2019年01月27日
下北沢Ｘ物語(3690)−世田谷物語との遭遇−
（一）「ふと通りかかったとき直感的にこの芸術的感性は同じではないかと思ったのですよ。世田谷の疎開学童が地方に行きました。ところが現地ではびっくりするのです。歌をうたっても踊りをおどってもうまい、絵を描かせてもすばらしいのです。親から受け継いだDNAが田舎に行ってしみ出てくるのです。田舎ゆえに際だって見えるということもあったと思います。この方も戦禍を避けるために世田谷から北海道に移住したのですよね。開拓地で文化は花開くんだと思いました」ギャラリーでは「新雪の時代」と題しての世田谷から北海道に入植した人々の文化活動を紹介していた。
昨日、２６日、三軒茶屋キャロットタワー３階の市民活動コーナーで会報の印刷を行った、帰りがけにギャラリーに飾ってある絵画が目に入った。写真撮影は可能らしいので係員に聞いたところ、なぜ興味を持ったかを逆に聞かれた。
「戦時中に世田谷から北海道に渡って原野を開拓された人がいることは知っていました。ここを通り掛かったときに絵が飾ってあってそのタッチに自分が調べていることと同じ感性があると思って見学しました」
会場でもらった「新雪の時代」のパンフレットにはこう書かれていた。
＊北海道江別市の世田谷部落をご存じでしょうか？
＊北の＜世田谷＞は、石狩川とその支流世田豊平川、豊平川に挟まれた野幌原野の三角州に位置しています。１９４５年７月、食糧増産を目的とする「拓北農兵隊」として東京都世田谷区から３３世帯が入植したのがその由来です。エノケン一座の役者や音楽家、大学講師などさまざまな経歴を持つ人々は、数多くの困難を乗り越えながら農耕作に適さない過酷な泥炭地を切り開きました。
戦争末期、食糧不足は深刻だった。かてて加えて１９４５年には世田谷も空襲に襲われた。焼け出された人も数多くいた。行き場がなかったことから「拓北農兵隊」に応募した。当地区域に住んでいる人は文化人が多かった。ところが娯楽は禁止、役者や音楽家は食ってはいけない。大学も学徒動員がかけられ学生はキャンパスからいなくなった。文化人、教養人は行く当てがなかった。
（二）
ギャラリーには数点の油絵が掛かっていた。描いたのは山形トムさんだ。ネットで調べると２０１５年に発行された江別市の広報誌が閲覧できる。「広報えべつ ２０１５．９」には彼の紹介があった。
父親は俳優の山形凡平、あまり農作業のできる身体ではなかった。東京を出るときにたんかを切った手前、帰るのはくやしい、ここで頑張ろうとなった。地区の世話役として土地改良などの陳情活動などで働いた。自分はまだ若かった。土地が痩せてていたので牛を飼うことになった。初めの牛は無償貸付牛で、牛飼いには休みがなかった。芸人地がさわぐのか、地元の劇団「川」で演劇活動に参加したこともあった。また絵を描くのが好きで特に牛の放牧の絵は話題になった。
山形凡平は、エノケン一座の役者だった。東宝映画には脇役として三十数本の作品に出演している。世田谷に住んでいたのは東宝映画との関係だろうと思われる。
「どこに住んでおられたのですか？」と私。
「警防団長とかをやられていて確か砧ではなかったか」と係員
俳優が鍬を持つというのは難しい。俳優と農民では腰の力の入れ方が違う。土地の世話役などになって知力を活用した。その分息子に負担がかかった。
「芸人の血が騒ぐ」、これは疎開学童も似ていた。親の影響で楽器を弾ける、おどりができる。それでつい弾いたり踊ったりするとびっくりするほどうまい。
山形トムさんも親から受け継いだDNAが騒いだ。東京を離れて原野で牛を飼っている。そこに詩情を感じたのだろう、彼は絵を何枚も描いた。そして、大作に取り組んだ。
山形さん昭和９年生まれのようだ。疎開学童と一緒だ。疎開学童は浅間温泉でハーモニカを吹き、ラッパを鳴らして自分の存在をアピールした。一方山形さんは牛の絵を描いた。
「おんた、なまらうまぃのう」
地元に人に誉められたに違いない。
（三）
原野の開墾や開拓は苦難の連続であった。エピソードの一つに電気点灯がある。昭和３２年なって電灯が点った。広報えべつはこう記す。
３月１２日正午、テスト送電が行われ、家の電灯が点きました。電気は世田谷部落だけでなく中央角山、東角山にとっても待望したものでした。次の日から夜が待ち遠しかったそうです。手稲山に日が沈みかけた頃、電灯を点けると子どもたちは飛び上がって喜びました。
いい話だ、子供たちの喜ぶ様が目に浮かんでくる。
（四）
「興味がおありでしたら今度レクチャーがあるのですよ……」と係員。
空襲と移住……焼け出された人々の記憶をめぐって
世田谷に限らず、空襲がきっかけとなって移住を余儀なくされた人々は少なくありません。本レクチャーでは、社会学の立場から空襲や「拓北農兵隊」について研究している木村豊さんにお話を伺い、空襲の記録との向き合い方や継承について考えます。
２０１９年２月１１日 １４：００−１５：３０
キャロットタワー４階 ワークショップA
さっそくにこれに申し込んだ。WEBでも受け付けているとのこと。
（写真はギャラリーに飾られている絵）
この記事へのコメント
2. Posted by きむらけん 2019年01月28日 17:27
〔「世田ケ谷」文化の伝播〕
この逸話は聞き知っていましたが、改めて考えるということはありませんでした。しかし、都市文化の地方への伝播ということで言えば面白いものです。北海道開拓と疎開、まったく結びつきませんが、比べると似たようなところがあります。都会郷愁ですね。
今度２月１１日にレクチャーがあるそうなので聞きに行きます。報告ができたら報告します。
資料もありがとうございます。
この逸話は聞き知っていましたが、改めて考えるということはありませんでした。しかし、都市文化の地方への伝播ということで言えば面白いものです。北海道開拓と疎開、まったく結びつきませんが、比べると似たようなところがあります。都会郷愁ですね。
今度２月１１日にレクチャーがあるそうなので聞きに行きます。報告ができたら報告します。
資料もありがとうございます。
1. Posted by きむらたかし＠三田用水 2019年01月28日 15:06
〔江別の「世田ケ谷」〕
*地名としては「ケ」が入るようです
太田恒雄・著/江別市教育委員会社会教育課・編「世田谷物語」同委員会/H01・刊〔頒布されています〕
「江別市世田谷部落 田辺昭雄さんの話」
http://www.sapporoyu.org/modules/sy_html/index.php?f=setagaya-kodama
「江別観光記 世田谷」
http://www.onitoge.org/ryokou/2002ebetsu/08setagaya.htm
*地名としては「ケ」が入るようです
太田恒雄・著/江別市教育委員会社会教育課・編「世田谷物語」同委員会/H01・刊〔頒布されています〕
「江別市世田谷部落 田辺昭雄さんの話」
http://www.sapporoyu.org/modules/sy_html/index.php?f=setagaya-kodama
「江別観光記 世田谷」
http://www.onitoge.org/ryokou/2002ebetsu/08setagaya.htm
