研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2015年12月

「[実践]リバース・イノベーション」(ウィンター、ゴビンダラジャン著、DHBR2015年12月号)に学ぶ

リバース・イノベーションは、「新興国で製品開発し、これを先進国に展開する」イノベーション(2009年発表のゴビンダラジャンによる論文の定義)として可能性が期待される手法だと思います(本ブログでも、最初の論文とその後2012年に出た本の内容をとりあげました)。ただ、その後の発展の状況や、どの程度の可能性があるのか、どうやったらリバース・イノベーションがうまく進められるのかについてはあまり取り上げられる機会がなかったように思います。

最近発表された、ウィンター、ゴビンダラジャンによる論文「[実践]リバース・イノベーション」(DHBR201512月号)[文献1]では、「リバース・イノベーションがなかなか浸透しない理由」として「妨げとなる観念的な落とし穴」を挙げ、その落とし穴を避けるための設計原則が紹介されており、最近の状況およびイノベーションにおける意味を知る上でも参考になる点が多いと感じましたので、今回はその内容のポイントをまとめておきたいと思います。

新興国市場における多国籍企業の失敗
・多国籍企業の「経営幹部たちは新興国市場の制約条件を克服する方法、もしくは、途上国ならではの自由な発想を巧みに活かす方法をなかなか見極められないでいる。彼らは前進させる方法を見いだせず、リバース・イノベーションを首尾よく展開するうえで妨げとなる観念的な落とし穴にはまる傾向がある」。
・「多国籍企業はたいてい、あらゆる製品について3つのバリエーションを設定している。最高性能でプレミアム価格の最高級品と、その80%の性能および価格の上級品、そして70%の性能および価格の良品である。非常に高い期待を抱きつつも極めて財力の乏しい消費者がいる新興国市場に食い込むために、多国籍企業は通常、先行投資リスクを最小化する設計哲学に従う。良品のバリュー・エンジニアリング(価値の最大化)に励み、50%の価格で50%の性能を提供する『適正な』製品へとダウングレードするのだ。これは十中八九うまくいかない。途上国では、『適正な』(十分なレベルの)製品は中間層にとって高すぎることが判明するばかりか、懐に余裕のある高所得層が好むのは最高級品なのである。それと同時に、規模の経済やサプライチェーンのグローバル化のおかげで、地元企業はいまや、高価値の製品を比較的安価に、以前よりも早いスピードで生み出しつつある。その結果、大半の多国籍企業はごくわずかなローカル市場しか獲得できていない。多国籍企業が途上国の消費者を取り込むには、既存の製品やサービスの性能と同等かそれを上回りつつ、コストを抑えなくてはならない。言い換えると、10%の価格で100%の性能を実現しなくてはならないのだ。」
・「前述の落とし穴のせいで、企業はこの難問に対処できずにいる。そのような落とし穴を避けるためには、次の5つの設計原則に従わなくではならない。」

落とし穴1、市場セグメントを既存製品に合わせようとする
・「多国籍企業が途上国向け製品をつくり始める際に、既存の製品やプロセスが大きな影響を及ぼしている。当初は、既存製品を適応させたほうが一から開発するよりも手っ取り早く、安価で、リスクも少ないように見える。・・・設計担当者は既存のテクノロジーから抜け出せずに苦労する。」
設計原則1、解決策から離れて、問題を定義する
・「あらかじめ考えていた解決策を捨て去れば、最初の落とし穴を避けられ、既存の製品ポートフォリオの外側にあるチャンスを見極めやすくなる。」「経営幹部は問題を明確にする際、はっきりと言葉には出さなかったもののニーズを示すような顧客の行動に目を向け、耳を澄まさなくてはならない。」

落とし穴2、機能を省いて価格を下げようとする
・「途上国の人々がより低い品質や旧式のテクノロジーに基づく製品を喜んで受け入れるというのは、議論を呼ぶ点である。このアプローチは往々にして間違った意志決定やお粗末な製品設計につながってしまう。」
設計原則2、新興国市場たから得られる自由度の高い設計を使って、骨抜きの解決策ではなく、最適な解決策を生み出す
・「新興国市場には制約条件が多いが、新興国ならではの自由度の高い設計も利用可能である。」(例えば、人件費の安さを活用するなど)
・「企業は利用者のニーズだけでなくウォンツにも訴求しなければならない」

落とし穴3、新興国市場における技術要件すべてについて熟慮することを忘れる
・「科学法則はどこでも共通だとしても、新興国市場の技術インフラはまったく異なる。・・・問題の背後にある技術的要因を理解し、厳密に分析し、取りうる解決策の実現可能性を判断しなくてはならない。」
設計原則3、消費者の問題の背後にある技術的状況を分析する
・「社会的、経済的な要因によって製品の技術要件が決まることも多い。」
・「エンジニアが技術的状況を研究することにより、周囲の創造的道筋だけでなく、ペインポイント(悩みの種)も確認することができる。エネルギー、力、熱伝導などの要件を理解すれば、それらを満たす斬新な方法が浮かび上がってくる。」

落とし穴4、利害関係を顧みない
・「消費者のニーズや要望について製品設計担当者を教育するには、・・・数日間、新興国市場に送り込み、いくつかの都市や村落、スラム街を車で回り、現地の様子を観察させればいいと思っている多国籍企業が多いようだ。・・・そんなことが真実であろうはずがない。」
設計原則4、なるべく多くの利害関係者を交えて製品をテストする
・「企業は設計プロセスの最初に、製品の成功を左右する一連の利害関係者をすべて洗い出すとよいだろう。誰がエンドユーザーか、どのようなニーズかと尋ねることに加えて、誰がその製品の生産、流通、販売、支払い、修理、廃棄をするかについても考慮しなくてはならない。これは製品のみならず、拡張可能なビジネスモデルの開発にも役立つだろう。利害関係者のためではなく、利害関係者と一緒に設計しているという態度を取るのがベストである。」
・「エンジニアがどれほど完璧主義だったとしても、ユーザーは使い手でなければ気づかない設計上の不備を明らかにしてくれる。」
・「設計は繰り返しであることを忘れてはいけない。最初から正しく理解するのは不可能なので、多くのプロトタイプをテストする準備をすることだ。」

落とし穴5、新興国市場向けの製品が、グローバルに訴求できる可能性を信じようとしない
・「欧米企業は先進国市場の消費者は・・・新興市場からの製品などけっしてほしがらないと思い込みがちだ。たとえそうした製品に人気があったとしても、高価格で高利益率の製品やサービスとのカニバライゼーションを起こすので危険ではないかと懸念する。」
設計原則5、新興国市場の制約条件を生かしてグローバルで勝てるものをつくり出す
・「企業は解決策を計画する前に、新製品やサービスに影響を及ぼす固有の制約条件を確認すべきである。・・・リストアップしていくと、価格、耐久性、素材など、新しい設計で満たさなくてはならない要件が確定する。途上国の制約条件によって通常、技術的ブレークスルーを迫られ、それがイノベーションでグローバル市場をこじ開けるのに役立つ。新製品がプラットフォームとなって、企業はそこに、世界中のさまざまなタイプの消費者が喜ぶ特徴や性能を追加することができるのだ。」


新興国市場の意味についての著者のコメント
・「欧米企業のほとんどは、過去15年でビジネスの世界が劇的に変化してきたことを知っているが、その重心が新興国市場にほぼシフトしていることにはまだ気づいていない。・・・市場リーダーの座を維持したいと思う企業であれば、そうした国々の消費者を重視する必要がある。経営陣にとって、新興国市場で製品開発に必要なインフラ、プロセス、人材への投資を始める以外に選択肢はない。投資により、多国籍企業も新興国ならではの『フルーガル・エンジニアリング』の恩恵にあずかることができる。こうした国々では熟練の人材(特にエンジニア)が豊富におり、比較的低賃金なので、先進国よりも製品をつくるコストを低く抑えられることが多いのだ。」
―――

この論文を読むと、リバース・イノベーションには次の2つの側面があるように感じられます。1つめは、新興国での新興国消費者向け製品開発であり、2つめは、新興国で開発された成果の先進国への展開です。もちろん、最初の新興国での製品開発がなければ、次の先進国への展開もありませんので、新興国での開発ノウハウが重要であることは言うまでもありませんが、それだけではイノベーションの成果が新興国内に留まってしまうでしょう。成果をさらに大きなものにするために重要なのが先進国への展開、と言えるのではないでしょうか。

著者は、多国籍企業がリバース・イノベーションを行うことの重要性を強調していますが、実際には新興国の企業が自国内で起こしたイノベーションの成果を先進国向けに改良して輸出してくる、そんなシナリオも考えられるように思います。多国籍企業にとってのリバース・イノベーションの意味は、単に新興国市場から利益を得ることだけではなく、新興国企業からの技術輸入をうまくコントロールする意味もあるのではないか、という気がしました。

この論文に述べられた5つの設計原則は、単に新興国での開発に特有の指針というわけではないように思います。5つの設計原則を、もう少し一般的な言葉で言い換えると以下のようになるのではないでしょうか。
1、既存製品や既存製品の改良にとらわれない発想が必要な場合がある。根本的な問題を認識し、解決策を提供することが必要。そのためには、想定顧客が欲していることは何か、既存の製品やサービスをどのように使っているのか、環境条件(使用環境、メンテナンス環境など)はどうか、などを参考に解決すべき問題を見直すことも必要。
2、制約条件はアイデアの源にもなり得る。環境上の条件を制約としてではなく資源として使う発想もできる。イノベーションを進める方法、ビジネスモデルを構築する方法にとっても、異なる環境は選択肢の幅を広げる上で役に立つ可能性がある。

3、イノベーションをとりまく様々な技術要件をできるだけ検討することが必要。先入観を捨て、当たり前と思っている前提を疑ってみることも必要。
4、イノベーションは、想定どおりには(特に先進国にいて考えた想定どおりには)進まない。様々な利害関係者の理解を得る努力と、テスト、フィードバックによる改良が必要。
5、開発された製品のアイデアは、当初の目的だけではなく異なる環境にも使える可能性があることを考えなければならない。
これらは、何か新しいイノベーションを起こそうとする時に考えるべき基本的なことのように思います。しかし、普通に研究開発をしていると気づきにくいこともあるでしょう。「新興国」という環境は、こうした点に気づかせてくれる刺激になっているのではないかと思うと、「リバース・イノベーション」の進め方を知る、ということは、新興国での研究開発を考えていない人にとっても、あらゆるイノベーションに必要な観点を再認識するよい機会でもあるといえるように思います。


文献1:Amos Winter, Vijay Govindarajan、エイモス・ウィンター、ビジャイ・ゴビンダラジャン著、渡部典子訳、「[実践]リバース・イノベーション 5つの設計原則が新興国での製品開発を促す」、Diamond Harvard Business Review, December 2015, p.98.
原著:”Engineering Reverse Innovations”, Harvard Business Review, July-August 2015.


データを使う前に(ファング著「ナンバーセンス」より)

判断や意志決定の根拠として数値データを使う状況は多いと思います。しかし、データや数字を解釈し使っていく際には注意が必要だということもしばしば指摘されます(本ブログでも以前に「数値目標」について考えてみました)。特に、最近では「ビッグデータ」が注目され、大量のデータから得られる示唆についての期待の高まりを受けて、統計的スキルやデータアナリストの仕事についてもその重要性が認識されつつあるように思いますが、ビッグデータであっても、データや数値を扱う上での注意は従来同様に必要でしょう。

カイザー・ファング著「ナンバーセンス」[文献1]では、事例に基づいて、数字を扱う上で注意すべき点が解説されています。事例ベースの解説ですので、注意点が網羅されているとは言えないと思いますが、日々データを扱っている技術者にとっても役に立つ点も多いと感じましたので、以下に、特に興味深く感じた点をまとめておきたいと思います。

ナンバーセンスとその意味
・「ビッグデータはすでに現実であり、今後も多大な影響を及ぼすだろう。少なくとも、私たちの誰もがデータ分析を消費している。だからこそ、より賢い消費者にならなければならない。そのためには統計のリテラシー、すなわち『ナンバーセンス』が必要なのだ。問題のあるデータやアナリストを見たときに、何かが違うと感じる。それがナンバーセンスだ。[p.26]」
・「ビッグデータをもてはやす人々は、データが多いほど的確な分析が増えると思い込みがちだ。しかし、より多くの人がより多くの分析をより迅速に行なえば、より多くの理論や視点が生まれ、複雑さや矛盾や混乱が増えて、明晰さや意見の一致や信頼度が薄れる。[p.22-23]」「変数の種類が増えれば増えるほど、もっともらしい分析が幾何級数的に増え、誤差や矛盾が生じる可能性もそれだけ増える。データの量が多ければ、議論や検証、調整、反復可能性の計測などに要する時間は必然的に増え、それだけ疑問や混同が生じる。ビッグデータは、私たちを前進させるのではなく後退させかねないのだ。問題のあるデータをかき集めれば、問題のある理論が裏づけられ、正しい理論がかき消されて――科学が暗黒の時代に逆戻りするかもしれない。[p.25-26]」
・「ナンバーセンスを従来の学校教育で教えるのは難しい。一般原則はあるが、詳しいマニュアルは存在しないのだ。公式では表せないし、教科書の事例を現実社会に当てはめることもできない。学校の授業は、現場のアナリストが時間を費やして分析する要素を切り離し、一般的な概念を抽出する。したがって、ナンバーセンスを育む最善の方法は、統計の現場に出て学ぶことだ。・・・データを分析する方法はひとつだけではない。あなたも自分なりの視点で捉えてほしい。そのような訓練を重ねて、ナンバーセンスは磨かれるのだから。[p.26-27]」

1、なぜロースクールの学長はジャンクメールを送り合うのか?
・アメリカのロースクールのランキングを上げるためにどんなデータ操作がなされているのかが解説されています。
・「ランキングは本来、主観的なものだ。・・・計算式やルールをつくる人の考えが反映される。[p.35]」「ロースクールのランキングも、ほかのあらゆる主観的なランキングも、正確である必要はない。世間の信頼を勝ち取ればいいのだ。[p.37]」「USニューズのランキングが参照するすべての要素は、何らかのかたちで操作できる。ランキングをつくること自体に抵抗しても意味はない。格付けは人間的な欲求を満たすからだ。あるランキングが廃止に追い込まれても、同じような欠陥を持つ別のランキングが取って代わる。そして、ビッグデータはランキングの危険性をさらに高める。ランキングの計算式が複雑になるほど、数字を着飾るチャンスが増える。データセットが大きくなるほど、監督は難しくなる。だからこそ、ナンバーセンスが必要なのだ。公表されているデータを額面どおりに受け取らず、適切な質問をぶつけ、細工された統計を嗅ぎ分ける。それがナンバーセンスだ。[p.56]」
・「有名大学の学長のように立派な肩書の人がさりげなく統計を持ち出しても、素直に信じてはいけない。ナンバーセンスは懐疑的な目であり、探索と検証をせずにいられない衝動だ。トリュフを探す豚の鼻で、数字の珍味を探り当てるのだ。ただし、ナンバーセンスは訓練と忍耐の賜物でもある。統計の基本的な概念も少々必要だ。平均値や中央値、パーセンタイルの意味も理解しなければならない。比率を構成要素ごとに分解すれば、思考が開けてくるだろう。比率を加重平均で説明することもできる。欠損値は慎重に吟味しなければならない。とくに、統計的な推測で補完されている場合は要注意だ。恥知らずな不正は巧妙でわかりにくいが、矛盾点から露呈していくものだ。[p.72]」

2、違う統計を使えばあなたの体重は減るだろうか?
・肥満の基準として従来使われてきたBMI(ボディマス指数)に代えて、新しい指標で肥満度を評価することの意味が議論されています。
・「何かを測るシステムは、つねに悪用される可能性がある。肥満の判定基準をめぐる議論は、基準と呼ばれるものの危うさを見せつける。[p.82]」「失敗を受け入れるのは難しいものだ。期待を裏切る結果を前にすると、・・・計測方法のどこが悪かったのかと思いがちだ。[p.83]」「計測基準の大半は強い相関関係がある。つまるところ、同じものを計っているのだ。[p.84]」「新しい基準は、ある程度の量のデータがたまるまで有用性を検証できない。[p.85]」「数式をいじりたくなる衝動は繰り返しやって来る。数式をいじれば、ほぼ確実に複雑になる。基準が複雑になるほど、基準の使い方は複雑になり、基準が改良されにくくなる。[p.86]」「私たちは肥満との戦いに追われ、本当に解決しようとしている問題を見失いかけている。倒すべき敵は、肥満ではない。糖尿病や脳卒中など、肥満に関連する病気が原因となる早すぎる死を撲滅しようとしているのだ。[p.88]」「『因果関係は相関関係を含意しない』というこの原則は、基本中の基本だ。[p.92]」「原因と結果をつなぐ橋は、理論の上に築かれる。[p.94]」

3、客が入りすぎて倒産するレストランはあるか?
・共同購入クーポンのグルーポンの事例をもとに、数値の意味の違いを解説。
・「『手にできたかもしれない』ものを統計学では『反事実』と呼ぶ。[p.107]」例えば、ソフトの不正コピーによる損害を算出する際に、「不正コピーされた数を推定し、そのソフトウェアの平均小売価格をかけて被害額を算出する[p.113]」やり方には批判がある。「海賊版ソフトウェアを使っていると見られる人の大半は、もし海賊版が撲滅されたらそのソフトウェアを使わないだろう。・・・したがって、ライセンス認証されていないソフトウェアの商業的価値のすべてが、業界の直接の損害になるわけではない。無料は過剰消費を招く。・・・不正コピーの損害を正確に評価するためには、不正コピーができない世界を想像しなければならない。ある程度の推測は混じるが、この想像の世界を無視すると、きっと間違った結論にたどり着く。疑問を感じたら、『もしもの世界』を考えてみよう。[p.113-114]」
・グルーポンの場合、「クーポンを利用する新規の客」と「クーポンを利用する常連客」という2つの顧客セグメントを考えると、「新規の客は、利幅は悲しいほど小さいけれど増分利益をもたらすのに対し、常連客は損失(正規料金との差)をもたらす。[p.115]」「クーポンの利益性は、新規の客と常連客という二つの顧客セグメントのバランスにかかっている。適切なバランスになる店は採算が取れるが、グルーポンがすべての店に幸せをもたらすわけではない。[p.119]」

4、クーポンのパーソナライズは店舗や消費者の役に立つか?
・グルーポンのターゲティングの試みで行われていることの意味を解説。
・「ナンバーセンスがある人は、数字を鵜呑みにしない。さまざまな数字を関連づけ、信頼できる数字と幻想の数字を見きわめようとする。科学と作り話の境界線を引くのだ。定量的思考を少々働かせれば、グルーポンのビジネスについて驚くような洞察が次々と見えてくる。まず、ウィン・ウィン・ウィンの公式には落とし穴がある。顧客は明らかに得をして、グルーポンも得をするが、提携店はすべてが得をするわけではない。・・・ターゲティングは、個人に関連性の高いクーポンを提示することとは、実はあまり関係がない。重要なのは利益をもたらす顧客セグメントに働きかけることで、店としては常連客を避けて新規の客にアプローチをしたい。しかし、グルーポンの二面性の市場は、典型的なビジネスモデルとは異なる動きをする。消費者が喜ぶほど、店は疲弊するのだ。[p.144]」

5、なぜマーケターは矛盾したメッセージを送るのか?
・ターゲティングを題材に、予測方法の問題点を解説。
・「アマゾンなどの小売業者は、あなたが次に何を買いそうか、二つの方法で推測する。あなたがお得意様なら、購入履歴から手がかりを探す。お得意様でなければ『代替データ』を参照して、あなたに『似ている』常連客と関連づける。この場合、年齢や収入、購読雑誌、ペットの有無などが代替データになる。[p.156]」「あるものをどうして買ったのか、本当の理由は残念ながら簡単には計測できない。・・・一般に社会科学の統計モデルは、人間の行動の理由ではなく相関関係をもとにしている。そのようなモデルが描く現実は、当然ながら現実を十分に捉えきれず、間違った陽性反応と間違った陰性反応が多すぎる。統計モデルは、ニュートンの重力のモデルとは違う。・・・現実世界の相関関係は、一貫性とはほど遠い。[p.164]」「さまざまな実験の結果を踏まえると、人間の意思決定を、確固たる論理的な因果関係によって説明できるとは考えにくい。統計学者は説明がない部分を因果関係のモデルに託そうとするが、そのような行為は本質的に誤りを生みやすく、大量のデータでもその誤りは治せない。・・・誰もあえて口にしないが、相関関係のモデルが導き出した予測の大半は間違っている。頭脳やスキルの問題ではない。人間の行動という万華鏡を、公式に押し込もうとしても無駄なだけだ。ビッグデータの到来は、理論の終焉ではない。あらゆる統計モデルに仮説が含まれていることは、次の2つの章で詳しく説明する。[p.166-167]」

6、失業率の増減をあなたが実感できないのはなぜか?

・失業率の計算方法から用いられている仮説、データ調整の意味を解説。
・「データの出所を知ることも、ナンバーセンスのひとつだ。[p.173-174]」
・「回答書が提出されないと欠損値が生じる。統計上よく使われる解決策は、データの空白をゼロで補完することだ。・・・データの空白を埋めるもうひとつの方法は、『平均値による補完』だ。[p.177]」
・「ナンバーセンスは、データをよく見ることから始まる。ただし、データをどのように収集したのか、複雑な詳細がわかるまで手を出してはいけない。調整も改ざんもされていない生のデータは、ほぼ間違いなく答えを生み出さないだろう。季節調整やバイアスの是正は、生データというサラダにかける応用統計学のドレッシングだ。[p.199]」

7、誰がどうやって物価の変動を見極めているのか?
・物価統計を題材に、平均的な指数と個人の感覚の差、データ集計の問題点を解説。
・「価格によって変動が異なることは、経済学者もわかっている。・・・このようなときに、統計学者は『非集計』の手法を使う。データを分解し、構成要素をひとつひとつ分析していくのだ。[p.218]」
・「非集計は集計のプロセスを解き明かすし、項目別の指数のほうが私たちは納得しやすい。データが豊富にあるときは、構成要素の多様性に注目するべきだ。平均化とフィルタリングは思わぬ反動を招きかねない。平均化は多様性を一掃し、フィルタリングは現実を覆い隠してしまう。[p.223]」

8、コーチとGMどちらが勝敗のカギを握るか?
・スポーツデータを利用して行うゲームの「ファンタジー・フットボール」を題材にデータ分析の方法を解説。
・「厄介なのは、複数の要因の関係を紐解くことだ。現実の世界では、複数の要因が絡み合ってひとつの結果をもたらす。しかし私たちは、『ほかの条件が等しければ(ceteris paribus)』という筋書きを検証しようとする。[p.234]」
・「『起きたかもしれないこと』に注目するのは、実際に起きたことを評価するためだ。[p.238]」
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本書の示唆の重要な点を私なりにまとめると以下のようになります。
・データや、データから導かれた結論は鵜呑みにしてはいけない。
・データが評価に結び付く場合、評価が高くなるようにデータを集めたり操作したりする(あるいは、評価に関係しないデータは無視する)ことが起こりうる。それによって評価自体の意味も変わってくるかもしれない。
・新しいデータが用いられようとする場合、そのデータ意味、導入の背景には要注意。
・置かれた立場によって、同じ数値でも意味が異なる場合がある。数値をどう使えばよいかも変わってくる。
・いくらデータがあっても相関関係だけに頼ることは危うい。
・データ加工、推論には仮定やモデルが用いられている点に要注意。
・生データだからよいというものではない。どうやってデータを取ったのかをまず知ることが必要。適正な補正やデータの吟味は有益。ただし、データ加工には恣意的な修正が入り込む危険もある。

・集計データ、平均データに頼ることで見失うものがある。

ナンバーセンス、というのは要するにデータに対する感覚、のことでしょう。研究者、技術者は日常的にデータを扱っていますが、そのデータが現象の何と結びつき、どの程度現象を反映しているか、得られるデータのバラツキ、信頼性はどの程度か、どういう場合にミスや誤解が生じやすいのか、などの感覚を持っておくことは必要不可欠のことだと思っています。社会科学的データを扱う場合には、こうした点に加えて、人間の行動や意図に対する洞察も必要でしょう。データの由来、採取方法、加工方法、加工に用いる仮説を知っておくことは、ナンバーセンスを磨く上で非常に有益だと思いますので、著者の指摘は技術者にとっても非常に参考になると感じました。ビッグデータの可能性については、個人的には期待するところも多いのですが、データの背景がブラックボックス化されて見えなくなりやすいような気もしますので、ビッグデータの利用に関しては今まで以上のスキルと注意が求められる、ということかもしれません。これからの技術者には、統計リテラシーとともに、人間に対する理解、幅広い教養も求められるようになるような気もしますがいかがでしょうか。


文献1:Kaiser Fung, 2013、カイザー・ファング著、矢羽野薫訳、「ナンバーセンス ビッグデータの嘘を見ぬく『統計リテラシー』の身につけ方」、CCCメディアハウス、2015.
原著表題:Numbersense: How to Use Big Data to Your Advantage


イノベーションのスタート段階とアイデア(ウルフェン著「スタート・イノベーション!」より)

イノベーションはどのように始めるのがよいのでしょうか。多くの場合、「これをやってみよう」というアイデアがまず必要になるでしょう。顧客や市場のニーズ、トレンドからアイデアが出てくることもあるでしょうし、すでにシーズ技術があってそれを何らかの形でビジネスに生かせるのではないか、というアイデアもあるでしょう。また、「とにかく何か新しいことを始めたい」という社内的必要性があって、アイデアを一から考える場合もあるかもしれません。

このような「アイデア」は、イノベーションの課題を選定するアイデアということになると思いますが、これは、何らかの問題を解決するための知恵や工夫という意味の「アイデア」とは少し異なる気がします。問題解決のためのアイデアの場合、そのアイデアの良し悪しは、問題解決に寄与するかという点で評価ができるのですが、問題も明確になっていないような場合や解決すべき問題の特定から始めなければいけない場合、アイデア出しやアイデア評価はどのようにすればよいのでしょうか。イノベーションを成功させる、ということが課題だとすれば、成功するようなアイデアというのはどのようにしたら出せるのでしょうか。

ウルフェン著、「スタート・イノベーション!」[文献1]では、イノベーションをどのように始めたらよいか、特に新たなビジネスを起こすためのアイデアをどうやって出し、成長させていけばよいのかについての著者の提案する手法が解説されています。著者は「イノベーションプロジェクトの80パーセントは途中で頓挫してしまう。多くがプロジェクトの序盤でつまずいてしまうのだ。本書『START INNOVATION!(スタート・イノベーション!)』は、アイデア創出のインスピレーション(ひらめき)を得るための実用ツールを提供し、プロジェクトの効果的なスタートの切り方を教えることを目的としている[p.6]」と述べていますが、インタビュー[資料2]では、「保守的な会社でイノベーションを起こす必要があり、内部のサポートも得られないなら本書が役に立つ」というようなことも述べていますので、その内容は多分に既存企業(スタートアップ企業ではなく)におけるイノベーションを念頭においているようです。そうした視点での手法は少し珍しいですし、イノベーションの方法全般においても役立つ指摘も含まれていると思いますので、以下にその内容の要点をまとめてみたいと思います。

1章、イノベーションを起こした偉大な探検家Famous Explorers Innovate

著者は、「この本では、イノベーションの起こし方を『探検の道筋』に見立てて解説するという、独自の方法を採用している[p.6]」とし、コロンブスの新大陸発見、マゼランの世界一周、アムンセンの南極探検、ヒラリーのエベレスト登頂、アームストロングの月面着陸の事例から、次の教訓が得られるとしています。
・イノベーションの10の教訓[p.47]:1情熱、2危機感、3目的、4チームワーク、5計画、6準備、7専念、8粘り強さ、9新技術、10共感。

2章、探検の出発前にInnovate the Expedition Way
・「探検に乗りだすべきでない21のシチュエーション[p.51]」:各項目は割愛しますが、イノベーションを始める段階の注意点を次のようにまとめています。「まずは視野を広げ、これまでの意見や、習慣や、やり方に疑問を持つことが大切だ。」「アイデアをひらめくのはひとりでもできるが、組織の中でのイノベーションは、ひとりでは起こせない」「スタートすべき適切なタイミングを待とう。いちどスタートしてしまえば、もう後戻りはきかないのだから。」
・「イノベーションをふいにする6つのパターン[p.52-53]」:1、必要ないのに始める、2、最初にイノベーターを選ぶ、3、あなたのアイデアを出発点にする(批判的な意見が出るのは「アイデアがあなたのものであって、彼らのものではないから」)、4、ひとつのアイデアに掛けてしまう、5、ブレーンストーミングから始めてしまう(ブレーンストーミングがうまくいかないのは古いものを捨てられないから)、6、顧客を無視して初めてしまう。
・「イノベーションのスタートで起こる10の問題[p.62-63]」:1、方向性の欠如、2、アイデアの固定化、3、常識への固執、4、仕切り屋の存在(参加者のあいだに力関係があるとよくない)、5、負のスパイラル(ネガティブ発言で黙ってしまう)、6、付せんはたまった、じゃあ次は?(どう活用したらいいかわからない)、7、アイデアのあいまいさ、8、上層部による封殺、9、開発チームによる改変(開発チームに受け渡された後)、10、生産ラインからの抵抗
・「アイデア創出の5つのジレンマ[p.64-65]」:1、いつ(「財政と文化の両面で、社内にイノベーションの機運が高まらない限り成功しない」、2、誰が(内部か外部か)、3、何を(革新的か発展的か)、4、どの基準を採用すべきか(クリアすべき明確な基準は?)、5、どうやって(自由に行くか理詰めでいくか)
・本書で提案するイノベーションメソッド「FORTH」の概要[p.69]:STEP1「全速前進でスタート」(専念すべき目標をはっきりさせる)、STEP2「観察と学び」(顧客の不満を発見し、理解する)、STEP3「アイデアを出す」(ブレーンストーミングでアイデアを出し、評価し、具体的コンセプトへ昇華させる)、STEP4「アイデアをテストする」(コンセプトを想定顧客がテストする)、STEP5「帰還」(上層部にいちばん有望なコンセプトを新ミニ・ビジネスケースとして提示する)。(なお、「FORTH」という名前は、STEP1~5(3章~7章)の頭文字をつなげたものです)

3章、全速前進でスタートFull Steam Ahead
・アクティビティー[p.83-84]:1、方針設定ワークショップ、2、中核メンバーによる事前ミーティング(最初から最後までかかわる中核メンバーと、通常上層部の人間が務める大枠メンバーからなる)、3、Kick-Offワークショップ
・「たった1つのアイデアからイノベーションをスタートさせるのは厳禁![p.90]」:「夢のようなアイデアではなく、ビジネスとしての目標を達成できるアイデアを持たなければならない」「チームみんなでアイデアを出そう。そうすれば、全員の心に『これは自分のアイデアだ』という愛着が生まれる。」「代替案はあるだろうか?」
・「すべてはタイミング次第![p.92]」:「上層部が本物のイノベーションにゴーサインを出すのは、リスクの低いコンセプトの成長が軒並み止まったときだけである」
・「使命をはっきりさせるには、上層部もターゲット顧客層を絞り、クリアすべき基準を具体的に設定しなければならない[p.96]」

4章、観察と学びObserve & Learn
・アクティビティー[p.105]:4、最終確認ワークショップ、5、トレンドとテクノロジーの調査、6、顧客の不満を見つけ出す、7、イノベーションの実例を調査する、8、観察と学びワークショップ(特に参考になる実例と、特に狙っていくべき顧客の不満を選定する)
・「不況の今、企業はオペレーショナル・エクセレンスの意味をコストカットにすり替えがちだ。コストを減らせば確かに利益は上がるが、それは一時的なことで、長期的には、コストカットだけでは事業は生き残れない。・・・オペレーショナル・エクセレンスではトレンドを逆転させることはできない。[p.108]」
・「デザイン・シンキングの5つのポイント[p.110-111]」:1、共感(デザイン・シンキングの達人は、他人が気づかないことに気づき、その情報をイノベーションのヒントにする)、2、統合的な思考(分析だけに頼らず、複雑な問題をさまざまな面から捉える)、3、楽観主義、4、試したがり(微調整だけではイノベーションは起こせないとわかっている)、5、コラボレーション(ひとりのクリエイティブな天才がひとりでイノベーションを起こすやり方は、過去のものになりつつある・・・一流のデザイン・シンカーの多くは、多分野の人間と協力するだけでなく、自らがさまざまなことに造詣が深い)
・「オープンイノベーションの文化を支える10の要素[p.114-115]」:1、顧客やパートナーとの関係構築がうまい人間、2、スマートな人材がすべて社内で揃う『わけがない』という認識、3、失敗は学習機会だという認識、4、社内教育(アイデアやテクノロジーをビジネスへ転換する方法)、5、『うちの発案じゃない』症候群の撲滅、6、内外の研究開発のバランス、7、リスクを避けるのではなく、取ろうとする意志、8、トラブルに対する覚悟(オープン・イノベーションほぼ必ず知的財産所有権の問題を引き起こす)、9、オープンなコミュニケーション(信頼に基づいた関係をつくり出し、秘密主義と知的財産の問題の克服に努めよう)、10、必ずしも、第一人者になる必要はないという心の余裕
・「顧客の不満の見つけ方[p.126-127]」:顧客層を特定する(イニシエーター、インフルエンサー、ディサイダー、バイヤー、ユーザー、使い方による分類)、顧客の不満をあぶり出す(個人インタビュー、フォーカスグループ)、不満を言葉で表現する。「何よりも大切なのは、あなたがイノベーションを起こしたい分野に、今どんな製品やサービスがあるかを知り、一般市場であればどう使われているか、B2B市場であれば生産工程でどんな役割を果たしているかを理解することだ。」

5章、アイデアを出すRaise Ideas
・アクティビティー[p.137]:9、新製品ブレーンストーミング(ブレーンストーミングで、500~750個の新しいアイデアを出し、それを30~40の異なる方向性にまとめ、12の方向性を選び新コンセプトをつくる)、10、コンセプト改善ワークショップ(1回目)。
・心理学者の科学的なデータによると「プレーンストーミングをするよりも、個々に取り組んだほうが、人はたくさんのアイデアを出せる[p.144]」。そこで、「FORTHではプレーンストーミングの手法に微調整を加えている。・・・チームのメンバーはまず、完璧に静かな環境で、アイデアを出す時間を与えられる。一斉にしゃべるのではなく、まずは付せんにアイデアを書きつけるのだ。それからメンバーは順番に、書いたアイデアをテンポよく読み上げる。[p.144-145]」

6章、アイデアをテストするTest Ideas
・アクティビティー[p.161]:11、コンセプトテスト(コンセプトの魅力度をターゲット顧客がテストする)、12コンセプト改善ワークショップ(コンセプトを改善し3~5個の有望なコンセプトを選ぶ)
・チェックのポイント[p.170]:1、顧客:顧客に気にいられるか?、2、ビジネスモデル:利益は出せるか?、3、技術:製品化は可能か?
・「顧客からのダメ出しこそが、アイデアをふるいにかける最高の手段なのだ。[p.170]」
・コンセプト検証のための実用チェックリスト[p.172]:1、顧客の不満と関係があるか?、2、顧客の不満の解決策になっているか?、3、コンセプトの特徴は顧客にとってわかりやすいか?、4、顧客にとって試してみやすいか?、5、新コンセプトへ切り替える際、顧客に何かリスクはないか?、6、売上・利益目標をクリアできる見込みはあるか?、7、その際、自社の現行製品、サービスの売上と利益を食いはしないか?、8、ブランドの立ち位置にフィットしているか?、9、自分たちで作れるか(パートナーの助けは必要か)?、10.大規模な投資をせずに作れるか?

7章、帰還Homecoming
・アクティビティー[p.183]:13、4回の新ミニ・ビジネスケース・ワークショップ(プレゼンのための資料としてビジネスケースを作る。ビジネスケースとは、イニシアティブや投資などの概要を商業面・技術面・財政面から明確にまとめた企画書を言う。)、14、最終プレゼンテーション(これまでのプロセスにさほど深く関わってこなかった上層部の人間を、新コンセプトのとりこにする)、15、コンセプト受け渡しワークショップ(次のステップである開発ステージへの受け渡し)
・「本当に大切なのは、無数に出たアイデアをどうまとめるかだ。・・・正しいアイデアを『選ぶ』ほうに少なくとも3分の2の時間をかけ、アイデアを『出す』ほうは3分の1にとどめる。[p.188]」

8章、その後の展開Get It Done
・「イノベーションプロセスにおいては、『あいまいな初期段階(ファジーフロントエンド。イノベーションのスタート段階ははっきり構造化するのが難しいことから、こう呼ばれている)』と『やっかいな後半段階(スティッキーバックエンド)』とのあいだには、大きな隔たりがあると言われている。[p.204]」
・「アイデアの具現化に役立つ便利な3Cp.204-205]」:Connect(つながり)→「FORTHでは、チームに中核メンバーだけでなく、大枠メンバーが加わる。そして大枠メンバーには必ず意志決定者、つまり会社のビジネス面を象徴する人物を選ぶ。・・・アイデア創出以後のステージでも上層部の人間が引き続きチームに加わるようにすれば、プロジェクトが生き残る確率はぐんと上がるはずだ。」、Customer(顧客)→「イノベーションでいちばん難しいのは、組織での生き残りだ。・・・顧客の声という『世論』を背景に、社内でのプロジェクトの優先順位を高め、より多くのリソースを勝ち取るのだ。」、Creativity(クリエイティビティー)→「フレキシビリティーとクリエイティビティーはプロセス全体を通して失ってはならない。・・・フロントエンドで使ったアイデア創出テクニックを、バックエンドでも活用していこう。」

9章、イノベーションのツールキット
ワークショップやブレーンストーミングなどで使えるツールの紹介
---

本書で提案されているFORTHプロセスは、実現性の高そうなアイデアを上層部に承認させて、イノベーションのスタートを切る段階で終わっています。その後の実行段階にも様々な障害があることは多くの人が指摘しており、実行段階をうまく進めていく方法も様々に提案されていますが、著者の考え方は、まずはスタート段階をうまくくぐりぬける必要があるということ、そしてそのためにスタート段階で十分な検討と準備を行えば、実行段階での成功確率もあがるのではないか、ということのように思います。確かに、既存事業を運営している企業では、よさそうなアイデアを思いついたにもかかわらず、社内でその開発承認が得られず、みすみすチャンスを逃してしまうことがあります。今までのイノベーションの手法では、その段階へのうまい対処法はあまり提案されていなかったと思いますので、本書の手法は実務家にとって(特に、企業内で研究開発をしている人にとって)有用な示唆を与えてくれるのではないでしょうか。もちろん、この手法を用いて、社内承認を得てもその後がうまく進むとは限りません。懸念点をあげるとすれば、社内受けのよいアイデアが市場で受け入れられるとは限らないこと、上層部を大枠メンバーとして参加させて社内承認を通りやすくしたことで、実行段階での方針転換が難しくなる可能性が出てきたり、上層部の思い入れが強くなりすぎて現実に基づく正しい判断が行なわれなくなる可能性などが容易に想像できます。実務家としては、それぞれの状況に合わせて本書の手法の良いところをうまく使っていくことが必要なのだろうと思います。


文献1:Gijs van Wulfen, 2013、ハイス・ファン・ウルフェン著、高崎拓哉訳、「スタート・イノベーション! ビジネスイノベーションをはじめるための実践ビジュアルガイド&思考ツールキット START INNOVATION! with this visual toolkit.」、ビー・エヌ・エヌ新社、2015.
原著表題:The Innovation Expedition: a visual toolkit to start innovation
資料2:ビー・エヌ・エヌ新社webページより、「『START INNOVATION!』 著者ファン・ウルフェン氏来日記念イベント レポート」、2015.7.23
http://www.bnn.co.jp/articles/7707/

参考リンク


研究開発マネジメントノート(本ブログ記事)索引 2015.12.6版

2015.12.6版)

本ブログ記事索引の改訂版です。今回改訂では、前回の「研究マネジャー基礎知識(ノート)」として書いた記事内容に加えて、その他の記事の表題に関連した事項(紹介した本の著者含む)を収録しました。このページでは頻出語に絞り、細かい索引は別ページにしています。リンクは各記事のタイトルの特徴的な言葉と記事投稿日です。(記事内の事項の索引化は少しずつ進めていきたいと思います)

人名・企業名索引詳細ページへ
Adner
ノート補3破壊的イノベーションの現在130804ワイドレンズ140119
Anthony
ノート2ノート4ノート5ノート6ノート9ノート12ノート14ノート補2ニューグロースファクトリー111120ファーストマイル150412小さなイノベーション150823
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ノート9ノート13ネットワーク130331
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Govindarajan
ノート4ノート5ノート9ノート10ノート11ノート補2ノート補3リバースイノベーション101017リバースイノベーション121125イノベーション実行130908はじめる戦略141221
Heath
ノート13アイデアのちから120716スイッチ1301016
Herzberg
ノート7ノート11ノート補1
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Kim
ノート3ノート4ノート10
Lafley
ノート補2科学的戦略策定130630勝つために戦う戦略140302
Leonard-Barton
ノート6ノート8ノート12ノート14ノート補3コア・リジディティ100905
Martin
ノート補2科学的戦略策定130630勝つために戦う戦略140302
Mauborgne
ノート3ノート4ノート10
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ノート8ノート10多様性130224
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ノート2ノート5ノート6
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ノート2ノート6ノート10ノート13ノート補2
SAS
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SRI
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Tidd
ノート1ノート3ノート5ート6ノート8ノート9ノート10ノート11
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伊勢田哲治:ダマされないための科学講義120122科学を語る140413クリティカルシンキング150517
伊丹敬之:ノート12技術経営の常識のウソ110417技術を武器にする経営150118
金井壽宏:ノート5ノート7ノート補2モチベーション110828戦略人事121118エキスパートの知130715
中原淳:ノート9ノート補3経営学習論130825
丹羽清:ノート序ノートノート2ノート3ノート5ノート6ノート8ノート9ノート11ノート12ノート1技術経営の実践的研究130429
野中郁次郎:ノート6ノート7ノート8ノート9ノート10ノート14ノート補2組織的知識創造101024イノベーションの知恵110321フロネシス120129流れを経営する120325アジャイル120527知識創造経営のプリンシプル121224ビジネスモデルイノベーション130526
開本浩矢:ノート7ノート11ノート12モチベーション管理110123
三崎秀央:ノート7ノート8ノート10ノート11


事項索引
詳細ページ(英字、あ~こ)

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英字
SECI
モデル:ノート9ノート補2組織的知識創造101024
Thinkers50
2011 Thinkers50 1111272013 Thinkers50 131117Thinkers50イノベーション1506072015Thinkers50 151129
Time
2010発明1012051年後の2010発明1112253年後の2010発明131223

あ行
アイデア:ノート1ノート3ノート5ノート6ノート補2アイデアのちから120716
暗黙知:ノート6ノート9ノート10ノート14ノート補1ノート補2
育成:ノート9ノート11ノート補1
意思決定:ノート2ノート12ノート13ノート補2ヒューリスティクス110103まさか121028ファスト&スロー130707意思決定理論140615
イノベーション:ノート序ノート1ノート4イノベーションとは何か120722Thinkers50イノベーション150607小さなイノベーション150823
衛生要因:ノート7ノート11ノート補1
エコシステム:ノート14ノート補1ノート補2ノート補3
エスノグラフィー:ノート6ノート補1エスノグラフィー101219
エンパワーメント:ノート7ノート補2モチベーション管理110123
オープンイノベーション:ノート5ノート9ノート補2オープンイノベーション110110

か行
外発的動機づけ:ノート7ノート10ノート補1
科学:科学嫌い121021科学入門140518
科学技術社会論:科学との付き合い方101121科学技術と社会の関わり110718ダマされないための科学講義120122
科学哲学:科学哲学111010ソーカル事件111106感性の限界121111エコエティカ130127科学を語る140413
技術:ノート2ノート11テクノロジーとイノベーション120401
技術経営:ノート序技術経営の常識のウソ110417技術経営の実践的研究130429技術を武器にする経営150118
競争優位:ノート10ノート14ノート補2ノート補3持続的競争優位140316
協働:ノート9ノート10ノート補1
協力:ノート序ノート8ノート10不機嫌な職場111218利他性と協力120513支援130303協力と罰の生物学150222
経営学:世界の経営学131020ヤバい経営学140209ブラックスワンの経営学150104
形式知:ノート6ノート9ノート14ノート補1ノート補2
計画:ノート序ノート8ノート12
研究者:ノート7ノート8研究報奨100912研究者処遇101003
研究テーマ:ノート1ノート4ノート5ノート6
権限委譲:ノート7ノート9ノート補2
行動経済学:ノート13ファスト&スロー130707嘘とごまかし130811
コミュニケーション:ノート8ノート9ノート10ノート11ノート13ノート補1コミュニケーション111113

さ行
支援:ノート7ノート補2支援130303
試行錯誤:ノート1ノート12ノート補2試行錯誤120812
資源:ノート3ノート4ノート5ノート補2
持続的イノベーション:ノート2ノート4ノート補2
実験:ノート11ノート12ノート補2
失敗:ノート8ノート14知的な失敗120226偉大なる失敗150712経営の失敗150720
冗長性:ノート8ノート9ノート10
情報:ノート1ノート7ノート11製品開発の誤解121014情報の扱い方150524
自律性:ノート2ノート7ノート8ノート9ノート10ノート補1ノート補2ナットアイランド症候群100926研究者の主体性120624
信頼:ノート10ノート13研究者の主体性120624
成長機会:ノート7ノート8ノート補2
セレンディピティー:ノート2ノート3ノート5ノート6ノート補1
専門性:ノート8ノート9ノート10ノート11
創発的戦略:ノート2ノート12ノート補2
組織的知識創造:ノート6ノート8ノート9ノート14ノート補2組織的知識創造101024

た行
多様性:ノート2ノート8ノート10ノート11ノート補1多様性130224
チーム:ノート7ノート8ノート補3ナットアイランド症候群100926チーム150426
知識創造:ノート10組織的知識創造101024知識創造経営のプリンシプル121224
トップダウン:ノート4ノート6ノート9ノート10

な行
内発的動機づけ:ノート7ノート10ノート補1
ニーズ:ノート3ノート4ノート6ノート補1ノート補2
ネットワーク:ノート9ノート11ノート13ネットワーク130331

は行
破壊的イノベーション:ノート序ノート3ノート4ノート9ノート12ノート補ノート補2破壊的イノベーションの現在130804
発見:ノート5ノート9発見の条件101011
発明:ノート5ノート9ノート142010発明1012051年後の2010発明1112253年後の2010発明131223
ビジネスモデル:ノート序ノート10ノート14ノート補1ノート補2ホワイトスペース戦略120109ビジネスモデルイノベーション130526ビジネスモデル改善151115
不確実性:ノート2ノート5ノート6ノート8ノート12ノート補1ノート補2
複雑系:ノート2ノート10ノート補1ノート補2複雑系経営120506複雑系120610
ボトムアップ:ノート4ノート6ノート9

ま行
未来予測:ノート1ノート2ノート補1
無意識:ノート補2無意識のわな141228しらずしらず150322
モチベーション:ノート7ノート11モチベーション管理110123モチベーション110828

や行
やる気:ノート7ノート補1ノート補2モチベーション110828

ら行
リーダー:ノート11ノート補1脱線した幹部100719
リバースイノベーション:ノート4リバースイノベーション101017リバースイノベーション121125


ワイドレンズ:ノート補2ワイドレンズ140119


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