バッハ BWV.144 “ Nimm, was dein ist, und gehe hin (おのがものを取りて、行け)”
トン・コープマン 指揮
アムステルダム・バロック管弦楽団
アムステルダム・バロック合唱団
リサ・ラーション(S)
ボグナ・バルトシュ(A)
ゲルト・テュルク(T)
(1997年10月 アムステルダム,Waalse kerk 録音 CHALLENGE CLASSICS)
BWV.144はバッハがライプチヒのトーマスカントルに就任した一年目、カンタータ第一年巻の作品です。初演されたのは年が明けた1724年2月6日の復活祭前第9日曜日、七旬節の礼拝でした。復活祭の63日前を七旬節と呼ぶのは現在カトリック教会では公式には無くなったのか、全然見聞きしなくなりました。イースターの46日前が「灰の水曜日」なのでそれよりもっと早い時期に復活祭、聖週間を念頭に置いた数え方です。
最初の合唱曲に加えてコラールが二曲も入りますが、カンタータ全集以外には録音されていない作品です。三曲目のコラールは他のカンタータでも使われ、聴き覚えのある旋律です。
BWV.144
①合唱曲:Nimm, was dein ist, und gehe hin
(おのがものを取りて、行け)
②アリア:Murre nicht, lieber Christ(A)
(憤るなかれ、愛しきキリストよ)
③コラール:Was Gott tut, das ist wohlgetan(合唱)
(神なし給う御業こそいと善けれ)
④ レチタティーヴォ:Wo die Genügsamkeit regiert(T)
(慎みの心持てる者)
⑤アリア:Genügsamkeit(S)
(忠実なれ)
⑥コラール:Was mein Gott will, das g'scheh allzeit(合唱)
(わが神の御心のままに)
第一曲目の歌詞は、新約聖書、マタイによる福音書第20章第14節から取られています。タイトルになっている一文、「おのがものを取りて、行け」だけです。第三曲はザムエル・ローディガストのコラール“ Was Gott tut, das ist wohlgetan ” の第1節、第六曲はブランデンブルク辺境伯アルブレヒトのコラール“ Was mein Gott will, das g'scheh allzeit ” の第1節からそれぞれ歌詞がとられています。
冒頭の合唱曲の歌詞にあてられているマタイ福音書の箇所は当日の朗読箇所のようで、「ぶどう園のたとえ」です。直前でペトロがイエズスに対して自分たちが一切を捨てて従って来たからその報いは何がもらえるのかと尋ねたので、それを受けて語られた苦い味のたとえ話です。それはぶどう園のあるじが、日暮れまじかに来た労働者に対して朝から夕方までまで働いた労働者と同じ賃金を与えたので、不平をもらすという内容です。それに対してぶどう園のあるじが約束通りに払っている、後から来た人にも同じだけ与えたいだけだと答え、「自分の分を取って、行きなさい」と諭します(後の者が先になり、先の者が後になる)。
このたとえ話、へえ、恩寵とか、何となく読んでいたとしても現実にこういう待遇が実施されたら大多数の人間は平然とはしていられないだろうと未だに思います。