旅で貰ったもの。

2006年06月20日

チベットを越える【其の八】

【ガンデン寺の夜】

俺ら6人とドライバーは、無事にガンデン寺に着いた。
崖の側面に張り付いたように立っている古いお寺だった。そこには赤い服を着たチベット仏教の僧侶が何人かいて、特に笑いもせずに俺らをある部屋に案内してくれた。

宿泊代と鳥葬の見学料を、お布施という形で、お寺にいくらか渡した。
少し罪悪感があった。僧侶たちに俺ら観光客はどのように映っているんだろうと考えた。僧侶たちは粗食を食べ、静かに、1000年の歴史のある葬儀を、この寺で黙々と続けているだけなのだ。
興味本位で気軽に来てしまった恥ずかしさに似た気持ちと、それでもこの目でその葬儀を見てみたいという好奇心が矛盾して、葛藤した。

ガンデン寺案内されたその部屋は、タタミ15畳程度の大部屋だった。四方の壁に沿うようにしてベッドが置かれていた。真ん中には大きな柱が2つ立っていた。俺らは順番に部屋に入り、各自ベッドを選んで、荷物を置いた。
落ち着いた所で、ふと、ある異変に気付いた。その部屋には壁沿いに均等に12個のベッドが置かれていたんだけど、なぜか俺ら6人は、ドアを入って右側の片側半分に集中して、ベッドを確保したのだ。

KAZU君が口を開いた。「なんでみんな向こう側いかないの?こっちにばっかりまとまったら、狭苦しいやん」
TAKAが言った。「いやぁ、なんだか向こう側には行きたくないんだよねー」
それを聞いて、みんながうなずいた。
そうなんだ、たしかにドアから入っての左半分には、足を踏み入れるのも嫌なくらい、行きたくないんだ。

俺は霊感と呼ばれるような力は持っていないつもりだったんだけど、なぜかくらーい影が、向こう半分を覆っているよう見えてしょうがなかった。

KAZU君が「あ、みんなやっぱりわかるんだ。俺もちょっと向こう側は変な空気を感じてて」と話し始めた。
「実はね、ちょっとこのツアーに出る前に、このツアーに参加したっていうオーストラリア人と話したんだけどね、少し変な話を聞いたんだ。」

「ちょっとやめてよー。なんだか怖い」唯一の女性であるSさんが言った。
KAZU君は、まぁただの話だから、と言って続きを話した。
「そのオーストラリア人もこの部屋に泊まったと思うんだけどね、そいつもこの部屋には何かあるって言ってたんだ。ここはとても古い寺だし、もともと最初は観光客なんてくるような場所じゃないから、わざわざこういう客室を作ってるわけないよね。多分、ここ霊安室に使っていた場所じゃないかって言ってた。魂を抜くポアの儀式は夕方行われるし、鳥葬は次の日の朝だから、一晩は仏さんを置く場所が必要だろう?ここに置かれていたって考えても不思議じゃないって。」

みんな顔を見合わせて、KAZU君の話の続きを待った。

「そのオーストラリア人が、夜寝た時に、ある夢を見たんだって。それで、その夢ではチベット人が出てきたんだって。夢の中でそのチベット人は自分に向かって『足が寒い足が寒い』って言うらしいんだ。すごい怖かったらしいんだけど、何も出来ずにそのまま朝起きたんだって。そしたら、」

「そしたら何?」俺は怖くて、つい声を出してしまった。

「そしたら、いくら探しても、朝、靴下が見当たらなかったって言うんだ。俺もその話を聞いた時はまさか冗談だろって思ったんだけどさ、この部屋に来て、ちょっと本当かなって気もしてね…。怖がらせるつもりじゃなかったんだ。ただ皆も違和感を感じたみたいだから。」

めちゃくちゃ怖えーよKAZU君!林間学校の夜の怖い話大会じゃないんだからさー、やめてよー。実際、チベットの山奥だし、すっごいスピリチュアルな場所だし、説得力ありありじゃねーか!
皆が冗談ぽくKAZU君を責めた。でも皆、顔は笑ってなかった。

「とにかく、今日一晩だけの辛抱だ。明日鳥葬を見たら、すぐに帰ろう。」そう言ってNさんが皆に声をかけた。

ラサ徐々に辺りが暗くなってきた。勿論電気なんてないから、日が沈んだら真っ暗になる。
若い僧侶がロウソクを持ってきてくれた。
このロウソクの明かりだけで今晩過さなければならない。
ロウソクに火を付けたら、ますます左半分が怖く感じた。

トイレは外だった。崖に突き出すように立ててある。
便器の穴の底は、遥か下の崖の底だ。
「小」の時はまだ平気だったけど、「大」の時は空中にしゃがんでいるような錯覚になって、かなり怖い。
昼間一度、用を済ませたあと、ティッシュを穴の中に落としたんだけど、上昇気流に乗っかって、ひゅーーっと自分の目線よりも高く、そのティッシュが飛んでいくのをみて、仰け反りそうになった。すごいトイレだ。
夜中は1人がトイレに行くと言うと、何人かが起きて、集団で行くようになった。部屋からトイレへは、20Mほどしか離れてないけど、1人で外に出るのがみんな怖かった。

寝つきが悪かったけど、それでもなんとか朝を迎えた。日の光が嬉しかった。
俺らは外に出た。

外はなんと雪が舞っていた。寒い。

鳥葬が行われる場所まで、僧侶が案内してくれるとばかり思っていたんだけど、寺の広場には誰一人僧侶の姿はなかった。
俺らは変だなぁと、雪の舞う中、寺の周りを歩き回った。そして、山道を歩き、自分たちの足で、鳥葬が行われるのではないかという場所まで辿り着いてしまった。
しかし、そこにも僧侶たちの姿はなかった。
この場所じゃないのか?俺らは不安になった。
鳥葬が行われるという時間が過ぎても、何も起こらない。
俺らはしょうがなく、とぼとぼと再び寺に戻った。

寺の裏で、1人の僧侶の姿を見つけた。
俺らは駆け寄り、今日はどこで鳥葬が行われるんだ?と身振り手振りで聞いた。
そして俺らは、その時、思いがけない言葉を耳にする事になる。

自問風答会議、第一回へ続く。法律上これ以上NETで話せません、あしからず。

写真は、ガンデン寺の僧侶と俺。

rainman_daisuke at 17:19|PermalinkComments(6)TrackBack(0)