研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2012年08月

進化心理学からの示唆(「友達の数は何人?」ロビン・ダンバー著)より

人間の行動はどこまで予測できるのか。何に基づいて決まるのか。これは、組織をマネジメントする場合にも、市場動向を予測して製品を買ってもらおうとする場合にも、競争相手の行動を予測する場合にも重要なことでしょう。

人間は損得に基づいて合理的に判断するものだ、というのが従来の経済学や経営学における考え方だと思いますが、そうした人間観では不十分である、とする指摘が増えているように思います。行動経済学、ヒューリスティクス、心理バイアスの問題など、人間が合理的な判断を行なえない例や、そもそも合理的な判断とは何かを考え直さなければならないような例について本ブログでもいくつか紹介しました(ヒューリスティクスヒトは環境を壊す動物である利他性と協力人間の判断の問題)。

進化心理学は、人間がそうした合理的とは言えない判断をなぜするようになったのかについて、さらには生物としての人間の行動を予測、理解する上での重要な示唆を与えてくれるものだと思います。今回は、ロビン・ダンバー著「友達の数は何人? ダンバー数とつながりの進化心理学」[文献1]にもとづいて、人間の認知、判断の問題を考えてみたいと思います。

本書の主題は「つながり」ということになるでしょう。人間が集団で生活し、社会を構成するように進化してきたことは多くの人が認めるところだと思いますが、著者によれば「霊長類は大きな集団で生活する必要があり、そのため脳が大きく発達し」、「集団のサイズ(社会の複雑さと言いかえてもいい)と、脳のいちばん外側の層で、意識的な思考を主に担当する新皮質のサイズのあいだに見られる強い相関関係」に基づいて判断すると、「ひとりの人間が関係を結べるのは150人まで」[文献1、p.21-22]ということになる、といいます。この150人という数字が著者の名に由来して「ダンバー数」と呼ばれるもので、本書では、このことをはじめとして、人類の進化や個人のつながり、集団の形成、それに伴う社会との関わりなどについての様々なトピックスが紹介されています。ちなみに、原題は「How Many Friends Does One Person Need?, Dunbar’s Number and Other Evolutionary Quirks(訳せば、人には何人の友達が必要か?、ダンバー数やその他の進化のいたずら、でしょうか)」です。以下では、そのなかから、人間の判断に関わる話題をピックアップしてご紹介します(その他の話題も興味深いものが多いのですが)。

進化の結果としての人の判断に影響する要因

・オスとメスの違い:メスは社交性が重要、オスは戦い[p.14]。男性は女性より高リスクをとる[p.97]。「ほとんどの霊長類の場合、メスが無事に子どもを産んで育てられるかどうかは、ほかのメスの協力で決まる」ため、社交上手のメスほど多くの子孫を残す、とのこと。

・生物学的能力の違い:男性の目の錐体細胞(色を感じる細胞)は3種類、女性の中には4~5種類を持つ人がいる。すなわち、人により色の区別の精度が異なる[p.16]。これも社会性に役立つ顔色の判断に好都合なため?。

・血縁による相互の結びつきが強いと運命の波を乗り越えやすくなる[p.36]。血縁による結びつきは、強い安心感と満足感をもたらすため、とのこと。

・化学物質の作用:オキシトシンは人を信用しやすくする[p.59]。エンドルフィンは幸福感、満足感と深く関与(脳内鎮痛剤)し、集団の団結を促す[p.66, 218]。アンドロステノン、アンドロスタジエノンは異性に対する好みに影響[p.94]。

・遺伝子の有無により反応が異なることがある[p.110]。

・頭脳は連続性を扱うことが苦手。二分法に陥りやすい[p.185]。

もちろん、どの程度、これらの要因が理性的な判断に影響するかについては明確とは言えないと思います。しかし、人のすべての行動が理性に基づいたものではないこと、人が理性に基づいて判断していると思っていても実は理性とは関係ない生物としての特性に影響されている可能性があることは言えるのではないでしょうか。少なくとも、ダンバー数が、1人の人間が扱える集団の大きさに制限を加えているのと同様に、こうした要因も人間の理性的な判断に制限を加えていることは確かなように思います。すなわち、人間の行動を予測するためには、経済合理性に基づく行動だけでなく、このような因子の影響も考慮しなければならないということでしょう。

ただ、現状では、進化心理学の成果は人間行動の予測に使えるほどにはなっていないでしょう(本書で取り上げられている男女の問題に関しては使えるかもしれませんが――男女の問題は理性より本能ということかもしれません)。また、人間が平均としてそういう性質を持っていたとしても、平均から外れた人がどのくらいいて、そういう人たちが社会にどんな影響を与えるのかも考慮しなければならないでしょう。しかし、例えば経済合理性に基づく判断にしたところで、それによる予測の精度は似たりよったりかもしれない、といったら言い過ぎでしょうか。進化心理学が、人間の判断に関する従来の考え方を補完するものになるのか、それとも進化心理学の示唆の方が本質なのか、今後の発展に注目していきたいと思います。

ついでになりますが、著者は、進化研究の観点から、薬剤耐性菌の問題[p.125]、中国の一人っ子政策による男性過剰の問題[p.133]、世界の人口増加への懸念[p.149]にも言及しています。世界がかかえる問題に対して、著者は、「楽観論者は科学が何とかしてくれると言うだろう。」しかし、「科学はただ時間を稼いだだけだ。化石燃料の消費量が増えることや、廃棄物や余剰物をところかまわず捨てることがどうというより、とにかく人間が毎年どんどん増えていくことがまずいのである。伝統的な狩猟・採集社会は、むかしも今も自然にやさしかったという意見がある。残念ながらその主張は誤りであることが裏付けられている。そうした社会が自然を守っているように見えたのは、人間の数が少なくて、無茶をやっても環境が破壊されなかっただけだ。」[p.148-149]、と述べています。本稿の最初に書いた判断の問題とは離れますが、進化の観点というのは、このような人間の活動と考え方の本質を問い直すちからもあるのかもしれません。





文献1:Robin Dunbar, 2010、ロビン・ダンバー著、藤井留美訳、「友達の数は何人? ダンバー数とつながりの進化心理学」、インターシフト、2011


参考リンク

 


 


 

「エスケープ・ベロシティ」(ジェフリー・ムーア著)感想

イノベーションには数々の困難があるといわれます。なかでも、それなりの地位を築いた既存企業が、イノベーションをうまく進められなかったり環境の変化についていけなくなったりする場合があることは、研究に携わるものとして真剣に考えておかなければならない問題と言えるでしょう。

ジェフリー・ムーア氏は、著書「エスケープ・ベロシティ」のなかで、「本書の目的は企業を過去の引力から解き放つことだ。」[文献1p.1]と述べています。エスケープ・ベロシティ(脱出速度)とは、「ロケットが地球の重力圏を振り切って宇宙に飛び出して行くために必要な速度」[文献1(訳者あとがき)、p.255]ですから、著者はそのアナロジーを用いて、企業が既存のしがらみや障害(引力)を克服してイノベーションを起こす方法を述べようとしていると考えられます。この「脱出速度」という例えが面白いと思うのは、脱出速度の方向と大きさが適正でないと、いくら燃料を噴射しても重力圏から抜け出すことができず、努力が実を結ばない結果になるという点で、これが、ビジネスの世界において往々にして起こる「研究開発の投資が実を結ばない」という事態と似ていることでしょう。ちなみに、原著の表題は、「ESCAPE VELOCITY: Free Your Company’s Future From the Pull of the Past」であり、上記の本書の目的がそのまま副題になっています。本書の内容については、訳者による詳しいまとめがあります[文献2、3]ので、本稿では、研究開発を進める立場から特に重要と思われる点をまとめてみたいと思います。

本書では、「脱出」について、上述の「過去の引力から」の脱出と、「競合他社の重力圏から」の脱出[文献1、p.33]を想定しているようです。「過去の引力」、というのは、例えば、新規成長事業への資源配分が、過去のやり方にとらわれて効果的に行なわれないような事態を指していますが、これは既存企業が新たなイノベーションの機会に対応できない理由としてChristensenが「イノベーションのジレンマ」[文献4]で指摘していることと本質的に同じでしょう。「競合他社の重力圏からの脱出」というのは、例えば市場における地位(リーダーなのかどうか等)や、ブランド力、製品の魅力、競争の激しさなどの理由で、企業が収益を上げにくい環境にある場合、その状態からの脱出を意図しているものと考えられます。著者は、以下の5つの「力の階層」のフレームワークに基づいて、メリハリのある投資を行なうことがこうした引力からの脱出に必要、としています。以下にその重要ポイントをピックアップしてみます。

1、カテゴリー力Category Power: Reengineering Portfolio Management)[文献1、p.43-84

・カテゴリー成熟化ライフサイクル:カテゴリー力の中心をなしているのがカテゴリー成熟化ライフサイクルです。このライフサイクルには5つの状態、すなわち、A、新興カテゴリー(新しい富を生み出す原動力が生まれる時の混沌状態)、B、成長カテゴリー(市場が成長している状態であり多大な富が得られる)、C、成熟カテゴリー(市場が成熟して周期的成長の段階に至り、安定的な富が得られる)、D、衰退カテゴリー(定常的マイナス成長になる)、E、ライフサイクルの終わり、からなります。著者は、「望ましい状態は、ステージBでイノベーションのサイクルを継続的に回し、成熟化させたステージCで長期的な基盤を築き、ステージAに時折参入し、ステージDでの事業撤退から得た資産を活用し、ステージEには絶対関与しないようにすること」と述べています[文献1、p.52]。

・3つのホライゾンモデル:マッキンゼーのバグハイらによるモデル。ホライゾン1は、市場投入から12ヶ月までの間に相当のリターンを生む。ホライゾン2は高成長で多大なリターンが期待されるが、リターンまでに1236ヶ月を要する。ホライゾン3は、リターンは36ヶ月以降。

既存企業では、投資がステージC、ホライゾン1(安定的、短期収益)に行きがちで、本来投資が必要なステージB、ホライゾン2には経営資源が行き渡らず、脱出速度が達成できないことが多いとされています。

2、企業力Company Power: Making Asymmetrical Bets)[文献1、p.85-124

・競合差別化:競合他社との「どんぐりの背比べ」から脱却することが必要。メリハリのある経営資源配分を行なって、比類のない差別化された製品やサービスを提供する。

・ビジネス・アーキテクチャ:コンプレックスシステム(複雑な課題に対し、独自性が高いソリューションを提供する)か、ボリュームオペレーション(パッケージ化された製品やサービスを提供する)かを識別する。

・市場における3つの階層(ティア):市場におけるリーダー企業、他の有名ブランド、あまり著名でない企業の3つの階層。

・クラウン・ジュエル(Crown Jewels):差別化創出のための資産。テクノロジー、専門知識、プラットフォーム製品、熱心な顧客、規模、フランド、ビジネスモデル。

メリハリのある投資には「1にリーダーシップ、2にマネジメント」のアプローチが必要であり、上記の要因を識別しそれに応じた対応をすべきと考えられます。

3、市場力Market Power: Capitalizing on Market in Transition)[文献1、p.125-163

・特定の市場セグメントにおいて優位性を獲得するため、次の9つのポイントに着目する。1)ターゲット顧客、2)強力な購買理由、3)ホールオファー(当座の問題に対する解決策)、4)パートナー、5)販売戦略、6)価格戦略、7)競合、8)ポジショニング、9)次のターゲット。

4、製品力Offer Power: Breaking the Ties That Bind)[文献1、p.165-201

・イノベーションの経済的効果のモデル:差別化イノベーション(競合製品との差異を提供)、中立化イノベーション(競合他社の変化に追随し、素早く追いつき、競合の差別化因子を無力化する)、生産性イノベーション(生産性を向上させ、その資源を必要な分野に投入できるようにする)を区別する。それぞれの狙いと活用のしかたを混同してはならない。

・コア-コンテキスト・モデル:コア(差別化に寄与する要素)、コンテキスト(それ以外、例えば競合内にとどまるための活動)を区別する。

5、実行力Execution Power: Engineering the Escape)[文献1、p.203-234

・実行のアークのモデル:発明(差別化を実現するのに十分なイノベーションを行なう)-展開(差別化の基礎となる活動を制度化し、拡張可能にし、長期的に維持可能にする)-最適化(成熟市場において行なう)に移行するモデル。これらに加えて、その移行をスムーズに行なうことも重要。それぞれのフェーズに適した人材や組織も異なる。

以上、著者の基本的な考え方は、それぞれのフレームワークにより、現状を認識し状況によって場合分けして、最適なマネジメントのやり方を実行する、というものだと思います。なお、本書では、これ以外のフレームワークやモデルも提示されていますので、具体的な方法に興味のある方は原著をご参照ください。

研究を担当している者にとっても、自らの研究の性格や位置づけ(例えば、研究対象がどのカテゴリーに属しているのか、どんな経済的効果を狙ったものなのか、など)を理解して研究することは、研究の方向性を正しく維持し期待された成果を得るために重要なことだと思いますので、このようなフレームワークを活用する価値はあると思われます。ただ、著者の考え方は具体的データによる裏付けに乏しいため、どんな状況でも有効なのかどうかがわからず、ひとつの意見として受け取るしかないと感じられた点は少し残念でした。もちろん、著者のコンサルタントとしての実績を考慮すれば、仮説として一考以上の価値があると思いますし、実際、研究の実務の観点からも大きな違和感はありませんでしたので、少なくともかなり使えそうな考え方であるということは言ってもよいと思います。

もう一点、著者の指摘がトップマネジメント層に向けられているように思われる点は、一研究者としての限界を感じさせられるものでもありました。著者の言うとおり、脱出速度の達成がイノベーションにとって重要だとしても、経営層が過去の引力にとらわれていて、イノベーションの阻害要因になっている場合には、どうやって脱出速度を獲得すればよいのかが明確ではありません。研究者自身、既存のしがらみからの脱出が必須のことであることは感じている場合が多いと思うのですが、どうしたらよいのか、というところで悩むことも多いように思います。著者の指摘のポイントを認識すれば、脱出速度達成に向けてボトムアップで経営層を動かすことが可能なのかどうか。重要な素材は提供されていると思いますので、あとは読者の創意工夫と実行力の問題なのかもしれません。


文献1:Geoffrey A. Moore2011、ジェフリー・ムーア著、栗原潔訳、「エスケープ・ベロシティ キャズムを埋める成長戦略」、翔泳社、2011.

文献2:栗原潔、「ジェフリー・ムーア『エスケープ・ベロシティ』からみる脱出速度を超える経営とは?」、EnterpriseZine2012.7.2.

http://enterprisezine.jp/bizgene/detail/4033

文献3:栗原潔、「『エスケープ・ベロシティ』解説(全7回)」、TechVisor.JP 栗原潔のIT弁理士日記、2012.1.3-27.

(第1回はこちら) http://www.techvisor.jp/blog/archives/2094

文献4:Christensen, C.M, 1997、クレイトン・クリステンセン著、伊豆原弓訳、「イノベーションのジレンマ」、翔泳社、2000.

参考リンク<2013.1.14追加>



 

 

試行錯誤のプロ

研究開発は未知のことへの挑戦です。従って、思ったとおりにことが運ぶとは限りません。そんな時、試行錯誤が必要になることがあります。

試行錯誤とは、一般には、試みてみて、その結果に応じて対応を変化させ、最終的に目的達成を目指すプロセスであると理解されていると思います。研究の世界では、試行錯誤というと、行き当たりばったりとか、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、というようなあまり好意的でない印象を持たれることもありますが、実用的には成果を挙げる場合が多いことも事実でしょう。特に、最近ではロールプレイングゲームなどで試行錯誤に慣れ親しんだ世代が増えてきていることもあってか、手法として抵抗感が少なくなってきているようにも感じます。もちろん、正解があるかどうかもわからない研究の問題解決に試行錯誤を使うことと、ゲームのように設計者が決めた正解を試行錯誤を通じて見出していくこととは意味が異なりますが、今回は研究開発における試行錯誤について考えてみたいと思います。

試行錯誤の意義

試行錯誤というと、間違ってもいいからとにかく試行してみて対応する、という印象を持たれることが多いように思います。しかし、試行そのものは研究の本質です(試行しなくてもうまくいくとわかっていることは研究の対象にはなりません)。そして、その結果、うまくいくこともあればいかないこともある、というのも研究の本質でしょう。とすると、

1、試行を計画する

2、試行する

3、結果を得てフィードバックする

というステップは、最初に「間違ってもいいから、」と思っていてもいなくても同じことになるのではないでしょうか。事前に入念な計画をたてて試行しても失敗することもあるわけで、どう試行するかは、与えられた課題と試行の容易さ、効果に応じて決められるべきものでしょう。とすると、試行の計画自体が合理的であれば、周到な計画だろうと試行錯誤アプローチだろうと上記1~3の実態に違いはなく、試行錯誤(試行とフィードバックを組み合わせるアプローチ)こそが研究活動の実態であると言ってもよいように思います。以下、試行(錯誤)に関わる各段階について考えてみたいと思います。

1、試行計画段階:試行による問題解決に適した課題と条件の決定、注意

研究の本質に試行が深く関わっているとしても、試行主体の問題解決に適した課題とそうでない課題があるでしょう。基本的には、理論や経験による予測がしにくい課題は、試行で解決することが合理的ということになるでしょうが、無限に広い範囲の条件で試行を行なうことは困難ですから、試行の計画の段階で、なるべく条件を絞り込むことが必要になります。具体的には、ある条件を一定にコントロールしたり、ある条件は無視したり、あるいは現実の状態をモデル化して重要と思われる項目についてだけ試行することなどが必要で、こうしたことができる場合に試行が有効と言えると思います。もちろん、事前の予測が困難な場合には、計画自体も試行の結果を見ながら決定することも有効でしょう。ただし、特に人の意思が関わる問題については、試行することが状況に変化をもたらし、目標自体やあるべき解決策が変わってしまうこともあり得ますので、注意が必要です。

2、試行の段階

試行段階では、求める結果が確実に得られるような実験を設計する必要があります。試行によって得られるデータ自体がお粗末では、そこから導かれる結果も使えないものになってしまいますので、どんな方法でどんなデータをとるか、実験のテクニックも重要です。実験室での実験、現場試験、シミュレーション、データ採取方法などを、得られるデータの信頼性も考慮して決める必要があり、研究部隊の実力が試されることになると思われます。

3、結果とフィードバック

まず、試行した結果から何を学びとるか、ということが重要です。具体的には以下の点に注意する必要があるでしょう。

・試行の結果を正しく評価する:得られた結果には間違いがないのか、いつもそうなるのかも含めて、期待どおりの(あるいは予想外の)結果が得られたかどうかをまず判断する必要があります。場合によっては、統計的、確率論的な議論が必要になるでしょう。

・試行したことと結果の因果関係を検討する:確率的な事象、複雑系の関与する事象の場合、試行結果が何回か同じになっても、その次もまた同じ結果になる保証はありません。因果関係を検討し、そのメカニズム、すなわち、なぜそうなるのかが推定できれば、試行したことが結果を生んだことについてのサポートになります。

・結果を参考に次の試行条件を決める。仮説を修正する、新たな仮説を提案する。

・目的外の結果も重視する:試行錯誤は目的とする課題の解決のために行なうものであったとしても、試行の結果、それ以外の答えや、発展のヒントが得られることがあります。思ってもみなかった発見(真のセレンディピティ)が得られる場合もありますし、試行の結果から導かれる仮説を利用すると、当初考えていなかったアイデアに気付く場合があります。これらも試行から学べることといってよいでしょう。

試行錯誤を行ないやすい研究環境

このように、試行錯誤、試行することは研究開発において重要な役割を担いますが、試行錯誤を行ないやすい研究環境というものもあるでしょう。試行錯誤を促進するためには、次のポイントが重要と考えます。

・試行を問題解決のアプローチのひとつとして評価し、価値を認めること:理論的検討も重要ですが、試行の価値を認め、選択肢として考慮し、試行が効率的な場合には、積極的に試行することを促す。

・失敗を容認すること:試行に伴う失敗は責めない。

・試行しやすい環境をつくる:試行のための精神的障害を小さくする。

・試行のアイデアをいくつか用意する:ひとつ失敗しても次の手がある状態にする。

・過去の成功体験に縛られないようにする:試行の方法は、過去に成功した方法ばかりではない。

また、試行の結果から多くを学ぶためには次の点が重要でしょう。

・結果を記録し、将来の試行に生かす:目的とする結果の実現だけを目指す場合、うまくいかない結果は捨てられてしまいやすいものです。再度の失敗を避けるためにも、また、新たなアイデアを得るためにも記録は有意義です。

・計画の管理に余裕をもたせる(計画変更や逸脱を許容する):余裕がないと、目的外の結果が捨てられてしまいがちです。

試行に基づくアプローチは、コスト負担が大きくなる場合もあり、必ずしも容易な方法ではありません。しかし、試行を行ない、そこから有意義な結論やアイデアを引き出すことには研究部隊の力が反映されます。具体的には、試行をうまく計画して効果的に行ない、目的達成の役に立つデータをうまくとり、その結果を正しく評価しうまく活用することが求められる時、それが試行錯誤のプロとしての研究部隊の出番なのではないでしょうか。


 

マネジメントについての考察など・目次(2012.8.5版)その1

 「マネジメントについての考察など」というカテゴリーでは研究マネジメントに関する私見を書かせていただいています。今まで書いた記事の目次を再整理しました。リンクのあるものは接続確認や追加をしています。前回の目次は2012.1.3版


研究総論

技術の目的、研究の役割(2010.7.25)

技術の目的を広くとらえれば、未来予測の根拠を示すことではないか、研究部門の役割は未来予測のための具体的手段を提供することではないか、ということを述べました。基礎研究、開発研究、理系、文系といった分け方をせずとも、研究の役割は未来予測への貢献と言えるのではないかと思っています。

苦しいときの技術開発頼み(2011.9.4)

技術開発に期待する、ということは技術開発部隊への仕事の丸投げではないはずです。資源を確保し、体制をつくり、どのように進めるかなどの関与が必要でしょう。根拠のない希望的観測に基づいて技術開発に期待するだけでは「神頼み」と同じではないでしょうか。


研究とアイデア

創造性を引き出すしくみ(2010.10.24)

野中郁次郎教授の組織的知識創造理論、SECIモデル、ナレッジ・クリエイティング・クルーについての簡単なまとめを書きました。最も重要なポイントは、創造のためには知識の出会いが必要、仕組みづくりだけでなく「かき混ぜる」継続的な努力が必要、というのが私の理解です。

関連記事:「「イノベーションの知恵」(野中郁次郎、勝見明著)感想」(2011.3.21)知識創造ケーススタディ。
 流れを経営する」を読む知識創造理論まとめ

アイデアの扱い方と知の呪縛(「アイデアのちから」より)(2012.7.16)

アイデアをビジネスとしての成功につなげたいならば、アイデアを人の記憶に焼きつくようにして、その人を動かす必要があります。しかし、一旦知ってしまうと知らない状態がわからなくなる「知の呪縛」によって、アイデアを伝えることは難しいものです。研究者にもアイデアを伝え、育てる努力が必要でしょう。

アイデアのちから参考リンク

キュレーションと研究開発(勝見明著「キュレーションの力」感想)(2012.3.11)

キュレーションとは、既存の意味の問い直し、編集、新たな意味の創発のプロセスとのことです。情報をどう集め、そこから何を掴むか、という作業は研究にとっても重要な意義ともつと思われます。

キュレーションの力 参考リンク

研究の管理

研究の管理と評価再考(2010.8.1)

Davilaによるイノベーション管理手法について。独創性の高い研究の分野では、研究を細かく管理しないほうがよいという考え方に対し、Davilaのように、研究を管理する効果的な手法があるという立場の意見もあります。ラディカル・イノベーション、インクリメンタル・イノベーションそれぞれの目標設定の方法、インセンティブの考え方など、Davilaの意見をベースに「使えるかもしれない」考え方をまとめてみました。

研究の管理と評価再考 参考リンク

数値目標の功罪(2012.5.20)

ものごとを数値化することで、理解や判断が容易になるといったメリットはありますが、数値は実像の一面しか捉えていないことも多く、その扱いには注意が必要であると考えます。

数値目標の功罪 参考リンク


研究者と金銭的報奨(2010.9.12)

研究者に対するインセンティブとして、金銭的報奨は無視できないものです(もちろん衛生要因としても)。成果主義について、最近はその効果が疑問視され、マイナス側面も指摘されることが多いですが、成果を挙げた人に報奨を与えるという考え方自体は誤っているとは思いません(おそらく与え方と報奨の内容に問題があるのではないかと思います)。大きな成果を挙げた人には大きな報奨を、そのかわり失敗に対しては報奨をあまり減らさないという報奨体系がよいのではないか、というのが私の提案です。


研究者と金銭的報奨再考:処遇をどうすべきか(2010.10.3)

成果に対する報奨としての給与、ポストの問題を考えました。名選手かならずしも名監督ならず、の例えもありますし、マネジャーへの昇進を望まない研究者がいるという調査結果もありますので、成果に対してポストで報いることはあまり適当なこととは思えません。ポストに対する給与は「期待料」と考えるべきで、給与とポストの分離が必要ではないかと思います。


モチベーションは管理できる?(2011.1.23)

モチベーションをなるべく高く維持したいとすれば、モチベーションの現状レベルを知ることは有効でしょう。しかし、モチベーションの測定はそれほど容易ではないと思われます。特に感情や気分に左右されるモチベーションについて、開本の心的活力の要素に基づいて、モチベーションの高さの度合いによってどのような行動が見られるかを考えてみました。

報連相と研究開発(2011.10.2)

研究開発における報連相は、上司と部下の意志疎通よりも、グループ全体での情報共有やグループ全体で考えることを重視すべきなのではないかと思います。


研究と人の問題

研究者の年齢限界?(2010.12.12)

科学者が大きな発見をした時の年齢を調べてみると、その発見は必ずしも若い時になされたものではないことがわかります。つまり、よく言われる35~40歳ぐらいが研究者の能力のピークである、という説は単なる誤解ではないか、というのが私の考えです。

研究者の年齢限界?参考リンク


競争心と研究開発(2011.3.6)

研究を進める上で競争心が強い方がいいのか悪いのかについて考えてみました。競争心、競争的環境には利点も欠点もあるので、利点を引き出し、欠点を軽減するマネジメントが重要、ということになると思います。例えば、対立的な競争環境を避け、自発的に競争に参加するような方向づけが効果的なのではないかと思います。

競争心と研究開発の参考リンク


研究開発とフラストレーション:ルーチンワークの罠(2011.5.8)

研究開発から生まれる成果は不確実なものですので、研究が意外な結果を生むことはよくあります。この意外性が人の心にフラストレーションを生み出し、非合理的行動を誘発する場合があること、フラストレーションを避けようとしてルーチンワークのような意外性の低い仕事を好んでしまう可能性について考えました。失敗への寛容さ、心の負担を減らすビジョン、研究者の選好に合わせた業務設定などが重要だと思われます。

研究開発とフラストレーション:ルーチンワークの罠 参考リンク

以下の記事については、「マネジメントについての考察など・目次(2012.8.5版)その2」をご参照ください(容量制約のため)


研究と組織の問題

プレイングマネジャーの功罪(2011.4.10

研究組織におけるコミュニケーションの難しさ(2011.11.13

研究における企画という仕事(2012.2.12

部下を守る?組織を守る?技術を守る?(2012.4.30

研究者の主体性(2012.6.24

研究の進め方

魔の川、死の谷、ダーウィンの海を越える(2012.1.15

技術を維持する-イノベーションの負の側面への抵抗(2010.11.14

研究開発におけるスピードと俊敏さ-「加速の罠について」(2011.2.13

思考停止をもたらすもの(2011.7.31

研究開発と会議(2011.10.23

協力的環境と研究-「不機嫌な職場」に学ぶ(2011.12.18

正しい現場主義と研究開発(2012.4.8

研究における判断と説得

イノベーションとあいまいな意思決定(判断の根拠は何か?、ヒューリスティクスの活用?)」(2011.1.3

研究開発事例

2010年のベスト50発明(「Time2010.11.22号)(2010.12.5

1年後のTime誌「2010年のベスト50発明」(2011.12.25


マネジメントについての考察など・目次(2012.8.5版)その2

研究と組織の問題

プレイングマネジャーの功罪(2011.4.10)

マネジャーをしながら第一線の仕事をするプレイングマネジャーという役割は一見魅力的ですが、研究の場合には、組織内資源配分の歪みを生む可能性があり、その運用にあたっては注意が必要と考えられます。

プレイングマネジャーの功罪 参考リンク

研究組織におけるコミュニケーションの難しさ(2011.11.13)

組織におけるコミュニケーショは、タテ方向とヨコ方向で阻害要因が異なるのではないでしょうか。組織構造と運営の工夫によってそうした阻害を軽減できるのではないか、特にタテ方向(上司と部下)の阻害要因をどう軽減できるかについて考えてみました。

研究組織におけるコミュニケーションの難しさ 参考リンク

研究における企画という仕事(2012.2.12)

研究における「企画」という仕事、「企画」と名付けられた部署の仕事について考えてみました。単なる研究者の管理や雑用、下請けではなく、研究者の能力を補完して研究を成功に導く役割が「企画」に期待されているのではないでしょうか。

部下を守る?組織を守る?技術を守る?(2012.4.30)

マネジャーとして重要なことは部下の能力を発揮させることであり、そのためには上司と戦う必要がある場合もあるでしょう。また、部下の「個人」を守ることはその個人が保有する「技術」を守ることにもつながるでしょう。もちろん、セクショナリズムによる組織防衛になってしまってはいけませんが。

部下を守る 参考リンク

研究者の主体性(2012.6.24)

研究者が自律的に主体的行動ができるようにすることの重要性をホンダの事例に基づいて考えてみました。トップダウンの進め方が適した課題ももちろんあるでしょうが、主体的、自律的であることの意義をもっと重視すべきではないかと思います。

研究者の主体性参考リンク

研究の進め方

魔の川、死の谷、ダーウィンの海を越える(2012.1.15)

研究開発における有名な3つの障害、魔の川、死の谷、ダーウィンの海とは何か、それを越えるにはどうしたらよいかについての私見を述べさせていただきました。魔の川には技術力、死の谷にはものづくり力、ダーウィンの海にはビジネスモデルが鍵になるように思います。

魔の川、死の谷、ダーウィンの海 参考リンク

技術を維持する-イノベーションの負の側面への抵抗(2010.11.14)

新技術の追求と既存技術の維持のバランスが崩れてしまうと、業績に悪影響を与えてしまう可能性について考えました。このバランスの維持は、既存の収益基盤を持つ組織においては特に重要と思われます。専門性の育成には時間がかかること、暗黙知も含めた技術の伝承ができないと既存分野での優位性を失うことを考えると、既存技術の維持もイノベーションには必須の要素であると考えられます。


研究開発におけるスピードと俊敏さ-「加速の罠について」(2011.2.13)

研究においてスピードを上げることは必ずしもよいことばかりとは言えないと思います。スピードを上げれば、全速力で失敗に向かってしまう可能性もありますし、社員の負荷が重くなることで業績が悪化する「加速の罠」と呼ばれる事態も起こりえます。研究には「スピード」よりも「俊敏さ」の方が重要ではないかと思います。

研究開発におけるスピードと俊敏さ-「加速の罠について」 参考リンク

思考停止をもたらすもの(2011.7.31)

研究開発にとって「考える」ことは重要です。しかし、人間を機械のように扱ったり、選択肢の過度の絞り込みを行なえば考える習慣が失われるでしょう。また、考えたことを行動に移す裁量権が失われれば考える意欲が低下するでしょう。「考える」ことを促すマネジマントが必要だと思います。

思考停止をもたらすもの参考リンク

研究開発と会議(2011.10.23)

会議というと非効率なマネジメントの温床のように取り上げられることが多いと思いますが、人が集まって議論するということが無駄なのではなく、要は、いかに有意義な進め方をするかが重要と考えられます。会議の目的をはっきりさせ、目的達成のため、参加者の役に立つためにどうするべきかを考えて進めることが重要ではないでしょうか。

協力的環境と研究-「不機嫌な職場」に学ぶ(2011.12.18)

研究においては競争とともに協力も重要でしょう。効率化の追求と協力関係の構築は相容れない可能性があることを認識し、必要な場合に協力行動が起こるような環境づくりは組織的に研究を行ない成果を挙げるうえで重要なことと考えます。

協力的環境と研究-「不機嫌な職場」に学ぶ 参考リンク


正しい現場主義と研究開発(2012.4.8)

マネジャーが現場に行けば、それで現場主義なのか?。現場から得られる情報を重視することは、現場にいる人たちにとっては重要ですが、マネジャーが現場に行って得られる情報、マネジャーに入ってくる情報には注意が必要です。そこまで理解した上での現場主義が求められていると思います。


研究における判断と説得

イノベーションとあいまいな意思決定(判断の根拠は何か?、ヒューリスティクスの活用?)」(2011.1.3)

意志決定や情報の受容の過程では、ふつう、すべての情報が吟味されるわけではありません。簡便な問題解決法と呼ばれる「ヒューリスティクス」が用いられることが多いでしょう。情報の認識段階と、判断の確認段階にわけて簡便な判断の方法の例を考えてみました。他者の意志決定に影響を及ぼす場面でも使えるのではないかと思います。

ヒューリスティクス参考リンク


研究開発事例

2010年のベスト50発明(「Time」2010.11.22号)(2010.12.5)

Time誌に発表された2010年のベスト50発明について、ニーズ志向かシーズ志向か、破壊的イノベーションの可能性についての評価を試みました。
1年後のTime誌「2010年のベスト50発明」(2011.12.25)

2010年のベスト50発明が1年後にどうなっているかをフォローしてみました。

Time誌ベスト50発明参考リンク



以下の記事については、「マネジメントについての考察など・目次(2012.8.5版)その1」をご参照ください(容量制約のため)

研究総論

技術の目的、研究の役割(2010.7.25

苦しいときの技術開発頼み(2011.9.4

研究とアイデア

創造性を引き出すしくみ(2010.10.24

アイデアの扱い方と知の呪縛(「アイデアのちから」より)(2012.7.16

キュレーションと研究開発(勝見明著「キュレーションの力」感想)(2012.3.11

研究の管理

研究の管理と評価再考(2010.8.1

数値目標の功罪(2012.5.20

研究者と金銭的報奨(2010.9.12

研究者と金銭的報奨再考:処遇をどうすべきか(2010.10.3

モチベーションは管理できる?(2011.1.23

報連相と研究開発(2011.10.2

研究と人の問題

研究者の年齢限界?(2010.12.12

競争心と研究開発(2011.3.6

研究開発とフラストレーション:ルーチンワークの罠(2011.5.8

 





記事検索
最新記事
プロフィール

元研究者

QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ