延暦寺の僧が千日回峰という修行を成し遂げて話題になったことがあります。飲食や睡眠の制限もあって大変な1000日だそうです。役所に限らず人事異動というものはあるものですが、京都のある役所では非常な忍耐を要する部署があって、そこへ赴任することを千日回峰と隠語的に読んでいた時期があったそうです。一度そこへ派遣されれば3年は動かないのでそう呼ばれたのでしょう。何にしても1千本安打、1000奪三振、等1000というのは大きな節目です。 

メンデルスゾーン オラトリオ「エリア」Op.70 

ヴォルフガング・サヴァリッシュ 指揮 NHK交響楽団、国立音楽大学合唱団

ソプラノ:ルチア・ポップ、曽我栄子、五十嵐郁子

アルト:アリシア・ナフェ、荒道子

テノール:ペーター・ザイフェルト、小林一男

バリトン:ベルント・ヴァイクル

バス:高橋啓三、福島明也

(1986年10月 ライヴ録音 SONY)

 3大オラトリオの一つ、メンデルスゾーンの「エリア」は5月のハンス=マルティン・シュナイト盤 の大変素晴らしい演奏で魅力を再認識させられました。今回のCDはNHK交響楽団の定期公演・第1000回記念特別演奏会のライブ録音です。当時TVでも放送されたので、モノラルながらビデオデッキで録画しましたが、そのテープはもう無く、在りし日のルチア・ポップもバッチリ映っているので非常に残念です。サヴァリッシュは「エリア」(1968年・ライプチヒゲヴァントハウス管他)を若い頃に録音していて、それ以来の録音になるかもしれません( かもしれないというのは、ルチア・ポップが参加したサヴァリッシュの指揮のエリアが80年代にドイツのオケであった記憶があるので )。

 この曲は旧約聖書の「列王記上」から、大預言者エリアに関する記事を元に歌詞が作られています。物語自体が劇的で、ケリテ河畔、ザレプタの母子の下と隠忍の生活から、火の戦車で生きたまま天に帰るまで波乱に富んでいます。ベートーベンの歌劇「フィデリオ」の劇中、フロレスタンは真実を口にした報いと牢獄の中で歌いますが、エリアも作品前半では囚われていないものの同様の境遇です。メンデルスゾーンのオラトリオは、この「エリア」と「聖パウロ」が完成されていますが、他に未完の「キリスト」という作品があり三部作を構成したそうです。バッハのマタイ受難曲を蘇演した人だけのことはあります。

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 バイエルンの国立歌劇場監督だったサヴァリッシュの80年代後半以降の目だった録音と言えば、ベートーベン(ACO)、ブラームス(LPO)の交響曲全集、ワーグナーの指輪、マイスタージンガー、R.シュトラウスの楽劇の何曲かが思い出されますが、今回のような宗教曲は古い録音のシューベルト以外ではあまりなかったはずです。「ハートフル」というのは和製英語だそうですが、今でも日常的に通用しているのでしょうか。それが「心あたたまる」とか、ぬくもりを感じさせる感動を意味するなら、5月のシュナイト等による日本での演奏の録音が、まさしくハートフルな感動的演奏でした。それがあまり素晴らしかったので、今回のサヴァリッシュは少しかすみそうです。しかし、独唱陣にはルチア=ポップだけでなく、ヴァイクル、ザイフェルトとスター級が参加しています。

 サヴァリッシュがかすむと書いてしまいましたが、このCDの演奏も大変な熱演で、会場の緊迫感が伝わってきます。オーケストラ部分は、やや神経質さを帯びて聞こえますが、さすがにサヴァリッシュ・N響の方が精緻で丁寧です。また、ひいき目でなくてもルチア=ポップの歌声がひときわ光っています。バイロイトでハンス=ザックス等をつとめたヴァイクルは美しい歌唱ながらちょっと控え目です。ソリストも、オーケストラも今回のN響1000回定期の方が高水準のはずなので、感動の度合いも圧倒的な開きかと思えば、そうではなくそれぞれ特徴ある演奏で魅力的です。

 サヴァリッシュ、デュトワ、アシュケナージとN響も指揮者が変わるごとに違う文化圏の人で大変だろうと思えてきます。サッカー日本代表監督は後任が決まりません。日韓大会でブラジルが優勝した後にブラジル人の監督、今度はスペイン優勝でスペイン人監督というのは後腐れがなくて良いですが、なんだか一貫性が無いようで不安です。鹿島の監督は無理なのかと思いますが、興業面等いろんな要素があるのでしょう。