以前から何度か「声優ラジオ・アニラジの歴史を振り返る本を作りたい」とTwitterでつぶやいてきました。実際に形になるかどうかはわからないとはいえ、そもそもそんな本が作れるのか? 問題点を挙げつつ、自問自答してみました。

――村上さんは以前から「声優ラジオ・アニラジの歴史」を振り返る本を作りたいと発言されていますね。

村上 はい。『深夜のラジオっ子』を書く前から「声優ラジオ関連で著書を作るなら、どんな本がいいだろうか?」って考えていて。で、実際に『深夜のラジオっ子』を書く過程で思いついた企画です。
※もうこのブログを読んでいる皆さんは当然、購入済みですよね? ね? ね?

――『声優ラジオの時間』のようなムック本ではなく、村上さんの著書という形を考えているんですよね。現実的に企画は実現しそうなんですか?

村上 いや、まあ、なんというか……。具体的にはまだ動けてないという状況なんですけど……。

――何だか歯切れが悪いですね?

村上 お察しくださいとしか言いようがありません。

――じゃあ、そこは突っ込まないでおきます。仮に出版することができるとなっても、いろいろと問題点が山積しているとか。そこを今回はいろいろお聞きできればと思います。

村上 そうなんです。頭がこんがらがってまして……。

大前提
実はそもそもアニラジに詳しくない

――『深夜のラジオっ子』は、後書きなどからもわかるように、村上さんのリスナー体験が活きていると思うんですが、声優ラジオ、アニラジも学生時代からかなり聴いてきたんですよね?

村上 それは……すでに話したことがあるので言ってしまうと、実は『声優ラジオの時間』を作り始める前のリスナー体験はほとんどないんですよ。

――えっ!? 声優ラジオ誌の編集長なのに?

村上 もともとは深夜ラジオリスナーでして……。だいぶ前にブログで『声優ラジオの時間』の立ち上げについて話しましたけど、そもそも『声優ラジオの時間』が生まれたのは、知り合いのカメラマンから「声優の本を作りません?」って提案されたのがキッカケなんですよ。それにラジオを絡ませるアイデアを考えたのは僕ですけど、その時点で「声優って結構ラジオやってるしなあ」というぐらいの知識しかありませんでした。声優ファンでも、アニメマニアでもなかったんです。

――じゃあ、村上さんの声優ラジオに関する知識は、本を作り出してからここ6~7年で得たものしかないんですね。

村上 そうです。リスナーとして聴いたことがあるのは林原めぐみさんの出演していた『佐竹雅昭の覇王塾』ぐらいですね。深夜ラジオリスナーによくあるパターンですけど、「声優のラジオは内容がオタク向けでノリがよくわからないし、妙にシモネタ色が強いし、聴くことはないだろうな」なんて思ってました。

――素朴な質問なんですけど……そんなので、歴史を振り返る本は書けるんですか?

村上 それが問題なんです。「あの当時に聴いていたあの番組のあの部分が面白かった」なんて感覚が皆無なので、それを軸にはできないんですよ。まあ、無理矢理に視点を成立させるのであれば、“あの番組は面白かった”という個人的な思いを一切挟まないので、客観的な視点はキープできるんじゃないかと思います。

――視点がブレるような思い入れがそもそもないわけですもんね(苦笑)。

村上 時代時代の番組内容ではなく、全体の流れを押さえていく感じですね。ここ数年で言えば、声優さんにラジオについて取材してきた経験はそれなりにあるので、それ一本槍で突き進むしかないかなと。とはいえ、「そもそも聴いてない」というのを隠してマニアを気取るのは失礼な話なんで、前書きなり、後書きなりでそのことに触れ、取材する方にもちゃんと説明しようと思います。ポジティブに考えれば、声優さんのラジオに興味がない人、苦手意識がある人も楽しめる本になるんじゃないかなって。

――まあまあ、ラジオ系のライターだからって、どんなジャンルでも満遍なく聴いているなんて無理ですからね。そこは苦労があるんじゃないかと思います。

村上 言ってしまえば、僕は深夜ラジオ推しで、しかも自分のペースで聴いている中級リスナーですからね。「ラジオの専門誌を作っているんだから、ラジオは何でも聴いているだろう、ラジオについてなら何でも書けるんだろう」と思われがちなんです。ただ、取材自体はかなりやらせてもらっているんで、下調べのやり方やラジオに関するインタビューの方法論については人並み以上に理解しているつもりです。どんな企画でも、準備にある程度の時間がもらえるなら、それなりのものにはできると思うんですけど。

――ちなみに今回の企画に関して、本全体の作りはどんな形を想定しているんですか?

村上 各時代やテーマ毎に、声優さんなり、ラジオのスタッフさんなりを取材して、その証言を元にまとめるような形ですね。『深夜のラジオっ子』に近いと思いますけど、取材した方の生い立ち部分はそんなに掘り下げないと思います。

問題点(1)
声優という職業が日本に生まれた時期は?

――ここから1つずつ「問題点」を挙げていただきましょうか。

村上 最初に触れなければならないのは、「日本において声優という職業がいかに成立したか?」なんですね。

――でも、声優とラジオの歴史を紐解くだけなら、あんまり関係ないんじゃないですか?

村上 基本的には「声優とラジオの50年史」みたいな切り口でいこうとは思っているんですけど、そもそも日本において声優が生まれたのはラジオの存在があってこそなんです。やはりラジオドラマが始まったのが大きいと思うんで。

――それがなぜ問題点に?

村上 今ちょうど資料を読み始めているんですけど、諸説あるんですよね。掘り下げていくと、“声優の定義”の話になってくるんですよ。日本でラジオ放送が始まったのは大正14年(1925年)なので、そこを基準にすると「声優とラジオの100年史」にもできるんですけど、アフレコが始まった時、アニメが始まった時を始点と考えると、また時期が違うわけです。無声映画に語りを付ける活動弁士を始まりと捉える考え方もあるし、舞台にだって声優的な役割はあるし、極端な話、落語や講談だって声優的な意味合いもあるじゃないですか。もはやこのテーマだけで1冊できるぐらいの中身なんですよ。

――じゃあ、どうするんです?

村上 あくまでもラジオの話なんで、「ラジオというメディアと関わったことで声優が本当の意味で産声をあげた」みたいな逃げたニュアンスにしようかなと(笑)。あまりこだわりすぎると失敗しそうなんで、サラッといこうと思います。

問題点(2)
最初に生まれたアニラジは?

――声優の成り立ちについてはわかりましたけど、本全体のスタート地点はどこにしようと思っているんですか?

村上 ラジオドラマではなく、パーソナリティとしての声優が注目されたのは、やはり深夜ラジオのスタートからだと思うんです。いきなり野沢那智さんと白石冬美さんが『パック・イン・ミュージック』を担当して一気に人気番組へと上り詰める。それが1967年スタートですから、そこをスタートにしようかなって。

――さっきの話じゃないですけど、当時と今とでは声優の定義は違いますが、それでも「深夜ラジオの黎明期は声優がけん引していた」というのは若い声優ファンからすると驚きの事実かもしれませんね。

村上 詳しく知りたい方はぜひ『深夜のラジオっ子』を読んでください(笑)。で、声優がパーソナリティをやるという形はいいんですけど、アニメと連動したラジオ……いわゆるアニラジが最初に生まれたのはいつかというのが問題で。

――ウィキペディアによると、1978年に『未来少年コナン』の特番がNHKラジオで放送されたのが最初と書かれているそうですね。

村上 でも、裏が取れないんですよね。ここでも定義が問題になってくるんです。アニメや漫画をラジオドラマ化した番組は当然あるし、「アニメのキャラの体でラジオをやる」なんてパターンもあるようなんですよ。カセットテープのみで作られているものもあるようなので、一体どうしたもんかなと。

――それこそラジオ欄を片っ端からチェックするしかないんじゃないですか?

村上 それだって地方局で実現している可能性もありますからね。物凄くハードルが高いんです。

――どうやって問題を解決するつもりなんですか?

村上 90年代後期にあった専門誌『アニラジグランプリ』の誌面でその手の記事があったら、「『アニラジグランプリ』ではこう定義していた」なんて逃げ方はあるかもしれませんね。とにかく資料を読み込んでみようと思います。
※昨年、一昨年に復活したアニラジグランプリ。過去のものも、中古で探せば結構見つかります。

問題点(3)
あの人たちを取材できるの?

――あと気になるのが取材する人選だと思うんです。以前、Twitterで人選案をフォロワーさんに聞いてましたけど、どうなりそうなんですか?

村上 そもそも本を作ってないので何とも言えないんですけど、バランス感覚が求められるかなと。どうしても昔の話を掘り下げたくなるんですが、そうなると今のリスナーさんには退屈な本になりかねないじゃないですか。でも、現在進行系の番組をフィーチャーするのも難しいです。あと、僕が裏方取材好きというのもあって、スタッフさんばかり取材したくなっちゃうのもあるんですよね。だから、声優さんもちゃんとインタビューして、幅広いリスナーさんに興味を持ってもらえる形にしたいなと。

――具体的には名前を挙げないでおきますが、こういう時にはやっぱり今はメディアに登場していない方が思い浮かぶじゃないですか。あのパーソナリティさんとか、あのディレクターさんとか……。

村上 誰のことを言っているんでしょう?(苦笑)。僕個人に独自の人脈があるわけでもないので、なかなか実現は難しいですけど、個人的には当時の『アニラジグランプリ』スタッフや文化放送で最初に「アイドルっぽいフォーマットで声優にラジオ番組をやらせよう」と考えた関係者には話を聞きたいと思っています。

問題点(4)
地方ラジオの扱いは?

――フォロワーさんからいただいたTwitterでの取材人選案を読んでいると、関西方面を中心に地方局の方も名前に挙がっていましたね。『深夜のラジオっ子』は首都圏の放送局しか取り上げていませんでしたが、地方局の扱いはどうするんですか?

村上 これも広げすぎると際限がないんですよね。ただ、関西圏の話は触れないとおかしいと思うので、その関係者にはお話をお聞きしたいと思います。

――取材範囲というのもある程度は決めないと難しいんでしょうね。

村上 例えば、アナウンサーやラジオパーソナリティがアニメについて語る番組ってかなりあると思うんですが、それは当然、“アニラジ”の区分に入ると思うんですけど、歴史を掘り下げるとなった時はやっぱり声優さんの番組、アニメと連動した番組を中心にしないとブレてしまうと思うんです。そのあたりはしっかりと整理しなきゃなって思ってます。

問題点(5)
昔の資料ってあるの?

――さきほど「資料を読み始めた」という話をされていましたが、この手の企画の資料はどんなものがあるんですか?

村上 まずはこれまで僕自身が作ってきた『声優ラジオの時間』や『声優Premium』はかなり資料になりますね。あとは『アニラジグランプリ』が全冊揃っているのも心強いです。
※vol.2はまだ新品の取り扱いがあります。かなりラジオの話もありますよ。

――『アニラジグランプリ』は95年から2000年までに30冊近く発売されていました。

村上 結構過去を振り返る企画もあるんですよ。それはとても参考になります。2冊しか出ていないんですが、『ボイスアニメージュ』のラジオ特化版『ボイスラジメージュ』というのも手元にはあって。他だと『ドリカンからこむちゃへ アニソン黄金伝説!!』とか、今村良樹さんの『アニラジ・ステーションより愛をこめて 君にSAY・YOU』とか、単行本が数冊あるぐらいですね。実は古い番組に関する資料って結構あるんです。

――そういうものなんですね。

村上 それこそ、今読んでいるラジオドラマの歴史に関する本は大正時代の話まで載ってますからね。でも、『アニラジグランプリ』が出なくなってからの2000年代の資料って意外にないんですよ。

――インターネットにはないんですか?

村上 2000年代後半になるとだいぶ充実してくるんですけど、中盤ぐらいまではあんまりまとまってないんです。もしかすると、かつてはあったかもしれないですけど、すでに削除されたりしてるのかもしれませんが。一般の方の感想やブログなんかもあまり残ってないですし、予想以上にこの部分が難航しそうなんです。

問題点(6)
WEBラジオの誕生をどう描く?

――まさに、アニラジ界隈もその時期にネットラジオが生まれ、広がっていきました。

村上 どういう段階を経て、どう広がっていったのか、誰もちゃんとまとめていないような状態で。ライター目線で言うと、2000年代を振り返るにはまだ新しすぎるというか、ちょっと気恥ずかしさみたいなものがあるんです。最近、やっと90年代を紐解くような企画が増えてきたぐらいの感覚で。『深夜のラジオっ子』の時も苦労したんですよ。『オールナイトニッポン』がどんなタイミングでメール募集を始めたのか? 『LF+R』という試みが何だったのか? ネット上の情報ではまったくわからなかったですから。

――アニラジ界隈はさらに複雑怪奇でしょうね。

村上 当事者の方たちには生々しい感覚が残っているかもしれないですし、“つい最近”みたいに思っている方もいるでしょうけど、このあたりの過程はしっかり調べたいなと。なので、当時のアニメ雑誌なんかをくまなくチェックして、細かい記述を集めるしかないかなって思ってます。「こんな資料がありますよ」っていう情報は常に募集しています。あと、考えているのは、取材する方の視点で変化の過程を語ってもらうという手法が一番わかりやすいんじゃないかなって。そういう感じの中身にしたいですね。

問題点(7)
最終的な物語の落としどころは?

――歴史を振り返るってことは、最終的に“今”に繋がるんだと思うんですけど、最後はどんな風にまとめるおつもりなんでしょう?

村上 それが頭を悩ましているところで。今は声優ラジオ・アニラジにカテゴライズされる番組って無数にあるじゃないですか。ちゃんと数えたことはないですけど、映像付きのものもあわせたら、300~500番組はあるはずで。個人で聴ける番組数には限りがありますから、全体像を把握している人なんてリスナーにもスタッフにもいないはずなんです。

――どれだけラジオに時間を割いても、あくまで一部分しか知らないと。

村上 だから、そんな“今”を語れる人っていないんじゃないかって気がしていて。本来なら、20代の声優さんやスタッフさんの話を聞きたいところなんですけど、ちょっと無理があるかなと。ベテランの声優さんや構成作家さんに話を聞いて、その上で若い方に「締めの話をお願いします」と依頼しても「荷が重い」と断られそうですし。それならば、一案として、専門学校に通っている未来のパーソナリティやスタッフ、もしくは本当に駆け出しの人たちに名前を伏せて話を聞くのがいいかなという考えがあります。

――でも、そうなると濃い話にはならないんじゃないですか?

村上 夢や希望を語ってもらうのはいい落としどころの気もしますが……。あとは取材した方たちに「今後の声優とラジオの関係はどうなる?」という話を別個で聞いて、それを最後にまとめるという案。あとはTwitterで一般のリスナーさんに意見を募集する案なんかも考えています。もう1つ、最近始まった番組を聴いて、これはいけるかなと思う案もあるんですが、それは内緒にしておきます。

――ここまでダラダラと話を聞いてきましたが、もはや「こんな本、作れないんじゃないか?」と思わずにはいられません(苦笑)。

村上 その通りです。果たしてまとめられるのか、今から心配です。

――でも、まだ本を作ること自体決まってないんですよね?

村上 それは最初に説明した通りですよ。お察しくださいとしか言いようがないですね(苦笑)。「ラジオの時間編集部」のTwitterをしっかり追っている方ならば、「察しました!」と思っていただけるんじゃないかと。

――わかりました。とにかく今はいつか実現するのを楽しみにしておきます!