研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2014年02月

マネジメントについての考察など・目次(2014.2.23版)

「マネジメントについての考察など」というカテゴリーではマネジメント全般の話題や研究マネジメントに関する私見などを書かせていただいています。この目次は記事表題とリンクのリストになっていますが、別ページに要約入りの目次(「その1」「その2」)を設けています。それぞれの「参考リンク」ページのリンクの接続確認、新たに気付いたリンクの追加も行ないました(各「参考リンク」ページでは内容変更があったもののみ更新日付を変えましたが、それ以外のページも接続確認はしています。)

その1・・・要約入りはこちら
研究総論
技術の的、研究の役割2010.7.25
苦しいときの術開発頼み
2011.9.4
研究とアイデア
創造性を引出すしくみ2010.10.24
アイデアの扱い方と知の呪縛(「アイデアのちから」より)
2012.7.16)、参考リンク
キュレーションと研究開発(勝見明著「キュレーションの力」感想)
2012.3.11)、参考リンク
研究の管理
研究の管理と評価再考2010.8.1)、参考リンク
数値目標の功罪
2012.5.20)、参考リンク
研究者と金銭的報奨2010.9.12)、参考リンク
研究者と金銭的報奨再考:処遇をどうすべきか
2010.10.3
モチベーションは管理できる?
2011.1.23
報連相と研究開発
2011.10.2
技術者流出考
2012.10.8)、参考リンク
研究と人の問題
研究者の齢限界?2010.12.12)、参考リンク
競争心と究開発
2011.3.6)、参考リンク
研究開発とフラトレーション:ルーチンワークの罠
2011.5.8)、参考リンク
幸福感と成果
2012.9.9)、参考リンク
成功体験の意味
2012.12.9
人事のプロへの期待(八木洋介、金井壽宏著、「戦略人事のビジョン」より)
2012.11.18)、
参考リンク
変化の方法(チップ&ダン・ハース著「スイッチ!」より)2013.1.6)、参考リンク
エキスパートになる、育てる(金井壽宏/楠見孝編、「実践知」より)2013.7.15)、参考リンク
「経営学習論」(中原淳著)より2013.8.25)、参考リンク
「イノベーション・オブ・ライフ」(クリステンセン著)とマネジメント理論
2014.1.5)、参考リンク

その2・・・約入りはこちら
研究と組織の問題
プレイングマネジャーの功罪2011.4.10)、参考リンク
研究組織におけるコミュニケーションの難しさ
2011.11.13
研究における企画という仕事
2012.2.12
部下を守る?組織を守る?技術を守る?
2012.4.30)、参考リンク
研究者の主体性
2012.6.24)、参考リンク
研究とプレッシャー2013.2.3):チームへの影響、参考リンク
フューチャーセンターとは
2013.6.9)、参考リンク
研究の進め方
魔の川、死の谷、ダーウィンの海を越える2012.1.15)、参考リンク
技術を維持する-イノベーションの負の側面への抵抗2010.11.14
研究開発におけるスピードと俊敏さ-「加速の罠について」
2011.2.13)、参考リンク
思考停止をもたらすもの
2011.7.31)、参考リンク
研究開発と会議
2011.10.23
協力的環境と研究-「不機嫌な職場」に学ぶ
2011.12.18)、参考リンク
正しい現場主義と研究開発
2012.4.8
試行錯誤のプロ
2012.8.12
協力と支援(シャイン著「人を助けるとはどういうことか」より)
2013.3.3)、参考リンク
ファシリテーションの意義
2013.4.14)、参考リンク
デザインとイノベーション(エスリンガー著「デザインイノベーション」より)
2013.5.12)、参考リンク
不確実な状況に対処する方法(ケイ著「想定外」より)2013.9.29)、参考リンク
目的工学とは
2013.11.4)、参考リンク
チェックリストの力(ガワンデ著「アナタはなぜチェックリストを使わないのか?」より)
2013.12.1)、参考リンク
研究における判断と説得
イノベーションとあいまいな意思決定(判断の根拠は何か?、ヒューリスティクスの活用?)」2011.1.3)、参考リンク
意思決定の罠(モーブッサン著「まさか!?」より)
2012.10.28)、参考リンク
ビジネス書の間違い?-『なぜビジネス書は間違うのか』
2010.8.11):Rosenzweig著、参考リンク
経営判断の頼りなさと経営学(ヴァーミューレン著「ヤバい経営学」より)2014.2.9)、参考リンク
研究開発事例
2010年のベスト50発明(「Time」2010.11.22号)2010.12.5)、参考リンク
1年後のTime誌「2010年のベスト50発明」
2011.12.25)、参考リンク(上と同じ)
3年後のTime誌「2010年のベスト50発明」
2013.12.23)、参考リンクは上と同じ



ノート10改訂版:研究組織の望ましい特性と運営

1、研究開発テーマ設定とテーマ設定における注意点→ノート1~6
2、研究の進め方についての検討課題
2.1
、研究を行なう人の問題
→ノート7~8
2.2
、研究組織の問題
①研究組織の構造→ノート9

②研究組織の望ましい特性と運営
ノート
では、研究組織の構造について、人や組織同士がどうつながっているかの観点から主に考えてみましたが、研究活動にとって望ましい組織形態というものを特定することはなかなか難しいようです。その理由はおそらく研究活動の特性によるものなのでしょう。もし研究組織の構成員が、業務を分担する部品のような存在であれば、その活動を管理できるような構造を考えればよいのでしょうが、事前に業務の内容や分担がはっきりとは決められず、臨機応変の対応や当初の計画にない創発的な対応が求められる研究活動は、計画的な分業や管理に向いているとは言えないように思います。すなわち、組織構造の形態的な面を検討するだけでは不十分で、組織にどのような人を集め、その組織をどのように運営して望ましい特性を発揮するようにするかも考慮しなければならないと言えるでしょう。

では、研究組織にはどのような機能・特性が求められるのでしょうか。ノート5で検討した研究部門に求められる活動のなかでも、最も重要なものは創造性の発揮、すなわち、答えが未知の課題に取り組み、課題解決の方法を創造することでしょう。加えて、単に成果を得るだけでなく、その成果が上位の組織(会社や社会)の方向性に合っていることや、研究成果の実現のために他の組織と協働することも求められるはずです。以下、このような要求に応えられる組織のあり方を考えてみたいと思います。

創造性を発揮できる組織
例えば野中郁次郎氏は「場」というコンセプトを提示しています。その考え方は次のようなものです。
対話と実践という人間の相互作用により、知識を継続的に創造していくためには、そうした相互作用が起こるための心理的・物理的・仮想的空間が必要であり、そうした空間を「場」と呼ぶ。そこでは、参加者の間で自他の感性、感覚、感情が共有される相互主観が生成し、個人は自己の思惑や利害などの自己中心的な考えから開放され、全人的に互いに向き合い受け容れあう。場は動的文脈であり、常に動いている。「よい場」の条件は、1)独自の意図、目的、方向性、使命などを持った自己組織化(=自律性が必要)された場所でなければならない、2)参加するメンバーの間に目的や文脈、感情や価値観を共有しているという感覚が生成されている必要がある、3)異質な知を持つ参加者が必要、4)浸透性のある境界が必要。文脈共有には一定の境界設定が必要だが、必要に応じて境界を開いて新しい文脈を取り入れ、あるいは必要に応じて境界を閉じて中の文脈を守る、というのが「浸透性のある境界」の考え方、5)参加者のコミットメントが必要。場において生成する「コト」に「自分のこととして」かかわることによって知識は形成される。こうしたコミットメントを得るためには、信頼、愛、安心感、共有された見方や積極的な共感などが必要。知識創造には内因的モチベーションが必要(外因的要因には暗黙知の表出化を推奨する効果は期待できない)。内因的モチベーションが有効に機能するには、仕事において創造性を要求されること、内容が広範囲で複雑で幅広い知識が必要とされること、暗黙知の移転と創造が不可欠であることのいずれかが含まれなければならない[文献1、p.59-79]。
もちろん、創造的な組織の特徴はこれに限られるものではなく、例えば、Tiddらは、イノベーティブな組織に関する先行研究に基づき、組織構造以外に、ビジョンの共有、リーダーシップ、イノベーションへの意欲、鍵となる個人、効果的なチームワーク、個人の能力向上の継続と拡充、豊富なコミュニケーション、イノベーションへの幅広い参画、顧客指向、創造性ある社風、学習する組織、といった要素が重要と認識されていると述べています[文献2、p.371]。いずれにしても、組織構造のみならず、こうした特性を考慮することも重要、ということでしょう。ここでは、野中氏の挙げた要素をもう少し深く考えてみることにします。

自律性
野中氏は「組織のメンバーには、事情が許すかぎり、個人のレベルで自由な行動を認めるようにすべきである。」と言い、そうすることによって、組織は思いがけない機会を取り込むチャンスを増やし、個人が新しい知識を創造するために自分を動機づけることが容易になる、と述べています[文献3、p.112]。このような自律性の重要性についての主張は、研究開発の成功例において、その組織が自律(自立)的であった例が多いと感じられることからも信頼に足るものと思われますが、トップダウンの組織では部下の自律性を許容することと、部下にトップダウンの命令を実行させることは相容れない可能性があるでしょう。このような状態で自律的であるためには、トップと部下の間での信頼を築くことが必須のように思います。例えば、ホンダでは、「自立(自律)、平等、信頼」が「人間尊重の哲学」として重視されている[文献4]そうです。また、KimMauborgneは「公正なプロセス」の重要性を指摘しています。公正なプロセスの要素は、関与、説明、明快な期待内容、という3つの要素で構成され、このプロセスをとることによって、自分の意見が重んじられているという信頼と関与が生まれ、自発的な協力が発生することによって、期待を超える水準の献身が期待できるということですが[文献5、p.226]、これは同時に自律性の高い組織の特徴とも言えるのではないでしょうか。このような考え方を明示することによって、自律と放縦の区別が可能になり、周囲からの信頼を得やすくなるのではないかと思われます。

目的・感情・価値観の共有
組織にとって、基本理念、ビジョンを持つことの有効性は、CollinsPorrasの指摘する通りと考えられますが[文献6]、特に研究活動においては守るべき基本理念、ビジョンを持つことによって、目的・感情・価値観の共有が実現され、これによって、メンバー相互の意思疎通が効果的になり、また、細かな管理をしなくても行動の方向性が統一されやすくなることが創造性の発揮によい影響を及ぼすと考えられます。不確実、予想外のことを取り扱う研究活動においては定型的な対応が困難な場合が多いので、守るべき基本理念がないと一貫した組織的な対応がとりにくくなったり、モチベーションが低下したりする場合もあるのではないでしょうか。さらに、Collinsは組織飛躍のためには、単純明快な概念(針鼠の概念)すなわち、世界一になれる部分、情熱をもって取り組めるもの、経済的原動力になるものの重なる部分を理解し、この概念を確立することが必要と述べていますが[文献7、p.130]、この考え方は研究開発活動の具体的な進め方を考える上で重要な示唆を与えるものと思われます。

多様性
野中氏らは、組織的知識創造を促進する要件として、組織の意図、自律性、ゆらぎと創造的なカオス、冗長性(当面必要としない仕事上の情報を重複共有すること)、最小有効多様性(複雑多様な環境に対応するためには、組織は同程度の多様性を内部に持っている必要があることを指す)を挙げています[文献3、p.118-123] [文献8、p.77]。また最近では、多様性によって問題解決や予測がうまく行えるようになりうることが、複雑系の研究者によって指摘されています[文献9]。ただし、「多様性を追求する際には、多様性と能力のバランスを取ることを忘れてはいけない。・・・能力は多様性と同じく重要だ[文献9、p.444]」、という指摘はよくわきまえておく必要があるでしょう。多くの研究組織は類似する技術分野の人から構成され、先輩から後輩への技術伝承が専門性の育成に重要とされることも多いため、発想の画一化による創造性の低下が懸念されるとはいっても、例えば、多様性を確保する目的で人事ローテーションを行なって個人に様々な経験をさせることは専門性育成の阻害につながる可能性もあります。専門性の充実と多様性の確保のバランスをとるためには、おそらく個人に様々な経験を積ませることよりも、様々な人材をひとつの組織に集めることで組織としての多様性を確保する方が効果的と思われます(もちろん、度が過ぎなければ個人にとって専門性の異なる経験は非常に重要ですが)。

浸透性のある境界、参加者のコミットメント
これらは、組織が閉鎖的になりすぎてはいけないこと、メンバーが目標達成に積極的に関わる組織にすべきであることを示唆していると思いますが、いずれもコミュニケーションに深く関係していると思います。組織に多様なメンバーを集めることができたとして、多様性を有効に活用するためには、コミュニケーションを活性化する必要がありますし、コミュニケーション不足でメンバーに適切な情報が与えられなければ業務への積極的な関与も期待できないでしょう。コミュニケーションのための仕組み(例えば頻繁なミーティングなど)と、異なる意見を受け入れる組織風土がなければ多様性の維持活用は不可能と思われます。組織内でのコミュニケーションに加え、組織外部とのコミュニケーションも重要です。ただし、基礎研究的な性格を持つプロジェクトについては外部とのコミュニケーションと研究成果の間に正の相関があるが、開発研究や技術サービスを行なう組織では負の関係があることを示す研究もあるようです[文献8、p.70]。野中氏も指摘するように、実際には必要に応じて境界を開けたり閉めたりするコントロールが必要とされるのでしょう。また、外部との結び付きの強さに関しては、Rogersはグラノベッターにより提唱された「弱い絆」の重要性を指摘しています[文献10、p.303]。これは重要な新しい情報は親密な関係の人よりも、それほど親しくない関係の人からもたらされるというもので、親しくない人との接触機会は少なくても、得られる情報は親密な人からの情報に比べて新しいことが多いことに基づいていると理解できます。誰とコミュニケーションすべきかについての重要な示唆を与えてくれる考え方だと思います。

組織の方向性・協働
組織の活動やアウトプットを、より上位の組織(会社全体)の方向性に合わせること、他の組織と協働することのためには、他の組織との間での目的・感情・価値観の共有、異なる意見を受け入れる組織風土、信頼関係、コミュニケーションなどが重要になるでしょう。イノベーションを担当するチームと社内既存組織とが協働してイノベーションをうまく進めるために、どのようなチームを作り、どのようにマネジメントを行うべきかについてはGovindarajanらによる提案[文献11]がありますが、基本的な考え方は上記のものと同様であるように思われます。

考察:なぜこういう考え方が必要とされるのか
以上、組織の特性と運営について、特に重要と思われる指摘をまとめてみました。研究グループのリーダーにとっては組織の形態は与えられているもので変更はできないことがほとんどでしょうから、その環境において最大の成果を挙げるために、組織の特性を理解し効果的に運営を行なう努力は重要であると考えられます。しかし、現実には、このような考え方は企業内部では一般的ではないかもしれません。研究開発や知識創造に関わりの少ない部署では、別のマネジメント思想があり得ますし、コミュニケーションや社内連携をしなくても仕事ができる部署はそうした必要性を認識していないかもしれません。また、多様性や冗長性は、ムダを排する効率優先の思想とは相容れない可能性もあります。

しかし、以下のような社会の変化を考慮すると、イノベーションの達成のためには、本稿に述べたような組織の運営を行なうことで、メンバーおよび組織の能力の発揮を狙うことは必要なことなのではないでしょうか。
・個々の技術が専門化して、個人の理解には限界があること
・技術が複雑化し、様々な要因がからみあって、未来の予測が困難になっていること
・技術の交流が活発化し、一旦確立した競争優位の維持が難しくなっていること
・技術的優位だけでは成功を得にくくなり、ビジネスモデルのイノベーションが求められること

要するに、これからの時代、イノベーションは天才的な一個人の活躍や、個人および研究部隊の努力だけでは実現しにくくなり、組織内外での協力、協働が不可欠になってきているのではないかと思います。しかし、個人や組織の高度な専門性がなければ、協力だけでは大きなイノベーションは期待できないでしょう。高度な専門性を確保しつつ、ここに述べたような点に注意して好ましい組織運営を行うことは、組織の構造によらず、イノベーション実現のために必要なことなのではないでしょうか。


文献1:野中郁次郎、遠山亮子、平田透、「流れを経営する――持続的イノベーション企業の動態理論」、東洋経済新報社、2010.
文献2:Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K., 2001、ジョー・ティッド、ジョン・ベサント、キース・バビット著、後藤晃、鈴木潤監訳、「イノベーションの経営学」、NTT出版、2004.
文献3:Nonaka, I., Takeuchi, H., 1995、野中郁次郎、竹内弘高著、梅本勝博訳、「知識創造企業」、東洋経済新報社、1996.
文献4:小林三郎、「ホンダイノベーション魂 第16回 自律、信頼、平等」、日経ものづくり、2011年7月号、p.103
文献5:Kim, W.C., Mauborgne, R., 2005W・チャン・キム、レネ・モボルニュ著有賀裕子訳、「ブルー・オーシャン戦略」、ランダムハウス講談社、2005.
文献6:Collins, J.C., Porras, J.I., 1994、ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス著、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー」、日経BP出版センター、1995.
文献7:Collins, J., 2001、ジェームズ・C・コリンズ著、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」、日経BP社、2001.
文献8:三崎秀央、「研究開発従事者のマネジメント」、中央経済社、2004.
文献9:Scott E. Page, 2007、スコット・ペイジ著、水谷淳訳、「『多様な意見』はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき」、日経BP社、2009
文献10:Rogers, E.M., 2003、エベレット・ロジャーズ著、三藤利雄訳、「イノベーションの普及」、翔泳社、2007.
文献11:Vijay Govindarajan, Chris Trimble, 2010、ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル著、吉田利子訳、「イノベーションを実行する 挑戦的アイデアを実現するマネジメント」、NTT出版、2012.


参考リンク

ノート目次へのリンク



経営判断の頼りなさと経営学(ヴァーミューレン著「ヤバい経営学」より)

誰でも、自ら進んで誤った判断をしたい人はいないと思います。経営者も会社の成功のため、正しい判断をしようとしているはずだと思いたいところですが、本当にそうでしょうか。ヴァーミューレン著「ヤバい経営学」[文献1]では、「ビジネスで何が起きているかを明らかにする。経営者の正体を探り、ビジネスの世界に見られる誘惑、さまざまな仕組みによる影響、また、ときに無意味な仲間意識や、企業の戦略というものを細かく見ていく[p.4]」ことをつうじて、経営における様々な判断、行動がいかに頼りないものかが示されています。邦訳の書名からは世間受けを狙った本という印象を持たれてしまうかもしれませんが、そんなことはなく、原著の表題(Business Exposed: The Naked Truth about What Really Goes on in the World of Business)が示すとおり、知っておいて損はない様々な話題、特に「ビジネスにおけるおかしな点」が取り上げられていて興味深く感じました。

本書の特徴は、「説明することはすべて、厳格な研究と立証できるだけの事実にきちんと基づいている[p.5]」ということでしょう。実際、企業での実務で感じていた日頃の疑問が解消されたと思えるような話題もありました。以下では、特に興味深く思われた点を、私なりの分類で整理したいと思います。

経営者の意思決定には何が影響するか
・「競合他社もやっているから」、集団慣性(不思議な習慣)[p.9-12
・「多数の無知」:「自分たちが間違った方向に向かって進んでいることに気づいても、誰もそれを口に出さなければ、行き詰るまでみんなでその現状を維持してしまう[p.17]」。
・「最適弁別性理論」(「少し変わったことをしようとする[p.18-19]」
・成功の罠:「大きな変化が起きると、成功して油断していた企業は、新たな状況にうまく対応できない[p.44]」。
・視野狭窄(トンネルビジョン):「頭を支配しているエゴが、視覚をねじ曲げることで起きる[p.47]」。
・立場固定:状況がよくなくてもプロジェクトをやめられない[p.51]。
・集団思考:メンタルモデルに沿わない考え方を無視し、集団で非合理的な意思決定をしてしまう。[p.54
・「激しさや野心といった性質は、部族の長になるのに役立つものであっても、将来的に安定した組織を築くためには有益であるわけではない」「トップになる可能性の高い人の性格とは、部族をトラブルに巻き込むものでもある」[p.77]
・「買収経験豊富で自信過剰な経営者は、ほとんどの場合、自分の掘った穴に落ちてしまう[p.105]」。
・「会社が異なったり、時期が異なったりすれば、異なったリーダーが必要[p.120]」。
・利益の相反:コンサルティング会社などで企業内部で機密が漏れないようにする「チャイニーズウォール」は十分とはいえない[p.128-131]。「アナリストは利益の相反という問題を抱えている[p.131]」。
・「わたしたちは自分に似た人が好きだ。そして、自分に似た人こそ、他の人より優秀だと考える[p.151]」。
・「経営者がストックオプションを大量に持っているときは、経営者はリスクを積極的に取るようになる。」「ストックオプションを多く抱える経営者は、大勝よりも大敗することのほうが多い。」[p.158-159
・予言の自己実現:「人間は何がうまくいって、何がうまくいかないかについて先入観念を持っている。よって結果的に、その思い込みが正しいと信じ込んで無意識に頑張る。[p.178]」

情報解釈の誤り
・「選択バイアス」:「何らかの理由で選ばれた部分的な結果ばかりを見て、間違った結論を導く[p.21]」。
・「数字ばかりに目を向けていると、重要だが数値化できない視点が抜け落ちてしまう[p.24]」。
・フレーミング効果:「少し書き方が異なるだけで、同じ選択肢から選ぶ答えが変わってくる[p.61]」「問題が『チャンス』になるのか『脅威』になるのかは、結局は捉え方次第[p.63]」。
・「ビジネスやリスクを伴う場面では、『最優秀者』には注意をしよう。一番トップに来ている人は、ラッキーなだけのおバカさんであることが多いからだ。[p.112-113]」
・「対応バイアス」:「うまくいっていると、自分の手柄にする。うまくいかないと、他人のせいにする。」「競合他社の業績になると、このバイアスはさかさまになる。経営者は、競合他社の好業績を外部環境のせいにし、競合他社の不振はその会社の経営者の問題のせいにする。[p.113-114]」
・「私たちや投資家、アナリストなどは、企業が発表している内容について気にする反面、企業が実際に何をしているかについては、あまり気にしていない[p.176]」。
・「『関係があることと、因果関係があることは異なる』・・・成功企業がコアビジネスに集中し、強固な企業文化を持っているからといって、成功の原因だということにはならない。・・・そういう成功企業の特徴をただ真似ることは、逆に会社を成功から遠ざけてしまう可能性がある[p.182-183]」。

戦略に関する問題
・「大成功に導く戦略、または非常に革新的な戦略というものは、合理的なプロセス、もしくは経営トップの独断から生まれることはない[p.40]」。
・「対脅威萎縮効果」:苦しい会社はコアビジネスに集中し、自分たちが考える強みを、今まで以上に強化しようとする。それと同時に、コアビジネス以外のビジネスは切り離して、コストを切り詰め、嵐をなんとかやり過ごそうとする[p.64]
・「時間圧縮の不経済」:「組織が努力や成長を短期間に詰め込むのは、それを長い期間にわたって行うよりも非効率である(ディリックス、クール)[p.83]」。
・「ほとんどの買収は失敗する[p.102]」。
・経営合理化:「普通の会社は人員削減の恩恵を受けることはできない。もちろん、経営不振の企業は何か手を打たなければいけない。しかし、ただ人数を減らすだけでは、どうにもならない」「なぜ人員削減策がうまく機能しないのか。最初に言えるのは、・・・残った社員のモチベーションを下げるからだ。」[p.187
・流行りの経営手法(目標管理、ゼロベース予算、トレーニンググループ(Tグループ)、Y理論、Z理論、多角化、マトリックス組織、社員参加型経営、歩き回る経営、多能工化、QCサークル、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)TQM(総合的品質管理)、チーム経営、シックスシグマ、ISO9000といったもの):「流行りの経営手法を導入した会社は、導入していない会社と比べて業績が良いわけではない」[p.190]。「経営手法は、組織の機能を改善させるためにある。しかし、実際はただ効果がないだけではなく、予想もしなかったマイナスの結果を生むこともある。この予想もしなかったマイナス結果は、表面化するまで時間がかかる。そのため、企業はこの長期的には全く効果がない手法を導入してしまう[p.193]」。
・「長期的な戦略に固執して、ただ着実に実行しようとすると、目の前に突然現れる障害物に素早く反応できない。[p.224]」
・「成功した会社は、長期的にはトラブルに巻き込まれることが多い。その理由は、視野が狭くなり、同じことをやり続けるようになるからだ。・・・定期的な組織再編は、このような硬直化を防ぐことができる[p.257]」。
・「多くの企業は間違った金銭ベースの理論に基づいて、間違ったやり方を実践している。それは、結果的に企業が望む結果を達成するどころか、むしろ阻害してしまっている。[p.277]」

・メジャーリーグチームの調査では、給与格差が大きいほどチームの成績は低迷する。[p.279-280

イノベーション・研究開発について
・活用が探索を追い出す:「組織は自分たちの得意なこと、成功し儲かっていることにますます集中しようとする。しかしこんなやり方は、今は儲からなくても、長期的には重要になる(もしくは、すでに重要な)ものを犠牲にしている[p.56]」。
・「会社が古く、そして金持ちになればなるほど、イノベーションが起きなくなる」「古い企業でも多くのイノベーションを生み出しているが、そのイノベーションはあまり重要ではなかったり、今までの研究の焼き直しだったりすることが多い」[p.59]。
・「うまくいっていないときは、イノベーションを起こすチャンスなのだ。嵐をやり過ごせるという、はかない希望にすがって、避けることができない未来をただ待ってはいけない。嵐で本当に死ぬかもしれない。そうではなく、手段があるうちに嵐から抜け出さなくてはいけないのだ。[p.68]
・「業績の悪化に直面しているときには、・・・オープンになることだ。新しいアイディアやイノベーションが起こるように、ボトムアップで試行錯誤してみるのだ[p.70]」。
・「企業がISO9000を導入すると、既存分野の発明が急激に増えていた。その反面、新しい革新的なイノベーションが犠牲になっていた。[p.194]」
・「社内文書データベースは、どんなに頑張ってもあまり役には立たない。・・・本当に重要なノウハウは、紙に書くことができないことが多い・・・そのノウハウとは、組織や競争力の源泉にもなっている、複雑な構造の一部だ。こういうものは、表現したり紙に印刷したりできない、大きな暗黙知の部分を持っている。つまり、このノウハウを得るには、直接やりとりしないといけないのだ[p.214-215]」。
・「研究開発に投資することには、2つのメリットがある。一つ目は新しいものの発明だ。二つ目は他社が発明したものを理解し、吸収し、適用する能力の獲得だ。[p.218]」
・中国の医薬品業界のイノベーションを調査した結果では、イノベーションは成長ももたらさず、存続率を長くする効果もない[p.226-228]。
・「イノベーションを生み出す革新的な組織であり続けることは簡単ではない・・・。業績が悪化するまでイノベーションに投資するのをやめたとしよう。業績が悪くなり、問題から抜け出すためにイノベーションを起こそうとしても、手遅れだ。意味のあるイノベーションを起こすには時間がかかる。[p.231]」
・「利益を出すのは良いことだ。多ければ多いほうがよい。しかし、イノベーションがあり続ければ長期的に安定できるし、イノベーションは従業員や顧客をエキサイティングにするだろう[p.233-234]。」
・「多くの会社が、自社だけで革新的になるのは難しいと気づいた。本当のイノベーションを起こすためには、当然さまざまな能力と知識、洞察力が必要だ。しかし一つの組織が、そのような多様性を持つ例は少ない。何か根本的に新しいものを見つけようとするならば、会社の外に目を向けたほうがよいだろう。・・・これは『イノベーションネットワーク』と呼ばれる。他社の知識にアクセスし、自分たちのリソースに加える。そして、自社だけではできなかったことをやろうとする。[p.259]」
――

本書に述べられた様々なトピックスから浮かび上がってくることは、我々が経営に関して持っている認識がいかに当てにならないか、ということではないかと思います。経営者は会社のためを思って様々な判断をしているだろうと思っている認識も危ういものですし、様々な経営手法や考え方も実態は怪しいものである、ということでしょう。経営者や企業経営に影響力のあるコンサルタント、アナリストの判断の危うさには、個人の判断の危うさが影響しているでしょうし、組織としての判断に個人の判断の要素が入り込んでくるという問題も考えられると思います。経営手法については、特定の課題の解決を目指した手法の適用限界という問題、長期的な影響という問題があることは十分に考慮する必要があるでしょう。

では、なぜこうしたことが今まで広く受け入れられてきたのでしょうか。恐らくは、その真偽を明らかにすることができていなかったためなのでしょう。調査と統計的解析に基づく近年の経営学研究によって、経営の実態と経営に関する様々な考え方の有効性が明らかになってきたとすれば、喜ぶべき進歩なのではないでしょうか。もちろん、それぞれの研究結果の適用限界には注意が必要ですし、すべての問題が統計的な手法で解析できるわけではないでしょうが、ある考え方の効果が検証できるようになり、使える考え方と単なる思い込みに過ぎない考え方が区別できるようになってきたとすれば、実務家にとっては非常に役に立ちます。そこまでいかなくても、実務上なんとなく不審に感じていたことの実態がわかったり、何がよくて、何がまずいのかに関して、注意すべき点や解決のヒントが得られたりするだけでも有用です(本書の話題のいくつかは実務的にも重要な示唆を含んでいると感じました)。最終的には問題点の解決策を提示しなければならないとしても、まずは問題点を正しく認識することが出発点になるでしょう。本書のようなアプローチはその意味からも重要だと言えるのではないでしょうか。

経営学が真に使える学問になるためにはまだまだ発展が必要でしょう。著者は「昔のヤブ医者は『血を出すこと』によってすべての病気を治せると言った[p.4]」ことを例えに出していますが、経営学で「当たり前」とされていることはまだヤブ医者のレベルなのかもしれません。人の意思を扱う経営学の研究は医学の研究よりも難しいとは思いますが、経営行動の本質に少しでも近づくことで、よりよい経営方法、イノベーションの進め方が明らかになるのではないか、と思いますし、いずれの日にか、こうした知見が体系化されることにも期待したいものです。


文献1:Freek Vermeulen, 2010、フリーク・ヴァーミューレン著、本木隆一郎、山形佳史訳、「ヤバい経営学 世界にビジネスで行われている不都合な真実」、東洋経済新報社、2013.

参考リンク<2014.2.23追加>




ベキ乗則の可能性(バラバシ著「バースト」より)

イノベーションはランダムに起こるものでしょうか。科学技術発展の歴史をたどると、科学技術は毎年決まったペースで少しずつ発展していくというよりも、ある時期集中的に大きな進歩が見られ、それ以外の時期は比較的ゆっくりとしたペースで進歩していくように思われます。ランダムに見えるような現象に何らかのパターンがあるのかどうかは、イノベーションに限らず興味のあるところです。

複雑系、ネットワークの研究者であるバラバシによる「バースト」[文献1]では、「長い休止期間のあとに、短い集中的な活動期間が続く[p.155]」というバースト現象が考察され、「ベキ乗則(ベキ分布)」がそのひとつの原因になることが述べられています。ベキ乗則自体は最近発見された原理というわけではありませんが、それが思いのほか様々な現象に適用できることが近年明らかになってきたことから注目を集めているようですので、主に文献1に基づいてベキ乗則(ベキ分布)についてまとめておきたいと思います。なお、文献1はベキ乗則の解説書というわけではなく、バーストに関連した様々なエピソードが語られています。興味深い内容ではありますが、そのほとんどを割愛させていただいている点、ご了解ください。

ベキ乗則・ベキ法則・ベキ分布とは(ベキは平仮名や漢字(冪)で書かれることもあるようです)
・ベキ法則(ベキ乗則)とは、「ある変数のベキ(累乗やn乗など。nは定数)で変化する法則[p.150]」。
 要するにy∝xを満たすxとyの関係。
・確率や頻度の分布について、xとなる頻度(確率)∝x-kという分布になる場合もベキ法則の一例。
 ここでkはスケーリング指数と呼ばれる。
・式からわかるとおり、xとyを両対数グラフにプロットして直線が得られればベキ乗則に従っていることになる(ただし、狭い範囲の値では他の分布と見分けがつきにくいこともある)。

ベキ分布の特徴
・「平均から大きく逸脱する少数のデータ点はつねに出現する[p.151]」
・釣り鐘型分布(正規分布やポアソン分布)との「決定的な違いは、分布のすそ野のふるまいである。釣り鐘型の分布では、すそ野は指数関数的に減少する。つまりベキ法則の分布に比べて急激に減少する。・・・それに対してベキ法則の分布では、すそ野はゆっくりと減少し、・・・『稀有な事象』の存在が許される。」[文献2、p.99
・「外れ値の存在を許さないのは、むしろポアソンの世界なのである。ランダムな世界では、グーグルやヤフーが何百万ものリンクを集めることはありえないし、ビル・ゲイツが何十億ドルもためこんだり、戦争で数百万人の命が奪われたりすることもありえない。だが、世界はそのようになってはいない。・・・要するにベキ法則が成り立つような場合には、外れ値はつねに存在すると思ってよいのである。[p.151]」
・「ベキ法則があるかぎり、バーストは避けられない。[p.153]」
・スケールフリー性:ベキ分布ではどのようなスケールでも分布の形が変わらない。

ベキ法則に従う現象の例
・ある人の連続メール発信の間隔[p.152]、戦争の規模と件数(リチャードソンによる)[p.150]、収入の分布(パレートによる)[p.150]、ウェブページのリンク(著者らによる)[p.150]、同じ紙幣が発見される間隔[p.157]、紙幣の移動する距離[p.228]、アインシュタインやダーウィンが出した手紙の反応時間[p.199-201]、動物の食物採取時の移動(レヴィ飛行)[p.234]、人の移動距離の分布[p.258]など

ベキ法則が現れるメカニズムは?
・優先順位づけされた行動がひとつの原因。「優先順位を設定すると、われわれの反応時間は不均等になる。つまり、ほとんどの課題がすぐに遂行される一方、いくつかの課題はいつまでも待たされる[p.181-182]」。
・「食料供給が乏しいときの最も効率的な採取戦略は、数多くの小刻みな歩みと、ときおりの長距離移動を適当に組み合わせること[p.236]」。「あるターゲットを突き止めるのに最も効率のよい戦略は、最も明白で秩序のとれた規則的な戦略ではなく、バーストを含んだ断続的な、あえて言うならでたらめな探索戦略なのである[p.237]」
・上記のような研究成果に対し、ベキ法則の確認のための適切なデータを取得することの困難さを指摘し、「あまりにも多くの現象が、ベキ法則やスケールフリーの用語で説明されている[文献3、p.415]」という懐疑的な見解もあるようです。そのメカニズムについても、「コズマ・シャリジは簡潔に『べき乗則を生む69の方法があり、そのどれもが正しいと判明している』と述べている。・・・現実世界に認められるべき乗則を実際にもたらしているメカニズムがどれなのかを決定する方法は、今のところ不明である。[文献3、p.415-416]」という見解もあり、ベキ法則が観察されるメカニズムについては、文献1の説明は一例と考えておいたようがよさそうです。

このように、ベキ乗則のさまざまな現象への適用についてはまだわからないことが多いようですが、その一方で、「数学者ウォルター・ウィリンジャーと共同研究者は、『自然や人工の複雑なシステムから得られたデータにみられる<べき乗>分布は、例外ではなく標準とみなされるべきだろう』と述べている[文献3、p.440]」ように、期待を持って注目している人々がいることも確かのようです。バラツキのある現象の理解、予測に役立つ考え方のひとつとして認識しておく必要はあるのではないでしょうか。例えば、今まで安易に釣り鐘型の分布を仮定していた現象が、実はベキ分布である可能性は考えてみるべきかもしれません。それによって、現象の予測やリスク評価の考え方が変わることもありうると思います。

さらに理論を使う立場の実践家として大胆な敷衍をお許しいただくならば、イノベーションに対する示唆も得られるのではないかと思います。バラバシは、こうも述べています。「科学はしばしば、・・・飛躍的な前進をしたかと思うと、そのあとには小さな局所的な動きがえんえんと続いて、もうどこにも進めないのではないかと思わせ、場合によっては後退しているようにさえ感じさせる。しかし、これらは決して無駄ではなく、新しいパラダイムの境界線を手探りするために必要な動きなのである[p.261]」。科学やイノベーションがベキ分布に従うのかどうかは明確ではないにしても、何らかの関係があるとしたら、次のような推論が可能かもしれません。
・イノベーションは集中的に発展することもあるが、長い沈黙の後に発展することもある。短期的なイノベーションのみに注力すると、準備期間の必要なイノベーションの芽を見逃すことになる。
・長い沈黙期間は、準備のために必要な期間とも考えられるが、周囲の状況がイノベーションを受け入れられるようになるための待ち時間である可能性もある。めぐってくるチャンスを見逃さないようにするとともに、チャンスが来たときに備えてどういう準備をしておくかも大切である。
・あらゆる仕事に期限をつけて早く答えをだそうとしたり、特定のアイデアだけに注力したりすることは、仕事の優先順位づけを阻害し、バーストのチャンスを失い、可能性の低い仕事に労力を割いてしまったり、効果的に目標をとらえられない可能性がある。
・均質な人材をあつめ、考え方に枠をはめるような、「外れ値」を無視するアプローチは、確率の低い大きな成功や効率的な探索の機会を失うことになるかもしれない(大きな失敗もしないかもしれませんが)。

もちろん、上記のような考え方は単なるアイデアにすぎませんので、真剣に考える必要はありませんが、イノベーションの実現のために多様性が必要なことや、ただ早ければよいとは言えないことなどに、理論的な裏付けを与えてくれるかもしれないと思います。ベキ分布に関する理解はこれからさらに深まっていくと思いますが、正規分布からは外れ値に見えるような事象は現実には起こる場合があるのであって、その外れ値が世の中に大きな影響を与える可能性がありうることだけは認識しておくべきでしょう。文献1の約半分を占める歴史物語で著者が語りたかったことも、そういうことなのではないかと思います。今後、ベキ分布の考え方が世界の理解にどのような意味をもたらすのかはまだわかりませんが、今後の発展に期待して注目していきたいと思います。


文献1:Albert-László Barabási, 2010、アルバート=ラズロ・バラバシ著、青木薫監訳、塩原通緒訳、「バースト! 人間行動を支配するパターン」、NHK出版、2012.
原著表題:BURSTS: The hidden pattern behind everything we do
文献2:Albert-László Barabási, 2002、アルバート=ラズロ・バラバシ著、青木薫訳、「新ネットワーク思考 ~世界のしくみを読み解く~」、日本放送出版協会、2002.
文献3:Melanie Mitchell, 2009、メラニー・ミッチェル著、高橋洋訳、「ガイドツアー 複雑系の世界 サンタフェ研究所講義ノートから」、紀伊国屋書店、2011.
(文献3の15-17章にはベキ乗則について、文献1,2よりは詳しい解説があります。)

参考リンク<2014.3.23追加>



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