研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2015年03月

アンラーニングの重要性(杉野幹人著「使える経営学」より)

固定観念によって正しい意思決定が妨げられてしまう、という経験は多くの方がお持ちでしょう。しかし、固定観念を排し、あらゆる場合に十分な情報を集めて熟考した上で意思決定するということは現実的に不可能です。思考を節約するために固定観念や経験則、信念、勘といったものに頼らざるを得ない、というのが現実だと思います。では、どうしたらそうした思考の節約による悪影響を少なくすることができるのでしょうか。

杉野幹人著「使える経営学」[文献1]では、「アンラーニング」の重要性が述べられています。著者は、「アンラーニングとは、思考をリセットし、固定観念に囚われないで考えられるようにすること[p.2]」であり、それにより、「考え抜く力が高まります。そのように考え抜く力を『思考持久力』と呼ぶならば、誰もが思いつかないような問題の解決策に辿り着くためには思考持久力は不可欠です。[p.2]」と述べ、「アンラーニング」には経営学が役に立つと述べています。研究開発にとってもこのアンラーニングは重要だと思いますので、以下、本書に沿って、アンラーニングの重要性と、その方法論についてまとめてみたいと思います。

アンラーニングの重要性と経営学の意義(第1章~第3章)
・本書では、経営学を次のように位置付けています。「学術における経営に対する論理の集合を『経営学』、実務家が実践することで育んだ経営に対する論理の集合を『経営持論』と呼ぶことで区別します。[p.32]」。「論理という概念の捉え方はさまざまですが、本書では因果関係を指すものとして議論を進めます。[p.33]」
・「経営学における論理は、一般化することに重きが置かれているという特徴があります。・・・経営持論の論理は、その組織において経験的に得られたものです。このため、おのずと、その組織の周りの環境やその経営資源などに特化した、特殊なものであるという特徴があります。[p.38-39]」
・「新しい局面では、経営持論は役に立ちません。それどころか、これまでの局面での経営持論を持ち込むと、弊害が起こりかねません。・・・新しい局面で役に立つのが、経営学なのです。[p.61]」、「経営学の論理には一般性に限界があったとしても、新しい局面では、経営学の論理は『仮説』として役に立つのです。[p/62-63]」
・「経営コンサルタントの思考の障害となるのが、それまでの経営コンサルティングや、前職で培った自身の経営持論です。・・・経営コンサルタントは、新しい局面での問題解決のために、みずからの経営持論について、それらを必要に応じて使えるようにはしておきながらも、それに固執することなく、その局面にふさわしい論理を選ばなくてはいけない・・・それまで培ってきた経営持論の論理を上手に“忘れる”ことが求められます。[p.70-71]」
・「固執しがちな経営持論の論理に疑いの目を向けさせる対抗馬となる仮説が必要なのです。それが経営学の論理です。[p.74]」
・「新しい局面での問題解決で求められるのは、特定の仮説に飛びつくことではなく、そのような仮説が見えてもそれを冷静に脇に置いておきながら、その解がおぼろげにも見えない暗闇のさらに奥深くに向かって考え抜く力、つまり、思考持久力です。・・・この思考持久力を鍛えるためには、固定観念化しがちな経営持論をアンラーニングしておくことが不可欠です。[p.78]」

アンラーニングの4つの型
・「経営学の論理をいくら理解していったところで、なかなか身に付きませんし、アンラーニングできません。経営学の論理もさまざまなので、頭がパンクするだけです。・・・アンラーニングの型を理解し、その型に対応する形で頭の中に経営学の論理をしまっていくことが必要です。[p.83]」

・本書で説明されている、アンラーニングの4つの型は以下のとおり。
1、役割のアンラーニング(第4章)
・「ある目的だけの手段と固定観念的に信じていたものに対して、その手段がじつは他の目的をかなえる役割があるという論理を示すことで、自分の思考をリセットし、固定観念化した経営持論に囚われないで考えられるようにすることを、『役割』のアンラーニングと呼ぶこととします。[p.104]」
・例1:「研究開発などの事前知識を蓄積しているほど、その副産物として、吸収能力が高まる[p.96

」、「吸収能力は将来の環境変化を想定するためにも活用できる[p.107]」(コーエン、レビンサール)。研究開発の役割には、成果を出すことだけではなく、外部からの知識を効果的に吸収すること、環境変化を想定することもあると考えられる。
・例2:「出身地や国や人種などの表層レベルにせよ、価値観それ自体の深層レベルにせよ、カルチュラル・ダイバーシティを高めると組織のクリエイティビティが高まる傾向がある・・・が、組織の摩擦などマイナスの役割が高まり、結果としてトータルでは、組織のパフォーマンスへの影響はちょうど相殺されてなくなる傾向がある[p.113-114]」(INSEAD)。多様性にはプラスの役割とマイナスの役割がある。
・例3:物事の機能には顕在機能(意図された結果)と潜在機能(意図せざる結果)がある(マートン)。[p.123

2、選択肢のアンラーニング(第5章)
・「ある目的のための唯一の手段として信じられているものに対して、その目的をかなえることができる他の代替的な選択肢があるという論理を示すことで、経営持論に固執していた自分の思考をリセットするアンラーニングを、『選択肢』のアンラーニングと呼ぶこととします。[p.140]」
・例1:部門間での知識移転が困難な原因として「粘着する知識(sticky knowledge)」という考え方がある。知識移転を困難にする要因には、知識の受け手のモチベーション(一般の経営持論では、これが原因と考えられている)の他に、因果関係が曖昧な知識は移転が難しい、受け手の吸収能力の問題(価値を認識できるか)がある。組織の距離が近いよりも遠い方が知識移転が進む(距離が近いと背景が必要以上にわかってしまって移転が進まない)(スズランスキー)[p.133-136]。
・例2:「シュンペーターによって、企業のなかにいる企業者によって生み出されるとされていたイノベーションですが、ユーザーが起点となって起きることもある」(フォン・ヒッペル、小川進、クラウドソーシング事例)[p.146-155
・例3:ポーターの競争戦略論(外に目を向ける)と、バーニーのリソース・ベースト・ビュー(内に目を向ける)。[p.159-160

3、条件のアンラーニング(第6章)
・「ある目的を万事かなえることができると信じられている手段にたいして、それが成立するには条件があるという論理を提示することで、経営持論に固執していた自分の思考をリセットするアンラーニングを、条件のアンラーニングと呼ぶこととします。[p.178]」
・例1:個人のクリエイティビティはその人の能力や経験によるものと考えられがちだが、その人を取り巻く人的ネットワークも影響する(ソーシャルサイド・クリエイティビティ)[p.173]。外部とも社内ともつながりが多いことはよいと考えられがちだが、両方ともつながりが多い場合はクリエイティビティは下がる(ペリースミス)[p.174-176]。
・例2:探索系ラーニング(exploration)と改善系ラーニング(exploitation)(マーチ)の違い。探索系ラーニングではゴールの独立性、進め方の独立性の両方が高い方がよい。改善系ラーニングではどちらとも低い方がよい(マクグラス)[p.188-189]。
・例3:経営陣の仕事が相互依存している度合いが強いときには、経営陣のあいだのコミュニケーションはプラスの効果があるが、相互依存の度合いが弱いときには、経営陣のあいだのコミュニケーションの効果はないか、マイナス(バリック)。[p.193

4、関係性のアンラーニング(第7章)
・「ある目的と手段に因果関係があると信じられているものに対して、それは疑似相関であるという論理を提示することで、そのように経営持論に固執していた自分の思考をリセットするアンラーニングを、「関係性」のアンラーニングと呼ぶこととします。[p.209]」
・疑似相関の例:「多角化が業績を悪化させる(ケディア)」、「ロイヤリティプログラムの有効性」、「CSRは業績向上につながる」
―――

固定観念に囚われないようにすることは、技術開発においても重要です。著者の、「新しい局面での問題解決で求められるのは、特定の仮説に飛びつくことではなく、そのような仮説が見えてもそれを冷静に脇に置いておきながら、その解がおぼろげにも見えない暗闇のさらに奥深くに向かって考え抜く力、つまり、思考持久力です[p.78]」という見解は、まさに研究開発においても当てはまると言ってよいでしょう。研究開発では先は見えないことがほとんどです。計画立案、データのとり方、解釈、仮説の設定、他説や自説の評価など、様々な場面で、固定観念、思い込み、早合点、希望的観測などに惑わされる可能性がありますし、固定観念に固執していては新たな発見もできないでしょう。「アンラーニング」は、研究開発を行う技術者にとっても不可欠のスキルといってよいと思います。

しかし、アンラーニングしなければいけないとわかっていても、それが実行できているとは限りません。経営持論への固執と同様、技術開発においても固定観念を信じたくなる強い誘惑があります。その誘惑をはねのけるため、本書のようなアンラーニングの型の整理は非常に有効だと思いますが、さらにわかりやすく、技術者向けのチェックポイントのような形にすると、以下のようになると思います。

1、役割のアンラーニング:この技術やアイデアには他にも使い途があるのではないか?。想定とは異なる作用があるのではないか?(副作用や弊害も含めて)
2、選択肢のアンラーニング:他の方法でも同じような結果を得ることはできるのではないか?。
3、条件のアンラーニング:思ったような同じ結果がいつも得られるのか?。期待どおりの結果が得られるための前提は何か?。どういう条件なら思ったようになるのか。
4、関係性のアンラーニング:疑似相関ではないのか?。因果関係はあるのか?
これをさらに簡潔にすると、「本当にそうか?」、「本当だとしたらどうなるはずか?」という2つの問いに帰結できるように思います。実はこの2つの問いは、技術者として物事に接する場合の基本的な注意点として心すべきことだと思っているのですが、アンラーニングの型としてまとめると、そのチェックが格段にやりやすくなり、実効性が上がるように思われます。マネジメントの実践において不可欠の考え方として認識を新たにすべきだと感じました。

なお、著者は、経営学がアンラーニングにいかに役立つか、ということも詳しく述べていますが、その点についての説明は割愛させていただきました。科学技術の分野では、基礎科学研究の知見を応用に活かすことはごく普通のことですので、このブログ記事では、経営学の研究が経営の実践に役立つことはあえて強調する必要はないだろうと思ったためです。しかし、技術者出身の経営者でも、こと経営となると自らの経験や誰かの定説を盲信している人もいます。流行の経営手法を信じてしまいやすい人はおそらく経営理論の効果を過大評価している人(理論の限界を掴んでいない人)、自らの経験を重視しすぎる人はおそらく経験よりも有効な理論を知らない人(経験の限界を掴んでいない人)なのではないか、という気がします。どちらも、経営学の最新の考え方に触れる機会が少ないことが問題のようにも思いますが、科学に劣らず経営学も日々進歩していることを考えれば、経営学が使えるか使えないかを議論する前に、使う努力をしてみる価値があるのではないか、とも思いますがいかがでしょうか。


文献1:杉野幹人、「使える経営学」、東洋経済新報社、2014.

参考リンク



無意識の作用(ムロディナウ著「しらずしらず」より)

意識せずに行う判断や行動の問題については最近も本ブログで取り上げました(「無意識のわな」――他の本ブログ記事はそこからたどれます)。今回は、無意識の作用について、最近の研究成果も含めてより詳しく解説されているムロディナウ著「しらずしらず」[文献1]を取り上げたいと思います。

原著の表題は「Subliminal: How Your Unconscious Mind Rules Your Behavior」です。著者は、この「『サブリミナル』の語源となっているラテン語の単語は、『閾下』と訳される。心理学者はこの用語を、『意識の閾下』という意味で使う。本書は、この幅広い意味でいうところのサブリミナルの効果、つまり、無意識の心の働きとそれが及ぼす影響を説明した本である[p.vi]」、「わたしたちが進化によって受け継いできた遺産、わたしたち自身の心の表面下で作用している奇妙で驚くべき力、そして、それらの無意識の本能が、ふつうは意志に基づく理性的なものであると考えられている行動に及ぼす影響・・・は、以前考えられていたよりもはるかに大きい[p.x-xi]」、と述べています。以下、特にマネジメントの観点から興味深く思われた点をまとめたいと思います。

I部、「あなた」を支配する無意識(原著:The Two-Tiered Brain
第1章、なぜ同じ名前というだけで好意を抱くのか?(原著:The New Unconscious

・「わたしたちは哺乳類として、原始的な爬虫類脳の基盤の上に新しい皮質の層を持っており、加えて人間として、さらなる大脳組織をその上に持っている。わたしたちは、無意識の心と、それに重ね合わされた意識的な脳を持っている。人間の感情、判断、行動のうちどの程度がそれぞれの心に由来しているかをいうのはきわめて難しく、わたしたちはつねに2つの心のあいだを行き来している。[p.8-9]」
・「今日、無意識に関する考え方に革命が起きている。それは、脳のなかの各構造や部分構造がさまざまな気分や感情を生み出している様子を、現代の装置によって観察できるようになったためだ。・・・このような研究や測定を基礎とした現代の無意識の概念は、『新しい無意識』と呼ばれ、・・・フロイトが世に広めた無意識の考え方とは区別されることが多い。[p.11-12]」
・「わたしたちは意識的な影響にしか気づいておらず、そのため部分的な情報しか持っていない。その結果、自分自身や自分の動機、そして社会に対するわたしたちの見方は、ほとんどのピースが欠けたジグソーパズルのような状態になっている。・・・人間は、知覚し、経験したことを記憶し、判断を下し、行動する。そしてこれらの営みすべてにおいて、自分では気づかない要素に影響を受ける。[p.32]」

第2章、視力を失ったのに表情が見える?(原著:Senses Plus Mind Equals Reality
・「この2層のシステムのなかでより基本的なのは無意識の層のほうであることが、十分に明らかになっている。それは進化の早い時点で発達したもので、基本的に必要な機能や生存に関係しており、外界を感知して安全に反応する。・・・進化によって人間が無意識の心を獲得したのは、・・・膨大な情報を取り込んで処理する必要のある世界のなかでも、無意識のおかげて生き延びることができるからだ。・・・意識的な心で何をしていようとも、精神活動の大部分を占めているのは無意識であって、そのため、脳が消費するエネルギーのほとんどは無意識が使っている。[p.41-43]」
・「人間が知覚する世界は人為的に構築されたものであって、その特性や性質は、実際のデータの産物であるとともに、無意識の精神的な情報処理の結果でもある。自然は、わたしたちが情報の欠落を克服できるようにと、知覚した事柄に気づく前に、無意識のレベルでその不完全さを修正するような脳を与えてくれた。・・・人間は、無意識の心がつくりだした視覚を、何の疑問も持たずに受け入れる。また、それが単なる一つの解釈でしかなく、生存確率を最大限に高めるようつくられていながら、あらゆるケースでもっとも正確な描像ではないことにも、気づきはしない。[p.67]」

第3章、なぜ、「目の前の人物が入れ替わっても気づけない」ことがありうるのか?(原著:Remembering and Forgetting
・「人間は誰しも、絶え間なく出くわす膨大な出来事の詳細な記憶を漏れなく保持できないし、また、それぞれの記憶違いには共通の理由があるという。すべての記憶違いは、どうしても欠落してしまう部分を埋めるために人間の心が用いる手法によって、つくりだされたものである。その手法の一つに、予想、もっと一般的に言えば、信念体系や予備知識に頼るというものがある。そのため、予想、信念、予備知識が実際の出来事と食い違うと、脳は欺かれてしまうのだ。[p.84-85]」
・「人間は、完璧な記憶を犠牲にすることで、・・・膨大な量の情報を扱い、処理する能力を手にしたのだ。[p.87]」
・「自分にとって本当に重要であるぶんだけを保持するために、・・・大量のデータをふるい分けられるようにするという難題に、心は直面し、無意識はそれに遭遇することになる。[p.88]」
・「どうやら人は知らず知らずのうちに、奇妙な物語を、もっと理解しやすい慣れ親しんだ形に変えようとするらしい。[p.97]」

第4章、傷ついた心は「鎮痛剤」で癒せる?(原著:The Importance of Being Social
・「人間は言葉を超えた社会的および感情的つながりを持っており、意識的に考えることなしに意志を伝え、理解する[p.114]」
・「人間は、親切心に高い価値を置く。さらに、相互扶助行動に加わるときには、報酬作用と関連した脳の部分が活動し、親切にすることが自分自身への報酬になりうることがわかっている。[p.115]」
・「不安のあるときや困ったときには、他人と一緒にいることで安らぎを感じる。[p.116]」
・「社会的な痛みもまた、肉体的な痛みの感情的要素に関わっているのと同じ、『前帯状皮質』と呼ばれる脳の構造体と関連していることが明らかとなっている。[p.118]」
・「人間の知性が社会的な目的のために進化したのだとしたら、人間をほかの動物と分け隔てている一番の特性は『社会的なIQ』であるはずだ。とくに、他人が何を考え感じているかを理解したいという欲求とその能力は、人間に特有のものに思える。『心の理論』(Theory of Mind)略して『ToM』と呼ばれるこの能力が、他人の過去の行動を理解し、現在または未来の状況に基づいてその人が今後どのような行動を取るかを予測するという、驚くべき力を与えている。[p.122-123]」
・「現在では神経科学者は、脳を、機能、生理、進化的発生に基づいて3つの大きな領域に分けている。なかでももっとも原始的な領域が『爬虫類脳』と呼ばれるもので、これは、摂食、呼吸、心臓拍動といった基本的な生存機能と、『闘争・逃走』衝動を促す原始的な恐怖や攻撃的感情を担っている。・・・第二の領域である辺縁系は、もっと高度であり、無意識な社会的知覚の源となっている。・・・辺縁系は爬虫類的な反射的感情を補い、社会的行動の発生において重要な役割を担っている。・・・第三の領域・・・新皮質は、いくつかの葉に分かれており、人間ではきわめて大きい。[p.146-147]」
・「視覚、聴覚、記憶など人間の社会的知覚のほとんどは、自覚や意図や意識的努力を伴わない経路に沿って進められているように思われる。[p.150]」

II部、「社会」を支配する無意識(原著:The Social Unconscious
第5章、なぜ「作り笑い」はすぐにバレるのか?(原著:Reading People

・「わたしたちは非言語的なコミュニケーション手段も使っており、それによって伝えられるメッセージは、慎重に選んだ言葉よりも多くのことを明かし、ときには言葉と食い違うこともある。非言語的な信号の伝達とその信号の読み取りの、ほとんどではないものの多くは、機械的であって、意識的な認識や統制の外でおこなわれており、人間は非言語的な合図を通じて、自分自身や自分の心の状態に関する大量の情報を、知らず知らずのうちに人に伝えている。身振り、姿勢、顔の表情、非言語的な声質、これらすべてが、他人にどうみられるかに影響するのだ。[p.158]」

第6章、「顔」で選んで投票してしまうのはなぜ?(原著:Judging People by Their Covers
・「どんな人も、カーテンの後ろに別の人格を隠している。わたしたちは社会的関係を通じて、そのカーテンを開けてもいいほどに親しい、友人、仲間、家族、そしてもしかしたら飼い犬(猫は無理だろう)といった数少ない相手と、深く知りあうようになる。しかし、出会ったほとんどの人にはそのカーテンをあまり開けさせないし、初対面の人と会ったときにはカーテンはふつう完全に閉ざしている。そのため、声、顔、表情、姿勢など、・・・非言語的特徴のような表面的な特性が、よい同僚や悪い同僚、隣人、医者、我が子の教師、あるいは、支持する、または反対する、または無視しようとする政治家に対するいくつもの判断に、影響を与えることになる。[p.209-210]」
・「どうやらタッチは、・・・社会的協力や友好を高めるための重要な道具であるらしく、そのために、社会的つながりに対するサブリミナルな感情を皮膚から脳へ伝える、特別な物理的経路が進化してきた。[p.201]」
・「人間は生まれつき、他人の感情や意志を察知せずにはいられない。その能力は脳のなかに組み込まれており、それを切るスイッチはどこにもないのだ。[p.210]」

第7章、なぜ、ガンディーもリンカーンも「同じ過ち」に陥ったのか?(原著:Sorting People and Things
・「前頭前野皮質には分類に反応するニューロンがあるらしく、・・・分類をすることは、人間の脳が情報をより効率的に処理するために使う戦略である。[p.213]」
・「世の中で出会う物や人はすべて二つとないものだが、もしそのように知覚していたら、わたしたちはこれほどうまくは行動できていなかっただろう。身の回りのすべてのものを細かいところまで観察検討する時間もないし、精神的な処理容量もない。そこで人間は、観察した数えるほどの目立つ特徴を使ってその物体を一つのカテゴリーに当てはめ、その物体そのものでなくカテゴリーに基づいて評価を下す。そして、いくつかのカテゴリーを持ちつづけることで、素早く反応できるようにしている。[p.213-214]」
・「人間は分類をおこなうと、偏重した考えを持つようになる。何らかの恣意的な理由で同じカテゴリーに属すると考えたものどうしを、実際よりも似ているととらえ、異なるカテゴリーに属するものどうしは実際よりも大きく違うととらえるのだ。無意識の心は、曖昧な違いや微妙な差異を、明確な境界線へと変えてしまう。その目的は、重要な情報を残したまま、不必要な委細を消してしまうことにある。それがうまくいけば、周囲の世界を単純化し、より簡単に素早く渡り歩くことができる。しかし下手をすると、認識が歪められ、他人を、さらには自分自身を傷つける結果になりかねない。[p.217]」
・「『現実の身の回りの環境は、あまりに大きく、あまりに複雑で、あまりにはかないため、直接知ることはできない。・・・・・・わたしたちはそんな環境のなかで行動しなければならないが、それには、その環境をより単純なモデルに再構成しないと、うまくやっていくことはできない』そのより単純なモデルをリップマンは『ステレオタイプ(固定観念)』と呼んだのだ。[p.219]」
・「重要なのは、分類という行為をどうやってやめるかではなく、分類をすることで一人ひとりの本当の姿をとらえられなくなっていることに、いかにして気づけるかだ。[p.230]」

第8章、なぜマックユーザーとウインドウズユーザーは互いにいがみ合うのか?(原著:In-Groups and Out-Groups
・「自分が属していると感じるグル―プのことを『内集団』、自分が含まれていないグループのことを『外集団』と呼ぶ。・・・人間は、自分が属しているグループのメンバーと、属していないグループのメンバーのことを違うふうに考え、・・・おのおのに対して違うふうに振る舞う。しかも、グループに基づいて差別しようと意識的に思っているかどうかにかかわらず、機械的にそのような行動を取ってしまう。[p.243-244]」
・「わたしたちは、自分の内集団を外集団よりも多彩で複雑だと考える傾向がある。[p.250]」
・「数多くの研究から裏づけられているとおり、グループ単位の社会的帰属意識はきわめて強力であり、たとえ『彼ら』と『自分たち』を区別する規則がコイン投げに近いものであっても、わたしたちは『彼ら』を差別して『自分たち』をひいきする。[p.256]」
・「グループどうしで協力して行動しなければならない状況になると、グループ間の衝突が突如として減る[p.260]」。

第9章、幸せな「ふり」があなたを幸せにする?(原著:Feelings
・「人間は、怒るから身震いしたり、悲しいから泣いたりするのではなく、身震いするから怒っていることに気づき、泣くから悲しいと感じるということだ。・・・感情も知覚や記憶のように、得られているデータから再構成される。そのデータのほとんどは、知覚によって受けた環境刺激を無意識の心が処理し、生理的反応を引き起こすことで得られる。脳はそれ以外にも、もとからある考えや予想、および現在の状況に関する情報といったデータも使う。これらの情報がすべて処理されることで、意識的な感情はつくられるのだ。[p.273]」

第10章、なぜ「楽観的すぎる」締め切りを設定してしまうのか?(原著:Self
・「心理学者は、・・・自分を過大評価する傾向を『平均以上効果』と呼び、運転能力から経営手腕までさまざまな場面でこの効果が存在することを実証している[p.298]」。
・「心理学者のジョナサン・ハイドいわく、真理にたどり着く方法は2つある。科学者の方法と、弁護士の方法だ。科学者は証拠を集め、規則性を探し、観察結果を説明できる理論をつくって、それを検証する。弁護士は、ほかの人たちに納得させたい結論からスタートし、それを裏づける証拠を探すとともに、それに反する証拠を斥けようとする。人間の心は、科学者と弁護士の両方であるようにつくられている。つまり、客観的真理を意識的に探し求める存在であるとともに、信じたい事柄を無意識に熱を込めて主張する存在でもある。・・・望んでいることを真実であると信じ、それを正当化する証拠を探すというやり方は、日常的な判断を下すのに最良の方法ではないように思える。しかし・・・自分がより幸せになれるのはその不合理な選択のほうかもしれない。人間の思考プロセスにおける『因果律の矢』は、一貫して信念から証拠へと向きがちであり、その逆ではないのだ。・・・心のなかで熱を込めて主張する弁護士が取るアプローチを、心理学者は『動機づけられた推論』と呼んでいる。動機づけられた推論は、自分の善良さや有能さを信じ、自分は何でもできると思い込み、一般的に自分自身を実際以上に肯定的にとらえる後押しをする。[p.301-303]」
・「人間の無意識がもっとも本領を発揮するのは、自己に対する前向きで好ましい感覚、つまり、権力がはびこる世界のなかで、自分はただの人間よりもはるかに大きな能力と統制力を持っているのだという感覚を抱かせてくれたときだ。心理学の文献には、自分自身に対する前向きな『錯覚』を持つことが、個人と社会の両面で利点となることを実証した研究があふれている。・・・動機づけられた推論のおかげで、わたしたちの心は不幸から自分の身を守ることができ、それとともに、本来なら圧倒されかねない、人生で直面するいくつもの障害を克服する力を手にする。・・・世の中と向かい合うとき、非現実的な楽観主義は、いわば溺れないための『救命胴衣』になってくれる。[p.325-327]」
―――

本書でいう「無意識」が話題になる場合、今までは心理バイアスやヒューリティクスの根源として、論理的な思考に対する悪影響、判断や思考上の「失敗」という側面が注目されることが多かったように思います。しかし、本書に述べられた最新の研究成果を読むと、「無意識」こそが人間の本質なのではないか、という気がしてきます。マネジメントの役割のひとつは、人を扱うことだと言ってもよいと思いますので、人がどのように考えるのか、どのように行動を起こすのかを知ることは、よいマネジメントを行うために必要なことでしょう。例えば、「動機づけ」の問題も、従来の「意識的」な思考の側面だけでなく、無意識の視点も求められているかもしれません。そして、それにより、よりよい手法が考えだされる可能性もあるかもしれません。本書に述べられた社会神経科学の進歩は、近い将来マネジメントの世界にも大きな影響を及ぼすようになるのではないか、と思いますがいかがでしょうか。


文献1:Leonard Mlodinow, 2012,、レナード・ムロディナウ著、水谷淳訳、「しらずしらず あなたの9割を支配する『無意識』を科学する」、ダイヤモンド社、2013.

参考リンク<2015.4.5追加>



「イノベーション戦略の論理」(原田勉著)より

研究開発を成功させるにはどうしたらよいのか。すでに様々な経営戦略、組織運営の方法が提案されていますが、研究開発に関する限り、誰もが納得できる方法論は未確立のように思います。それはなぜなのか。おそらく最も大きな障害は、研究開発につきものの不確実性のせいで未来予測が困難なことなのではないか、という気がします。

未来の予測が困難であるなら、無理に予測しようとするのではなく、不確実性を前提として受け入れた上でどうすべきかを考える、というのもひとつの方法でしょう。原田勉著、「イノベーション戦略の論理 確率の経営とは何か」[文献1]では、不確実性を前提とするイノベーション戦略のポイントがまとめられており、実務家にとっても参考になる指摘が多いと感じましたので、以下にその内容のうち重要と感じた点をまとめたいと思います。

第1章、確率の経営――イノベーション確率最大化基準
・「短期効率性の追求には、不確実性はほとんど存在しない。・・・しかしながら、長期効率性の追求には、まだ実現していない不確実なイノベーションが付いて回るため、大きなリスクを伴うものになる。リスクのあるなかで、不確実な未来に向けてどのように決断すべきなのだろうか。この問題に何らかの決着をつけないかぎり、短期効率性と長期効率性との矛盾は解消せず、短期効率性を重視するがゆえに、長期的な適応力が低下するという結果になりがちだ。[p.8]」
・「不確実性の前では、合理性は無力である。戦略的思考や戦略的意思決定と呼ばれるものは、確実性のマネジメントにすぎない。[p.9]」
・「不確実性のなかでの意思決定では、結果そのものよりも、それを生み出すプロセスの合理性自体が問われなければならない。・・・プロセス合理性を追求しなければ、長期的には効率性は低下する。・・・プロセス合理性とは、より具体的にはイノベーションの成功確率を不断に高めていくということを意味する。・・・そこで必要なのは、結果が出る前に、イノベーション確率最大化基準によって経営のあり方を評価することだ。つまり、与えられた制約条件の下で、事前に想定されるイノベーション確率を最大化する取り組み、仕組み、制度になっているかどうかという基準で経営の合理性を判断するのである。[p.14-15]」
・「標準的な経営戦略論で論じられている戦略とは、・・・『組織能力活用型戦略』である。そこでは、いまある組織能力を所与として、効率的に活用することにより、利益を最大化することが目的となる。・・・この組織能力活用型戦略の問題点は、短期業績を上げることには効果がある一方、中長期的な企業の適応力を高めることには必ずしもつながらないという点にある。そこで必要なのは、いま所与としている組織能力自体をさらに高めていくことである。すなわち、『組織能力構築型戦略』である。本書のイノベーション戦略とは、この組織能力構築型戦略のことを指す。[p.17-18]」
・「イノベーション戦略は、既存の組織能力を最も効率的に活用するものではなく、将来を見越した先行投資を伴う。そのため、現在の競争優位にとっては必ずしもプラスにはならない活動が含まれることになる。すなわち、短期的な効率性はある程度までは犠牲にしなければならない。・・・重要なのは、どちらか一方だけを選択するというのではなく、組織能力の活用と構築の適切なバランスをとることだ。企業が成長するためには、この両方が必要なのである。[p.19]」

第2章、イノベーション確率とは
・「イノベーション経営にとって重要なのは、マクロでイノベーション確率を管理するという視点である。・・・ミクロのレベルで不確実なことも、マクロのレベルでは確実性が高くなる。これは、いわゆる大数の法則による結果である。・・・マクロ・レベルでの確率をできるだけ高めるためのマネジメントをここでは『確率管理』と呼ぶことにする。・・・その要諦は、個々の試行の立場に身をおかないという点にある。[p.29-31]」
・「効率的なイノベーション確率の管理には、①探索・試行の領域(イノベーション・ドメイン)を設定すること、②試行回数をできるだけ多くすること、③各試行の精度を高めること、の3つのプロセスが求められる・・・それに加え、④探索、試行の方向性を規定するメカニズムの是正(焦点化装置)も重要な課題になる。[p.36]」
・「もちろん、イノベーション確率は主観的確率であり、それは評価する者によって大きく異なることもある。イノベーション確率自体もまた実は不確実であり、サイコロの目の確率のように、客観的で確実な確率を事前に算出することはほぼ不可能に近い。それでも、組織のなかで知恵を絞って算出されたイノベーション確率を最大化する制度選択やそのための資源配分を実行すべきである。それが与えられた情報のなかでできる最善の方法なのである。[p.42]」
・「重要なのは、類似のプロジェクトが複数実施され、それによってナイト流不確実性が量的に代替されるという点[p.47]」。「ナイト流不確実性に対処するためのもう一つの方法は、決定を遅らせることだ。決定を遅らせることで新たな情報を獲得することができ、それによって不確実性を削減することができる。[p.48]」
・「主観的なイノベーション確率評価こそが、イノベーション遂行の鍵となる[p.52]」。「多数決は決断の根拠にはならない。多数決が有効なのは、大数の法則により、多数決が真実の確率をかなり正確に反映する場合のみである[p.54]」。「特に重要なのは、目利き能力をもった人材を選別し、彼らの評価を尊重するということである。・・・目利き能力のある人の多くに共通するのが、深く広い体験を重ねているという点にある[p.54]」。「多人数の多様な『井の中の蛙』を育成することで組織的に目利き能力を維持しようとする[p.58]」方法が考えられる。

第3章、イノベーション・ドメインの設定――探索領域を決定する
・要素技術は、「組織能力構築という観点からすると、①技術優位へのインパクト、②競争優位へのインパクト、の2つの軸で分類することが有益だ。[p.65]」
・「コア技術とは、技術優位、競争優位へのインパクトがともに大きい要素技術を指す。[p.66]」「コア技術以外の要素技術開発に予算を割り当てることが、大企業の場合、制度的に困難なのである。その結果、コア技術への投資のみが正当化され、コア以外の要素技術は硬直化することになる。・・・このことを回避するためには、あらかじめ研究開発における資源配分の枠を設定する必要がある。当然ながらコアへの資源配分は最も大きくなる。けれども、補完技術や周辺技術、場合によっては未利用技術への投資にも戦略的に一定の枠を確保しなければならない。そうでなければ、コア事業が立ち行かなくなったときに、次世代のコアの種がまったく育っていないという状況になってしまう。[p.82-83]」
・「『知識の地図』を明確に把握し、関係者の間で共有化することが、イノベーション・ドメインの設定には決定的に重要である。[p.88]」

第4章、探索のデザイン――探索の頻度と精度を高める
・「ジェームズ・マーチ・・・は、学習に伴う探索として、狭い領域での探索に特化した『深耕型探索』(exploitation)と、幅広い領域での探索を行う『拡散型探索』(exploration)という2種類に分類している。[p.91]」
・「拡散型探索は、深耕型探索と比べて不確実であり、努力が成果に結び付くとはかぎらない。・・・具体的にどこを探索すれば最善解を発見することができるのかについてまったく見当がつかない場合、組織メンバーをいかに動機づけ、イノベーション確率を高めていくのかが問題となる。・・・そこで重要なのは、『戦略的曖昧さ』を導入することであり、さらには失敗を許容する文化を構築することである。[p.96]」
・「戦略的曖昧さとは、不確実な領域にかぎっては、入口と出口のみを管理し、中間プロセスについては、細かな報告義務を課さないということである。[p.99]」
・「組織の長期的な成否が分かれるのは、・・・失敗をどのように評価するのかという点にある。減点主義の人事評価を実施している企業では、・・・加点よりも失点を避けることが重視され、幅広い探索を行うというインセンティブは失われてしまう。・・・本当にチャレンジを奨励したいのであれば、失敗をどのように評価するのかについて、明確な指針を示さなければならない。[p.100]」
・「ある領域での探索精度を高めるためには、それとトレード・オフの関係にある不確実性に対する探索頻度を量的に増加させることが鍵になる」。「下位レベルでの探索頻度を上げることで、上位レベルでの探索精度を高めることができる。」[p.106
・「探索モードの決定に際しては、結果の予測可能性と手続きの反復性という2つの次元によって評価し判断するのが有益であると思われる。[p.107]」予測可能性が高く、反復性も高い場合は、「組織メンバー間で協調し、分業しながら活動していくほうが効率的[p.108]」。予測可能性が低く、反復性が高い場合は、「拡散型探索に特化した組織メンバーによる協調的な探索活動が必要になる[p.110]。・・・そのためには、どこにどのような技術があるのかが明確でなければならない[p.113]」。3Mのテクノロジープラットフォームのような「見える化」が重要。予測可能性と反復性がともに低い場合は、「探索の重複によるコスト増を覚悟したうえで、並行して複数の組織メンバーに探索を行わせ、結果を競わせる[p.115]」。予測可能性が高く、反復性が低い場合、「探索は外部の業者に委託するほうが効率的[p.119]」。

第5章、探索の焦点を管理する
・要素技術の相互依存関係が掛け算の形になっている場合、ボトルネックの改善が重要[p.132]。
・要素技術の相互依存関係が足し算の形になっている場合、構成要素間の相互依存度は低く、強みの追求が重要[p.134]。
・知識の分類:リテラシー知識(技術を使いこなす知識)、専門知識、枠組み知識(知識が組織内のどこに存在しているかの知識)[p.142-143
・経営者に求められるのは、枠組み知識。「『現場を知らないことを知っている』経営者は、現場を知っている部下を信頼し、彼らの言うことに耳を傾けることで現場情報を把握する。なかには、本当のことを報告しない部下もいるため、嘘かどうかを見抜く観察力・洞察力も必要になる。また、部下の報告と数字との整合性のチェックも怠らない。・・・現場を知らないがゆえに現場を尊重し、自分の考えを押し付けることもしない。結果として、これがサーバント・リーダーシップといわれるものになっているのである。[p.144-145]」
・顧客情報については、営業情報(いつ、どれだけ買ったか、頻度といった情報)と、開発情報(用途および問題状況)を集めることが重要。[p.146
・「何を開発すべきかが明確ではない場合、トップダウンは機能しない。トップの技術的無知を押し付けることほど開発現場での弊害の大きなことはない。・・・したがって、トップダウンよりも、インフォーマルで自主的な情報交換のほうが効率的になる。それには、開発メンバーの自発的な行為によって開発の焦点が明確化されていくためのインフォーマルな仕組みづくりがポイントとなる。[p.149-150]」。情報交換会や技術展示会によるフェース・ツー・フェースのやり取りを促進させる仕組みが有効。

第6章、イノベーション戦略の実行――活用から構築へ
・「本書で対象としているイノベーション戦略は、不確実性のなかでの探索から構成されるため、短期効率性をある程度まで犠牲にすることによってはじめて成立する。したがって、このイノベーション戦略は、組織能力活用型戦略とトレード・オフの関係にある。・・・両者の間で適切なバランスを見出さなければならないということである。[p.162]」
・「組織能力の底上げなくして持続的競争優位を達成することは、何らかの法的保護がないかぎり不可能である。すなわち、競争戦略の愚直な実行は、競争優位の持続性を喪失させる大きな要因となる。[p.164
・「変化し続けることで、持続的または断続的競争優位は可能になる。これが、いわゆるリジリエント・カンパニーである。したがって、経営者は組織能力活用型戦略を実行することにより、一定水準以上の業績を達成しつつ、同時に、イノベーション戦略を遂行し、長期的な適応力の向上にも配慮しなければならない。[p.166]」
・「有限責任で長期的コミットメントのない株主は、企業の長期的適応力などには関心がない。・・・株主利益を重視したガバナンスを整備すればするほど、イノベーション戦略ではなく、組織能力活用型戦略のみを重視するという傾向が強くなる。・・・米国流のコーポレート・ガバナンスを取り入れること自体の誤りに気づかなければならない」。イノベーション戦略を、「買収ではなく内部開発の手法で・・・実行するためには、コーポレート・ガバナンスから隔離されたエリアをつくり出す以外に道はない。・・・短期業績への圧力が強い場合、実行可能な唯一のイノベーション戦略とは、間接イノベーション戦略である。『間接』というのは、自社で自らイノベーション戦略を実行し、探索していくのではなく、それを外部の企業に委託し、場合によってはその支援を行うというものである。[p.168-170]」
・「イノベーション戦略の実行には多様なかたちがありうるということだ。直接イノベーション戦略には、組織能力活用型戦略とのトレード・オフが必然的に伴い、実行には、イノベーション戦略への長期的なコミットメントが必要になる。そのためには、企業に対して長期的なコミットメントをする利害関係者の協力がなくてはならない。・・・イノベーション戦略の実行は、経営者がイノベーション戦略の重要性を認識し、それに対して長期的なコミットメントを決断していることが前提となる。経営者がイノベーション戦略に対して無責任であれば、イノベーション戦略を実行することはできない。そして、株主の場合とは異なり、経営者の無責任を回避する実行性の高い直接的な方法はない。[p.183-184]」
・「リスクを伴う高度な経営判断のよりどころは、それによってどれだけ儲かるのか、売上げが獲得できるのか、という財務的尺度であってはならない。そうではなくて、企業の掲げる理念にどれだけ寄与できるのか、という尺度から決断されなければならない。[p.187]」
・「理念とは掛け声ではなく、組織メンバー一人ひとりの行動を意識的、無意識的に規定する最も重要な組織能力としてとらえなければならない。[p.189]」
―――

イノベーションが不確実なものであるからとって、イノベーションを行う努力を避けていたのではその企業の将来は暗い、というのは多くの人が認めるところではないかと思います。しかし、不確実なことを実行することがいかに難しいか、ということもまた多くの人が実感されているのではないでしょうか。本書は、不確実性を前提として、では、何ができるのか、何が難しいのかが議論されている点、極めて示唆に富んでいるように思われました。もちろん、安易な解決策などあるはずもないのですが、地に足がついた議論をしたいと思えば、著者のアプローチは決して無視できるものではないと思います。

個人的には、本書に述べられた経営戦略の議論に加えて、第一線で技術開発を行う人々への動機づけもイノベーション確率の向上に果たす役割は大きいと思っています。本書では実務者の動機づけの問題については詳しくは議論されていませんが、著者が指摘する戦略上の問題と、動機付けの問題は、本質的な部分ではつながっているようにも思いました。イノベーションの実現というのは、本書の要素技術の相互依存関係の分析に従えば、各要素が掛け算の形になっている場合が多いように思います。そのボトルネックはどこにあるのか、どう改善すべきなのかは、実務者もよく考えておくべきでしょう。


文献1:原田勉著、「イノベーション戦略の論理 確率の経営とは何か」、中央公論新社、2014.

参考リンク



マネジメントについての考察など・目次(2015.3.8版)

「マネジメントについての考察など」というカテゴリーではマネジメント全般の話題や研究マネジメントに関する私見などを書かせていただいています。この目次は記事表題とリンクのリストになっていますが、別ページに要約入りの目次(「その1」「その2」)を設けています。それぞれの「参考リンク」ページのリンクの接続確認、リンク修正を行ないました(各「参考リンク」ページでは内容変更があったもののみ更新日付を変えましたが、それ以外のページも接続確認はしています。)

その1・・・要約入りはこちら
研究総論
技術の的、研究の役割2010.7.25
苦しいときの術開発頼み
2011.9.4
研究とアイデア
創造性を引出すしくみ2010.10.24
アイデアの扱い方と知の呪縛(「アイデアのちから」より)
2012.7.16)、参考リンク
キュレーションと研究開発(勝見明著「キュレーションの力」感想)
2012.3.11)、参考リンク
「クラウドストーミング」(エイブラハムソン、ライダー、ウンターベルグ著)より2015.2.1)、参考リンク
研究の管理
研究の管理と評価再考2010.8.1)、参考リンク
数値目標の功罪
2012.5.20)、参考リンク
研究者と金銭的報奨2010.9.12)、参考リンク
研究者と金銭的報奨再考:処遇をどうすべきか
2010.10.3
モチベーションは管理できる?
2011.1.23
報連相と研究開発
2011.10.2
技術者流出考
2012.10.8)、参考リンク
「ゲーミフィケーション集中講義」(ワーバック、ハンター著)より2014.10.13)、参考リンク
研究と人の問題
研究者の齢限界?2010.12.12)、参考リンク
競争心と究開発
2011.3.6)、参考リンク
研究開発とフラトレーション:ルーチンワークの罠
2011.5.8)、参考リンク
幸福感と成果
2012.9.9)、参考リンク
成功体験の意味
2012.12.9
人事のプロへの期待(八木洋介、金井壽宏著、「戦略人事のビジョン」より)
2012.11.18)、
参考リンク
変化の方法(チップ&ダン・ハース著「スイッチ!」より)2013.1.6)、参考リンク
エキスパートになる、育てる(金井壽宏/楠見孝編、「実践知」より)2013.7.15)、参考リンク
「経営学習論」(中原淳著)より2013.8.25)、参考リンク
「イノベーション・オブ・ライフ」(クリステンセン著)とマネジメント理論
2014.1.5)、参考リンク
一技術者からみた「源泉」(ジャウォースキー著)感想
2014.4.27)、参考リンク
「GIVE & TAKE」(グラント著)より
2014.5.25)、参考リンク
「なぜ人と組織は変われないのか」(キーガン、レイヒー著)にみる変革の方法
2014.7.27)、参考リンク
ピープルアナリティクスとマネジメント(ウェイバー著「職場の人間科学」より)
2014.9.7)、参考リンク
「『好き嫌い』と経営」(楠木建著)と研究開発
2014.11.16)、参考リンク
創造性考(「創造性と生産性」DHBR誌2014年11月号特集より)
2014.12.14)、参考リンク

その2・・・要約入りはこちら
研究と組織の問題
プレイングマネジャーの功罪2011.4.10)、参考リンク
研究組織におけるコミュニケーションの難しさ
2011.11.13
研究における企画という仕事
2012.2.12
部下を守る?組織を守る?技術を守る?
2012.4.30)、参考リンク
研究者の主体性
2012.6.24)、参考リンク
研究とプレッシャー2013.2.3):チームへの影響、参考リンク
フューチャーセンターとは
2013.6.9)、参考リンク
データが語るよいマネジャーとは(ガービン著「グーグルは組織をデータで変える」DHBR2014年5月号より)2014.6.22)、参考リンク
「ミンツバーグ マネジャー論」より
2015.3.1)、参考リンク
研究の進め方
魔の川、死の谷、ダーウィンの海を越える2012.1.15)、参考リンク
技術を維持する-イノベーションの負の側面への抵抗2010.11.14
研究開発におけるスピードと俊敏さ-「加速の罠について」
2011.2.13)、参考リンク
思考停止をもたらすもの
2011.7.31)、参考リンク
研究開発と会議
2011.10.23
協力的環境と研究-「不機嫌な職場」に学ぶ
2011.12.18)、参考リンク
正しい現場主義と研究開発
2012.4.8)、参考リンク
試行錯誤のプロ
2012.8.12
協力と支援(シャイン著「人を助けるとはどういうことか」より)
2013.3.3)、参考リンク
ファシリテーションの意義
2013.4.14)、参考リンク
デザインとイノベーション(エスリンガー著「デザインイノベーション」より)
2013.5.12)、参考リンク
不確実な状況に対処する方法(ケイ著「想定外」より)2013.9.29)、参考リンク
目的工学とは
2013.11.4)、参考リンク
チェックリストの力(ガワンデ著「アナタはなぜチェックリストを使わないのか?」より)
2013.12.1)、参考リンク
持続的競争優位をもたらす戦略とは(ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー2013年11月号より)
2014.3.16)、参考リンク
「ブラックスワンの経営学」(井上達彦著)と技術研究
2015.1.4)、参考リンク
研究における判断と説得
イノベーションとあいまいな意思決定(判断の根拠は何か?、ヒューリスティクスの活用?)」2011.1.3)、参考リンク
意思決定の罠(モーブッサン著「まさか!?」より)
2012.10.28)、参考リンク
ビジネス書の間違い?-『なぜビジネス書は間違うのか』
2010.8.11):Rosenzweig著、参考リンク
経営判断の頼りなさと経営学(ヴァーミューレン著「ヤバい経営学」より)2014.2.9)、参考リンク
研究開発事例
2010年のベスト50発明(「Time」2010.11.22号)2010.12.5)、参考リンク
1年後のTime誌「2010年のベスト50発明」
2011.12.25)、参考リンク(上と同じ)
3年後のTime誌「2010年のベスト50発明」
2013.12.23)、参考リンクは上と同じ



「ミンツバーグ マネジャー論」より

不確実性の高い研究開発をうまく進めるには、事前に周到な戦略を立てるよりも、戦略が市場からわき出てくるような「創発的戦略」をとることが好ましいという考え方を以前にご紹介しました。この創発的戦略は、実践家の立場から見て、大変重要な考え化tだと思っていますので、その提唱者であるMintzbergがマネジメントをどう捉えているかについても興味のあるところです。

そこで今回は、ミンツバーグ著「ミンツバーグ マネジャー論」[文献1](原著表題は、Simply Managing: What Managers Do – and Can Do Better)を取り上げます。創発的戦略同様、ある思想に基づいて具体的な方法論を演繹的に検討するというアプローチではなく、現実に基づいたマネジメント論として参考になる点が多いと感じましたので、特に興味深く感じた点をまとめたいと思います。

第1章、マネジャーにまつわる定説
・マネジメントをありのままに見ることをさまたげる3つの『定説』:
1、「リーダーは、正しいものごとをおこない、変化に対応するのが役割で、マネジャーは、ものごとを正しくおこない、日々の面倒な業務に対応するのが役割だと言われる」。「実際には、いま私たちが憂慮すべきなのは、マイクロマネジャーではなく、おおざっぱにリーダーシップを振るいすぎる『マクロリーダー』だ。組織の上層部の人間が現場を知ろうとせずに『大きなビジョン』だけを振りかざし、いわば遠隔操作でマネジメントをおこなおうとする風潮があるのだ。・・・リーダーとマネジャーを別物と考えるのではなく、両者を一体のものとみなし、リーダーシップとは成功しているマネジメントのことだと理解する必要がある。[p.12-13]」
2、「マネジメントは『サイエンス』でもなければ『専門技術』でもない。・・・マネジメントを成功させるためには、サイエンスだけでなく、アートとクラフト(=技)の要素が不可欠だ。・・・アートは、マネジメントに理念と一貫性を与える。クラフトは、現実の経験に基づいて、マネジメントを地に足のついたものにする。そしてサイエンスは、知識の体系的な分析を通じて、マネジメントに秩序をもたらす。・・・クラフトとアート、それにサイエンスの要素が合わさった仕事であるマネジメントは、実践の行為と呼ぶのがもっともふさわしいだろう[p.13-15]」。「工学や医学の場合、専門教育を受けた専門家はほぼ例外なく、素人より質の高い仕事をする。しかしマネジメントはそうとは限らない。・・・マネジャーが『いちばん知識があるのは自分だ』と思い込むと、マネジメントはうまくいかない。マネジメントとは、なによりも人々の背中を押す仕事だからだ。[p.16-17]」
3、「マネジメントは変わっていない。[p.18]」
・「私のねらいは、マネジメントについての人々の視野を広げ、考える背中を押すことにある。・・・著者である私と一緒に想像をめぐらし、自分の経験を振り返り、問いを発するきっかけにしてほしい。マネジャーの仕事は、どれだけ自分の頭で考えて行動できるかで決まるのだから。[p.20]」

第2章、時間に追われるマネジャーたち――プレッシャーにさらされ続ける仕事
・「マネジメントの質を大幅に改善するためには、マネジャーの仕事に関するイメージと実態のギャップを埋めなくてはならない。[p.26]」
・マネジャーの現実[p.26]:「いつも時間に追われている」、「さまざまな活動を短時間ずつ、細切れにおこなっている」、「ものごとをみずから実行するケースが多い」、「非公式で口頭のコミュニケーションを好む」「対人接触の多くをヨコの人間関係が占めている」、「しばしば目に見えない形でコントロールをおこなっている(「うまく新しい仕事をつくったり、既存の役割を利用したりしている[p.48]」)」。
・「組織の強さを決定づけるのは、コミュニティのメンバー同士の関係、とくに信頼と尊敬である。・・・インターネットはネットワークを強化するかもしれないが、コミュニティを弱体化させる危険がある。[p.51]」

第3章、情報、人間、行動をマネジメントする
・「マネジャーの仕事を、情報の次元、人間の次元、行動の次元という、3つの次元で構成されるものと考えたい。[p.56]」
・「マネジメントの最大の目的は、組織・部署が役割をはたせるようにすること。・・・目的を達成するためには、なんらかの行動が必要とされる。ときにはマネジャー自身が『行動』する場合もあるが、たいてい、みずからは行動から距離を置く。第一に、行動から一歩距離を置いて、メンバーのコーチングをおこない、モチベーションを高め、チームを築き、組織文化を強化するなどして、ほかの『人間』が行動する背中を押す。第二に、さらにもう一歩距離を置いて、セールスチームの販売目標を設定したり、顧客に関する情報を共有したりして、『情報』を使ってほかの人たちの行動を導くこともする。[p.60]」
・情報の次元のマネジメントの要素[p.64-69]:モニタリング(情報収集)、情報中枢(重要な情報がすべて通過する情報の交換台のような存在)、情報拡散、スポークスパーソン、文書以外の情報
・情報を利用した組織のコントロール[p.69-74]:「マネジャーの意思決定は、コントロールの手段という性格ももっている。意思決定を通じたコントロールとしては、『設計(プロジェクトや構造、システムなどの設計)』『委任(実行の委任)』『承認(メンバーからの提案を承認するか)』『分配(資源の分配)』『宣告(目標を課す)』という5種類の活動がおこなわれている。
・人間の次元のマネジメント[p.75-93]:組織内の人々を導く要素としては、『リーダーシップ(ただし、魔法の杖ではない)』、『メンバーのエネルギーを引き出す(「必要なのは、マネジャーが人々に対しておこなうエンパワーメントではなく、人々とともにおこなう『エンゲージメント(関わり合い)』」)』、『メンバーの成長を後押しする』こと、『チームを構築・維持する』こと、『組織文化を構築・強化する』ことがあげられる。組織外の人々と関わる要素としては、『人的ネットワークをつくる』、『組織を代表する』、『情報発信・説得をおこなう』、『情報を内部に伝達する』、『緩衝装置になる』がある。
・行動のマネジメント[p.95-108]:組織内での実行として、『プロジェクトに関わる』、『トラブルに対処する』、対外的な取引として、『同盟関係を築く(支持を集める)』、『同盟関係を活用して、交渉をおこなう』ことがある。
・「必要なのはこの3つの次元すべてで活動できるマネジャーだ。・・・マネジャーが実践するさまざまな役割は、すべてが合わさって一つの仕事を形づくっている。一連の役割を切り離して考えるべきではないのだ。[p.110]」

第4章、いろいろなマネジメント――マネジメントの知られざる多様性
・組織のタイプ[p.125-127]:新興企業型組織(一人のリーダーを中心とする中央集権型)、機械型組織(単純な反復業務)、専門家型組織(メンバーはおおむね自分の判断で仕事をする)、プロジェクト型組織(専門家たちのプロジェクトチームを中心とする)、ミッション型組織(協力な組織文化に支配されている)、政治型組織(トラブル対応に追われる)。
・個人的なマネジメントスタイル[p.138-145]:特に注目すべきだと思われる3つの側面は、行動志向の度合い、組織における立ち位置(トップか、真ん中か、いたるところで活動しているのか)、アートとクラフトとサイエンスのバランス。サイエンス偏重では分析過剰の『計算型』に、サイエンスによる体系的分析を欠けば支離滅裂な『無秩序型』に、アート偏重ではアートが自己目的化する『ナルシスト型』に、アートのビジョンを欠けば刺激のない『無気力型』に、クラフト偏重ではマネジャーが自分の経験の範囲内に閉じこもる『退屈型』に、クラフトの経験の要素を欠けば地に足のつかない『現実有利型』になりかねない。マネジメントを成功させるためには、アートとクラフトとサイエンスの3要素を何らかの形でブレンドさせることが不可欠[p.145-144]。
・マネジメントの基本姿勢[p.151-166]、マネジャー以外の人物によるマネジメントの度合い[p.166-175]によっても異なる形態のマネジメントがある。

第5章、マネジャーの綱渡り-マネジメントの避けられないジレンマ
・上っ面症候群[p.178-179]:「押し寄せてくる情報に対処するだけの人物になりがち」
・計画の落とし穴[p.181-185]:「あわただしさのなかで、指示を発し、意思決定を監督することは簡単でない」。必要なのは、戦略プランニングでなくて戦略クラフティング。「戦略は、正式なプロセスをへずに学習されるという形で出現する場合もある。[p.184]」
・分析の迷宮[p.185-190]:「分析によって細かく分解された世界を、どのようにして一つにまとめればいいのか。[p.185]」
・現場との関わりの難題[p.190-198]:「マネジメントという行為の性格上、マネジャーがマネジメントの対象から乖離することは避けられない。・・・現場と切り離される宿命にあるマネジャーが現場との結び付きを失わないためには、どうすればいいのか。」
・権限委譲の板ばさみ[p.198-200]:「マネジャーがほかのメンバーより情報をもっているために、他人に仕事を任せづらいケース」
・数値測定のミステリー[p.200-207]:「数値測定が当てにならないときに、どのようにマネジメントをおこなえばいいのか」
・秩序の謎[p.207-211]:「マネジメントという行為がそもそも無秩序なものなのに、マネジャーはどうすれば、組織のメンバーの仕事に秩序をもたらせるのか。」
・コントロールのパラドックス[p.211-214]:「自分より地位の高いマネジャーが秩序を求めて圧力をかけてくるとき、マネジャーはどうやって重要な『統制された無秩序』を維持すればいいのか」。「大組織では、目標の言い渡しによるマネジメントがますます幅を利かせているが、それはおうおうにして、シニアマネジャーの責任逃れでしかない」。
・自信のわな[p.214-217]:「どうすればマネジャーは傲慢への一線を越えることなく、適度の自信を保ち続けられるのか。」
・行動の曖昧さ[p.217-221]:「どういうときに、手遅れになるリスクを覚悟の上で行動することを待ち、どういうときに、想定外の結果に見舞われるリスクがともなっても迅速に行動すべきかを見極めることだ。」
・変化の不思議[p.221-225]:「マネジャーは、継続性を保つ一方で、どのようにして変化をマネジメントすればいいのか。」
・究極のジレンマ[p.225-227]:「本書では、マネジャーが直面するジレンマを解決することは不可能だということも繰り返し指摘してきた。・・・どのようにして、数々のジレンマに同時に対処すればいいのか」。
・私のジレンマ[p.227-228]:「マネジャーが直面する数々のジレンマは、すべて別々のものとして論じることができる半面、どれも根は同じに見える。この点をどう説明すればいいのか。」

第6章、有効なマネジメントとは――マネジメントの本質を明らかにする
・「成功するマネジャーも欠陥を抱えている。そもそも、欠陥のない人間など一人もいない。マネジャーとして成功する人は、欠陥が少なくともその環境では致命的な弊害を生まないのである。[p.232-233]」
・マネジメントの成功と失敗について考える枠組み:振り返り、分析、広い視野、協働、積極行動、個人的なエネルギー、社会的な統合[p.246-247]。
・エネルギー:「マネジメントの仕事に関して明らかなことが一つあるとすれば、それは、優れたマネジャーがきわめて精力的に活動しているということだ[p.248]」。「マネジャーが『現場との関わりの難題』と『変化の不思議』に対処するうえで大きな役割をはたす。[p.249]」
・振り返り:「優れたマネジャーは、振り返りを重んじているケースが多かった。自分の経験から学び、いろいろな選択肢を試し、ある選択肢がうまくいかなければ、別の選択肢を試してみるのだ[p.249]」。「優れたマネジャーは、自分の頭でものを考えるものなのだ。あわただしい毎日を送るマネジャーには、目の前の活動から一歩距離を置き、自分の経験を振り返る時間が必要だ。そういう時間は、『自信のわな』『計画の落とし穴』『上っ面症候群』『現場との関わりの難題』をやわらげる解毒剤になりうる。[p.251]」
・分析:「分析を過度に重んじればマネジメントが機能しなくなるが、軽視しすぎれば無秩序状態に陥りかねない。・・・適切なバランスをとるのが賢明だ。・・・分析偏重のマネジャーは、『分析の迷宮』と『数値測定のミステリー』に直面する危険があるのだ。しかしその反面、『秩序の謎』に対処するうえでは、混沌状態のなかに秩序を見いだすことも忘れてはならない。[p.251-252
・広い視野:マネジャーにとって大事なのは、「『ワールドリー』であること、すなわち広い視野をもつことだ。・・・『ワールドリー』とは、『人生の経験が豊富であること。世の中の事情に通じていること。実務処理能力が高いこと』。・・・第5章で論じたすべてのジレンマ――特に『行動の曖昧さ』のジレンマ――が浮き彫りにしているのは、マネジャーにとって微妙な細部を理解することがきわめて重要だということだ。そう考えると、ほかの世界を知ることによって自分の世界を真に理解し、広い視野を獲得した人物こそ、マネジメントのジレンマの数々にもっとも上手に対処できるのかもしれない[p.253-256]」。
・協働:「マネジャーに求められるのは、メンバーがみんなで一緒に仕事ができるように手助けをすることだ。・・・『関与型』のマネジャーは、ほかの人たちを関わらせるためにみずからが積極的に関わる。具体的には、敬意をもつこと、信頼すること、配慮すること、鼓舞すること、そして言うまでもなく聞くことが実践される。・・・この一世紀ほどの間、コントロール型のマネジメントに代わって、関与型のマネジメントの重要性が高まってきた。・・・協働志向の強いマネジャーがメンバーに情報を提供し続ければ、『権限委譲のジレンマ』は深刻なジレンマに発展しない。また、マネジャーが協働志向を発揮し、現場と結びつき、現場の情報を多く入手すれば、『現場との関わりの難題』もやわらぐだろう。[p.256-258]」
・積極行動:「優れたマネジャーは、受け身の犠牲者のようには振る舞わない。変化に翻弄されるのではなく、自分で変化を起こそうとする。『行動の曖昧さ』・・・に対処するうえでは、・・・カギを握るのは積極行動だ。・・・もう一つ、『変化の不思議』のジレンマも見落としてはならない。・・・安定を保つためには、変革を起こすときと同じぐらい、積極的な行動が必要とされる場合がある。[p.259-260]」
・統合:「マネジャーに要求されるのは、動的なバランスだ。情報の次元、行動の次元のバランスをとり、アートとサイエンスとクラフトの3つの要素に対するニーズに同時に折り合いをつけ、さらに『お手玉』をするように多くの課題に同時並行で対処する必要がある。[p.262]」
・「組織を得体の知れない階層の積み重なったものと考えるのではなく、積極的に関わり合う人々のコミュニティとみなすことほど、自然な発想はない[p.286]」。「いま私たちは、マネジメントと組織のあり方を再検討し、リーダーシップにとどまらず、コミュニティシップについても考える必要がある。これらのものはすべて、もっとシンプルで、自然で、健全であっていいはずだ。[p.289]」
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世の中にマネジメントを上手く行う処方箋や、マネジメントの要点を理解できるシンプルな理論があるならそれを知りたい、と思うのは誰しも同じだと思います。本ブログも望ましい研究開発マネジメントの方法を探ることをテーマにしているわけですが、マネジメントという行為が、少数の要素でシンプルに理解できないものだとすれば、無理な単純化では我々の求める答えは得られない可能性があるのではないでしょうか。

創発的戦略についても同様ですが、著者の考え方は、まず物事をありのままに捉え、現実から学ぼうとすること、そして、物事を理解しようとする我々自身の能力を過信せず、浅い理解で物事が理解できたことにしてしまわない、一種の謙虚さのようなものを感じます。マネジメントが本来複雑なものであるなら、複雑であると言うことをまず理解し、その前提にたって対応を考えるべきだ、ということなのではないかと思います。

実はこうした発想は、科学者の考え方と近いものがあります。実は我々は、複雑な世界のごく一部しか知らないのだということを理解した上で、少しでも真理に近づきたい、望むような結果を出したいという気持ちで研究開発を行っている人は多いのではないかと思います。マネジメントも科学と同様、わからないことだらけと理解すれば、著者の考え方は、技術者には受け入れやすい考え方のように思われます。ただし、わかっていないなりに、著者は様々な提案をしてくれていますし、実務家が陥りやすい誤りにも警告を発してくれているように思います。本書は、いわゆる成功の処方箋のような内容を説明した本ではないと思いますが、だからこそ、実務家にとっても有益な、ハウツーを越えた真理に近い内容を含んでいると感じました。


文献1:Henry Mintzberg, 2013、ヘンリー・ミンツバーグ著、池村千秋訳、「エッセンシャル版 ミンツバーグ マネジャー論」、日経BP社、2014.



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