2009年10月26日
下北沢Ｘ物語（1433）〜武蔵野踏切物語５〜
「碑文谷踏切責任地蔵尊」はその名が端的に示しているように近代の地蔵尊である。「責任」という名称の付け方がまったく新しい。義務に違反した罰を自ら命であがなおうとして自害した。その踏切番が地蔵尊となった。これを祈るものには命が恵み与えられる。
碑文谷踏切での事故、汽車が進入してきているのに遮断機を閉めなかった。それによって一人の若い銀行員を死なせてしまった。それで踏切番の二人は職責を感じて自ら鉄道往生を遂げてしまった。
当時、この事件は大きな反響を呼んだ。葬儀には多くの鉄道関係者が参列した。踏切番の一人須山由五郎の葬儀には「品川駅より渋谷まで汐留駅より横浜駅に至る迄の各々各駅々長助役以下三百余名及び川崎町長小林氏その他葬列に加わるもの総て七千余名粛々として田島村成就院入り」（読売新聞）とあって鉄道関係者のみならず多くの一般市民も弔問に駆けつけたようだ。
新聞でも大きく報道された。読売新聞は「踏切番の抱合自殺」の第一報に始まり、第二報「管理局に弔慰金を託す」、第三報「責任自殺番人の葬儀」と続けて載せている。
「都新聞」もこれを取り上げている。その取材者が実は長谷川信である。往時彼は都新聞の記者だった。彼は事件を取材し、「悲劇の真原因労役二十四時間」にあると捉え、踏切番の過酷な勤務体制に悲劇の原因はあると舌鋒鋭く説いている。彼は番人の居眠りが原因とされていることについての得心がいかないことから、こう書いたものであろう。
過失は何故起きたか。この踏切悲劇は流行歌として歌われた。「ああ踏切番」と題され東海林太郎が歌っている。その一節はには、「今か今かと来ん汽車を 待てる二人はわれ知らず いつか睡魔の誘い来て あはれ夢路をゆきもどり」とある。往時世間一般では居眠りが原因だったとされているようだ。その真相ははっきりしていない。読売新聞の場合には疑義を投げかけている。
△経験ある 者の推測によれば、その踏切は三十分乃至四十分の勾配をなし居りそこへ勢ひこんで一台の俥の駆上るを見、貨車の来る迄に十分踏切を乗越すものと見越し開閉柵を上げおきしところ、勾配を為し居る踏切に来て車夫の疲れ甚だしく
△貨車に触 れしむるに至りしものならんとの事なり
淀橋台と目黒台をつなぐ築堤は人力車で横切るには大変だったこと。その坂を勢い込んで上って来た。この調子なら渡れそうだと踏切番は判断した。が、車夫は品川停車場から俥を引いてきていた。東海道線を渡ったところで疲れが急にでてきたのかもしれない。貨物線に入ったところで立ち往生してしまった。わたしは読売のこの捕捉記事をもとにその場を先に書き表してみたものだ。
碑文谷踏切のこの二人はたたき上げで線路工夫から踏切番人になった。交通量の多い碑文谷踏切を任されていたのもベテランだったからだ。が、通行人がこけたり、線路で滑ったりしても渡ってしまえばなんの問題もない。ところが、自分たちの過失によって一人の若い銀行員を死なせてしまった。実直でまじめだっただけにひとしお責任を感じていた。「責任を感じて結局死を選ぶ以外に謝罪の道がな」かったと長谷川信は記事に書いている。
踏切番二人は、碑文谷「踏切を去る南四分の一哩の地点に於いて、相抱いて、同二時八分鄙側発六百一号列車の進路に飛び込み決意の轢死を遂げたり」（読売新聞）とある。その場所はどこだろうか。恐らく残っていることはないだろうと探してみた。
碑文谷ガードから東海道線の線路に沿って南へ進む。すぐに目黒台南端の坂にかかる。三四十メートルも行ったところで東から道が来ていて、それが線路の築堤にぶつかっている。かつて踏切があったところかもしれないと思った。それで築堤になったところを探してみた。そこには草が生い茂っている。金網越しに覗くと、何かの板碑が見えた。（写真）字も記されている。墨書だ。繁茂した葉に隠れて全部は見えない。が、「鉄道犠牲者供養」というのが辛うじて見えた。位置からしてここに違いなかった。彼らの行為はいまだに鉄道関係者によって記憶されているようだ。
当時、無人踏切だったのだろう。人に迷惑を掛けたくないということでここを死に場所に選んだ。当時の新聞によると、制服だった上下の小倉はきれいに折り畳まれていた。その上には制帽が載せてあったという。
○付記 写真の天地が逆になっていて、何度も戻そうとしたが直らなかった。写真を差し替えてやっと正常な向きとなった。
△貨車に触 れしむるに至りしものならんとの事なり
淀橋台と目黒台をつなぐ築堤は人力車で横切るには大変だったこと。その坂を勢い込んで上って来た。この調子なら渡れそうだと踏切番は判断した。が、車夫は品川停車場から俥を引いてきていた。東海道線を渡ったところで疲れが急にでてきたのかもしれない。貨物線に入ったところで立ち往生してしまった。わたしは読売のこの捕捉記事をもとにその場を先に書き表してみたものだ。
碑文谷踏切のこの二人はたたき上げで線路工夫から踏切番人になった。交通量の多い碑文谷踏切を任されていたのもベテランだったからだ。が、通行人がこけたり、線路で滑ったりしても渡ってしまえばなんの問題もない。ところが、自分たちの過失によって一人の若い銀行員を死なせてしまった。実直でまじめだっただけにひとしお責任を感じていた。「責任を感じて結局死を選ぶ以外に謝罪の道がな」かったと長谷川信は記事に書いている。
踏切番二人は、碑文谷「踏切を去る南四分の一哩の地点に於いて、相抱いて、同二時八分鄙側発六百一号列車の進路に飛び込み決意の轢死を遂げたり」（読売新聞）とある。その場所はどこだろうか。恐らく残っていることはないだろうと探してみた。
碑文谷ガードから東海道線の線路に沿って南へ進む。すぐに目黒台南端の坂にかかる。三四十メートルも行ったところで東から道が来ていて、それが線路の築堤にぶつかっている。かつて踏切があったところかもしれないと思った。それで築堤になったところを探してみた。そこには草が生い茂っている。金網越しに覗くと、何かの板碑が見えた。（写真）字も記されている。墨書だ。繁茂した葉に隠れて全部は見えない。が、「鉄道犠牲者供養」というのが辛うじて見えた。位置からしてここに違いなかった。彼らの行為はいまだに鉄道関係者によって記憶されているようだ。
当時、無人踏切だったのだろう。人に迷惑を掛けたくないということでここを死に場所に選んだ。当時の新聞によると、制服だった上下の小倉はきれいに折り畳まれていた。その上には制帽が載せてあったという。
○付記 写真の天地が逆になっていて、何度も戻そうとしたが直らなかった。写真を差し替えてやっと正常な向きとなった。
