米朝首脳会談:交渉決裂後も対北事業に前のめりの文大統領(朝鮮日報)
制裁の中で金剛山・開城工業団地再開推進……現物・エスクローバイパスの可能性を探る(ソウル新聞・朝鮮語)
 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は4日、韓国大統領府(青瓦台)で開かれた国家安全保障会議(NSC)の全体会議で「制裁の枠組みの中で、南北関係発展を通して対話に役立ち得る案を模索してもらいたい」と発言した。さらに文大統領は「特に、板門店宣言と平壌共同宣言で合意された南北協力事業を、スピード感を持って準備してほしい」とも語った。これに対し、統一部(省に相当)の趙明均(チョ・ミョンギュン)長官は「金剛山観光と開城工業団地の再開案を用意して米国と協議したい」と応じた。
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政府が4日、「ハノイの核交渉」決裂以降、北米対話の突破口として現在の対北朝鮮制裁の中で金剛山観光と開城工業団地の再開を推進するという方針を明らかにし解決策に関心が集まっている。二事業を再開するために現物支給、またはエスクロー方式(銀行など第3者に代金を預けて、一定の条件が満たされると、引き出し可能)などの制裁バイパス案を模索しなければならないというのが専門家たちの見解だ。

金剛山観光と開城工業団地の再開を妨げる国連の対北制裁は、バルクのキャッシュ(大量の現金)の対北朝鮮流入を禁止と北朝鮮との合弁事業の禁止、精製油・原油の対北朝鮮持ち込み制限、機械・輸送機器・鉄鉱石・鉄鋼など対北朝鮮持ち込み禁止などがある。

国連安全保障理事会が金剛山観光と開城工業団地の再開のために事案別制裁を免除し、又は両方の事業について包括的に免除する決議案を採択することができますが、米国が2次、北米会談で北朝鮮制裁緩和について否定的な立場を表明しだけの可能性が著しく低下する。

代わりに金剛山観光代金と開城工業団地の労働者の賃金を現物で支給したり、エスクロー方式を用いてバルクキャッシュの対北朝鮮持ち込み制限制裁を回避する方策が議論される。南側がエスクロー口座を作って代金を入金して北側が非核化措置を取った後、代金を引き出したり、食糧や生活必需品を購入するだけで代金を活用できるようにする方式である。開城工業団地の再開のためには制裁対象精製油、原油、機械、輸送機器などが北朝鮮に入ることに金剛山観光再開が相対的に制裁を迂回することは容易である。
(引用ここまで)

 ムン・ジェインがNSC、国家安全保障会議の場で「北朝鮮との対話を促進するために、金剛山観光と開城工業団地の再開を目指す」という方針を表明したのですよ。
 本来だったら米朝首脳会談で制裁緩和され、大手を振ってどちらも再開できるという目論見だったのです。
 外貨を北朝鮮に供給して、キム・ジョンウンからの覚えをめでたくしようというムン・ジェインの野望があったのですね。
 三一節の大統領演説では「ついにやってやったぞ!」と高らかに再開を宣言する予定だったとされています。
 結果はご存じの通りに、なんの合意ももたらされずに決裂。
 それでも懲りずに「北朝鮮との対話のためには制裁緩和が必要だ」というお題目を掲げて再チャレンジ。

 制裁回避のためにエスクロー方式がとれないかと考慮しているそうですよ。
 エスクローは銀行などの第三者に供託しておいて、取引が完全に成立したあとに支払われるという方式。
 アメリカでは不動産取引などで用いられますね。
 この場合であれば、北朝鮮に支払われる賃金を供託しておいて、制裁解除後に振り込めるようにしようというものでしょう。
 韓国ではイランとの原油取引でもウォン建てで同じようなことをしていましたね。後に大問題になっていました。

 さて、なんでそこまでムン・ジェインが開城工業団地の再開にこだわるかというと、ふたつの理由があります。
 ひとつは北朝鮮に利益をもたらしたいということ。
 キム・ジョンウンの新年の挨拶でも「無条件の再開」を語っていたこともムン・ジェインにプレッシャーを与えている大きな要因でしょう。

 そして、もうひとつの理由がありまして。こちらのほうがより重要なのですが。
 最低賃金の暴力的な上昇具合で韓国国内ではすでに軽工業の工場は成り立たなくなりました。
 韓国最古の紡績企業であり、韓国で初の上場企業であった京紡は工場の最新設備ごとベトナムへ移転全紡は韓国国内工場を閉鎖
 京紡に関しては一度は工場移転を思いとどまったのですが、やっぱり無理ということでベトナム進出を決定し、光州の工場は閉鎖することになりました。

 韓国の最低賃金はこの1月から8350ウォン。
 しかし、開城工業団地であれば1000ウォン以下で雇用できるのですよ。
 韓国の国内企業が喉から手が出るほどにほしがっている「安価な労働力」がそこにある、ということなのですね。
 一挙両得であり、かつ大統領としての公約でもある。
 ムン・ジェインにとっては何重にもおいしい話であるというわけなのです。

 ただ、アメリカの口上を見る分には制裁解除も例外化もないでしょうね。
 「最強の制裁」を継続させることで北朝鮮を国際舞台の場に引きずり出したという認識もあるでしょうし、なによりも最大の貿易相手である中国が制裁に協力しているにも関わらず、韓国にだけ例外措置を認めるわけがない。
 国境を接している吉林省、遼寧省あたりが「韓国に貿易を認めるならうちもやるわ」と文句を言い出すに決まっている。中国から見てもすでに北朝鮮の安価な労働力や資源は魅力なのですよ。
 韓国だけを特別扱いする理由がない以上、開城工業団地の操業、および金剛山観光事業の再開はあり得ませんね。

統一朝鮮が日本に襲いかかる (祥伝社新書)
豊田有恒
祥伝社
2019/2/1