バッハ BWV.35 “ Geist und Seele wird verwirret (霊と心は驚き惑う)”

ヘルムート・リリング 指揮
シュトゥットガルト・バッハ・コレギウム
シュトゥットガルト・ゲッヒンゲン聖歌隊

ユリア・ハマリ(A)

(1982年10月シュトゥットガルト記念教会 録音 Hänssler)

 このカンタータはバッハがライプチに赴任して四年目のサイクルに入った1726年9月8日、三位一体後第12日曜日に初演されました。下記のように二部構成の全七曲、オーケストラ曲とアルト独唱曲から構成されています。第1曲目はオルガン協奏曲のような楽曲が5分以上も続くという異例のカンタータです。それ以降の楽曲でもオルガンが活躍して華やかさを振りまいています。よく礼拝で使うことが認められたものだと思います。もう少し長ければ礼拝中の説教で牧師からくぎを刺されかねないところです(礼拝は神へささげるもの、み言葉のときあかしが重要、己の技量を披歴するために使うとはもってのほかetc)。

 冗談はさて置き、作品の音楽自体は大変面白く魅力的です。歌詞はコラールも聖書からの直接引用も無く、ヨハン・クリスチャン・レームスの作詞です。カンタータの題名、歌詞にある「混乱している」というのは奇跡を目の当たりにして驚いているという意味のようです。第6曲目の歌詞に「エッファタ」という言葉が見られますが、これはマルコによる福音書第7章31-37節の奇跡に出てきます。「開け」という意味であり、耳が聴こえず口がきけない人を癒す記事です。

BWV.35
第1部
コンチェルト
②アリア:Geist und Seele wird verwirret (A)
③レチタティーヴォ:Ich wundre mich (A)
④アリア:Gott hat alles wohl gemacht (A)
第2部
シンフォニア
⑥レチタティーヴォ:Ach, starker Gott, lass mich (A)
⑦アリア: Ich wunsche nur bei Gott zu leben (A)


 この箇所は当日の朗読配分のところであり、数ある癒しの記事の中でその癒す過程の動作が象徴的なので印象深い箇所です。イエズスが相手の両耳に指を差し入れ、自分の唾液をつけてその人の舌に触れたうえで、天を仰いで嘆息して「エッファタ(開け)」と言われます。自分の子供の病を癒してくれるように願った人に言葉だけを与えて帰らせた記事とは違い、すぐ目の前で自ら触れて言葉をかけています。