研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2016年02月

イノベーションを生む環境(ジョンソン著「イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則」より)

イノベーションが生まれやすい環境はあるのでしょうか。よいアイデアが生まれ、育ちやすい環境というものはあるのでしょうか。もちろん、イノベーションは様々ですので、すべてが同じ要因で成功したと決定づけることはできないでしょう。しかし、多くの事例を調べれば成功確率を高めるような要因が見えてくるかもしれません。そして、特定のイノベーション環境が成功要因に含まれるなら、そうした環境を整備することでイノベーション成功の確率を高めることができるのではないでしょうか。

スティーブン・ジョンソン著「イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則」[文献1]では、多くの事例や科学的な知見から、イノベーションが生まれやすい環境の特徴が議論されています。著者は、「この本は、イノベーションの空間について語っている。新しいアイデアを抑圧する環境もあれば、難なく生み出すように見える環境もある。都市やウェブがイノベーションの原動力だったのは、複雑に絡んだ歴史的理由から、グッドアイデアの創造、普及、採用に効果的に適しているからである。どんな環境も、決して完全ではない・・・。けれども、都市もウェブも、イノベーションを生み出す点にかけては、異論の余地のない実績がある。・・・グッドアイデアの由来を理解したいなら、それをしかるべき脈絡に置かなければならない。世界を変えたダーウィンのアイデアは頭の中で展開されたが、それをまとめるのに必要だった環境や道具全部を考えよう。船、列島、ノート、蔵書、サンゴ礁といったものである。・・・この本で述べていくのは、並はずれて豊かな環境では、そこに共通する一連の特徴やパターンが何度も現れてくるということだ。私はそれを七つのパターンに煮詰め、それぞれについて一章で述べるようにした。[p.22-23]」と述べています。以下、その7つのパターンのポイントをまとめてみたいと思います。

第1章、法則1:隣接可能性The Adjacent Possible
・「生命のない地球は、アンモニア、メタン、水、二酸化炭素といった、わずかな種類の簡単な分子がほとんどで、そこに少しだけアミノ酸などの簡単な有機化合物があるといった具合だった。・・・当初からあった分子すべてを考えて、それから、その分子が衝突しあうだけで自然発生的にできる見込みのある・・・新たな組み合わせをすべて想像してみよう。神様の役を演じることができて、そのすべての組み合わせを試せたら、細胞を囲う膜となるタンパク質だとか、DNAとなる核酸にとっては必須の糖の分子だとか、生命を構成する部品の大半が得られるだろう。けれども、蚊になったりヒマワリになったり人間の脳になったりする化学反応を起こすことはできない。・・・ヒマワリを構成する原子は、生命誕生以前の地球にあったものとまったく同じだが、その環境から自然発生的にヒマワリを生み出すことはできない。・・・科学者のスチュアート・カウフマンは、この第一段階の組み合わせを『隣接可能性』と呼んだ。・・・前生物化学の場合には、隣接可能性は原初のスープで直接に達成できる分子の反応すべてのことに相当する。ヒマワリや蚊や脳は可能性の範囲外にある。・・・隣接可能性が教えてくれるのは、世界にはいつでもとてつもない変化をする力があるとしても、一定範囲の変化のみが起こりうるということである。[p.38-39]」
・「生命と人間の文化の歴史は、隣接可能性を徐々にでもたゆみなく探ってきた話として語ることができる。新たなイノベーションがあるごとに、探るべき新たな経路が開ける。しかし、その可能性の空間を探るのがうまい組織もあれば、そうでない組織もある。・・・大都市の環境は、小さな町や村よりも、商業的な隣接可能性を探索する余地がはるかに大きく、人口の少ないところでは成り立たないような分野を専門とする商売や企業が成り立つ。[p.42]」
・「知の歴史全体の中でも目立つあるパターンを見ると、隣接可能性の跡をたどることができる。学者は今、それを『多重発生』と呼ぶ。世界のどこかの科学者や発明家に優れたアイデアが浮かび、本人がそれをひっさげて世に出ると、すでに3人の人物が、それぞれ別個に同じアイデアに達していたことがわかる、といったことを言う。[p.43]」「グッドアイデアは、何もないところからひねり出されるのではなく、既存の部品の集合からできるもので、その組み立ては時間を経て拡大する・・・ということだ。[p.44]」「実際には、技術的(科学的)前進が隣接可能性を越えて突出することはめったにない。・・・隣接可能性で言えば何段階かすっとばすようなことが誰かの頭に浮かぶことはある。しかしそうしたアイデアはたいてい、すぐに失敗に終わるものだ。・・・そういうものは『時代が早すぎた』と言われることになる。[p.45-46]」
・「グッドアイデアを生むのはどんな環境だろう。いちばん単純な答え方をすれば、イノベーション度の高い環境のほうが、そこに住み着くものが隣接可能性を探りやすいということになる。そのほうが広い範囲の多様なありあわせの部品――機械的なものでも頭の中のものでも――があらわになって、その部品の組み合わせを変える新たな方法を促すからだ。そうした新しい組み合わせを邪魔したり限定したりする――実験的な試みを罰したり、可能性の枝分かれの一部を隠したり、満足して誰もわざわざ限界を探ろうとしないようにする――環境では、イノベーションが生まれたり流通したりする数は、平均的に言って、探究を促す環境である場合よりも少ないものだ。[p.51]」「グッドアイデアを得るこつは、孤高の高みにおさまって、大きなことを考えようとすることではない。こつはテーブルに並べる部品を増やすところにあるのだ。[p.53]」「こつは、自分のまわりにある可能性のへりを探る方法を考えることだ。[p.51]」

第2章、法則2:液体ネットワークLiquid Networks
・「計算機科学者のクリストファー・ラングトンは、何十年か前に、イノベーション度の高い組織は『カオスの縁』に引き寄せられる傾向があるという見解を述べた。秩序がありすぎる領域と無秩序すぎる領域との間にある豊かな領域のことである・・・。ラングトンはあるところで、このネットワークの状態を、物質の三相――気体、液体、固体――で表わす見立てを使って表している。・・・気体のときはカオスが支配している。新たな組み合わせができるが、それは揮発性の環境のおかげですぐに壊れ、ばらばらになる。固体のときは逆で、パターンは安定しているが、変わることはできない。けれども液体のネットワークは、組織が隣接可能性を探るのには有望な環境を生み出す。分子どうしがでたらめに結びつくことで新しい組み合わせが生じることがありえるが、その新しくできたものがすぐに壊れるほどひどく不安定ということはない。[p.63]」
・1990年代初め、マッギル大学のケヴィン・ダンバーによる研究活動に関する研究:「ダンバーの研究からわかるのは、・・・孤立した『わかった!(ヘウレカ)』の瞬間はめったにないということ・・・大事なアイデアは、十何人もの研究者が集まって、非公式に最新の成果を紹介したり議論したりする通常の研究室での集まりのときに姿を見せた。・・・イノベーションの中心地は・・・会議用のテーブルだった。・・・周囲からの質問を受けて、本人は実験について、いろいろな規模や水準で考えざるをえなくなる。集団でのやりとりは、自分が見つけた意外なことについてその前提に異論をつきつけ、実験誤差だと言って無視することはなかなかできなくなる。・・・研究室で一人で仕事をして顕微鏡を覗いていたのでは、考えが一カ所にひっかかって、最初にあった自分自身の偏見から抜けられない。集団での会話にある社会的な流れが、個人の固体的な状態を液体のネットワークに変える。[p.72-73]」
・「オープンなオフィスで仕事をするというのは、公共の場だけで仕事をするということで、そこには個室だけで仕事をするのと同じだけ欠点がある。[p.74]過度の秩序でもなく、過度のカオスでもないバランスが重要。
・「オフィスは物理的に固定された構造物なので、たいてい、情報の液体ネットワークを断ち切る傾向が内在している。・・・隣接可能性を探るのは、ドアを開けるくらい簡単な場合もあるが、ときには壁を動かさなければならないこともあるのだ。[p.75-77]」

第3章、法則3:ゆっくりとした直感The Slow Hunch
・「直感による瞬時の判断は――とんなに強力になることがあっても――世界を変えるようなアイデアの歴史ではめったにない。重要なイノベーションとなる直感の大半は、もっと長い時間の幅で展開されるものだ。[p.87]」
・「ゆっくりとした直感を生かしておくのには、いろいろなレベルで難関がある。まず、直感を記憶に、つまり頭の中にある神経細胞の濃密なネットワークにとどめなければならない。ゆっくりとした直感はたいてい、役に立つことに変わるほど長続きしない。・・・直感を育てるこつの一部分は単純な話で、書き留めておくことだ。[p.94]」
・「グーグルは・・・全技術者のために、『20パーセント・タイム』方式を立てたことで知られる。会社の公式の業務を4時間するごとに、自分のやる気と本能だけで導かれる自分で考えた仕事を1時間することが、求められたのである(・・・グーグルでは公式には『イノベーション休憩』と呼んでいた)。・・・グーグルの新製品のうち50パーセント以上がイノベーション休憩での直感に発したものだ[p.106-107]」と言われている。

第4章、法則4:セレンディピティSerendipity
・「セレンディピティは、偶然の出会いをその刺激のために取り入れるというだけの話ではない。セレンディピティは、確かに幸福な出会いで築かれるが、それを幸福にしているのは、見つかったことが見つけた人にとって意味があるという事実に他ならない。そのことが直感を保管する、あるいは見逃した隣接可能性へのドアを開くのだ。[p.121]」
・「従来は、イノベーションを強く求める組織は、研究開発部門という、直感が走り回る一種の閉じた運動場を作っていた。・・・そこで育った直感は、組織全体の中でもいちばん厳重に守られる秘密になる傾向があった。・・・ところが、・・・秘匿には大きな代償がある。アイデアがまねされたり競争相手に奪われたりしないように守ろうとすれば、それを改善したり、直感やヒントを本物のイノベーションに変えたりするかもしれない他のアイデアからも遠ざけてしまう。[p.139-140]」「閉じた環境の問題点は、セレンディピティを抑止して、一つの問題に潜在的にかかわれる人の全体としてのネットワークを小さくするところにある。[p.139]」
・「組織的なひらめきのこつは、直感が消えずに広がり、あれこれ組み合わせられるような情報ネットワークを作ることだ。直感をブレインストームや研究開発部門の枠の中に閉じこめるのではなく、背景でいつも、組織全体で、ブレインストームが行われているような環境を作ることである。・・・そのための一法は、直感について、解放的なデータベースを作ることだ。[p.143]」

第5章、法則5:間違いError
・「X線写真、加硫ゴム、プラスチック、どれも生産的な間違いによるもので、その間違いが生産的だったのは、それが発明家の頭の中でゆっくりとした直感につながったことによる。[p.152]」
・「往々にして間違いは、自分がどっぷりひたっている前提から引きずり出す道になることがある。・・・正しければその場にとどめられるが、間違っていると探索に出ざるをえなくなる。・・・間違いで困るのは、ともすればそれを退けてしまいがちなところだ。[p.153-154]」
・「間違いを洞察に変えるのは、研究室会議の重要な機能の一つだった。ダンバーの研究では、別の問題について研究している部外者は、間違いと見えるものを使えないノイズとして捨てる率がずっと低いことも観察された。[p.155]」
・「意図的に間違った情報で汚染した集団は、純粋な情報だけを与えられた集団と比べて、独創的な関連づけをする・・・。イノベーションに関するグッドアイデアは、一定量のノイズや間違いを含んだ環境のほうが生まれやすい[p.158]」
・「イノベーション度が高い環境は、有益な間違いによって栄え、品質管理の要請が過大になると、立ちゆきにくくなる。大企業は、完璧主義的な制度、たとえばシックスシグマとか全社的品質管理とか、会議室や組み立てラインから間違いを除去するための全社的方式に従いたくなるが、ウェブ関連企業の呪文の一つが『さっさと失敗する』だというのも偶然ではない。間違いが目標だというのではない・・・。しかしその間違いは、真のイノベーションに至る道筋では避けられない一歩でもある。[p.165]」

第6章、法則6:外適応Exaptation
・外適応とは「ある生物が、特定の用途に最適化した特徴を発達させて、それがまったく別の機能のために引き継がれることを言う。・・・ある目的のために進化の圧力で生まれた道具に予想外の特性があって、それが別の新たな形で生き残りを助けることになる。[p.171]」
・「暗い部屋を照らすためにつけるマッチには、開けた部屋に薪と炉があれば、まったく別の使い途ができる。ある状況では見るのを助ける道具が、状況が違えば暖まるのを助ける道具になる。これが外適応の要諦だ。[p.174]」
・「都市は、外適応の機が熟した環境である。特化した技能や関心を育て、サブカルチャーから情報が溢れだす液体ネットワークを生み、意外な形で近隣の人々に影響するということだ。・・・異なる職業や情熱が幅広く混じりあって重なる世界では、盛んに外適応が行われる。[p.181]」
・「スタンフォード大学・・・のマーティン・リュエフ・・・の分析によれば、多様で横につながる社会的ネットワークは、単調で縦のネットワークと比べてイノベーション度が3倍もあった。共通の価値観や長期的ななじみでつながった集団では、協調性や慣例が創造性のあるひらめきの可能性を下げる傾向があった。・・・イノベーション度の高い思考は、緊密な集団どうしの間にある『構造的な穴』に橋を架ける個人から生まれる傾向が高いことがわかっている。[p.185-187]」

第7章、法則7:プラットフォームPlatforms
・「ツイッターの創始者は、完全な公開によって・・・競争的利益が得られることを認識した。自分のプラットフォームの上に立てられるソフトウェア群という、大きくて多様な生態系が得られるという利益だ。それを協調による利益と呼ぼう。・・・誰でも利用できるプラットフォームであれば、グッドアイデアはどこからでも出てくるものだ。[p.216-217]」
・「創発的プラットフォームは、創造のコストを大幅に下げることができる。[p.220]」
・「創発的プラットフォームは、その創造性の多くを、既存の資源を創意工夫で経済的に再利用することから引き出している。・・・新しい建物の固定費用の高い経済状況で、・・・運を天に任せる試行と錯誤と実験のための余裕はない。新しいアイデアは古い建物を使うしかない。プラットフォームは建設というよりもリサイクルをする。[p.222-224]」

終章、第四区画
・イノベーションを、小さなチームまたは個人によってなされるか(個別)、集団(ネットワーク)によってなされるかという分類軸と、利益を得ようとする(市場)か、アイデアを自由に流通させようとするか(非市場)という分類軸で4種類に分類し、時代による変遷を検討。
・西暦1400年~1600年のイノベーションでは、「非市場/個別」が主だったのが、ルネサンス期、19~20世紀と、「非市場/ネットワーク」(本書の分類による「第四区画」が増えてきている。
・「『第四区画』は、イノベーションのために存在する方式が一つではないことを知らせているのだと言うべきだろう。現代生活の驚異は、私企業どうしの一番乗り争いだけから生じるものではない。開けたネットワークからも生じるのだ。[p.262]」
・「この5世紀を遠くからみれば、すぐに一つの事実が目に入る。市場に基づく競争をしたからといって、イノベーションの独占はまったく得られないということだ。競争と利益という原動力は、確かにグッドアイデアを市場に出す製品にするべく私たちを動かすが、往々にして、アイデアそのものは別のところから出ている。方針はどうあれ、第四区画は人間の創造性と洞察というたぐいまれな空間となっている。人為的な稀少性による経済的報酬がなくてさえ、第四区画の環境は、グッドアイデアを育て流通させるうえで、とてつもなく重要な役割をしてきた――今はますますそうなっている。[p.265]」
・「私の認識では、情報や経済組織がどんなマクロな形態をしていれば広い社会で優勢になるのか、直接に言うことは、まずできない。・・・けれどもロングズームで見る美しさは、パターンが別の規模でも生じているところにある。・・・散歩に出る、直感を育てる、何でも書き留める、けれどもフォルダは雑にしておく、セレンディピティを受け入れる、生産的な間違いをする、複数の趣味をもつ、コーヒーハウスなどの液体ネットワークに足しげく顔を出す、リンクをたどる、自分のアイデアの上に他の人が立つのを認める、借用し、リサイクルし、作り直す。そうやってごちゃごちゃした土手を築くのである。[p.273]」
―――

著者の指摘は、科学の発見、発明の歴史とともに進化や生態系のメカニズムにも基づいている点で、特に科学者や技術者にとって説得力のある考え方だと思います。画一的なイノベーション成功の法則や必ず成功をもたらすイノベーション環境のありかたというようなものは、本来おそらく求めても得られないものでしょう。ただ、多くのイノベーションを俯瞰してみれば、成功例が多い方法や環境、なぜ成功をもたらすのかが論理的に理解できる環境要因というものはある程度明確に見えてきても不思議はないと思います。研究開発をうまく進めるためには、著者の言うようなイノベーションに適した環境の原則を大切にして、マネジメントの各論を考えていくことが必要なのではないかと思います。


文献1:Steven Johnson, 2010、スティーブン・ジョンソン著、松浦俊輔訳、「イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則」、日経BP社、2013.
原著表題:”Where Good Ideas Come From: The Natural History of Innovation”



「101デザインメソッド」(クーマー著)より

イノベーションを成功させるための方法は様々に提案されていますが、どんな場面でどの手法を使うべきかを具体的に解説した資料というものはあまりなかったと思います。クーマー著「101デザインメソッド」[文献1]では、イノベーションをうまく進めるための個別の手法が数多く取り上げられて解説されており、参考になる点も多いと思いましたので今回その内容を紹介させていただきたいと思います。

まず、著者がイノベーションをどうとらえているかを整理します。
イノベーション:「特定の時とコンテクストにおいて新しい、実現可能なものを提供して、ユーザーや企業に価値を生み出すこと[p.6
体系的なイノベーションの実現を妨げる「4つの思い込み」p.7-8
1、イノベーションは、いまの取り組みで十分だ:「製品・サービスの漸進的な改善ではなく、大きな飛躍や破壊的イノベーションを求めるなら、従来の取り組みやツールは通用しない。」
2、イノベーションは経営層がやることだ:「経営層・・・はイノベーションへの重要な足がかりとして、一般的な理論、戦略、市場アプローチに飛びつくが、それではうまくいかない。・・・実行するのは『現場の』マネジャーやデザイナー、マーケター、リサーチャー、エンジニアたちであり、チームで実行方法を生み出さなくてはならないのだ。・・・どのような道筋をたどり、どのような段階、活動、スキルが必要なのか。イノベーションは『何を実行するか』だけでなく『どう実行するか』というレベルでも習得しなければならない。」
3、イノベーションは現場の担当者がやることだ:「イノベーションは担当者だけで取り組むものではない。経営層と協力しながら、イノベーションの戦術をより大きな戦略にまとめ上げる必要がある。」
4、イノベーションは計画するものではない:「測定可能で科学的なイノベーションのアプローチは存在し、体系的なプロセスで進められる。・・・イノベーションが得意になるかどうかは組織の選択にかかっている。この本では、その取り組み方について紹介していく。」
イノベーションを成功に導く4つのコア原則p.9-13
1、経験の周辺でイノベーションを構築する:「大半の組織のイノベーションは、・・・『何を提供するか』を起点に、既存製品の購入理由や使い方を理解しようとする。・・・経験重視のイノベーションで強調されるのは、製品ではなく、ユーザーだ。人々が使うモノではなく、人々が行うこと――振る舞い、活動、ニーズ、モチベーションへと視点を移すのだ。」
2、イノベーションをシステムとして捉える:「何を提供するにせよ、それらは、製品ラインやサービス体系、組織、市場というより大きなシステムに属している。・・・製品・サービスをシステムに関連づけて捉えれば、システム・レベルでの意味合いだけでなく、これまで思いつかなかった新しいイノベーションの機会が見つかるのだ。」
3、イノベーションの文化を醸成する:「アップルのような企業には、デザイン・イノベーション戦略を追求しやすい組織的、文化的な優位性が多く備わっているのだ。・・・イノベーションの取り組みは協働プロセスであり、様々な分野の能力を持った人々が力を合わせて、包括的な価値あるプロセスにしていかなくてはならない。・・・そのステップの1つが、多様な専門知識を持った人々を集めて活発なワーキング・セッションやブレーンストーミングを頻繁に行うことだ。」
4、規律のとれたイノベーション・プロセスを用いる:「しっかりとしたプロセスや反復可能なメソッドでイノベーションを生み出すことは可能だ。それには高度な規律が必要だが、ちゃんと整備すれば、イノベーションは計画できるし、計画すべきものだと認識することが、最初の重要なステップとなる。・・・協力しながら、信頼できる形で、繰り返しデザイン・イノベーションを実践するには、効果的かつその組織に合ったデザインメソッドを理解しなくてはならない。」
デザイン・イノベーションのプロセス・モデル
・「プロセスという考え方は一連の出来事が線形に進んでいくことを意味するが、・・・実際には、非線形的に進むプロジェクトが多いのだ。・・・デザイン・イノベーションのプロセスは反復的でもある。[p.16]」
・デザイン・イノベーションの7つのモード[p.17-21
1、目的を見出す:最新情報を集め、広い視野でテーマ領域での変化を捉え、関連するトレンドを概観し、価値の高いイノベーションが生み出せそうな機会を探し、仮説を立てる。
2、コンテクストを知る:「そのイノベーションを通じて提供するもの・・・が存在する/存在しそうな環境に影響を及ぼす『状況や出来事』を調べていく。」
3、人々を知る:「このモードの目的は、人々・・・を理解し、日常生活におけるあらゆる相互作用を理解することだ。・・・主な目的は、人々の実際の振る舞いを観察しながら、最も価値あるインサイト、つまり、興味深い発見や学習を引き出すことだ。」
4、インサイトをまとめる:「モード1~3でわかったことの体系化」。
5、コンセプトを探求する:「機会を特定し、新しいコンセプトを探求する。・・・大まかなプロトタイプを作って、チームで議論したり、ユーザーや顧客からフィードバックをもらったりする。」
6、解決策を練る:「多数のコンセプトを組み合わせてシステム化し、『解決策』を作る。・・・解決策の説明を、チーム、ユーザー、顧客が直観的に『こんな感じだろう』とわかるような表現に調整する。」
7、製品・サービスを実現する:「解決策の候補を策定し、プロトタイプをテストしたら、実行に移すために評価する必要がある。」
・本書では「7つのモードを章立てとして、各モードの重要な活動と、プロセスを進めるうえで役立つ、シンプルかつ強力で、柔軟性の高い101のデザインメソッドを紹介する。[p.21]」

mode
1、目的を見出す
・「世の中はどこに向かっているのか。どの分野、産業、市場でイノベーションを目指すのか。変化する人々の生活パターンのどの部分にそのイノベーションはフィットするのか。・・・技術、ビジネス、文化、人々、市場、経済に変化をもたらすトレンドを調べ、組織内外の状況を速やかに診断し、課題を設定する。[p.23]」
・「現場で人々やコンテクストを観察して得られたインサイトは、漸進的なイノベーションの宝庫となる。一方、破壊的イノベーションは、概観するマインドセット、つまり、全体像を見る力から生まれることが多い[p.25]」「シックスシグマの実践は確立されたプロセスにおいては意味があるが、世界初のビジネスを狙うにはふさわしいマインドセットではないかもしれない。・・・常識に挑むには、それがどういうものかを理解し、未来の可能性にあわせて再構成しなくてはならない。広く行われている慣例を疑うだけでなく、イノベーション課題を疑ってみることも重要だ。[p.26]」「直感に従ってビジネスを行う企業も多いが、実は的外れで、不要な支出や欠陥品につながることもある。最良の推測に基づいた目的よりも、コンテクストを踏まえた事実に基づく目的の方が信頼性は高まる。直感を先行させてもよいが、後でそれを支える根拠を固めて、達成目標に合理性や論理性を持たせることを忘れてはならない。[p.27]」
デザインメソッド:バズ・レポート(口コミ調査)、メディア・スキャン(一般メディア情報調査)、キーファクト(裏づけ情報)、イノベーション・ソースブック(イノベーション事例のベストプラクティスを体系化)、トレンド・ウォッチャー・インタビュー(専門家から学ぶ)、キーワード・ビブリオメトリクス(文献調査)、10タイプのイノベーション・フレームワーク(業界のイノベーションを、ファイナンス、プロセス、製品・サービス、デリバリーの観点から調査)、イノベーション・ランドスケープ(業界のイノベーション傾向と変化を図解)、トレンド・マトリクス(未来の方向性を示唆する変化を整理)、コンバージェンス・マップ(収斂、集中が起きている部分を図示し機会を見つける)、From-To調査(慣例がどのように再構成されるかを考える)、オポチュニティ・マップ(2軸マップで機会を探る)、製品・サービス、活動、文化マップ(製品・サービス、活動、文化に着目して機会を探る)、インテント・ステートメント(機会をよく知り当初の目的(インテント)にまとめる)

mode
2、コンテクストを知る
・モード2ではトレンドや変化が起こる状況、つまりコンテクストについて理解を深める。歴史的背景を知り、イノベーションの最前線の構造を生み出す力学や条件を探り、ステークホルダーを含むコンテクストの全体像を理解する。[p.59-63
デザインメソッド:調査計画を立てる、一般メディア検索、文献調査、年代表(コンテクストを時代に分けて整理)、イノベーション進化表(業界イノベーションの経時変化をまとめる)、財務プロファイル(組織や業界の財務実績を調べる)、類似モデル調査(似たようなコンテクストを調査)、競合他社・補完業者調査、10タイプのイノベーション診断(ファイナンス、プロセス、製品・サービス、デリバリーの観点から業界のポートフォリオを図示)、業界診断(ポーターの5Fで新規参入、代替品、買い手、売り手、競争関係を調査)、SWOT分析(業界の強み、弱み、機会、脅威を評価)、専門家インタビュー、利益団体とのディスカッション

mode
3、人々を知る
・「『人々を知る』とは、傾聴、観察、交流、分析を通じて、人々の考え、感情、ニーズを共感を持って理解することだ。[p.94]」
デザインメソッド:プロジェクトの目的にふさわしい調査対象者を選ぶ、予備調査(短いアンケート)、調査計画を立てる、5つのヒューマンファクター(物理的、認知的(意味づけ)、社会的、文化的、感情的)を調べる、POEMSPeople, Objects, Environments, Messages, Services)のフレームワークで調査、フィールドビジット(現場での観察と質問)、ビデオ・エスノグラフィー、エスノグラフィー・インタビュー、ユーザー・フォト・インタビュー(参加者に写真を取ってもらう)、文化的アーティファクト(人工物(アーティファクト)を使って反応を調査)、イメージ・ソーティング(対象者に象徴的イメージを分類してもらう)、体験シミュレーション(疑似体験を通じた観察)、フィールド活動(実際の様子を観察)、リモート調査(オンラインでユーザーのセルフ・ドキュメンテーションを調査)、ユーザー観察データベースにまとめる

mode
4、インサイトをまとめる
・みつけた実際の情報から、抽象化してインサイトを発掘する。[p.134
・「イノベーションの課題の複雑さに迫る・・・には自分なりのシステムの観点を生み出さなくてはならない。・・・システムとは、人々、製品・サービス、組織、市場などの対象物が集まったものだ。[p.135]」「重要なのは、データ内の関連するパターンを理解し、アイディエーション(アイデアの発想・創造)に主眼を置いた一般原則を明らかにすることだ。[p.136]」「インサイトや観察内容から意味のある集合を取り出し、イノベーションの取り組みを推進する指針へと転換させるのだ。[p.139]」
デザインメソッド:観察データ分析(「なぜか」と問い、解釈から学ぶ)、インサイト・ソーティング(分類)、ユーザー観察のデータベースを検索、ユーザー回答の分析(表に整理)、ERAFシステム図(対象物EntitiesRelations、属性AttributesFlowsを図解する)、記述的バリュー・ウェブ(ネットワーク図で価値交換を図示)、ポジション・マップ(2軸マップでグループパターンを分析)、ベン図(重複の分析)、樹形図・半束図(階層関係の分析)、対象クラスター表(類似性などを表に整理してグループ分けする)、非対象クラスター表(2セットの相互関係からグループ分けする)、活動ネットワーク(ステークホルダーの活動の相互関係を図示)、インサイト・クラスター表(インサイトの分類)、意味論的プロファイル(複数の尺度で人々の態度パターンを比較)、ユーザー・グループ定義、経験魅力度評価マップ(ユーザー経験を誘引、参加、関与、退出、延長という段階で評価)、ユーザー・ジャーニー・マップ(ユーザーの一連の経験を要素に分解して図示)、概要フレームワーク(主要なインサイトをまとめる)、デザイン原則の策定(インサイトを立証するためにどのような行動を取るべきかをデザイン原則にまとめる)、分析ワークショップ(コンテクストの共通理解を図り、コンセプト作りに役立つ分析的フレームワークを構築する)

mode
5、コンセプトを探求する
・調査から探索へ。「新たなコンセプトを探求することは本質的に、ブレーンストーミング、スケッチ、プロトタイピング、ストーリーテリングを通して『未来を描く』ことになる。[p.197]」
・「イノベーション・チームはこのモードに入ったとたん、直感に従ってアイデア出しを始めようとするものだ。ここで見落としやすいのが、プロジェクトに何らかの形で害を及ぼす、組織や業界の隠れた前提や通説を明らかにすることだ。[p.199]「次のキャリア計画を立てるときに、『いま何が得意か。次に何ができるか』と自問することが多い。だが往々にして『10年後どこにいるか。そこに行くにはどうすればいいか』と問いかけたほうがうまくいく。[p.200]」「未来の立場で急進的なアイデアを探すときでさえ、通常のドメイン(領域)の隣接部分や外部にあるアイデアを探すことを忘れてはいけない。こうした周辺部にこそ。・・・機会が潜んでいる。[p.200]」「特に、部門横断型チームのブレーンストーミングでは、各部門の偏見や好みが成果物に強く反映されることもある。・・・この種の『お気に入り』のコンセプトは得てして一部のステークホルダー(発案者)にしか価値がない。[p.201]」「頭の中にどれほど素晴らしいアイデアがあったとしても、最終プレゼンテーションや報告書などの最終局面で伝えるだけでは意味がない。イノベーション・プロセスのあらゆる段階で効果的に伝えて、初めてそのアイデアは役立つのだ。[p.201]」
デザインメソッド:定義したデザイン原則に基づいた機会発見、機会のマインドマップ、価値仮説(ユーザーとプロバイダーにもたらす価値を明らかにする)、ペルソナの定義(ユーザー像(ペルソナ)を定義する)、アイディエーション・セッション(コンセプト開発のためのセッション)、コンセプト作成表(2つの要因の交差する部分についてコンセプトを考える)、比喩と類推(知っているものにたとえてコンセプトを編み出す)、ロールプレイ・アイディエーション(他者の視点から考える)、アイディエーション・ゲーム(ゲーム性のある活動からコンセプトを考えだす)、パペット・シナリオ(人形を使って将来起こりそうなシナリオを考える)、行動プロトタイプ(ユーザー活動のシミュレーション)、コンセプト・プロトタイプ(具体物での体験)、コンセプト・スケッチ(絵で表現)、コンセプト・シナリオ(ストーリーで表現)、コンセプト・ソーティング(関連するグループに整理)、コンセプト・グルーピング表(表でグループ分け)、コンセプト・カタログ(情報を1ヶ所にまとめて整理)

mode
6、解決策を練る
・「両立可能な重要コンセプトを組み合わせ、実行可能で体系的な解決策の策定に挑む[p.247]」。選択肢やメリット、デメリットも考慮する。
デザインメソッド:形態学的統合(ユーザー中心のカテゴリーでコンセプトを整理し組み合わせる)、コンセプト評価(ステークホルダーの価値観から評価)、規範的バリュー・ウェブ(ステークホルダー間の価値フローを図示)、コンセプト・リンクマップ(補完的アイデアの組み合わせ)、未来シナリオ(起こりうる未来の状況を見通して考える)、解決策ダイアグラム(解決策をビジュアルに表現)、解決策ストーリーボード(仕組みを説明するストーリーを作成)、解決策ロールプレイ、解決策プロトタイプ(解決策にまつわる経験のシミュレーション)、解決策評価、解決策ロードマップ(解決策の実行方法を計画する)、解決策データベース(すべてのアイデアを記録)、統合ワークショップ(システムとしての解決策を考え出す)

mode
7、製品・サービスを実現する
・「現実世界で形にし、成功させる方法を探る・・・プロトタイプを作り、・・・検証する。初期の失敗はプロセスや反復の一部であり、素晴らしい解決策にたどりつくための基礎として捉える。[p.283]」
・「解決策を考え、戦略を策定し、計画を立てたなら、その取り組みに対してコンセンサスと支援を取りつける必要がある。それには、全ステークホルダーと共有でき、活動を導き、組織全体の力を結集させるようなビジョンを策定しなくてはならない。行動へと移る方法と言えば、効果的なコミュニケーションに尽きる。そのために求められるのは、ステークホルダーの価値観や考え方を理解しようとする共感的な心構えだ。[p.287]」
デザインメソッド:戦略ロードマップ(短期、中期、長期の戦略計画)、プラットフォーム計画(解決策をプラットフォームとして組み立てる)、戦略計画ワークショップ(当事者意識を持たせる効果もある)、パイロット開発とテスト(市場テストからの学習)、実行計画(市場、オペレーション、マネジメント、ファイナンスの課題を検討すること)、能力開発計画(イノベーションの取り組みに必要な能力と確保の方法を整理)、チーム編成計画、ビジョン・ステートメント(製品・サービスの全体的イメージを伝える)、イノベーションの要約(全ステークホルダーに理解させる)
―――

著者は「イノベーションには、他の業務よりもはるかに幅広く物事を理解することが求められる[p.8]」と言っています。漸進的イノベーションならいざしらず、大きな変化をもたらすイノベーションに関しては、この指摘に合意する実務家の方も多いのではないでしょうか。そうした様々な物事を考慮してイノベーションを進めていくための手法として、本書はひとつの手引きとなると思います。たくさんのことを考慮しなければならないとしたら、何に注目し、どのような整理をしたらインサイトやアイデアが得やすくなるか、ということにはやはりノウハウがあると思います。少なくとも本書のメソッドは、どんなプロジェクトに対してもチェックリストのような使い方ができるように思います。

本書のもうひとつの特徴は「協働」によるイノベーションを強く意識しているところだと思います。具体的手法の解説に、「ディスカッション」や「情報共有」がよく出てくるところからもそれが窺えますが、確かに、「協働」をうまく進めるための手法は従来あまり意識されていなかったと思います。本書の手法にはそうした価値もあるのではないでしょうか。もちろん、これらすべてを用いる必要もないはずですし、本書でとりあげていない注意点もあると思いますが(例えば、実行段階でのGO/STOP判断や方針変更についてはあまり述べられていません)、このような具体的手法の価値はこれからますます高まっていくように思います。


文献1:Vijay Kumar, 2013、ヴィジェイ・クーマー著、渡部典子訳、「101デザインメソッド 革新的な製品・サービスを生む『アイデアの道具箱』」、英治出版、2015.
原著表題:”101 Design Methods: A Structured Approach for Driving Innovation in Your Organization”


研究マネジメント・トピックス目次(2016.2.14版)

このブログの「研究マネジメント・トピックス」というカテゴリで書いた研究マネジメントに関する話題についての記事の目次です。ここでは表題とリンクをリストにし、要約入りの目次は「その1」「その2」に分割して別ページにしています。それぞれリンクの接続確認を行なっています。
要約入り目次はこちら:その1その2

その1
研究・イノベーション総論についてのトピックス
「イノベーションの神話」(Scott Berkun著)のまとめと感想2011.2.20)、参考リンク
Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2011年)
2011.11.27)、参考リンク
Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2013年)2013.11.17)、参考リンクは上に同じ
Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2015年)
2015.11.29)、参考リンクは上に同じ
「イノベーションとは何か」(池田信夫著)より
2012.7.22)、参考リンク
「知識創造経営のプリンシプル」(野中郁次郎、紺野登著)より2012.12.24)、参考リンク
「ビジョナリーカンパニー4」(コリンズ、ハンセン著)より
2013.1.20)、参考リンク
「世界の経営学者はいま何を考えているのか」(入山章栄著)より2013.10.20)、参考リンク
「技術を武器にする経営」(伊丹敬之、宮永博史著)より
2015.1.18)、参考リンク
「資本家のジレンマ」(クリステンセン、ビーバー著)より
2015.2.15)、参考リンク
Thinkers50「イノベーション」より
2015.6.7)、参考リンク

研究・イノベーションの方針、着想、スタート段階についてのトピックス
破壊的イノベーションの現在(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー2013年6月号より)2013.8.4)、参考リンク
破壊的イノベーションとは何か?(「What Is Disruptive Innovation?」(Christensen他著HBR2015Dec.)より2016.1.31)、参考リンクは上にまとめました
「日本のイノベーションのジレンマ」(玉田俊平太著)より2016.1.11)、参考リンク
リバース・イノベーション(DHBR2010年論文より)
2010.10.17)、参考リンク
「リバース・イノベーション」(ゴビンダラジャン、トリンブル著)より
2012.11.25)、参考リンクは上記と同じ
「[実践]リバース・イノベーション」(ウィンター、ゴビンダラジャン著、DHBR2015年12月号)に学ぶ2015.12.27)、参考リンクは上記と同じ
オープン・イノベーションは使えるか?2011.1.10)、参考リンク
エスノグラフィーとイノベーション
2010.12.19)、参考リンク
「東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた」
2010.11.28)、参考リンク
「ホワイトスペース戦略」-ビジネスモデルイノベーションの方
2012.1.9)、参考リンク
イノベーションをビジネスへ(マリンズ、コミサー著「プランB」より)
2012.6.17)、参考リンク
複雑系経営(?)の効果
2012.5.6)、参考リンク
ビジネスモデル・ジェネレーション(オスターワルダー、ピニュール著)より
2013.3.17)、参考リンク
戦略策定の科学的アプローチ
2013.6.30)、参考リ
「P&G式『勝つために戦う』戦略」(ラフリー、マーティン著)より
2014.3.2)、参考リンク(すぐ上記事と同じ)
ジュガードイノベーション(ラジュ、プラブ、アフージャ著「イノベーションは新興国に学べ!」より)
2014.5.11)、参考リンク
リ・インベンションとは(「リ・インベンション」三品和広+三品ゼミ著より)
2014.7.13)、参考リンク
「行動観察×ビッグデータ」(ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー2014年8月号特集)より
2014.9.21)、参考リンク
「イノベーション戦略の論理」(原田勉著)より
2015.3.15)、参考リンク
「ザ・ファーストマイル」(アンソニー著)より
2015.4.12)、参考リンク
「バリュー・プロポジション・デザイン」(オスターワルダー、ピニュール他著)より
2015.7.26)、参考リンク
イノベーションのスタート段階とアイデア(ウルフェン著「スタート・イノベーション!」より)
2015.12.13)、参考リンク


その2
研究・イノベーションの進め方に関するトピックス
「流れを経営する」を読む2012.3.25)、参考リンク
「イノベーションの知恵」(野中郁次郎、勝見明著)感想
2011.3.21)、参考リンク
アジャイル、スクラム、研究開発
2012.5.27)、参考リンク
「技術経営の常識のウソ」感想
2011.4.17)、参考リンク
祝ノーベル賞:『発見の条件』by根岸英一教授
2010.10.11)、参考リンク
P&Gのすごさ-ニュー・グロース・ファクトリー
2011.11.20参考リンク
知的な失敗2012.2.26)、参考リンク
「エスケープ・ベロシティ」(ジェフリー・ムーア著)感想
2012.8.19)、参考リンク
「製品開発をめぐる6つの誤解」(トムク、ライナーセンの論文より)
2012.10.14)、参考リンク
「イノベーション5つの原則」(カールソン、ウィルモット著)より2012.11.4参考リンク
「イノベーションを実行する」(ゴビンダラジャン、トリンブル著)より2013.9.8)、参考リンク
「はじめる戦略」(ゴビンダラジャン、トリンブル著)に学ぶイノベーションの進め方
2014.12.21)、参考リンク
「ワイドレンズ」(アドナー著)にみる協働の方法
2014.1.19)、参考リンク
「社会技術論」(堀井秀之著)より
2013.2.17)、参考リンク
「技術経営の実践的研究」(丹羽清編)より
2013.4.29)、参考リンク
「ビジネスモデルイノベーション」(野中郁次郎、徳岡晃一郎編著)より
2013.5.26)、参考リンク
スタートアップ企業と既存企業におけるイノベーションの方法(ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー2013年8月号特集「起業に学ぶ」より
)(2013.12.15)、参考リンク
「リーン・スタートアップ」(リース著)より
2014.4.6)、参考リンク
模倣の意義(シェンカー著「コピーキャット」より)
2014.6.8)、参考リンク
「DARPAの全貌(DHBR2014年7月号より)」に学ぶ革新的なイノベーションの進め方
2014.8.17)、参考リンク
小さなイノベーション(DHBR誌2015年6月号特集より)
2015.8.23)、参考リンク
イノベーションの方法(ファー、ダイアー著、「成功するイノベーションは何が違うのか?」より)
2015.9.23)、参考リンク
「イノベーションは日々の仕事のなかに」(ミラー、ウェデルスボルグ著)より
2015.10.18)、参考リンク
ビジネスモデル改善のポイント(ジロトラ、ネテッシン著「ビジネスモデル・イノベーションに天才はいらない」DHBR誌2015年7月号より)
2015.11.15)、参考リンク

研究・イノベーションの環境(仕組み、組織、人)に関わるトピックス
働きがいのある会社とは(Fortune誌「最も働きがいのある米国企業2011」No.1、SASの考え方)2011.1.30)、参考リンク
イノベーションに必要な人材-「イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材」
2010.11.7)、参考リンク
ナットアイランド症候群:自律的な組織を失敗に導く組織病
2010.9.26)、参考リンク
コア・リジディティ
2010.9.5)、参考リンク
リーダーがつまずく原因
2010.7.19)、参考リンク
イノベーターのDNA
2011.5.15)、参考リンク
イノベーションのDNA
2012.4.15)、参考リンクは上記と同じ
技術者が問題社員になるとき2011.7.24)、参考リンク
モチベーション再考
2011.8.28)、参考リンク
ポジティブ心理学の可能性
2011.9.25)、参考リンク
事業創造人材とは
2011.10.16)、参考リンク
フロネシス(賢慮)と研究開発
2012.1.29)、参考リンク
橋渡し役の重要性
2012.9.17参考リンク
イノベーションに関わる人々(「イノベーターはどこにいる?」豊田義博著より)2014.11.3)、参考リンク
「シリアル・イノベーター」(グリフィン、プライス、ボジャック著)を活かす
2014.1130)、参考リンク
創造力に対する自信(トム&デイヴィッド・ケリー著「クリエイティブマインドセット」より)
2015.5.10)、参考リンク
「世界で最もイノベーティブな組織の作り方」(山口周著)より
2015.6.28)、参考リンク


イノベーション・ファシリテーターの手法に学ぶ(野村恭彦著「イノベーション・ファシリテーター」より)

イノベーションの実現には協力が有効であるということが最近よく言われるようになりました。確かに、イノベーション課題の認識、アイデア出し、実行段階などの段階で、多くの人の知恵と活動をうまく使うことができればイノベーションの成功確率が高まるだろうことは疑う余地のないことのように思います。しかし、実際には協力の実現には様々な困難があると指摘する人もいますし、経験的にも、協力から期待したような成果が得られないことはままあるように思います。そうした困難さの原因のひとつとして、どういう場合に協力が必要とされ、協力をうまく進めるためにはどうしたらよいのか、といった方法論が未確立であることが挙げられるのではないかと思いますがいかがでしょうか。

野村恭彦著、「イノベーション・ファシリテーター」[文献1]では、協働してイノベーションを起こすための方法論が示されています。著者は、「1人では解決が難しかった社会的な課題に、対話の手法を通じて誰もが取り組める世の中にすることが、わたしたちの使命です[p.17]」と述べ、社会的な課題に焦点を当て、協働の具体的な手法を提案していますが、その方法論は社会的課題のみならず、様々な課題への適用の可能性も示唆しているように思います。今回は、その内容のポイントを本書の構成に沿ってまとめたいと思います。

第1部、イノベーション・ファシリテーターの思想
第1章、フューチャーセッションを開く前に

・「『ファシリテーション』は、“人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵取りすること”であると、日本ファシリテーション協会が定義しています。[p.24]」「一般的に、『ファシリテーター』といえば、会議の進行役のイメージを持つ人が多いと思います。・・・一方、『イノベーション・ファシリテーター』は会議の進行役としてのファシリテーターとは異なるスタンスを持っています。[p.25]」
・「『イノベーション・ファシリテーター』とは、“新しいアイデアやプロダクトを新しい方法で世の中に提供して、社会に変革を起こそうとする人々を支援し、うまくことが運ぶよう舵取りする人[p.24]」。「イノベーション・ファシリテーターの目的は、会議で合意形成をつくることではありません。達成したい社会的な課題に対して、”課題の当事者およびその関係者“=”ステークホルダー“たちの関係に変容を生み出していくことが目的なのです。[p.25]」
・フューチャーセッションとは:「未来に向けた問いかけがあり、それに呼応して集まった多様な参加者が、対話を通じて相互理解と信頼関係を築き、新たな関係性と新たなアイデアを同時に生み出し、協調してアクションを起こしていく場。・・・フューチャーセッションは社会的な課題の達成のために開かれますが、そのはじまりにはいつも、社会問題に直面している当事者の想いがあります。・・・互いに異なる背景を持ったステークホルダーが対話を深めていくと、ステークホルダー同士に関係の変容が起こります。社会的な課題の解決に向けて、それぞれがどのように取り組んでいるかを理解し、協働する方法を模索しはじめるのです。フューチャーセッションの興味深い点は、イノベーション・ファシリテーターが上手に場の流れを進めるところではありません。当事者の想いに引き寄せられたステークホルダーたちが、互いの違いを理解し合いながら、目的の達成に向けて、その関係を変容させていくところにあります。・・・お互いの立場の違いから生まれた葛藤を乗り越え、ステークホルダーの関係に変容が起きると、それまで気がつかなかった新しい視点からのアイデアやプロジェクトが生まれ、協働関係が育まれます。それがイノベーションの引き金になるのです。[p.26-30]」
・「フューチャーセッションは、常に社会的な課題に直面する当事者の想いからはじまります。・・・当事者に出会ったイノベーション・ファシリテーターは、最初に当事者の想いに耳を傾けて、その想いの本質を引き出します。社会的な課題に対して、当事者がどのような想いを抱いていて、どうしてそのように感じるようになったのか、どんな社会になることを望んでいるのかなど、納得がいくまで当事者の想いを深堀りします。[p.30]」
・「単に、『自社の製品が売れて会社が儲かればいい』という想いなら、多くの人の共感を得ることはできません。・・・人々の共感を呼ぶことのできる価値観は、シェアードバリューと呼ばれています。[p.32]」
・「フューチャーセッションは、社会的な課題の解決を目指す活動です。自分ひとりでは、その社会的な課題を前にどうすることもできないから、ステークホルダーを集めて、フューチャーセッションを開くのです。つまり、次のような場合は、あえてフューチャーセッションを開く必要はありません。・課題に対する答えがすでに見つかっているとき、・課題に対する有効な取り組みがすでにあるとき[p.34]」
・「フューチャーセッションは、社会的な課題の達成に向けて、何度も重ねる探究のプロセスです。・・・社会的な課題は、そう簡単に解決できません。[p.36]」

第2章、問いを立てる
・「イノベーション・ファシリテーターは、当事者から本質的な想いを引き出します。そして引き出された本質的な想いを問いに変換するのです。・・・それは、想いをそのまま投げかけても、その当事者と同じ属性の人にしか届かないからです。・・・同一属性にあるステークホルダーが対話をすると、境遇が似ているだけに気持の共有はできるかもしれませんが、イノベーションは起こりにくいのです。想いを問いに変換すると、同じ属性のステークホルダーしか集まらないリスクを回避することができるようになるのです。[p.38]」
・「当事者の想いを傾聴し、想いの奥にある本質にたどり着いたら、問題解決に必要なステークホルダーを集めるステップに入ります。まずは、ステークホルダーの中から、コアメンバーの目星をつけて、その人たちのための小さなセッションを開きます。そのセッションで、コアメンバーになってもらいたい人たちの想いを引き出すのです。その後、企画と運営に加わってもらうとよいでしょう。・・・コアメンバーが話し合うことによって、問いは何度も磨かれていきます。[p.52-54]」
・「イノベーション・ファシリテーターが、自身の想いから、フューチャーセッションを開くことをわたしはあまりおすすめしていません。その理由は、イノベーション・ファシリテーターが想いを持った当事者である場合、想いが強すぎて、フューチャーセッションに対して冷静な立場を守りにくくなってしまうためです。・・・イノベーション・ファシリテーターの中立的な立ち位置は、そのセッションの参加者の多様性を担保するうえできわめて重要です。・・・自分自身の強い想いからフューチャーセッションを開いてしまうと、周囲に傲慢な印象を与えかねません。[p.54-55]」
・「気をつけたいのは、問いにはテーマを引き寄せる問いと、引き剥がす問いがあるということです。・・・引き寄せなくてはならないテーマとは、エネルギーの問題やグローバルな課題など、いままであまり自分ゴトとして考えたことがないものです。・・・身近な問題に焦点を当てるのです。・・・一方、あまりにも身近になりすぎているテーマの場合は、逆に自分ゴトから引き剥がす問いが必要です。・・・引き剥がす問いを用意して、発想の枠を取り外す必要があります。[p.56-57]」
・「企業に勤める人が、自社のためにフューチャーセッションを開こうとしても、なかなかうまくいきません。
・・・『フューチャーセッションという新しい手法を取り入れて会社にイノベーションを起こしましょう』という提案は、・・・『いままでのやり方を変えませんか』・・・と言っているようなものなのです。いままでのやり方でやってきた上司としては、気持ちよく受け入れられないのは当然です。[p.58]」「フューチャーセッションは特にどのような経営課題に向いているのでしょうか。それは、『新規商品・サービスの開発』と『次世代リーダーの育成』です。・・・企業がフューチャーセッションを開く場合は、ビジネスの根底にある企業の想いについて、きちんと掘り下げて問いをつくる必要があります。その企業が持つビジョンに注目して、誰もが共感できるパブリックな問いをつくり上げていく必要があるのです。[p.60-61]」

第3章、ゴールを見つめる
・「イノベーション・ファシリテーターであるみなさんには、ぜひ3段階ほどのゴールイメージを持っていただきたいのです。・・・最初のゴールはコアメンバーを集めることです。・・・2つ目のゴールは、大勢のステークホルダーを招いておこなうフューチャーセッションの開催です。・・・ステークホルダー同士の関係性に変容が起きること。これが2つ目のゴールとなります。3つ目はプロジェクト全体のゴールです。セクターを越えた関係性が生まれると、従来の関係性からは生まれてこなかったアイデアやプロジェクトが、ステークホルダーによって実行に移される必要があります。彼らを支援し、モチベーションに働きかけることで、社会的な課題の解決に向けて全体を後押しする。これがイノベーション・ファシリテーターにとっての3つ目のゴールとなります。[p.75-78]」
・「フューチャーセッションの本質的なゴールは、画期的な新商品のアイデアが出てくることではありません。もちろん、それも大切なのですが、本質的には、社会で活動しているそれぞれの人をつないでいくことで社会の仕組みそのものを変えていくことがゴールになります。[p.82]」

第4章、信頼関係を生み出す
・「ここからは、フューチャーセッション当日、イノベーション・ファシリテーターがどのような姿勢で臨むべきか・・・想いに共感し合って、対話をして、信頼関係を深めて、関係性をつくり変える。これがステークホルダーを集めたフューチャーセッションのゴールなのです。[p.83-86]」

第5章、参加者一人ひとりを主人公にする
・「フューチャーセッションには、さまざまな対話の手法を盛り込みます。これらの手法は、参加者にいままでとは違う課題の構造について、追体験をうながすために取り入れられるのです。[p.102]」
・「社会的な課題に想いが沸き上がってきて、話をしたいテーマが浮かび上がってきて、話したい人たちとのグループをつくる。フューチャーセッションで大切にしているのはこれらすべてを自分の意志で決めてもらうことなのです。[p.109]」

第6章、集まった人たちならではの意見をつくる
・「社会的な動物である人間は、指示に従って行動するよりも、意味自体を生み出そうとして行動するほうが高い満足度が得られます。・・・そうであれば、アイデア出しをする前に、『なぜこの問いを考えるのか』という想いの共有が必要です。また、『この問いについてどう考えるか』という参加者同士の意見の交換も外すことができません。フューチャーセッションから出てくるアイデアやプロジェクト自体は、これまでに見たことのないようなものでなくてもかまいません。平凡でも地味でもいいのです。大切なのは、その日、そこに集まった多様なステークホルダーが、アイデアを出す意味をちゃんと理解したうえで、つくりあげたかということなのです。飛んだアイデアよりも、みんなが自分ゴトで『大切だ』と思えるアイデアを出すようにしましょう。[p.115]」

第7章、デザイン思考と未来思考
・「フューチャーセッションでは、場のなかで生まれた新たなアイデアやプロジェクトを必ずプロトタイピング(試作)します。・・・大切なのは、アイデアやプロジェクトを可視化してみんなで客観的に眺められるようにすることです。このように、つくりながら考えるデザイナーの仕事のやり方をビジネス全般に適用した方法がデザイン思考です。[p.134]」
・「未来思考とは、物事を考える視点を未来に置いて、そこから現在を振り返ることによって、いま起こしたいアクションを決める思考方法のことを言います。・・・現在、もしくは過去のさまざまなデータから、『こんな世の中になるのではないか?』と未来を予測することをフォアキャスティングと言います。フォアキャスティングで未来を考えると、それはあくまで現在の諸要因から可能性の高い未来を浮かびあがらせるだけなので、そこに多様性はなく、社会的な目的の達成に向かう要素も見つけられません。創造力を働かせることのできる領域も小さくなります。これに対して、物事を考える視点を未来に置いて、そこから現在を振り返ることをバックキャスティングと言います。バックキャスティングでは、いきなり未来に視点を置いて、理想とする未来の姿を想い描きます。・・・未来のことですからなにが正解で、なにが不正解かはわかりません。だからこそ自由に想い描くことが可能であり、想像するとワクワクしてくるのです。[p.137-138]」
・「フューチャーセッションでは未来思考とデザイン思考を組み合わせて使います。・・・もちろん、未来思考とデザイン思考で考えた未来が簡単に手に入るわけではありません。でもそこにはフォアキャスティングでは浮かび上がってこない、素晴らしいけれど『何もしなければ実現しない未来』が広がっているのです。・・・社会的な課題に対して、イノベーションを起こしていくためにはこのワクワクするという気持ちがなによりも大切なのです。[p.140-141]」

第8章、関係性のつなぎ直しで課題解決
・「具体的なプランやアイデアではなくステークホルダーの関係性のつなぎ直しをゴールにする理由は、たとえよいアイデアがあっても、ステークホルダーの関係性ができていなければ実行されないからです。[p.143]」
・「関係者がお互いを理解することで関係性を改善すれば、より根源的な問題が解決されていく。こういった場面は会社のなかでもくらしのなかでも以外なほど多いものなのです。[p.145]」

第2部、フューチャーセッションの実践
第3部、不安、疑問に応えるQ&A

・セッション開催の準備から開催後のフォローまでのノウハウ、Q&Aがまとめられています。
―――

野村恭彦氏の著作は以前に「フューチャーセンターをつくろう 対話をイノベーションにつなげる仕組み」をご紹介しました。本書はそれを発展させたものと言えると思います。前著に比較して、対話を通じて変化を作るための思想、考え方のポイントがより詳細に解説されており、さらに実践のための各論では社会変革のためのイノベーションを起こすことに焦点をあてたノウハウがまとめられている点が本書の特徴だと思います。おそらく前著出版後に著者が蓄積したノウハウや洞察、より洗練された思想が述べられているといってよいだろうと思います。

本稿では、具体的な手法の部分は大幅に割愛し、考え方について主にまとめましたが、私が特に重要だと感じたのは以下の点です。
・協働することの意味:著者は、複雑な社会的課題の解決に焦点をあてて、そういう課題を解決するためのイノベーションこそ協力して行うべきであるとしています。しかし、対象は社会的課題である必要はないように思います。要するに、協働が効果を発揮するタイプのイノベーションがあり、それはすなわち、多くのステークホルダーが関わる難しい課題を解決するためのイノベーションということなのではないでしょうか。例えば、協働のしくみとしてオープンイノベーションがよく取り上げられますが、本当に協働が効果をあげるような対象に適用しているのかどうか。なぜ協働すべきなのかをしっかりと見極める必要があるということかもしれません。
・ステークホルダーの行動を促す仕組み:協働が必要なイノベーションの場合、それぞれのステークホルダーが確実に行動してくれなければ、全体としてイノベーションは実現できません。著者は、対話によって自発的にステークホルダーの考え方の変容を導き、それが行動の変容につながる、という手法を提案していますが、この考え方に従えば、協働と行動の変容を促す仕組みは表裏一体のものではないかと思います。協働をしたいと口で言ったとしても、行動の変容を促す仕組みがなければ協働はうまくいかないのではないか、協働したいなら、その計画とセットで行動を変容させる仕組みも用意しておかなければならない、ということなのではないかという気がしました。オープンイノベーションの例でいえば、単なるニーズとシーズのマッチングだけではなく、ステークホルダーの行動変容を促す仕組みをもっと重視すべきなのかもしれません。

おそらく、本書で提案されている手法はこれからも進化していくでしょう。現時点ではその成果はあまり目立ってはいないように思いますが、協働をうまく進めるメカニズムの理解によって、多くの優れたアイデアが生まれ、実行段階での失敗も減って、イノベーションの成功確率は高まるのではないかと思います。今後の発展に注目していきたいと思います。


文献1: 野村恭彦著、「イノベーション・ファシリテーター INNOVATION FACILITATOR 3カ月で社会を変えるための思想と実践」、プレジデント社、2015.

参考リンク



記事検索
最新記事
プロフィール

元研究者

QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ