December 10, 2012
口伝・アルビレックス物語
2006年シーズン、アルビくんとスワンちゃんの馴れ初めを描いた「アルビレックス物語」という読み物がクラブ公式サイトに掲載されていたのですが、覚えている方はいらっしゃるでしょうか?
このお話、いつの間にかサイトから姿を消してしまったようで、今は読むことができません。
なかなか興味深いお話だったので、思い出せる範囲でご紹介いたします。
枝葉末節は盛ってますが、大筋は外してない・・・はず。
つたないですが、どうぞ!
このお話、いつの間にかサイトから姿を消してしまったようで、今は読むことができません。
なかなか興味深いお話だったので、思い出せる範囲でご紹介いたします。
枝葉末節は盛ってますが、大筋は外してない・・・はず。
つたないですが、どうぞ!
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夏の夜空に輝く白鳥座、その嘴に光る星・アルビレオ。オレンジに光る星と青く光る星の二つからなる星です。
オレンジの星の名はトパシオ、青い星の名はサフィオといい、それぞれに白鳥の王国がありました。
青い星サフィオは喜びに沸いていました。なぜならば国王夫妻にたいそう可愛い女の子が生まれたからです。
女の子はスワンと名づけられ、お城の広間ではすぐに祝いの宴が催されました。国中のものがスワン姫を祝って集まりました。
ところが、心やさしい魔女たちがスワン姫の幸せを祈り、めいめいに贈り物を授けていたその時です。
「おやまあ、にぎやかだこと。イーッヒッヒッ」
わるい魔女のブルージャが現れたのです。
広間は急に静まり返りました。
「王女が生まれたと聞いたのでね、私もお祝いをしようと思ってやってきたのさ。イーッヒッヒッ。おや、祝いの席でそんな顔をおしでないよ」
不安げな顔で見守る国民たちの間を抜けて、ブルージャはスワンに近づきます。
「ふん、なんてかわいらしくて幸せそうなお姫様だろう!憎らしいこと!
・・・そうだ、私からもこの子にひとつ贈り物をあげようねぇ。この子は幸せに育つだろう。けれど16歳の誕生日にきっと死んでしまう呪いだよ。せいぜいそれまで楽しく過ごすがいいさ!イーッヒッヒッヒッヒッ!」
そうしてブルージャは姿を消しました。
あとにはスワンをおそった突然の不幸に呆然と立ちつくす人々が残されたのです・・・。
穏やかに月日は流れ、スワンはすこやかに育ってゆきました。サフィオ国の者も、呪いのことなど忘れたように振る舞い、平和で幸せに過ごしています。ですが、みな心のどこかに不安な気持ちを隠しているのです。
それは王と王妃も同じでした。スワンが育ってゆくごとに、その喜びと同じだけ、いつか来る呪いの日が恐ろしくのしかかってくるのです。なんとかスワンの呪いを解くことができないだろうか、幾度も幾度も話し合いました。
そうしてスワンが16歳の誕生日を迎える前の日、ついに決心したのです。
大切な話があると呼ばれてきたスワンの笑顔はぴかぴかと輝いていました。明日誕生日を迎えることが、ひとつ大人になることが嬉しくてたまらないのです。
王も王妃も、これからのスワンを思うと胸が押しつぶされるようでした。ですが、この子を失う悲しみに比べたらと、二人はついにスワンに呪いのことを打ち明けたのです。
あまりの話にスワンは青ざめ、凍りついたようです。しかし二人はこう続けました。
「隣の星の白鳥王国・トパシオを知っていますね?そのトパシオ国の王子が最近、大きな使命を負って、はるか遠い地球星の新潟という街に向かったそうなのです」
「地球はとても遠い星だから、ブルージャの魔力もそこまでは及ぶまい。
それに、トパシオの王子がいるという。はるかな星まで使命を負って行くというのだから、きっと何か大きな力を持っているのに違いない。
スワンよ、16歳の誕生日を迎える前に、地球の新潟へ旅立ちなさい。トパシオの王子を探し出し、呪いを解く力を貸してもらうのだ。そうして幸せに生きておくれ」
恐ろしさにふるえていたスワンでしたが、しかし彼女は芯の気丈な、心優しい娘でした。今日まであたたかく育ててくれた両親や城の者たち国の者たちの心を思ううち、かすかな希望があると知るうちに、気を取り直し、きっぱりと言いました。
「お父様、お母様、ありがとう。私、新潟へ行きます」
こうしてスワンはひとり新潟へと旅立ったのです。
新潟にたどり着いたスワンはまず人間の姿になりました。地球ではこの方が過ごしやすいしブルージャの目もごまかせるだろうからと、両親に言い含められていたからです。そして、白鳥であることを決して知られないこと。
スワンはしっかり胸に刻んで、トパシオの王子を探すため新潟の街を歩き始めました。
しかし、探すとはいったものの、スワンは王子のことを何も知りません。しかも今の新潟は白鳥のいない季節のようなのです。歩き疲れたスワンは、街を流れる大きな川のほとりに座り込みました。いつの間にか空は夕暮れ、一番星が光っています。ふるさとの星が懐かしく思い出され、また、これからどうしたらいいのか不安な気持ちとで、スワンの目に涙があふれてきました。
「まあお嬢さん、そんな悲しそうな顔をして、どうしたの?」
その時、スワンに声をかける者がありました。驚いて見ると、優しそうなおばあさんがスワンに微笑みかけています。
「もうすぐ暗くなるから、女の子がこんなところに一人でいてはいけないわ。早く帰った方がいいわよ」
「・・・・・・」
スワンには帰るところなんてありません。悲しくなってうつむいていると、おばあさんは言いました。
「もしかして、何か訳があるのかしら。よかったら、聞かせてくださらない?力になれるかもしれないわ」
少しためらいましたが、今のスワンには頼れるものが何もありません。
「実は私、人を探していて・・・」
思い切って、おばあさんに話せるだけのことを話してみることにしました。
「今日、この街に来たばかりなんです。この街にいるって聞いて、だけどどんな人なのか、どこでなにをしているのかも分からなくて・・・来たばかりだから、街のこともよく分からなくて、住むところも泊まるところもなくて、私・・・どうしたらいいのかわからなくて」
スワンは胸がいっぱいになって言葉が出てきません。
すると、おばあさんが言いました。
「私は街外れのお城で働いているの。よかったらあなた、一緒に来て働かない?」
「えっ?」
「お城を治める王子様は、そうね、ちょうどあなたぐらいでまだお若いけれど、とても優しくて立派な方よ。きっと喜んで迎えてくださるわ。ここで働きながら街の様子を覚えて、お尋ねの人を探してはどうかしら」
あまりに嬉しい、嬉しすぎる申し出でした。
「ありがとうございます!私きっと一生懸命働いて、お役に立つように頑張ります!」
スワニーは本当はもっとたくさん言いたいことがあったのですが、これだけ言うのが精一杯でした。
「そう?それは嬉しいわ。私のことは皆ばあやと呼ぶから、あなたもそうしてちょうだいな。ところで、私はあなたを何と呼んだらいいかしら?」
「スワ・・・スワニー。私はスワニーといいます。どうぞよろしくお願いします」
スワンはとっさに違う名前を名乗りました。本当の名前を言ったらブルージャに見つかってしまうような気がして、怖かったのです。
こうして、白鳥の少女スワンは人間の少女スワニーとして街外れの城で暮らすことになりました。
お姫様育ちのスワニーにとって、働くというのはとても大変なことでした。お皿を洗うのも食事の支度をするのも、掃除洗濯お買い物、なにもかもが初めてなのですから。けれどスワニーはとても真面目な娘でしたし、困っていたところを助けてもらったお礼がしたい一心で、どんな仕事も一生懸命やりました。ですからすぐに仕事を覚えましたし、城の者たちも一生懸命なスワニーのことがとても気に入ったので、親切にいろいろなことを教えました。
城を治める王子のアルブレヒトは確かにスワニーと同じ年頃のようなのですが、堂々として覇気のある若者でした。どうやらサッカーが好きなようで、よく城の者を連れては新潟のアルビレックスというチームを応援しに行くのでした。スワニーはそれよりもお城のみんなのために働きたかったので断っていましたが、みんなが楽しそうに
アルビレックスのことを話すのを見ているのは大好きでした。
こうしてお城で働きながらスワニーは美しい女性に成長してゆきました。
そんなある日のことです。
この日もお城ではアルブレヒト様と城の者たちがアルビレックスの応援に行きました。みんなのお弁当を作って送り出して、スワニーたちはほっと一息ついていました。
「私お茶を入れてくるわね」
台所へ向かったスワニーは、そこで大変な忘れ物を見つけてしまいました。
「まあ、みんなのお弁当が!」
きっとお腹が空いていたのでは元気に応援できないでしょう。
「早く届けてあげなくちゃ!けど、走っていっても遠いし間に合わないし・・・」
考えて、スワニーは思いつきました。
「そうだ、白鳥の姿に戻って飛んでいけばいいんだわ!」
スワニーは誰もいないことを確かめると、変身を解いて、空へと羽ばたきました。
「そういえば、新潟の街を空から眺めるのは初めてなんだわ」
初めて新潟に来た時は必死で、街を眺めるなんて余裕はなかったのです。そんなことを考えながら飛んでいるうち、スワンは試合会場を見つけました。急いで物陰に降り立ち、人間の姿になって城のみんなにお弁当を届けたのでした。
「いやあ、助かったな」
「しっかり食って頑張ろうぜ!」
みんなが楽しくお弁当を食べているその時、アルブレヒト王子は、青い空のなか一羽の美しい白鳥が飛んでゆくのに目を奪われていました。
次の日。
スワニーがいつものように朝食の支度をしていると、ばあやが困った様子で台所に現れました。
「まあ。ばあや、いったいどうしたの?」
ばあやはいつでも元気で明るい人なので、困ったところなどスワニーも城の者たちも見たことがありません。
「アルブレヒト様がね、ご病気のようなの。なんだかうなされておいでで、苦しそうで・・・」
「まあ」
「ご病気らしいご病気なんてしたことがないから、心配で・・・。
あなたたち、なにか体にやさしいお食事を用意してあげてちょうだいな」
「分かったわ、ばあや。私たちみんなアルブレヒト様が大好きですもの、早く良くなるように心を込めてお作りします」
「ああ、ありがとう。よろしくね」
けれど、アルブレヒト様はスワニーたちの作った食事をほとんどお召し上がりになりませんでした。どうやら食欲もないようなのです。ならば柔らかいものはどうかスープはどうかと工夫してみるのですが、どれもお召し上がりいただけません。
また不思議なことには、医者の見立てではどこも悪いところはないというのです。いろいろ薬を試してみても一向に良くなりません。
困り果てたばあやは、ついに占い師に王子を見てもらうことにしました。水晶玉を見つめる占い師を、ばあやは真剣に見つめます。
やがて占い師が口を開きました。
「ふむ…アルブレヒト様のご病気はじゃな、『恋の病』じゃ」
「な…なんですって!?」
「想い人に会えぬ苦しさが病となって表れておるのじゃよ。想い人に会いさえすればすぐ治ろうて。」
「ああ、本当ですか!?それならすぐに探さなくては!」
「ふむ。ワシの見立てでは、その娘は新潟のどこかにおるようじゃ」
すぐさま、新潟の娘は皆王子の見舞いに来るようにとお触れが出されました。 これで王子の病気が治るに違いないと、城の者はみな安心しました。
ところが。
お触れの通りに新潟じゅうの娘が王子に目通りしたにもかかわらず、王子の病気は治らなかったのです。
「ああ、どうしたらいいの・・・」
ばあやを始め、城の者はみな悲しみにくれていました。
もちろんスワニーも、王子の苦しみを思うと胸が痛みましたし、城のみんなが悲しい顔をしているのが切ないのでした。
「なんとかしてアルブレヒト様に少しでもお元気になっていただけないかしら」
そう考えているうちに、スワニーはあることを思い出しました。
「いつか、アルブレヒト様はチューリップの花がお好きだと聞いたことがあるわ。好きなお花をご覧になったら、少しは元気になられるのじゃないかしら」
スワニーはすぐに花屋へ出かけ、チューリップの花束を求めました。そうしてそれを持って、王子の部屋を訪ねたのです。
「アルブレヒト様、お加減はいかがですか?」
スワニーがそっと王子の前へ顔を見せた、その時です。
王子は瞳をにわかに輝かせ、ベッドから体を起こしました。そうしてスワニーの手を取りまっすぐに見つめると、こう言ったのです。
「あの日見た美しい白鳥は、君だね?」
スワニーははっとして凍りつきましたが、王子は優しく言葉を続けます。
「怖がらなくていいよ。実はね、僕も白鳥なんだ。アルビレオという星を知っているかい?僕はそのオレンジの星、トパシオ国の王子で、本当の名はアルビというんだ」
そう言って、アルブレヒトは…いいえ、アルビは、白鳥の姿になりました。
なんということでしょう!探していた王子様はずっとすぐ近くにいたのです!
「私…私、サフィオの王女でスワンといいます。あなたを探して、新潟へやって来たの」
スワニーも、元のスワンの姿に戻ってこれまでのことをすべて話しました。
それから。
アルビは心優しいスワンをますます好きになりましたし、スワンも勇敢なアルビを好きになり、ふたりは結婚することにしました。そして新潟の白鳥王国・アルビレックス家を興しました。
たくさんの祝福を受けて、ふたりは今新潟でとても幸せに暮らしています。
夏の夜空に輝く白鳥座、その嘴に光る星・アルビレオ。オレンジに光る星と青く光る星の二つからなる星です。
オレンジの星の名はトパシオ、青い星の名はサフィオといい、それぞれに白鳥の王国がありました。
青い星サフィオは喜びに沸いていました。なぜならば国王夫妻にたいそう可愛い女の子が生まれたからです。
女の子はスワンと名づけられ、お城の広間ではすぐに祝いの宴が催されました。国中のものがスワン姫を祝って集まりました。
ところが、心やさしい魔女たちがスワン姫の幸せを祈り、めいめいに贈り物を授けていたその時です。
「おやまあ、にぎやかだこと。イーッヒッヒッ」
わるい魔女のブルージャが現れたのです。
広間は急に静まり返りました。
「王女が生まれたと聞いたのでね、私もお祝いをしようと思ってやってきたのさ。イーッヒッヒッ。おや、祝いの席でそんな顔をおしでないよ」
不安げな顔で見守る国民たちの間を抜けて、ブルージャはスワンに近づきます。
「ふん、なんてかわいらしくて幸せそうなお姫様だろう!憎らしいこと!
・・・そうだ、私からもこの子にひとつ贈り物をあげようねぇ。この子は幸せに育つだろう。けれど16歳の誕生日にきっと死んでしまう呪いだよ。せいぜいそれまで楽しく過ごすがいいさ!イーッヒッヒッヒッヒッ!」
そうしてブルージャは姿を消しました。
あとにはスワンをおそった突然の不幸に呆然と立ちつくす人々が残されたのです・・・。
穏やかに月日は流れ、スワンはすこやかに育ってゆきました。サフィオ国の者も、呪いのことなど忘れたように振る舞い、平和で幸せに過ごしています。ですが、みな心のどこかに不安な気持ちを隠しているのです。
それは王と王妃も同じでした。スワンが育ってゆくごとに、その喜びと同じだけ、いつか来る呪いの日が恐ろしくのしかかってくるのです。なんとかスワンの呪いを解くことができないだろうか、幾度も幾度も話し合いました。
そうしてスワンが16歳の誕生日を迎える前の日、ついに決心したのです。
大切な話があると呼ばれてきたスワンの笑顔はぴかぴかと輝いていました。明日誕生日を迎えることが、ひとつ大人になることが嬉しくてたまらないのです。
王も王妃も、これからのスワンを思うと胸が押しつぶされるようでした。ですが、この子を失う悲しみに比べたらと、二人はついにスワンに呪いのことを打ち明けたのです。
あまりの話にスワンは青ざめ、凍りついたようです。しかし二人はこう続けました。
「隣の星の白鳥王国・トパシオを知っていますね?そのトパシオ国の王子が最近、大きな使命を負って、はるか遠い地球星の新潟という街に向かったそうなのです」
「地球はとても遠い星だから、ブルージャの魔力もそこまでは及ぶまい。
それに、トパシオの王子がいるという。はるかな星まで使命を負って行くというのだから、きっと何か大きな力を持っているのに違いない。
スワンよ、16歳の誕生日を迎える前に、地球の新潟へ旅立ちなさい。トパシオの王子を探し出し、呪いを解く力を貸してもらうのだ。そうして幸せに生きておくれ」
恐ろしさにふるえていたスワンでしたが、しかし彼女は芯の気丈な、心優しい娘でした。今日まであたたかく育ててくれた両親や城の者たち国の者たちの心を思ううち、かすかな希望があると知るうちに、気を取り直し、きっぱりと言いました。
「お父様、お母様、ありがとう。私、新潟へ行きます」
こうしてスワンはひとり新潟へと旅立ったのです。
新潟にたどり着いたスワンはまず人間の姿になりました。地球ではこの方が過ごしやすいしブルージャの目もごまかせるだろうからと、両親に言い含められていたからです。そして、白鳥であることを決して知られないこと。
スワンはしっかり胸に刻んで、トパシオの王子を探すため新潟の街を歩き始めました。
しかし、探すとはいったものの、スワンは王子のことを何も知りません。しかも今の新潟は白鳥のいない季節のようなのです。歩き疲れたスワンは、街を流れる大きな川のほとりに座り込みました。いつの間にか空は夕暮れ、一番星が光っています。ふるさとの星が懐かしく思い出され、また、これからどうしたらいいのか不安な気持ちとで、スワンの目に涙があふれてきました。
「まあお嬢さん、そんな悲しそうな顔をして、どうしたの?」
その時、スワンに声をかける者がありました。驚いて見ると、優しそうなおばあさんがスワンに微笑みかけています。
「もうすぐ暗くなるから、女の子がこんなところに一人でいてはいけないわ。早く帰った方がいいわよ」
「・・・・・・」
スワンには帰るところなんてありません。悲しくなってうつむいていると、おばあさんは言いました。
「もしかして、何か訳があるのかしら。よかったら、聞かせてくださらない?力になれるかもしれないわ」
少しためらいましたが、今のスワンには頼れるものが何もありません。
「実は私、人を探していて・・・」
思い切って、おばあさんに話せるだけのことを話してみることにしました。
「今日、この街に来たばかりなんです。この街にいるって聞いて、だけどどんな人なのか、どこでなにをしているのかも分からなくて・・・来たばかりだから、街のこともよく分からなくて、住むところも泊まるところもなくて、私・・・どうしたらいいのかわからなくて」
スワンは胸がいっぱいになって言葉が出てきません。
すると、おばあさんが言いました。
「私は街外れのお城で働いているの。よかったらあなた、一緒に来て働かない?」
「えっ?」
「お城を治める王子様は、そうね、ちょうどあなたぐらいでまだお若いけれど、とても優しくて立派な方よ。きっと喜んで迎えてくださるわ。ここで働きながら街の様子を覚えて、お尋ねの人を探してはどうかしら」
あまりに嬉しい、嬉しすぎる申し出でした。
「ありがとうございます!私きっと一生懸命働いて、お役に立つように頑張ります!」
スワニーは本当はもっとたくさん言いたいことがあったのですが、これだけ言うのが精一杯でした。
「そう?それは嬉しいわ。私のことは皆ばあやと呼ぶから、あなたもそうしてちょうだいな。ところで、私はあなたを何と呼んだらいいかしら?」
「スワ・・・スワニー。私はスワニーといいます。どうぞよろしくお願いします」
スワンはとっさに違う名前を名乗りました。本当の名前を言ったらブルージャに見つかってしまうような気がして、怖かったのです。
こうして、白鳥の少女スワンは人間の少女スワニーとして街外れの城で暮らすことになりました。
お姫様育ちのスワニーにとって、働くというのはとても大変なことでした。お皿を洗うのも食事の支度をするのも、掃除洗濯お買い物、なにもかもが初めてなのですから。けれどスワニーはとても真面目な娘でしたし、困っていたところを助けてもらったお礼がしたい一心で、どんな仕事も一生懸命やりました。ですからすぐに仕事を覚えましたし、城の者たちも一生懸命なスワニーのことがとても気に入ったので、親切にいろいろなことを教えました。
城を治める王子のアルブレヒトは確かにスワニーと同じ年頃のようなのですが、堂々として覇気のある若者でした。どうやらサッカーが好きなようで、よく城の者を連れては新潟のアルビレックスというチームを応援しに行くのでした。スワニーはそれよりもお城のみんなのために働きたかったので断っていましたが、みんなが楽しそうに
アルビレックスのことを話すのを見ているのは大好きでした。
こうしてお城で働きながらスワニーは美しい女性に成長してゆきました。
そんなある日のことです。
この日もお城ではアルブレヒト様と城の者たちがアルビレックスの応援に行きました。みんなのお弁当を作って送り出して、スワニーたちはほっと一息ついていました。
「私お茶を入れてくるわね」
台所へ向かったスワニーは、そこで大変な忘れ物を見つけてしまいました。
「まあ、みんなのお弁当が!」
きっとお腹が空いていたのでは元気に応援できないでしょう。
「早く届けてあげなくちゃ!けど、走っていっても遠いし間に合わないし・・・」
考えて、スワニーは思いつきました。
「そうだ、白鳥の姿に戻って飛んでいけばいいんだわ!」
スワニーは誰もいないことを確かめると、変身を解いて、空へと羽ばたきました。
「そういえば、新潟の街を空から眺めるのは初めてなんだわ」
初めて新潟に来た時は必死で、街を眺めるなんて余裕はなかったのです。そんなことを考えながら飛んでいるうち、スワンは試合会場を見つけました。急いで物陰に降り立ち、人間の姿になって城のみんなにお弁当を届けたのでした。
「いやあ、助かったな」
「しっかり食って頑張ろうぜ!」
みんなが楽しくお弁当を食べているその時、アルブレヒト王子は、青い空のなか一羽の美しい白鳥が飛んでゆくのに目を奪われていました。
次の日。
スワニーがいつものように朝食の支度をしていると、ばあやが困った様子で台所に現れました。
「まあ。ばあや、いったいどうしたの?」
ばあやはいつでも元気で明るい人なので、困ったところなどスワニーも城の者たちも見たことがありません。
「アルブレヒト様がね、ご病気のようなの。なんだかうなされておいでで、苦しそうで・・・」
「まあ」
「ご病気らしいご病気なんてしたことがないから、心配で・・・。
あなたたち、なにか体にやさしいお食事を用意してあげてちょうだいな」
「分かったわ、ばあや。私たちみんなアルブレヒト様が大好きですもの、早く良くなるように心を込めてお作りします」
「ああ、ありがとう。よろしくね」
けれど、アルブレヒト様はスワニーたちの作った食事をほとんどお召し上がりになりませんでした。どうやら食欲もないようなのです。ならば柔らかいものはどうかスープはどうかと工夫してみるのですが、どれもお召し上がりいただけません。
また不思議なことには、医者の見立てではどこも悪いところはないというのです。いろいろ薬を試してみても一向に良くなりません。
困り果てたばあやは、ついに占い師に王子を見てもらうことにしました。水晶玉を見つめる占い師を、ばあやは真剣に見つめます。
やがて占い師が口を開きました。
「ふむ…アルブレヒト様のご病気はじゃな、『恋の病』じゃ」
「な…なんですって!?」
「想い人に会えぬ苦しさが病となって表れておるのじゃよ。想い人に会いさえすればすぐ治ろうて。」
「ああ、本当ですか!?それならすぐに探さなくては!」
「ふむ。ワシの見立てでは、その娘は新潟のどこかにおるようじゃ」
すぐさま、新潟の娘は皆王子の見舞いに来るようにとお触れが出されました。 これで王子の病気が治るに違いないと、城の者はみな安心しました。
ところが。
お触れの通りに新潟じゅうの娘が王子に目通りしたにもかかわらず、王子の病気は治らなかったのです。
「ああ、どうしたらいいの・・・」
ばあやを始め、城の者はみな悲しみにくれていました。
もちろんスワニーも、王子の苦しみを思うと胸が痛みましたし、城のみんなが悲しい顔をしているのが切ないのでした。
「なんとかしてアルブレヒト様に少しでもお元気になっていただけないかしら」
そう考えているうちに、スワニーはあることを思い出しました。
「いつか、アルブレヒト様はチューリップの花がお好きだと聞いたことがあるわ。好きなお花をご覧になったら、少しは元気になられるのじゃないかしら」
スワニーはすぐに花屋へ出かけ、チューリップの花束を求めました。そうしてそれを持って、王子の部屋を訪ねたのです。
「アルブレヒト様、お加減はいかがですか?」
スワニーがそっと王子の前へ顔を見せた、その時です。
王子は瞳をにわかに輝かせ、ベッドから体を起こしました。そうしてスワニーの手を取りまっすぐに見つめると、こう言ったのです。
「あの日見た美しい白鳥は、君だね?」
スワニーははっとして凍りつきましたが、王子は優しく言葉を続けます。
「怖がらなくていいよ。実はね、僕も白鳥なんだ。アルビレオという星を知っているかい?僕はそのオレンジの星、トパシオ国の王子で、本当の名はアルビというんだ」
そう言って、アルブレヒトは…いいえ、アルビは、白鳥の姿になりました。
なんということでしょう!探していた王子様はずっとすぐ近くにいたのです!
「私…私、サフィオの王女でスワンといいます。あなたを探して、新潟へやって来たの」
スワニーも、元のスワンの姿に戻ってこれまでのことをすべて話しました。
それから。
アルビは心優しいスワンをますます好きになりましたし、スワンも勇敢なアルビを好きになり、ふたりは結婚することにしました。そして新潟の白鳥王国・アルビレックス家を興しました。
たくさんの祝福を受けて、ふたりは今新潟でとても幸せに暮らしています。
おしまい。