着物04

 2015年1月より二つ目の落語家、講談師の皆さんを応援する会としてスタートした「すがも巣ごもり寄席(主催・スタジオフォー)」。らくごえんも顔付けで協力させていただいていますが、1025日(日)にスペシャル版として特選会を開催します。第一回目特選会は若き講談界のホープ、神田松之丞さんと一龍斎貞鏡さんによる二人会です。会に先駆け、ご出演のお二人にインタビューを行いました。インタビュー内容の一部は開催日当日にお配りするパンフレットに掲載予定ですが、松之丞さんのインタビュー内容は、日々進化する今現在の彼を切り取ったものであると同時に、神田松之丞という講談師を知る大きな手掛かりになるものであると思い、より多くの人に知っていただくためWeb上にUPすることにしました。


 

神田松之丞 interview  2015(1)

5月のシブラク4日目の511日・月曜日。

20時からの「渋谷らくご」で神田松之丞さんはトリを務めました。この日の番組は、以下の通り。

 

立川談奈「勘定板」

橘家文左衛門「時そば」

春風亭一之輔「鰻の幇間」

神田松之丞「グレーゾーン」



一之輔、文左衛門の両師は寄席の主任も務める落語協会の看板真打ちであり、開口一番の立川談奈さんも同じ二ツ目ながらキャリアは16年。芸歴8年目、二ツ目昇進3年目の松之丞さんがこのメンバーでトリを取るというのは、まさに異例中の異例。

 

シブラクでキュレーターを務めるサンキュータツオ氏曰く「ほかの場所ではなかなか実現できない、通常では考えられない位置で出すことができる、超法規的落語会」だからできた「歴史的公演」でした。

 

ブログ「サンキュータツオの優雅な生活」には、公演3日前の5月8日に「30歳の神田松之丞

http://39tatsuo.jugem.jp/?eid=1332)」と題する記事がアップされています。

『「渋谷らくご」っていっているのに、講談の、しかも芸歴8年目の二つ目である、神田松之丞さんにトリをとってもらうことになりました。松之丞さんは83年生まれ、現在31歳。
現在まで欠かすことなく毎月出てもらっているのだが、彼が主催者の期待を裏切ったことは一度もない。「一之輔師匠の出る回に出たい」、彼は最初にそう言った。不思議なことに、まだ一度も一之輔師匠とおなじ会に出たことがないということだった。そして「渋谷らくご」で共演は成った。今年の頭のことである。そして私は先月のこのDVD発売を知り、トリをもちかけた。文左衛門、一之輔の両師匠のあとの、トリである。並みの二つ目なら押しつぶされてしまうところだろうが、すでにこの人はトリを務める力量と野心がある。』

2014年から徐々に落語ファンの注目を集め、4月にはDVDもだされた松之丞さんの人気はこの日ひとつのピークを迎えました。シブラク始まって以来の超満員札止め。通路にも人が溢れ、立ち見も出る大盛況の中、後に伝説となるであろう高座で「グレーゾーン」を演じた松之丞さん。

 

その興奮も覚めやらぬ515日。神田連雀亭のワンコイン寄席に出演した松之丞さんに、たっぷり1時間に渡るロングインタビューを敢行。シブラクのトリを終えた松之丞さんは、いま何を思い、今後どこを目指すのか。今回より3回に分けて連続アップします。               



[聞き手&構成]中川原屋・若林太郎

企画&構成らくごえん・楢林八重子(巣ごもり寄席プロデューサー)




■あの日のシブラクは松之丞さんにとって何だったのか?


ーシブラクのトリを終えた、今の率直な感想を聞かせてください。

松之丞 狙いどおりだったんじゃないかと思ってます。むしろそこに至るまでが大変だったなと感じますね。シブラクのトリをとるにふさわしい人間になっているかどうか、そこまでの活動で評価されるわけですから高座に上がれた時点でもう成功だったと思います。その日の高座の出来に関して言えば70点取れば、極端に言えば60点取れれば、OKなんじゃないかなと感じていました。

ーそれを求める観客のムーブメント感みたいなものは、確かに既に出来上がっていた気がします。 


松 売れる売れないというのは、このタイミングというときに何か象徴的な出来事が必要だと思うんです。それが僕にとってはシブラクのトリ、しかも一之輔師匠の後でのトリという事だったんです。シブラクの狙いは新しいスターをつくるということだったと思うんですが、あの時点でそれには僕が適任だったと思いますし、その結果そうなれたんじゃないかと思いますね。正直ホッとしてますし、成功してよかったと。演出を含めて完璧な高座だったんじゃないでしょうか。 

ーシブラクのトリの話が出た時から、演目が「グレーゾーン」というのは決めてたんですか。

松 決めてました。決めてたんで、僕はその時に、いま天下を取っている象徴である一之輔師匠とどうしてもやりたいとお願いしました。一之輔師匠がヒザに出て、僕がトリを取るというのが、僕の夢でもあるし、非常に分かり易いスターづくりにもなるし、興行的にも必要だなと思いました。とにかくタツオさんに、「一之輔師匠をヒザにして下さい。僕はグレーゾーンをやりますから」と。あの時点でタツオさんは「グレーゾーン」を知らなかったと思うんですけど、DVDで観て、ああなるほどと思ったんじゃないでしょうか。で、新作だから、古典派の文左衛門師匠と談奈兄さんを、おそらく後から顔付けしていただいたんだと思います。そこに新作派の人を入れてしまうとまた流れが違ってきちゃうんで、だから古典派でベテランの方をポンポンと入れたうえでのトリという構成にしてもらえた。一之輔師匠の前に文左衛門師匠に入っていただいたというのもすごくでかいと思います。

ー確かに文左衛門師匠、一之輔師匠という流れはものすごく大きかったと思います。


松 そのとおりです。一之輔師匠の前ということもあって、文左衛門師匠は流れを意識しながら本気の高座を見せてくれましたし、だからあの日は構成のすべてが完璧だったと思いますね。


ー当日、自分の高座前に袖で一之輔師匠の高座を聴いている時って、どんなことを考えてましたか。

松 僕はびっくりするくらい緊張してなかったです。これはハッタリでもなんでもなく、自分自身で自分を大物だなと思ったのは「グレーゾーン」一回もさらわなかったんです。その日も前日も全然さらわなかったです。さらわないのが一番いいと思いました。というのは、さらうと現場に即したグレーゾーンができないなと思ったんです。さらえば、リズミカルにできちゃうと思うんですよ。でもシブラクの高座はそれを求めてないし、現場で動くような変化するグレーゾーンがやりたかった。DVDを持ってる人は観てるわけだし、現場、現場を大事にしてました。だからくすぐりもかなり変えてます。最初に入門する件も瀧川鯉昇ではなく文左衛門に変えたり、文左衛門怖いから行くわけないだろ、モニターで聞いてたらごめんなさい、みたいなそういう現場の空気感を大事にしました。

ーそこは寄席的というか、会全体の流れを考えた作り方ですよね、そこは。


松 もちろん。談奈兄さんが勘定板やったんで、「この俺がトリを取る大事な会でウンコの噺をするってどういうことかですか」とか、その後「時そばに鰻の噺って食い物ばっかりじゃねぇか」って、そういうことを言う流れ。実に自然なトリ、変にしゃっちょこばってるわけでもなく、というのを意識しました。だから極端に言うと、自分が真打の師匠の後に上がる二つ目であるということも考えず、いつもどおり自然にやってました。


ー興行のパッケージとしての完成度を上げるって意識ですね。

松 全然気も張らなかったですし、ドキドキもしなかったです。そこに行くまで、トリを取らしてもらえる位置に行くまでが大変だったので。実際トリを取れる機会を与えられると、そんなに緊張しないっていうか、そこまでくるためにやってきたという自信もありますし。深夜寄席で273名入ったりした経験が自信を与えてくれたので。

ークサってた前座の頃から考えると、ある意味一つの到達点かもしれませんね。

松 そうですね。



■一之輔師匠のこと

松 シブラクのあと、うちと一之輔師匠の家って近所なんで、じゃあ一緒に酒飲もうかってなったんです。二人で飲んでいるときにものすごく至福を感じましたね。1時間半くらいですかね。一之輔師匠がおつまみと酒だしてくださって。で、僕がいろんな疑問に思ってることとか、師匠に対するいろんな想いとかをはなし、師匠も聞いてくださり、という経験をしたときに初めて同じ板場に立ってその上で喋れたという喜びがありました。道で普通にジョギングしている時に会って話をするというのとはわけが違う。シブラクでは以前にも一之輔師匠とお会いしているんです。僕はヒザで。そのときも自分の中でうれしかったんですけど、今回はトリでということで、さらに喜びが増しました。

ー演者として、完全に同じリングに立ったという感覚ですよね。

松 そうですね。こちらも全く気負わず自然にできたっていうのは師匠のお蔭です。

ーたぶん一之輔師匠も同じリングに立ったと感じたからこそ、ご自宅での呑みに誘ったんでしょうね。

松 というよりも、師匠自身もこのまま帰すのも違うかな、近所だしと思われたんでしょう。やっぱり大物ですよね、一之輔師匠は、やっぱりボスだと思います。僕は喬太郎師匠についてどう思ってますかとか、いろいろ聞いたりしたんですが、そういう不躾な質問にもフランクに答えてくれました。

ほんとに現役ですよね。「師匠、バリバリ現役ですよね」って言ったら、「そら俺。現役だもん」って言われて。現役というのはずーっと挑戦しているというか、攻め続けてるという意味での現役ですよ。でも現役でいることって、なかなかできないと思うんですよ。

ー早く上がりたいとおもっちゃいますよね、きっと。

松 そうなんですよ。いくらでも楽しようと思ったらできますから。

ー芸人としては、上がってもいいとは思うんですよね、それも一つの成功の形だから。でも闘ってないと、本当の現役じゃない。

松 本当にありとあらゆる仕事に対して、裾野広く引き受けられる現役感があって、それでいて落語界のトップランナーでいるという、その感じが一之輔師匠はすごく面白い方だなって。だからその人の前、後でやるっていうのは楽しいですよね。人間的にも面白い方ですし、他の誰でもなく一之輔師匠でホントに良かったと思います。




■シブラクの目指すところ、松之丞さんの目指すところ

松 最初、タツオさんが「一之輔師匠がトリか、私がトリかどっちにします?」って言ったんですよ。「いや、絶対俺をトリにしてくれ」と。そしたらタツオさんが「そうですよね。シブラクってそういうことですもんね。」って。新たなスターを創るのがシブラクの一つの大きな目標ですから。それもハッタリじゃなく自然と創れるかどうかが勝負なんじゃないですか。まさにそれで動いている感じが僕はしますけどね。第二、第三のスターを創り出すべく動いている、そんなような感じがしますね。

ー松之丞さんがトリっていうのは観客の立場から見ても、シブラクの目指していることってこういうことなんじゃないかと思いました。

松 ベテランの師匠方がシブラクでバタバタしてるのも面白いですよ。30分のうち15分マクラ振ってたりする。怖いんですよね、シブラクの若者が。それだけに、「若者に向けた落語は二つ目強いな」とか、講談の強さというのを圧倒的に思いますね。そういう意味で言うと、ベテランも二つ目も対等に30分という同じ持ち時間で闘えるというのは最高にありがたい機会です。


ーこれまで演芸の世界では、あまりなかった興行形態ですよね。いわゆる「お笑い」の世界にはそういうドラスティックさがあって、そのせいで大御所がネタをやらなくなるという構造はあると思うんですけど。でも伝説になる会やイベントって、どんな大物スターを出演させるかよりも、その会からどんなニュースターを輩出できるかのほうがはるかに大事で、松之丞さんがトリを取るという出来事は、そこにハマった気がするんですよね。でもこれで松之丞さんも渋谷系になっちゃったじゃないですか(笑)。

松 いや、一番渋谷系じゃないんですけど(苦笑)。渋谷でやってるから渋谷のスターというのではなく、若者に向けたというか、要は深夜寄席の延長なんですよね、もともと僕の中で。だから深夜寄席の真打入ってるバージョンみたいな。値段五倍ですけど。

ーなるほど。深夜寄席のアップグレード版ですかね。

松 いま二ツ目のレベルがすごく高いんですよ。昔の二つ目聴いてると、下手なんですよ。いま圧倒的に二つ目が面白い時代になってきていて、そのニーズに即している会だなと思います。

ー笑いに関して言うと、ここ20年ぐらい、ダウンタウンが出てきた後って、観客が深い笑いを徹底的に英才教育されてるから、今の二つ目さんはそこを持ってると思うんですよね。

松 そうですね。ダウンタウンの影響受けてる落語家も圧倒的に多いですしね。講釈も。

ーダウンタウンだけじゃなく、その後にラーメンズみたいな存在や爆笑問題なんかもいるわけじゃないですか。一般人の笑いの偏差値が高くなってしまって、演芸もその偏差値が問われると思うんですよ。ダウンタウンだけじゃなく、若い世代のお笑いとも闘わなきゃいけないんだから、それぐらい戦闘力ないと。


松 そうなんですよね、戦闘力あるやつが出てきているような気がしますよね、全体的に。

ーそれは二つ目とか関係なしですね。

松 そうです、シブラクは本当に面白い人が出てるんじゃないですかね。傾向としては。落語のお客さんも真打だから面白いとか、記号で観てる人もけっこう多いと思うんですが、ここで本当に面白い芸人は真打とか二つ目とかの記号ではないということを知って欲しいですね。


ー記号があると分かり易いからですよ。ブランド好きですもの、日本人。

松 シブラクでは、全然そうじゃないということを提示できればいいなと。あとシブラクのお客さん、素直ですよ。反応もいいですし。やっていて面白くないこと言うとスパンとはねられるし。

ー本来の意味で観客的だと思うんですよね。どうしても落語や講談などの演芸ジャンルでは、お客さんがお旦的になる時ってあるじゃないですか。そういうのが全く無いですよね、シブラクは。装置としてすごく現代的な感じで。会場が劇場っていうのも、影響もあるかもしれないですね。


松 若者にとってもいい会だと思いますね。(料金が)高いとかいう人もいますけどね。でも学割とか落研割とか、すごい充実してるんですよ。

ー深夜寄席と比べてしまうと確かに高いのかもしれないけど、そう言うなら他のライブイベント、例えば演劇や音楽のライブ、格闘技やプロレスは観に行ったことあるかとは問いたくなりますよね。

松 もっと言うと歌舞伎行ったことあるのかと。

ーそれと比べると決して高くはありませんよね。

松 適正な2,500円という料金で、いい会ができたなと思います。つまらないダンピングしなくて。僕はこれからますますシブラク伸びると思いますね。いろんな流れがありましたけど、必ず伸びる興行だし、僕自身がこの会でチャンスを与えられたので、そのチャンスを活かしたいと思ってますし、僕自身もお客さんいっぱい引っ張れるような人間になりたいと思いますね。


神田松之丞ロング・インタビュー Vol.2に続く。
IMG_5041