研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2016年03月

研究開発マネジメントの実践と基礎知識(「ノート」全面改訂):はじめに

研究マネジメントに関する基礎的な知識をまとめたい、と思って始めた本ブログも7年目になりました。スタートは2010年、「ノート(研究マネジャー基礎知識)」という形で一般的な知識の整理から始め、その後、さまざまな話題をとりあげながら、2013年からは「ノート」の改訂も行ってきました。そしてさらに3年が経過し、今回、「ノート」の全面的な見直しをする新シリーズ「研究開発マネジメントの実践と基礎知識」を始めることにしました。

今回の見直しのポイントは、今までの「ノート」記事とは異なり、私の考えをある程度入れたものにすることです。もちろん、基礎知識のアップデートは行いたいと思っていますが、研究開発マネジメントについてはすでに多くの優れたテキストや総論的資料が存在するなかで、単に知識を寄せ集めるだけでは面白味がないでしょう。では、何が提供できるのか。それはやはり、実際に第一線で研究を実践していた者としての観点ではないか、と思います。それが有益なものになるかどうかは、読者諸氏のご判断に委ねるしかありませんが、「実践」的立場から研究開発マネジメントに関する知識を整理してみよう、というのが今回の改訂の狙いです。

具体的には、第一線の研究マネジャーにとって役に立つようなまとめができればと思っています。目の前の研究開発プロジェクトを進めながらどういう点に注意してマネジメントを行えばよいのか、どうやったら研究開発の成功確率が高まるのか。そういう視点であれば、私の研究者としての経験も活かせると思いますし、マネジメントの専門家の方々によるまとめとは少し違う視点も提供できるのではないか、と考えています。

実践家に役立つための最も重要なポイントは、「シンプルに」まとめることではないでしょうか。研究者や第一線の研究マネジャーは、日々のプロジェクトを進めながらマネジメントを行わなくてはなりません。マネジメントに関わる時間的、精神的余裕はそれほど与えられていないのが実情だと思います。仮に、正確で精緻な考え方や手法があったとしても、それを使うのに労力がかかってしまうようでは、第一線のマネジャーは使いこなせないでしょう。従って、多少正確さを犠牲にしたとしても、シンプルで使いやすいことが実践家にとっては重要です。そこで今回のまとめでは、各トピックスを、以下の1)~3)のようにまとめてみたいと思います。
1)実践家にとって最も重要と思われる最低限のポイントをまず挙げます。
2)次いで、なぜそのポイントが重要だと考えるか、どこが活用のポイントなのか、およびその根拠(引用できる重要な理論や考え方)について述べます。
3)その上で、まとめに採用しなかったものも含めて様々な考え方を紹介したいと思います。シンプルな少数の原則にまとめることは、使いやすい反面、狭い考え方に囚われたり他の重要なポイントを見逃すことにもつながる可能性があります。今は重要でないと思う考え方でも、その考え方を無視してしまうことにはリスクがあるでしょう。異なる視点が重要になる場合もあるかもしれません。そこで、この段階では多少幅広く様々な考え方を集めるべきだと思います。加えて、その際に考え方の時代的変遷が感じられるような場合や、将来を暗示するような動き、未確立であっても仮説として注目すべき新しい考え方が提案されているような場合には、その点にも触れておきたいと思います。

このうち、2)の後半部分と3)が、今までの「ノート」を引き継ぐような形になると思います。1)と2)の部分は、多分に私の実践経験を反映したものとなると思いますので、読者各位にはその点をご理解いただき、ご興味に合わせて読んでいただければ幸いです。

取り上げるトピックスは以下の内容を予定しています。
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと
1.1
、研究開発とは?:研究開発マネジメントを適用する対象をはっきりさせるために、研究開発とは何かとその必要性をはっきりさせる
1.2
、研究開発活動が本来的に持つ不確実性:現象の不確実さ、人に関わる不確実性、環境に関わる不確実性
1.3
、研究開発活動に影響する環境要因:競争相手、協力関係、環境変化
2、研究開発実践のマネジメント
2.1
、何にとりくむか:不確実性はどこにあるのか、取り組み方はどう変わるか
2.2
、どうとりくむか
2.2.1
、人の問題:人をどう活性化するか、能力を引き出す運営、リーダーシップ
2.2.2
、組織の問題:組織の構造、運営
2.2.3
、プロジェクトの運営:プロジェクトの進め方、周囲との調整
2.2.4
、成果を活かす

上記の構成は「ノート」に近いですが、今回は、実践を意識したまとめなので、シリーズの表題を「研究開発マネジメントの実践と基礎知識」としました。なお、1つのテーマが複数回の記事になってしまう場合もあると思いますが、ご了解ください。前回改訂同様、1ヶ月に1回程度のペースで書いていきたいと思います。

さて、この新シリーズ「研究開発マネジメントの実践と基礎知識」の開始にあたり、研究開発マネジメントの現状を概観しておきましょう。丹羽氏によれば、
・「技術戦略を効果的に構築しようと…(中略)…いろいろな領域で多大な努力が傾けられている。しかし、概してそれらはまだ手探りの試行錯誤の状態にある。」[文献1p.iii]
・「技術経営分野の個別の領域での議論や著作はあるものの、全体が見通せる体系を提示した書籍は見当たらない」[文献1、p.iv]
とのことであり、近著でも、
・「高度技術社会に入り技術経営学が新しい経営学として必要とされているのにもかかわらず、技術経営学はその確立が途上であり、また、そのためもあって企業での応用展開も十分に進んでいない」[文献2、p.6
と述べています。文献1と文献2はそれぞれ2006年と2013年の刊行ですが、現在もその状況は大きくは変わっていないでしょう。しかし近年は、研究マネジメントの現状と時代背景を認識したうえで、なるほど、と思えるような様々な手法が提案されるようになっていると思います。そうした近年の傾向を一言でまとめてしまうならば、持続的競争優位を目指すのではなく一時的な競争優位(本ブログ「競争優位の終焉」(マグレイス著)より)を目指していること、計画主導ではなく創発的戦略(本ブログ「ノート改訂版・補遺2:研究マネジメントの実践に役立つ知識」)を重視していること、になると思いますが、新たな考え方と具体的手法の提案は、技術経営が実務家にも使える学問になりつつあるような印象を受けます。

研究を成功に導く処方箋、ハウツーが存在するならそれを知りたいものだとは思いますが、イノベーションの課題が時代とともに変化することを考えれば、決定版のような方法はそもそもあり得ないのかもしれません。ではどうしたらよいのか。現実的には、様々な方法について、その方法の試行により研究がうまく進んだかどうか、関係者の意欲が高まったかどうかを判断基準としてその手法の有効性を判断し、状況に応じてマネジメントを行っていくしかないかもしれません。そうした試行にあたり、本ブログによる知識の整理と私の仮説が少しでもお役に立てば幸いに思いますので、至らぬ点も多いとは思いますがよろしければおつきあいください。


文献1:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.
文献2:丹羽清(編)、「技術経営の実践的研究」、東京大学出版会、2013.


マネジメントについての考察など・目次(2016.3.21版)

「マネジメントについての考察など」というカテゴリーではマネジメント全般の話題や研究マネジメントに関する私見などを書かせていただいています。この目次は記事表題とリンクのリストになっていますが、別ページに要約入りの目次(「その1」「その2」)を設けています。

その1・・・要約入りはこちら
研究総論
技術の的、研究の役割2010.7.25
苦しいときの術開発頼み
2011.9.4
研究とアイデア
創造性を引出すしくみ2010.10.24
アイデアの扱い方と知の呪縛(「アイデアのちから」より)
2012.7.16)、参考リンク
ュレーションと研究開発(勝見明著「キュレーションの力」感想)
2012.3.11)、参考リンク
「クラウドストーミング」(エイブラハムソン、ライダー、ウンターベルグ著)より2015.2.1)、参考リンク
アンラーニングの重要性(杉野幹人著「使える経営学」より)
2015.3.29)、参考リンク
研究の管理
研究の管理と評価再考2010.8.1)、参考リンク
数値目標の功罪
2012.5.20)、参考リンク
研究者と金銭的報奨2010.9.12)、参考リンク
研究者と金銭的報奨再考:処遇をどうすべきか
2010.10.3
モチベーションは管理できる?
2011.1.23
報連相と研究開発
2011.10.2
技術者流出考
2012.10.8)、参考リンク
続・技術者流出考(谷崎光著「日本人の値段」より)2015.10.4)、参考リンクは上記と同じ
「ゲーミフィケーション集中講義」(ワーバック、ハンター著)より2014.10.13)、参考リンク
研究と人の問題
研究者の齢限界?2010.12.12)、参考リンク
競争心と究開発
2011.3.6)、参考リンク
研究開発とフラトレーション:ルーチンワークの罠
2011.5.8)、参考リンク
幸福感と成果
2012.9.9)、参考リンク
成功体験の意味
2012.12.9
人事のプロへの期待(八木洋介、金井壽宏著、「戦略人事のビジョン」より)
2012.11.18)、
参考リンク
変化の方法(チップ&ダン・ハース著「スイッチ!」より)2013.1.6)、参考リンク
エキスパートになる、育てる(金井壽宏/楠見孝編、「実践知」より)2013.7.15)、参考リンク
「経営学習論」(中原淳著)より2013.8.25)、参考リンク
「イノベーション・オブ・ライフ」(クリステンセン著)とマネジメント理論
2014.1.5)、参考リンク
一技術者からみた「源泉」(ジャウォースキー著)感想
2014.4.27)、参考リンク
「GIVE & TAKE」(グラント著)より
2014.5.25)、参考リンク
「なぜ人と組織は変われないのか」(キーガン、レイヒー著)にみる変革の方法
2014.7.27)、参考リンク
ピープルアナリティクスとマネジメント(ウェイバー著「職場の人間科学」より)
2014.9.7)、参考リンク
「『好き嫌い』と経営」(楠木建著)と研究開発
2014.11.16)、参考リンク
創造性考(「創造性と生産性」DHBR誌2014年11月号特集より)
2014.12.14)、参考リンク
タレントとイノベーション(「『タレント』の時代」(酒井崇男著)より)
2015.8.16)、参考リンク
リーダーの精神状態が及ぼす影響(「コーチングが必要な困ったリーダーたち」ケッツ・デ・ブリース著DHBR誌論文より)
2015.9.13)、参考リンク


その2・・・要約入りはこちら
研究と組織の問題
プレイングマネジャーの功罪2011.4.10)、参考リンク
研究組織におけるコミュニケーションの難しさ
2011.11.13
研究における企画という仕事
2012.2.12
部下を守る?組織を守る?技術を守る?
2012.4.30)、参考リンク
研究者の主体性
2012.6.24)、参考リンク
研究とプレッシャー2013.2.3):チームへの影響、参考リンク
データが語るよいマネジャーとは(ガービン著「グーグルは組織をデータで変える」DHBR2014年5月号より)
2014.6.22)、参考リンク
「ミンツバーグ マネジャー論」より
2015.3.1)、参考リンク
「チームが機能するとはどういうことか」(エドモンドソン著)より
2015.4.26)、参考リンク
集合天才を導く(ヒル他著、「グーグルを成功に導いた『集合天才』のリーダーシップ」DHBR2015年5月号より)
2015.6.21)、参考リンク
研究の進め方
魔の川、死の谷、ダーウィンの海を越える2012.1.15)、参考リンク
技術を維持する-イノベーションの負の側面への抵抗2010.11.14
研究開発におけるスピードと俊敏さ-「加速の罠について」
2011.2.13)、参考リンク
思考停止をもたらすもの
2011.7.31)、参考リンク
研究開発と会議
2011.10.23
協力的環境と研究-「不機嫌な職場」に学ぶ
2011.12.18)、参考リンク
正しい現場主義と研究開発
2012.4.8)、参考リンク
試行錯誤のプロ
2012.8.12
協力と支援(シャイン著「人を助けるとはどういうことか」より)
2013.3.3)、参考リンク
ファシリテーションの意義
2013.4.14)、参考リンク
デザインとイノベーション(エスリンガー著「デザインイノベーション」より)
2013.5.12)、参考リンク
不確実な状況に対処する方法(ケイ著「想定外」より)2013.9.29)、参考リンク
目的工学とは
2013.11.4)、参考リンク
チェックリストの力(ガワンデ著「アナタはなぜチェックリストを使わないのか?」より)
2013.12.1)、参考リンク
持続的競争優位をもたらす戦略とは(ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー2013年11月号より)
2014.3.16)、参考リンク
「競争優位の終焉」(マグレイス著)より
2016.1.3)、参考リンク
「ブラックスワンの経営学」(井上達彦著)と技術研究
2015.1.4)、参考リンク
失敗を知る(菅野寛著「経営の失敗学」より)
2015.7.20)、参考リンク
フューチャーセンターとは
2013.6.9)、参考リンク
イノベーション・ファシリテーターの手法に学ぶ(野村恭彦著「イノベーション・ファシリテーター」より)2016.2.7)、参考リンク
ハッカソンの可能性(大内孝子編著「ハッカソンの作り方」より)
2015.11.1)、参考リンク
「ブルー・オーシャン戦略のすべて」(DHBR2015年10月号)より
2016.3.13)、参考リンク
研究における判断と説得
イノベーションとあいまいな意思決定(判断の根拠は何か?、ヒューリスティクスの活用?)」2011.1.3)、参考リンク
意思決定の罠(モーブッサン著「まさか!?」より)
2012.10.28)、参考リンク
ビジネス書の間違い?-『なぜビジネス書は間違うのか』
2010.8.11):Rosenzweig著、参考リンク
経営判断の頼りなさと経営学(ヴァーミューレン著「ヤバい経営学」より)2014.2.9)、参考リンク
情報の扱い方(ハーツ著「情報を捨てるセンス選ぶ技術」より)
2015.5.24)、参考リンク
研究開発事例
2010年のベスト50発明(「Time」2010.11.22号)2010.12.5)、参考リンク
1年後のTime誌「2010年のベスト50発明」
2011.12.25)、参考リンク(上と同じ)
3年後のTime誌「2010年のベスト50発明」
2013.12.23)、参考リンクは上と同じ



「ブルー・オーシャン戦略のすべて」(DHBR2015年10月号)より

ブルー・オーシャン戦略とは、競争の激しい市場(レッド・オーシャン)を離れて、競争のない市場(ブルー・オーシャン)を目指すべき、という意味あいで理解されることが多いと思います。しかし、競争がなければ必ず事業がうまくいくとは限りません。もちろん競争相手が少ない方が楽ですが、競争相手が少なくかつ旨味のある市場を見つけることはそれほど容易なことではないはずです。一方、研究者にとっては、今まで誰もやっていないことに挑戦することは基本的戦略のひとつですので、ブルー・オーシャン戦略というのは当たり前のことを言っているだけ、と感じてしまうところもあります。

しかし、ブルー・オーシャン戦略は、経営の世界では広い支持を集めているようです。その提唱者であるキム氏とモボルニュ氏は、経営思想家の人気ランキングThinkers50でも上位の常連(2015年ランキングでは第3位)です。そこで今回は、Diamond Harvard Business Review201510月号の特集「ブルー・オーシャン戦略のすべて」[文献1]の内容に基づいて、ブルー・オーシャン戦略の真の価値について考えてみたいと思います。(なお、特集中の田中仁氏、日覺昭廣氏のインタビューは、企業における新市場創造の考え方の事例として大変興味深いですが、直接ブルー・オーシャン戦略に関係しているわけではないので本稿では割愛させていただきます。)

【インタビュー】W.チャン・キム、レネ・モボルニュ、「ブルー・オーシャン開拓の余地はいまなお十分にある」
・「戦略は競争と創造、両方のプロセスに対応すべきです。ところが、かつて戦略分野では競争論が幅を利かせていました。従来の業界構造を所与のものと見なし、その制約の中で現実的なポジションを選べるよう企業に指針を示すのが戦略の役割だ、とする理論です。片や創造については、成り行きの産物だとする考え方が主流でした。・・・ブルー・オーシャン戦略は、再構築主義に基づいており、戦略が業界構造を形成しうるし、個々の企業が市場の境界を引き直して新規市場を創造することも可能だ、という立場をとっています。・・・創造性に関する理論であるブルー・オーシャン戦略は、競争の理論を補完する役割を果たし、『現実の市場において、高業績と利益ある成長をどう実現すればよいのか』という重要な課題を扱っています。」
・「企業を分析単位に選ぶのは適切ではありません。・・・戦略の打ち手、つまり、重要な製品やサービスの提供にまつわるマネジメント上の判断や対処こそが、ブルー・オーシャンの創造や高業績の持続を説明しようとするうえで、望ましい分析単位なのです。」
・「30を越える業界の主な戦略の打ち手を調べたところ、ブルー・オーシャンの開拓は、我々が『バリュー・イノベーション』と呼ぶ共通の戦略パターンに従っていることが判明しました。競合他社を打ち負かそうと腐心するのではなく、顧客と自社にとっての価値を飛躍的に高めることで競争から脱却し、競争のない新しい市場を切り開こうとしていたのです。・・・重要なのは、戦略キャンバス上の価値曲線を注視し、時機が来たら再びバリュー・イノベーションの実現に向けた戦略を打ち出すことです。」
・「我々は、長く有効性を保つブルー・オーシャン戦略には、共通点があることを突き止めました。すなわち、価値提案、利益提案、人材提案という3つの戦略提案を最初からうまく整合させていたのです。この整合性が強固な障壁となって、他者による模倣を防ぐ役割を果たしました。」
・「日本企業は業務運営には秀でていたのですが、新規市場をどう創造、刷新するかを戦略的に考えることは、あまり得意でないのか積極的ではなく、放置されたままでした。・・・日本企業のリーダーにとって、重要なのは、マネジメントの重点を見直し、戦略的思考や戦略刷新の優先順位を高めることでしょう。そのためには、ブルー・オーシャン戦略の実践的なフレームワーク、ツール、プロセスが役立つと思います。」
・「ブルー・オーシャン理論は、戦略分析と、組織の人間的な側面とを結び付けています。人々に頭と心の両面で新しい戦略を支持してもらうことの重要性を踏まえ、尊重しているのです。・・・ブルー・オーシャン理論では戦略の立案と実行を切り離さずにいます。我々の研究からは、この2つを切り離した企業は、戦略の実行に時間がかかるばかりか手法にも疑問の余地があり、機械的に手順を踏むのがせいぜいであるとわかっています。これに対してブルー・オーシャン戦略には、最初から実行が組み込まれており、そのために、立案と実行の両方に公正なプロセスを用いているのが特徴です。公正なプロセスは、行動の拠り所として不可欠なもの、つまり、あらゆる階層の人々の信頼、検診、自発的な協力を引き出し、戦略実行への地ならしを可能とします。」

W.
チャン・キム、レネ・モボルニュ著、「レッド・オーシャンの罠 新規市場の創造を妨げる6つの思い込み」
・「我々は、市場創造戦略の実行に関わる大勢のマネジャーと意見や情報を交換してきた。そうして成功談や失敗談を聞くうちに、彼らの努力の足を常々引っ張っていそうな共通要因を特定することができた。それはメンタルモデル、すなわち世の中の仕組みに関する根深い思い込みや理屈である。・・・それらを『レッド・オーシャンの罠』と見なすようになった。それらの思い込みは実際上、マネジャーたちをレッド・オーシャン、つまり、多数の企業がひしめき合って血みどろのシェア獲得競争を展開する市場につなぎとめ、ブルー・オーシャン、すなわち競争がなく可能性に満ちた未開の市場に漕ぎ出せないようにしてしまうからだ。」
・罠1、市場創造戦略を顧客志向と混同する:「市場を創造するうえでの問題は、マネジャー、特にマーケティング畑の人々が、『顧客は王様である』という考え方を叩き込まれてきた点にある。・・・既存顧客に焦点を当てると、競合他社よりも優れた顧客向けソリューションを考案する契機にはなっても、レッド・オーシャンからの脱出にはつながりにくい。」
・罠2、市場創造戦略とニッチ戦略を混同する:「マーケティングの世界では、ニッチ市場を見つけて手中に収めるために、市場セグメンテーションを極めることが重視されている。・・・優れた市場創造戦略は、セグメンテーションに重点を置かない。むしろ、より幅広い需要創出につながりそうな複数の買い手グループの主な共通点を見つけ出して、市場の『脱セグメンテーション』を図る例が多い。」
・罠3、市場創造戦略と技術イノベーションを混同する:「顧客にとって魅力的な新規市場を生み出すのは、技術イノベーションではなくバリュー・イノベーションである。・・・『市場創造は技術面のブレークスルーにかかっている』と誤解した企業が提供しようとする製品やサービスは、あまりに奇をてらっているか、複雑すぎる。」
・罠4、市場創造と創造的破壊を混同する:「イノベーション経済学の根幹を成すのは、ヨゼフ・シュンペーターの創造的破壊論である。創造的破壊が起きるのは、既存の技術、製品、サービスに代わるものの発明により、市場に非連続的な変化が生じた時である。・・・だが、・・・破壊を伴わない創造、すなわち、既存の製品やサービスを駆逐せずに新たな需要を生み出す例もあるのだ。・・・市場創造の多くは、解決策の存在しなかった領域にそれをもたらす役目を果たすため、破壊を伴わない。・・・安定した会社で働く人々は一般に、創造的破壊や非連続的変化をみずからの地位や職を脅かしかねないものととらえ、よい印象を持たない。・・・その結果、・・・市場創造に向けた取り組みの足を引っ張るのだ。」
・罠5、市場創造戦略と差別化を混同する:「差別化とは、フロンティアで上乗せ価値を提供することにより、競合他社に水を開けようとする戦略である。・・・通常、上乗せ価値を実現する代償としてコスト、ひいては価格が高くなる。・・・現実には、市場創造とは価値とコストのトレードオフを打ち破ることにほかならない。つまり、差別化と低コストを同時に追求するのである。・・・市場創造とは『二者択一』ではなく『二兎を追う』戦略なのだ。・・・市場創造を差別化と混同してしまうと、えてして他者に差をつけるために何を『増やす』ないし『付け加える』かを重視して、低コストを実現するために何を『減らす』ないし『取り除く』べきかに、ほとんど注意を払わなくなってしまう」。
・罠6、市場創造戦略を低コスト戦略と混同する:「市場創造戦略を低コスト戦略と同じだと誤解すると、既存の製品やサービスから何を『取り除く』『減らす』かを重視して、価値を高めるために何を『付け加える』『増やす』べきかにほとんど関心を払わない。」
・「レッド・オーシャンの罠に陥った事例に関連して紹介した手法や戦略は、間違っているわけでも悪いわけでもなく、どれもみな重要な目的に資するものである。・・・ただし、いずれも市場創造の戦略としては、効果が見込めない。」

清水勝彦、「経営学から見るブルー・オーシャン戦略 再構築主義で新たな価値を生み出す」
・学問としてブルー・オーシャン戦略が評価されない理由は、「学術的には『特段新しくない』」こと、定量化ができず実証が難しいこと、考え方のコンサルタント的な性格、が考えられる。
・「学界ではほぼ無視されているブルー・オーシャン戦略だが、ビジネス界では・・・重要なコンセプトとして多くの企業や経営者の間で認識されて」いる。「キム、モボルニュ両教授は、ブルー・オーシャン戦略を『再構築主義』の見方だと指摘する。つまり、何か新しいものを考える時に、まったくゼロから発想するのではなく、既存の事業や資源をもとに、見方や、組み合わせを変えることで新しい市場を生み出しうるということである。・・・そう考えてみると、ブルー・オーシャン戦略の素晴らしさは、学界で求められているものとはまったく異なることがわかる。ブルー・オーシャン戦略は、『新しい理論』『新しいコンセプト』をつくったわけではなく、・・・『すでに知られていた要素技術・コンセプト』を『新しく』組み合わせて、顧客ニーズに合ったサービスを提供したことにあるということだ。」
・「個人的に出色だと思うのは、戦略キャンバス、つまり横軸に競争要因(基本的には顧客が価値と思う要因)を並べて、競争相手に比べてどの点が優れ、どの点が劣っているのかを『見える化』するアイデアである。・・・この折れ線グラフを見て、リーダーは何を考えなくてはならないか。『どこは負けてもいいか考えろ』と言ったのは、コマツ取締役相談役の坂根正弘氏である。・・・『ダントツ』になるためには、どこかで負けなくてはならない。・・・そうしたリーダーの腹のくくり方が、社員のコミットメントにつながる。」
・「ブルー・オーシャン戦略の本当の価値とは、いわゆる『世の中を変えるような新発明』としてではなく、むしろ私たちがわかっていても、忙しさにかまけて忘れてしまう経営の基本、『差別化』『自社を知る』『新しい戦略を実行する時に社内に抵抗はあって当たり前』あるいは『実行のカギは社員のコミットメント』を一つのパッケージにまとめたところにある。・・・ある意味で、『当たり前』だから使い続けられているのだ。」

W.
チャン・キム、レネ・モボルニュ、「ブルー・オーシャン・リーダーシップ:戦略から組織へ 確実に組織が変わる4つのステップ」
・「『ブルー・オーシャン・リーダーシップ』という・・・手法は、ブルー・オーシャン戦略、すなわち新規顧客を開拓して未知の市場を創造する戦略をめぐる我々の研究を土台としている。ブルー・オーシャン戦略の概念と分析枠組みを応用して、組織内に眠る才能や熱意というブルー・オーシャンを、低コストですみやかに開拓しようとするものである。」
・従来型のリーダーシップ手法との主な違い:1、行動に重点を置く(「価値観、性格、態度を変えるよりも、行動を改めるほうが、はるかに容易」、2、市場の現実を十分に踏まえる(「市場の現実を目の当たりにする立場の人々から、リーダーのどういった行動が成果を妨げているか、リーダーからどのような後押しがあれば顧客などの利害関係者に最高の奉仕ができるか、じかに意見をもらう。・・・彼らの熱心な協力があれば、新しいリーダーシップ特性が受け入れられる可能性が極めて高くなる一方、変革を実行するコストは最小限で済む。」)、3、すべてのマネジメント階層でリーダーシップを発揮させる(「最上層、中層、現場、3つのマネジメント階層すべてにおける利用を想定))。
・ブルー・オーシャン・リーダーシップの4つのステップ
1、リーダーシップの実態を直視する:「『現状のリーダーシップ・キャンバス』は、リーダーがどのような行動を取っているか、それぞれの行動にどれぐらいの時間と努力を傾けているかを、部下の視点から描き出したもの」。「狙いは、リーダーシップの現状を皆がどう受け止めているかを探り出して、各階層でリーダーは何をしているのか、また、何をすべきかについて、全社的な議論を始めること」。
2、現状に代わるリーダーシップ特性を設ける:「キャンバス上の各行動について、悪性と良性のどちらであるか、またその程度はどれくらいかを見極める」。「悪性の行動とは、リーダーの時間を食い潰すばかりでほとんど価値を生んでいないもの、良性の行動とは、部下たちのやる気と能力を引き出すうえで有益だが、現状ではリーダーが十分に対処していないもの」。結果は「ブルー・オーシャン・リーダーシップ・グリッド」にまとめる。悪性の高度は「取り除く」「減らす」に、良性の行動は「増やす」「付け加える」に分類する。
3、理想のリーダーシップ特性を絞り込む
4、新しいリーダーシップ慣行を根づかせる

・「このプロセスは、取り決め、説明、明快な期待内容といった、公正なプロセスの原則に基づいている。」上級管理者の積極的な指揮により「この取り組みがいかに重要であるかが社内に伝わ」り、「あらゆる階層の人材が『自分たちは尊重されている』と感じ」る。「理想のリーダーシップ特性は、部下自身の意見をもとにつくられるため、皆が変革に信頼を寄せる。」「現状のリーダーシップ特性を捨てて望ましいリーダーシップ特性を身につけるために何を変える必要があるかが、はっきりしているため、進捗を容易に把握できる。」
・「公正なプロセスの利点とは要するに、信頼、ひいては自発的な協力を生み出すことである。」
・「『リーダーシップ・キャンバス』という具体性の高いビジュアル・ツールを用いると、リーダーの改善すべき点をあぶり出し、議論の対象にすることができる。プロセスが公正であるため、従来のトップダウン型手法と比べて変革の遂行とモニタリングがはるかに手軽に行える。そのうえブルー・オーシャン・リーダーシップ手法の下では、リーダーたちは自分の性格や長年の習慣を変えようとしなくて済むため、少ない時間と努力で変革を達成できる。自分たちの業務行動を改めるだけでよいのだ。」
---

これらの論文を読むと、ブルー・オーシャン戦略を、単に競争の少ない市場に参入したり、競争の少ない市場を創造することと理解するのは本質を捉えていないことのように思えてきます。競争が少ない、ということより、今までになかったような市場や新たな価値提案をつくり上げることがポイントで、その結果、競争が少ない市場が生まれる、と考えるべきなのでしょう。それに加え、清水教授が指摘されているように、分析や発想のための手法、実行のための手法も組み合わせた全体を「ブルー・オーシャン戦略」と捉えるべきだということだと思います。例えば、ブルー・オーシャン・リーダーシップを「競争の少ない」「リーダーシップ」と受け取ってしまうと、意味がよくわかりませんが、リーダーをリーダーシップというサービスの提供者、部下をそのサービスを受け取る顧客と捉え直すことにより、部下に新しい価値提案(としての新しいリーダーシップ)を提供していると考えれば、今までのブルー・オーシャンの流れに沿った考え方に合致することが理解しやすくなると思います。戦略キャンバスの手法も、新市場を創造するためのツールにとどまらず、種々の要因を半定量化して、違いやトレンドを見える化し、新たな発想を与えてくれるツールとして広義に捉えることもできると思います。

そう考えると、「ブルー・オーシャン」という用語のせいで、キム氏とモボルニュ氏の思想が必要以上に狭く受け取られている面もあるように思われます。また、単にポジショニングの考え方の一つと誤解されてしまう可能性もあるかもしれません。学問の世界ではどうあれ、実務家にとっては役に立つ考え方だと思いますので、用語の表面的な意味に惑わされることなく、本質を理解しうまく活用していくことが重要ではないか、と感じました。


文献1:「特集 ブルー・オーシャン戦略のすべて」、Diamond Harvard Business Review201510月号、p.28-95.(掲載論文は以下のとおり)
・【インタビュー】W.チャン・キム、レネ・モボルニュ、「ブルー・オーシャン開拓の余地はいまなお十分にある 日本企業は市場創造が苦手なわけではない」、p.30
W. Chan Kim, Renée MauborgneW.チャン・キム、レネ・モボルニュ著、有賀裕子訳、「レッド・オーシャンの罠 新規市場の創造を妨げる6つの思い込み」、p.40. (原著:”Red Ocean Traps”, HBR March 2015
・【インタビュー】田中仁、「JINSは『誠実さ』で新しい市場を切り開く 『2つの海』で勝ち続ける原動力」、p.52.
・清水勝彦、「経営学から見るブルー・オーシャン戦略 再構築主義で新たな価値を生み出す」、p.62.
・【インタビュー】日覺昭廣、「東レ:市場は後からついてくる なぜ長期的な技術開発ができるのか」p.72.
W. Chan Kim, Renée MauborgneW.チャン・キム、レネ・モボルニュ著、有賀裕子訳、「ブルー・オーシャン・リーダーシップ:戦略から組織へ 確実に組織が変わる4つのステップ」、p.82.(原著:”Blue Ocean Leadership”, HBR May 2014

参考リンク




批判の力(「The Innovative Power of Criticism」(Verganti著HBR2016,Jan.-Feb.)より)

「批判」という言葉が持つ語感はあまりよいものではないかもしれません。ある意見の「良くないところ」を指摘する「批判」自体は悪いことではないはずですが、「批判」と「気に入らない意見に対する悪口」との区別が難しく、「批判」によってよいアイデアが潰されてしまうこともよく起こるため、ブレーンストーミングなどのアイデア出しの場面では「批判」が禁じられることもよくあります。

今回ご紹介する論文「The Innovative Power of Criticism」(Verganti著)[文献1]では、批判をうまく活用する方法が提案されています。著者は、デザイン思考やクラウドソーシングなどのアイデア出し技法の発展により多くのアイデアが得やすくなったことをふまえて、「どのアイデアに可能性があるのかを知るためには、マネジャーは新しい評価基準を持たねばならない」と言い、24社の調査研究に基づいてまとめられた4つのステップからなるアイデア出しと評価の手法を紹介しています。著者はその特徴を、「デザイン思考やクラウドソーシングがアイデア出しの技法であるのとは異なり、私のプロセスは批判(criticism)に基づいている。顧客や外部に早い段階で呼びかけるかわりに、自社の従業員を参加させる。彼ら個人のビジョンを明らかにし、数多くのよりよい提案を引き出すために彼らの対照的な見方を比較して議論する。外部の意見は最後だ。」とまとめており、参考になる点も多いと感じました。以下、論文の構成に沿って、そのポイントをまとめてみたいと思います。

批判の技法(The Art of Criticism
・「製品であれ、サービスであれ、プロセス、ビジネスモデルであれ、2つのレベルのイノベーションが可能である:改善(Improvements)と新しい方向(New directions)である。」
・「改善は、既存の価値の定義をよりよく満足する新たなソリューションである。漸進的であれラジカルであれ、市場ですでに広く認識されている問題に取り組む。」「一方、新たな方向性は取り組むべき問題の再解釈から生まれる。」
・「多くのアイデアを生み出すことは改善に役立つ。しかし、新しい方向を選び出す役には立たない。企業がアイデア評価の見方を変えなければ、彼らは顧客のどこに注目すべきかも、どんな質問をすべきかも、何が顧客にとって最も価値あることなのかもわからないだろう。」
・「技術や社会の大きな変化によってもたらされるチャンスを見つけ、活用するためには、良いとか価値があるとかについての既存の仮定を問い直し、熟考(reflection)して、イノベーションのアイデアを検討するための新しいレンズを見つける必要がある。そのような問いと熟考が批判の技法を特徴づけるものである。」
・「批判は否定的である必要はなく、異なる見方(perspective)を浮き立たせ、対比を強調し、それらを大胆な新しいビジョンにまとめる。この点が、批判を好ましくないもの、創造性をつぶすものとして扱う最近のアイデア出しプロセスと異なる点である。」
・「ここで述べる4段階のプロセスは、個人が自分の仮説を疑い、会社が解決可能な顧客の問題を新たに捉えなおす。そして、ペアで共同してビジョンを磨きあげた後、より大きなグループでディスカッションする。そして、ベストアイデアがユーザーや社内外で広くテストされる。」

1、個人による熟考(Individual Reflection
Vox
社(ポーランドの中規模家具メーカー)の事例:ヨーロッパにおける高齢者人口増加に対応し、高齢層に何を提供できるかを検討。多様な分野から様々な背景をもつ19人を選び、単なる改善にとどまらない新たな価値の概念に基づく提案を募集。
・人気のイノベーション手法との違い:1)顧客や外部のインサイトから出発していない(個人の内に秘めた直感を大切にする)、2)チームではなく個人に熟考の機会を与えている(ブレーンストーミングなどでは自制してしまったり薄められたりしてしまう個人のインサイトを深堀する機会を与える)、3)1ヶ月間の熟考(議論を呼ぶような変わった仮説を生むために必要。生まれたての、すぐに却下されてしまうようなアイデアにも成長のチャンスを与える)。

2、議論仲間(スパーリングパートナー、Sparring Partners
・「2番目のステップでは、自分のビジョンは信頼できる仲間(peer)からの批判を受ける。ここで仲間はスパーリングパートナーのように振る舞い、粗っぽくて生焼け(half-baked)の仮説を否定されずに共有できるような保護された環境を提供する。」
・「“Collaborative Circles: Friendship Dynamics and Creative Work”という本でMichael P. Farrellは、多くの芸術や社会の分野で、ペアが多くのブレークスルーの基礎になっていると述べた。・・・彼は、ペアで仕事をすると、互いに共感しながら建設的に批判できるような『役に立つ親密さ(instrumental intimacy)』をもたらすと述べている。」

3、過激な仲間(Radical Circles
・「3番目のステップでは、有望な仮説が、様々な新しい方向を思い描いている10~20人のグループディスカッションで批判を受ける。私はこのグループを『過激な仲間』と呼んでいる。その目的は、どの仮説が正しいか、間違っているかを決めることではない;なぜ、どのように違うのか、見過ごされているかもしれない重要なインサイトは何か、手持ちの仮説よりもより手強い価値提案の可能性がないかを審査する。この段階は、否定的ではなく建設的になるよう注意して、4週間の全工程のうち、2~3日の集中的なワークショップで進められる。意見の衝突は、より深く、革新的な領域を特定できるように人々をもっていかなければならず、考えを制約したりグッドアイデアに妥協したりしないようにしなければならない。グループには、様々なバックグラウンド、物の見方、個性を持った人が含まれるようにすべきである。」
・「このプロセスをポジティブで創造的に保つには、最初はみんなが自社が進むべきではない方向や、誰が敵かということに注意を絞るとよい。好きなものより嫌いなものの方が意見がまとまりやすいし、共通の敵は一致団結したり、新しい方向を明確にするための刺激になる。」
・「そして、一度に2つずつ、ビジョンを対比し、ビジョンの合成を試みる。重なり合うところはあるか?、他にはない個別のビジョンの要素はあるか?」

4、部外者(Outsiders
・「過激な仲間によって、いくつかの有望な方向に意見が集まってくる。4番目のステップでは、部外者の批判を受ける。覚えておいてほしいことは、オープンイノベーションとは違って、部外者との協働は、新しいアイデアを生むためにしているのではないということだ。そうではなく、あなたが提案したイノベーションの方向に挑戦するようなよい質問をして、あなたの提案をより強固にするのだ。ターゲットユーザーだけでなく、新しい展望をもったより遠い分野の人を加えるべきだ。私はそうした人たちをinterpreters(解釈者)と呼ぶ。彼らは、製品のユーザーではわからないかもしれないトレンドの意味を見つけることができるからだ。」

・「既存の問題について新しい解決策を探している場合には、批判はアイデア出しのプロセスを阻害してしまうかもしれない。しかし、新しい問題を発見し、価値を再定義するように正しく使えば、批判はイノベーションの原動力となる。」
―――

本記事ではほとんど割愛してしまいましたが、本稿では以下の会社の事例が取り上げられていますので、会社名等をリストアップしておきます:Nest社(smart home、室内温度調節システム、Tony Fadell氏、Matt Rogers氏)、Vox社(Piotr Voekel氏)、Microsoft社(XboxJonathan “Seamus” Blackley氏、Kevin Bachus氏、Otto Berkes氏、Ted Hase氏)、Alfa Romeo社(4C Sports Car)、Philips Electronics社(Ambient Experience for health care)。

著者の言うとおり、最近のアイデア出しプロセスでは「批判」は重要視されていません。しかし、アイデア出しで重視される「異なる意見を聞くこと」には「批判」も含まれていてもよいはずです。ただ、批判はやり方によってはアイデア潰しの作用を持つことも事実だと思いますので、要は建設的な批判となるようにすべし、ということだろうと思います。

私がまっ先に思い浮かべる「有害な批判」は、「権威」と結びついた批判です。権威すなわち「強い立場」に基づいた批判の場合、なかなか議論になりにくく、ましてやそこから(発言者の主張以上の)インサイトが得られることは稀なような気がします。著者は、そうした批判が悪いというようなことは言っていませんが、著者の指摘している、よい批判が得やすい手法は、権威に基づく有害な批判を減らす上で一考の価値があると思います。

もう一つの著者の主張の特徴は、まず部内で徹底的に考えよう、という姿勢だと思います。確かに外部との連携には手法として目新しさがありますし、部内のアイデアだけでイノベーションを進めるのは限界があることは多く指摘されていますが、では、部内のアイデアを発掘し尽くした上で部内のアイデアはダメだと言っているのかというと、そういう場合ばかりではないでしょう。重要なことはアイデアの源に制約をつけないことであって、アイデアを出し、それを実現していく手法は、状況や課題に応じて変えていけばよい、ということではないでしょうか。イノベーションの手法についても「創造的」であることが求められている、ということが本論文から見えてくるのではないかと思います。


文献1:Roberto Verganti, “The Innovative Power of Criticism”, Harvard Business Review, January-February 2016, p.88.
https://hbr.org/2016/01/the-innovative-power-of-criticism


記事検索
最新記事
プロフィール

元研究者

QRコード
QRコード
  • ライブドアブログ