研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2011年03月

ノート記事目次(2011.3.27改訂版)

このブログも開設1周年を迎えました。最初は「ノート」という形で知識の整理を行ない、その後、様々なトピックスについてコメントを述べさせていただきましたが、ノートとトピックス記事の内容のつながりが自分でもわかりにくくなってきましたので、ノート記事目次を改訂しました。
この1年、私自身、研究の第一線を離れることになるという環境の変化もあり、記事の意味も自分が使うための覚書から考えを成長させるための頭の整理に移ってきましたが、読んで下さる方のお役に立てればいいなという思いも少しだけありますので、今後もよろしくおつきあいいただければ幸いです。

 

はじめに2010.3.21

 注)現在は仕事が変わってしまいましたが当時の記事をそのままに残しています。

ノート1:どんな研究が必要なのか2010.3.22

 ポイント:企業にとってイノベーションは重要。技術はイノベーションの一要素。

 キーワード:創造的破壊、Shumpeter、アイデア、イノベーション

 関連記事:「「イノベーションの神話」(Scott Berkun著)のまとめと感想」(2011.2.20)イノベーションの全体に関わる考察がまとめられています。

ノート2:研究の不確実性をどう考えるか2010.3.27

 ポイント:研究は不確実。その認識がマネジメントには必要。

 キーワード:意思決定理論、確定性、リスク、不確実性、錬金術、セレンディピティー、創発的プロセス、未来予測

 関連記事:「技術の目的、研究の役割」(2010.7.25)未来予測、不確実性の低減などを考察しました。

ノート3:研究と競争相手2010.4.3

 ポイント:競争相手の存在は忘れてはいけない。

 キーワード:技術の普遍性、競争、Porter

ノート4:企業の収益源となる研究テーマの設定2010.4.10

 ポイント:イノベーションの企業活動への影響認識が重要(特に破壊的イノベーション)。

 キーワード:破壊的イノベーション、持続的イノベーション、Christensen、ブルーオーシャン戦略、コンプレックスシステム、ボリュームオペレーション、コア

 関連記事:「コア・リジディティ」(2010.9.5Leonardによる硬直性についての考察。

  「リバース・イノベーション」(2010.10.17GEの新たなイノベーション戦略。

  「東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた」(2010.11.28)人間中心のイノベーションの試み。

  「エスノグラフィーとイノベーション」(2010.12.19)真のニーズを探るアプローチ。

ノート5:研究部門に求められるテーマ2010.4.17

 ポイント:研究にはイノベーション以外にも様々な業務が求められる。

 キーワード:未知、既存、頭を使う、体を使う、中核事業の安定、オープンイノベーション、10年ルール、宣伝、信用度

 関連記事「技術を維持する-イノベーションの負の側面への抵抗」(2010.11.14)既存事業も重要。

  「オープン・イノベーションは使えるか?」(2011.1.10)オープンイノベーションの難しさと可能性について。

ノート6:研究部門が実施したいテーマ2010.4.24

 ポイント:シーズ志向、セレンディピティーの重要性。

 キーワード:シーズ志向、ニーズ志向、暗黙知、形式知、トップダウン、ボトムアップ、ミドルアップダウンマネジメント、レディネスギャップ、偽セレンディピティー、真のセレンディピティー

ノート7:研究者の活性化2010.5.1

 ポイント:モチベーション理論、エンパワーメントのまとめ。

 キーワード:機能人、経済人、Maslow、欲求段階理論、生理的欲求、安全欲求、所属と愛の欲求、承認の欲求、自己実現欲求、X理論、Y理論、動機づけ要因、衛生要因、内発的動機づけ、欲求説、過程説、期待理論、誘意性、達成動機理論、エンパワーメント

 関連記事:「研究者と金銭的報奨」(2010.9.12)研究者に対する金銭的報奨の与え方についての考察。

  「研究者と金銭的報奨再考:処遇をどうすべきか」(2010.10.3)過去の成果に対する報奨vs将来の成果への期待料について。

  「モチベーションは管理できる?」(2011.1.23)モチベーションは何によってどう変わるのか。

  「働きがいのある会社とはFortune誌「最も働きがいのある米国企業」No.1SASの考え方)」(2011.1.30SASの考え方の紹介。

  「研究開発におけるスピードと俊敏さ-「加速の罠」について」(2011.2.13)スピードは重要なのか?。

ノート8:研究者の適性と最適配置2010.5.8

 ポイント:研究に求められる様々な仕事と研究者の適性のマッチングが重要。

 キーワード:適性、認知スタイル、行動類型、人を選んでから目的を考える

 関連記事:「イノベーションに必要な人材-『イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材』」(2010.11.7)ケリー氏の著書紹介。

  「研究者の年齢限界?」(2010.12.12)年齢限界は個人差?。

  「競争心と研究開発」(2011.3.6)弊害のない競争心の発揮はできないのか?。

ノート9:研究組織の構造2010.5.15

 ポイント:イノベーションのための組織は固定的、定型的でない方がよいのでは?。

 キーワード:機能組織、タスクフォース、階層性、トップダウン、ボトムアップ、ミドルアップダウンマネジメント、ネットワーク組織、破壊的イノベーション、小さな組織

ノート10:研究組織の望ましい特性と運営2010.5.22

 ポイント:重要な要素は、ビジョン、多様性、コミュニケーション、自律性。

 キーワード:組織的知識創造、自律性、ゆらぎと創造的カオス、冗長性、最小有効多様性、ビジョン、針鼠の概念、コミュニケーション、弱い絆、公正なプロセス

 関連記事:「ナットアイランド症候群:自律的な組織を失敗に導く組織病」(2010.9.26

ノート11:研究組織運営におけるリーダーの役割2010.5.29

 ポイント:環境整備、仕事による動機づけ、多様性、コミュニケーション、育成、ロールモデルが重要。

 キーワード:仕事による動機づけ、多様性、コミュニケーション、ゲートキーパー、育成、経験、ロールモデル

 関連記事:「リーダーがつまずく原因」(2010.7.19McCallによる「脱線した経営幹部」について。

ノート12:研究プロジェクトの運営管理2010.6.5

 ポイント:計画よりも上手く実行することが重要。定型的な運営は難しいのでは?。

 キーワード:計画、戦略、創発的戦略、評価、方向転換、変化のスピード、心のエネルギー

 関連記事:「研究の管理と評価再考」(2010.8.1Davilaによるイノベーション管理手法について。

  「祝ノーベル賞:『発見の条件』by根岸英一教授」(2010.10.11)根岸教授の研究マネジメント手法。

ノート13:研究成果の活用2010.6.12

 ポイント:技術的な価値だけでは技術は普及しない。受け入れられるプロセスの理解が必要。

 キーワード:イノベーション普及、相対的優位性、両立可能性、複雑性、試行可能性、観察可能性、再発明、持続可能性、採用、選択的エクスポージャー、ハウツー知識、原理的知識、採用者カテゴリー、イノベータ、初期採用者、ラガード、革新性、能力信頼性、無難信頼性

 関連記事:「イノベーションとあいまいな意思決定(判断の根拠は何か?、ヒューリスティクスの活用?)」(2011.1.3)成果の活用に限った内容ではありませんが、意志決定や説得の問題について。

ノート14:研究成果の転用2010.6.19

 ポイント:知識としての研究成果の活用も重要。知識創造、ナレッジマネジメントの可能性。

 キーワード:特許、組織的知識創造、知識変換、知識移転、ナレッジマネジメント

 関連記事:「創造性を引き出すしくみ」(2010.10.24)野中教授の知識創造理論(SECIモデル)と実践的な方法。

  「「イノベーションの知恵」(野中郁次郎、勝見明著)感想」(2011.3.21)知識創造ケーススタディ。


参考資料
ノート記事でとりあげた個別トピックスのweb上の資料です。
(このまま下にスクロールしてもご覧いただけます)
<上記のスクロール云々はできませんでした。リンクからたどってください。失礼しました。2011.7.13追記>

ノート記事目次の参考資料

参考資料(複数のノート記事に関連する資料は最も関係の深そうなところに入れています)

ノート1:どんな研究が必要なのか

シュンペーター「経済発展の理論」について、今井賢氏のwebページより、2007.1.4-15

http://ken-imai.com/data/schum2007.pdf

「イノベーションの経営学」は英語版第4版(2009)、TiddBessant著が出ています。そのwebページ

http://www.managing-innovation.com/index.php

ノート4:企業の収益源となる研究テーマの設定

破壊的イノベーションの概念を提示したChristensen氏が共同設立者(co-founder)になっている会社Innosight社のwebページ

http://www.innosight.com/index.html

ブルーオーシャン戦略についてのwebページ

http://www.blueoceanstrategy.com/

ライフサイクルイノベーションについてのwebページ

http://www.dealingwithdarwin.com/

ノート5:研究部門に求められるテーマ

オープンイノベーションについてのwebページ(Open Innovation Community

http://www.openinnovation.net/

「経験知を伝える技術」(原著題名「Deep Smart」)のwebページ

http://www.dorothyleonard.com/home.html

ノート8:研究者の適性と最適配置

「イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材」(原著:The Ten Faces of Innovation)のwebページ

http://www.tenfacesofinnovation.com/

ノート10:研究組織の望ましい特性と運営

ビジョナリーカンパニーの著者Jim Collins氏のwebページ

http://www.jimcollins.com/index.html

ノート14:研究成果の転用

失敗学会

http://www.shippai.org/shippai/html/index.php

畑村創造工学研究所

http://www.sozogaku.com/hatamura/

Common Knowledge AssociatesN. Dixon参加)

http://www.commonknowledge.org/homepage.asp?id=19

「イノベーションの知恵」(野中郁次郎、勝見明著)感想

本書では様々なイノベーションの事例を取り上げ、野中教授の知識創造理論をベースにその成功の要因が解説されています。さらに、それぞれの事例におけるリーダーの考え方と行動について詳しく述べられている点は、イノベーションにおけるリーダーシップについての示唆も多く含んでいると言えるでしょう。取り上げられた事例はいずれも従来の考え方や方法の革新が成し遂げられたもので、イノベーションによって世の中を変えることができる人間の能力とその成果を再認識できたことは、(特に震災の記憶が生々しいこの時期、)力づけられる気がしました。

 

取り上げられているのは、以下の9事例です。

ケース1、旭川市旭山動物園:動物の行動展示によって人気を得た有名な事例。

ケース2、京都市立堀川高校:自ら学ぶ教育を実現して大学受験と生きる力の教育を達成。

ケース3、JR東日本エキュート:これも有名ですが、駅構内のあり方を改革したエキナカの創造。

ケース4、トヨタiQ:「カイゼン」を超えた発想による小型車の開発。

ケース5、アサザプロジェクト:霞ヶ浦の自然を再生させるプロジェクト。

ケース6、社会福祉法人むそう:知的障害者の能力を地域再生に生かす福祉ビジネス。

ケース7、再春館製薬所:大部屋経営を通じて「監視」から「共創」を達成。

ケース8、いろどり:料理に添えるつまものをビジネスとして創造。

ケース9、銀座みつばちプロジェクト:都心で養蜂し、都市のあり方を変えた事例。

 

いずれも研究開発や技術が主役ではありません。しかし、技術があっても、それを成果に結び付けるための多くの技術以外の努力が必要であるというのは多くの方の認識が一致するところでしょう。技術的イノベーションを考える上でもこのような事例から学べることは多いのではないでしょうか。

 

野中教授はこの事例から、イノベーションを生むための方法、リーダーの行動として、次のような概念を示しています。

・「理論的三段論法」ではなく「実践的三段論法」(ケース1、2)

・「モノ的発想」から「コト的発想」への転換(ケース3、4)

・「考えて動く」ではなく「動きながら考え抜く」(ケース5、6)

・「名詞」ベースではなく「動詞ベース」で発想する(ケース7)

・「見えない文脈」を見抜く(ケース8)

・偶然を必然化する(ケース9)

そして、まとめとして

・リーダーにとって大切なのは「場のマネジメント」

・知を創発する場の条件は「チームの自己組織化」、「身体性の共有」による「相互主観性」

・リーダーとチームを支えるのは「共通善」

・経営は「サイエンス」ではなく「アート」

と述べています。

 

とまとめてみたものの、はっきり言ってこれらの概念は私には非常にわかりにくいものでした。もちろん、事例の解説を読めばなんとなくわかったような気にはなるのですが、例えばその概念を自分で使おうと思った時、あるいは、野中教授の知識創造理論を知らない人に伝えてその人を動かすことに使えるかというと、非常に心もとない感じがしてしまいます。

 

恐らくその原因のひとつは、「概念」の種類が多すぎることのような気がします。特に技術系の人は、新しい理論や概念に触れると、それが本当に正しいのか、どんな場合にでも正しいのか、なぜ正しいのか、何を根拠に正しいと言えるのか、などのことを考える習慣がついている人が多いので、一度に多くの概念に触れると混乱をもたらすことになるように思います。さらに、多くの概念があると、実際の場面においてどの考え方を使えばよいのかがはっきりせず、「使いにくい」という印象になってしまい、使いにくい概念をわざわざ受け入れる必要はない、と思ってしまうこともあると思います。

 

しかし、事例に基づいてよく考えてみれば、これらの概念には重要な示唆が多く含まれていると言えると思います。そこで、野中教授の概念を使う立場から私なりにわかりやすく言い換えてみようと思います。

・「実践的三段論法」とは、「目指すべき目的がある」「目的を実現するにはこんな手段がある」「ならば、実現に向けて行動を起こすべきである」と結論を導き出し、行動を起こすこと[文献1p.32]。さらにこのプロセスには「仮説→検証→修正」の反復が含まれており、経験から仮説を立てる段階ではアブダクションが活用されます[文献1p.73-74]。このように考えれば理解しやすいと思います。

・「モノ的発想」から「コト的発想」への転換については、まず「モノ」と「コト」の理解が必要でしょう。モノはsubstance、コトはevent[文献1p.82]、「モノはそこに人間がかかわろうとかかわるまいと存在するのに対し、コトはそこにかかわる人間との関係性のなかで成立し、人間の経験として生成される」 [文献1p.99]、だそうです。「モノ的発想」から「コト的発想」へということは、物を提供してそれをどう使うかは物の受け取り手に任せるということではなく、その物が受け取り手にどのような経験を与えるか、ということまで考える、ということではないかと思います。単なる物ではなく、その作用や、人がどんな作用を求めているかの着目しようとする人間中心のイノベーションなどと近い考え方だと思います。

・「考えて動く」ではなく「動きながら考え抜く」というのは比較的理解しやすいですが、最初に考えを立ててそれを実行し、改善点があればフィードバックする、という方法ではなく、動いて得られた経験を直ちに発想につなげる、という意味で従来よりもダイナミックなアプローチ重視している、ということと考えられます。

・「名詞」ベースではなく「動詞」ベース、というのは固定的な考え方(名詞ベース)ではなく、何かになる(become)とか変化するとかの流動的な考え方を重視すべき、ということであると思われます。「モノ」から「コト」へという考え方と本質的な違いはないように思います。

・「見えない文脈」を見抜く、については「一見、関係ないモノがジグソーパズルのように結び付くと、これまでなかった新しいコトが生まれ、変革がもたらされる」[文献1p.222]とのことですので、違うものを結びつける力だと言ってよいでしょう。そのきっかけにセレンディピティーが存在する場合もあり、イノベーションの原動力になりうることは経験的にも明らかだと思いますが、そのきっかけには「強い好奇心」と「強い目的意識」があるとされています[文献1p.239]

・偶然を必然化、については偶然により生まれたチャンスを大切にする、という意味ではないかと思います。偶然というのは誰にでも訪れるものではありませんので、偶然の力を活用すると他者との差別化が容易に行なえます。これは「真のセレンディピティー」(ノート6で取り上げました)に近い考え方のように思われます。

・場のマネジマントとは、組織や環境や人や知識を別個にマネジメントするのではなく、新たなイノベーションが起こるようそれらを総合的にマネジメントすること、という風に受け取りました。野中教授は「場は、人々が目的を共有し、価値観や感情を共鳴させ、互いに知を共振させ、信頼、愛、安心感などの社会関係資本を共有し合う時空間」[文献1p.51]としていますが、こうした場を作るためには総合的なマネジメントが必要なのだと思います。

・自己組織化とは、リーダーが引っ張るとか、管理者がこまかい調整を行なう、という方法ではなく、組織が自主的に全体として最適な行動をとれるように動き、個を超えた大きな主観(相互主観性)を確立するということのようです。そのためには「身体性の共有」つまり、「相手と身体的に時空間を共有し、触れ合うことによって、相手の視点に立ち、相手の経験を自分のなかで持つことができるようになる」[文献1p.287]ことが必要ということのようです。

・「共通善」とは「『世のため人のため』『よきことをする』という根源的な思い」[文献1p.5]ということです。このような思いが人を動かす大きな力を持つことについては疑う余地はないでしょう。

 

野中教授の考え方をこのように言い換えてしまうこと自体、私の理解不十分の可能性に加えて、野中教授の暗黙知を不十分な形の形式知として表出化してしまうという危険がありますので、適切なことではないかもしれません。また、野中教授が様々な概念を提示されていることも、暗黙知を単純な形で形式知化させないためなのかもしれないとも思います。しかし、このようなわかりやすい言い換えを行なわなければ野中教授の概念はそれを使う立場から眺めている私にとってはただのモノにしかすぎず、こうした考察によって初めてコトになりうるのではないか、とも思います。そんなわけで、あえてトライしてみました。野中教授の理論は受け取る側の知識が多いほど、深い内容を受け取れるようにも思いますので、さらにどのような解釈ができるかは私自身の今後の課題とも言えるかもしれません。

 

なお、本書には上述の概念の他にも多くの有用な示唆や興味深い概念が語られています(ここでは限られた点しか取り上げられず申し訳ありません。詳しくはぜひ本書をご参照下さい。)。しかし、それらの概念を単なる羅列ではなく、重要性を正しく判断して系統的に整理することは少なくとも私には困難だったので上記の点に絞らせていただきました。本書で述べられているように経営がサイエンスではなくアートである、という考え方に立てば、そうした概念の整理は必要ではないのかもしれませんが、アートであったとしてもその質を高めていくことは有益なことでしょう。本書では経営をサイエンスと位置付けるアメリカ流の考え方はあまり評価されていないようですが、私はアメリカ流の考え方であっても役に立つものもあると思っています(アメリカ流とひとまとめにしてしまう必要もないようにも思いますが)。本書で示された概念も含めてあらゆる考え方を総合していくことが経営の質の向上に役立つのではないかと思いますがいかがでしょうか。

 

 

文献1:野中郁次郎、勝見明著、「イノベーションの知恵」、日経BP社、2010.

http://www.amazon.co.jp/%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E7%9F%A5%E6%81%B5-%E9%87%8E%E4%B8%AD-%E9%83%81%E6%AC%A1%E9%83%8E/dp/4822248291/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1300717571&sr=1-1


参考リンク<2011.8.14追加>
 

震災雑感

今週は、とてもいつものような記事は書けませんでした。被災された皆様に対しお見舞い申し上げるとともに速やかな復旧をお祈り申し上げます。

 

「技術」の無力を感じます。所詮大きな自然の力のごく一部を利用させてもらっている、ということを改めて認識しなければならないのでしょう。経験に頼ることの危うさ、知識の重要性、情報を身近なものとして受け止める力、リスクの考え方、経済合理性、人の行動など、まとまりませんが今回の経験から学ばなければいけないことは多いと思います。何もできず考えさせられることの多い週末でした。

競争心と研究開発

日本人は競争が嫌い・・・ということが最近話題になっているようですので(「競争と公平感」大竹文雄著[文献1])、その本の内容も参考にさせていただいて、研究開発における「競争」について考えてみたいと思います。なお、この本の帯には「日本人はなぜ競争が嫌いなのか?」と書かれていますが、実際に書かれていることは、日本人は自由な競争に基づく市場経済のメリットをあまり信頼していない、ということのようですので、少し注意が必要かもしれません。

 

さて、著者の大竹氏は著書のなかで、競争心に影響する因子について考察を加え、経済成長の原動力について次のように述べています。「合理的な予想をして、損をしないと確信できるプロジェクトだけに挑戦する人ばかりでは、新しいビジネスは生まれないし、経済成長も引き起こされない。誰も予想しなかった商品やサービスの開発が、人々の消費意欲を刺激するのである。人々の好みは、現存する商品やサービスに対してしかわからない。未知の商品やサービスに対する消費者の好みを予測し、それに応じた商品やサービスを開発する」ことはケインズの指摘する「アニマル・スピリットと呼ぶしかない」、「成功する確率さえもわからないプロジェクトに挑戦するというのは、自信過剰でないと無理だろう」、「自信過剰であることは、競争に参加する確率を高め、大成功の可能性をもたらす(もちろん、失敗する可能性もある)」 [文献1p.33-34]。ここでの「アニマル・スピリット」とは根拠のない自信が企業家に投資を行なわせるものであって、そういう人の存在が経済成長を引き起こす原動力になるとしています。

 

まさに上記の行為は研究開発やイノベーションと言えるでしょう。ということは、研究に参加する意欲と、競争に参加する意欲は似たような考え方や気持に基づくものといえるのかもしれません。実際、競争心が研究への意欲の維持にとって重要であるという研究者がいますが、そうした競争心とは、研究を進める過程で他の研究者との競争を好むというだけではなく、研究に乗り出す段階から競争に参加したい、という意欲にも基づいていると考えることもできると思います。その原動力を自信過剰と言ってしまうと研究者は怒るかもしれませんが、意欲の源泉としての「自分が有能であるという認識(有能感、自己効力感)」(ノート7で研究者の活性化について取り上げた中で触れました)の現れと考えれば納得しやすいと思います。

 

さて、そのような競争心の強さは人によって異なるようです。最初に述べたような国民性による違いもあるのかもしれませんが、文化、環境、遺伝、性別などの因子が競争に対する好き嫌いに影響していることはどうも確かなようです[文献1]。そうだとすると、競争心はマネジメントの対象にすべきなのではないでしょうか。競争心の強さによって研究への適性が変わるかもしれませんし、競争心が重要な仕事と競争心を必要としない(あるいは競争心が少ない方が好ましい)仕事もあるかもしれません。また、環境によって競争心が変化するならばそのコントロールも必要になるでしょう。そこで、今回は競争心の研究開発への影響について考えてみたいと思います。

 

研究活動にとって競争が必要なものだとしても、競争心が強ければ研究がうまく進められるかというとそうとは限らないように思います。まず、競争心が強いことの得失を考えてみましょう。

・競争心が強いことの利点:研究に対するモチベーションが高い、生産性、スピードが期待できる。競争によって優れたものが生みだされる。

・競争心が強いことの欠点:協調、協働が難しい。競争相手との足の引っ張り合いを生む危険がある。

こうした得失は、研究の対象や、環境、研究体制によって当然評価が変わるでしょう。例えば、比較的個人プレーの要素が強い研究では競争心が強いことは有利に働くと考えられます。しかし、企業での研究のように、協働が求められることが多い場面では、競争のプラス面を生かし、マイナス面を軽減するような環境の管理や、競争心の制御が必要になるということは言えるのではないでしょうか。競争か、協調か、というような二元論ではなく、その両方を実現することこそが理想的なのだと思います。

 

では、競争のよい面を発揮させるためにはどのような条件が必要になるでしょうか。第一には、競争相手の明確化が必要でしょう。自分が競争に勝ち、相手が負けた場合に組織にとって好ましい結果が得られるならば競争的な環境を奨励することは有意義なはずです。しかし、同じ目標に向かって協力すべきチーム内での競争ではそうはならない可能性が大きいでしょう。足の引っ張り合いのような最悪の状況にはならないまでもチーム内で非協力的な態度、情報交流や技術伝承の停滞が起こることのないようにコントロールすべきです。特に、性格的に競争心の強い人は、本来協力しなければならない人に対しても競争的になってしまうことがありますので、その長所のみを引き出すように注意が必要だと思われます。なお、こうした点に加えて、競争相手の選定には社会の動きも考慮する必要があるのではないでしょうか。これからの時代、グローバル化の進展によって国内で競争している場合ではなくなる可能性も十分にあるように思いますので。

 

第二には、ルールと競争条件の明確化が挙げられるでしょう。例えば、GEの前会長ウェルチ氏の後継者選びにおいてルールを定めて候補者を競わせたことについては報告があります[文献2]。このように、同じ目的を共有するチーム内で競争的な雰囲気を作りたい場合には、なるべく公平な条件を設定した上で条件の違いがあれば正当に考慮し、評価の基準も意味のあるものとするなど、競争に参加させられている人が十分に納得した上での競争にすべきであると思われます。そうしないと、競争に敗れた人の意欲が低下してしまう危険性があるでしょう。競争を望ましいものと考える議論では、よくスポーツが引き合いに出されますが、ルールのもとでの競争であるスポーツと、ルールが明確とは限らないビジネスの世界を同列視することには危険があるはずです。特にイノベーションでは、開発成果によって社会のルールが変わることも考慮しておかなければなりませんから、スポーツのような競争条件を作り出すことができるとは限りません。

 

第三には、競争の種類と評価の方法を選ぶことが挙げられると思います。特にチーム内での競争の場合には、自分が勝てば相手が負けるというような競争ではなく、自分が勝つことが競争相手のマイナスにならないような競争にすべきではないでしょうか(もちろん、選抜を目的とした競争ではこのような形では意味がないとは思いますが)。スポーツに例えていえば、直接対戦するようなテニスではなく、タイムや評価点を競うような競争(陸上競技、水泳、ゴルフなど)が望ましいのではないかと思います。さらに、競争相手の情報が容易に入手できない方がよりよいかもしれません(全く入手できないと競争になりませんが)。つまり、対立的でない競争が好ましいのではないか、ということです。マズローの欲求段階理論で言えば、生理的欲求、安全欲求、承認の欲求については、対立的な競争になりやすいと思います。しかし、所属と愛の欲求と自己実現欲求については必ずしも対立的とはならないでしょう。競争によって得られる成果(報酬や評価など)ではなく、競争そのものの楽しさを刺激するアプローチもそのような方法のひとつではないかと思います。

 

第四には、自発的に競争に参加するような仕組みが望ましいと思われます。あからさまに競争に参加させてスタートを切らせるのではなく、なんとなく競争的な雰囲気を作り、自然とそれに参加させるようにもっていく、というマネジメントです。例えば、会議や報告会の場で、よい成果を出した人を全員の前で称賛するというのは、聴衆の競争心をくすぐる効果があるはずです。こうした称賛は、競争する際の目標にもなるでしょう。もちろん、なぜその成果を評価するかを明確にし、評価が公正であることを極力全員に納得させる努力は必要です。人間は強弱はあっても本来的に競争心は持っていると思われますので、その内なる競争心を刺激することができれば成長にとって有意義な競争になるのではないでしょうか。

 

実際には課題や環境に応じて以上のポイントを組み合わせることが必要になると思います。ジョニらは協調を重視しすぎることの危険性を指摘し、「協調しながら競争することが、各人とグループがベストを尽くすことにつながる」としてどのような場合に部内で戦うべきかを示しています[文献2]。確かに、競争心の刺激にはリスクを伴います。協調はもちろん重要ですし、競争の害の方がリスクは高いとも言えるでしょう。しかし、弊害を最低限にし、成果を最大化するような競争のしくみができれば研究者の活性化につながるのではないでしょうか。研究者の自律性を考えると、競争的環境が望ましくない、という考え方も一理あるとは思いますし、私もそう思っていた時期もあります。でも、それは単に理想的な競争的環境を考えだせないことが原因かもしれません。たとえば、自己実現的な競争心の発揮のしかたが可能であるならば、そんな仕組みによって研究の成果を伸ばすことができないものでしょうか。ひょっとすると日本人は必要以上に競争を怖がっているのかもしれないと思います。

 

 

文献1:大竹文雄「競争と公平感-市場経済の本当のメリット」、中央公論新社、2010.

文献2Joni, S.A., Beyer, D.、サジュ=ニコル・A・ジョニ、デイモン・ベイヤー、「あえて戦うべき時、協調や譲歩は本当のチームワークではない(How to Pick a Good Fight)」、Diamond Harvard Business ReviewMar. 2010, p.40.

 

 

 

(参考)

・大竹文雄氏Webページ:http://www.iser.osaka-u.ac.jp/~ohtake/index.htm

ブログ:http://ohtake.cocolog-nifty.com/ohtake/

Twitterhttp://twitter.com/fohtake

 

 

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