│Comments(2)TrackBack(5)日本の映画 

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□作品オフィシャルサイト 「マイ・バック・ページ」□監督 山下敦弘 □脚本 向井康介□原作 川本三郎 □キャスト 妻夫木 聡、松山ケンイチ、忽那汐里、中村 蒼、韓 英恵、長塚圭史、あがた森魚、三浦友和■鑑賞日 6月5日(日)■劇場 チネチッタ■cyazの満足
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この記事へのコメント

1. Posted by 丞相   2011年06月05日 23:24
私もようやくこの作品を見てきました。
妻夫木聡&松山ケンイチが出演しているので、相当混雑
することを見込んでいたのに、いざ映画館に行ってみると
観客は20人ほどしかいませんでした。わざわざ混雑を
避けて朝イチの回を見たにしても、この少なさには驚きました。
このままだと『松ヶ根乱射事件』のように、2週間で上映打ち切り
の憂き目に遭うかもしれませんね。

それでも、私は『マイ・バック・ページ』がツボに入りましたよ。
もともとこの手の話が好きだったのと、山下監督作品ということも
合わさって、帰りにはrabiovskyさんにオススメされた『ユリイカ』
特集号を買ってしまいました。

歩くシーンは固定カメラで撮ったり、クローズアップを多用したりと、
これまでの山下作品とはまったく違った正攻法の作りなのですが、
ダメ男にイラッとさせられるところは今まで通りだったと思いますよ。
作中の言葉を借りれば「嫌な感じ」が上手く出ていたと思います。

脇役は軒並み良い感じで、とりわけ先輩記者役の古舘寛治が
良かったですね。私は先に『歓待』という映画で古舘寛治を
見たのですが、これからの日本映画に欠かせない存在に
なる予感がします。
2. Posted by rabiovsky   2011年06月06日 01:07
>>丞相さん

私は平日の夜に見たのですが劇場は1/3ぐらいは埋まってましたよ。
若い人はあまりいなかったけど。
朝イチで20人はいい方なのでは?
題材があまり好きじゃない人が多いのかな〜。
上映打ち切りにはならないと思いますよ。

丞相さんはツボにはいったのですか。
私は何でこんな男に惹きつけられるのかが理解できなくてイラって
しながら見てました。松山ケンイチ君の存在感は面白かったけど。
正攻法だったけど、自衛官を殺害するシーンはなんか山下監督っぽい感じが
して好きだったな〜。

>作中の言葉を借りれば「嫌な感じ」が上手く出ていたと思います。
確かに「嫌な感じ」は出ていましたね。
監督と脚本家のふたりはその辺は上手いんですよね〜(笑)

脇役は軒並み良い感じで、私も先輩記者役の古舘寛治はかなり良かったと思います。
妻夫木くんを食ってる場面もありましたからね。
京大全共闘議長の山内圭哉もいかがわしい感じがあって好きでしたよ。

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