【コラム】降機したチーフパーサーには同情しない(朝鮮日報)

 財閥オーナーの娘が逮捕された。そこで、少し怒りを抑え、これまでできなかった話をしようと思う。財閥オーナーの家族でなくても「長」が付く役職の人たちの面子やアイデンティティーに関することだ。

 「ナッツ・リターン」事件が起こった飛行機には、多くの「長」が乗っていた。だが、法的な権限を有する「長」は、機長と事務長(チーフパーサー)しかい なかった。ところがあの日、この「長」たちは「大株主の娘」の威勢に押され、乗客の安全を守るための法的な権限を行使することができなかった。暴言を浴び せられ、3メートルも押されたというのだから、チーフパーサーの行動は心の中では理解できる。だが、壁を隔てたコックピットにいた機長の決定は疑問だ。 チーフパーサーはメディアとのインタビューで「機長に引き返しを要請した際『あの方(趙顕娥〈チョ・ヒョンア〉前副社長)が暴言を浴びせ、降機を命じた』 と理由を説明した」と主張した。一方、機長は検察の調べに対し「状況を知らなかった」と話したという。真実がどうであれ、機長はあの日、自らの責任を果た すことができなかった。 (中略)

 先日、テレビを見ていて、漢陽大学のイ・ヨンジャク碩座(せきざ)教授(寄付金によって研究活動を行えるよう大学の指定を受けた教授)の話に共感を覚え た。「乗客の安全に責任を持つのは誰なのか。機長やチーフパーサーではないか。ならば警察を呼んで、趙顕娥を追い出せば済むことだろう。どうして自分 (チーフパーサー)が降機しなければならないのか」とイ教授は語った。もちろん、私たちは全て知っている。韓国の企業文化において、そのようなことをする には命を懸けなければならないということを。共感を覚えたのは最後のコメントだ。「もし、チーフパーサーではなく趙顕娥が降ろされたと想定しよう。そうな れば、今ごろ会社中が喜びに包まれているだろう」。そうなれば、前副社長の妹である専務が、(携帯メールで姉に)誓った通りに本当に復讐(ふくしゅう)し たかもしれない。だがそれでも、横柄なオーナーの娘を懲らしめ、会社を救った機長やチーフパーサーは英雄視されているに違いない。 (中略)

 韓国のサラリーマンたちを、あの日の「長」たちと一緒にするわけではない。財閥オーナーの娘に対し責任を問うことに異議を唱えるわけでもない。だが、権 限を放棄した責任者を被害者と見なす世論は、逆説的に韓国のサラリーマンたちを限りなく悲惨な目に遭わせることになる。「長」の肩書きを持っていても、実 際には囲碁の「弱い石(攻められたら縮こまって生きるか逃げ出すしかない石のこと)」のような存在だという認識が、若い世代にとって利益になるのかどうか も疑わしい。

 私たちは今回の事件を、貧富や貴賎と関係なく原則に従って処理していると考えているが、果たして本当にそうなのだろうか。物質的な権力の極端な側面を浮 き彫りにし、法的な権力を低下させ、ごく少数の高貴な人たち以外に対しては虚勢を張り、自分たちの立場を貶めているのではないかと考える必要がある。私た ちは実際、そのような存在だ。逮捕された財閥オーナーの娘の病的なヒステリーに押され、法的な権限を放棄した「長」たちには決して同情しない。
(引用ここまで)

 国際部部長になったソンウ・ジョンのコラム。
 原則として正しいことを言っているのですよね。
 降ろされたパーサーは職務を放棄したのではないかと。
 本来であれば職務を果たすべきではなかったのかと。

 さらにいえば、間違っていたのはナッツ姫であったのだから、あっちを降ろさせるべきだったのだと。
 ……できるわけないでしょ。

 なんつーか、先進国の現場を見てしまったせいでソンウ・ジョンは欲張りになってますよね。
 韓国で財閥のトップに刃向かってこうやって事件化されただけでも本当に大ニュースですよ。
 これまでなにをやっても無罪や立件されることすらない、万一、捕まって有罪判決を受けたとしても特赦でなかったことにできるという特権階級だった人間に対して、事件が成立しているというだけでも驚きですわ。

 韓国国民の間に「上下葛藤」で憤怒がたまっていたとしても。
 パク・クネが支持率欲しさに全力で事件化したとしても。
 少なくとも、社会というものは一足飛びにそんな風にして変われるものではないですよ。

 まあ、「これだけで終わりじゃない、民主化されている国であればまだまだ先があるんだ」っていうことを啓蒙したいのでしょうけどね。新聞記者として。
 ソンウ・ジョンとしては、そういう国になってほしいということなのでしょうけどね。
 韓国社会がそういう社会になってほしいということを渇望しているのは理解できます。
 でも、少なくとも彼が生きている間にそんな風景を見ることはできないと思うなぁ……。