【時論】韓国の脱北女性従業員拉致議論と人権ジレンマ
中国浙江省寧波の北朝鮮レストランの柳京食堂で2016年に発生した女性従業員ら13人の集団脱出事件をめぐり「企画脱北」議論が大きくなっている。国家人権委員会は先月29日、女性従業員の集団脱北事件に対し職権調査を決めた。これに先立ち行われたトマス・オヘア・キンタナ国連北朝鮮人権特別報告官の記者会見が契機だった。彼は「従業員のうち一部がどこへ行くのか知らない状況で韓国に来た。自分たちの意思に反して拉致されたものならば犯罪と見なさなければならないだけに、韓国政府が真相調査を通じて責任者を究明しなければならない」とした。これに対し統一部報道官は定例会見で「女性従業員は自由意志により(韓国に)入国したもの承知している」として既存の立場を再確認した。

今回の議論は5月にJTBCのインタビューで女性従業員を連れ出した柳京食堂支配人のホ・ガンイル氏が「女性従業員が自由意志で韓国行きを選択したのではない」と主張して始まった。当時ある女性は放送に出演し「北朝鮮への送還を望む」という趣旨の発言もした。こうした陳述は朴槿恵(パク・クネ)政権当時に国家情報院が2016年4月の総選挙のために企てた「企画脱北」ではなかったのかとの議論に油を注いだ。民主社会のための弁護士会はすぐに当時のイ・ビョンホ国家情報院長ら4人を国家情報院法違反と逮捕・監禁罪容疑で検察に告発し、ソウル中央地検は捜査に着手した。(中略)

さらに北朝鮮が継続して脱北女性従業員の拉致・誘引を主張し、離散家族再会と連係しているいまは彼女らに「北朝鮮に戻りたいか」を尋ねること自体が「人権危機」とジレンマを招くようになる状況だ。脱北従業員の自発的脱出と明らかになるならば、強制拉致という前提に北朝鮮当局が手を出さずにいる脱北者の北朝鮮にいる家族の命が危険にさらされる公算が大きい。反対に拉致されたという従業員の主張が2年前と違っているのに真の意志だと見なし、憲法と国家保安法上の違法団体である北朝鮮に送還するということは法理上合わない。もし彼女らを送るとしても残りの人たちは本当に祖国を裏切った反逆者になるため北朝鮮にいる家族は危うくなるだろう。
(引用ここまで)

 2016年に寧波の北朝鮮レストランに勤務していた12人の女性従業員と、その食堂支配人の13人が一気に脱北してきたことがありまして。
 以前にもちらっと関連エントリを書いてますね。

 北朝鮮レストランの従業員として海外に出られるということは、北朝鮮において出身成分が上位の家族なのです。北朝鮮という国家に忠実であると認定されたからこそあの国から外に出られるというわけですからね。
 そういった出身成分がかなり高いと思われるレストラン従業員が集団で脱北してきたということで、当時話題になったものでした。

 この集団脱北に関して、大統領府と人権団体を称する弁護士会、脱北者支援団体、北朝鮮の思惑がそれぞれ異なっていて羅生門(映画)状態。そこに国連が「普遍的な人権」とやらを持ち出してさらに混沌化。

 ムン・ジェイン政権は当初、この脱北自体がパク・クネ政権下の国情院(国家情報院。旧KCIA)によって違法に行われたものであり、いわゆる「積弊」の一環であるとして粛正したいという様子でした。国情院のある旧政権についていた勢力を排除したいという意向もあるのでしょうね。
 最近はさすがに問題が大きく、かつデリケートになりすぎてて手を引いている感じですが。

 北朝鮮は「この脱北者らは南に拉致された被害者である」というように規定することで、日本人拉致問題、韓国人拉致問題、国内の人権侵害といった人権に関する自らの問題を希釈したい。
 少なくとも韓国との会談で外交カードにできるとは思っているのでしょう。

 記事中の「民主社会のための弁護士会」(民弁)は左派親北団体なので、北朝鮮の意向に従いたい。強制送還させて北への忠誠度を見せつけたい。
 何度か「脱北者に面会させろ」「彼らの意思を確認させろ」って言っては却下されている。

 脱北者支援団体だけは彼らの実情に寄り添おうとしているというような状況ですかね。

 実際、脱北者について最良なのは自由意志なのか、拉致なのかということについて自らの声を出さないことなのですよ。
 自由意思で来たということになれば北に残る家族はよくて強制労働。悪ければ死刑。
 それを恐れて「拉致されてきたのだ」という北朝鮮の主張に従った声明を出せば強制送還。帰国後は強制労働か死刑か。
 現状、北朝鮮当局は「レストラン従業員は拉致された」と主張しているので、家族は被害者であるとされている。少なくともその主張が為されている間は無事でいられる。

 わざわざ寝た子を起こしてそれぞれの団体、国家がそれぞれの主張をしはじめて混沌状態。
 この問題やISD訴訟問題も揃ってパク・クネ憎しが行き過ぎた結果ですよね。
 まあ、過激なくらいに前政権を否定することでしか自らの正統性を証明できない社会なのでしかたがないのでしょうが。
 もはやポル・ポトと紙一重のところまできているんだよなぁ……。