研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2013年10月

「オープンサイエンス革命」(ニールセン著)より

新しい研究の進め方として、以前にシチズンサイエンス(市民参加による科学研究)について取り上げました。集合知多様な意見の有効性についても考察したことがありますが、ネットの発達とともに生まれたこうした新しい研究方法、知識活用は注目されてはいるものの、具体的な方法論についてはまだあまり理解が進んでいないように思われます。

マイケル・ニールセン著、「オープンサイエンス革命」[文献1]では、集合知の活用、オンラインコラボレーション、ネットを利用した科学研究の問題などが事例とともに解説されています。原著の表題は、「Reinventing Discovery, The New Era of Networked Science」であり、科学的な発見のための新たな方法の発明、特にネットを活用した方法についての考察が本書の主題になっていますが、成功事例だけでなく、うまくいっていない事例やその原因、どうしたら可能性が開けるかについても考察され、さらには科学研究のあり方に至る議論までなされているところが本書の特徴と言えるでしょう。

著者は、第1章「発見を再び発明する」で、次のように述べています。「科学の世界には、三つの大きな変化が訪れている。ポリマス・プロジェクトには、どのように科学者が協力しあいながら知識を生み出せるかという点における変化が、またジェンバンクと遺伝研究には、いかにして科学者がデータのなかに意味を発見できるかという点での変化が示されている。そして三つ目の大きな変化は、科学と社会の関係だ[p.13]」。「つまり、私たちは科学における発見の方法が劇的に変わりつつある革命の時代に生きているのだ。私が本書を執筆した理由は、その点を広く知ってもらいたかったからだ。100年後の歴史家の目には、ネットワーク化以前の科学の時代と、ネットワーク化されたオープンな科学の時代という2つの科学の時代が映ることだろう。私たちは前者から後者への移行期に生きているのだ。・・・そして科学の営みにもっとオープンなアプローチを取り入れることが、単に良いアイデアを生むというばかりでなく、科学者や学術機関に今まさに求められているものだという理解を広く浸透させたいと考えている。[p.23-24]」(ポリマス・プロジェクトとは、ブログ上で数学者が協力して難問を解こうとするプロジェクト[p.7-11]、ジェンバンクは遺伝情報のオンライン貯蔵庫のこと[p.12]です。)

この意図に従って、本書第1部「集合知の有効活用」では、「オンラインツールによって集合知を増幅する方法を説明する一連の原理を引き出し[p.36]」、第2部「ネットワーク化された科学」では、「集合知がどのように科学を変えつつあるかという点に説明の焦点を絞る[p.36]」という構成で議論が展開されます。まず第1部の内容を見てみましょう。

第1部、集合知の有効活用

第2章、オンラインツールは私たちを賢くする

・「『カスパロフ対ワールド』やポリマス・プロジェクトの例は、オンラインツールを活用すれば、グループの集合的な能力を向上できることを示している[p.31]」(「カスパロフ対ワールド」とは、1999年に開催されたチェスのチャンピオンとネット集合知ワールドチームとのチェス対戦のこと。)
・「本書の関心の焦点は集合知のみならず、集合知の効果を劇的に改善するツールの設計にも置かれている。・・・本書は、単にウシの体重の推測のような日常的な問題ばかりにではなく、人間の問題解決能力の限界を試すような難題にいかに取り組めるか・・・などにもメスを入れる[p.33]」
第3章、専門家の注意を効率良く誘導する
・「創造的な問題解決においては、タイミングよく引きつけられた適任の専門家の注意が、もっとも貴重な資源になる場合が多い」。「オンラインツールによる集合知の増幅の中心には、この専門家の注意を効率良く誘導する能力がある」[p.40-41]。
・(「カスパロフ対ワールド」について)、「特定の局面に限ればカスパロフと同等か場合によってはそれ以上の力を発揮できる、独自のミクロ専門知識を持つ者がかなりいたはずだ。したがってワールドチームのプレイのカギは、この通常は埋もれているミクロ専門知識をゲームの流れに沿って掘り起こし、適切な場面でそれを活用するところにあった[p.42-43]」。
・「創造的なコラボレーションの規模が拡大するにつれ、それだけ問題はさまざまな専門知識を持つ大勢の参加者の目にさらされるので、解決困難と思われるものでも、『なんだ、簡単に解けるじゃないか』と言える誰かが出現する可能性が大幅に向上する。つまり幸運な偶然に頼るのではなく、セレンディピティ[掘り出し物を見つける才能のこと]が中心的な役割を果たすようになる。ジョン・ユデルの言葉を借りると、オンラインコラボレーションは一種の『デザインされたセレンディピティ』を実現すると言えよう[p.45]」。
・(本書で検討している集合知の全体像について、)「まずは、大きなグループには、それだけ多くの専門知識が潜在しているという考え方から出発する。理想的な状態では、そのようなグループの持つものの見方は多様性に富んでおり、個々のメンバーは他のメンバーと重複しない独自の専門知識を持っているが、それと同時に互いに効果的なやりとりが可能な共通性を有している。・・・集合知をいかに増幅出来るかという問題は、どうすればミクロ専門知識を、必要な箇所に投入できるのかという問題に置き換えられることがわかる。オンラインツールの目的は、どこに注意を向けるべきかを利用者に示すことだ。・・・言いかえると、オンラインツールは参加者のもっとも得意な課題を見つけやすくすることを目的とする『注意のアーキテクチャー』を生む[p.52-53]」。
第4章、オンラインコラボレーションの成功条件
・集合知の増幅を促進する要件(さまざまな注意のアーキテクチャーに導入できる)[p.81
1)大きな課題を小さな課題へと分割する効率的な方法を発見し、モジュール化を徹底する。
2)小さな貢献を奨励し、参加の敷居を低くする。
3)他者の貢献によって蓄積されてきた資源を容易に再利用できるようにする。
4)どこに注意を向けるべきかを判断しやすくする、自動採点などのガイダンスメカニズムを採用する。
第5章、集合知の可能性と限界
・「多くの研究で、集合知のネガティブな側面が明らかにされている。つまり、全員の共有する知識や、地位の高いメンバーの見解に焦点が置かれる、あるいは地位の低いメンバーの意見が軽視されるなどして、グループは個の洞察を、全メンバーによって共有される集合的洞察へと効果的に変換できない場合が多々あることが指摘されている[p.116]」
・「集合知を増幅するために不可欠な基本要件とは・・・グループの参加者は、ある一定の知識とテクニックの体系を共有していなければならず、それを用いてはじめてコラボレーションが可能になるのだ。この共有された体系がある場合、そのグループは『共有プラクシス』を持っていると言う。ここで言う『プラクシス』とは、知識の実践を意味する。そして共有プラクシスの有無は、個人の知識を集合知へとスケールアップできるかどうかを決める[p.121]」。「たとえば、政治の世界には強力な共有プラクシスがない。人々は基本的な価値観をめぐってですら、いとも簡単に見解の不一致に至る。共有プラクシスを持たないグループでは、解消不可能な意見の不一致が発生する。そうなるとそこから分裂が生じ、コラボレーションをスケールアップする機会は失われる[p.122]」。「複数の慣例的な見方が併存していると、それらの境界を越えて人々が協調するのは相当に難しい。なぜなら、どのような条件が満たされれば進歩したと見なせるかを判断するための共通の基盤が存在しないからだ[p.123]」。
・「応用科学は、私企業の内部において少人数で秘密裏に実践されるケースが多く、そのような秘密主義はコラボレーションをスケールアップする能力を著しく損なう[p.139]」。

第2部、ネットワーク化された科学
第6章、世界中の知を掘り起こす

・この章では、第1部で述べた集合知の増幅を補完する方法として、「既存の知に埋もれている意味と関係を検索する手段を用いて、知そのものに働きかけながら、集合知の増幅を実現するツールの構築方法を検討する。[p.150]」
・「科学における発見は、私たちの持つ知識によって制限される場合が多い。・・・いまや巨大なデータを手にしている私たちは、情報量よりも問いによって、すなわち、いかに巧妙にして大胆、かつ創造的な問いを発せられるかによって、新たな科学的発見への道を切り拓けるようになりつつある。[p.161]」
・「データから意味を抽出するコンピューターの能力を『データドリブン・インテリジェンス』と呼ぶことにする[p.175]」。「データドリブン・インテリジェンスのアルゴリズムを実装したツールは、・・・集合知に埋もれている意味を発見する手段を提供してくれる。・・・人間の能力によっては分析しきれない膨大なデータから・・・知を掘り起こせるようになるだろう[p.180-181]」。(例えば、偏頭痛とマグネシウムの関係を発見する際に用いたメッドラインの検索アルゴリズムなど)
・すべての科学の知識が、コンピューターによって理解可能な表現形態でオンライン上の公表されるデータウェブが成長すれば、「答えられる問いの数は知識が増える割合をはるかに上回る速度で増加する」。もうひとつの変化は、「説明の本質が変化する点にある。これまでの科学ではシンプルな説明が重視されてきた。・・・だが、シンプルな説明を受けつけない事象もある。・・・複雑なモデルを構築し、意味を抽出する能力を高めてくれるオンラインツールも、科学の説明の本質を変えようとしているのである。[p.192-201
第7章、科学の民主化
・ギャラクシー・ズー(銀河の分類)、フォールド・イット(タンパク質構造予測)などの市民科学はすでに成果をあげつつある。「ギャラクシー・ズーはデータを知へと変換するためにコンピューターと人間の知能を融合させた、異種混合の新たな仕組みなのだ[p.221]」。フォールド・イットについて言えば、「生化学の博士号を持っているからといって、空間的な推論に長けているとは限らない。構造予測とは、もっぱら3Dパズルの解法であり、生化学にはほとんど何の関係もない。・・・専門家はゲーム構造の基盤となる系統的な理論を追求し、アマチュアは専門家によって得られた成果をフル活用するための技量と労力を提供している[p.231]」。「これらの例から、市民科学者たちが科学に貢献するためのいくつかの方法が見えてくる。彼らは、データの収集や分析においても有益な支援を提供できるし、蓄積されたデータから、・・・事前に予測不可能な例外的発見もできる。このタイプの発見はコンピューターでは困難だ。このように、市民科学は・・・データドリブン・インテリジェンスを補完する存在なのである[p.235]」。「ほとんどの人は、科学に貢献できるくらい賢く、またそれに対する関心も高いと考えるべきだろう。足りていないのは、科学に貢献できるよう人々を科学コミュニティに結びつけるツールなのだが、今や私たちはそれを構築できるのだ[p.242]」。「市民科学プロジェクトは、オンラインツールの利用によって『誰が科学者たり得るか』という基本的な見方を変えられることを示している[p.247]」。
・「オープンアクセス運動は『誰が科学の成果にアクセスできるのか』を変えつつある[p.250]」。「社会における科学の役割は、今は小規模ながら急成長を遂げている市民科学、オープンアクセス、サイエンスブログなどによって変わりつつある。・・・オンラインツールは、科学と社会の関係を変え、再定義する新たな制度を構築する機会を与えてくれるようになった。この機会をうまく活用すれば、さまざまな問題をはね返す力のある社会を築くことが、・・・創意工夫のギャップを埋めることが、可能になるのではないだろうか?[p.264-267]」
第8章、オープンサイエンスの課題
・「科学者のなかにはデータを共有したがらない者もいる[p.274]」。「一般的な言い方をすると、ネットワーク化された科学の成長は、主に科学論文の執筆という形態での貢献に価値が置かれる、閉鎖的な科学の文化によって妨げられている。・・・ネットワーク化された科学がその可能性を十分に開花させるには、それはオープンサイエンスでなければならない。皮肉にも、科学において情報を共有することの意義は、何世紀も前の近代科学の創始者たちによって十分に理解されていた。この理解があったがゆえに、17世紀の時点で実現可能なもっとも開かれた情報伝達のための仕組みとして、科学雑誌というシステムが誕生し得たのだ。そのシステムは、雑誌に成果を発表した科学者に助成金を提供するという形態で実現された。しかし現在では、まさにこの助成金があるために、もっと効率の良いテクノロジーの採用が妨げられていると言える[p.285-286]」。
第9章、オープンサイエンスの必要性
・「当然のことだが、何らかの見返りがなければ、そもそも発見に時間と労力を投入する理由が薄れてしまうのだ。この問題に対処するために17世紀に採用された(そして現在でも用いられている)解決方法は良くできたものだった。・・・科学者は自分の発見を科学雑誌に発表し、その知識を共有するが(本質的に独自の知識を他人に譲り渡すのと同じとみなせる)、その代わりに発見者としての評判を手にできた。・・・それによって評判に基づく経済がもたらされ、知識を共有するべく科学者を強く動機づける見えざる手が、科学の世界で確立したのだ。・・・科学知識をより広く共有することを奨励する経済を確立できれば、見えざる手の力はさらに強くなり、科学はより迅速に発展するだろう[p.302-303]」。
・オープン化の課題としては、上記のインセンティブの問題以外にも、すぐれたアイデアを選別する困難さ、悪用(悪意をもった引用など)される危険、誤情報の蔓延、検証が困難になることなどの問題もある。しかし、「努力と献身があれば、必ずや私たちは科学のあり方に革命をもたらすことができるだろう。・・・そしてこの革命は、私たちの住むこの世界の理解を深め、人類が抱えている重大な問題の解決に必ずや貢献してくれることだろう[p.324-325]」。
―――

コンピューターやネットの発達によって可能になった集合知の活用や市民科学は、もはや興味深い新たな試みという意味を越えて、科学の進歩に貢献し始めているようです。ただし、さらなる発展のためには問題点もあり、著者が強く主張する研究成果のオープン化が科学界に受け入れられるためにはもう少し時間が必要なように思われます。本書では基礎研究分野へのオープンサイエンスが主に議論されていて、企業における営利目的の研究開発への拡張は想定されていないように思われますが、基礎研究分野においてすら経済的インセンティブが問題となる以上、企業における研究のオープン化はより難しい課題となるはずです。ただ、ビジネスの世界でもオープン・イノベーション、コラボレーションの重要性は認識されつつありますし、集合知や市民科学の成果が現れ始めていることを考えると、民間企業であっても、オープン化が有効な分野については積極的にその可能性を考慮していくべきなのでしょう。また、著者が指摘する集合知活用におけるコラボレーション成功の要因は、広く一般のコラボレーションにも適用できるように思われます。市民科学においては、経済的な見返りがないにもかかわらず、多くの人が積極的にプロジェクトに参加しているという事実は、コラボレーションへのインセンティブを考える上で重要な示唆を含んでいると言えるのではないでしょうか。

企業においては、特許制度によって、一定期間の技術の独占権と引き換えに新たな発見を公開する仕組みが構築されてはいます。しかし、最近では、特許権による独占の効力が薄れてきているという指摘もあり、成果を秘匿するほうがよいという主張も耳にすることがあります。産学連携強化などにより、そうした考え方が基礎研究の分野にまで広がると、著者の目指すオープンサイエンスの実現は遠のくことも考えられますが、オープンサイエンスが有効な分野はあるはずです。どのような条件で、オープン化や集合知活用が有効なのか、どんな問題点を有しているのかがはっきりしてくるにつれ、どういう場合に「使える」のかが明確になってくるのではないでしょうか。本書に示された新たな研究の方法論の発展には、今後も注目していく必要があるように思います。

文献1:Michael Nielsen, 2012、マイケル・ニールセン著、高橋洋訳、「オープンサイエンス革命」、紀伊国屋書店、2013.

参考リンク<2014.3.23追加>


「世界の経営学者はいま何を考えているのか」(入山章栄著)より

何かを決めたい時、誰しもできるだけ確かな根拠に基づいて判断したいと思うでしょう。しかもなるべく最新の情報が欲しいと思うのではないでしょうか。しかし、最新の情報を集め、理解し、活用することは容易ではありません。特に、学問の世界では、分野が細分化され、深くなり、多くの情報が蓄積されるようになってきていることもあって、最新の考え方にたどりつき、その価値を見極めて、進歩についていくことは大変です。

経営学、マネジメントの分野でも、その事情は同じでしょうが、2012年末に発刊された入山章栄著「世界の経営学者はいま何を考えているのか」[文献1]では、研究マネジメントに関連する分野も含めて、最先端の経営学の話題がわかりやすく解説されていて、その内容も非常に示唆に富んでいると感じました。以下、本書の中で興味深く思われた点と、実務的な研究マネジメントに関して重要と感じた点を「感想」としてまとめてみたいと思います。

PART I、世界の経営学(第1章:経営学についての三つの勘違い、第2章:経営学は居酒屋トークと何が違うのか、第3章:なぜ経営学には教科書がないのか)
・世界の経営学は科学を目指している(ドラッカーの言葉は『名言であっても、科学ではない』)[p.15]。大学の経営学研究者は、「よい授業をしても出世などできない」、「昇格するために決定的に重要なのは、・・・『上位ランクの学術誌に何本論文を載せたか』がほぼすべて」、「経営学者たちにとって重要なことは、研究を通じて経営学の知のフロンティアを切り開き、発展させること」[p.22-23]。経営学の「科学性はまだかなり薄弱」[p.26]。「世界の学者が目指している経営学は発展途上の学問」[p.27]。
・「世界で進められている経営学の研究とは、・・・『経営の真理法則らしきもの』が本当にそうなのか、なぜそうなのか、それは他の多くの企業にも一般的にあてはまるのか、を科学的に解明することにある」[p.34]。「海外の、少なくとも欧米のトップクラスのビジネススクールにいる教授のあいだでは、『理論→統計分析』という演繹的なアプローチで研究を進めることが主流になっている。」[p.36
・経営学はミクロ分野(企業内部の組織設計や人間関係を分析する組織行動論)と、マクロ分野(経営戦略論、企業を一つの単位としてとらえ、その行動や、他企業との競争関係、協調関係、組織構造のあり方などを分析する)、に分けられる[p.44-45]。マクロ分野の経営学は主に3つの理論ディシプリンから構成されている。①経済学ディシプリン(ポーターなど、人は本質的に合理的な選択をするという仮定が置かれる)、②認知心理学ディシプリン(サイモン、マーチ、レビンサールなど、古典的な経済学が想定するほどには人や組織は情報を処理する能力がなく、それが組織の行動にも影響すると考える。イノベーション経営の分析に多大な貢献をしている。)、③社会学ディシプリン(人と人、あるいは組織と組織がどのように社会的に相互作用するか)[p.48-50]。「同じ『企業とは何か』というテーマでも、経済学的なディシプリンを好む学者は効率性を、社会学ディシプリンの学者は相互依存関係やパワーを、認知心理学ディシプリンの研究者は経営資源やアイデンティティを重視する傾向が強い[p.54]」。
・感想:科学を目指す経営学の方向は、技術者には理解しやすいアプローチです。ただし、科学においても研究のアプローチは一様ではありません。特に、その分野の理論や知見、手法がどの程度確立されているかによって、研究のアプローチや成果の解釈は大きく変わると思います。経営学が学際的で発展途上の分野であることを理解し、経営学者たちの考え方の背景を理解することは、経営学の知見を実践に活かす上で重要なことと思われます。

PART II、世界の経営学の知のフロンティア
第4章、ポーターの戦略だけでは、もう通用しない

・「ポーターの競争戦略論(SCPパラダイム)とはライバルとの競争を避けるための戦略、いわば守りの戦略」。「近年では競争優位は持続的でなくなってきている」。「ハイパー・コンペティション下では攻めの競争行動が有効になる可能性がある」。[p.81
・感想:実務的には、競争を避ける、つまり一種の独占を目指す戦略の効果が以前より小さくなっているのではないかという印象があります。競争優位を得られたとして、それを持続させる戦略も重要なのかもしれません。
第5章、組織の記憶力を高めるにはどうすればよいのか
・「組織が過去の経験から学習するものであるということは、経営学者のあいだでコンセンサスになっている[p.88]。」「トランザクティブ・メモリーとは、組織の記憶力に重要なことは、組織全体が何を覚えているかではなく、組織の各メンバーが他メンバーの『誰が何を知っているか』を知っておくことである[p.90]」。「組織全員が同じ知識を共有することは非効率であり、むしろ大事なことは『知のインデックスカード』を組織のメンバーが正確に把握すること[p.101]」
・感想:この話題は、組織内での知(暗黙知も含めた知)の交流伝承、協力、分業の仕組みづくりにも関わっていると思います。歪んだ成果主義は組織の記憶力に悪影響を及ぼしているのではないかと感じました。
第6章、「見せかけの経営効果」にだまされないためには
・経営効果に関する分析には、内生性(説明変数と誤差項に相関がある場合)やモデレーティング効果(ある変数から別の変数への効果の強さが、さらに別の変数に左右される場合)の考慮が不十分な場合があるので、結果の解釈には注意が必要。
・感想:上記の問題に加え、数値化された効果には、必ずモデル化の問題が入ってくると思います(基本的には同じことを言っているかもしれません)。しかし、ある程度コントロールされた実験が可能な科学の分野でも完璧な解析は困難なことがほとんどですので、分析結果の解釈には十分に注意した上で、その真偽、有効性は実践で証明してくしかないのかもしれないと感じました。
第7章、イノベーションに求められる「両利きの経営」とは
・「イノベーションの本質の一つは、知と知の組み合わせから新しい知を生み出すことである。そのために企業は知の幅をほどほどに広げる必要がある。」「企業組織は本質的に知の深化に傾斜しがちで、知の探索をなおざりにしやすい。事業が成功している企業ほどこの傾向が強く、これをコンピテンシー・トラップという」「イノベーションの停滞を避けるために、企業は組織として知の探索と深化のバランスを保ち、コンピテンシー・トラップを避ける戦略・体制・ルール作りを進めることが重要である。この点こそが『両利きの経営(Ambidexterity)の骨子。』[p.141]「オープン・イノベーションで『両利き』をどうとらえるかについての研究では、「企業間アライアンスにも『知の探索型』と『知の深化型』があり、企業はその両者をバランスよく配置する必要がある」というコンセンサスが得られている[p.142]」。
・感想:一時期流行した「コアへの集中」の誤った適用が問題を招くということでもあるように思います。実務的には、どこでバランスをとるか、どうとるかが重要なので、今後の研究の進展に期待したいと思います。
第8~9章、経営学の3つの「ソーシャル」とは何か
・ソーシャルを分析する枠組みはおおまかに3つ。①ソーシャル・キャピタル(社会関係資本、人と人とが関わり合うことで生まれる便益、強い結びつきからもたらされる)、②関係性のソーシャル・キャピタル(グラノベッターらによる弱い結びつきのネットワークが重要)、③構造的なソーシャル・キャピタル(ネットワーク構造に着目、ストラクチュアル・ホール(バートによる、ネットワークの構造的空隙)を持つ人が有利)。
・感想:おそらく、ネットワークの構造によって、どんな知の創造、交流、活用を行うのに効果的か、また、構成員の役割分担をどうしたらよいのかが変わってくるように思います。また、ネットワークの構造だけでなく、その中を何が流れているのかも重要だと思います。実務的には、組織の構造や運営方針を決める上で重要な考え方だと思いますので、今後の研究の進展に期待したいと思います。
第10章、日本人は本当に集団主義なのか、それはビジネスにはプラスなのか
・「海外進出を検討する際に、市場規模や成長性のような『チャンス』要因と比べると、国民性の違いのような『リスク』要因はないがしろにされがちである。」国民性を指数化する試みとしてホフステッド指数とGLOBE指数がある。日本人はやや集団的であり、「それゆえに海外企業との協力関係を築くのがうまくない可能性がある」[p.202]。
・感想:集団的かどうか、だからどうなのかという議論はネットワークの考え方で将来的には理解できるようになるような気がしました。
第11章、アントレプレナーシップ活動が国際化しつつあるのはなぜか
・「アントレプレナーシップ活動は本質的に一定の地域に集積する傾向がある[p.221]」(経営資源や知識を得やすいため、ベンチャーキャピタルによる投資の容易さのため)。ところが、最近は、「深い知識や情報が、国境を頻繁に往復する人々で形成されたコミュニティ(超国家コミュニティTransnational Community)を通じて、国境を越えて『飛ぶ』ようになっている[p.216]」。
・感想:この議論もネットワークの問題に集約されてしまうかもしれないと思いました。
第12章、不確実性の時代に事業計画はどう立てるべきか
・経営戦略論の研究者はおおまかに、コンテンツ派(企業はどのような戦略をとるべきかを考える)と、プランニング派(どういうやり方で戦略や事業計画を立てるべきかを考える)に分けることができる[p.226]。プランニングの考え方には、計画主義と学習主義がある[p.227-230]。リアル・オプションのエッセンスは「『段階的な投資』を考えるというシンプルなもの[p.233]」。それにより、リスクをおさえ、機会を取り逃がさないですみ、学習することができる、というメリットがある[p.234-236]。「リアル・オプションは『不確実性が高いことはむしろチャンスである』ということを明示的に説明した[p.236]」。「不確実性の高い事業環境では、事業計画とは単に計画を練るためのものではなく、事前に不確実性を洗い出し、仮定は仮定としてつねに認識し、それを恒常的にチェックするために行うものである[p.243]」。不確実性には内生的(自ら行動を起こせば低下させることができる)なものと、外生的(コントロールできない)なものがある。例えば、「不確実性を事前にきちんと洗い出し、分類し、そして段階投資にもとづいた複数の投資シナリオをきちんと分析して計画に取り込んでおく[p.248]」というやり方で、「リアル・オプションの事業計画は、プランニング派の計画主義と学習主義の架け橋となりうるのではないか[p.247]」。
・感想:特に研究開発の分野では、第一線の実務的には学習主義が使いやすいのですが、管理者や経営者には計画主義を好む人も多いため、それらの人々の支援を得るのに苦労することがあります。リアル・オプションの基本的な考え方は、研究の実務では実際によく用いられており、その有効性を主張する意見も多いと思いますが、その考え方は計画主義の人々の協力を得ようとする場合の武器になりうるように思いました。
第13章、なぜ経営者は買収額を払い過ぎてしまうのか
・「①経営者の思い上がり、②自社をどうしても成長させたいというあせり、③国家を代表しているというプライドが、経営者に高い買収プレミアムを支払わせている[p.263]」
・感想:研究開発への投資額や期待値を考える場合にも、まさに上記のバイアスがかかっていると思います。それがプラスの方向に作用する場合もないとは言えないと思いますが、注意すべきポイントだと思います。
第14章、事業会社のベンチャー投資に求められることは何か
・コーポレートベンチャリングとは、「大企業の内部において、あたかもスタートアップ企業のように自立性をもった新しい事業部門を立ち上げること」。コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)投資は、「一般の事業会社が、あたかもベンチャーキャピタル企業のように若いスタートアップ企業(ベンチャー企業)に投資をすること」[p.266-267]。CVCのメリットは、技術やビジネスモデル、事業の将来性に関する深い情報を得られること、スタートアップ側にとっては、事業会社の経営資源を活用できること、つまり知の探索の手段となり、リアル・オプションになること[p.274-276]。そのため、「オープン・イノベーション戦略の一手段となりうる。[p.282]」。ただし、スタートアップにとっては技術が事業会社に奪われる、事業会社の都合に振り回されるというリスクもある[p.278-279]」。「CVC投資はリスクも大きい。成功のために、事業会社は長期的に業界内での信用を築き上げることが重要[p.282]」
・感想:オープン・イノベーションが話題になることが多いですが、「信用」まで考えた進め方がどこまで理解されているのでしょうか。ひょっとするとそれがオープン・イノベーション成功の秘訣なのかもしれません。
第15章、リソース・ベースト・ビューは経営理論といえるのか
・リソース・ベースト・ビューを取り上げて、経営学の理論と実証研究のあり方について議論が交わされている。
・感想:実務上は、ある考え方に「理論」と名がついていようといまいと関係ありません(有名な先生の名前やもっともらしい理論の名前が議論に効果的なこともありますが)。科学分野では、実験結果によってある理論が否定されることも、適用範囲が限定されることもよくあることなので、「理論」という言葉自体にそれほど意味を期待する必要はないように思います。ただ、ある考え方が、「理論」の名のもとに覚えやすく使いやすくまとめられていることは非常にありがたいことですし、理論をめぐる議論を通じて経営学が深まるならば好ましいことであると思います。

PART III、経営学に未来はあるか(第16章:経営学は本当に役に立つのか、第17章:それでも経営学は進化しつづける)
・経営学の課題:「①経営学者の理論への偏重が、理論の乱立化を引き起こしている。②おもしろい理論への偏重が、重要な経営の事実・法則を分析することを妨げている。③平均にもとづく統計手法では、独創的な経営手法で成功している企業を分析できない可能性が残る。」[p.325-326
・経営学を科学的でありながら役に立つものにするための新しい試みとして、エビデンス・ベースト・マネジメント(定形化された事実法則を企業経営の実践にそのまま応用しようとする)、メタ・アナリシス(これまでに蓄積されてきた研究結果そのものをデータとして統計解析を行う)、定性的な手法(ケース・スタディー)に再注目する、ベイズ統計を使う、複雑系の考え方を導入する、などのアプローチがある[第17章]。
・感想:経営学に限らず、多くの学問分野において、その分野なりの課題はあると思います。多くの場合、課題が広く認識され、その解決のために努力がなされることで、その分野が発展していくのではないでしょうか。しかし、発展はある目標に向かって最短距離で進むとは限らず、例えば学会で評価され出世しようとすることが研究者のバイアスになることはどの分野でもありますし、また、ある手法や課題がある時期学会で人気となり(ということは注目されやすく出世の機会も増える)、そこばかりが注目され、真に必要な研究が疎かになる、という問題もどこにでもあると思います。実務家にとっては、ある理論(考え方)なり発見なりが自分の課題解決に使えるかどうか、あるいは、課題解決のヒントが得られるかどうかが重要ですので、ぜひ、様々なアイデアを提供していただくことを学者の皆さんには期待したいと思います。理論が統計的に実証されることも重要でしょうが、実務の世界で有効性が実証されることも意義のあることだと思います。実務家が経営学に貢献できるとしたらそういう点なのかもしれません。
―――

以上、本書の内容のまとめとそれぞれの話題についての感想を述べさせていただきましたが、本書に解説された最先端の経営学上の考え方は非常に興味深く、役立つものが多かったと思います。確かに、こうした情報に対するフォローが日本ではなかなかできていないことは著者の指摘の通りだと思いますし、我々もそうした努力を怠るべきではないのでしょう。ただ、科学の分野では、ある分野の最先端の研究の全体観を著者の見解も入れて解説した「研究総説」というものが発表されることが多く、教科書の内容を超える最先端の知見を学ぶ上で非常に参考になっています。経営学の単発の論文を読むことももちろん必要でしょうが、科学分野と同様、個々の論文は玉石混交でしょうから専門家以外の人がそれをフォローすることは効率的ではないようにも思います。本書のような情報は実務家にとっても非常に有用と感じましたので、このような情報が得やすくなることを期待したいと思います。

文献1:入山章栄、「世界の経営学者はいま何を考えているのか 知られざるビジネスの知のフロンティア」、英治出版、2012.

参考リンク<2014.1.26追加>


参考書・文献・読書録インデックス(2013.10.14版)その2

今まで内容の紹介をさせていただいた参考書、文献のリストその2です。
このリストから多少詳しいまとめに行けるようにしています。
概ね著者(グループ)ごとにまとめ、特に重要だと思う文献にはコメントをつけています。文献リストその1(マネジメントに近い内容)はこちら。

まとめページその4収録文献
Roberts R.M.
、「セレンディピティー」、1989
 コメント:技術系以外の方にもセレンディピティーの概念は知ってほしい。
Shapiro, G.
、「創造的発見と偶然」、1986
根岸英一、「発見の条件」、有機合成化学協会誌、vol.54No.1p.1(1996).ブログ記事へ
朝日新聞大阪本社科学医療グループ著、「iPS細胞とはなにか 万能細胞研究の現在」、2011
Moss, F.
、「MITメディアラボ 魔法のイノベーション・パワー」、2011.ブログ記事へ
Hand, E., “People power”, Nature, vol.466, No.7307, 2010.8.5, p.685.
Goodnight, J.
、「クリエイティビティを引き出す」、Diamond Harvard Business ReviewSep., 2006, p.3.
上木貴博、「エスノグラフィー 人類学に学ぶ現場主義」、日経ビジネス、2010.12.6号、p.78.
橋本紀子、「『エスノグラフィ』という手法」、RANDOM誌、vol.53p.1(2007).
Bruch, H. Menges, J.I.
、「社員を追い詰める『加速の罠』」、Diamond Harvard Business Review, Dec. 2010, p.76.ブログ記事へ
Perlow, L.A., Porter, J.L.
、「プ
ロフェッショナルこそ計画的に休まなければならない」、Diamond Harvard Business Review, Mar. 2010, p.102.
鬼塚俊宏、先読み!人気のビジネス洋書、「卓越した知識・技術を持つ米国版「オタリーマン」を企業で活かす『ギークを指導すること~テクノロジーをもたらす従業員を管理・指導する方法~』 Leading Geeks : How to Manage and Lead People Who Deliver Technology――ポール・グレン著」、DIAMOND online2011.6.10
DIAMOND
ハーバードビジネスレビュー編集部編訳、「いかに『問題社員』を管理するか」、2005
内田賢、「研究者と年齢的限界」、組織行動研究 (Keio studies on organizational behavior and human performance). No.26 (1996. 3) ,p.67- 75.
文部科学省「科学技術要覧平成22年版」
大竹文雄、「競争と公平感-市場経済の本当のメリット」、2010ブログ記事へ
Joni, S.A., Beyer, D.
、「あえて戦うべき時、協調は譲歩は本当のチームワークではない」、Diamond Harvard Business ReviewMar. 2010, p.40.
田嶋清一、「自分と向き合う心理学」、2007
Peterson, C.
、「実践入門 ポジティブ・サイコロジー 『よい生き方』を科学的に考える方法」、2006ブログ記事へ
Achor, S.
、「PQ ポジティブ思考の知能指数 幸せな気持ちになると、何事もうまくいく」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 5月号、p.58.
Spreitzer, G., Porath, C.
、「社員のパフォーマンスを高める 幸福のマネジメント」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 5月号、p.46.
Gilbert, D.
、「些細な出来事の積み重ねが幸福感を左右する 幸福の心理学」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 5月号、p.34.
白石久喜、石原直子編、「事業創造人材の創造」、リクルートワークス研究所、2011.6.1.
高橋克徳、河合太介、永田稔、渡部幹、「不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか」、2008ブログ記事
沼上幹、「やらせメール ご無体な命令が思考を止める」、朝日新聞、2011.7.15.
McGrath, R.G.
、「マイクロソフト、3Mが実践する『知的失敗』の戦略」、Diamond Harvard Business Review20117月号、p.24.ブログ記事へ
Kay, J.
、「想定外 なぜ物事は思わぬところでうまくいくのか」、2010.ブログ記事へ
Sutton
R.I.、「社内外のじゃま者と戦う 部下を守る『盾』となれるか」、Diamond Harvard Business Review, 2011, 2月号、p.86.ブログ記事へ
小林三郎、「ホンダイノベーション魂 第16回 自律、信頼、平等」、日経ものづくり、2011年7月号、p.103.

まとめページその5収録文献
Heath, C., Heath, D.
、「アイデアのちから」、2007.ブログ記事へ
Carson, S.、「天才と変人 解き放たれた知性」、2011Simonton, D.K.、「創造性の起源」、2012Snyder, A.W., Ellwood, S., Chi, R.P.、「既成概念をオフ サヴァンに学ぶ独創のヒント」、2012、日経サイエンス  20136月号 特集:天才脳の秘密→ブログ記事へ
小田亮、「ヒトは環境を壊す動物である」、2004ブログ記事へ
小田亮、「利他学」、2011.ブログ記事へ
Dunbar, R.
、「友達の数は何人? ダンバー数とつながりの進化心理学」、2010.ブログ記事へ
長谷川英祐、「働かないアリに意義がある」、メディアファクトリー、2010.ブログ記事
Benkler, Y.
、「生物学、心理学、神経科学の知見が教える 利己的でない遺伝子」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 2月号、p.8.
Sargut, G., McGrath,
「ビジネスリーダーの新しい経営学 [入門]複雑系のマネジメント」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 1月号、p.118.ブログ記事へ
Johnson, N.
、「複雑で単純な世界 不確実なできごとを複雑系で予測する」、2007.ブログ記事
Watts, D.J.
、「偶然の科学」、2011.ブログ記事へ
Mauboussin, M.J.、「まさか!? 自信がある人ほど陥る意思決定の8つの罠」、2009.ブログ記事へ
Kahneman, D.
、「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 上、下」、2011ブログ記事へ
Aariely, D.
、「ずる 嘘とごまかしの行動経済学」、2012.ブログ記事
Page S.E.
、「『多様な意見』はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき」、2007ブログ記事へ
西垣通、「集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ」、2013.ブログ記事へ
Christakis, N.A., Fowler, J.H.
、「つながり 社会的ネットワークの驚くべき力」、2009ブログ記事へ
McAfee, A., Brynjolfsson, E.
、「ビッグデータで経営はどう変わるか 測定できれば、マネジメントできる」、松岡正剛、「情報は物語をほしがっている ビッグデータ時代の編集工学」、McInerney, P., Goff, J.、「ビッグデータが日本企業に迫るもの 意思決定が競争優位に直結する」、Davenport, T.H., Patil, D.J.、「データ・サイエンティストほど素敵な仕事はない いま最も必要とされているプロフェッショナル」、樋口知之(聞き手:編集部)、「データ解析の神髄とは インタビュー統計学の第一人者が語る」、Barton, D., Court, D.、「ビッグデータ活用スキルをいかに育むか 高度だが実用性の高いモデルを構築する」、Diamond Harvard Business Review, Feb. 2013ブログ記事へ
高橋昌一郎、「理性の限界」、2008
高橋昌一郎、「知性の限界」、2010ブログ記事へ(上記文献とまとめて)
高橋昌一郎、「感性の限界」、2012ブログ記事へ
 コメント:科学哲学入門ならこの限界3部作がおすすめ。
森田邦久、「理系人に役立つ科学哲学」、2010ブログ記事へ
今道友信、「エコエティカ 生圏倫理学入門」、1990.ブログ記事
Brown, J.R.
、「なぜ科学を語ってすれ違うのか ソーカル事件を超えて」、2001ブログ記事へ
Arthur, W.B.
、「テクノロジーとイノベーション 進化/生成の理論」、2009.ブログ記事へ
菊池誠、松永和紀、伊勢田哲治、平川秀幸著、飯田泰之+SYNODOS編、「もうダマされないための『科学』講義」、2011ブログ記事へ
Singh, S., Ernst, E.
、「代替医療のトリック」、2008.
菊池聡、「超常現象をなぜ信じるのか」、1998
平川秀幸、「科学は誰のものか 社会の側から問い直す」、2010
新井紀子、「コンピュータが仕事を奪う」、2010
平川克美、「移行期的混乱-経済成長神話の終わり」、2010
内田麻理香、「科学との正しい付き合い方 疑うことから始めよう」、2010ブログ記事へ
竹内薫、「理系バカと文系バカ」、2009ブログ記事へ
竹内薫、「科学嫌いが日本を滅ぼす 『ネイチャー』『サイエンス』に何を学ぶか」、2011.ブログ記事へ
坂村健、「不完全な時代――科学と感情の間で」、2011ブログ記事へ
福岡伸一、「動的平衡」、2009.
福岡伸一、「生物と無生物のあいだ」、講談社、2007.



参考書・文献・読書録インデックス(2013.10.14版)その1

今まで内容の紹介をさせていただいた参考書、文献のリストその1です。
このリストから多少詳しいまとめに行けるようにしています。
概ね著者(グループ)ごとにまとめ、特に重要だと思う文献にはコメントをつけています。文献リストその2(科学に近い内容)はこちら。

まとめページその1収録文献
丹羽清、「技術経営論」、2006
 コメント:技術経営の全体感をつかむならこの本がおすすめです。
丹羽清、「イノベーション実践論」、2010
丹羽清(編)、「技術経営の実践的研究」、2013
後藤晃、「イノベーションと日本経済」、2000
Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K.
、「イノベーションの経営学」、2001
 コメント:技術経営の主要トピックスを網羅。現在は新版(第4版)あり。
Christensen, C.M.
、「イノベーションのジレンマ」、1997
 コメント:技術経営を考えるなら必読。
Christensen, C.M, Raynor, M.E.
、「イノベーションへの解」、2003
 コメント:「イノベーションのジレンマ」続編。これも重要な指摘が多いです。
Christensen, C.M, Anthony, S.D., Roth, E.A.
、「明日は誰のものか」、2004
Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J.
、「イノベーションへの解実践編」、2008
 コメント:クリステンセン著ではありませんが関係者の著書。破壊的イノベーション実践の手引として有用。
Wessel, M., Christensen, C.M.
、「破壊的イノベーションの時代を生き抜く 『拡張可能な中核能力』を見極めよ」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.32.、楠木建「クリステンセンが再発見したイノベーションの本質 イノベーションは技術進歩ではない」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.48.Mounz, M.、「破壊的イノベーター:キバ・システムズ アマゾンも認める新興企業」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.78.Downes, L., Nunes, P.F.、「破壊的イノベーションを越えるビッグバン型破壊 常識を越えたスピードで市場に浸透する」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.90.Gilbert, C., Eyring, M., Foster, R.N.、「相反する2つの変革を同時に進める法 既存事業のテコ入れと将来の糧づくり」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.110.Adner, R., Snow, D.C.、「陳腐化した技術を延命させる戦略 『前向きな退却』を選ぶ」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.124.ログ記事へ
Brown, B., Anthony, S.D.
、「P&Gニュー・グロース・ファクトリー イノベーションの成功率を高めるシステム」、Diamond Harvard Business Review2011ブログ記事へ
Dyer, J.H., Gregersen, H.B., Christensen, C.M.
、「イノベーターのDNA」、Diamond Harvard Business ReviewApr. 2010p.36.ブログ記事へ
Dyer, J., Gregersen, H., Christensen, C. M.
、「イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル」、2011.ブログ記事へ
Johnson, M.W.
、「ホ
ワイトスペース戦略 ビジネスモデルの<空白>をねらえ」、2010ブログ記事へ

まとめページその2収録文献
Collins, J.C., Porras, J.I.
、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー」、1994
Collins, J.
、「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」、2001
Collins, J.
、「ビジョナリーカンパニー③衰退の五段階」、2009ブログ記事へ
Collins, J., Hansen, M. T.
、「ビジョナリーカンパニー④自分の意志で偉大になる」、2011.ブログ記事へ
 コメント:ビジョナリーカンパニーシリーズでは②と④が重要と思います。
Nonaka, I., Takeuchi, H.
、「知識創造企業」、1995
 コメント:知識創造理論の基本。ただし、その後の発展もフォローが必要と思います。
野中郁次郎、竹内弘高、「『実践知』を身につけよ 賢慮のリーダー」、Diamond Harvard Business Review2011ブログ記事へ
野中郁次郎、遠山亮子、平田透、「流れを経営する――持続的イノベーション企業の動態理論」、2010.ブログ記事へ
野中郁次郎、紺野登、「知識創造経営のプリンシプル 賢慮資本主義の実践論」、2012.ブログ記事へ
 コメント:知識創造理論が体系的にまとめられ、知識創造理論の全体像を把握するのに最適。
野中郁次郎、勝見明、「イノベーションの知恵」、2010ブログ記事へ
野中郁次郎、徳岡晃一郎編著、「ビジネスモデルイノベーション 知を価値に転換する賢慮の戦略論」、2012.ブログ記事へ
池田信夫、「イノベーションとは何か」、東洋経済新報社、2011.ブログ記事へ
Berkun, S.、「イノベーションの神話」、2007ブログ記事へ
Rogers, E.M.
、「イノベーションの普及」、2003ブログ記事へ
 コメント:イノベーションを実用化する上で認識すべき普及学の基本。
Kim, W.C., Mauborgne, R.
、「ブルー・オーシャン戦略」、2005
Moore, G.A.
、「ライフサイクルイノベーション」、2005
Moore, G.A.
、「エスケープ・ベロシティ キャズムを埋める成長戦略」、2011.ブログ記事へ
Chesbrough, H.、「Open Innovation」、2003
伊丹敬之、東京理科大学MOT研究会編著、「技術経営の常識のウソ」、2010ブログ記事へ
Davila, T., Epstein, M.J., Shelton, R.
、「イノベーションマネジメント」、2006ブログ記事へ
Govindarajan, V., Trimble, C.
、「イノベーションを実行する 挑戦的アイデアを実現するマネジメント」、2010.ブログ記事へ
Immelt, J.R., Govindarajan, V., Trimble, C.
、「GEリバース・イノベーション戦略」、Diamond Harvard Business Review, Jan.2010, p.123, (2010).ブログ記事へ
Govindarajan, V., Trimble, C.
、「リバース・イノベーション 新興国の名もない企業が世界市場を支配するとき」、2012.ブログ記事へ
 コメント:現在進行形の新イノベーション手法として重要と思われます。
Washburn, N.T., Hunsaker, B.T.
、「新興国市場発のアイデアを橋渡しする 破壊的イノベーターの条件」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 5月号、p.116.ブログ記事へ
Lafley, A.G., Martin, R.L., Rivkin, J.W., Siggelkow, N.、「独創的な戦略を科学的に策定する あらゆる選択肢から検証する7つのステップ」、Diamond Harvard Business Review, 2012.ブログ記事へ

まとめページその3収録文献
Carlson, C.R., Wilmot, W.W.
、「イノベーション5つの原則 世界最高峰の研究機関SRIが生みだした実践理論」、2006ブログ記事へ
Mullins, J., Komisar, R.
、「プランB 破壊的イノベーションの戦略」、2009.ブログ記事へ
Thomke, S., Reinertsen, D.、「製品開発をめぐる6つの誤解 製造プロセスでの効率性は通用しない」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 8月号、p.76.ブログ記事へ
堀井秀之、「社会技術論 問題解決のデザイン」、2012.ブログ記事へ
東京大学i.school編、「東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた」、2010ブログ記事へ
Osterwalder, A., Pigneur
Y.、「ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書 ビジョナリー、イノベーターと挑戦者のためのハンドブック」、2010ブログ記事へ
Esslinger, H.
、「デザインイノベーション デザイン戦略の次の一手」、2009ブログ記事へ
Leonard-Barton, D.
、「知識の源泉」、1995
 コメント:研究をする「人」の問題についての重要な指摘が多いです。
Leonard, D., Swap, W.
、「『経験知』を伝える技術」、2005
 コメント:「知識の源泉」とあわせて重要。
Polanyi, M.
、「暗黙知の次元」、1966
Rasmusson, J.
、「アジャイルサムライ――達人開発者への道」、2010.
Schwaber, K.
、「スクラム入門 アジャイルプロジェクトマネジメント」、2004.
勝見明、「
石ころをダイヤに変える『キュレーション』の力」、2011ブログ記事へ
野村恭彦、「フューチャーセンターをつくろう 対話をイノベーションにつなげる仕組み」、2012.ブログ記事へ
三崎秀央、「研究開発従事者のマネジメント」、2004
 コメント:基本的な説明も多く、研究者を考える上で参考になります。
開本浩矢、「研究開発の組織行動」、2006
 コメント:基本的な説明も多く、研究者を考える上で参考になります。
福谷正信、「研究開発技術者の人事管理」、2007
八木洋介、金井壽宏、「戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ」、2012.ブログ記事へ
Kelly, T., Littman, J.
、「イノベーションの達人!」、2005ブログ記事へ
McCall, Jr. M.W.
、「ハイ・フライヤー」、1998
Dixon, N.M.
、「ナレッジ・マナジメント5つの方法」、2000
Rosenzweig, P.
、「なぜビジネス書は間違うのか」、2007ブログ記事へ
Levy, P.F.
、「模範的チームはなぜ失敗したか」、Diamond Harvard Business Review, Feb.2010, p.154, (2010).ブログ記事へ
Heath, C., Heath, D.
、「スイッチ! 『変われない』を変える方法」、2010.ブログ記事へ
Gardner, H.K.
、「メンバーのプレッシャーを克服させる法 大事な時に限って、萎縮してしまう」、Diamond Harvard Business Review, 2012年9月号、p.84ブログ記事へ
Schein, E.H.
、「人を助けるとはどういうことか 本当の協力関係をつくる7つの原則」、2009ブログ記事へ
森時彦著、「ファシリテーター養成講座 人と組織を動かす力が身につく!」、2007ブログ記事へ
金井壽宏、「危機の時代の[やる気]学」、2009ブログ記事へ
 コメント:モチベーション理論の説明が参考になります。
金井壽宏、楠見孝編、「実践知 エキスパートの知性」、2012.ブログ記事へ
中原淳、「経営学習論 人材育成を科学する」、2012ブログ記事へ


ノート6改訂版:研究部門が実施したいと考えるテーマ

1、研究開発テーマ設定とテーマ設定における注意点
1.1
研究活動における基本的な注意点
→ノート1~3
1.2
、研究テーマの設定
①企業収益に結び付くテーマ(事業的に成功が期待されるテーマ)→ノート4
②研究部門に求められるテーマ(企業が研究部門に求める活動と、それに付随する研究テーマ)→ノート5

③研究部門が実施したいと考えるテーマ(研究部門が主体的に提案するテーマ)
研究部門が行なう業務や研究テーマには、研究部門が主体的に考え、実行するものもあります。これは実質的には、企業組織において研究を担当する部門が、与えられた業務分担の範囲で、ある程度自主的に実施すべき内容を考え、実行するテーマということになります。②で説明した「研究部門に求められるテーマ」では、他部署の要求に応えることである程度研究の意義が認められやすいわけですが、「研究部門が実施したいと考えるテーマ」では、研究の内容やその意義自体も自らが判断しなければならない点が大きな違いです。何をアイデアの源として、どう研究テーマの形にしていくかを考えることから始めなければならないわけで、ここでは研究部隊で行なうテーマの発案を中心に、その時にどういう点に注意すべきかを考えたいと思います。

研究部門が発案するテーマは、一般に「ボトムアップ」のテーマと呼ばれることが多いと思います。これに対し、②で説明したテーマや課題は「トップダウン」、ということになります。トップダウン、ボトムアップのどちらが望ましいかという議論に関しては、不確定要素や不確実性の存在のため研究開発の計画は完全にトップダウンだけでは決められないことに特別の注意が必要[文献1、p.177]との指摘があります。また、形式知(形式的・論理的言語によって伝達できる知識)と暗黙知[文献5](特定状況における個人的な知識で、形式化したり他人に伝えたりするのが難しい知識)[文献6、p.88]の相互作用が組織的知識創造にとっと重要であるとの立場から、トップダウンモデルは形式知を扱うのに向いているが組織の第一線での暗黙知の成長を無視しており、ボトムアップモデルは暗黙知の処理が得意であるが暗黙知を組織全体に広めて共有することを難しくしており[文献6、p.187]、組織的知識創造のための最良の環境として「ミドル・アップダウン・マネジメント」が提案されています[文献6、p.238]。いずれにせよ、「ボトムアップ」テーマの重要性は広く認識されているものの、研究部門が持つ知的資源や能力をうまく活かすことが課題、ということになるようです。

研究テーマのアイデアの源に関しては、
「サイエンス・プッシュ」「テクノロジー・プッシュ」vs.「マーケット・プル」「デマンド・プル」
「シーズ志向」vs「ニーズ志向」
という区分がなされることがあります。

イノベーションがどのような過程で発生するかについて、過去(1950年代)においては、基礎的研究がイノベーションを生むという「サイエンス・プッシュ」の考え方が重要視されていたようです。これに対し、近年では科学技術と市場の間の双方向コミュニケーションの重要性が認識されて、上記のような「サイエンス・プッシュ」と「マーケット・プル」の2つの逆向きの流れを組み合わせる「カップリングモデル」を考慮すべきだと言われています[文献1p.119-121]。さらに、Tiddらは、テクノロジー・プッシュ型か、さもなくばニーズ・プル(必要は発明の母)型かのどちらかといったアプローチの限界は明らかであり、現実には、イノベーションとは何かと何かを結びつけ調和させていくプロセスであって、相互作用こそが最も重要な要素である[文献2p.54]と指摘しています。また、Rogersは「知覚されたニーズがイノベーション過程を始動させたり、イノベーションの知識がそれに対するニーズを創出したりする」[文献3p.410]と述べており、同様の見解は他にもみられます[文献4p.149]

このように、イノベーションにとってはいわゆるシーズとニーズの双方が必要ということは広く認識されていることのようですが、にもかかわらずシーズ志向の研究というものは企業内では評判が悪いように思われます。この原因としては、シーズ志向の研究は、古典的な企業経営の手法すなわち、企業内外の環境分析に基づいて戦略的に目標を設定し、それを効率的に実行するという考え方になじみにくいことがまずあげられるでしょう。それに加え、開発(あるいは導入)された技術と、製品や実機に使えるような技術との間のギャップ(レディネス・ギャップ)を誰がどのように埋めるかがはっきりしないために「研究所で生み出された技術は、市場よりもサイエンスに近いものとして評判が悪い」[文献7p.232]と判断されてしまうこともあると思われます。

これに対し、ニーズ志向の考え方は、その研究がうまくいけば収益が上がるはずだ、という期待から、テーマ設定において重視される場合があります。しかし、真のニーズを理解することはそう容易ではない、として、ニーズ志向の考え方に否定的な見解を持つ人もいるようです。例えば、顧客にヒヤリングして得たニーズは、実現できた方がよいという程度の顧客の希望であることも多く、また、何らかのイノベーションが実現した後になって初めて、顧客がそうしたニーズがあったことに気づく場合もあると言われます。破壊的イノベーションの理論では、真のニーズとは、「片づけるべき用事」[例えば文献4、p.119]に基づくものとされ、その真のニーズを見出す方法として行動観察などのエスノグラフィー的な手法が着目されています。ニーズというと、顧客や、顧客と接する他部署から与えられるものと考えがちですが、好ましくは、研究部隊がニーズの把握段階から関与すべきものなのかもしれません。結局のところ、ニーズ志向、シーズ志向という考え方については、二者択一ではなく、両者を重視したテーマ設定が求められるようになってきているということのようです。

ただ、シーズを創造し、磨くことは多くの場合研究部門に求められる、研究部門ならではの業務です。特に技術的シーズに関しては、専門的な知識や訓練が必要とされることが多いため、研究部門以外の部署では取り扱いが困難な場合もあるでしょう。従って、シーズに基づく研究テーマが求められる場合には、研究部門がその検討を行なうことが最も合理的ということになります。研究部門にとっても、技術シーズは身近に存在するため、シーズを発展させるプロセスに技術者が関与する余地が大きく、成果も得やすいというメリットもあって、取り組みやすいものです。さらに、シーズ技術がそれ自身で(ニーズがなくても)成長し、さらに新たなシーズを生み出す可能性がある点も重要でしょう。

シーズ技術のもつこのような特性は、セレンディピティーにも繋がるものと考えられます。セレンディピティーとは、偶然に幸運な予想外の発見をする能力を指し、Robertsは、以下の2種類に分類しています。[文献1、p.198] [文献8、p.ix]
・擬セレンディピティー(pseudoserendipity):追い求めていたことを、偶然に発見できること
・真のセレンディピティー(true serendipity):思ってもみなかったことを、偶然に発見できること
このうち、真のセレンディピティーは「予想外」の結果に基づくものであるため、オリジナルなものとなることが多く、差異化のためには特に重要と考えられます(擬セレンディピティーであっても発見に偶然を必要とするものは同様です)。セレンディピティーに恵まれれば、それは競合他社が容易に達成できる成果ではなく、技術的に優位に立つための重要な足がかりになるはずです。ただ、真のセレンディピティーは、目的志向を強く意識した研究においては目的外の結果や単なる異常値として見逃されてしまうこともありうるので、注意が必要です。

このように、いわゆるシーズ志向のテーマは、ニーズとの組み合わせでイノベーションを達成するための重要な要素となると考えられますが、シーズとしては、現有の技術を単に深めるだけではなく、外部の技術、埋もれた技術、失敗の結果に終わった技術なども加える必要があるでしょう。そして、真のニーズを理解した上で、シーズとニーズをうまく組み合わせて、より可能性の高い研究テーマを、研究部門が実施したいと考えるテーマとして実施していく努力をすべきなのだと考えます。

考察:実践的な研究テーマの分類について
このノートでは、基礎研究、応用研究といった研究の分類についての議論は行なっていません(「」参照)。それは、こうした研究の分類は実践的にあまり役に立たないように思われるためですが、ノート4~6において、3つの側面から研究テーマの性格の違いについて議論しました。研究というものは、その内容や位置づけなどが異なっていれば、その効果的な進め方や注意点は当然違って然るべきと考えられますが、もし、テーマをうまく分類することによって、そうした好ましい進め方に関する理解が深まるならば、そうした分類には意味があるのではないかと考えています。

ノート4~6で試みた3つの視点によるテーマの分類は、それぞれが排他的なものではなく、同時に2種類の特徴を持つテーマや時間の経過とともにその分類が変わっていくテーマも想定しているものです。ただ、この分類は、誰がその研究テーマを主体的に判断するかが異なっていること、それによって、研究部門の役割と注意点が変わってくることが、特徴としてあげられると思います。具体的には以下に示すとおりです。
①企業収益に結び付くテーマ(事業的に成功が期待されるテーマ):判断主体は経営層。最終的に経営に寄与することを目指すため、全社的なテーマとなる可能性があり、研究部門の役割は、全社的なテーマ推進の中で分担する役割をこなすことになる。経営層への専門的助言も役割のひとつ。
②研究部門に求められるテーマ(企業が研究部門に求める活動と、それに付随する研究テーマ):判断主体は研究部門以外の部署。研究部門の役割は、まず外部からの期待に応えること。その上で、よりよいものを生み出せれば望ましい。
③研究部門が実施したいと考えるテーマ(研究部門が主体的に提案するテーマ):判断主体は研究部門。研究部門の役割は、イノベーションの種を生み、育てること。シーズであろうとニーズであろうと、あらゆる情報を集めて組み合わせて種を生む研究部門の能力が問われる。

もちろん、こうした視点は、現状では私のアイデアにすぎませんが、企業における研究部門の役割を考えると、このように分類することは、それぞれのテーマの効果的な遂行方法を考える手がかりになるのではないかと思っています。


文献1:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.
文献2:Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K., 2001、後藤晃、鈴木潤監訳、「イノベーションの経営学」、NTT出版、2004.
文献3:Rogers, E.M., 2003、三藤利雄訳、「イノベーションの普及」、翔泳社、2007.
文献4:Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J., 2008、栗原潔訳、「イノベーションへの解実践編」、翔泳社、2008.
文献5:Polanyi, M., 1966、高橋勇夫訳「暗黙知の次元」、筑摩書房、2003.
文献6:Nonaka, I., Takeuchi, H., 1995、梅本勝博訳、「知識創造企業」、東洋経済新報社、1996.
文献7:Leonard-Barton, D., 1995、阿部孝太郎、田畑暁生訳、「知識の源泉」、ダイヤモンド社、2001.
文献8:Roberts R.M., 1989、安藤喬志訳、「セレンディピティー」、化学同人、1993.

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