第3章 毒虫 #3

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「…………?」
 部屋の中には、どんよりと重苦しい空気が、トグロを巻いていた。
 真ん中あたり、水色の丸テーブルの陰に、誰かがグッタリ倒れていた。そしてそのそばには、ゾッとするほど冷ややかな顔をした……。

「……???」
 あまりに理解しがたい状況に、巳咲と霞は、とりあえず廊下へ避難した。
「……ちょっと待って、カスミちゃん。何か今、ありえないことが、起きてなかった?」
「……何か今、怒鳴られたよね?」
「……ねぇ、あれ、どっちだった?」
 落ち着いて、考えよう。
 部屋には、同じ顔が、二人いた。いつもなら腕を見ただけでも、日焼けぐあいで見分けがつくのに、一瞬どっちがどっちかわからなかった。
 一人は、テーブルの陰に倒れ、グッタリしていた。そしてもう一人が、ゾッとするほど冷ややかな顔をこっちへ向けて、怒鳴ったのだ。
「うるさいなぁ、何なの、一体!?」
 ……ありえないけど、まさか今怒鳴ったのは? 巳咲は霞の手を引いて、恐る恐る、中を覗く。

「……ほらハル、いつまでバテてんだよ!!」
 部屋の状況は、もっとありえないことになっていた。
 真ん中あたり、水色の丸テーブルの陰に、(今まであえて存在を忘れていた)春樹がグッタリ倒れていた。秋生にガツンガツン、すさまじいケリを入れられながら。
 ……まさかこれは、と、巳咲は霞に、テレパシー(耳打ち)。
ハルがドロボーに襲われてたのを、アキオが助けた? 
当然、そうじゃないでしょ! とテレパシー(小声)で怒られた。
どう見てもこれは、兄弟ゲンカで秋生が勝つ、の図である。
「……あのー、……これは一体、どうしたの?」
 一目瞭然ながら、巳咲はあえて尋ねた。春樹はともかく、秋生はたとえ兄弟ゲンカの真っ最中でも、笑顔で迎えてくれないと!!
 しかし。
「ウアァ〜っ!!」
 返ってきたのは、予想外のリアクション。秋生は今にも泣き出しそうな顔で、叫ぶ。
「一体どうしたらいいんだよー!!」
 頭をかきむしり、部屋をぐるぐる走り回る秋生と、まだグッタリしたままピクリとも動かない春樹。
 これはまさか……巳咲は再び、霞にテレパシー。
 ……ハルがドロボーに殺されて、アキオが「どうすればいいんだよ」?
 やっぱり、そうじゃないでしょ! と怒られて。
「ちょっとアキオくん!!」
 霞の矛先は、原因不明なパニック状態の秋生に向けられた。
「どうすればいい、って、何が!?」
 最近カスミちゃん、ヒステリー起こしすぎ……でもその甲高い声のおかげで、秋生はハッと我に返り、春樹の目に生気が戻った。
「……そうだ、大変なんだよ、なぁハル」
「ああ、オレたち今、すんげえ困ってたんだよ!!」
「だからぁ〜、何があったのって、さっきから聞いてんじゃん!」
 つられて巳咲もヒステリックになると、双子は同時にため息をつき、声を揃えた。
「……「まだバンドの名前、考えてなかった」……」


第3章 毒虫
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ragelabel at 00:09│Comments(0)TrackBack(0)第3章 毒虫 

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