【コラム】日本の自営業にあって韓国にはない「天下一」精神(朝鮮日報)
 丁酉再乱(慶長の役)の際に日本に連行された儒学者、姜櫃当時の日本について書いた「看羊録」にこんな一節がある。「日本はどんな才能、どんな物であっても必ず天下一を掲げる。壁塗り、屋根ふきなどにも天下一の肩書が付けば、多額の金銀が投じられるのは普通だ」というものだ。つまり、つまらない技にも「天下一」があり、それが認められると権威となり、報酬が支払われることを言っている。日本の自営業は400年以上、そうした土壌で成長した。そんな日本の自営業ですら、人口減少、高齢化、新世代の価値観変化で縮小しているという。

 韓国の自営業は日本に比べ深く根付いてはいない。ならばもっと関心を持って応援すべきだが、反対に向かっている。大規模資本の独占を非難しつつ、どんな分野でも大企業の商品を好む。首都圏の店舗賃料は日本を上回り、賃金も日本の水準に近づいた。資本、地主、政府が同時に自営業を攻撃する。こんな政府が自営業担当の秘書官を青瓦台(大統領府)に置くのだという。ポスト一つを設けることで、大企業やビルオーナーに矛先を向けるのではなく、最低賃金をまず韓国に適した水準に合わせるべきだ。

 それでも本質は実力だ。飲食店に行けば、主人の多くは調理場ではなくレジにいる。人気エリアには内装にばかり凝ったおしゃれな店が立ち並ぶ。町工場は独創性よりも低賃金に死活を懸ける。韓国の自営業には匠は少なく、経営者ばかりが多い。見下して言っているわけではない。相対的にそうだと言っているのだ。上の世代は日本に行けば、ソニーの電子製品を購入した。最近の世代が日本に行って感動するのは、日本の自営業がつくり出した小さな「天下一」だ。環境がいくら劣悪でも本質を無視してはならない。
(引用ここまで)

 タイトルを見ただけで「ああ、ソンウ・ジョンの書いたコラムだな」とピンときますね。
 当初は「マニュアル通りで四角四面の接客しかできない日本社会」を呪っていたのですが、5年半の特派員生活で日本と韓国の違いというものをけっこう客観的に見ることができるようになっていったという人物です。
 韓国に渡った元朝日新聞女性記者が「韓国では赤ん坊を社会みんなで育てている。みんなが赤ん坊を触りにくる。韓国は暖かい。日本社会は冷たくて子供を育てる環境ではない」と書いたことに対して、ソンウ・ジョンは「日韓の子育てはどちらにも長所がある。私はよその子と接する時に1メートルほど距離を置いて言葉をかけるていどにしておきたい」と書いていたこともありましたっけ。
 まあ、日本を知りすぎてしまったかわいそうな韓国人でもあるように感じます。

 で、そのソンウ・ジョンが「韓国の自営業者はもっと実力をつけるべきだ」という提言。
 引用はしてませんが、記事の冒頭で東池袋大勝軒の故山岸氏が引退する時にはちょっとした騒ぎになったという話を書いています。
 要は「韓国人の自営業者もそういった『天下一の職人』になるべきなのだ」と。
 ……無理でしょ。

 浅草の100年続くそば屋を見て「100年間も頭がいい子が出なかったのか」と思うほどに、商売を下げすさむ。
 そもそも自営業者になる人間の2/3はやりたくもない仕事をしているとアンケートに答えています。
 だから、フランチャイズ店ばかりが増えるのですよ。
 フランチャイズであればお金だけ出せば材料も店舗インテリアも、経営ノウハウまでも揃えてくれる。やりたいわけではなく、失業したからやるだけ。

 親が失業し、子供は就職できなかったから親子揃ってコンビニ店を立ち上げるというだけ。
 人口あたりのコンビニ店舗数が日本の2倍になっているというのは、やりたくてやっているわけではないから手っ取り早く儲けられそうなものに手を出した結果なのです。
 そんな自営業者が「天下一」を目指す理由がない。

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山岸一雄
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2012/6/12