日曜の夜。
鰹の藁焼き、浜松餃子、茄子ときゅうりとトマトのサラダを、スロベニアのビールと共に楽しむべく、料理が出来上がる30分前に、私はビール3本を冷蔵庫から冷凍庫に移した。スコールの後に格別の青空が見えたその日の、ワクワクするような夜は、思い切り冷えたビールが飲みたいなあと。
スロベニアのビールは、近所の商店街のはずれにあるワイン屋さんで買ったものだ。
女性がひとりでやっていて、小さくて可愛くて東欧のどこかの街にあるようなワイン屋さんで、そんなお店で異国のビールを買い、思い切り冷やして、夫と息子と三人で鰹の藁焼きをおつまみに飲む!!
sounds good!
私たちは上機嫌でテーブルについた。
夫が嬉しそうに言う。
「いろんな種類のビールがあったんだけど、このFUN TIMEっていうタイトルが、ジョー•コッカーの曲と同じだったから、これにした!」
ワイン屋さんの可愛い女性が説明してくれたとき、夫はすぐこれがいいと言ったんだった。
息子がFUN TIMEの栓を抜き、三つのグラスに均等に注いでいく。
注ぎ終わったところで、息子は気を利かせて「韓国式に泡を立てよう」と私のグラスにお箸を入れた、そして振動させようとしたら、グラスの隣のFUN TIMEの瓶に手が当たりガチャンと倒れて、それを止めようとして出した手が今度は私のグラスを倒し、ホースから勢いよく水が出るように、赤いワンピースの私の胸にビールが噴射され、そのまま液体はお腹を流れて太ももの間に水たまりのように溜まって、やがて決壊し、ワンピースのスカートから足元に滴り落ちた。
一瞬何が起こったかよくわからなかった私は、同じく何が起こったかわからない息子が慌てふためきながら台拭きで私と私の周りを拭き始めるのを、呆然と見た。
ビールまみれになった私は、もはや笑うしかなくお風呂に駆け込みワンピースを床に叩きつけるように脱ぎシャワーを浴びた。
それから新しい服を着るためにバスタオルを巻いたまま二階に行き、暗い部屋で着替えている時、今まで味わったことのない感情が胸に溢れた。
「可笑しくて悲しくて、でも怒っている」
だってこれはまるでコメディのように笑えるけど、同時に悲しくもなるし、間抜けでおっちょこちょいな息子に怒りも湧く。
でも、そこでふと考えた。
何かが起こったとき、悲しむのか怒るのか笑うのか、それによって人生がどのようにでも変わっていくのでは?と。
私も大人になったものだ。
今日の晩御飯を台無しにするのも楽しくするのも私次第なんだ。
私は新しいワンピースを着て階下におりた。
息子は怯えながら私に謝る、夫は私の動向を見守る、
私は言った。
「動画に撮ればよかった!!」
だってあんなシーンは演出しようとしても出来ないよ。
息子と夫は安心したように笑って自分たちのグラスのビールを私のグラスに注いでくれた。
悲劇、いえ喜劇がホームドラマに変わった。
しかし、その後の夫と息子の会話、、、、どうやったらジッポーのライターのガスを揮発させないか、、、、は、全く退屈だった。
タバコを吸わない奴らは蚊取り線香をつけるためだけにジッポーのライターを持っているのだけど、あまり使わないから揮発してしまうらしい。どうしたら揮発を防げるかを散々調べて語った後、夫が
「結局100円ライターが一番いいんだよ」
息子は「いや、それではロマンが、、、」
「ロマンー?なにそれ」と笑いながら私が
「ガスコンロでつければいいんじゃない?」と言った後、そういえば、と、最近家を建てた娘たちのキッチンを思い出す。
彼らはコンロを電気にしようとしていたけど、私が
「電気なんかだと海苔をあぶれないじゃない」と言ったせいかどうか、結局はガスにしたのだ。
もし電気にしていたら、蚊取り線香に火はつけられなかったなあ、海苔だけじゃなく、とブツブツ言いながら私はソファに横たわる。
夫と息子は相変わらずテーブルで、今度はライターを使っていたら大火事になってしまったどこかの間抜けな人の動画を、驚きながら見ている。

ソファで寝落ちしそうになりながら、ああ、こんな小さな夜のひとつひとつが、後で思い起こせば、素晴らしい夜だったと気付くのかもねと、私はぼんやり考えた。
例えば私が年老いたとき、例えば死に行く時。

この素晴らしいFUN TIMEに。
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