万引き犯に口止め料要求、スーパーのオーナーら送検 /ソウル(朝鮮日報)
公務員試験受験を準備中のパクさん(36)は、今年9月のある日の夜11時30分ごろ、ソウル市銅雀区鷺梁津洞のスーパーマーケットで幾つかの菓子を万引きして店を出た。

 CCTV(防犯カメラ)を見守っていた店長が「商品を盗もうとしたのか」と言ってパクさんを捕まえ、スーパー裏手の事務所に連れていった。店長は他の2人の従業員と共に「300万ウォン(約30万円)を支払わなければ、警察に通報して公務員試験を受けることができなくしてやる」と脅した。パクさんが持ち出そうとした菓子は全部で6000ウォン(約600円)相当だった。

 前科が付くと公務員試験を受けるのはほぼ絶望的となる。パクさんは家族に連絡し、店長らの銀行口座に300万ウォンを送金するよう頼んだ。その後、店長らはパクさんを解放した。

 同スーパーは鷺梁津の学習塾街にある。公務員試験の準備生や就職準備生たちが多く集まる所だ。警察に逮捕されたパク容疑者(73)=女性=と息子のキム容疑者(48)は、代金を支払わずに店を出る人々から、合意金の名目で現金を奪っていたという。パク容疑者らに脅迫された人々は、そのほとんどが公務員試験や税理士試験などを準備している人々だった。(中略)

250ウォン(約24円)の菓子を万引きし、50万ウォン(約4万9000円)を送金させられた浪人生もいた。ソウル市銅雀警察署は共謀恐喝罪、共謀監禁罪などの疑いで、スーパーのオーナーのパク容疑者と息子のキム容疑者、そしてスーパーの従業員3人を在宅起訴し、10月10日に送検した。
(引用ここまで)

 ああ、韓国ならではの、そして鷺梁津(ノリャンジン)ならではの犯罪ですね。
 先日の「9級公務員の生涯年収は中小企業に就職するよりも高い」というエントリで書きましたが、ノリャンジンという場所には公務員試験を受ける志望者が山ほど住んでいる、コシテル・コシウォンという鶏小屋のような格安宿があるのです。
 韓国独特の前払い保証金制度であるチョンセを必要としない、月家賃のみで住める場所です。
 月額4〜5万円ってところだそうです。面積比では相当に割高なのですが、まあしかたがない。
 先日はコシセンを公試生と書いてしまいましたが、「考試生」でしたね。

 コシウォン=考試院で、ベッドと机しかない簡素な作りの部屋。三畳ほどで窓すらないことも多い。
 コシテル=考試ホテル=公務員試験者用ホテルの略で、こちらは個室にシャワートイレがついているもの。やや家賃も高い。
 バックパッカーが格安宿として泊まることがあるというのは、日本の木賃宿と似た性格を持っていますかね。

 このコシウォン、コシテルで考試生たちは来る日も来る日も公務員試験に向けての勉強をしているのです。公務員試験のための予備校が集中しているのがこのあたりなのですね。
 でも、地方公務員の採用倍率はひどいときには1000倍。10倍とか20倍だと「おお、低い」という感じになりますね。
 最後の夢を託して、ここで勉強しているのです。
 夢破れたら大企業の1/4の賃金の中小企業に行くか、親子でコンビニ開業のどちらかです。もしくはチキン屋かカフェ開業か。

 どうしたって荒みます。
 お金がない人も多いでしょう。
 ノリャンジンのスーパーで万引きする若者はコシセンがほとんどというのも理解できます。ややディープな韓国ウォッチャーなら「ああ、なるほどな」と納得するでしょう。
 で、そのコシセンが犯した万引きに対して「公務員試験を受けられなくしてやる!」と脅せば、そりゃ家族が口止め料も持ってくるでしょうよ。

 ……なんだろうな。希望というものがどこにも見つけることができない、救いが欠片もない事件だわ。
 ディストピアがあるとしたら、こういう感じですかね。

韓国人に生まれなくてよかった
武藤正敏
悟空出版
2017/6/1