研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2012年03月

「流れを経営する」を読む

野中郁次郎、遠山亮子、平田透著、「流れを経営する」[文献1]を読みました。野中氏の知識創造理論に関連した話題については今までにも何度か取り上げていますが(創造性を引き出すしくみ、「イノベーションの知恵」感想フロネシスと研究開発)、多くの示唆に富むものの、難解で使いにくいというのが実感でした。しかし、その知識創造理論の集大成とも呼べる本書では、理論を構成する様々な概念が整理され、関連づけられてまとめられていて、今まで感じていたわかりにくさがかなり解消された気がします。知識創造理論について考えるなら、そしてその理論を使ってみたいなら、まず参照すべき一冊と言えるでしょう。

さて、本書は当初、2008年に英語で出版された同じ著者による「Managing Flow - A Process Theory of the Knowledge-Based Firm」の日本語版として着想されたもの、とのことですが、単なる翻訳ではなくかなり異なった内容になっている[文献1、p.ix]とのことです。本書の英語題名は「Managing Flow - The Dynamic Theory of the Knowledge-Based Firm」と、原著とは少し変わっており、本書の方が発展した内容となっていると考えてよいと思います。なお、本書では「持続的イノベーション企業の動態理論」という副題がついていますが、Christensenが「イノベーションのジレンマ」[文献2]で提示した「持続的イノベーション」の概念とは関係がないと思われます(持続的成長を可能にするイノベーション企業、といった意味かと思われます)。

本書の構成は次のとおりです。第1章が知識の定義と特性、第2章が暗黙知と形式知の相互変換により知識が創造されるプロセス、第3章が組織において知識が創造されるプロセスについてのモデル、第4章が知識創造を促進するために必要なリーダーシップ、第5~9章が日本企業の具体的な事例に基づく知識創造理論についての解説、終章が総括と提言[文献1、p.viii]、となっています。本稿では事例以外の部分(1~4章、終章)を中心に重要な知識創造理論の考え方をまとめてみたいと思います。

第1章:知識について

知識の定義は「個人の信念が真実へと正当化されるダイナミックな社会的プロセス」[文献1、p.7]とされます。これは「知識の重要な特性はその絶対的『真実性』よりむしろ対話と実践を通して『信念を正当化する』点にあるとの考えに基づく」とされています。そして、知識に関する重要なポイントとして、次の点を挙げています。

・主観性:排除不可能であるから主観を排除しないのではなく、むしろ価値観や信念などの主観的要因を積極的に組み入れる。客観を無視することではない。[文献1、p.8-12

・関係性:「世界は相互に関係するプロセスや出来事の連なりからなる有機的な網であり、すべては関係性の中にあると見る」プロセス哲学の視点に基づく。「世界は『モノ(thing/substance)』ではなく、生成消滅する『コト』すなわち『出来事(event)』によって構成される」のであって、知識を物体のように固定されたものとして扱うべきではない。「変化する態様を『動詞』、一定の形に固定された場合を『名詞』と表現するならば、動詞的知識を製品として名詞化し、さらにユーザーにより名詞が動詞化されるという『名詞(モノ)-動詞(コト)』の相互変換プロセスとなる。「人は常に未来の自分へと『成る(becoming)』状態にあり、現在の自分としての『ある(being)』状態は『成る』の一側面にすぎない」。「知識創造のプロセスとは、知識ビジョンなどの『どう成りたいか』という目的に動かされた成員が、互いに作用しながら自身の限界を超えて知識を創造することにより将来のビジョンを実現させるプロセス」。[文献1、p.12-16

・審美性、美学:「知識は人の信念から創造されるが、信念が知識となるには真実として正当化されなければならない」。「真は美によって価値あるものと見なされる」。「審美的な感性は、創造された知識についての判断をするために必要なだけでなく、どのような知識を創造すべきかを判断するためにも必要である。われわれは、自分の価値観や信念に基づいて知識を創造する。」[文献1、p.17-18

・実践:「知識ベースの経営論は、企業が置かれた個別具体の状況の中での実践から出発し、そうした実践の中から知識を創造するプロセスと、知識を創造する能力が形成されるプロセスを説明するための理論とフレームワークを確立しようとするものである。」[文献1、p.20

以上をまとめるならば、知識は「個人の主観的な思い・信念や価値観が、社会や環境との相互作用を通じて正当化され客観的な『真実』になるプロセス」[文献1、p.20]ということになるでしょう。

第2章:知識創造の理論

・「暗黙知とは、特定の状況に関する個人的・経験的な知識であり、具体的な形に表現して他人に伝えることが難しい」「と同時に、新たな経験を積み重ねることによって常に変化していく知」。「形式知とは明示的な知であり、言葉や文章や絵や数値などにより表現が可能で、他人にもわかりやすいような形式的・論理的言語によって伝達可能な知識」。「ダイナミックに動いている『動詞的』な暗黙知があり、それを具体的な形として『名詞化』(固定化)したのが形式知。[文献1、p.24

SECI(セキ)モデル:SECIモデルについては別稿でも簡単に紹介しましたが、著者の言葉でまとめておきます。[文献1、p.28-42

「暗黙知と形式知の継続的な相互変換は、『共同化』『表出化』『連結化』『内面化』という四つの変換モードからなる知識創造モデルによって表わされる。

共同化(Socialization):身体・五感を駆使、直接経験を通じた暗黙知の獲得、共有、創出(共有)。自然環境との相互作用や他人と共通の時間・空間を過ごす体験を通じ、個人の暗黙知が複数人の間で共有され、さらに異質な暗黙知が相互作用する中から新たな暗黙知が創発されていく。

表出化(Externalization):対話・思索・喩えによる概念・図像の創造(概念化)。表出化は個人知である暗黙知を形式知にすることにより、集団の知として発展させていく。

連結化(Combination):形式知の組み合わせによる情報活用と知識の体系化(分析・モデル化)。表出化によって集団の知になった言語や概念が具現化されるためには、概念と概念を関係づけてモデル化したり、概念を操作化・細分化するなどして、組織レベルの形式知に体系化する。

内面化(Internalization):形式知を行動を通じて具現化、新たな暗黙知として理解、体得(実践)。共有化された知識は、再度個人に取り込まれ、暗黙知化されて、もともと持っていた知識と結びついて新たな知となり、その個人の中に蓄積されていく。

スパイラル:知識創造の過程は、SECIプロセスの中で増幅され、拡大発展していくスパイラル。

第3章:プロセスモデルの構成要素

知識創造を行なっている企業の動態モデルは、SECIに方向性を与え、SECIを回す力の源泉となる「知識ビジョン」と「駆動目標」、「対話」と「実践」で表わされたSECIプロセス、現実にSECIプロセスが行なわれる実存空間としての「場」、SECIプロセスのインプットでありアウトプットである「知識資産」、そして場の重層的な集積であり、場の境界を規定する制度を含む知の生態系としての「環境」の7つの構成概念で表わされる。

・知識ビジョン:企業は何を「真・善・美」とするかについての一貫した価値基準を持たねばならない。知識ビジョンはこうした価値基準をもたらす。知識ビジョンは、組織の構成員の知的情熱を触発する。人はそれが自分を利するからというよりも、自分の仕事に社会的な意味を見出すときに強く動機づけられる。企業間の「競争に勝つ」という相対価値は、勝った時点で消える可能性があるが、「われわれは何のために存在するのか」という存在論から始まる知識ビジョンは、決して完全には達成されないかもしれない理想へと組織を向かわせる。何のために真・善・美を追究するのかという理想主義と同時に、それを実際に達成するための実践的なプラグマティズムが必要。[文献1、p.44-50

・駆動目標:組織がどのような価値を提供するか、あるいはどのように提供するかについての具体的かつ挑戦的な概念、数値目標、行動規範などが、知識創造プロセスに駆動力を与える駆動目標となる。駆動目標は矛盾をつくり出すことにより、矛盾に直面した組織成員が持てる知を総動員し、深く考え抜いて本質を追求し、矛盾を綜合して一段レベルの高い知識を創造する(困難や矛盾のあるところにこそ新たな発想の機会がある)。[文献1、p.50-52

・対話:対立を乗り越え、それまで存在しない新たな解にたどり着くには、本質追求の実存的質問により、自分とは異なる視点の存在を理解・受容し、それらの視点を自己の視点と綜合するための対話が不可欠。[文献1、p.53-57

・実践:「実践」とは、個人的で一次的な単純な行為である「動作」とは分けて考えられるべきもの。世界との関係性を踏まえたうえで、自己がいかに「ある」あるいは「成る」べきかを考えたうえでの行為が実践。行動する中でその行動と結果の本質的な意味を深く考え、そこからの反省を踏まえて行動を修正していくことが必要。[文献1、p.57-59

・場:対話と実践という人間の相互作用により、知識を継続的に創造していくためには、そうした相互作用が起こるための心理的・物理的・仮想的空間が必要であり、そうした空間を「場」と呼ぶ。そこでは、参加者の間で自他の感性、感覚、感情が共有される相互主観が生成し、個人は自己の思惑や利害などの自己中心的な考えから開放され、全人的に互いに向き合い受け容れあう。場は動的文脈であり、常に動いている。「よい場」の条件は以下の通り。

1)独自の意図、目的、方向性、使命などを持った自己組織化(=自律性が必要)された場所でなければならない。

2)参加するメンバーの間に目的や文脈、感情や価値観を共有しているという感覚が生成されている必要がある。

3)異質な知を持つ参加者が必要。

4)浸透性のある境界が必要。文脈共有には一定の境界設定が必要だが、必要に応じて境界を開いて新しい文脈を取り入れ、あるいは必要に応じて境界を閉じて中の文脈を守る、というのが「浸透性のある境界」の考え方。

5)参加者のコミットメントが必要。場において生成する「コト」に「自分のこととして」かかわることによって知識は形成される。こうしたコミットメントを得るためには、信頼、愛、安心感、共有された見方や積極的な共感などが必要。知識創造には内因的モチベーションが必要(外因的要因には暗黙知の表出化を推奨する効果は期待できない)。内因的モチベーションが有効に機能するには、仕事において創造性を要求されること、内容が広範囲で複雑で幅広い知識が必要とされること、暗黙知の移転と創造が不可欠であることのいずれかが含まれなければならない。

場は動詞的であるが、場と場同士の関係性が固定化することによって作られた組織構造は名詞的である。[文献1、p.59-79

・知識資産:特許やライセンス、データベース、文書、スキル、社会関係資本、ブランド、デザイン、組織構造や業務、文化などが含まれる。ルーティン知識資産(実践の中に埋め込まれて組織に共有・伝承されている暗黙知であって、業務ノウハウ、組織ルーティン、組織文化などが含まれる)の中でも「型」(状況の文脈を読み、統合し、判断し、行為につなげるために、個人や組織が持っている思考・行動様式のエッセンス)が重要で、「守・破・離」の三段階を経て学びとられる。「守」は指導者の言葉を守り指導者の技能や価値観を自分のものとする段階、「破」は自分なりの工夫を試す段階、「離」は試した方法を自分なりに発展させる段階である。[文献1、p.79-88

・環境(知の生態系):知は組織の内部だけでなく、組織をとりまくさまざまな存在の中に埋め込まれている。知の生態系とは、さまざまな場所に多様な形で存在する知識が、相互に有機的な関係を構成している状態をいい、組織が環境との相互作用の中で創造した知はまた環境を規定し、変えていく。[文献1、p.88-94

第4章:知識ベース企業のリーダーシップ[文献1、p.95-123

知識ベース企業において、リーダーは知識ビジョンを設定し、場を創設・結合・活性化し、SECIプロセスを促進し方向づけ、知識資産の開発と再定義を行う。リーダーシップの役割はまず、使命やビジョンを設定し、それを理解し一貫性を持たせることである。組織で創造される知識の質は、究極的には「何を真・善・美としたいか」というリーダーと、個々の組織成員の志の高さに依存する。リーダーに必要な能力として提案されているのがフロネシス。フロネシスとは、賢慮ないしは実践的知恵と訳される知的美徳というべきものと考えられ、企業におけるフロネシスとは、個別具体の状況でその企業の主観(価値観)に基づき、市場(顧客)が「良い」とする社会的価値を理解し、実現する能力であって、SECIプロセスの実践の練磨のなかで獲得されていく高度の実践知であると考えられる。具体的には以下の6つの能力からなる。

・善悪の判断基準を持つ能力:理想を抱くと同時に現実を見据える能力

・場をタイムリーに創発させる能力

・個別の本質を洞察する能力

・本質を表現する能力

・本質を共通善に向かって実現する政治力

・賢慮を育成する能力

(上記の点については後に発表された論文と大きな違いはありませんので、詳細はそれを取り上げた拙稿をご参照ください。)

終章:マネジメントの卓越性を求めて

著者が語る本書の目的は、「企業がどのように知識を組織的に創造し新しい価値を作り続けていくか、すなわち、企業のイノベーション生成のプロセスを明らかにすること」[文献1、p.385]であり、「知識ベース企業のプロセスモデルは、ビジョンの実現に向かって言語(対話)と行為(実践)の練磨を通じて、イノベーションを起こし続ける運動モデル」であって、「その動態理論を一語で表わすならば、『実践知経営(Phronetic Management)』である、とのことです[文献1、p.387]。しかし、「企業の状況が異なれば、おのずと方法論も異なる」ため、「現在の段階では『これを行えば確実に知識創造が可能である』という定型的で一般的な確立された方法はない」とされます。ただし、分析において明らかになった実践方法として以下の提示がなされており、実践を行なう者にとっての指針になると思われます。

・アクチュアリティを見て直観する

・実践的推論(「~すべし」「~が望ましい」)を磨く

・より大きな関係性で世界を捉える(それまでの視点を超える関係性で世界を把握する)

・生き生きとした場を構築する(間身体的な体験すなわち「共にいること」も重要)

・異文化超越によるグローバルな場の構築(無意識の前提を揺るがすことはイノベーションの好機)

・「型」により賢慮を育成する(保守的な暗黙知を自己革新するためには「破・離」が重要)

・知識を価値に変換するために、知識創造型ビジネスモデルが必要

以上が私なりのまとめです。野中氏の知識創造理論では、哲学的な背景に基づく様々な概念、用語が用いられており、それが複雑でわかりにくく感じられる原因のひとつではないかと思いますが、本書のような形でこうした概念が体系化され、あらためて定義、説明しなおされることによって、その意味が理解しやすくなり、概念の持つ意味の広がりも受け入れやすくなるように思います。知識創造理論は、いわゆるナレッジ・マネジメントとして捉えられることが多いと思いますが、本書でも「問題はまず、知識というものの特性や本質が、いまだ十分に理解されていないところにある。たとえば『ナレッジ・マネジメント』という言葉は、ビジネスの実践の世界においては主にITに対する重点的投資によって企業運営を効率化することと受け取られた。知識を情報と同列視し、ナレッジ・マネジメントとは、単に情報を効率的に蓄積・伝達・使用することであるとの誤解に基づいてIT投資を進めたものの、結局期待した成果をあげることができなかった企業も多かった。知識の本質的な性質を理解しないままでは、その共有や活用を進めても効果をあげることはできない。」[文献1、p.4]とされるように、知識創造理論はハウツー的な枠組みではなく、知識に基づくイノベーションの本質を追求するものであると理解すべきであると思われます。もちろんこの理論による個別の指摘の中には実証による裏付けに乏しい考え方もあると思われますが、理論の全体観を理解することによって、個別の指摘が納得しやすくなり、使いやすくなっているのではないでしょうか。知識創造理論の考え方を参考にした実践に基づいて、自分自身の暗黙知を高度化し、形式知としての理論の高度化を図る、というのが実践する者の務めなのかもしれないと思います。

 


文献1:野中郁次郎、遠山亮子、平田透、「流れを経営する――持続的イノベーション企業の動態理論」、東洋経済新報社、2010.

文献2:Christensen, C.M, 1997、クレイトン・クリステンセン著、伊豆原弓訳、「イノベーションのジレンマ」、翔泳社、2000.

参考リンク<2012.7.8追加>

 


 


 

参考書・文献・読書録まとめ(2012.3.18版)その1

今までいろいろな参考書、文献から引用したり内容の紹介をさせていただいたりしてきましたが、どの記事でどの文献のどんな記述に興味を持って引用したかをまとめておきたいと思います(前回まとめは、2011.9.11)。ほぼ書いた記事に登場した順ですが、関連のある文献はまとめました。なお、記事でごく簡単にしか触れていないものは除いていますので、私が印象深く思った参考文献のリストにもなっていると思います。今回バージョンでは、特に重要だと思っている文献には一口コメントをつけ、記事へのリンクもつけました(データ容量の関係で同じ記事へのリンクは初出の1ヶ所のみとさせていただいています)。ご参考になれば幸いです。

リストの形式は以下のとおりです。

文献名(翻訳書は訳者を省略、原著の発表年または論文等の掲載書誌事項を付記)

 紹介・引用した記事題名(投稿日):そのトピックス(太字は比較的詳しい引用・まとめ)

 一口コメント(あれば)

丹羽清、「技術経営論」、2006

 はじめまして2010.3.21):技術経営は未確立

 ノート1「どんな研究が必要なのか」(2010.3.22):イノベーション定義

 ノート2「研究の不確実性をどう考えるか」(2010.3.27):セレンディピティー

 ノート3「研究と競争相手」(2010.4.3):技術の普遍性

 ノート5「研究部門に求められるテーマ」(2010.4.17):オープンイノベーション批判

 ノート6「研究部門が実施したいテーマ」(2010.4.24):カップリングモデル

 ノート8「研究者の適性と最適配置」(2010.5.8):研究者の個性

 ノート9「研究組織の構造」(2010.5.15):事業志向組織とマトリックス組織、トップダウンとボトムアップ

 ノート12「研究プロジェクトの運営管理」(2010.6.5):評価強調の危険性

 ノート14「研究成果の転用」(2010.6.19):特許戦略、ナレッジマネジメントの行き詰まり

 「オープン・イノベーションは使えるか?」(2011.1.10):オープンイノベーションの難しさ

 「理系と文系、とイノベーション」(2011.5.1):考え方の違い

 一口コメント:技術経営の全体感をつかむならこの本がおすすめです。

丹羽清、「イノベーション実践論」、2010

 ノート11「研究組織運営におけるリーダーの役割」(2010.5.29):異端技術者の活用

 ノート14「研究成果の転用」(2010.6.19):総合力発揮の方法

 「オープン・イノベーションは使えるか?」(2011.1.10):オープンイノベーションの難しさ

 一口コメント:上記「技術経営論」の補遺的。

後藤晃、「イノベーションと日本経済」、2000

 ノート1「どんな研究が必要なのか」(2010.3.22):イノベーション定義

Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K.、「イノベーションの経営学」、2001

 ノート1「どんな研究が必要なのか」(2010.3.22):イノベーション、イノベーションマネジメント

 ノート3「研究と競争相手」(2010.4.3):ポーターの競争の枠組み

 ノート5「研究部門に求められるテーマ」(2010.4.17):技術が企業に与える信用

 ノート6「研究部門が実施したいテーマ」(2010.4.24):テクノロジー・プッシュ、ニーズ・プルの調和

 ノート8「研究者の適性と最適配置」(2010.5.8):異質な人材

 ノート9「研究組織の構造」(2010.5.15):最適な組織特性は存在しない、ネットワーク組織

 ノート10「研究組織の望ましい特性と運営」(2010.5.22):イノベーションに重要な組織構造以外の要素

 ノート11「研究組織運営におけるリーダーの役割」(2010.5.29):ゲートキーパー

 ノート12「研究プロジェクトの運営管理」(2010.6.5):様々な評価法が必要

 一口コメント:技術経営の主要トピックスを網羅。現在は新版(第4版)あり。

Christensen, C.M.、「イノベーションのジレンマ」、1997

 ノート4「企業の収益源となる研究テーマの設定」(2010.4.10):イノベーションのジレンマ

 ノート9「研究組織の構造」(2010.5.15):破壊的技術は小規模な組織に任せる

 ノート12「研究プロジェクトの運営管理」(2010.6.5):最初の戦略は間違っている

 「リバース・イノベーション」(2010.10.17):破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる

 「科学技術と社会の関わり、これからのイノベーション」(2011.7.18):ニーズを超えた技術の発展

 「苦しいときの技術開発頼み」(2011.9.4):製品品質向上が企業の地位を脅かす

 一口コメント:技術経営を考えるなら必読。

Christensen, C.M, Raynor, M.E.、「イノベーションへの解」、2003

 ノート1「どんな研究が必要なのか」(2010.3.22):技術だけでは成功できない

 ノート2「研究の不確実性をどう考えるか」(2010.3.27):創発的プロセス主導が望ましい

 ノート4「企業の収益源となる研究テーマの設定」(2010.4.10):破壊的、持続的イノベーション、ローエンド破壊、新市場型破壊

 ノート11「研究組織運営におけるリーダーの役割」(2010.5.29):経験から学ぶリーダー

 「リバース・イノベーション」(2010.10.17):ローエンド破壊、価値基準、上級役員の役割

 「エスノグラフィーとイノベーション」(2010.12.19):片づけるべき用事

 一口コメント:「イノベーションのジレンマ」続編。これも重要な指摘が多いです。

Christensen, C.M, Anthony, S.D., Roth, E.A.、「明日は誰のものか」、2004

 ノート4「企業の収益源となる研究テーマの設定」(2010.4.10):破壊的、持続的イノベーション、ローエンド破壊、新市場型破壊

Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J.、「イノベーションへの解実践編」、2008

 ノート4「企業の収益源となる研究テーマの設定」(2010.4.10):破壊的、持続的イノベーション、資源の80%は持続的改良に配分すべき

 ノート5「研究部門に求められるテーマ」(2010.4.17):安定した中核事業がイノベーションの前提

 ノート9「研究組織の構造」(2010.5.15):研究組織を支える組織

 ノート12「研究プロジェクトの運営管理」(2010.6.5):最初の戦略は間違っている、創発的戦略

 ノート14「研究成果の転用」(2010.6.19):古いアイデアの活用

 「リバース・イノベーション」(2010.10.17):組織の自律性、チームと他組織インターフェースの管理

 「エスノグラフィーとイノベーション」(2010.12.19):片づけるべき用事

 「研究開発におけるスピードと俊敏さ」(2011.2.13):間違った方向に全速力で走る危険性

 一口コメント:クリステンセン著ではありませんが、破壊的イノベーションを実践するなら役に立ちます。

ブルース・ブラウン、スコット・D・アンソニー、「P&Gニュー・グロース・ファクトリー イノベーションの成功率を高めるシステム」、Diamond Harvard Business Review2011

 「P&Gのすごさ-ニュー・グロース・ファクトリー」(2011.11.20):破壊的イノベーションの実践

ジェフリー・H・ダイアー、ハル・B・グレガーセン、クレイトン・M・クリステンセン、「イノベーターのDNA」、Diamond Harvard Business ReviewApr. 2010p.36.

 「イノベーターのDNA」(2011.5.15):上記文献のまとめ、創造性あふれるリーダーの特徴

 「事業創造人材とは」(2011.10.16):事業創造人材との比較

Collins, J.C., Porras, J.I.、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー」、1994

 ノート10「研究組織の望ましい特性と運営」(2010.5.22):ビジョンの重要性

 ノート12「研究プロジェクトの運営管理」(2010.6.5):大量のものを試し、うまくいったものを残す

Collins, J.、「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」、2001

 ノート1「どんな研究が必要なのか」(2010.3.22):技術が飛躍や没落の原因ではない

 ノート8「研究者の適性と最適配置」(2010.5.8):人を選んでから目的を考える

 ノート10「研究組織の望ましい特性と運営」(2010.5.22):針鼠の概念

 一口コメント:ビジョナリーカンパニーシリーズではこの本が最も重要と思います。

Collins, J.、「ビジョナリーカンパニー③衰退の五段階」、2009

 「ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階」(2010.9.20):この本のまとめRozenzweigの批判評価

 「技術を維持する-イノベーションの負の側面への抵抗」(2010.11.14):イノベーションに注力しすぎて失敗した例

 「苦しいときの技術開発頼み」(2011.9.4):一発逆転の追求



その2へ、その3

参考書・文献・読書録まとめ(2012.3.18版)その2

Roberts R.M.、「セレンディピティー」、1989

 ノート2「研究の不確実性をどう考えるか」(2010.3.27):セレンディピティー

 ノート5「研究部門に求められるテーマ」(2010.4.17):幸運は待ち受ける心構え(パスツール)

 ノート6「研究部門が実施したいテーマ」(2010.4.24):真のセレンディピティー、擬セレンディピティー

 「研究者の年齢限界?」(2010.12.12):大きな科学的発見をした時の年齢

 一口コメント:技術系以外の方にもセレンディピティーの概念は知ってほしい。

Shapiro, G.、「創造的発見と偶然」、1986

 ノート2「研究の不確実性をどう考えるか」(2010.3.27):セレンディピティー

Rogers, E.M.、「イノベーションの普及」、2003

 ノート2「研究の不確実性をどう考えるか」(2010.3.27):技術とは不確実性を減じるための計画

 ノート10「研究組織の望ましい特性と運営」(2010.5.22):グラノベッターによる弱い絆

 ノート13「研究成果の活用」(2010.6.12):イノベーション普及学まとめ

 「創造性を引き出すしくみ」(2010.10.24):情報交流における同類性と異類性

 「『もうダマされないための『科学』講義』-科学でダマし、ダマされる状況について考える」(2012.1.22):チェンジエージェント

 一口コメント:イノベーションを実用化する上で普及学の知識は必須だと思います。この本が基本。
 

Kim, W.C., Mauborgne, R.、「ブルー・オーシャン戦略」、2005

 ノート4「企業の収益源となる研究テーマの設定」(2010.4.10):ブルー・オーシャン戦略

 ノート10「研究組織の望ましい特性と運営」(2010.5.22):公正なプロセス

Moore, G.A.、「ライフサイクルイノベーション」、2005

 ノート4「企業の収益源となる研究テーマの設定」(2010.4.10):状況に応じたイノベーション戦略

 ノート5「研究部門に求められるテーマ」(2010.4.17):アウトソーシングによる優位性

 ノート12「研究プロジェクトの運営管理」(2010.6.5):状況に応じたイノベーション管理

Chesbrough, H.、「Open Innovation」、2003

 ノート5「研究部門に求められるテーマ」(2010.4.17):オープンイノベーション

 「オープン・イノベーションは使えるか?」(2011.1.10):オープンイノベーション

Leonard-Barton, D.、「知識の源泉」、1995

 ノート6「研究部門が実施したいテーマ」(2010.4.24):レディネス・ギャップ

 ノート8「研究者の適性と最適配置」(2010.5.8):創造的摩擦、研究者の個性

 ノート12「研究プロジェクトの運営管理」(2010.6.5):消耗する心のエネルギー

 「コア・リジディティ」(2010.9.5):コア・リジディティの特徴、問題点、脱出

 「技術を維持する-イノベーションの負の側面への抵抗」(2010.11.14):的を撃ちすぎる失敗

 一口コメント:研究をする「人」の問題についての重要な指摘が多いです。

Leonard, D., Swap, W.、「『経験知』を伝える技術」、2005

 ノート5「研究部門に求められるテーマ」(2010.4.17):10年ルール

 ノート12「研究プロジェクトの運営管理」(2010.6.5):スピードは学習を妨げる

 ノート14「研究成果の転用」(2010.6.19):人脈、少数意見や反対意見の活用

 「技術を維持する-イノベーションの負の側面への抵抗」(2010.11.14):ディープスマート

 一口コメント:「知識の源泉」とあわせて重要。

Polanyi, M.、「暗黙知の次元」、1966

 ノート6「研究部門が実施したいテーマ」(2010.4.24):形式知と暗黙知

Nonaka, I., Takeuchi, H.、「知識創造企業」、1995

 ノート6「研究部門が実施したいテーマ」(2010.4.24):暗黙知、ミドルアップダウンマネジメント

 ノート7「研究者の活性化」(2010.5.1):知識創造のための条件づくり

 ノート8「研究者の適性と最適配置」(2010.5.8):研究における多様性

 ノート9「研究組織の構造」(2010.5.15):知識創造のための条件、ミドルアップダウン

 ノート10「研究組織の望ましい特性と運営」(2010.5.22):組織的知識創造促進要件、多様性、自律性

 ノート14「研究成果の転用」(2010.6.19):知識変換、組織的知識創造

 「創造性を引き出すしくみ」(2010.10.24):知識変換、SECIモデル、ナレッジ・クリエイティング・クルー

 一口コメント:知識創造理論の基本。ただし、その後の発展もフォローが必要と思います。

野中郁次郎、竹内弘高、「『実践知』を身につけよ 賢慮のリーダー」、Diamond Harvard Business Review2011

フロネシス(賢慮)と研究開発」(2012.1.29):フロネシス、実践知

野中郁次郎、勝見明、「イノベーションの知恵」、2010

 「『イノベーションの知恵』感想」(2011.3.21):この本のまとめ、イノベーションケーススタディ


勝見明、「石ころをダイヤに変える『キュレーション』の力」、2011

キュレーションと研究開発(勝見明著『キュレーションの力』感想)」(2012.3.11):キュレーション、編集、創発

三崎秀央、「研究開発従事者のマネジメント」、2004

 ノート7「研究者の活性化」(2010.5.1):モチベーション

 ノート8「研究者の適性と最適配置」(2010.5.8):研究における多様性

 ノート10「研究組織の望ましい特性と運営」(2010.5.22):野中による「場」のコンセプト、コミュニケーション

 ノート11「研究組織運営におけるリーダーの役割」(2010.5.29):ゲートキーパー

 「技術者が問題社員になるとき」(2011.7.24):技術者の二重のロイヤリティ

 一口コメント:基本的な説明も多く、研究者を考える上で参考になります。


開本浩矢、「研究開発の組織行動」、2006

 ノート7「研究者の活性化」(2010.5.1):モチベーション、エンパワーメント

 ノート11「研究組織運営におけるリーダーの役割」(2010.5.29):リーダーシップ 、ゲートキーパー

 「モチベーションは管理できる?」(2011.1.23):モチベーション、エンパワーメント

 一口コメント:基本的な説明も多く、研究者を考える上で参考になります。

福谷正信、「研究開発技術者の人事管理」、2007

 「研究者と金銭的報奨再考」(2010.10.3):民間企業技術者アンケート、昇進を望まない

 「研究者の年齢限界?」(2010.12.12):年齢限界に関する調査、アンケート結果

Kelly, T., Littman, J.、「イノベーションの達人!」、2005

 ノート8「研究者の適性と最適配置」(2010.5.8):役割を演じる

 イノベーションに必要な人材」(2010.11.7):この本のまとめ、創造性を高めるIDEO戦略

 「技術を維持する-イノベーションの負の側面への抵抗」(2010.11.14):T型人間

 「エスノグラフィーとイノベーション」(2010.12.19):「人類学者」の重要性

McCall, Jr. M.W.、「ハイ・フライヤー」、1998

 ノート11「研究組織運営におけるリーダーの役割」(2010.5.29):経験によるリーダーシップ育成、ロールモデル

 「リーダーがつまずく原因」(2010.7.19):脱線する経営幹部の特徴

Davila, T., Epstein, M.J., Shelton, R.、「イノベーションマネジメント」、2006

 ノート12「研究プロジェクトの運営管理」(2010.6.5):イノベーションは管理できる

 「研究の管理と評価再考」(2010.8.1):この本のまとめ、インクリメンタル・イノベーション、ラディカル・イノベーション、インセンティブ

 「研究者と金銭的報奨」(2010.9.12):適度なインセンティブはプラスだが過剰になると業績低下を招く

Dixon, N.M.、「ナレッジ・マナジメント5つの方法」、2000

 ノート14「研究成果の転用」(2010.6.19):知識蓄積がうまくいかない理由

Rosenzweig, P.、「なぜビジネス書は間違うのか」、2007

 ビジネス書の間違い?」(2010.8.11):この本のまとめ、ハロー効果

Levy, P.F.、「模範的チームはなぜ失敗したか」、Diamond Harvard Business Review, Feb.2010, p.154, (2010).

 「ナットアイランド症候群」(2010.9.26):上記文献のまとめ、自律的組織の暴走

根岸英一、「発見の条件」、有機合成化学協会誌、vol.54No.1p.1(1996).

 「祝ノーベル賞:『発見の条件』by根岸英一教授」(2010.10.11):上記文献まとめ、発見を導くマネジメント

Immelt, J.R., Govindarajan, V., Trimble, C.、「GEリバース・イノベーション戦略」、Diamond Harvard Business Review, Jan.2010, p.123, (2010).

 「リバース・イノベーション」(2010.10.17):上記文献まとめ

 一口コメント:現在進行形の新イノベーション手法として重要と思われます。

その1へ、その3

参考書・文献・読書録まとめ(2012.3.18版)その3

福岡伸一、「動的平衡」、2009.

 「動的平衡」(2010.10.31):この本の感想

福岡伸一、「生物と無生物のあいだ」、講談社、2007.

 「動的平衡」(2010.10.31):動的平衡の説明はこの本が詳しい

内田麻理香、「科学との正しい付き合い方 疑うことから始めよう」、2010

 「『科学との正しい付き合い方』感想2010.11.21):この本の感想

東京大学i.school編、「東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた」、2010

 「東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた」(2010.11.28):この本のまとめi.schoolの特徴

 エスノグラフィーとイノベーション」(2010.12.19):人間中心のイノベーション

内田賢、「研究者と年齢的限界」、組織行動研究 (Keio studies on organizational behavior and human performance). No.26 (1996. 3) ,p.67- 75.

 「研究者の年齢限界?」(2010.12.12):上記文献のまとめ要約

上木貴博、「エスノグラフィー 人類学に学ぶ現場主義」、日経ビジネス、2010.12.6号、p.78.

 「エスノグラフィーとイノベーション」(2010.12.19):上記記事の簡単なまとめ、活用事例

橋本紀子、「『エスノグラフィ』という手法」、RANDOM誌、vol.53p.1(2007).

 「エスノグラフィーとイノベーション」(2010.12.19):上記論文の簡単なまとめ、心脳マーケティング(ザルトマン)

小田亮、「ヒトは環境を壊す動物である」、2004

 「『ヒトは環境を壊す動物である』感想」(2010.12.26):この本の簡単なまとめ、身の丈を超える環境問題

菊池聡、「超常現象をなぜ信じるのか」、1998

 「イノベーションとあいまいな意思決定」(2011.1.):ヒューリスティクス、認知的保守性、認知的一貫性

文部科学省「科学技術要覧平成22年版」

 「論文から見た各国の科学力比較」(2011.1.16):論文数、被引用数シェア

Goodnight, J.、「クリエイティビティを引き出す」、Diamond Harvard Business ReviewSep., 2006, p.3.

 働きがいのある会社とは」(2011.1.30):上記記事の簡単なまとめ、SASの特徴

ハイケ・ブルッフ、ヨッヘン・I・メンジス、「社員を追い詰める『加速の罠』」、Diamond Harvard Business Review, Dec. 2010, p.76.

 「研究開発におけるスピードと俊敏さ」(2011.2.13):上記文献の要約

レスリー・A・パルロー、ジェシカ・L・ポーター、「プロフェッショナルこそ計画的に休まなければならない」、Diamond Harvard Business Review, Mar. 2010, p.102.

 「研究開発におけるスピードと俊敏さ」(2011.2.13):休みをとらせることで仕事の質が上がる

Berkun, S.、「イノベーションの神話」、2007

 「イノベーションの神話」のまとめと感想2011.2.20):この本のまとめ、イノベーションの現実

大竹文雄、「競争と公平感-市場経済の本当のメリット」、2010

 「競争心と研究開発」(2011.3.6):この本の簡単な紹介、競争心に影響する因子、経済成長への影響

サジュ=ニコル・A・ジョニ、デイモン・ベイヤー、「あえて戦うべき時、協調や譲歩は本当のチームワークではない」、Diamond Harvard Business ReviewMar. 2010, p.40.

 「競争心と研究開発」(2011.3.6):GE前会長ウェルチ氏の後継者選び事例

伊丹敬之、東京理科大学MOT研究会編著、「技術経営の常識のウソ」、2010

 「『技術経営の常識のウソ』感想」(2011.4.17):この本の要約とオープンイノベーション批判、プロジェクトマネジメント批判、ステージゲート法批判

竹内薫、「理系バカと文系バカ」、2009

 「理系と文系、とイノベーション」(2011.5.1):この本の簡単な紹介と感想、行動と思考の問題点

田嶋清一、「自分と向き合う心理学」、2007

 「研究開発とフラストレーション」(2011.5.8):意外感としてのフラストレーション

平川秀幸、「科学は誰のものか 社会の側から問い直す」、2010

 「科学技術と社会の関わり、これからのイノベーション」(2011.7.18):科学と社会の相互作用、ガバナンス

菊池誠、松永和紀、伊勢田哲治、平川秀幸著、飯田泰之+SYNODOS編、「もうダマされないための『科学』講義」、2011

「『もうダマされないための『科学』講義』-科学でダマし、ダマされる状況について考える」(2012.1.22):ニセ科学、サイエンスコミュニケーション


鬼塚俊宏、先読み!人気のビジネス洋書、「卓越した知識・技術を持つ米国版「オタリーマン」を企業で活かす『ギークを指導すること~テクノロジーをもたらす従業員を管理・指導する方法~』 Leading Geeks : How to Manage and Lead People Who Deliver Technology――ポール・グレン著」、DIAMOND online2011.6.10

 「技術者が問題社員になるとき」(2011.7.24):上記抄録にもとづくまとめ、ギーク

DIAMONDハーバードビジネスレビュー編集部編訳、「いかに『問題社員』を管理するか」、2005

 「技術者が問題社員になるとき」(2011.7.24):技術者(ギーク)と問題社員の類似

沼上幹、「やらせメール ご無体な命令が思考を止める」、朝日新聞、2011.7.15.

 「思考停止をもたらすもの」(2011.7.31):トップの指示の無反省な実行

新井紀子、「コンピュータが仕事を奪う」、2010

 「技術で仕事はどう変わる?」(2011.8.21):コンピューターにできることできないこと

平川克美、「移行期的混乱-経済成長神話の終わり」、2010

 「技術で仕事はどう変わる?」(2011.8.21):人口減少の影響

金井壽宏、「危機の時代の[やる気]学」、2009

 「モチベーション再考」(2011.8.28):代表的モチベーション理論

 一口コメント:モチベーション理論の説明が参考になります。

高橋昌一郎、「理性の限界」、2008

高橋昌一郎、「知性の限界」、2010

 「『理性の限界』『知性の限界』」(2011.9.19):この本の簡単なまとめ。科学哲学入門。

 一口コメント:科学哲学入門ならこの本がおすすめ。

森田邦久、「理系人に役立つ科学哲学」、2010

科学哲学の使い方」(2011.10.10):少し詳しい科学哲学入門

James Robert Brown、「なぜ科学を語ってすれ違うのか ソーカル事件を超えて」、2001

「『なぜ科学を語ってすれ違うのか』に学ぶ」(2011.11.6):サイエンス・ウォーズソーカル事件

Peterson, C.、「実践入門 ポジティブ・サイコロジー 『よい生き方』を科学的に考える方法」、2006

 「ポジティブ心理学の可能性」(2011.9.25):ポジティブ心理学入門

白石久喜、石原直子編、「事業創造人材の創造」、リクルートワークス研究所、2011.6.1.

事業創造人材とは」(2011.10.16):イノベーションを立ち上げる人の特徴、青黒い人

COACH A 、「今日から変わるコミュニケーション」

 「研究組織におけるコミュニケーションの難しさ」(2011.11.13):コーチング活用ポイント

朝日新聞大阪本社科学医療グループ著、「iPS細胞とはなにか 万能細胞研究の現在」、2011

iPS細胞研究に見る研究の進め方雑感」(2011.12.11):研究の進め方ケーススタディ

高橋克徳、河合太介、永田稔、渡部幹、「不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか」、2008

協力的環境と研究-『不機嫌な職場』に学ぶ」(2011.12.18):成果主義の問題点、協力を促す

Mark W. Johnson、「ホワイトスペース戦略 ビジネスモデルの<空白>をねらえ」、2010

「『ホワイトスペース戦略』-ビジネスモデルイノベーションの方法」(2012.1.9):ビジネスモデルイノベーションの方法

リタ・ギュンター・マグレイス、「マイクロソフト、3Mが実践する『知的失敗』の戦略」、Diamond Harvard Business Review2011

知的な失敗」(2012.2.26):失敗を生かす

坂村健、「不完全な時代――科学と感情の間で」、2011

「『不完全な時代――科学と感情の間で』感想2012.3.4):科学と感情、情報

その1へ、その2



 

キュレーションと研究開発(勝見明著「キュレーションの力」感想)

キュレーションとは、「美術館や博物館で企画や展示を担当する専門職のキュレーター(curator)に由来」[文献1、p.1]する新しい言葉で、ビジネスの新しい発想法として注目されている概念だそうです。今回は、勝見明著、「石ころをダイヤに変える『キュレーション』の力」に基づいて、研究開発におけるキュレーションの意義について考えてみたいと思います。

著者の勝見明氏はジャーナリストですが、知識創造理論で著名な野中郁次郎氏と共に様々なイノベーション事例を取材して本にまとめる仕事をされています(本ブログでも「イノベーションの知恵」についての感想を書かせていただきました)。従って本書でも、イノベーションの視点からの「キュレーション」が取り上げられており、興味深く読むことができました。

著者は、「すべての創造的活動はキュレーションに集約される」として、次のようなキュレーションのプロセスを提示しています[文献1、p.44]。

1、既存の意味の問い直し(再定義のプロセス)

2、要素の選択・絞り込み・結び付け(新しい編集のプロセス)

3、新しい意味、文脈、価値の生成(創発のプロセス)

ここで、「創発」(emergence)は「異質なもの同士が出あい、相互作用により、その総和より質的に上回る新たな付加価値が生み出されること」とされています。

確かに上記のプロセスは博物館におけるキュレーターの役割に近いと言えるでしょう。本書ではiPadやユニクロ、Wiiなど様々な事例により、最近話題のイノベーションでは上記のプロセスが有効に機能しているケースが多いことが示されます。特に、多くの情報をうまく整理し、組み合わせて新しいものを生み出すイノベーションにおいては上記の考え方は有効ではないでしょうか。多くの情報が溢れている現在、そこから重要な情報を選択するためには目利きである必要があります。また、情報が入手しやすくなった半面、情報の組み合わせも複雑になり、ここにも目利きの才や発想の転換が要求されるでしょう。加えて、技術の進歩による過剰品質の問題はChristensenが破壊的イノベーションの考え方で指摘したとおりです。従って、イノベーションの方向として、単に技術を深めていくだけではなく、機能を上手く選ぶ(削る)ことも重要になってきています。さらに、ユーザーによる使い方の発明や、思いがけない発見による創発についてもイノベーションの重要な成功要因として指摘されるところですので、それが「キュレーション」のプロセスとしてまとめられるというのは興味深い考え方であると思われます。著者は、「今、求められるのはキュレーター的な思考と行動であり、目利きと新しい編集により、新しい意味や文脈、価値を創発し、新しい物語を紡ぎ出し、商品やサービスの新しいカテゴリーを生み出すキュレーション(創造的編集力)です」[文献1、p.48]と述べていますが、そうかもしれないと思える点は多々あります。

ただ、それぞれのプロセスの内容自体はそれほど目新しいものではないという気もします。イノベーションが「新結合」によってもたらされることはSchumpeterにより指摘されていますし、再定義、編集、創発といった概念自体は、様々なイノベーションのケーススタディーで述べられていることと大きくは違わないでしょう。イノベーションの本質がキュレーション、というのではなくて、時代がキュレーションによるイノベーションを求めているということではないか、と感じました。

総論としては上記のような感想を持ったのですが、各論については興味深い視点が多く述べられていると思います。まずは知識創造理論との関連です。著者は、キュレーションという概念は、知識創造理論における「知のエコシステム」(知を取り込み、あるいは放出していく中で、知と知がジグソーパズルのように結び付き、新たな知が生まれていく循環)と結びつけられるとしています。さらに、知と知が結び付く「場」が必要なこと[文献1、p.41]、「モノはそのままでは単なるモノですが、キュレーションを媒介すると新しいコトに転化する[文献1、p.65](コトとは、「モノと個々のユーザーとの関係性の中で生まれる文脈、物語、体験」[文献1、p.200])」、SECIモデルとの対比[文献1、p.81]などの共通点が述べられます。ちなみに、SECIモデルとの対比では、1の再定義のプロセスが共同化(個人の暗黙知→組織の暗黙知)と表出化(暗黙知→形式知)に相当し、2と3の編集と創発のプロセスが連結化(形式知の組み合わせによる新たな形式知化)、そして、製品の受け手が製品をとおして暗黙知を形成するプロセスが内面化(形式知をつくりだす経験→個人が暗黙知を吸収する)に対応するとしています。

さらに具体的に、視点の転換による再定義、機能の切り出し(選択、絞り込み)、機能の排除、場をつくること(知識の結合のための場だけでなく、受け手も価値の創造に関わる場)、物事を固定的(ビーイング)ではなく流動的(ビカミング)に捉えること、などが指摘されます。そして、意識の転換の課題、つまりこうすればよいという指針のようなものとして、次の点を指摘しています[文献1、p.194]。
・既存の概念を再定義し、固定観念にとらわれずに自由に発想し、ものの見方を変える。

・論理的に正しいかどうかより、「善いこと」をしたいと思う自分の感性を信じる。

・ユーザーが製品やサービスと向き合ったとき、コト的な意味をアフォードされ、自分なりの意味を見いだせるよう、開発のコンセプトを徹底して磨き抜く。(アフォードとは、モノ自体がそれをどうやって取り扱えばいいのかメッセージを使い手に対して発している[文献1、p.85]こと)

・売り手自身が常にビカミングし、絶えずビカミングする買い手との間で新しいコトをつくり続ける。

・事業やビジネスを一つのプラットフォームとして想定し、その上で売り手と買い手がともに価値を生み出せる仕組みを考える。

発想の点からは、次のように述べられています。[文献1、6章]

・一つのプラットフォームを想定し、その上に多様な知をキュレーションしていく発想法。

・モノ的発想からコト的発想へ(リアル:誰が見ても変わらない客観的現実から、アクチュアル:かかわる人間によって意味が変わる主観的現実へ)

・川モデル(顧客は川の向こう側にいて、そこに狙いを定める)から井戸モデル(自分の井戸を掘り下げていくと顧客の井戸につながる地下水脈に当たる)へ

・陰陽両面思考:ものごとには必ず両面の意味があるので、誰もが一方の面ばかりに目を奪われているとき、もう一方に目を向ける

・誰が(主語)に目を向けるより何故(述語)に目を向ける

・「競争の時代(分析的な競争戦略は誰もが同じ結論にたどりつく)」から「エコシステムの時代」へ

別稿でも書きましたが、野中氏の知識創造理論は概念が多様で、実務には使いにくいと感じることがあります。上記の指摘も単独で読むとわかりにくいものもありますが、「キュレーション」というキーワードで概念を総合することができるならば、そのわかりにくさが軽減されるのではないかと思いました。

さらに興味深いと思われたのが、イノベーションは必ずしも目的指向でなくともよい、という点です。創発によって、最初の目的や期待とは異なったイノベーションが生まれることはセレンディピティーや、Christensenによる新市場型破壊として指摘されていることですが、キュレーションではそうした創発を積極的に生もうとしているように思われます。ちょうど、美術館で絵を鑑賞する人がどう感じるかはその人次第であって、感じた結果がその人にとって意味のあるものであればそれでよい、というような考え方でしょう。それをさらに発展させると、製品の使い方が買い手に任されている製品や、使い手自身が使い方をキュレートして作っていく、つまり、製品としては特定の目的を持たず、使い手がキュレートする場を提供するような製品もありうるように思われます。本書でもたびたび例にひかれるiPadなどは、製品自体がキュレートされたものであると同時に、使い手にも場を与える、という位置づけのイノベーションとも考えられます。

このようにキュレーションという概念には魅力的な要素が含まれていると思うのですが、本書の事例を読むと、キュレーションという考え方で整理できるとしてもキュレーションでなければ説明できない、というものでもないように思えます。また、取り上げられた事例が必ずしもビジネスとしての成功につながる保証もありません。キュレーションという考え方はイノベーションのひとつの見方、切り口を提示したものとして興味深いのですが、それが万能であると考えるのは時期尚早でしょう。

ただ、研究開発の実務においては、キュレーションの考え方を受け入れてみると面白いのではないかと思えるところもあります。例えば、研究者はつい特定の分野を深く掘り下げることをしがちで、新しい価値の生成を促すような情報の選択・絞り込み・結び付け(編集)は、第一線研究者の通常の業務を超える場合があると思います。そんな時、ジョブズのような天才の出現を待つのか、キュレーションをシステムとして持つことで研究者とキュレーターを分業してしまうべきなのかは考えてみる価値はあるのではないでしょうか。画家が絵を描き、美術館の学芸員が展示を企画して観客に新たな意味を提示するように、研究にも情報を選択して集め新たな価値を提案する、あるいは新たな価値を生む場を作るキュレーターが求められているのかもしれません。そうした専門職こそ「企画」担当者の重要な役割のひとつになっていくのかもしれない、という気もしました。



文献1勝見明、「石ころをダイヤに変える『キュレーション』の力」、潮出版社、2011.

参考リンク<2011.8.5追加>



 


 

「不完全な時代――科学と感情の間で」感想

最近の科学と社会の関係変化を考える上で、「情報」は重要な要因でしょう。さらに、3・11震災後は「感情」の問題も避けて通れないように思います。今回は、TRONで有名な情報工学者の坂村健氏による著書「不完全な時代――科学と感情の間で」[文献1]を参考に、科学と情報、感情の問題について考えてみたいと思います。

人が判断を行なうプロセスにおいては、何らかの「情報」を「解釈」し、「考える」ことが行なわれますが、この「解釈」あるいは「考える」というプロセスは、必ずしも公正に合理的に行なわれるものではないことは多くの方が経験されていると思います。同じ「情報」に接しても人により判断が異なるのは、そこに心理的バイアスや好き嫌い、価値観など、いわゆる「感情」と呼ばれるような(その定義は曖昧ですが)要素が入り込んでくることが原因となっている場合もあると思います。

坂村氏の著書には、そうしたプロセスに関わる「情報」や「感情」の問題についての意見が述べられていて興味深い点が多くありました。本書は、新聞等に発表された氏のエッセイ等に加筆してまとめられたものですので、上記の問題に関する系統だった主張というわけではありませんが、著書の中から参考になると感じた部分を選び出して考察させていただきたいと思います。

坂村氏の問題意識は、「科学と感情の間で揺れ動く不完全な時代――そういう現代に対してどう向き合うか」[文献1、p.12]です。著書では様々なトピックスが語られていますが、ここでは、現代における「情報」の問題、「考え方」の問題、そこに影響する「感情」の問題について考えてみます。

「情報」の問題は、コンピュータの急激な発達とともに、近年の我々の生活に大きな影響を与えている問題のひとつでしょう。著者は以下のような興味深い指摘をしています。

・情報の非対称性[文献1、p.67]:例えば売り手と買い手の持つ情報に偏りがある場合、「情報の非対称性」がある、とされます。こうした状態は「偽装」を生む温床となり、また情報の少ない側ではそれを見抜くことができないため不安を感じ、その結果、根拠に乏しい不完全な判断に頼ってしまう、といいます。このような状況で「偽装」を防ぐために、日本では「長いつきあいの中での信用」を重視してきましたが、近年では監査、検証、罰則による高コストの「明示的保障システム」(こちらがグローバル・スタンダード)に頼るようになってきているそうです。トレーサビリティ(製造の全過程で、いつ・どこで・だれが・どういう処理をしたかを記録しそれを最終製品に結び付ける)確保により問題の原因特定を容易にすることで情報の非対称性に対応できる可能性があると著者は述べています。

・ネットは不特定多数への情報流布力に優れるが、信頼性が低い。信頼性担保のためには、同定可能で、過去ログなどで過去も信頼性の高い行動をしている主体であることを示しブランド化する必要がある。企業にとってはその会社の姿勢を示しブランド化することが必要。[文献1、p.94

・インターネット接続が社会の標準になってしまうと、ネット接続できない情報弱者のサポートが必要。これはもはや国の仕事ではないか[文献1、p.148]。

・情報技術はリアルタイムに感動を共有することを可能にした[文献1、p.179]。

「考え方」の問題については以下のような指摘があります。

・科学技術に関する正確な知識は避けて通れない。加えて、健全な懐疑主義――知識の一方的な詰め込みではなく、お仕着せの結論を疑い積極的に情報を集め自分で考える姿勢が必要。[文献1、p.19

・データに基づく議論が重要[文献1、p.26]。

・社会は複雑な問題に溢れている。それを単純化してはいけない。難しい問題を難しいと理解し、なお咀嚼する知的体力が求められている[文献1、p.43]。

・白黒をつけないのが東洋の知恵[文献1、p.99]。

・技術も大事だが、それと同程度かそれ以上に、その技術を社会につなげるための制度設計が重要[文献1、p.135]。

・行政に想像力を[文献1、p.136]:ここでいう想像力とは、いろいろな状況によって起こる結果を想像する力、という意味合いのようです。要は考えの前提を広げ、様々な前提において起こることを予測する力、と言ってもよいかもしれません。この想像力が戦略の元になると言っています。

・コンピュータシステムを考えるとき重要なのは、それが本質的に技術設計半分・制度設計半分の存在だということだ。「制度」の部分の比重がどんどん重くなっている。[文献1、p.196

・ユーザーも含めて関係者皆で問題がないように最大限の努力はする――こういうシステムをベストエフォート(最大努力)型という。誰かが全体に責任も持ってくれて、お金さえ払えばお任せで完璧な保障をしてくれる――ギャランティ(性能保証)型とは、設計思想として対極。ベストエフォートの集合で実現されているのが現代のネットワーク社会。問題が起きた時点で判断しそれが慣習法になるという英米法の国の方がベストエフォートに適している。[文献1、p.204,216

・絶対安全(設計製造に間違いがなく劣化もしていない製品は100%安全という考え方)は存在しない。安全も「機能」として実装し、「安全度」で語るべきスペックのひとつ(機能安全)、という考え方に変わっている。こうすることによって他のコストと比較可能になる。[文献1、p.210

「感情」の問題については以下の指摘があります。

・日本には、やり方を変えたくないという強い社会的慣性力がある。コストを決めるのは、実は技術ではなく、やり方を変える「勇気」。[文献1、p.58

・(日本人が)一番恐れるのは、実際の「危険」ではなく「未知の危険」[文献1、p.110]。

・映像の3D技術などは感情移入を促すことができる[文献1、p.183]。

感情の問題と考え方の問題は共通する要素がありますし、著者はそれを厳密には区別していないようです。そして、まとめとして次のように述べています[文献1、p.220]。

・「正しさ」に向けて、少しでも近づこうというプロセスが科学の本質。

・技術以降は、リスクとベネフィット、市場、コストとプロフィット、感情(公正や道徳、習慣や文化、認知バイアスなど)という評価軸を持つ。

・感情に関する問題を科学者は軽視しがちであり、相手の感情に立って他人に語りかけられる科学・技術の側の人は非常に少ない。

・科学者でない側も身につけるべきは「科学力」というよりも「合理的に判断する力」、自分の判断が単なる「感情優先」でないかと疑う姿勢。

・人々が正しく情報を得て、さらに正しい情報が常に得られるわけではないという不安にも向き合いながら、その中で最も確からしい判断をする。そして、その結果について諦観する。それこそ「科学と感情の間で揺れ動く不完全な時代に対してどう向き合うか」という姿勢なのである。

3・11震災以後特に顕在化した科学と社会の関わりの問題については、様々な立場の方がコメントを述べられています。この著書もそのうちのひとつですが、著者の立場もあって、「情報」に関する洞察が特徴になっていると言えるでしょう。しかし、広い意味での科学コミュニケーションが重要であるという結論は、多くの論調(ただし、建設的なもの)と同じ方向だと思います。ただ、「情報技術」というのは実用面では人間の思考と深く関わっているだけに、多様な思考、価値観も含めた感情の側面、社会生活への影響を強調している点で純粋科学の立場よりは具体的な指摘が多いと思いました。

例えば、信頼を得るためのブランド化、感動の共有、戦略の元となる想像力、制度設計の重要性、ベストエフォートの考え方などが興味深いと思いました(企業の立場としては、ベストエフォートという考え方をすべての分野に適用することは現段階では難しいような気もしますが)。企業の研究者であれば、もはや技術だけで勝負することが難しい時代になっていることは認識している方が多いと思います。研究開発の進め方としても、ビジネスモデルのような形で社会(市場)との関わり、制度を設計することは有効でしょう。その際、「複雑な問題を過度に単純化しない」とか「白黒つけない」、「諦観」といった見識は仕事を進める上で重要です。これは不確実性の高い研究では、すべての段階で単純化して理解したり、白黒をつけていられない場合もあり(当然、後での検証は必要です)、また上手くいかない場合には諦めも必要なので、実際の研究の場面ではよく行なうことではありますが、これは一種、理性で感情をコントロールしているということなのではないでしょうか。もちろん、理性的に判断がつくような課題であれば感情の問題はないかもしれません。しかし、答えの不明確な課題や、能力的に判断できないような課題に対しては、「最も確からしい」判断をすることで感情に惑わされない技術も必要なのではないかと思います。科学と感情の間で揺れ動く不完全な時代に対しては、感情を抑え込んで対応するのか、感情の動きを理解して理性でコントロールするのか、という選択しかないのかもしれません。実はこれが「合理的に判断する」ということの本質ではないでしょうか。もちろん、状況によっては感情に基づく判断があってもよいと思います。しかし、理性的に判断すべき状況で感情に囚われて判断を誤っていないか、ということは常に心に留めておくべきでしょう。

なお、このような感情のコントロールは、自らの問題だけではなく、相手の感情に対しても言えます。もちろん、相手を自分の思い通りに動かす、というコントロールではなく、相手が自身の感情をコントロールできるように説明、説得する、ということになりますが、イノベーションの実現のためにはこうしたプロセスも必要なのではないかと思います。

科学技術コミュニケーションの場面でいえば、科学側からの知識の啓蒙だけではなく、合理的な考え方の啓蒙、すなわち科学的データを自身で解釈して自身で答えを出し、自身の感情をコントロールする方法の啓蒙も重要ということになると思います。科学者はどのような考え方をするのか、一般の人はどのような考え方をするのかを知るために、ひとつの問題について科学者と一般の方が一緒に考える、というアプローチもできるのではないでしょうか。科学では、白か黒かという見方だけではなく、白黒つけられない、あるいはあえて白黒つけない、という考え方をすることがあることをわかってもらえると相互理解に役立つと思います。ベストエフォートという考え方がこれに近いのかもしれませんが、理性的な考え方が社会に広まり、曖昧さを含む状況でも合理的な判断ができるように、科学の側も社会の側も徐々に歩み寄るような姿勢が求められているのかもしれません。文化や知識、考え方の異なる人々との相互理解は容易なことではないでしょうがその努力は必要でしょうし、それができれば現在の閉塞状況の打開につながるのではないか、という気もします。


文献1坂村健、「不完全な時代――科学と感情の間で」、角川書店、2011.

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