2016年03月14日
下北沢Ｘ物語（2994）〜下代田の陸軍獣医学校�検�
（一）戦争終結の二年前、上野動物園の猛獣を処分せよと命が下った。昭和十八年八月十六日のことだ。理由は、「空襲で檻が壊されたりすると、猛獣が市中に出てしまい、危険だ」（『わたしの見た かわいそうなゾウ』澤田喜子）からと。が、真意は別にあった。この頃戦況は悪化していた。ところが多くの都民は戦争に勝っていると思っていた。そういう中で大達茂雄都長官（都知事）は命令を出した。「動物園の猛獣を処分するということにより、国民に警告を発するという方法をとった」と当時、陸軍獣医学校の教員であった古賀忠道は書いている。「象や虎や熊を殺さねばならぬほど戦況は悪化しているのだ」という発信、見せしめだ、しかし薬殺や毒殺は、人々にその惨さを印象づけた。戦後『かわいそうなゾウ』（土家由岐雄）が発刊された。この童話は、二百万部も売れたベストセラーとなった。あの戦争の悲惨さを象徴するできごとだったからだろう。当地の文化探訪をしているうちに陸軍獣医学校に行き着いた。この学校が上野動物園の猛獣処分に深く関わっていたことを知った。薬殺された動物は 昭和十八年八月十八日トラなどは動物園で「硝酸ストリキニーネで毒殺」され、そして「これら動物の死体は８月１９日、陸軍獣医学校に運ばれて解剖され」ている。トラは皮晒しとなった。（『上野動物園百年史』）
このライオンの処置に関して異説がある。広島文武獣医の話だ。彼は今年で８９歳となるという。獣医学校跡に装蹄学校ができたがここに五年ほど勤めたという。五頭の馬がいたが科の廃止で日大に譲って学校を退き、旧陸軍獣医学校の側に動物医院を開業したという。
「ライオンは生きたまま連れてこられて、最後は学校内の防火用水に沈められて溺死させられて殺されました」
陸軍獣医学校の先生は忍びなく思って当校に連れてきたのか？が、命令がでているのでやむなく最後は溺死させた。解剖して皮を剥いだのだろう。
「もう誰から聞いたのか忘れてしまいましたね、古賀先生（忠道）から聞いたようにも思うのですが…記憶ははっきりしません」
上野動物園の猛獣は多くがここの学校で解剖された。研究材料である。動物の骨などは多く残してあったのではないか。
ところがこの学校は昭和二十年五月二十四、二十五日のいわゆる山手空襲で校舎が焼けた。このときに多くの標本も焼けてしまった。広島文武獣医はさらにこう証言する。これも意外な話だ。
（二）
「西 竹一大佐の愛馬ウラヌスの骨格は獣医学校にあったのですよ。ところが五月の空襲でこれも焼けてなくなってしまったんです…」
この西大佐は、昭和７年(1932) ロサンゼルスオリンピック馬術障害飛越競技の金メダリストである。最後は、戦車第２６連隊の連隊長として第二次世界大戦に従軍、硫黄島の戦いで戦死している。
この金メダルを取った馬ウラヌスは馬事公苑で余生を送っていたようだ。西大佐は硫黄島の戦いで昭和二十年三月二十二日に戦死している。この六日後にウラヌスも病弱死している。オリンピックで金メダルを取った類まれな馬である。戦況厳しき折だが獣医としては解剖したいという思いはあったろう。それで陸軍獣医学校に運ばれて解剖された。
広島氏によると学校にあったのは骨格標本だったらしい。あるいは皮もとってあって剥製にするつもりもあったのだろうか？
ウラヌスの最後についてははっきりしない。馬事公苑に埋められた説と陸軍獣医学校で空襲とともに焼けた説がある。衰弱死した名馬を埋めるというのも納得できない。名馬はどこが抜きんでいるのか獣医だと解剖してみたいと誰もが思う。後者説の方に共感を持つが……。
（三）
昭和二十年五月二十五日、陸軍獣医学校は空襲を受けて焼け落ちた。学校はどうなったのか。ネットで検索すると「文藝春秋WEB」が引っ掛かった。別冊 「東京帝国大学が敗れた日」である。ここに「東大生が体験した『8月15日』」というのがあってずばりこのことに触れている。
陸軍獣医学校は現在の駒場にあり、私もそこへ入学したのですが、昭和20年の6月上旬に空襲を受けたため、宮城県に移設されることになりました。鳴子温泉の近くの川渡村にある陸軍の軍馬補充部の施設へ転営したのが6月の半ばです。ここは現在も東北大学農学部の牧場として使用されていると聞いています。
ここに掲げられている「６月上旬」は空襲の日のように誤解されるが、疎開した期日だ。この後、学校がどうなったか記されていない。が、終戦を迎え、８月１５日をもって閉校したのだろう。
（地図は、大正６年１２月発行の、陸地測量部の地図、これによると敷地内にはかなりの数の建物が建っていたことがわかる。北側の六棟は動物棟だろう。ほとんどが木造だったように思える。
「西 竹一大佐の愛馬ウラヌスの骨格は獣医学校にあったのですよ。ところが五月の空襲でこれも焼けてなくなってしまったんです…」
この西大佐は、昭和７年(1932) ロサンゼルスオリンピック馬術障害飛越競技の金メダリストである。最後は、戦車第２６連隊の連隊長として第二次世界大戦に従軍、硫黄島の戦いで戦死している。
この金メダルを取った馬ウラヌスは馬事公苑で余生を送っていたようだ。西大佐は硫黄島の戦いで昭和二十年三月二十二日に戦死している。この六日後にウラヌスも病弱死している。オリンピックで金メダルを取った類まれな馬である。戦況厳しき折だが獣医としては解剖したいという思いはあったろう。それで陸軍獣医学校に運ばれて解剖された。
広島氏によると学校にあったのは骨格標本だったらしい。あるいは皮もとってあって剥製にするつもりもあったのだろうか？
ウラヌスの最後についてははっきりしない。馬事公苑に埋められた説と陸軍獣医学校で空襲とともに焼けた説がある。衰弱死した名馬を埋めるというのも納得できない。名馬はどこが抜きんでいるのか獣医だと解剖してみたいと誰もが思う。後者説の方に共感を持つが……。
（三）
昭和二十年五月二十五日、陸軍獣医学校は空襲を受けて焼け落ちた。学校はどうなったのか。ネットで検索すると「文藝春秋WEB」が引っ掛かった。別冊 「東京帝国大学が敗れた日」である。ここに「東大生が体験した『8月15日』」というのがあってずばりこのことに触れている。
陸軍獣医学校は現在の駒場にあり、私もそこへ入学したのですが、昭和20年の6月上旬に空襲を受けたため、宮城県に移設されることになりました。鳴子温泉の近くの川渡村にある陸軍の軍馬補充部の施設へ転営したのが6月の半ばです。ここは現在も東北大学農学部の牧場として使用されていると聞いています。
ここに掲げられている「６月上旬」は空襲の日のように誤解されるが、疎開した期日だ。この後、学校がどうなったか記されていない。が、終戦を迎え、８月１５日をもって閉校したのだろう。
（地図は、大正６年１２月発行の、陸地測量部の地図、これによると敷地内にはかなりの数の建物が建っていたことがわかる。北側の六棟は動物棟だろう。ほとんどが木造だったように思える。
この記事へのコメント
3. Posted by きむらたかし＠三田用水 2020年07月20日 22:41
先にコメント1でご紹介した北大のリンク先は消えてしまいましたが、
オリンピックでのバロン・ニシとウラヌスの姿は、ここ
https://www.youtube.com/watch?v=a2GzhVbLPEA
でみることができます
オリンピックでのバロン・ニシとウラヌスの姿は、ここ
https://www.youtube.com/watch?v=a2GzhVbLPEA
でみることができます
2. Posted by 麻布笄町 2020年07月19日 18:18
ウラヌスの剥製が残っていれば是非拝見したかった。
お墓が残っていないのも誠に残念。西竹一氏の遺骨が収集されていないのも誠に残念。
お墓が残っていないのも誠に残念。西竹一氏の遺骨が収集されていないのも誠に残念。
1. Posted by きむらたかし＠三田用水 2016年03月14日 20:45
[バロン・ニシとウラヌス]
映像が残っていたのですね
http://hokudai-horse.xsrv.jp/monogatari/images/wmv/nishi01.wvx
西がイタリアで購入したフランス馬で、日本では珍しい品種でだったでしょうし、何より金メダル馬なのですから、すくなくとも「そのまま埋めちゃう」というのは「あり得ない」と思います。
映像が残っていたのですね
http://hokudai-horse.xsrv.jp/monogatari/images/wmv/nishi01.wvx
西がイタリアで購入したフランス馬で、日本では珍しい品種でだったでしょうし、何より金メダル馬なのですから、すくなくとも「そのまま埋めちゃう」というのは「あり得ない」と思います。
