THAAD:韓米間で合意済みの費用分担、再交渉は事実上不可能(朝鮮日報)
 韓国外交部(省に相当。以下同じ)の尹炳世(ユン・ビョンセ)長官は1日、外交部出入りの記者団の取材に応じて「(マクマスター発言の)力点は、両国間でなされた(THAADに関する従来の)合意を守るというところにある」と語った。国防部の文尚均(ムン・サンギュン)報道官も「費用分担問題は韓米間で既に合意がなされた事案であり、かつ在韓米軍地位協定(SOFA)の規定にも明示されている。再交渉する事案にはなり得ない」と発言した。

 韓国政府がこのように確信をもって発言する背景には「THAADの費用だけを再交渉するのは事実上不可能」という判断がある。米国があえて「THAADの費用請求」にこだわる場合、「敷地・基盤施設は韓国が提供し、そのほかの全ての費用は米国が負担する」というSOFA第5条から改正しなければならない。韓国政府の当局者は「SOFA改正交渉は、費用分担だけでなく在韓米軍の地位、犯罪処理手続き、在韓米軍基地の無償使用や環境問題など、ありとあらゆる課題が飛び出しかねない『パンドラの箱』。SOFAの改正は、むしろ米国側がいやがる事案」と語った。1995年に始まった第2次SOFA改正交渉は2001年まで、丸5年以上も続いた。

 韓米同盟が維持されるかぎり、トランプ大統領がこうした状況や従来の合意を無視して「THAADの費用を払え」と要求し続けるのは困難だ。国防部の当局者は「米国がTHAADの費用を要求し続けるのなら、次期政権は『THAADを元に戻せ』と言うしかなくなる。しかしこれは事実上、同盟の破局を意味するので、韓米いずれもこうした状況にまで進もうとはしないだろう」と語った。
(引用ここまで)

 トランプ大統領が語った「THAADの使用料10億ドルを韓国に支払わせる」という話は、THAAD配備における米韓合意を覆す事態になる。
 引いては米韓軍事同盟そのものの破局を意味する。
 なので、それはあり得ないのだという反論が韓国側から出てきました。
 この反論はひとつの大前提があるのですね。

 それは「アメリカが現在、そして将来に渡って米韓軍事同盟を維持すべきものであると考えている」という前提です。
 もう少し詳しく書くのであれば「アメリカは韓国駐留を前提とした米韓軍事同盟を維持する」という前提の下でしか、この話は成立しないのです。
 来週には成立するであろうムン・ジェイン政権が、もしも「アメリカは韓国に駐留して勢力下に置いておきたいはずだ」という前提で話を運ぶのであれば。
 その大前提をアメリカは崩しにくる可能性があるということなのですよね。

 別に前例がないわけではない。
 アメリカ軍は乞われていない、かつ戦略的価値が低かったフィリピンからあっさり撤退したという過去があります。
 戦略的価値についていうのなら、韓国はフィリピンよりは高いと思われます。
 それでもたとえばエドワード・ルトワックは「戦争にチャンスを与えよ」の中で、反中同盟は「日本、インド、オーストラリア、ベトナム、アメリカ」によって構成される、としました。
 韓国の戦略的価値というものは無視できるレベルになっています。
 なにしろ、北朝鮮があれだけ核開発をし、ミサイル試射を繰り返しているのに自律的な動きをなにもしない。
 中国の軍事パレードに国家元首が参加するなど、明白に中国寄りの政策をとってきた。

 そして、次期政権ではアメリカが戦略的に必要とした慰安婦合意を覆すことが確実視され、THAAD配備についても文句を言ってくることは間違いない。
 で、あれば。
 アメリカ政府は大前提を覆してきてもなんの不思議もないのですよ。
 その布石として「韓国はTHAADの使用料金を支払え」って言ってきたのであれば、なかなかの策士ぶりといえるでしょう。最初の波風を立てるために。
 ……ただ単にトランプが「10億ドルな!」って言いたかっただけなんじゃねーのって話も否定できないのが辛いところ。

ゴールデンウィークにこれを読む。
エドワード・ルトワックの戦略論
エドワード・ルトワック
毎日新聞社
2014/7/18