これまでの日本側視点での染井吉野と王桜とエイシュウザクラに関する話をまず整理しておきましょう。

・エイシュウザクラ
 染井吉野によく似た花弁のつきかたをする。ただし、別物であることがDNA分析で判明済み。戦前までは日本でも染井吉野はエイシュウザクラであると考えられていたほど似ている個体もある。韓国の観音寺など山の中で生えている。200本ほど。
 オオヤマザクラとエドヒガンの自然交雑種であることが判明している。

・染井吉野
 言わずと知れた桜の最大栽培種。オオシマザクラとエドヒガンの交雑種。
 自然交雑なのか園芸家によって交配されたものなのか不明。江戸末期に売り出され、明治時代に日本全土へと広まった。

・王桜
 韓国でワンボッナムと呼ばれる桜。染井吉野を韓国に持ちこんだもので、韓国でももっともポピュラーな桜。
 韓国人はワンボッナム=エイシュウザクラ=染井吉野であると思いこんでおり、染井吉野の自生地が韓国であると思い込んでいる。

 日本人視点というか、事実としてはワンボッナム=染井吉野≠エイシュウザクラ。

 ですが、韓国人視点ではワンボッナム=エイシュウザクラ=染井吉野であると思いこんでいる。
 韓国で「王桜を世界に広めよう」という声がある場合は、韓国産の染井吉野を売り出そうとしていることであり、エイシュウザクラを広めようとしてはいないことに注意ですね。
 たとえば昨日のエントリにおける「王桜グローバル化計画」はあくまでも韓国に持ちこまれて栽培されないのでている(韓国人は自生していると勘違いしている)染井吉野を売り出そうとしているのであって、エイシュウザクラではないのです。

 ……というのがいままでの解釈。
 これがちょっと違っていたということになりそうなのです。

 岩波新書の桜という書籍にこんなことが書かれていました。

 1.染井吉野は沖縄を除く日本全土で同一のクローン体が分布している。
 2.染井吉野はエドヒガンとオオシマザクラの交雑種。
 3.済州島にはオオシマザクラは存在しない。
 4.つまり、韓国のエイシュウザクラと染井吉野は別物。
 5.染井吉野は韓国で「王桜」と呼ばれるほどにポピュラーなもの。
 6. 実際にはその王桜と呼ばれている桜は染井吉野とは異なる個体(!)。

 著者はエイシュウザクラの学名命名者である、森林総合研究所の勝木俊雄博士。
 「近年の研究ではワンボッナムは染井吉野とは異なるものと分かりつつある」という記述がありまして。
 韓国ウォッチャーとしてはかなり気になるお話なのですが、さらっと流されています。

 これまでエイシュウザクラ≠染井吉野=王桜という前提で延々と書いてきたのですが、そうではないと。
 エイシュウザクラ≠染井吉野≠王桜の可能性も出てきているとのこと。
 日本から染井吉野だと思って持ち出したものが、交雑種だったかなにかだったということなんでしょうかね。
 稲の伝播と同様でボトルネック効果が出てて面白い。
 でも、なお一層のこと解説の面倒さが増してしまったな……。

 ちなみにこの本が出た時点では森林総合研究所の染井吉野、エイシュウザクラに関する研究は論文提出されていなかったのですね。
 その後、エイシュウザクラはエドヒガンとオオヤマザクラの自然交配による雑種であること、および、染井吉野はエドヒガンとオオシマザクラ(にヤマザクラが交ざったもの)との交雑種であることがDNA分析で判明。
 TAXONというジャーナルに論文が掲載されて、これまで学名がなかったエイシュウザクラにもソメイヨシノとは異なる学名がつけられて決着したのです。

 しかし、いつだって頼るべきなのは専門家の言葉だな。
 料理のレシピだってクックパッドなんかより、NHKのきょうの料理で土井善晴や陳建一のを見たほうが役に立つってもんですし(笑)。

追記:当初、冒頭のエイシュウザクラと染井吉野の親について間違いがありましたので、訂正しました。

生きもの出会い図鑑 日本の桜
勝木俊雄
学研プラス
2014/2/18