韓国労働研究院「9年ぶり雇用最悪…最低賃金が原因ではない」(中央日報)
韓国労働研究院が2日に発表した報告書「2018年上半期の労働市場評価と下半期の雇用展望」によると、今年下半期の就業者数は20万8000人増にとどまると分析された。年間では17万5000人増ということだ。政府が先月出した下半期の経済政策方向で下方修正した18万人より5000人少ない。昨年の31万6000人に比べるとほぼ半分だ。研究院はこのように就業者数の増加幅が少ないのは、製造業と卸小売業、飲食・宿泊業を中心とする雇用の縮小を原因に挙げた。年間就業者数の増加幅が20万人を下回るのは2009年の金融危機以来9年ぶりだ。

しかし研究院は「今年上半期は概して通常レベルの就業者増加となった」とし、雇用ショックという見方を事実上否定した。ただ、5−6月の就業者数が少ないことについては製造業と建設業で雇用委縮が速いペースで進んだためと見なした。また「人口の減少を考慮すると下半期と年間就業者数増加予想値は例年に比べると低い水準だが、平年水準の流れ」という。人口構造の変化による自然な雇用状況という論理だ。特に研究院は「最低賃金は上半期の雇用鈍化の主な要因ではない」と主張した。今年の最低賃金引き上げ率(16.4%)は雇用安定資金、社会保険料支援など政府の各種支援を勘案すると、実質引き上げ率は7%という説明を付けながらだ。

そして「宿泊・飲食業と卸小売業での臨時日雇い減少は金融危機以降の企業の急増ですでに飽和状態にあって生成と消滅を繰り返し、日増しに営業利益が減って費用に苦しむ両産業が直面した状態が原因」と診断した。限界業種で生じる避けられない現象ということだ。

また研究院は「最近の雇用者のいない自営業者の減少は離職目的の廃業や雇用者のいる自営業者への上方移動が活発だという信号」と解釈した。自営業者が勤労者に変わったり雇用人員を増やしてより良い状況に向かっているという主張だ。

この日、韓国労働研究院のペ・ギュシク院長はこの報告書と違う見解を示した。メディアへの寄稿でだ。ペ院長は報告書で指摘したように小企業、中小企業および自営業者の収益性と支払い能力が脆弱だという認識では一致した。ただ、「連続して15%を超える最低賃金引き上げは、これら脆弱な小企業および自営業を脅かすおそれがある」と強調した。したがって「最低賃金引き上げの速度調節が避けられない」と指摘した。
(引用ここまで)

  さて、韓国労働研究院は政府傘下の労働関連問題を取り扱う研究機関です。
 その研究機関から雇用は減っているもののそれは最低賃金の上昇によって起きたのではないという報告書が出されました。
 いわく……

 ・「最近の雇用者のいない自営業が減りつつあるのは、雇用者のいる自営業に転じたり、賃金労働者に転職したからだ」
 ・「宿泊、飲食業・小売業などでの雇用は減っているが、もともと脆弱な限界産業だったので減って当然」
 ・「労働人口そのものが減っているから、それほど雇用が増えてなくても不自然ではない」

 ……よかった、最低賃金上昇で職を失った人はいないんだ。
 つまり、この報告書からは「ムン・ジェインの『所得主導成長』は間違っていないからガンガンいこうぜ!」ということが読み取れるわけですね。
 政府系研究機関が韓国政府の方針にたてつけるわけがないよな、という話でもあるのですが。

 その一方で労働研究院の院長からは「自営業者は脆弱な構造だからこそ、最低賃金上昇の余波をまともに受けている」「最低賃金の上昇ペースを抑えなければならない」という寄稿をメディアにしたとのこと。
 同様に韓国開発研究院からは最大で32万人が失業するという個人レポートが出ていました。

 組織の報告書としては大統領に忖度して、個人では反旗を翻す。……組織の報告書は「個人の責任が薄まる」という特性があるからかもしれませんね。
 そういう報告書を組織は出しているけど、個人としてはとても見ていられないから警告を出す。あとから「俺はあのとき、組織の意向に逆らってまで言ったんだけどなー」って言えるというのもありますかね。
 まあ、個人的にどっちに賭けるのかといわれたら最低賃金上昇で下層はことごとくやられるというほうに賭けるでしょうね。

 ですが、ムン・ジェイン政権にはもう戻れない理由もあるのですよ。
 「積弊」としてすべてを否定しているパク・クネ政権下で決定された最低賃金上昇ペースは4年平均で7.4%ほどでした。
 つまり、この7.4%という数字が下限であり、ムン・ジェイン政権でのそれにどれだけ上乗せできるかが「我々は積弊ではない」ということの証拠でもあるのです。まあ、公約でもある1万ウォンに達したあとはさすがにアクセルを戻すかもしれませんが。
 これから多少の調整があったとしても、この数字だけは下回ることはできないのですね。

経済学の入り口にはちょうどよい本が出てます。
キミのお金はどこに消えるのか (角川書店単行本)
井上 純一
KADOKAWA / 角川書店
2018/8/4