研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2015年11月

Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2015年)

2年に一度発表される経営思想家のランキングThinkers50については本ブログでも2011年のリスト2013年のリストを紹介しましたが、2015年の結果が発表されました[文献1]。順位の決め方は前回同様、アイデアの妥当性、研究の厳密さ、アイデアのプレゼンテーション、アイデアの普及、国際的展望、アイデアの独創性、アイデアのインパクト、アイデアの実用性、ビジネスセンス、影響力を評価項目とし、webサイトでの投票と、Stuart CrainerDes Dearloveをリーダーとするアドバイザーチームの意見によってランキング化しているとのことです。

ベスト50のリストは以下のとおりです。以前のブログ記事同様、独断ですが、イノベーションに関する貢献が大きいと考えられる思想家に、◎(極めて重要)、○(重要)をつけてみました。なお、以下のコメントは、主にThinkers50webページの紹介に基づいていますが、それ以外の情報を加えているところもあります。

Thinkers502015年の結果(カッコ内は2013年順位、2011年の順位)
1、Michael Porter(7、5):5つの力のフレームワークで有名ですが、その後提唱したshared valueの概念は資本主義の再評価につながると期待されているそうです。
2、Clayton Christensen(1、1):◎、「破壊的イノベーション」理論の提唱者。2012年刊の「イノベーション・オブ・ライフ」は、本ブログでも紹介しました。
3、W. Chan Kim & Renée Mauborgne(2、2):○、「ブルーオーシャン戦略」の提唱者。現在はINSEAD Blue Ocean Strategy Instituteを展開。2015 Breakthrough Idea Award候補。
4、Don Tapscott4、9):○、デジタルネイティブ、ウィキノミクスで有名。ビジネスや社会への技術の影響に関する権威。新著「Blockchain Revolution」は2016年刊行予定。2015 Digital Thinking Award候補。
5、Marshall Goldsmith(10、7):エグゼクティブコーチ。360度フィードバック、MOJOで有名。近著はベストセラーの「Triggers:
Creating Behavior That Lasts--Becoming the Person You Want to Be」。
6、Linda Hill(8、16):○、ハーバードビジネススクール教授。専門はリーダーシップ。近著は「Collective Genius」。HBR掲載の同名論文(集合天才)は本ブログでも紹介しました。Innovation Award受賞。
7、Roger Martin(3、6):○、インテグレーティブシンキングで有名。A.G.Lafleyとの共著「Playing to WinP&G式『勝つために戦う』戦略(2013)」は本ブログで紹介しました。2015 Social Enterprise Award受賞(Sally Osbergと共同)。
8、Herminia Ibarra(9、28):INSEAD教授。リーダーシップを研究。近書は「Act Like a Leader, Think Like a Leader (2015)」。2015 Leadership Award候補。
9、Rita McGrath(6、19):○、「仮説のマネジメント」「仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning)」で有名。2015 Strategy Award候補。近著は「The End of Competitive Advantage (2013)」。
10、Daniel Pink(13、29):「ハイ・コンセプト」「モチベーション3.0」で有名。近著は「To Sell is Human(人を動かす、新たな3原則)(2012)」。
11、Richard D’Aveni(17、21):戦略論が専門。Dartmouth大学教授。ハイパーコンペティションやコモディティ化などを検討。2015 Strategy Award候補。近著は「Strategic Capitalism (2012)」。
12、Eric Ries(-、-):◎、シリコンバレーの起業家でもある。リーン・スタートアップで有名。本ブログでも著書(「リーン・スタートアップ」、邦訳2012)を紹介しました。
13、Vijay Govindarajan(5、3):◎、本ブログでも、「リバースイノベーション」、「イノベーションを実行する」、「はじめる戦略」を取り上げています。2015 Innovation Award候補者。
14、Richard Florida(25、-):○、「The Rise of the Creative Class」著者。トロント大学Martin Prosterity Instituteディレクター。
15、Alexander Osterwalder and Yves Pigneur(-、-):◎、2015 Strategy Award受賞。「ビジネスモデル・ジェネレーション」でBusiness Model Canvasというツールを紹介。この本および近著の「バリュー・プロポジション・デザイン」を本ブログで紹介しました。
16、Amy Edmondson(15、35):ハーバードビジネススクール教授。チームワークを研究。近著の「Teamingチームが機能するとはどういうことか)」(2012)は本ブログで取り上げました。
17、Jeffrey Pfeffer(24、22):スタンフォード大学教授。権力の研究、事実に基づく経営、resource dependence theoryなどで有名。
18、Martin Lindstrom(-、-):ブランドのエキスパート。新著は「Small Data2016)」。
19、Pankaj Ghemawat(11、27):専門はグローバリゼーション。Stern school (New York)IESEビジネススクール(スペイン)教授。2015 Strategy Award候補。
20、Steve Blank(-、-):◎、リーン・スタートアップの基礎を築き、UCバークレー校で教え始めた起業家。共著に「The Startup Owner’s Manual (2012)」がある。
21、Teresa Amabile(22、18):○、ハーバードビジネススクール教授。創造性、モチベーションなどを研究。
22、Daniel Goleman(36、39):心の知能指数EQ(原著ではEIEmotional Intelligence)で有名。近著は「Focus: Hidden Driver of Excellence (2013)」。
23、Seth Godin(-、17):マーケティングのエキスパート。パーミッションマーケティングで有名。近著は「The Icarus Deception: How High Will You Fly? (2012)
24、Henry Chesbrough(37、38):◎、「オープンイノベーション」提唱。UCバークレー校外部教授。
25、Adam Grant(-、-):ペンシルバニア大(Wharton)教授。「GIVE & TAKE2013)」著者。
26、Erik Brynjolfsson & Andrew McAfee(-、-):MIT教授と研究員。デジタル技術の経済や社会への影響を研究。「機械競争」は本ブログでも紹介しました。
27、David Ulrich(30、23):人事、人材育成戦略が専門。2015 Breakthrough Idea Award候補。
28、Jim Collins(12、4):○、「ビジョナリーカンパニー」シリーズの著者。「Great by Choiceビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる)」は本ブログでも紹介しました。
29、Stewart Friedman(27、45):リーダーシップ、work/lifeの統合などの専門家。2015 Talent Award受賞。新著は「Leading the Life You Want: Skills for Integration Work and Life (2014)」。
30、Gary Hamel(19、15):プラハラードとの共著「コア・コンピタンス経営」で有名。
31、Lynda Gratton(14、12):ロンドンビジネススクール教授。近著は「Shift2011)」。
32、Sylvia Ann Hewlett(16、11): Center for Work-Life Policy(非営利シンクタンク)代表。
33、Fons Trompenaars(41、42):異文化間グローバル人材戦略を研究。
34、Morten Hansen(28、-):○、J.Collinsとの共著「Great by Choiceビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる)」を本ブログで紹介しました。
35、Tammy Erickson(29、33):職場における世代ギャップ、協力、イノベーションが専門。
36、Jennifer Aaker(-、-):社会心理学者。意思決定、ネットワークを通じたアイデアの移転を研究。
37、John Kotter(32、34):変革のマネジメント、リーダーシップ論で有名。近著は「Accelerate: Building Strategic Agility for a Faster-Moving World (2014)」。
38、Zhang Ruimin(-、-):HaierグループCEO2015 Ideas-Practice Award受賞。
39、Subir Chowdhury(40、50):シックスシグマの著書あり。ASI Consulting GroupCEOChairman
40、Nirmalya Kumar(20、26):タタグループのDirector of strategy。近著は「Brand Breakout (2013)
41、Sydney Finkelstein(43、-):リーダーシップ、戦略が専門。有能な経営者の失敗分析で有名。
42、Julian Birkinshaw(39、-):ロンドンビジネススクール教授。近著は「Becoming a Better Boss」。
43、Liz Wiseman(48、-):リーダーシップ研究のWiseman Group代表。2015 Leadership Award候補。
44、Doug Ready(49、-):International Consortium for Executive Development Research創立者。2015 Talent Award候補。
45、Umair Haque(35、49):コンサルタント。2015 Digital Thinking Award候補。
46、Hal Gregersen(-、-):◎、「イノベーションのDNA」共著者。2015 Leadership Award候補。
47、Anil Gupta(44、-):メリーランド大学教授。China India Instituteのアドバイザー。
48、Nilofer Merchant(-、-):○、近著は「11 Rules for Creating Value in the #SocialEra (2012)」。2015 Digital Thinking Award候補。スタンフォード大(Santa Clara)で教えている。
49、Whitney Johnson(-、-):Springboard Fund設立者兼Managing Director。「Disrupt Yourself (R): Putting the Power of Disruptive Innovation to Work」が2015年刊行予定。2015 Talent Award候補。
50、Amy Cuddy(-、-):社会心理学者。近著は「Presence: Bringing Your Boldest Self to Your Biggest Challenges (2015)」。2015 Leadership Award候補。

Lifetime Achievement Award
Henry Mintzberg氏に授与されています。また、今回新たにHall of Fameメンバーになったのは、Edger H Schein, Edward E. Lawler III, Andrew Kakabadse, Rosabeth Moss Kanter, Richard Rumelt, Ram Charanの各氏となっています(これらの諸氏はランキングには載りません)。
また、Distinguished Achievement Award受賞者のうち、上記ランキングに含まれていない方々は以下の通り。
Rader Thinker Award: Erin Meyer
(「Culture Map (2014)」著者)
Breakthrough Idea Award: Rachel Botsman
Collaborative Consumption

今回のランキングで注目すべきことは、イノベーションの方法論を議論した人々が高く評価されていることでしょう。リーン・スタートアップのBlankRies、ビジネスモデルキャンバスのOsterwalderPigneurはいずれもランキング初登場ですが、かなり高位にランキングされています。イノベーションに適した仕事の進め方が明らかになってきているということかもしれません。

ちなみに、Innovation Awardの受賞者と候補者リストは以下のとおりです。今回ランキング入りしたOsterwalderPigneur2013Innovation Award候補者に入っていましたので、要注目かもしれません。
受賞者:
Linda Hill(上記参照)
候補者:
Scott Anthony:「The First Mile」著者。
Alexa Clay & Kyra Maya Phillips:「Misfit Economy (2015)」著者。
Rowan Gibson:「Four Lenses of Innovation (2015)」著者。
Vijay Govindarajan(上記参照)
Gary Pisano:「Producing Prosperity (2012)」著者。
Alf Rehn:「Trendspotting (2013)」共著者。
Juan Pablo Vazquez SampereIEビジネススクール教授。


文献1:「The Thinkers50webページ
http://www.thinkers50.com/



「影響力の正体」(チャルディーニ著より)

人間の判断がいかに危ういものかについては今までに本ブログでも何回かとりあげてきました(例えば、「ファスト&スロー」など)。よい判断を行う上では、そうした危うさを知っておくことがまず重要ですが、知っているだけでよい判断ができるとは限りません。そうした危うさを悪用しようとする人たちがいることも事実ですし、気づかぬ間に行った判断で自滅してしまう場合もあるように思います。

ロバート・チャルディーニ著「影響力の正体」[文献1]では、他者や置かれた状況が判断に及ぼす影響、特に、人が「イエス」と言うときの心理状態についての社会心理学上の知見がまとめられています。交渉を行う時など、実用的観点からも役に立つ指摘も多いと感じましたので以下にそのポイントをまとめてみたいと思います。

著者は本書の「はじめに」で、次のように全体を要約しています。「販売員、寄付金集めや広告主、新兵募集の担当者といった、『イエス』を引き出すプロたち・・・が『イエス』と言わせるために駆使している手法は千差万別ですが、大半が、6つの普遍的なカテゴリーに分類できます。いずれのカテゴリーも基本的な心理学のルールにのっとっていて、そのルールが絶大な力で人々の行動を誘導しているのです。・・・6つのルールは、恩義、整合性、社会的な証拠、好意、権威、希少性です[p.4-5]」。なお、このルールの中には「欲」が含まれていませんが、著者によれば、欲のルールは「わざわざ説明するまでもない、当然のもの[p.6]」だから、とのことですので、本書は「欲」よりも気づかれにくい影響力について議論したものと考えることができるでしょう。

1、影響を与えるWeapons of Influence
・「動物行動学者たちがすでに明らかにしているように、機械的な行動パターンに一も二もなく従う生物はたくさん存在するのです。これは定型的動作パターンと言われ、・・・あたかも、パターンを記録したテープが動物の体内に埋めこまれているかのようです。・・・重要な点は、わたしたちもまた、あらかじめプログラミングされたテープを持っている、ということでしょう。しかもそのテープは、普段は都合よく動いてくれても、まずいときにスイッチとなる特徴が働いて、わたしたちを騙しかねないものでもあるのです。・・・実際、機械的な行動は、だれしもよくやっています。多くの場合、それが最も効率的な行動だからです。・・・日々遭遇する人や出来事や状況のすべてを事細かに認識し、分析することなどできません。そのために往々にして頼らざるをえないのが、おおざっぱな固定観念です。そして、鍵となる2つか3つの特徴をもとに物事を分類して、スイッチとなる特徴のいずれかが現れると、無意識のうちに反応するのです。・・・今の世の中、人々がまず求めるメリットは財布への負担軽減ですが、その次に求めているメリットは、脳への負担軽減です。・・・人間の持つ、機械的に反応するスイッチのもとになっているのは、これまでに学んで受け入れてきた、心理学的なルールや固定観念です。・・・こうしたルールを巧みに使えば、相手に絶大な影響を及ぼすことができるのです。[p.14-22]」
・例えば、「比較のルール・・・は、順次だされる2つのものの違いについて考えるときに影響をおよぼします。簡単に言うと、2番目のものが最初のものとかなり違うと、実際よりももっとその差を大きく考える傾向がある、ということです。[p.24]」

2、恩義――ゆずりあいに潜むワナReciprocation: The Old Give and Take.... and Take
・(注:Reciprocationは「返報性」と訳されることもあるようです)
・「さまざまな影響力の中でも1、2を争うほど効果の高いルール――恩義のルール・・・は言います、人は、他者にしてもらったのと同等のお返しをすべきだと。・・・文化人類学者のライオネル・タイガーとロビン・フォックスは、こうした“恩義のルール”を、人類ならではの、周囲にうまく対応するメカニズムと見なしています。だからこそ、分業も、物々交換やサービス交換(これによっていろいろな専門家が誕生しています)も可能になるのです。さまざまなギブ・アンド・テイクがもたらされることで、個々人が非常に強固な集団にまとめあげられるのです。・・・このルールには恐ろしいほどの力があり、相手がこちらに負い目を感じていなければまず断るであろう頼み事をしても、たいてい『イエス』と言わせてしまうのです。[p.32-36]」
・このルールの別の特徴に、「相手が望んだものをあげなくても、相手に“お返しをしなければ”と思わせることができる[p.48]」ことがあります。「相手の好意に“応えなければ”という想いは、恩義のルールの基本ですが、このルールを簡単に利用できるようにしているのはむしろ、相手の好意を“受けとらなければ”という思いのほうです。この思いのために、親切にしてもらいたい相手を選べず、選択の権利を相手に委ねることになるのです。[p.49]」
・「このルールには、もう1つ大事なポイントがあります。それが『何かでゆずってくれた相手には、こちらもゆずらなければならない』です。・・・うまく事を運ぶ可能性を広げたいなら、1つの方法として、まずはとてつもなく大それたことを頼んでみてください。・・・そしてわたしが断ったら、それよりもささやかなこと――あなたが本来わたしにやってもらいたいことを頼んでみます。[p.57-59]」「とはいえそれも、度を超してしまってはダメです。・・・最初にとてつもない要求をすると、相手から、誠実に取引をする気がないと見なされてしまうのです。[p.62]」「交渉相手のとり分を減らせたのは、自分が相手を巧みに誘導したからだ[p.75]」という感情も作用することがあるようです。
・恩義のルールを利用して迫ってくる相手には、「相手が先に申しでてくれた好意は受け、」「いつかそのお返しをすること。・・・それだけなら、相手に恩義のルールを悪用されることもありません。[p.79]」

3、整合性――心の中の邪気Commitment and Consistency: Hbgoblins of the Mind
・「いったんスタンスが決まると、矛盾しないように、というプレッシャーが働き、自分がどう考え、何を信じるのかを、すでに決めたスタンスにあわせます。要は、自分は正しい選択をしたと思い込むのです。けれどこれで、気持ちは間違いなく楽になります。[p.86-87]」「ほとんどの環境では、つじつまがあっていることが評価され、またそれが環境にもなじむ、ということです。つじつまがあっていないと、たいていは性格に問題ありとみなされます。・・・けれど、わたしたちは概してつじつまをあわせることに躍起になるため、機械的にそうしてしまいます。よく考えもせずにつじつまをあわせてしまうと、とり返しのつかないことにもなりかねません。[p.90]」「いったん心を決めてしまえば、あとはもうかたくなにその考えを貫き通すことで満足感が得られます。[p.91]」
・「そもそも、機械的につじつまをあわせようとさせるものとは何なのでしょうか? 社会心理学者たちは言います、それこそが約束だと。[p.100]」「小さな要求からはじめて、やがて関係のあるより大きな要求を突きつけ、最終的に『イエス』を引きだす。こうしたやり方を、“段階的要請法”――“フット・イン・ザ・ドア・テクニック”といいます。[p.106]」「他者との差別化を図り、揺るぎない連帯感をつくりあげることを意識している集団にとって、苦痛を強要する儀式は、何物にも代えがたい強みをもたらす[p.133]」(つまり、その集団が魅力的で価値あるものだと自分に言いきかせるようになる)。「ある人の自己イメージや将来の行動を変えようと思ったら、約束を自発的にさせ、それを多くの人に知らしめ、苦労して達成させるのが一番です。[p.133]」「社会心理学者が明らかにしているように、わたしたちがある行動に対して自ら責任をとるのは、外部からの強いプレッシャーなしに、自分の意志でそれを選んだと思う場合です。・・・多分にプレッシャーをかけられることで何らかの行動をとることはあっても、その場合、その行動に対して責任をとることはありません。・・・過度に脅されたときも同じです。すぐに従おうという気にはなっても、長いあいだ約束を守ろうという気にはなりません。[p.136]」さらに、「わたしたちは、自らの意志で選らんだ約束を補強するために、新たな柱を立てます。・・・ローボール・テクニックは、・・・まず、相手が喜びそうなおいしい条件を提示し、進んで購入を決めるよう導いていきます。ついで、決定がくだされてから取引が終了するまでのあいだに、当初の購入に付随していたはずのおいしい条件を巧みにとりのぞいていくのです。・・・個人の約束にはそれを自ら支えるシステム、つまり、約束を守るための正当な理由を新たに見つけだしていけるだけの力がある[p.142-145]」。
・「わたしたちは、いいつじつまあわせと、“愚かな”それとをしっかり区別しなければなりません。[p.150]」「さまざまな心理学の実験結果が示しているように、わたしたちは理性で認識する直前に、まず感情を働かせます。わたしは、心の奥底から送られてくるメッセージこそ、その人の本心なのではないかと考えています。・・・最初にぱっと感じた気持ちをしっかりとキャッチし、それを信用するだけです。[p.161]」

4、社会的な証拠――わたしたちの真実Social Proof: Truths are Us
・「わたしたちは、ほかの人たちが正しいと考えていることをもとにして、何が正しいかを判断する・・・ある状況で、その行為をしている人が多ければ多いほど、それを正しいものと考えるのです。[p.168]」
・「社会的な証拠の場合、・・・概して、自分で自分のことがよくわからなかったり、状況がはっきりしないとき、どうしようもなく不安なときなどに、他人の行動を正しいものと期待し、受け入れる傾向が最も強いようです。・・・わたしたちが見落としがちなのが、・・・ほかの人たちもまた、社会的な証拠を探しているであろうこと。特に状況がはっきりしない場合には、だれもがほかの人の動向に注目する傾向があり、そのために非常におもしろい現象が見られます。“多数の無知”と称するものです。[p.187]」「何が起こっているのかわからない・・・どんなときは、ヒントを得ようと周囲の人の様子をうかがうものでしょう。ほかの人たちの反応を見て、それが緊急事態かを確かめるのです。・・・だれしもほかの人の前では動揺したりうろたえる姿を見せたくないものですから、証拠を探すにしても、そっとうかがうだけ、ということが多いでしょう。するとみんなが、ほかの人はあんなに落ちつき払っているんだ、と思い、行動を起こさなくなると考えられます。・・・これこそが多数の無知状態なのです。[p.192-193]」
・「社会的な証拠のルールが最もその力を発揮するのは、自分と似たような人の行動を見るときです。・・・わたしたちは、自分と似ていない人よりも似ている人の行動に従う傾向が強いのです。[p.202]」
・「社会的な証拠は、わたしたちがどう行動すべきかを教えてくれますが、それは通常とても役に立つ、価値のあるものです。・・・要するに社会的な証拠は、わたしたちにすばらしい自動操縦装置・・・を持たせてくれるのです。・・・自動操縦に不備が生じるのは、基本的に、間違ったデータが入力されるときですから、こうした不備から身を守るには、データが間違うのはいつなのかをしっかりと認識するのが一番です。・・・1つは、社会的な証拠が意図的に改ざんされている場合です。・・・露骨に偽物とわかる社会的な証拠に用心してさえいれば、しっかりと我が身を守ることができるのです。・・・加えて、そのルールが・・・わたしたちを間違った方向に誘導していく場合もあります。悪意のない自然な間違いが、どんどん社会的な証拠をつくりだし、わたしたちを間違った決断へと追いやっていくのです。・・・集団の信じる証拠に依存しているときは、定期的に周囲に目をやらなければなりません。これは、間違った社会的な証拠にふりまわされないための予防策です。[p.223-233]」

5、好意――人なつこい泥棒Liking: The Friendly Thief
・「概してわたしたちは、知人や好きな人から何かを頼まれたら、たいてい『イエス』と答えます。[p.238]」「科学者たちが長年積み重ねてきた証拠から、人が人を好きになる確かな要因もいくつか明らかになってきています。[p.242]」「わたしたちは、見た目のいい人には自動的に好印象を抱きます。才能がある、優しい、正直、知的、などです。[p.243]」「そしてだれしも、自分が好意を抱いた人の言うことには素直に従う傾向があります。[p.245]」「わたしたちは、自分に似た人に好意を抱きます。[p.246]」「わたしたちは、お世辞を言われるとおのずと肯定的な反応を示す[p.250]」。「ほとんどの場合、わたしたちはなじみのあるものが好きです。[p.250]」「好意を抱く過程において、協力が非常に大きな影響をおよぼす[p.264]」「『イエス』を引きだすプロが絶えず試みていることがあります。・・・たがいの利益のために協力すること、つまりは、自分たちをわたしたちの仲間だと思わせることです。[p.264]」「自分のために、いっしょになってやってくれようとしている人がいると・・・たいていの場合、そういう人には絶大なる好意を抱くものです。[p.267]」「人は生まれながらにして、おもしろくないことを伝えてくる人を嫌う傾向がある[p.269]」「プロたちは知っているのです、・・・ありとあらゆる望ましいものを使い、そのプラスの特性をアイデアや製品や人々にあからさまに付与できると。[p.275]」「だれしも結びつきのルールをよく理解しているので、何とかいい出来事とだけ自分を結びつけ、悪い出来事からは遠ざかろうと頑張っています。[p.276]」「プラスの結びつきをひけらかし、マイナスのそれを隠すことで、周囲からより高い評価と、さらなる好意を得ようとしているのです。[p.283]」「わたしたちがこのテクニックを使う可能性が最も高いのは、自分がさほどよく見られていないと思っているとき[p.285]」。
・「『イエス』と決断する際にはつねに、『イエス』を要求してくる人と要求そのものに対する自分の気持ちを分けておく、というのはいい考えでしょう。[p.292]」

6、権威――誘導される意志Authority: Directed Deference
・「わたしたちは生まれたときから教えこまれているのです、適切な権威に従うことは正しく、従わないことは間違いだと。・・・正しいルールに従い、誠心誠意尽くすことイコール、それぞれのシステムにおいて評価されることなのです。・・・権威ある者の命令に従うことは、わたしたちにとってはメリットのあることです。・・・ただ、それがあまりに当然なために、わたしたちは往々にして、不適切なときにも権威に従ってしまうのです。[p.307-309]」「機械的に反応するとき、わたしたちは、権威の中身同様それを象徴するものにも往々にして騙される・・・。たとえば詐欺師なら、権威を象徴する肩書や服装、装飾品で自分を飾り立てます。[p.312]」「自分が得をしたいと考える人は、見せかけの地位を得るために、サイズを偽ることがあるのです。[p.316]」
・「権威がどのように影響をおよぼすかをきちんと理解すること、それこそが権威に抵抗する大きな力となるのです。・・・『この権威者は、本当に専門家なのか?』この質問は頼りになります。・・・権威の影響力にしたがう前にまず、2番目の簡単な質問を自分に投げかけてみるのが賢明です。『目の前の専門家は、どれくらい誠実なのだろう?』・・・わたしたちは、その状況でその権威者をどこまで信用できるのかを考えなければならないのです。・・・果たしてこの専門家は、わたしたちが『イエス』と応じることでどれだけの利益を得るのだろう、そう考えていけば、過度の機械的な影響を被らずにすみます。[p.325-328]」

7、希少性――少数派のルールScarcity: The Rule of the Few
・「ある機会の利用がかぎられているときに、その機会がよりいっそう価値のあるものに思えてくる[p.337]」。「可能性を失うという考えは、人が判断をくだす際に大きな役割を担います。実際人が心を動かされるのは、同じ価値のものを得られると思うより、それを失うと思うときのほうが多いようです。[p.338]」「何かを手にできるチャンスが減ると、自由も失われます。そしてわたしたちは、すでに得ていた自由を失うのが嫌なのです。こうした既得特権を守ろうという思いが中核を成しているのが、“心理的リアクタンス”という理論です。心理学者ジャック・ブレームが提唱したもので、・・・この理論によると、自由な選択が制限されたり脅かされると必ず、何としてもそれを守らなければとの思いから、自由(とそれにともなう物やサービスも)を手に入れたいとの思いが、以前にも増して強くなるのです。[p.347]」「禁止されたものを欲し、結果的にその魅力が増したと思い込む傾向が見られるのは、日用品にかぎったことではありません。・・・情報の制約にもおよんでいます。・・・禁じられる前よりも、情報を手に入れたいと思い、その情報を、好ましく思うようになるのです。[p.355-356]」
・「わたしたちは、ある物が希少なとき、それと同じものを手に入れたいという思いをより強くするのみならず、それを手に入れる際に競争をともなうと、是が非でもそれがほしくなるのです。[p.370]」
・「『イエス』を引きだされる状況で希少性のプレッシャーにとり囲まれてしまった場合、2段階にわけて、最も適切な反応をしていかなければなりません。まず、希少性の影響を受けて感情的な興奮の波が押し寄せてくるのを感じたら、それを合図と考えて、いったん立ち止まります。・・・それができたら・・・自分に問いかけるのです。どうしてそれがほしいのかと。答えが、それを“所有”するためなら、それを手に入れるのが難しいという事実を利用して、どれだけのお金を払ってでもそれがほしいのかを考える目安とします。けれど答えが、その“機能”のためなら、・・・忘れないでください、珍しくても、その機能には何ら変わりがないのだということを。[p.382]」

おわりに とっさに影響をおよぼす――ハイテク時代の原始的な反応Instant Influence: Primitive Consent for an Automatic Age
・「効率を求めるあまり、時間をかけて賢明に検討し、充分な情報にもとづいたうえで判断をくだすことを避け、もっと機械的で、いい加減で簡単な反応に逃げてしまうことがあるのです。・・・往々にして、その状況に関連するさまざまな情報の中のただ1つにしか注意を向けません。そうしたただ1つの情報を使って、『イエス』の決断をくだしています。それらをことのほかよく使うのは、最も頼りになり、普通は正しい選択へと導いてくれるものだからです。だからわたしたちは『イエス』の決断をくだすとき、とても頻繁に、そしてとても機械的にあのルールを使うのです。6つのルール――恩義、整合性、社会的な証拠、好意、権威、希少性のルールを。いずれも、『ノー』より『イエス』といった方がわたしたちのためになるときに、とても信頼のできる合図をだしてくれます。わたしたちが、こうした合図を使ってしまうのは、やる気や時間やエネルギーや判断材料がなくて、状況を完全に分析できそうにないときです。・・・こうした状況で決断をくだすときは往々にして、原始的だけれど欠くことのできない方法に戻ります。それが“ただ1つのいい証拠”という方法です。・・・賢明にして知的な方法を駆使して、種としての高い地位を築いてきた結果、わたしたちがつくりあげた環境は非常に複雑で、ペースが速く、情報方となってしまったため、次第に、はるか昔に脱却したはずの動物のようなやり方で対処せざるをえなくなったというわけです。[p.388-389]」
・「許してはならないものは、わたしたちが近道をする際に頼るべきものを脅かして利益を得ようという試みです。・・・めまぐるしく変化していく現代の日常生活がわたしたちに求めているのが、信頼にたる近道をすることであり、経験にもとづいたしっかりとしたルールを持つことなのです。・・・わたしたちを食い物にする輩のせいで、こうしたルールが本来の働きをなすことが次第に難しくなっていけば、それに応じて、わたしたちもおのずとルールを利用しなくなり、日々直面する決めなければならないことに、うまく対処できなくなっていってしまいます。[p.396]」
―――

人は意思決定の際に、必ずしも論理的、合理的に考えて結論を出すわけではないことは、心理学を始め、行動経済学や脳科学の分野でも多くの指摘があります。その背景には、人間は、本書でいう「近道」や思考の節約をせざるをえない、そうするようにできている生物である、ということがあると思います。その中で、本書の特徴をあげるなら、人間のそうした性質を悪用して人に「イエス」と言わせるテクニックがかなり確立している事例を取り上げているところでしょう。もちろん、そうしたテクニックは心理学的な研究から生まれたものではなく、経験の産物ともいえるものだと思いますが、それが有効であるということは、本書に述べられたような状況は実際によくある事象であることを意味しているのではないでしょうか。

例えば、研究開発の場面で本書の6つのルールがどのように間違った決定を導く可能性があるかを考えてみましょう。例えば、恩義のルールは、協力し合う状況で相手から受けた恩義に基づいて誤った結論を導いてしまう可能性があるでしょう。整合性のルールにとらわれると、最初の構想に縛られてしまうリスクを招くことになります。社会的な証拠は、周囲の意見に影響される可能性があること、多数の無知状態にも注意が必要なことを教えてくれているでしょう。好意は、例えばわかりやすく感じのよいプレゼンテーションに影響される傾向を説明してくれているように思います。権威は、権威者(それが別の分野の専門家で、懸案についての専門家でないとしても)の影響力を過度に高める可能性があるでしょうし、希少性は、得がたい情報を過度に信頼してしまう可能性につながるように思われます。こう考えると、「イエス」と言わされる場面とは言えない研究開発においても、これらのルールが招く意思決定上のリスクは決して無視できないように思います。長年の経験に基づいてその影響力の強さが実証されているだけに、様々な場面において、こうした影響力によって発生する過ちに注意することは必要なことのように思います。


文献1:Robert Cialdini, 2007、ロバート・B・チャルディーニ著、岩田佳代子訳、「影響力の正体 説得のカラクリを心理学があばく」、SBクリエイティブ、2013.
原著表題:Influence: The Psychology of Persuasion, Revised Edition



ビジネスモデル改善のポイント(ジロトラ、ネテッシン著「ビジネスモデル・イノベーションに天才はいらない」DHBR誌2015年7月号より)

イノベーションでは、技術的な革新だけでなく、ビジネスモデルをどうするかも重要だという認識の高まりとともに、新たなビジネスモデルを構築する方法論の提案も増えてきています。しかし、新たなビジネスモデルの創造だけでなく、既存のビジネスモデルを見直して改善していくこともイノベーションへのアプローチの一つとなりうるかもしれません。

ジロトラ、ネテッシン著の論文、「ビジネスモデル・イノベーションに天才はいらない」[文献1]では、既存のビジネスモデルをどう改善したらよいか、という観点からのビジネスモデル・イノベーションの方法論が議論されています。もちろん、イノベーションを一から構築する場合においても役に立つ点があると思いますので、今回はその要点をまとめたいと思います。

ビジネスモデル・イノベーションの意義
・著者は、「我々は、ビジネスモデル・イノベーションとは『何を提供するか』『いつ決めるか』『誰が決めるか』『それはなぜか』を変える意思決定だと見なしている。これらの変革に成功した企業は、売上、費用、リスクのバランスを改善することができるのである。」と述べています。ここで、「変える」としているところ(「創造する」ではなく)が本論文のポイントのように思いますので、以下、上記4つの点をどのような視点で変えていけばよいのかについての著者らの主張を以下にまとめたいと思います。

どのような製品・サービスを組み合わせて提供すべきかWhat Mix of Products or Services Should You Offer?

・「リスクを低減する方法の一つは、製品・サービスの組み合わせ方を変えることだ。」
1、範囲を絞るFocus narrowly
・商品やサービスなどを絞り込むことで優位に立てる可能性がある。
・「範囲を絞るやり方が最も効果的なのは、明確に差別化されたニーズを持つ、異なる市場セグメントにアピールする時だ。」「範囲を絞ったビジネスの主な欠点は、単一の製品やサービス、または顧客セグメントに依存しなければならず、そこからは見えてこない重要な顧客ニーズを取りこぼしかねない点だ。」
2、製品の共通性を探すSearch for commonalities across products
・製品間での部品の共通化や、セグメントへの対応に必要な能力の共通化によりビジネスモデルの改善の可能性がある。
・「ただし、幅広いモデルや車種を対象に部品を設計しなければならない場合、共通化を実行するためには多大なコストがかかる。さらにこの戦略では、部品を共通化する全製品が同時に需要増、あるいは需要減になってはいけない。」
3、リスクヘッジしたポートフォリオを築くCreate a hedged portfolio
・「この方法が使えるのは主に、需要の変動がマイナスの相関を持つケースである。」

重要な意思決定をいつ下すべきかWhen Should You Make Your Key Decisions?
・「信頼に足る情報が不十分なのに、意思決定を下さなければならない局面は多い。我々は、状況に応じて意思決定のタイミングを変えるとビジネスモデルを改善できるような3つの戦略を見出した。」
1、意思決定を先延ばしにするPostpone the decision
・例えば、重要動向を見ながら価格決定する、収益性の予想によって対応を使い分けるなど。
2、意思決定の順番を変えるChange the order of your decisions
・例えば、インフラ投資をしてから契約を取るか、契約の後にそれに合わせる投資をするか。ソリューションの開発に投資するのではなく、外部に開発をさせて完成したソリューションを買い取るとか。「オープン・イノベーションの草分けであるイノセンティブやイピオス(Hypios)など多くの企業は、『パフォーマンスが先、投資は後』に順番を変えれば、R&Dに伴うリスクの大部分を他に転嫁できると気づき始めている。」
3、重要な意思決定を分割するSplit up the key decisions
・「かつては、リスクのあるベンチャー事業を立ち上げるには、ビジネスモデルの細部を網羅した事業計画書を作成し、計画をその通りに遂行する必要があった。あらゆる重要な意思決定が、一度に前もって下されていたのだ。リーン・スタートアップの手法では、重要な意思決定を分割する。まずは、どこに機会がありそうかという仮説を、かなり大まかに、限られた範囲でよいから立てる。その後、情報収集や『方向転換(ピボット)』の段階を重ねながらビジネスモデルを修正し、最終的に有効なモデルへと到達する。創業者は概して、事業が進行するにつれて仮説を大胆に変えるのだ。・・・事実上、ベンチャー設計の意思決定を小分けにしたわけだ。」

最良の意思決定者は誰かWho Are the Best Decision Makers?
・「決定を下す者を変えるだけで、企業はバリューチェーン内の意思決定を飛躍的に改善できる。」
1、事情に通じた意思決定者を任命するAppoint a better-informed decision maker
・「従業員への権限委譲とは、根本的に、最も事情に通じた個人または組織に決定権を与えることである。」「最適の事情通が社内にいるとは限らない。」
・「よりよい情報を用いた意思決定のメリットは明白だが、従業員やサプライヤー、顧客に権限を委譲し、広範なデータを収集するのは費用がかかるうえに、困難もつきまとう。」
2、意思決定のリスクを最適任者に負わせるPass the decision risk to the party that can best manage the consequences
・例えばアマゾンが売れ筋の本しか在庫を持たず、売れ筋以外は協業関係にある卸業者や出版に在庫管理させたような方法。
・「優位な情報を持つ意思決定者が明らかにいない場合、意思決定のリスクを最適任者に負わせるのは魅力的な戦略になりえる。」
・「この戦略を機能させるには、意思決定を代わりに担う者と自社のインセンティブが一致しなければならない。」
3、最も得るものが大きい意思決定者を選ぶSelect the decision maker with the most to gain
・例えば、製品やサービス導入に伴って顧客に発生するリスクを、製品やサービスの供給者が肩代わりするなど。
・「ただし難点もある。リスクを追加負担しても安全なのは、その技術の信頼性が高い時に限られるのだ。」

重要な意思決定者はなぜその決定を下すのかWhy Do Key Decision Makers Choose as They Do?
・「意思決定者の意欲をうまくコントロールすれば実行できるビジネスモデル・イノベーションは多い。」
1、収益源を変更するChange the revenue stream
・例えば、製品のメンテナンスが製品供給者の収益源になっている状況では、製品供給者は製品の信頼性を上げてメンテナンスを減らす動機は持たない。顧客にとってメンテナンスコストが問題なら、供給者にとっての収益源を変える必要がある。
・「収益源を変更して意思決定関係者の利害を一致させる方法は、パフォーマンスを十分かつ明確に定義できる場合だと成功しやすい。反対に、たとえば先端技術や材料を駆使した新型機は未知の要因が多すぎるため、合理的なパフォーマンス基準や適切な指標の設定が困難である。」
2、短期と長期のメリットを組み合わせるSynchronize the time horizons
・「従来の調達活動では、競争入札という『儀式』を通じて、低価格とほどほどの質を確保していた。・・・ところが、海外調達が増えると、このモデルに不具合が生じる。国外の業者が品質管理を怠り、材料の信頼性を軽んじたのだ。そればかりか、強制労働、製品の横流しや偽造といった問題も露見した。ほとんどの調達取引は一度限りなので、悪徳業者が制裁されることは稀だった。」
・例えば、調達者と業者の間を仲介し、仲介者と業者の長期的な関係を維持することをインセンティブにするビジネスモデルを構築している企業がある(利豊)。
3、インセンティブを統合するIntegrate the incentives
・「信頼の置ける仲介業がいない場合は、独立した各エージェントに対して、事前に取り決めた結果を最大化させるように契約や管理システム(有名なバランス・スコアカードなど)を作成・開発すればよい」
・例えば、患者の治療に携わる関係者すべてが、患者の治療結果をもとにパフォーマンス測定することに合意する医療制度改革など。
・「時にこうした契約は複雑になるので、単にオペレーションを統合するほうがが簡単な場合もある。・・・完全な統合の実現は一大事業のため、多くの組織がコア・コンピテンシーの範囲外にある活動に直接手を出したがらないのも無理はない。したがって、これは他のアプローチでは満足できない時だけに使う、最終手段と見なされる傾向にある。」
―――

ビジネスモデルの改善を考える際のポイントとしては、もちろん上記の項目に限られるものではないでしょう。しかし、上記の項目は、考える際の手がかり、有効なチェックポイントとして使えるように思います。既存のビジネスモデルを改善しようと考える時、あるいは、新たなビジネスモデルを構築しようとする時、まず上記の視点で考えてみることが有効なように思います。

著者の指摘の基本を挙げるとしたら、「暗黙の前提の見直し」、ということになるのではないでしょうか。「何を提供するか」に関しては、製品やサービスを独立した単体のものとして見るのではなく、プロダクトミックスとして見ることが重要のように思われますし、「いつ決めるか」に関しては、プロジェクトの初めに方針と計画を定めてその後にそれを実行していく、というやり方には見直すべき点があると指摘していると思います。また、「誰が決めるか」については、意思決定者を行う人を特定するという前提、「それはなぜか」に関しては、特定のインセンティブや従来の仕組みに依存しているという前提を見直す必要がある、ということのように思います。こうした暗黙の前提は隠れた問題の温床になってしまうこともありますし、暗黙の前提を見直すことで単なる品質や効率の改善以上の成果が期待できることも多いので、技術開発においても重要な検討課題ですが、ビジネスモデルやビジネス上の意思決定プロセスにおいても同様のアプローチが求められている、ということなのでしょう。イノベーションを進める上で、著者の指摘をそのまま適用することが難しい場合でも、暗黙の前提を見直すことは、折に触れて心がけるべきことのように思います。


文献1:Karan Girotra, Serguei Netessine、カラン・ジロトラ、セルゲイ・ネテッシン著、編集部訳、「ビジネスモデル・イノベーションに天才はいらない 4つの意思決定で体系的に変革を起こす」、Diamond Harvard Business Review, 2015 July, p.12.
原著:”Four Paths to Business Model Innovation”, Harvard Business Review, July-August 2014.

参考リンク



参考書・文献・読書録インデックス(2015.11.8版)その1:マネジメント関連

今まで内容の紹介をさせていただいた参考書、文献のリストその1です。
このリストから多少詳しいまとめに行けるようにしています。
概ね著者(グループ)ごとにまとめ、特に重要だと思う文献にはコメントをつけています。文献リストその2(科学に近い内容)はこちら

まとめページその1収録文献
丹羽清、「技術経営論」、2006
 コメント:技術経営の全体感をつかむならこの本がおすすめです。
丹羽清、「イノベーション実践論」、2010
丹羽清(編)、「技術経営の実践的研究」、2013
後藤晃、「イノベーションと日本経済」、2000
Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K.
、「イノベーションの経営学」、2001
 コメント:技術経営の主要トピックスを網羅。現在は新版(第4版)あり。
Christensen, C.M.
、「イノベーションのジレンマ」、1997
 コメント:技術経営を考えるなら必読。
Christensen, C.M, Raynor, M.E.
、「イノベーションへの解」、2003
 コメント:「イノベーションのジレンマ」続編。これも重要な指摘が多いです。
Christensen, C.M, Anthony, S.D., Roth, E.A.
、「明日は誰のものか」、2004
 (改訳版が「イノベーションの最終解」として出ています)
Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V., Altman, E.J.
、「イノベーションへの解実践編」、2008
 コメント:クリステンセン著ではありませんが関係者の著書。破壊的イノベーション実践の手引として有用。
Wessel, M., Christensen, C.M.
、「破壊的イノベーションの時代を生き抜く 『拡張可能な中核能力』を見極めよ」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.32.、楠木建「クリステンセンが再発見したイノベーションの本質 イノベーションは技術進歩ではない」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.48.Mounz, M.、「破壊的イノベーター:キバ・システムズ アマゾンも認める新興企業」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.78.Downes, L., Nunes, P.F.、「破壊的イノベーションを越えるビッグバン型破壊 常識を越えたスピードで市場に浸透する」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.90.Gilbert, C., Eyring, M., Foster, R.N.、「相反する2つの変革を同時に進める法 既存事業のテコ入れと将来の糧づくり」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.110.Adner, R., Snow, D.C.、「陳腐化した技術を延命させる戦略 『前向きな退却』を選ぶ」、Diamond Harvard Business Review, June 2013, p.124.ブログ記事へ
Clayton M. Christensen, Derek van Bever
、「資本家のジレンマ なぜイノベーションへの投資を過小評価してしまうのか」、Diamond Harvard Business Review, December 2014.ブログ記事へ
Brown, B., Anthony, S.D.
、「P&Gニュー・グロース・ファクトリー イノベーションの成功率を高めるシステム」、Diamond Harvard Business Review2011ブログ記事へ
Scott D. Anthony
、「ザ・ファーストマイル」、2014.ブログ記事へ
Dyer, J.H., Gregersen, H.B., Christensen, C.M.
、「イノベーターのDNA」、Diamond Harvard Business ReviewApr. 2010p.36.ブログ記事へ
Dyer, J., Gregersen, H., Christensen, C. M.
、「イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル」、2011.ブログ記事へ
Nathan Furr, Jeff Dyer、「成功するイノベーションは何が違うのか?」、2014ブログ記事へ
Clayton M. Christensen, James Allworth, Karen Dillon
、「イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ」、2012ブログ記事へ
Johnson, M.W.
、「ホワイトスペース戦略 ビジネスモデルの<空白>をねらえ」、2010ブログ記事へ
Stuart Crainer, Des Dearlove
、「Thinkers50 イノベーション 創造的破壊と競争によって新たな価値を生む営み 最高の知性に学ぶ実践的イノベーション論」、2014ブログ記事へ
Henry Mintzberg,
「エッセンシャル版 ミンツバーグ マネジャー論」、2013ブログ記事へ
入山章栄、「世界の経営学者はいま何を考えているのか 知られざるビジネスの知のフロンティア」、2012ブログ記事へ
Freek Vermeulen
、「ヤバい経営学 世界にビジネスで行われている不都合な真実」、2010ブログ記事
井上達彦、「ブラックスワンの経営学 通説をくつがえした世界最優秀ケーススタディ」、2014.ブログ記事

まとめページその2収録文献
Collins, J.C., Porras, J.I.
、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー」、1994
Collins, J.
、「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」、2001
Collins, J.
、「ビジョナリーカンパニー③衰退の五段階」、2009ブログ記事へ
Collins, J., Hansen, M. T.
、「ビジョナリーカンパニー④自分の意志で偉大になる」、2011.ブログ記事へ
 コメント:ビジョナリーカンパニーシリーズでは②と④が重要と思います。
Nonaka, I., Takeuchi, H.
、「知識創造企業」、1995
 コメント:知識創造理論の基本。ただし、その後の発展もフォローが必要と思います。
野中郁次郎、竹内弘高、「『実践知』を身につけよ 賢慮のリーダー」、Diamond Harvard Business Review2011ブログ記事へ
野中郁次郎、遠山亮子、平田透、「流れを経営する――持続的イノベーション企業の動態理論」、2010.ブログ記事へ
野中郁次郎、紺野登、「知識創造経営のプリンシプル 賢慮資本主義の実践論」、2012.ブログ記事へ
 コメント:知識創造理論が体系的にまとめられ、知識創造理論の全体像を把握するのに最適。
野中郁次郎、徳岡晃一郎編著、「ビジネスモデルイノベーション 知を価値に転換する賢慮の戦略論」、2012.ブログ記事へ
野中郁次郎、勝見明、「イノベーションの知恵」、2010ブログ記事へ
豊田義博、萩野進介、坂口祐子、長瀬宏美(「成功の本質」再分析プロジェクト)、「イノベーターはどこにいる? Works誌連載『成功の本質』再分析による才能開花メカニズムの探究」、2014ブログ記事へ
紺野登+目的工学研究所著、「利益や売り上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか ドラッカー、松下幸之助、稲森和夫からサンデル、ユヌスまでが説く成功法則」、2013ブログ記事へ
池田信夫、「イノベーションとは何か」、東洋経済新報社、2011.ブログ記事へ
Berkun, S.、「イノベーションの神話」、2007ブログ記事へ
Rogers, E.M.
、「イノベーションの普及」、2003ブログ記事へ
 コメント:イノベーションを実用化する上で認識すべき普及学の基本。
Kim, W.C., Mauborgne, R.
、「ブルー・オーシャン戦略」、2005
Moore, G.A.
、「ライフサイクルイノベーション」、2005
Moore, G.A.
、「エスケープ・ベロシティ キャズムを埋める成長戦略」、2011.ブログ記事へ
Chesbrough, H.、「Open Innovation」、2003
伊丹敬之、東京理科大学MOT研究会編著、「技術経営の常識のウソ」、2010ブログ記事へ
伊丹敬之、宮永博史、「技術を武器にする経営 日本企業に必要なMOTとは何か」、2014.ブログ記事へ
Davila, T., Epstein, M.J., Shelton, R.
、「イノベーションマネジメント」、2006ブログ記事へ
Govindarajan, V., Trimble, C.
、「イノベーションを実行する 挑戦的アイデアを実現するマネジメント」、2010.ブログ記事へ
Vijay Govindarajan, Chris Trimble,
「世界トップ3の経営思想家による 始める戦略 ビジネスで『新しいこと』をするために知っておくべきことのすべて」、2013.ブログ記事へ
Immelt, J.R., Govindarajan, V., Trimble, C.
、「GEリバース・イノベーション戦略」、Diamond Harvard Business Review, Jan.2010, p.123, (2010).ブログ記事へ
Govindarajan, V., Trimble, C.
、「リバース・イノベーション 新興国の名もない企業が世界市場を支配するとき」、2012.ブログ記事へ
 コメント:現在進行形の新イノベーション手法として重要と思われます。
Navi Radjou, Jaideep Prabhu, Simone Ahuja
、「イノベーションは新興国に学べ! カネをかけず、シンプルであるほど増大する破壊力」、2012ブログ記事へ
Washburn, N.T., Hunsaker, B.T.
、「新興国市場発のアイデアを橋渡しする 破壊的イノベーターの条件」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 5月号、p.116.ブログ記事へ
Lafley, A.G., Martin, R.L., Rivkin, J.W., Siggelkow, N.、「独創的な戦略を科学的に策定する あらゆる選択肢から検証する7つのステップ」、Diamond Harvard Business Review, 2012.ブログ記事へ
A.G. Lafley, Roger L. Martin
、「P&G式『勝つために戦う』戦略」、2013ブログ記事へ
「競争優位は持続するか」(Rita Gunther McGrath「一時的競争優位こそ新たな常識 事業運営の手法を変える8つのポイント」、Todd Zenger「戦略は価値観に従う 成功する企業セオリーが持つ3つの”sight”」、佐藤克宏「ケイパビリティこそ競争優位の源泉である 戦略の賞味期限が短くなった時代」、Michael C. RyallVCM:価値獲得モデルで戦略を考える 競争優位はエコシステムで決まる」、森本博行「GEの競争優位はなぜ持続するのか 戦略論の系譜から読み解く」、Nicholas Kachaner, George Stalk, Alain Bloch「世界の同族企業からしたたかさを学ぶ」)Diamond Harvard Business Review, November 2013, p.32-118.ブログ記事へ
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、「イノベーション5つの原則 世界最高峰の研究機関SRIが生みだした実践理論」、2006ブログ記事へ
Stefan Thomke, Jim Manzi
、「ビジネスの仮説を高速で検証する 消費者ビジネスのイノベーションに不可欠」、Diamond Harvard Business Review, June 2015, p.30(原著:HBR Dec. 2014)、Nathan Furr, Jeffrey H. Dyer、「プロセスを変えればイノベーションは生まれる チームを未知の領域に導くリーダーの役割」、Diamond Harvard Business Review, June 2015, p.44(原著:HBR Dec. 2014)、金井政明(聞き手、編集部)「無印良品の『引き算のイノベーション』 コンセプトの追求あるのみ」、Diamond Harvard Business Review, June 2015, p.58、文献4:Scott D. Anthony, David S. Duncan, Pontus M. A. Siren、「イノベーション体制をたった90日で構築する いま求められるのは、地に足のついた実行体制」Diamond Harvard Business Review, June 2015, p.68、星野竜也、「オープン・イノベーションという新たな武器 製造業復活を賭けて自前主義を脱却せよ」、Diamond Harvard Business Review, June 2015, p.84ブログ記事へ
Ron Adner
、「ワイドレンズ イノベーションを成功に導くエコシステム戦略」、2012ブログ記事へ
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、「プランB 破壊的イノベーションの戦略」、2009.ブログ記事へ
Thomke, S., Reinertsen, D.、「製品開発をめぐる6つの誤解 製造プロセスでの効率性は通用しない」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 8月号、p.76.ブログ記事へ
原田勉著、「イノベーション戦略の論理 確率の経営とは何か」、2014.ブログ記事へ
山口周、「世界で最もイノベーティブな組織の作り方」、2013ブログ記事へ
Paddy Miller, Thomas Wedell-Wedellsborg
、「イノベーションは日々の仕事のなかに 価値ある変化のしかけ方」、2013ブログ記事へ
Oded Shenkar
、「コピーキャット 模倣者こそがイノベーションを起こす」、2010ブログ記事へ
三品和広+三品ゼミ、「リ・インベンション 概念のブレークスルーをどう生み出すか」、2013ブログ記事へ
Regina E. Dugan, Kaigham J. Gabriel
、「DARPAの全貌:世界的技術はいかに生まれたか アメリカ国防総省国防高等研究計画局のイノベーション」、Diamond Harvard Business Review, July 2014, p.88.ブログ記事へ

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、「デザインイノベーション デザイン戦略の次の一手」、2009ブログ記事へ
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 コメント:研究をする「人」の問題についての重要な指摘が多いです。
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 コメント:「知識の源泉」とあわせて重要。
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、「スクラム入門 アジャイルプロジェクトマネジメント」、2004.
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石ころをダイヤに変える『キュレーション』の力」、2011ブログ記事
野村恭彦、「フューチャーセンターをつくろう 対話をイノベーションにつなげる仕組み」、2012.ブログ記事へ
大内孝子編著「ハッカソンの作り方」、2015ブログ記事へ
Scott D. Anthony
、「スタートアップ4.0 再び大企業の時代へ」、2013Steve Blank、「リーン・スタートアップ:大企業での活かし方 GEも活用する事業開発の新たな手法」、2013James D. Thompson, Ian C. MacMillan、「BOP市場で社会起業を成功させる方法 想定外のリスクにどう対応するか」、2013ブログ記事へ
Eric Ries
、「リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす」、2011ブログ記事へ
三崎秀央、「研究開発従事者のマネジメント」、2004
 コメント:基本的な説明も多く、研究者を考える上で参考になります。
開本浩矢、「研究開発の組織行動」、2006
 コメント:基本的な説明も多く、研究者を考える上で参考になります。
福谷正信、「研究開発技術者の人事管理」、2007
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酒井崇男、「『タレント』の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論」、2015ブログ記事へ
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Tom Kelley, David Kelley
、「クリエイティブマインドセット 創造力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法」、2013ブログ記事へ
琴坂将広、「企業は創造性と生産性を両立できるか 組織の意味を再定義する時」、Diamond Harvard Business Review November 2014Tom Kelley, David Kelley、「IDEO流創造性を取り戻す4つの方法 恐れを克服し、自由な発想を生みだす」、Diamond Harvard Business Review November 2014,(原著2012.)→ブログ記事へ
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「シリアル・イノベーター 『非シリコンバレー型』イノベーションの流儀」、2012.ブログ記事へ
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 コメント:モチベーション理論の説明が参考になります。
Robert Kegan, Lisa Laskow Lahey
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Kevin Werbach, Dan Hunter
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金井壽宏、楠見孝編、「実践知 エキスパートの知性」、2012.ブログ記事へ
中原淳、「経営学習論 人材育成を科学する」、2012ブログ記事へ
上木貴博、「エスノグラフィー 人類学に学ぶ現場主義」、日経ビジネス、2010.12.6号、p.78.
橋本紀子、「『エスノグラフィ』という手法」、RANDOM誌、vol.53p.1(2007).
安宅和人「ビッグデータvs.行動観察データ:どちらが顧客インサイトを得られるのか 価値提供システムで考える6つの使い分け」2014Christian Madsbjerg, Mikkel B. Rasmussen「エスノグラフィーが顧客の真の姿を描き出す デジタル・データで説明できない顧客の行動原理」2014、松波晴人「行動観察をイノベーションへつなげる5つのステップ 常識を乗り越え、みずから変化を生み出す法」2014、宮澤正憲「IDEO、スタンフォード大学d-schoolでにわかに注目される デザイン思考でマーケティングは変わるか」2014Itamar Simonson, Emanuel Rosen「マーケターはオンライン・レビューを武器にせよ 消費者を動かす3つの要素」2014ブログ記事へ
Shaun Abrahamson, Peter Ryder, Bastian Unterberg,
「クラウドストーミング 組織外の力をフルに活用したアイディアのつくり方」、2013.ブログ記事へ
Bruch, H. Menges, J.I.
、「社員を追い詰める『加速の罠』」、Diamond Harvard Business Review, Dec. 2010, p.76.ブログ記事へ
Perlow, L.A., Porter, J.L.
、「プ
ロフェッショナルこそ計画的に休まなければならない」、Diamond Harvard Business Review, Mar. 2010, p.102.
白石久喜、石原直子編、「事業創造人材の創造」、リクルートワークス研究所、2011.6.1.
Manfred F. R. Kets de Vries
、「コーチングが必要な困ったリーダーたち 職場環境はリーダー次第」、Diamond Harvard Business Review、2015年2月号、p.92ブログ記事へ
高橋克徳、河合太介、永田稔、渡部幹、「不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか」、2008ブログ記事
Amy C. Edmondson, 2012
、「チームが機能するとはどういうことか」→ブログ記事へ
Linda A. Hill, Greg Brandeau, Emily Truelove, Kent Limeback
、「イノベーションを生み出し続ける組織 
グーグルを成功に導いた『集合天才』のリーダーシップ」、Diamond Harvard Business Review, 2015 5月号、p.98ブログ記事へ
沼上幹、「やらせメール ご無体な命令が思考を止める」、朝日新聞、2011.7.15.
McGrath, R.G.
、「マイクロソフト、3Mが実践する『知的失敗』の戦略」、Diamond Harvard Business Review20117月号、p.24.ブログ記事へ
菅野寛、「経営の失敗学 ビジネスの成功確率を上げる」、2014ブログ記事へ
大竹文雄、「競争と公平感-市場経済の本当のメリット」、2010ブログ記事へ
Joni, S.A., Beyer, D.
、「あえて戦うべき時、協調や譲歩は本当のチームワークではない」、Diamond Harvard Business ReviewMar. 2010, p.40.
Sutton
R.I.、「社内外のじゃま者と戦う 部下を守る『盾』となれるか」、Diamond Harvard Business Review, 2011, 2月号、p.86.ブログ記事へ
小林三郎、「ホンダイノベーション魂 第16回 自律、信頼、平等」、日経ものづくり、2011年7月号、p.103.
Atul Gawande、「アナタはなぜチェックリストを使わないのか? 重大な局面で“正しい決断”をする方法」、2009ブログ記事へ
Jpseph Jaworski
、「源泉 知を創造するリーダーシップ」、2012ブログ記事へ
Adam Grant
、「GIVE & TAKE 『与える人』こそ成功する時代」、2012ブログ記事へ
楠木建、「『好き嫌い』と経営」、2014.ブログ記事へ
谷崎光、「日本人の値段 中国に買われたエリート技術者たち」、2014ブログ記事へ




参考書・文献・読書録インデックス(2015.11.8版)その2:科学関連

今まで内容の紹介をさせていただいた参考書、文献のリストその2です。
このリストから多少詳しいまとめに行けるようにしています。
概ね著者(グループ)ごとにまとめ、特に重要だと思う文献にはコメントをつけています。文献リストその1(マネジメントに近い内容)はこちら。

まとめページその4収録文献
Roberts R.M.
、「セレンディピティー」、1989
 コメント:技術系以外の方にもセレンディピティーの概念は知ってほしい。
Shapiro, G.
、「創造的発見と偶然」、1986
根岸英一、「発見の条件」、有機合成化学協会誌、vol.54No.1p.1(1996).ブログ記事へ
朝日新聞大阪本社科学医療グループ著、「iPS細胞とはなにか 万能細胞研究の現在」、2011
Moss, F.
、「MITメディアラボ 魔法のイノベーション・パワー」、2011.ブログ記事へ
Hand, E., “People power”, Nature, vol.466, No.7307, 2010.8.5, p.685.
Goodnight, J.
、「クリエイティビティを引き出す」、Diamond Harvard Business ReviewSep., 2006, p.3.
鬼塚俊宏、先読み!人気のビジネス洋書、「卓越した知識・技術を持つ米国版「オタリーマン」を企業で活かす『ギークを指導すること~テクノロジーをもたらす従業員を管理・指導する方法~』 Leading Geeks : How to Manage and Lead People Who Deliver Technology――ポール・グレン著」、DIAMOND online2011.6.10ブログ記事へ
DIAMOND
ハーバードビジネスレビュー編集部編訳、「いかに『問題社員』を管理するか」、2005
内田賢、「研究者と年齢的限界」、組織行動研究 (Keio studies on organizational behavior and human performance). No.26 (1996. 3) ,p.67- 75.
文部科学省「科学技術要覧平成22年版」田嶋清一、「自分と向き合う心理学」、2007
Peterson, C.
、「実践入門 ポジティブ・サイコロジー 『よい生き方』を科学的に考える方法」、2006ブログ記事へ
Achor, S.
、「PQ ポジティブ思考の知能指数 幸せな気持ちになると、何事もうまくいく」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 5月号、p.58.
Spreitzer, G., Porath, C.
、「社員のパフォーマンスを高める 幸福のマネジメント」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 5月号、p.46.
Gilbert, D.
、「些細な出来事の積み重ねが幸福感を左右する 幸福の心理学」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 5月号、p.34.
Kay, J.、「想定外 なぜ物事は思わぬところでうまくいくのか」、2010.ブログ記事へ
Mario Livio
、「偉大なる失敗 天才科学者たちはどう間違えたか」、2013ブログ記事へ
Michael Nielsen
、「オープンサイエンス革命」、2012ブログ記事へ
Chris Anderson
、「MAKERS〔メイカーズ〕21世紀の産業革命が始まる」、2012ブログ記事へ
Henry Petroski
、「エンジニアリングの真髄 なぜ科学だけでは地球規模の危機を解決できないのか」、2010ブログ記事へ
佐倉統編、「人と『機械』をつなぐデザイン」、2015ブログ記事へ
畑村洋太郎、「技術大国幻想の終わり これが日本の生きる道」、2015ブログ記事

まとめページその5収録文献
Carson, S.
、「天才と変人 解き放たれた知性」、2011Simonton, D.K.、「創造性の起源」、2012Snyder, A.W., Ellwood, S., Chi, R.P.、「既成概念をオフ サヴァンに学ぶ独創のヒント」、2012、日経サイエンス  20136月号 特集:天才脳の秘密→ブログ記事へ
小田亮、「ヒトは環境を壊す動物である」、2004ブログ記事へ
小田亮、「利他学」、2011.ブログ記事へ
Dunbar, R.
、「友達の数は何人? ダンバー数とつながりの進化心理学」、2010.ブログ記事へ
長谷川英祐、「働かないアリに意義がある」、メディアファクトリー、2010.ブログ記事
Benkler, Y.
、「生物学、心理学、神経科学の知見が教える 利己的でない遺伝子」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 2月号、p.8.
大槻久、「協力と罰の生物学」、2014.ブログ記事へ
Po Bronson, Ashley Marryman
、「競争の科学 賢く戦い、結果を出す」、2013ブログ記事へ
Sargut, G., McGrath,
「ビジネスリーダーの新しい経営学 [入門]複雑系のマネジメント」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 1月号、p.118.ブログ記事へ
Johnson, N.
、「複雑で単純な世界 不確実なできごとを複雑系で予測する」、2007.ブログ記事
Albert-László Barabási、「バースト! 人間行動を支配するパターン」、2010ブログ記事へ
Albert-László Barabási
、「新ネットワーク思考 ~世界のしくみを読み解く~」、2002
Melanie Mitchell
、「ガイドツアー 複雑系の世界 サンタフェ研究所講義ノートから」、2009
Watts, D.J.
、「偶然の科学」、2011ブログ記事へ
Itzhak Gilboa、「意思決定理論入門」、2011ブログ記事へ
Elliott Sober
、「科学と証拠 統計の哲学入門」、2008ブログ記事へ
Mauboussin, M.J.
、「まさか!? 自信がある人ほど陥る意思決定の8つの罠」、2009.ブログ記事へ
Kahneman, D.
、「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 上、下」、2011ブログ記事へ
John A. Bargh
、「意思決定の心理学」、(原著2014)、Ed Yong、「ステレオタイプ脅威」、(原著2013)、Merim Bilalić, Peter McLeod、「アインシュテルング効果 良案が排除されるわけ」、(原著2014)、日経サイエンス、2014年5月号→ブログ記事へ
Dean Buonomano,
「バグる脳 脳はけっこう頭が悪い」、2011.ブログ記事へ
Leonard Mlodinow,
「しらずしらず あなたの9割を支配する『無意識』を科学する」、2012.ブログ記事へ
Michio Kaku
、「フューチャー・オブ・マインド 心の未来を科学する」、2014ブログ
Aariely, D
、「ずる 嘘とごまかしの行動経済学」、2012.ブログ記事
Page S.E.
、「『多様な意見』はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき」、2007ブログ記事へ
西垣通、「集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ」、2013.ブログ記事へ
Christakis, N.A., Fowler, J.H.
、「つながり 社会的ネットワークの驚くべき力」、2009ブログ記事へ
McAfee, A., Brynjolfsson, E.
、「ビッグデータで経営はどう変わるか 測定できれば、マネジメントできる」、松岡正剛、「情報は物語をほしがっている ビッグデータ時代の編集工学」、McInerney, P., Goff, J.、「ビッグデータが日本企業に迫るもの 意思決定が競争優位に直結する」、Davenport, T.H., Patil, D.J.、「データ・サイエンティストほど素敵な仕事はない いま最も必要とされているプロフェッショナル」、樋口知之(聞き手:編集部)、「データ解析の神髄とは インタビュー統計学の第一人者が語る」、Barton, D., Court, D.、「ビッグデータ活用スキルをいかに育むか 高度だが実用性の高いモデルを構築する」、Diamond Harvard Business Review, Feb. 2013ブログ記事へ
Noreena Hertz
、「情報を捨てるセンス選ぶ技術」、2013ブログ記事へ
高橋昌一郎、「理性の限界」、2008
高橋昌一郎、「知性の限界」、2010ブログ記事へ(上記文献とまとめて)
高橋昌一郎、「感性の限界」、2012ブログ記事へ
 コメント:科学哲学入門ならこの限界3部作がおすすめ。
森田邦久、「理系人に役立つ科学哲学」、2010ブログ記事へ
伊勢田哲治+戸田山和久+調麻佐志+村上祐子編「科学技術をよく考える クリティカルシンキング練習帳」、2013ブログ記事へ
今道友信、「エコエティカ 生圏倫理学入門」、1990.ブログ記事へ
Brown, J.R.
、「なぜ科学を語ってすれ違うのか ソーカル事件を超えて」、2001ブログ記事へ
Arthur, W.B.
、「テクノロジーとイノベーション 進化/生成の理論」、2009.ブログ記事へ
須藤靖、伊勢田哲治、「科学を語るとはどういうことか 科学者、哲学者にモノ申す」、2013ブログ記事
五島綾子、「<科学ブーム>の構造 科学技術が神話を生みだすとき」、2014.ブログ記事へ
菊池誠、松永和紀、伊勢田哲治、平川秀幸著、飯田泰之+SYNODOS編、「もうダマされないための『科学』講義」、2011ブログ記事へ
Singh, S., Ernst, E.
、「代替医療のトリック」、2008.
菊池聡、「超常現象をなぜ信じるのか」、1998
平川秀幸、「科学は誰のものか 社会の側から問い直す」、2010
新井紀子、「コンピュータが仕事を奪う」、2010
平川克美、「移行期的混乱-経済成長神話の終わり」、2010
Erik Brynjolfsson, Andrew McAfee
、「機械との競争」、2011ブログ記事へ
Nicholas Carr
、「オートメーション・バカ 先端技術がわたしたちにしていること」、2014ブログ記事へ
ジャレド・ダイアモンド、ノーム・チョムスキー、オリバー・サックス、マービン・ミンスキー、トム・レイトン、ジェームズ・ワトソン、吉成真由美(インタビュー・編)、「知の逆転」、2012ブログ記事へ
小飼弾、「『中卒』でもわかる科学入門――“+-×÷”で科学のウソは見ぬける!」、2013ブログ記事へ
内田麻理香、「科学との正しい付き合い方 疑うことから始めよう」、2010ブログ記事へ
垂水雄二、「科学はなぜ誤解されるのか わかりにくさの理由を探る」、2014.ブログ記事へ
竹内薫、「理系バカと文系バカ」、2009ブログ記事へ
竹内薫、「科学嫌いが日本を滅ぼす 『ネイチャー』『サイエンス』に何を学ぶか」、2011.ブログ記事へ
西成活裕、「誤解学」、2014.ブログ記事へ
坂村健、「不完全な時代――科学と感情の間で」、2011ブログ記事へ
福岡伸一、「動的平衡」、2009.
福岡伸一、「生物と無生物のあいだ」、講談社、2007.



ハッカソンの可能性(大内孝子編著「ハッカソンの作り方」より)

これからのイノベーションにおいては、コラボレーションが重要であるという指摘はよく耳にします。しかし、どうしたらコラボレーションをうまく進められるのか、ということになるとまだまだ手探りの状態、というのが実際のところではないでしょうか。そこで、今回は最近注目されている「ハッカソン」というコラボレーションの進め方について、大内孝子編著「ハッカソンの作り方」[文献1]に基づいて考えてみたいと思います。

ハッカソンとは
・著者は次のように述べています。「Wikipediaによると、ハッカソンという言葉がはじめて使われたのは1999年頃、「ハック(Hack)」と「マラソン(Marathon)」の混成語といわれています。ITのソフトウェア文化から発祥し、提示された課題を一定の決められた時間の中で解く、成果物をプロトタイプとしてアウトプットするという、もともとは高度なスキルを持つプログラマーがプログラミング開発スキルを競う位置づけのものです。[p.4]」「ハッカソンはいわゆる参加型のイベントです。参加者は提示された課題に対し、決められた時間内で、自分たちのスキルを使って解決することを目指します[p.10]」。そして、そのハッカソンにはいろいろな形態があるとして、「もともとはソフトウェアをハックするイベントを指すもので、現在のハッカソンのようにハードウェアデバイスが絡んでくる場合に『メイカソン』と呼ぶこともあります。ちなみにIDEOが2012年に開いたMaker DIY+ハッカソンイベントをメイカソンと呼びました。また、ハッカソンの中のアイデア出しの部分を『アイデアソン』と呼びます。・・・さらに、ハッカソンがイベントとして認知されるに従って、テーマと『ソン』をつないで、・・・イベント名としてはさまざまな名称が使われるようになっています。[p.10-12]」とも書かれています。
・よりシンプルに理解するなら、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)の小林茂教授が作成されたハッカソン/メイカソン参加同意書にある次の説明がわかりやすいかもしれません。「昨今、多様な参加者が参加して共にアイデアをつくる『アイデアソン』、それをソフトウェアとしてつくる『ハッカソン』、さらに見たり、触れたり、感じたりできるものも含めてつくる『メイカソン』が盛んに開催されるようになりました。そうしたイベントでは、多様なスキルや視点、経験を持つ人々が競争することで知的財産が創出され、事業化に向けて進めていこうという事例もでてきました。[p.170]」

どんなハッカソンがあるか
・「幅広い分野でハッカソンは活用されています。コミュニティベースで課題解決のために行うハッカソン、企業がコミュニティの協力で行うハッカソンもありますし、行政機関が企業と組んで事業開発を目指して開催するものもあります。[p.30]」「ロフトワークやEngadget日本版、GUGEN、リクルートのMashup Awardsなど、ものづくり系のハッカソン、さらにIntelauなど企業が主催あるいは協賛に入るハッカソン、Code for JapanArt Hack Dayのように、コミュニティベースで地域問題や大きな普遍的なテーマを扱うもの、富士通やオリンパス、ヤマハのようにオープンイノベーションを目指した動きの中でハッカソンを取り入れる場合など、さまざまです。[p.31]」「企業のコミットメントの度合い」と「ビジネス・事業指向の度合い」の2軸でマッピングするとわかりやすいことも紹介されています。[p.31
・「大きな特徴として、ゴールとして順位を付けるコンテスト形式のハッカソンと、順位を付けないハッカソンに分けられます。[p.32]」

ハッカソンの目的p.35-36
・主催者にとっての目的:「既存の問題を解決するアイデアを生み出す」「新しいアイデア、イノベーションを生み出す」「新技術、サービスを理解し、共有する」「新技術、サービスを告知する」
・参加者にとっての目的:「スキルを高める」「集中して迅速に開発するノウハウを習得する」「新しいアイデアを生み出す」「新技術、サービスを理解し、共有する」

・主催者、参加者の両者にとっての目的:「新しい人脈を作る」「新規事業開発」

企業が注目する理由
・「新技術(製品)のプロモーション、ユーザーコミュニティの開発など、企業がハッカソンに着目しているポイントはいくつかありますが、大きな要素にオープンイノベーションがあります。[p.37]」「クローズドな社内ハッカソンを開きチームビルディングを組織開発に活用する、アイデアソンの手法を取り入れてみる、あるいはオープンなハッカソンを開き、社外のさまざまな人・スキルを入れることで何か新しいアイデアを探る・・・、こうした動きは何とか現状を打破したいということからでしょう。[p.39]」
・現状の問題点:「従来の製品開発フロー(R&D→マーケティング・リサーチ→設計→製造)ではプロセスごとに部署が縦割りにされ、多様なアイデアが生まれにくくなっている、従来の製品開発のフローでは時間がかかり過ぎ、新しい製品を作り出すことが難しい[p.39]」。
・「技術の進化はこれまで、新しい機能、より便利な機能を製品の価値にしてきましたが、製品の価値はもう機能だけではありません。価値を探す、課題を探すところから始めなければならないという状況です。そこで、ハッカソンの持つ多様性が注目されているわけです。・・・課題解決を、まずその課題が本当に合っているのか、さまざまな視点で『探究』するところから始めることができます。[p.40]」

進める上での注意点
・「楽しいっていう雰囲気がなかったら絶対アイデアは生まれない。プレッシャーを感じながらでは生まれないんです[p.56]」。「なるべく快適な空間、比較的おなかも満腹で、リラックスできる空間を保つことにも気をつけている[p.58]」
・「参加者をうまく配分してチームビルディングを行う必要があります。[p.59]」「短時間で高い成果を上げるためには、チームメンバー同士のベクトルの一致、『目的の共有』が重要です。[p.62]」
・「オープンソースコミュニティが生んだハッカソンですが、オープンイノベーションを起こす要素として活用され、アウトプットが世の中に出てきている現在、従来のようにオープンのままではいられなくなり、さらに事業に進む成果物も見すえた知財の扱いのルールが必要になります。[p.65]」

本書で解説されている事例
Mashup Awards:リクルートによるアプリ開発コンテスト。[p.78-81][p.107-113
Engadget電子工作部:大人の部活動としてkonashiIntel Galileoなどの開発ボードを使ったスマホガジェット作り。[p.82-84][p.122-127
iBeaconハッカソン:Appleの位置情報サービスiBeaconの可能性を探る。[p.84-86
・ものアプリ:大阪市発のイベント。インターネットやスマートフォンと連携するデバイスのプロトタイピングにチャレンジする。[p.86-90
Medical×Securityハッカソン:Eyes, JAPANによる医療やセキュリティの問題解決を目指す競技としてのハッカソン。[p.91-95
・ヒャッカソン:100円ショップで手に入るものを材料にしてアイデアを形にする。[p.96-98
・3331αArt Hack Day:テクノロジーとアートが融合した作品を生み出す。[p.98-103
・さくらハッカソン:富士通が運営(あしたのコミュニティーラボ)、東北を訪れる人を増やすアイデアを探る。[p.104-106

期待
・オープンイノベーションの発展、エンジニアの地位(印象)の向上[p.110
・創造的なイノベーションのための「場」[p.112
・「粗いアイデアの素をまずは形にして、自然な環境で使い手の反応を見ることで、可能性の幅を広げる。得られた反応によっては元のアイデアを易々と変更し(ピボット)、次の発想を生み出す。[p.120]」
・オープンコラボレーション:「同じ組織内での議論や開発は、同質化の壁を越えづらい。何が制約で、何が機会なのか。状況を近しい視点から見てしまうため、従来の限界を超えられないことが多い。・・・予定調和を超えた、知恵とアイデアと情熱から生まれる新結合。それがハッカソンの醍醐味[p.121]」。
・大企業の中における多様な製品開発の方法としての位置付け。やりたいことを社内でやる方法。(社内ハッカソン)[p.152
・「実は、ハッカソンにはこの方法が正解というものは存在しません。ハッカソンはツールであって、目的のために使われるからです。まずは目的を明確にすることです。目的はもちろん自由でよいのですが、自分の利益だけではなく、来てくれた参加者にこのイベントを通し、何を持って帰ってもらえるかを考えておくとよいと思います。[p.166-167]」
―――

ハッカソンという名前で呼ぶかどうかは別として、多様な参加者が短期間集まって何かを作るというコラボレーションは、イノベーションのツールとしてこれからも活用されていくのではないでしょうか。その背景には、何よりも、コラボレーションの必要性が高まっていることがあると思います。技術の発展により専門分野が深くなると同時に狭くなる傾向があります。さらに、技術の深化だけからは顧客のニーズが予測しにくくなっていて、顧客とのコラボレーションが求められたり、課題解決のためにも幅広い技術の組み合わせが求められていることも要因としてあげられるでしょう。また、不確実性の大きな課題解決のためには短期間でまずはプロトタイプのようなものをつくってみる必要性も高まっているように思います。

企業も、ハッカソンのような動きをうまく活用することが求められていくでしょう。外部とのコラボレーションももちろんですが、大企業では社内でのコラボレーションにハッカソンの考え方を応用することも考える必要があるのではないでしょうか。もちろんそのためには、社内の縦割り組織間の壁や、計画重視、トップダウン重視の仕事の進め方などの障害も解決しなければならないかもしれませんし、専門家自身のマインドも部外者や素人と協業できるように変えていかなければならないかもしれません。ただ、そうした際にもハッカソンの「短期決戦」でとにかく何かを生む、というアプローチは可能性があるように感じました。大企業では、それぞれの仕事を抱えた専門家を集めるだけでも困難がありますが、短期ならなんとか集めることができるかもしれませんし、短期間でアウトプットが出せるということは計画重視の業務プロセスを変えていく力にもなるように思います。

おそらくハッカソンの形は、これからも様々に変化していくことでしょう。どんなコラボレーションの形態や運営の仕組みが考えだされていくのか、どんな成果が出てくるのか、今後も注目していきたいと思います。


文献1:大内孝子編著「ハッカソンの作り方」、ビー・エヌ・エヌ新社、2015.

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