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生まれてこなければよかった
 虐待を受けた子供に共通するのは、非常に低い自己評価が現れることです。保護者から「おまえは何をしてもだめなのだ」「要らない子どもだ」というメッセージを有形無形に受け、自分を肯定できなくなるからです。「生まれてこなければよかった」「どうして生きているんだろう」という思いが生まれ、自分は誰からも愛されることはないと思い込んでしまうのです。まだ虐待を虐待と認識できない低年齢で虐待を受けた子どもは、保護者に対して「ひどい」「最低な親だ」という否定的な感情を持つことができません。「自分が悪い子だからこうなった」「全て自分のせい」というように虐待を受けた原因まで自分にあると思い込んでしまうのです。
 これから生きていても誰からも愛されない、自分の居場所はどこにもないといった考えをもつようになった子どもたちの心の奥には深い悲しみと怒りが存在します。周囲のもの全てを敵視し自分を責め続ける日々を送って成長していくと、愛情というものが分からないまま大人になってしまいます。


愛着障害
 児童精神科医たちは、重い虐待を受けることで、愛着障害が起こると話します。保護者からの愛情が断絶されたり、愛着を結ぶ交流が行えないなどのためです。愛着障害とは、長期にわたり保護者から虐待を受けたことで、保護者との安定した愛着(愛情を深める行動)が絶たれたことで起こる障害の総称です。
 愛着障害を示す子供には衝動的・過敏行動的・反抗的・破壊的な行動がみられ、情愛・表現能力・自尊心・相手に対する尊敬心・責任感などが欠如している場合が多いのが特徴です。。他人とうまく関わることができず、特定の人との親密な人間関係が結べない、見知らぬ人にもべたべたするといった傾向もみられます。施設などで育った子どもが幼児期には手がかからない子どもだったのに、思春期に達して万引きなどの問題を起こすのもこのためと言われています。


虚言癖
 虐待を受けた子どもに多い症状のひとつとして、虚言癖が挙げられます。虚言癖とはどうしても嘘をついてしまうこと。虚栄心や自惚れから、自分を実際よりも大きく見せようと、ホラやうその自慢話をするものとされています。虐待された子どもは幼いころから虐待の事実を隠そうとして周囲に嘘をついて育つケースが多く、嘘をつくということが日常的なものとなってしまうのです。例えばこんなケースがあります。ネグレクトを受けていた小学生A君の話です。
 遠足の日に弁当を作ってもらえない事実を周囲にバレるのを恐れ、コンビニで買ってきた弁当を弁当箱に詰めて持っていきました。小学生からするとそのおかずは豪華に見えるもので、「A君のお母さんが全部つくったの?」「すごいね!おいしそう!」と同級生の目を引きました。A君は「そうだよ、ママは朝5時に起きて全部手作りしてくれたんだ。ママはすごく料理が上手なんだよ」と嘘をついてしまいます。
 こういった小さな嘘を積み重ねていくうちに、嘘をつくことしかできなくなっていきます。この話はこれを見ていた担任の先生が話してくれたお話です。自己評価が低く、事実を隠すことしかできないまま大人になってしまった子どもは、もう嘘なしでは生きていけなくなってしまいます。自分を否定し虚言の世界に生きることで強くなれる気がしてしまうのです。ひどくなると嘘と真実の堺が曖昧になり、自分でも発言していることが嘘なのか真実なのか分からなくなってしまいます。


自傷癖
 虐待により心に大きな傷を負って成長すると現れる症状のひとつに自傷癖があります。自傷癖とは文字通り自分を自分で傷つける行為をおこなうこと。リストカットなどがこれに含まれます。自傷してしまう子どもは心に大きすぎる傷を負ったために体面上での「痛み」を感じられなくなっているのが特徴。自分の体を切り付け流れる血を見ることで初めて「生きている」ということを感じるのです。また、他人に心配されたいという衝動から起こる場合もあります。わざと階段から落ちて骨折したり、熱湯をあびてやけどを負ったりすることで、他人の注意を引き自分は孤独ではないと思いこみ、注目される快感を忘れられずにこれを繰り返すこともあります。


感情制止
 ひどい虐待を受けた子どもに起こる症状のひとつに「感情の制止」があります。全てを保護者の為に行動して育ったために自分の心を殺してしまうことです。嬉しい、悲しい、楽しい、好き、嫌い、そういった感情が完全に欠如してしまいます。どうすれば親が喜ぶのか、どうすれば怒られなくて済むのか、それだけを考えて育った子どもは自分の喜びや自分の悲しみイコール親の喜び、親の悲しみという考えになってしまうのです。施設に入り親と引き離されると、生きるための基本的な基準となっていた「親の感情」というものがなくなってしまいます。今まで親のために全ての思考を合わせていた子どもにとって急に親がいなくなってしまうと自分が何をしたくて何をしたくないのか、何が好きで何が嫌いなのか分からなくなってしまうのです。


凍てついた眼差し
 虐待が始まる平均的な年齢は2歳前後という統計的な結果が出ています。2歳前後というと、子どもの「環境を探索しようとする能動的行為」が活発になる年齢です。この年齢に虐待がはじまることで、子どもは好奇心に満ちた能動性が親からの虐待を引き起こすと感じるようになります。能動的な動きは危険を招くものであり、自分の安全を保証するために能動性を抑えるのが一番であることを経験から学習するのです。自分をとりまく環境にうまく適応した結果、能動性や好奇心を抑え込んでしまいます。そんな子どもに共通するのが「凍てついた眼差し」。周囲に警戒心を抱き、内面を決して見せようとしない、光の消えた眼差しです。この能動性や好奇心に満ちた環境の探索、周囲への働きかけが知的発達や学習の基本となることを考えると、知的発達を阻む原因となっていることにもなります。


小動物を殺す
 自分より小さな生き物を殺したりいじめたりする行為は「助けを求める心の叫び」と考える必要があります。こうした行動については、
・子どもが、自分の受けた虐待行為を、自分よりも小さな「犠牲者」に対して行動的に再現している。
・子どもが自殺のリハーサルを行っている。
などの説明がなされています。このような行動は悲痛な状態を経験している子どもに多いのが事実です。そして、殺したりいじめたりした動物に対する子どもの愛着が強ければ強いほど、子どもは深刻な状況にあると考えられています。


偽成熟
 大人が今、自分に何を期待しているのかを察知して大人の期待を満たすように行動したり、大人の緊張感や不快な感情を敏感に感じ取って、大人のそういった感情をなだめようとする行為です。身体的虐待を受けた子どもに多い症状で、大人の期待や感情を敏感に読み取り、先々それに応じた行動をとることによって大人からの攻撃の危害を防ぐための行動です。


デタッチメント
 他者との関わりから物理的もしくは情緒的に引き下がった状態で、他者への共感の欠如、社会関係への感心の低下などが伴います。大人に対して強い愛着を示していた子どもが、ほんの少しの事がきっかけで大人との関係を完全に断ち、その大人から急激に遠ざかってしまうといった行動がこれに当てはまります。社会性に欠け、他人を信用できなくなることでひきこもりの生活を送るようになってしまうこともめずらしくありません。