研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2014年04月

一技術者からみた「源泉」(ジャウォースキー著)感想

今回は、ジャウォースキー著「源泉」[文献1]を取り上げます。ただし、正直、このブログで取り上げるべきかは少し迷いました。というのも、書かれている内容に理解できない(というよりは「受け入れ難い」)点が多かったためです。しかし、監訳者の金井壽宏氏や、帯にコメントを寄せられた野中郁次郎氏は、本書の内容の重要性をある程度認めておられるように思われましたし、ネットでもそれなりに評価されてもいるようで(私も、マネジメントの実践面では、ひとつの手法として意味がありそうに感じたところもありました)、なぜそれらの評価とは異なる印象を私が持ったのかを、考えてみることにしました。

著者の主張のポイントについての私の理解
著者が探究しようとしている基本的な疑問は次のようなもののようです。「知とつながって、まさにその瞬間に必要な行動をとれるようになる私たちの力の源泉は何なのか[p.31]」。リーダーシップの問題に関していえば、次のような経験、すなわち「私たちの小さなチームは、途中で放り出すことなく作業をやり抜いた。みなで力を合わせて作業している間、私はチームがエネルギー場に包まれているのをはっきり感じた。意識が研ぎすまされている。ふつうでは考えられないくらい頭が冴えて、ものごとの全体がわかるような感じがする。時間がゆっくりと進んでいく。私たちは、極めて難しい作業をまるで造作ないことであるかのようにこなすことができた。・・・チームのリーダーシップは必要に応じ、そのときそのときで切り替わった。私は意識することなく、また誰かに命じられたわけでもなく、行動していた。個人の判断で行動しているという感覚もなく、作業をしていた。私たちはまるで、達成すべきことを達成するために、道具として役立てられているかのようだった。しかし何より、私が衝撃を受けたのは、より深いレベルの知を自分が体現していることだった。これだ、と直観したことは常に正しかった。作業している間、私たちは必要な強さと、勇気と、辛抱強さと、精神力を持っていた。[p.18]」。確かにこのような「フロー」とも呼べるような状態が個人やチームに訪れることはあるでしょう。そうした状態が何によってもたらされるのか、人為的にそうした状態を作れるのかといった点は確かに興味のあるところです。

マネジメントの視点からは次のような問いになるでしょう。「企業家的な衝動の源泉は何か? 知とつながって、まさにその瞬間に必要な行動をとれるようになる私たちの力の源泉は何なのか?[p.23]」。「未来がどのように現れたいと思っているか、それをチームが感じられるようになるようなプロセスを開発すること、そして実際に現れさせることを。そのプロセスは、メンバーの意志と、あり方と、選択によって導かれるだろう。このプロセスの探究によって、どのような分野においても飛躍的な進歩となる変革が起き、今ある世界を変える知を創造することになるだろう[p.24]」。そして、著者らはその答えとして次のUプロセスに至ります。

U
プロセスのアイデアはブライアン・アーサーの考えに基づくとされ、「ひたすら観察する」(Uの左側)ことから始まり、「より深い知の場所に行く」(Uの底)を経て、流れに乗って素早く行動する(U右側)に至る、というものです[p.32]。それをさらに洗練して、Uの左側として、1)準備する(心のセルフマネジメントという規律ある道を歩み始める)、2)目標に向かって情熱を燃え上がらせる、3)観察し、集中する(判断を脇へ置き、存在するデータに集中する)、4)手放す(現在持っているメンタルモデルや、ものの見方や、世界観を手放す)を挙げ、Uの底として、5)内在とひらめき(その取り組みにどっぷり浸かり、その仕事に没頭し、その経験に夢中になる。・・・やがて啓示――新たな現実に対する知覚――を得て、隠された解決策を見出す)を挙げ、Uの右側として、6)結晶化とプロトタイピング(見出されるものを明らかにする)、7)テストと確認(新たな知を、有効な製品や決定や戦略へ変える)、というプラクティスとして提案されます[p.241-243]。

リーダーシップについては、以下の段階における第4段階のリーダーシップを目指すべきだとしています。[p.77-80
・第一段階、自分が中心になるリーダー:「信念がなく、自分の意思のほかにはおよそ何にも左右されない。しかもその意思とは、そのときそのときで変わる可能性があるため、彼らのあり方には誠実さが欠けている。中には、有利かどうかや自分自身の野心を第一に行動し、結果として高い名声や権力を持つ地位に就く人もいるかもしれない。
・第二段階、一定の水準に達しつつあるリーダー:「彼らは、公正さと礼儀とメンバーに対する敬意を何より大切にする。・・・その成功は、メンバーとともに、そしてメンバーを通して成し遂げられる」
・第三段階、サーバント・リーダー:「自分の権力や影響力を使って、メンバーの役に立ったりメンバーを成長させたりする。・・・『強い達成欲求』を示すが、組織のメンバーや社会の誰かを犠牲にすることはない。また、独立への欲求が強く、習慣に従わなければという気持ちはあまりない。さらには、適切にリスクをとろうとする傾向が強く、自己効力感が高く、曖昧さに対して寛容である。そのため、複雑で混乱した時代にあっても成功を収めることができる。」
・第四段階、新生のリーダー:「サーバント・リーダーの特徴と価値観を併せ持っているが、全体的なレベルが一段上がっている。・・・業績の中心には暗黙知を使う力があるが、この暗黙知を活かすと、私たちが望む組織や社会を思い描いて創り出すことを含め、画期的な考えや、戦略策定や、業務上の卓越性や、イノベーションを行うことが可能になる・・・。第四段階のリーダーは、宇宙には目に見えない知性があって、私たちを導き、創り出すべき未来に対して準備させてくれると確信している。

そして、Uプロセスは、「『4つの原理』に示される世界観を持って実践されると、最高の効果を発揮する[p.242]」とされます。4つの原理は次のとおり[p.10]。

(1)宇宙にはひらかれた、出現する性質がある。:一連のシンプルな構成要素が、新しい性質を持った新しい統一体として、自己組織化という、より高いレベルで突然ふたたび現れることがある。そうした出現する性質について原因も理由も見つけることはできないが、何度も経験するうちに、宇宙が無限の可能性を提供してくれることがわかるようになる。

(2)宇宙は、分割されていない全体性の世界である。物質世界も意識も両方ともが、分割されていない同じ全体の部分なのだ。:存在の全体――一つの物であれ、考えであれ、出来事であれ――は、空間と時間それぞれの断片の中に包まれている。そのため、宇宙にあるあらゆるものは、人間の意思やあり方を含め、ほかのあらゆるものに影響を及ぼす。なぜなら、あらゆるものは同じ完全なる全体の部分だからである。

(3)宇宙には、無限の可能性を持つ創造的な源泉(ソース)がある。:この源泉と結びつくと、新たな現実――発見、創造、再生、変革――が出現する。私たちと源泉は、宇宙が徐々に明らかになる中でパートナーになるのである。

(4)自己実現と愛(すなわち宇宙で最も強力なエネルギー)への規律ある道を歩むという選択をすることによって、人間は源泉の無限の可能性を引き出せるようになる。:その道では、数千年にわたって育まれてきた、いにしえの考えや、瞑想の実践や、豊かな自然の営みに直接触れることから、さまざまな教えを受けることになる。

どこが理解しにくい(受け入れにくい)のか
以上が、著者の考えについて議論するために抜き出しておくべきだと私が思った部分です。このうちUプロセスの具体的方法論は、知識創造や新たなアイデアを生み出し実現するプロセスのひとつのやり方として、考慮に値する考え方だと思います。また、リーダーシップの4段階についても、第一から第三段階までの進歩については異論がありません。しかし、Uプロセスの底である、ひらめきの段階で、宇宙にある源泉とつながることで発想を得るかのような説明、第四段階のリーダーシップにおいて宇宙の知性が導いてくれるというようなくだり、さらに、4つの原理の意味しているところは受け入れることができませんでした。

本書では、著者の主張の根拠とされる、様々なエピソードが登場します。量子もつれの話[p.98]が宇宙の全体性(あらゆるものがつながっているというような意味かと思われます)の根拠とされ、人の意思もつながりあっているという根拠とされているようですが、こうした考え方には論理の飛躍があると思いました。また、テレパシーやサイコキネシス[p.136]、遠隔透視[p.142]、予見的感覚[p.172]の例も、科学的な測定結果があることが述べられていますが、仮にそういうデータを認めたとしても、それが本書でいう「源泉」が存在することの根拠にはならないでしょうし、「源泉」と人がつながってこうした効果を発現させているということにもならないと思います。チームとしての一体感や精神的な高揚感、フローのような状態を理解するためにこのような事例を持ちだす必要もないのではないか、と感じました。さらに、ポランニーの暗黙知や知識創造プロセスについての考え方[p.192-200]も、著者の主張に合致するものとして取り上げられていますが、私にはその解釈はポランニーの意図とは異なる著者独自の解釈のように思えました。(他にもエピソードはありますが、いずれも著者の思想の正しさを裏付ける材料としては不十分だと感じました。)

このように、著者の主張は、受け入れられる部分と、受け入れ難い部分が混在している、というのが私の感想です。人の能力を引き出す方法、新しい発想を生む方法、知識創造の方法の各論的主張には、役に立ちそうな点もあるのに対し、その根拠とされている主張には、受け入れにくいものが多く、あえて述べる必要もないもののように思われます。もちろん、そうした「源泉」を探究しようとすること自体は意味のあることと思いますし、本書の主張を受け入れるかどうかは個人の自由だと思います。ただ、上記のような問題が感じられる結果、著者の主張は特に技術者や科学者には受け入れられにくいと思いますので、著者が考えるマネジメント手法の普及に意味があると考えるならば、もっと受け入れられやすい根拠に基づいて考察した方がよいのではないか、というのが正直なところです。

なぜ私にとって受け入れにくいのか
ある論理を受け入れられるかどうかは個人の考え方によります。著者の考え方が受け入れにくい理由を検討してみることで、私の考え方自体および、著者の主張を受け入れられる人との考え方の違いがはっきりするように思いましたので、私が受け入れ難く感じる根拠を考えてみました。

まず挙げられるのは、科学を扱っている者としてのバックグラウンドです。「『科学者たるもの根拠のない主張を受け入れてはならない』というのは、科学のエートスとして割と共有されている前提ではないかと思います[文献2、p.251]」という意見がありますが、私もそうした考えを持っています(もちろん、根拠があると認めるかどうかには個人の判断が関与しますが)。さらに、科学と非科学の境界として、ポパーによる反証可能性の基準、すなわち「そもそも反証があり得ないような仮説は科学としての最低限の条件を満たしていないだろう[例えば文献2、p.62]」という考え方は、多くのケースで有効だと思っています。こうした考え方に基づくと、本書に書かれた内容だけでは、著者の主張を科学的に根拠のあるものと受け入れることには躊躇せざるをえません。ただし、科学的に十分な根拠がないからといってその考え方を否定するつもりもありません。上記のエートスに従えば、反証可能でありながら否定的な根拠がない場合には、肯定も否定もできないものとして扱うべきでしょう。

こうした科学的判断に加えて、ビジネスとして科学、技術を扱う立場からの実用的な判断基準もあると思っています。実際、ビジネスとして成立している技術の中には、科学的に十分に解明されていないものもあると思いますので(例えば、ヒトや生物が関わる分野では経験に頼った技術というものも多いような気がします)、理由はよくわからないけれどうまくいく、というものもビジネスとしては可能性があるといってよいと思います。ただし、その場合でも次の条件は満たす必要があると思います。
1、技術的成果が再現できること(再現できる条件が明確なこと)
2、成果を再現できる条件が狭すぎないこと(ある程度技術に汎用性があること)
上記1の条件が満たされないと、顧客に対して製品やサービスの保証ができず、ビジネスとして成立しません。また、2の条件はビジネスとして必須ではないかもしれませんが、例えば、特定の人でしか実現できない技術(特定の人が持つ特殊な能力を前提とした技術)は、ビジネスの継続性や発展性の点で問題があるように思います。この基準は科学的な基準よりも甘いものですが、残念ながら本書に述べられた考え方は、上記2条件を満足しているとも考えられないため、やはり技術者としては受け入れ難いという印象になってしまうと思います。

もちろん、マネジメントや、技術の創造は一度でもうまくいけばそれで十分、仮に前提が正しくなくとも、終わりよければすべてよし、という考え方もありますので、そこまで否定するつもりは毛頭ありませんが、上述のような科学としての条件を満たさず、技術としての実用的な基準も満足できないような考え方では、少なくとも多くの技術者の理解や支援を得ることは困難なように思います。仮に本書の考え方でうまくいったとしても、次も同じ考え方でうまくいくという保証がなければ、技術者としてはそのリスクを容認しにくいですし、根拠の薄い考えを疑うことによる機会損失のリスクと、信じて失敗するリスクを比較すれば、その考え方に疑いを持つ方がやはり自然なように思われます。

以上、本書についての感想を述べましたが、確たる根拠のない考え方に基づいたマネジメント論は、実は本書以外にも多いのではないか、という気がします。例えば、経験至上の考え方、過去の特定の思想や事例に基づく考え方もその範疇に属するものかもしれません。また、科学的根拠を用いていたとしても、それが特定の分野にだけ偏ったり、考慮すべきことを無視したりすることも同じといえるかもしれません。こう考えると、何かに頼って正解を得ようとすること自体が危ういとも思えてきます。真実を知りたい、正解を得たいと思うのが人間の性であったとしても、実際には、「正解」ではなく、よりましな理解、よりましな選択を得ることしかできない、というのが実際のところなのかもしれません。


文献1:Jpseph Jaworski, 2012、ジョセフ・ジャウォースキー著、野津智子訳、「源泉 知を創造するリーダーシップ」、英治出版、2013.
原著表題:Source: The Inner Path of Knowledge Creation
文献2:須藤靖、伊勢田哲治著、「科学を語るとはどういうことか 科学者、哲学者にモノ申す」、河出書房新社、2013.


参考書・文献・読書録インデックス(2014.4.20版)その1:マネジメント関連

今まで内容の紹介をさせていただいた参考書、文献のリストその1です。
このリストから多少詳しいまとめに行けるようにしています。
概ね著者(グループ)ごとにまとめ、特に重要だと思う文献にはコメントをつけています。文献リストその2(科学に近い内容)はこちら。

まとめページその1収録文献
丹羽清、「技術経営論」、2006
 コメント:技術経営の全体感をつかむならこの本がおすすめです。
丹羽清、「イノベーション実践論」、2010
丹羽清(編)、「技術経営の実践的研究」、2013
後藤晃、「イノベーションと日本経済」、2000
Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K.
、「イノベーションの経営学」、2001
 コメント:技術経営の主要トピックスを網羅。現在は新版(第4版)あり。
Christensen, C.M.
、「イノベーションのジレンマ」、1997
 コメント:技術経営を考えるなら必読。
Christensen, C.M, Raynor, M.E.
、「イノベーションへの解」、2003
 コメント:「イノベーションのジレンマ」続編。これも重要な指摘が多いです。
Christensen, C.M, Anthony, S.D., Roth, E.A.
、「明日は誰のものか」、2004
Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J.
、「イノベーションへの解実践編」、2008
 コメント:クリステンセン著ではありませんが関係者の著書。破壊的イノベーション実践の手引として有用。
Wessel, M., Christensen, C.M.
、「破壊的イノベーションの時代を生き抜く 『拡張可能な中核能力』を見極めよ」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.32.、楠木建「クリステンセンが再発見したイノベーションの本質 イノベーションは技術進歩ではない」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.48.Mounz, M.、「破壊的イノベーター:キバ・システムズ アマゾンも認める新興企業」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.78.Downes, L., Nunes, P.F.、「破壊的イノベーションを越えるビッグバン型破壊 常識を越えたスピードで市場に浸透する」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.90.Gilbert, C., Eyring, M., Foster, R.N.、「相反する2つの変革を同時に進める法 既存事業のテコ入れと将来の糧づくり」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.110.Adner, R., Snow, D.C.、「陳腐化した技術を延命させる戦略 『前向きな退却』を選ぶ」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.124.ブログ記事へ
Brown, B., Anthony, S.D.
、「P&Gニュー・グロース・ファクトリー イノベーションの成功率を高めるシステム」、Diamond Harvard Business Review2011ブログ記事へ
Dyer, J.H., Gregersen, H.B., Christensen, C.M.
、「イノベーターのDNA」、Diamond Harvard Business ReviewApr. 2010p.36.ブログ記事へ
Dyer, J., Gregersen, H., Christensen, C. M.
、「イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル」、2011.ブログ記事へ
Clayton M. Christensen, James Allworth, Karen Dillon、「イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ」、2012ブログ記事へ
Johnson, M.W.
、「ホワイトスペース戦略 ビジネスモデルの<空白>をねらえ」、2010ブログ記事へ
入山章栄、「世界の経営学者はいま何を考えているのか 知られざるビジネスの知のフロンティア」、2012ブログ記事へ
Freek Vermeulen
、「ヤバい経営学 世界にビジネスで行われている不都合な真実」、2010ブログ記事


まとめページその2収録文献
Collins, J.C., Porras, J.I.
、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー」、1994
Collins, J.
、「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」、2001
Collins, J.
、「ビジョナリーカンパニー③衰退の五段階」、2009ブログ記事へ
Collins, J., Hansen, M. T.
、「ビジョナリーカンパニー④自分の意志で偉大になる」、2011.ブログ記事へ
 コメント:ビジョナリーカンパニーシリーズでは②と④が重要と思います。
Nonaka, I., Takeuchi, H.
、「知識創造企業」、1995
 コメント:知識創造理論の基本。ただし、その後の発展もフォローが必要と思います。
野中郁次郎、竹内弘高、「『実践知』を身につけよ 賢慮のリーダー」、Diamond Harvard Business Review2011ブログ記事へ
野中郁次郎、遠山亮子、平田透、「流れを経営する――持続的イノベーション企業の動態理論」、2010.ブログ記事へ
野中郁次郎、紺野登、「知識創造経営のプリンシプル 賢慮資本主義の実践論」、2012.ブログ記事へ
 コメント:知識創造理論が体系的にまとめられ、知識創造理論の全体像を把握するのに最適。
野中郁次郎、勝見明、「イノベーションの知恵」、2010ブログ記事へ
野中郁次郎、徳岡晃一郎編著、「ビジネスモデルイノベーション 知を価値に転換する賢慮の戦略論」、2012.ブログ記事へ
紺野登+目的工学研究所著、「利益や売り上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか ドラッカー、松下幸之助、稲森和夫からサンデル、ユヌスまでが説く成功法則」、2013ブログ記事へ
池田信夫、「イノベーションとは何か」、東洋経済新報社、2011.ブログ記事へ
Berkun, S.、「イノベーションの神話」、2007ブログ記事へ
Rogers, E.M.
、「イノベーションの普及」、2003ブログ記事へ
 コメント:イノベーションを実用化する上で認識すべき普及学の基本。
Kim, W.C., Mauborgne, R.
、「ブルー・オーシャン戦略」、2005
Moore, G.A.
、「ライフサイクルイノベーション」、2005
Moore, G.A.
、「エスケープ・ベロシティ キャズムを埋める成長戦略」、2011.ブログ記事へ
Chesbrough, H.、「Open Innovation」、2003
伊丹敬之、東京理科大学MOT研究会編著、「技術経営の常識のウソ」、2010ブログ記事へ
Davila, T., Epstein, M.J., Shelton, R.
、「イノベーションマネジメント」、2006ブログ記事へ
Govindarajan, V., Trimble, C.
、「イノベーションを実行する 挑戦的アイデアを実現するマネジメント」、2010.ブログ記事へ
Immelt, J.R., Govindarajan, V., Trimble, C.
、「GEリバース・イノベーション戦略」、Diamond Harvard Business Review, Jan.2010, p.123, (2010).ブログ記事へ
Govindarajan, V., Trimble, C.
、「リバース・イノベーション 新興国の名もない企業が世界市場を支配するとき」、2012.ブログ記事へ
 コメント:現在進行形の新イノベーション手法として重要と思われます。
Washburn, N.T., Hunsaker, B.T.
、「新興国市場発のアイデアを橋渡しする 破壊的イノベーターの条件」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 5月号、p.116.ブログ記事へ
Lafley, A.G., Martin, R.L., Rivkin, J.W., Siggelkow, N.、「独創的な戦略を科学的に策定する あらゆる選択肢から検証する7つのステップ」、Diamond Harvard Business Review, 2012.ブログ記事へ
A.G. Lafley, Roger L. Martin
、「P&G式『勝つために戦う』戦略」、2013ブログ記事へ
「競争優位は持続するか」(Rita Gunther McGrath「一時的競争優位こそ新たな常識 事業運営の手法を変える8つのポイント」、Todd Zenger「戦略は価値観に従う 成功する企業セオリーが持つ3つの”sight”」、佐藤克宏「ケイパビリティこそ競争優位の源泉である 戦略の賞味期限が短くなった時代」、Michael C. RyallVCM:価値獲得モデルで戦略を考える 競争優位はエコシステムで決まる」、森本博行「GEの競争優位はなぜ持続するのか 戦略論の系譜から読み解く」、Nicholas Kachaner, George Stalk, Alain Bloch「世界の同族企業からしたたかさを学ぶ」)Diamond Harvard Business Review, November 2013, p.32-118.ブログ記事へ
Carlson, C.R., Wilmot, W.W.
、「イノベーション5つの原則 世界最高峰の研究機関SRIが生みだした実践理論」、2006ブログ記事へ
Ron Adner
、「ワイドレンズ イノベーションを成功に導くエコシステム戦略」、2012ブログ記事へ
Mullins, J., Komisar, R.
、「プランB 破壊的イノベーションの戦略」、2009.ブログ記事へ
Thomke, S., Reinertsen, D.、「製品開発をめぐる6つの誤解 製造プロセスでの効率性は通用しない」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 8月号、p.76.ブログ記事へ


まとめページその3収録文献
堀井秀之、「社会技術論 問題解決のデザイン」、2012.ブログ記事へ
東京大学i.school編、「東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた」、2010ブログ記事へ
Osterwalder, A., Pigneur
Y.、「ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書 ビジョナリー、イノベーターと挑戦者のためのハンドブック」、2010ブログ記事へ
Esslinger, H.
、「デザインイノベーション デザイン戦略の次の一手」、2009ブログ記事へ
Leonard-Barton, D.
、「知識の源泉」、1995
 コメント:研究をする「人」の問題についての重要な指摘が多いです。
Leonard, D., Swap, W.
、「『経験知』を伝える技術」、2005
 コメント:「知識の源泉」とあわせて重要。
Polanyi, M.
、「暗黙知の次元」、1966
Rasmusson, J.
、「アジャイルサムライ――達人開発者への道」、2010.
Schwaber, K.
、「スクラム入門 アジャイルプロジェクトマネジメント」、2004.
勝見明、「
石ころをダイヤに変える『キュレーション』の力」、2011ブログ記事へ
野村恭彦、「フューチャーセンターをつくろう 対話をイノベーションにつなげる仕組み」、2012.ブログ記事へ
Scott D. Anthony
、「スタートアップ4.0 再び大企業の時代へ」、2013Steve Blank、「リーン・スタートアップ:大企業での活かし方 GEも活用する事業開発の新たな手法」、2013James D. Thompson, Ian C. MacMillan、「BOP市場で社会起業を成功させる方法 想定外のリスクにどう対応するか」、2013ブログ記事へ
Eric Ries
、「リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす」、2011ブログ記事へ
三崎秀央、「研究開発従事者のマネジメント」、2004
 コメント:基本的な説明も多く、研究者を考える上で参考になります。
開本浩矢、「研究開発の組織行動」、2006
 コメント:基本的な説明も多く、研究者を考える上で参考になります。
福谷正信、「研究開発技術者の人事管理」、2007
八木洋介、金井壽宏、「戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ」、2012.ブログ記事へ
Kelly, T., Littman, J.
、「イノベーションの達人!」、2005ブログ記事へ
McCall, Jr. M.W.
、「ハイ・フライヤー」、1998
Dixon, N.M.
、「ナレッジ・マナジメント5つの方法」、2000
Rosenzweig, P.
、「なぜビジネス書は間違うのか」、2007ブログ記事へ
Levy, P.F.
、「模範的チームはなぜ失敗したか」、Diamond Harvard Business Review, Feb.2010, p.154, (2010).ブログ記事へ
Heath, C., Heath, D.
、「アイデアのちから」、2007.ブログ記事へ
Heath, C., Heath, D.
、「スイッチ! 『変われない』を変える方法」、2010.ブログ記事へ
Gardner, H.K.
、「メンバーのプレッシャーを克服させる法 大事な時に限って、萎縮してしまう」、Diamond Harvard Business Review, 2012年9月号、p.84ブログ記事へ
Schein, E.H.
、「人を助けるとはどういうことか 本当の協力関係をつくる7つの原則」、2009ブログ記事へ
森時彦著、「ファシリテーター養成講座 人と組織を動かす力が身につく!」、2007ブログ記事へ
金井壽宏、「危機の時代の[やる気]学」、2009ブログ記事へ
 コメント:モチベーション理論の説明が参考になります。
金井壽宏、楠見孝編、「実践知 エキスパートの知性」、2012.ブログ記事へ
中原淳、「経営学習論 人材育成を科学する」、2012ブログ記事へ
上木貴博、「エスノグラフィー 人類学に学ぶ現場主義」、日経ビジネス、2010.12.6号、p.78.
橋本紀子、「『エスノグラフィ』という手法」、RANDOM誌、vol.53p.1(2007).
Bruch, H. Menges, J.I.
、「社員を追い詰める『加速の罠』」、Diamond Harvard Business Review, Dec. 2010, p.76.ブログ記事へ
Perlow, L.A., Porter, J.L.
、「プ
ロフェッショナルこそ計画的に休まなければならない」、Diamond Harvard Business Review, Mar. 2010, p.102.
白石久喜、石原直子編、「事業創造人材の創造」、リクルートワークス研究所、2011.6.1.
高橋克徳、河合太介、永田稔、渡部幹、「不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか」、2008ブログ記事
沼上幹、「やらせメール ご無体な命令が思考を止める」、朝日新聞、2011.7.15.
McGrath, R.G.
、「マイクロソフト、3Mが実践する『知的失敗』の戦略」、Diamond Harvard Business Review20117月号、p.24.ブログ記事へ
大竹文雄、「競争と公平感-市場経済の本当のメリット」、2010ブログ記事へ
Joni, S.A., Beyer, D.
、「あえて戦うべき時、協調や譲歩は本当のチームワークではない」、Diamond Harvard Business ReviewMar. 2010, p.40.
Sutton
R.I.、「社内外のじゃま者と戦う 部下を守る『盾』となれるか」、Diamond Harvard Business Review, 2011, 2月号、p.86.ブログ記事へ
小林三郎、「ホンダイノベーション魂 第16回 自律、信頼、平等」、日経ものづくり、2011年7月号、p.103.
Atul Gawande、「アナタはなぜチェックリストを使わないのか? 重大な局面で“正しい決断”をする方法」、2009ブログ記事へ


参考書・文献・読書録インデックス(2014.4.20版)その2:科学関連

今まで内容の紹介をさせていただいた参考書、文献のリストその2です。
このリストから多少詳しいまとめに行けるようにしています。
概ね著者(グループ)ごとにまとめ、特に重要だと思う文献にはコメントをつけています。文献リストその1(マネジメントに近い内容)はこちら。

まとめページその4収録文献
Roberts R.M.
、「セレンディピティー」、1989
 コメント:技術系以外の方にもセレンディピティーの概念は知ってほしい。
Shapiro, G.
、「創造的発見と偶然」、1986
根岸英一、「発見の条件」、有機合成化学協会誌、vol.54No.1p.1(1996).ブログ記事へ
朝日新聞大阪本社科学医療グループ著、「iPS細胞とはなにか 万能細胞研究の現在」、2011
Moss, F.
、「MITメディアラボ 魔法のイノベーション・パワー」、2011.ブログ記事へ
Hand, E., “People power”, Nature, vol.466, No.7307, 2010.8.5, p.685.
Goodnight, J.
、「クリエイティビティを引き出す」、Diamond Harvard Business ReviewSep., 2006, p.3.
鬼塚俊宏、先読み!人気のビジネス洋書、「卓越した知識・技術を持つ米国版「オタリーマン」を企業で活かす『ギークを指導すること~テクノロジーをもたらす従業員を管理・指導する方法~』 Leading Geeks : How to Manage and Lead People Who Deliver Technology――ポール・グレン著」、DIAMOND online2011.6.10
DIAMOND
ハーバードビジネスレビュー編集部編訳、「いかに『問題社員』を管理するか」、2005
内田賢、「研究者と年齢的限界」、組織行動研究 (Keio studies on organizational behavior and human performance). No.26 (1996. 3) ,p.67- 75.
文部科学省「科学技術要覧平成22年版」田嶋清一、「自分と向き合う心理学」、2007
Peterson, C.
、「実践入門 ポジティブ・サイコロジー 『よい生き方』を科学的に考える方法」、2006ブログ記事へ
Achor, S.
、「PQ ポジティブ思考の知能指数 幸せな気持ちになると、何事もうまくいく」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 5月号、p.58.
Spreitzer, G., Porath, C.
、「社員のパフォーマンスを高める 幸福のマネジメント」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 5月号、p.46.
Gilbert, D.
、「些細な出来事の積み重ねが幸福感を左右する 幸福の心理学」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 5月号、p.34.
Kay, J.、「想定外 なぜ物事は思わぬところでうまくいくのか」、2010.ブログ記事へ
Michael Nielsen
、「オープンサイエンス革命」、2012ブログ記事へ
Chris Anderson
、「MAKERS〔メイカーズ〕21世紀の産業革命が始まる」、2012ブログ記事へ

まとめページその5収録文献
Carson, S.
、「天才と変人 解き放たれた知性」、2011Simonton, D.K.、「創造性の起源」、2012Snyder, A.W., Ellwood, S., Chi, R.P.、「既成概念をオフ サヴァンに学ぶ独創のヒント」、2012、日経サイエンス  20136月号 特集:天才脳の秘密→ブログ記事へ
小田亮、「ヒトは環境を壊す動物である」、2004ブログ記事へ
小田亮、「利他学」、2011.ブログ記事へ
Dunbar, R.
、「友達の数は何人? ダンバー数とつながりの進化心理学」、2010.ブログ記事へ
長谷川英祐、「働かないアリに意義がある」、メディアファクトリー、2010.ブログ記事
Benkler, Y.
、「生物学、心理学、神経科学の知見が教える 利己的でない遺伝子」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 2月号、p.8.
Sargut, G., McGrath,
「ビジネスリーダーの新しい経営学 [入門]複雑系のマネジメント」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 1月号、p.118.ブログ記事へ
Johnson, N.
、「複雑で単純な世界 不確実なできごとを複雑系で予測する」、2007.ブログ記事
Albert-László Barabási、「バースト! 人間行動を支配するパターン」、2010ブログ記事へ
Albert-László Barabási
、「新ネットワーク思考 ~世界のしくみを読み解く~」、2002
Melanie Mitchell
、「ガイドツアー 複雑系の世界 サンタフェ研究所講義ノートから」、2009
Watts, D.J.
、「偶然の科学」、2011.ブログ記事へ
Mauboussin, M.J.、「まさか!? 自信がある人ほど陥る意思決定の8つの罠」、2009.ブログ記事へ
Kahneman, D.
、「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 上、下」、2011ブログ記事へ
Aariely, D.
、「ずる 嘘とごまかしの行動経済学」、2012.ブログ記事
Page S.E.
、「『多様な意見』はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき」、2007ブログ記事へ
西垣通、「集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ」、2013.ブログ記事へ
Christakis, N.A., Fowler, J.H.
、「つながり 社会的ネットワークの驚くべき力」、2009ブログ記事へ
McAfee, A., Brynjolfsson, E.
、「ビッグデータで経営はどう変わるか 測定できれば、マネジメントできる」、松岡正剛、「情報は物語をほしがっている ビッグデータ時代の編集工学」、McInerney, P., Goff, J.、「ビッグデータが日本企業に迫るもの 意思決定が競争優位に直結する」、Davenport, T.H., Patil, D.J.、「データ・サイエンティストほど素敵な仕事はない いま最も必要とされているプロフェッショナル」、樋口知之(聞き手:編集部)、「データ解析の神髄とは インタビュー統計学の第一人者が語る」、Barton, D., Court, D.、「ビッグデータ活用スキルをいかに育むか 高度だが実用性の高いモデルを構築する」、Diamond Harvard Business Review, Feb. 2013ブログ記事へ
高橋昌一郎、「理性の限界」、2008
高橋昌一郎、「知性の限界」、2010ブログ記事へ(上記文献とまとめて)
高橋昌一郎、「感性の限界」、2012ブログ記事へ
 コメント:科学哲学入門ならこの限界3部作がおすすめ。
森田邦久、「理系人に役立つ科学哲学」、2010ブログ記事へ
今道友信、「エコエティカ 生圏倫理学入門」、1990.ブログ記事へ
Brown, J.R.
、「なぜ科学を語ってすれ違うのか ソーカル事件を超えて」、2001ブログ記事へ
Arthur, W.B.
、「テクノロジーとイノベーション 進化/生成の理論」、2009.ブログ記事へ
須藤靖、伊勢田哲治、「科学を語るとはどういうことか 科学者、哲学者にモノ申す」、2013ブログ記事
菊池誠、松永和紀、伊勢田哲治、平川秀幸著、飯田泰之+SYNODOS編、「もうダマされないための『科学』講義」、2011ブログ記事へ
Singh, S., Ernst, E.
、「代替医療のトリック」、2008.
菊池聡、「超常現象をなぜ信じるのか」、1998
平川秀幸、「科学は誰のものか 社会の側から問い直す」、2010
新井紀子、「コンピュータが仕事を奪う」、2010
平川克美、「移行期的混乱-経済成長神話の終わり」、2010
Erik Brynjolfsson, Andrew McAfee
、「機械との競争」、2011ブログ記事へ
内田麻理香、「科学との正しい付き合い方 疑うことから始めよう」、2010ブログ記事へ
竹内薫、「理系バカと文系バカ」、2009ブログ記事へ
竹内薫、「科学嫌いが日本を滅ぼす 『ネイチャー』『サイエンス』に何を学ぶか」、2011.ブログ記事へ
坂村健、「不完全な時代――科学と感情の間で」、2011ブログ記事へ
福岡伸一、「動的平衡」、2009.
福岡伸一、「生物と無生物のあいだ」、講談社、2007.



「科学を語るとはどういうことか」(須藤靖、伊勢田哲治著)感想

科学哲学に関連した話題は、今までにも何度か本ブログでとりあげました(末尾:本ブログ関連記事)。以前の記事では、マネジメントに科学哲学を役立てることができるのではないか、という観点でいくつかの本のまとめを試みましたが、今回は、それらの本とはやや異なる視点から科学哲学の議論がなされている、「科学を語るとはどういうことか」(須藤靖、伊勢田哲治著)[文献1]を取り上げて考えてみたいと思います。

この本には、副題(科学者、哲学者にモノ申す)にもあるように、物理学者(須藤靖氏)が科学哲学者(伊勢田哲治氏)に議論を挑む形での対話が収められています。しかもその議論は、科学哲学の内容やあり方に関して科学者が感じる疑問を哲学者に率直にぶつける、という内容ですので、標準的な科学哲学の解説書というわけではありません。しかし、須藤氏が抱く疑問は、科学哲学に興味を持ちはじめた私のような技術者にとっても共感でき、私自身も疑問に思っていたことも多く、その答えを知ることで科学哲学に対する理解が深まったのも事実です。その意味では少し毛色の変わった入門書と言えるのかもしれません。

以下、本書の中から特に興味深く感じた点を抜粋しておきたいと思います。(ただし、抜き書きによって前後の文脈が反映出来ていない点がありうることはご注意お願いします。疑問点についてはぜひ本書をご参照ください)。なお、本書のまとめとしては、文献2が優れていると思いますので内容全体にご興味のある方はそちらをご参照ください。

「『知』の欺瞞」(ソーカル&ブリクモン)について
・「ソーカルは・・・彼のイメージする哲学者たちを擁護するために、変なことを言っているポスト・モダンの人たちを批判しようとした[p.22]」。
・「英米のクリシン系(注:この分類については後述)の哲学においては、ラカンはじめポスト・モダン系思想への評価は非常に低い[p.31]」。
・ただし哲学分野全体では、「変なことをいろいろ言っていても、ひとつでも、我々の思考を触発してくれるような、他の誰も思いつかなかったような鋭いことを言っていれば、それで評価されるところはあります[p.31]」。

哲学の流儀
・クリシン型:「筋道を立て、隠れた前提を明らかにしながら、できる限り明晰に考えること、要するにクリティカルシンキングを実践する[p.29]」
・思考触発型:「『読者を考えさせるのがよい哲学的文章だ』という視点で哲学を捉える」、「このルールで判断すると、一読すればわかるような文章はむしろ哲学的な文章として格が落ちる」[p.42
・うがったもの勝ち型:「言っていることの根拠がどうこうではなく、誰も思いつかないような、『へー』と感心するようなことを言ったらいい」[p.42
・文献読解型:「圧倒的に多くの哲学研究者が、カントやヘーゲルなどの古典の読解研究を行っています。この古典読解という『ゲーム』のルールは非常に複雑ですが、『実際に書いてあることについての読解の正確さ』『解釈のもっともらしさ』『解釈の面白さ・新しさ』などの総合的な評価になります。・・・このタイプの研究をしている人たちは『哲学者』ではなく『哲学の研究者』と呼べると思います」[p.42-42

哲学の4分類p.99
・形而上学:「本質」や「存在」などを問う
・論理学:「正しい推論」や推論のモデル化を考える
・認識論:「知る」ことについて問う
・価値論(倫理学):価値とは何か、どのようなものに価値(善・悪)があるかを考える

推論のパターン
・「推論のパターンとしては以下の3つがよく挙げられます。『演繹』、『帰納』、それから『最善の説明への推論』(これは英語のInference to the best explanationを略して、しばしば『IBE』と呼ばれます)です。[p.101
・「帰納の一種として仮説演繹法というのがあって、・・・仮説を立ててそこから実験、この仮説が正しければこういう実験結果が得られるだろうと推測してその実験を行う。そして、実験通りの結果が出ることによって仮説が確かめられる[p.101-102
・「IBEは現象がいくつかあって、それを説明する仮説がいくつかあるときに、それぞれがどの程度説明できるのか、あるいは仮説そのものにどれぐらい無理があるのかといったことを総合的に評価して、最もいい説明をするものを、おそらくこれが一番正しいだろうとして推論するというもの[p.102]」
・「『すでに観察したもの』から『まだ観察していないもの』 への推論全般が帰納的推論になります。すでに起きたことについても、我々が実際に観察した範囲を越えて帰納をしていいかどうかはわからない、比喩的に言えば我々が後ろを向いたとき背中で何が起きているかということだってわかりはしない、というのがヒュームの懐疑的な議論です[p.258]」。

哲学の様々な考え方について
・「哲学に固有なやり方としてひとつ言えるのは、『そこを疑っても仕方ないだろう』というところまで疑う点」、「他の人がやらない異常なところまで哲学者はやることがある」[p.44-45
・「我々が想像している意味の『因果』については知り得ない[p.134]」(ヒューム)
・「反実在論の一応定義的なことを言えば、ひとつには、科学理論が観測不可能なものについては我々はコミットする理由を持たない[p.222]」
・「『科学者たるもの根拠の無い主張を受け入れてはならない』というのは、科学のエートスとして割と共有されている前提ではないかと思います。それを科学者自身よりも徹底して推し進めるのがヒュームだったり反実在論だったりするわけです[p.251]」
・「解けるようになった、決まった手順で積み重ねていけるようになってしまった問題は、哲学から『卒業』して、独立の研究領域になったり既存の別領域の守備範囲になったりしていくんです[p.275]」
・「哲学があまり蓄積的じゃない理由のひとつでもあるのですが、・・・みんな自分で前提から組み立てるんですよ。みんなそれぞれ違うものを組み立てるんですね。他の人から見ると、『なんでそれを前提に入れているのかわからない』というようなことも当然起きている。それをお互いに壊し合って、また個々に新しいものを作る[p.249]」

科学と科学哲学
・「哲学というのは、もともと、須藤さんの言う意味での『科学』ではないんですよ。おそらく科学というものに特別に内在している仕事のやり方のイメージを、哲学にも求めて考えていらっしゃる[p.286]」
・「科学は常に自然と密に関わりながら具体的に一つひとつ何かを解き明かすことで、少しずつ確実に進んでいる。・・・私(須藤氏)は科学哲学にそれを求めているのですね。一方、音楽や芸術、小説などが決してそのような性質のものではないこともまた自明です。・・・ところが科学では、先人の業績をもとに誰でもそれより先に進むことができます。よく考えればむしろ科学の方が例外的な性質を持っているのでしょうね。[p.287-288]」
・(伊勢田氏)「科学と科学哲学のずれが『価値観の違い』の問題であるということ自体、対談の中で理解していただいたことだと思っています。[p.293]」
―――

私が技術者であるせいもあると思いますが、科学哲学に対する私の考え方はどちらかというと須藤氏に近く、本書の議論をつうじて多くのことが学べたと思います。これは、疑問を持っている人が直にその疑問を専門家にぶつける、という対話形式ならではの一つの効果なのだろうと思いますが、それにも増して須藤氏が的を射た質問をしていることも大きいと感じました。

全体をつうじ、内容について特に重要と感じたのは、科学者と科学哲学者の価値観の違いがずれを生み、それが何をとりあえず正しいと考えるかにまで影響している点です。この価値観の違いは、実際には科学と科学哲学の間の問題のみならず、科学者と、科学者とは異なる考え方をする人々との間にも発生しうる問題なのではないでしょうか。だとしたら、科学を社会に活かすためには、この価値観の違いをうまく乗り越える術をみつけていかなければならないでしょう。例えば、技術者が科学的な成果を社会に適用したいと考える時、まずは、その科学技術の開発・実用化段階で社内(民間会社なら)においてこうした価値観の衝突が起こる可能性があります。そして、その段階を乗り越えた後、今度は、社会の人々との間に価値観の衝突が起こるかもしれません。科学者が、「これでよい」と考えた結論に対し、社会はその結論の受容を拒絶することもありうると思います。そんな時、その社会の拒絶に対して、それが合理的なのかどうかを吟味するには、科学哲学的な考え方が助けになるのではないでしょうか。例えば、社会の側での感情的な拒絶や非論理的な拒絶が起きた場合、それに対して科学の論理を用いて説明しても効果的ではないかもしれないことは、本書の議論から想像に難くありません。価値観の違いに至ってしまえば議論が歩み寄れないこともあるでしょう。しかし、徹底的に懐疑的な科学哲学の考え方を利用すれば、そうした社内や社会の側の懐疑に対しどこに正当性があり、どこに正当性がないのかがわかり、何らかの説得の余地、解決策が見つかる可能性もあるのではないでしょうか。

伊勢田氏は本書の「終わりに」において、「学問観などの基本的な前提が違う人同士が有意義な会話をするのは大変時間と手間がかかるものなのである。大事なのはいろいろな背景や考え方の存在への想像力と結論の一致を性急に求めない忍耐力というか『気の長さ』であろう[p.301]」と述べています。科学と社会との関わりを考える際に、科学と社会との間をとりもつ考え方として科学哲学や、科学哲学における考え方自体が重要な位置を占めるようになるのかもしれません。技術者にとってはまず科学を使うことが重要ですが、科学哲学をうまく使っていくことも考える価値があるように思います。


文献1:須藤靖、伊勢田哲治著、「科学を語るとはどういうことか 科学者、哲学者にモノ申す」、河出書房新社、2013.
文献2:ブログ(shorebird 進化心理学中心の書評など)、「科学を語るとはどういうことか」、2013.6.23
http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20130623

本ブログ関連記事:

「理性の限界」「知性の限界」(高橋昌一郎著)
「感性の限界」(高橋昌一郎著)より
科学哲学の使い方(「理系人に役立つ科学哲学」感想)
(森田邦久著)
「なぜ科学を語ってすれ違うのか」に学ぶ
(ブラウン著):ソーカル事件など

参考リンク<2014.9.28追加>




「リーン・スタートアップ」(リース著)より

既存企業と、ベンチャーやスタートアップ企業とでは、組織の形態や機能、経営における課題も大きく異なるため、イノベーションの進め方も当然異なるはずだと考える方は多いかもしれません。ところが最近では、両者のイノベーションの方法が近づきつつあるという指摘があります(本ブログ「スタートアップ企業と既存企業におけるイノベーションの方法2013.12.15)。その中でとりあげられている「リーン・スタートアップ」という考え方について、今回は、エリック・リースの著書「リーン・スタートアップ」[文献1]に基づいて考えてみたいと思います。

リーン・スタートアップとは
・「リーン・スタートアップという名前は、トヨタで大野耐一と新郷重夫が開発したリーン生産方式にちなんだものだ。・・・価値を生みだす活動と無駄がはっきりと区別され、裏の裏にいたるまで質の高い製品が作れるようになるのだ。具体的なやり方は、作業員が持つ個人的な知識や創造性の活用、バッチサイズの縮小、ジャストインタイムの製造と在庫管理、サイクルタイムの短縮などである。[p.28]」
・「このような考え方を起業に適用し、他社とは異なる基準で自社の進歩を測るべきだとするのがリーン・スタートアップだ。・・・リーン・スタートアップでは検証による学び(Validated learning)を単位として進歩を計測する。科学的な学びを基準にすれば、スタートアップの足を引っぱる無駄を発見し、源から絶つことができるのだ[p.29]」。「リーン・スタートアップとは、サイクルタイムの短縮と顧客に対する洞察、大いなるビジョン、大望とさまざまなポイントに等しく気を配りながら、『検証による学び』を通して画期的な新製品を開発する方法なのである。[p.31]」

・「リーン・スタートアップとは、スタートアップの成功確率を高める方策を集めたものである。[p.41]」

スタートアップの定義
・「スタートアップとは、とてつもなく不確実な状態で新しい製品やサービスを創り出さなければならない人的組織である。・・・会社のサイズも業界も、あるいはセクターも、この定義では触れられていない。・・・職場が政府関連機関であろうがベンチャー企業であろうが、あるいはまたNPOであろうが投資家の出資を受けた営利企業であろうが同じことだ。[p.41-42]」
・「一般的な総括マネジメント手法では、スタートアップが活動する不確実な環境において十分な成果がまず得られない。先行きが不透明で顧客には次々と新しい選択肢が提示され、変化の速度はあがる一方――それがスタートアップを取りまく環境である。であるにもかかわらず、スタートアップの大半は、ガレージ起業であっても大企業の社内ベンチャーであっても、一般的な予測手法と製品開発手法を用い、細かく事業計画を定める形で推進されている。[p.43-44]」
・「イノベーションはボトムアップで進む。分権から生まれるもので、予測はできない。だからといってマネジメント不能ではない。マネジメントは可能だが、ただ、そのためには新しいマネジメントの手法が必要となる。[p.47]」

考え方のポイント
・「リーン・スタートアップでは、検証による学び(validated learning)という概念で学びをとらえなおす。検証による学びとは後付けの正当化でもなければ失敗を隠す美談でもなく、スタートアップが育つすさまじいばかりの不確実性という土壌において進捗を的確に測る方法である。・・・実質的な成果をもたらさない計画をしっかり遂行し、失敗を達成してしまうという致命的なトラブルによく効く解毒剤となる。[p.56]」
・「リーン・スタートアップでは、スタートアップが行うことを『戦略を検証する実験』としてとらえなおす。戦略のどの部分がすぐれていてどの部分が狂っているのかを検証する実験だ。実験は科学的手法にのっとって行う。まず、何が起きるかを予測する仮説を組みたてる。次に、予測と実測とを比較する。科学的実験が理論に基づくように、スタートアップの実験はビジョンに基づいて進める。ビジョンを中心に持続可能な事業を構築する方法を明らかにすることが実験の目標である。[p.81]」
・「計画というのは長期にわたり安定した運用実績があってはじめて効果を発揮するツールである。ではいま、我々を取り囲む世界がどんどん安定に向かっていると感じている人はいるだろうか。[p.10]」

リーン・スタートアップのプロセス
・「リーン・スタートアップは、・・・構築-計測-学習のフィードバックループを中心にモデル化されている[p.104]」。「大事なのは、このフィードバックループの一周に要するトータルの時間を最小にすること[p.106]。
・「まず、検証する仮説を選ばなければならない。スタートアップの計画でもっともリスクが高い要素、ほかのすべてを支える基礎となっている部分を私は挑戦の要(leap-of-faith)となる仮説と呼んでいる。なかでも重要度が高いのが価値仮説と成長仮説だ。[p.106]」(注:本書の注によればleap-of-faithはコミサーによる用語のようです。コミサー著「プランB」では、「未踏の信念」と訳されています。)
・「価値仮説(value hypothesis)とは顧客が使うようになったとき、製品やサービスが本当に価値を提供できるか否かを判断するもの[p.87]」→製品やサービスの継続使用、リピートなどで判断できる。「成長仮説(growth hypothesis)とは、新しい顧客が製品やサービスをどうとらえるかを判断するもの[p.87]」→顧客が製品を広めているかなどで判断できる。
・「要となる仮説の段階をクリアしたら、最初のステップである構築フェーズに入り、できるだけ早く実用最小限の製品(minimum viable product)を作る。」[p.107]。『従来の製品開発は長い時間をかけてじっくりと開発し、完璧な製品をめざすが、MVPは目的が学びのプロセスを始めることであってそれを終えることではない。プロトタイプやコンセプト検証と違い、MVPは製品デザインや技術的な問題を解決するためのものではない。基礎となる事業仮説を検証するためのものなのだ。[p.128
・「計測フェーズに入ると、製品開発が本当の前進につながっているのか否かの判断が課題となる。・・・誰も欲しがらない製品なら、スケジュールと予算を守って完成させても意味がない。ここでは管理会計、財務会計とは別に、新たに革新会計(innovation accounting)という手法をお勧めする。[p.107]」。「顧客の行動を分析できる行動につながる評価基準(actionable metrics)には実務的なメリットがあるのに対し、虚栄の評価基準(vanity metrics)は危険である[p.108]」。革新会計の働き(学びの中間目標)は3段階[p.160]。1)会社の現状を示すデータをMVPから得る、2)ベースラインから理想状態へ向けてエンジンのチューニングを進める、3)方向転換するか辛抱するかを判断する。
・最後に最も重要なポイントを紹介する。ピボット(pivot、方向転換)だ。構築-計測-学習のループを回りおえたとき、我々は、アントレプレナーが必ず直面する難しい問いに答えなければならない。当初戦略から方向転換するか、当初戦略を維持するか、だ。仮説にひとつでも誤りがあると・・・わかった場合は、根本的に見直して新しい戦略的仮説へと方向転換する必要がある。[p.108]」。「ピボットとは変化の一種で、製品やビジネスモデル、成長のエンジンについて根本的な仮説を新しく設定し、それを検証するための行動を指す[p.231]」。ピボットのタイプには、ズームイン型(製品機能のひとつと考えていたものが製品全体になる)、ズームアウト型(製品全体ととらえていたものをもっと大きな製品の一機能とする)、顧客セグメント型(最初の想定とは異なる顧客)、顧客ニーズ型(顧客の新しいニーズ)、プラットフォーム型(アプリケーションからプラットフォームへ、またはその逆)、事業構造型(高利益率・少量か、低利益率・大量か)、価値捕捉型(価値の捉え方を変える)、成長エンジン型(成長モデルを変える)、チャネル型(提供のチャネルを変える)、技術型(異なる技術で実現する)がある[p.231-235]。

スタートアップの成長
・「トヨタの場合、バッチサイズの縮小で工場の効率が高くなった。これに対してリーン・スタートアップの場合、・・・持続可能な事業の構築方法をできるかぎり短時間で学ぶのが目的だ。・・・バッチサイズを小さくすれば、あとあと無駄にしたと判明する時間やお金、労力を最小限に抑えられる[p.249]」。
・「成長のエンジンとは、スタートアップが持続的に成長するために必要とするメカニズムである。・・・単発の広告やメディアへの露出など、瞬間的には成長するが、長期的な成長を支えられない方法は成長のエンジンと言えない。持続的な成長とは次のようなものを言う。過去の顧客の行動が新しい顧客を呼び込む。[p.272]」。過去の顧客が持続的な成長をもたらす形式は、基本的に次の4つ。1)口コミ、2)製品の利用に伴う効果、3)有料広告を通じて、4)購入や利用のリピートを通じて[p.272-273]。
・成長エンジンには、粘着型成長エンジン(sticky engine of growth、顧客の離反率や解約率に注目が必要、新規顧客の獲得速度が解約速度を上回れば成長する)、ウィルス型成長エンジン(viral engine of growth、口コミによる成長とは違い、その製品を顧客が普通に使うだけで人から人へと認知が広まる、登録した顧客ひとりあたり何人の顧客が新たに製品を使うようになるかに注目する)、支出型成長エンジン(paid engine of growth、顧客あたりの売上を増やすか、新規顧客の獲得コストを減らすか)がある[p.274-285]。
・「会社というのは、成長のエンジンをチューニングしつつ、そのエンジンがへたったとき新しい成長の源になるべきものを開発するなど、さまざまな活動を総合的にマネジメントしなければならないのだ。・・・しかし、ポートフォリオの管理を行うには、まず、そのような予想外の急速な変化に対応できる構造や文化、規律をもった組織にしなければならない[p.290]」。順応性の高い組織(adaptive organization)とは「状況の変化に合わせてプロセスとパフォーマンスを自動的に調整する組織[p.295-296]」。「スピードアップにおいても自然なフィードバックループとなるプロセスが必要だ。スピードが速すぎれば問題が増える。すると順応プロセスによってスローダウンし、時間を無駄にしている原因の再発防止策を講じることになる。対策の効果が出れば自然にまたスピードがあがっていく。[p.298-299]」。5回のなぜ[p.298-302]や、症状が軽ければ投資も小さく、症状が重いほど投資を大きくする比例投資[p.302-303]の考え方が使える。
・「スタートアップが成長するとき、新規顧客の獲得、既存事業の管理、新しいビジネスモデルの探究といった課題と既存顧客のニーズとのバランスをとり、すべてを同時並行にこなしていく方法を学べる組織を作れるはずだ[p.330]」。破壊的イノベーションを醸成方法としては、1)少ないが確実に資源が用意されていること、2)自分たちの事業を興す権限を有していること、3)成果に個人的な利害がかかっていること、という特質が必要[p.330-334]。「社内イノベーションでは『どうすれば社内スタートアップを親組織から守れるか』が課題だとよく言われるが、私は逆に、『どうすれば親組織を社内スタートアップから守れるか』が課題だと思う[p.339]」。「企業は、4種類の仕事のマネジメントをしなければならない。まずは製品の開発・・・社内スタートアップが成長期に入ると・・・スケールアップの問題に直面する・・・新製品の市場が確立されるとルーチン的な作業が増える・・・4番目の段階は業務コストとレガシー製品が中心になる。アウトソーシング、自動化、コスト削減の時代だ[p.344-345]」。「4種類の仕事それぞれに対して異なるマネジメントを行い、それぞれの領域で部門横断的なチームが生まれるようにすればいい[p.346]」。

リーン・スタートアップ活動の意味
・「いまの経済は相変わらず無駄が多い。無駄の原因は組織の効率が悪いからではなく、まちがった仕事をしているからだ――しかも産業規模で。ピーター・ドラッカーが指摘しているように、『やってはいけないことをすばらしい効率で行うほど無駄なことはない』のだ。[p.357]」。「世界はどんどんスピードアップしており、・・・古いアプローチでは対応しきれなくなった。その結果、プロジェクトが失敗すると経営幹部の責任にされることが多いが、これはもともと不可能な要求をしているに等しい。・・・非難の種はいくらでもあるが、リーダーや投資家がどう行動すべきなのか、その指針になる理論はあまりに少ない。この苦境に立ち向かうのがリーン・スタートアップ活動だ。イノベーションにおける無駄の大半は、その原因さえつかめば防げると我々は考えている。仕事の進め方について関係者全員の考え方を変えることさえできればいい。もっとがんばれと労働者に言うだけでは駄目だ。いまの問題自体、まちがったことをがんばりすぎるのが原因なのだから。・・・重要なのは定量的な目標を設定することではなく、その目標を達成するための方法を整えることだ。科学的手法を使えば、新しい製品やサービスを中心に持続可能な組織を作る方法をみつけるという喫緊のイノベーション課題に対応できる――それがリーン・スタートアップ活動の考え方である。[p.358-359]」

・「テイラーがいまも生きていて、アントレプレナーやイノベーターのマネジメントを見たら笑うはずだ。我々が束ねる科学者やエンジニアは20世紀初頭の人間にはまぶしすぎるほどの技術力を持っているが、その彼らを組織化するマネジメント手法には科学的な厳密性がほとんど感じられない。私は、これをあえてニセ科学と呼びたい。・・・ビジョンの構成要素をひとつずつ実験にかけるのではなく、自分たちのビジョンに都合のよいデータを選んで成功劇場に酔うイノベーションチームが多すぎる。いや、それどころか、ステルスモードにとどまってデータのないゾーンを作り、顧客のフィードバックや外部に対する責任などを一切なくした果てしない『実験』を進めることもある。全体的な尺度のグラフで因果関係を説明しようとするのはニセ科学だ。提出された因果関係が正しいとわかるわけがないからだ。失敗はしたが学びもあったと言い訳をするのもニセ科学だ。[p.362]」。「科学を起業に応用すれば、人間のすばらしい可能性が解き放たれるはずだと私は信じている[p.368]」
―――

もちろん著者の提案するリーン・スタートアップの手法が完全なものというわけではないでしょう。また、スタートアップの立場から見ると、本書に挙げられた手法は、当たり前の考え方、ということになるかもしれませんし、既存企業におけるイノベーションにどこまで有効かを明らかにすることも今後の課題でしょう。しかし、既存企業のイノベーションの問題点に関する著者の指摘にはなかなか興味深いものがあります。例えば、

・「やってみよう(ジャスト・ドゥー・イット)」型起業[p.80
・虚栄の評価基準[p.174
・成功劇場(偽りの成長で成功しているかのように見せる)[p.118
・不備な計画をきちんと実行してしまう「失敗を達成する」[p.321
・巨大バッチ死のスパイラル[p.261
・プロフェッショナルになろうというまちがった欲望を持ち、柔軟性を失って官僚的になる[p.293
・起きる可能性のある問題をすべて防止しようとした結果、いつまでたっても製品が出荷できなくなる過剰アーキテクチャー[p.293

などの事例を挙げています。既存企業のこうした問題を考えてみても、イノベーションの具体的かつ効果的な進め方の確立が求められているとは言えないでしょうか。単なるスタートアップのハウツーとしてだけではなく、こうしたイノベーションの問題に対処する手法としてリーン・スタートアップの考え方は重要なように思いますがいかがでしょうか。


文献1:Eric Ries, 2011、エリック・リース著、井口耕二訳、「リーン・スタートアップムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす」、日経BP社、2012.
原著表題:The Lean Startup: How Today’s Entrepreneurs Use Continuous Innovation to Create Radically Successful Businesses

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