研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2016年10月

研究開発マネジメントノート(本ブログ記事)索引(2016.10.30版)

本ブログ記事索引の改訂版です。このページでは頻出語に絞り、細かい索引は詳細ページにしています。リンクは各記事のタイトルの特徴的な言葉と記事投稿日です。(記事内の事項の索引化は少しずつ進めていきたいと思います)

人名・企業名索引詳細ページへ
Adner
ノート補3破壊的イノベーションの現在130804ワイドレンズ140119
Anthony
ノート2ノート4ノート5ノート6ノート9ノート12ノート14ノート補2ニューグロースファクトリー111120スタートアップ131215ファーストマイル150412小さなイノベーション150823
Brynjolfsson
ビッグデータ130506機械との競争131124セカンドマシンエイジ160410
Carlosn
ノート9ノート補2イノベーション原則121104
Christakis
ノート9ノート13ネットワーク130331
Christensen
ノート1ノート2ノート3ノート4ノート9ノート11ノート12ノート補1ノート補2イノベーターのDNA110515イノベーションのDNA120415破壊的イノベーションの現在130804イノベーションオブライフ140105資本家のジレンマ150215破壊的イノベーションとは何か160131片づけるべき用事160828
Collins
ノート1ノート8ノート10ノート12ノート補3ビジョナリーカンパニー3 100920ビジョナリーカンパニー4 130120
Davila
ノート12研究管理100801研究報奨100912
Dyer
ート11イノベーターのDNA110515イノベーションのDNA120415
GE
リバースイノベーション1010172011グローバルイノベーションバロメーター1102062012グローバルイノベーションバロメーター120205
Govindarajan
ノート4ノート5ノート9ノート10ノート11ノート補2ノート補3リバースイノベーション101017リバースイノベーション121125イノベーション実行130908はじめる戦略141221実践リバースイノベーション151227日和見主義160718
Heath
ノート13アイデアのちから120716スイッチ1301016決定力160522
Herzberg
ノート7ノート11ノート補1
Johnson, M.W.
ノート2ノート補2ホワイトスペース戦略120109
Kelley
ノート8発想する会社101107クリエイティブマインドセット150510
Kim
ノート3ノート4ノート10ブルーオーシャン戦略160313
Lafley
ノート補2科学的戦略策定130630勝つために戦う戦略140302
Leonard-Barton
ノート6ノート8ノート12ノート14ノート補3コア・リジディティ100905
0ベース思考160114
Martin
ノート補2科学的戦略策定130630勝つために戦う戦略140302
Mauborgne
ノート3ノート4ノート10ブルーオーシャン戦略160313
McCall
ノート11ノート補3脱線した幹部100719
McGrath
ノート14ノート補3知的な失敗120226複雑系経営120506持続的競争優位140316競争優位の終焉160104
Moore
ノート4ノート5ノート12エスケープベロシティ120819
Page
ノート8ノート10多様性130224
Roberts
ノート2ノート5ノート6
Rogers
ノート2ノート6ノート10ノート13ノート補2
SAS
ノート11ノート補1働きがい110130
SRI
ノート9ノート補2イノベーション原則121104
Tidd
ノート1ノート3ノート5ノート6ノート8ノート9ノート10ノート11
Thomke
ノート1ノート補3製品開発の誤解121014小さなイノベーション150823
Trimble
リバースイノベーション101017リバースイノベーション121125イノベーション実行130908

伊勢田哲治:ダマされないための科学講義120122科学を語る140413クリティカルシンキング150517
伊丹敬之:ート12技術経営の常識のウソ110417技術を武器にする経営150118イノベーションって何?160403教科書を超えた技術経営160911
入山章栄:世界の経営学131020世界標準経営理論160619世界最先端の経営学161010
金井壽宏:ノート5ノート7ノート補2モチベーション110828戦略人事121118エキスパートの知130715
竹内弘高:組織的知識創造101024フロネシス120129アジャイル適用20160605
中原淳:ノート9ノート補3経営学習論130825
丹羽清:ノート序ノート1ノート2ノート3ノート5ノート6ノート8ノート9ノート11ノート12ノート14技術経営の実践的研究130429
野中郁次郎:ノート6ノート7ノート8ノート9ノート10ノート14ノート補2組織的知識創造101024イノベーションの知恵110321フロネシス120129流れを経営する120325アジャイル120527知識創造経営のプリンシプル121224ビジネスモデルイノベーション130526全員経営160515
開本浩矢:ノート7ノート11ノート12モチベーション管理110123
三崎秀央:ノート7ノート8ノート10ノート11


事項索引
詳細ページ(英字、あ~こ)

詳細ページ(さ~と)

詳細ページ(な~わ)


英数字
SECI
モデル:ノート9ノート補2組織的知識創造101024
Thinkers50
2011 Thinkers501111272013Thinkers50 131117Thinkers50イノベーション1506072015Thinkers50 151129
Time
2010発明1012051年後の2010明1112253年後の2010発明131223

あ行
アイデア:ノート1ノート3ノート5ノート6ノート補2アイデアのちから120716
暗黙知:ノート6ノート9ノート10ノート14ノート補1ノート補2
育成:ノート9ノート11ノート補1
意思決定:ノート2ノート12ノート13ノート補2ヒューリスティクス110103まさか121028ファスト&スロー130707意思決定理論140615決定力160522
イノベーション:ノート序ノート1ノート4イノベーションとは何か120722Thinkers50イノベーション150607さなイノベーション150823イノベーションって何?160403ノート全面改訂3研究の考え方160529
衛生要因:ノート7ノート11ノート補1
エコシステム:ノート14ノート補1ノート補2ノート補3
エスノグラフィー:ノート6ノート補1エスノグラフィー101219
エンパワーメント:ノート7ノート補2モチベーション管理110123
オープンイノベーション:ノート5ノート9ノート補2オープンイノベーション110110

か行
外発的動機づけ:ノート7ノート10ノート補1
科学:科学嫌い121021科学入門140518
科学技術社会論:科学との付き合い方101121科学技術と社会の関わり110718ダマされないための科学講義120122
科学哲学:科学哲学111010ソーカル事件111106感性の限界121111エコエティカ130127科学を語る140413
片づけるべき用事:ノート6ノート補1片づけるべき用事160828
技術:ノート2ノート11テクノロジーとイノベーション120401セカンドマシンエイジ160410
技術経営:ノート序技術経営の常識のウソ110417技術経営の実践的研究130429技術を武器にする経営150118教科書を超えた技術経営160911いまこそイノベーション161023
競争相手:ノート3ノート補1ノート全面改訂7環境の不確実性160919
競争優位:ノート10ノート14ノート補2ノート補3持続的競争優位140316競争優位の終焉160104
協働:ノート9ノート10ノート補1
協力:ノート序ノート8ノート10不機嫌な職場111218利他性と協力120513支援130303協力と罰の生物学150222
経営学:世界の経営学131020ヤバい経営学140209ブラックスワンの経営学150104世界標準経営理論160619世界最先端の経営学161010
形式知:ノート6ノート9ノート14ノート補1ノート補2
計画:ノート序ノート8ノート12
研究者:ノート7ノート8研究報奨100912研究者処遇101003
研究テーマ:ノート1ノート4ノート5ノート6ノート全面改訂8テーマ選定161016
行動経済学:ノート13ファスト&スロー130707嘘とごまかし130811
コミュニケーション:ノート8ノート9ノート10ノート11ノート13ノート補1コミュニケーション111113

さ行
支援:ノート7ノート補2支援130303
試行錯誤:ノート1ノート12ノート補2試行錯誤120812
資源:ノート3ノート4ノート5ノート補2
持続的イノベーション:ノート2ノート4ノート補2
実験:ノート11ノート12ノート補2
失敗:ノート8ノート14知的な失敗120226偉大なる失敗150712経営の失敗150720
冗長性:ノート8ノート9ノート10
情報:ノート1ノート7ノート11製品開発の誤解121014情報の扱い方150524ノート全面改訂2研究とは160501
自律性:ノート2ノート7ノート8ノート9ノート10ノート補1ノート補2ナットアイランド症候群100926研究者の主体性120624
信頼:ノート10ノート13研究者の主体性120624
セレンディピティー:ノート2ノート3ノート5ノート6ノート補1
専門性:ノート8ノート9ノート10ノート11
創発的戦略:ノート2ノート12ノート補2
組織的知識創造:ノート6ノート8ノート9ノート14ノート補2組織的知識創造101024

た行
多様性:ノート2ノート8ノート10ノート11ノート補1多様性130224
チーム:ノート7ノート8ノート補3ナットアイランド症候群100926チーム150426
知識創造:ノート10組織的知識創造101024知識創造経営のプリンシプル121224
デザイン:デザイン130512人と「機械」をつなぐデザイン150614101デザインメソッド160221デザイン思考の進化160807
トップダウン:ノート4ノート6ノート9ノート10

な行
内発的動機づけ:ノート7ノート10ノート補1
ニーズ:ノート3ノート4ノート6ノート補1ノート補2
ネットワーク:ノート9ノート11ノート13ネットワーク130331

は行
破壊的イノベーション:ノート序ノート3ノート4ノート9ノート12ノート補1ノート補2破壊的イノベーションの現在130804日本のイノベーションのジレンマ160111破壊的イノベーションとは何か160131破壊的イノベーションへの対抗160417
発見:ノート5ノート9発見の条件101011
発明:ノート5ノート9ノート142010発明1012051年後の2010発明1112253年後の2010発明131223
ビジネスモデル:ノート序ノート10ノート14ノート補1ノート補2ホワイトスペース戦略120109ビジネスモデルイノベーション130526ビジネスモデル改善151115世の中を変えるビジネスモデル161002
不確実性:ノート2ノート5ノート6ノート8ノート12ノート補1ノート補2ノート全面改訂4不確実性160626ノート全面改訂5不確実性考え方160724ノート全面改訂6環境の不確実性160821ノート全面改訂8テーマ選定161016
不均等の意欲:ノート3ノート4ノート補2
複雑系:ノート2ノート10ノート補1ノート補2複雑系経営120506複雑系120610
ブルー・オーシャン戦略:ノート3ノート4ブルーオーシャン戦略160313
ボトムアップ:ノート4ノート6ノート9

ま行
未来予測:ノート1ノート2ノート補1
無意識:ノート補2無意識のわな141228しらずしらず150322
モチベーション:ノート7ノート11モチベーション管理110123モチベーション110828

や行
やる気:ノート7ノート補1ノート補2モチベーション110828

ら行
リーダー:ノート11ノート補1脱線した幹部100719
リバースイノベーション:ノート4リバースイノベーション101017リバースイノベーション121125実践リバースイノベーション151227
両立可能性:ノート13ノート補


ワイドレンズ:ノート補2ワイドレンズ140119

イノベーションの様々な側面(芝浦工業大学MOT編「戦略的技術経営入門2 いまこそイノベーション」より)

イノベーションには多様な種類があり、それぞれの影響も多岐にわたることはわかっているつもりでも、どうしても自分が関わっていることに注意が集中してしまい、重要な側面を見落としてしまうことがあります。さらに、イノベーションは時代とともにその姿を変えているように思われます。そうであれば、イノベーションを包括的に理解しようとすることもさることながら、多様な考え方や、個別のケースに目を向けることも必要でしょう。

芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科編著、「戦略的技術経営入門2 いまこそイノベーション」[文献1]では、そんなイノベーションの様々な側面を取り上げ、議論がなされていますので、今回はその中から興味深く感じた点をご紹介したいと思います。なお、書かれている内容のうち、他でも多く取り上げられている議論は省略させていただいたところがありますので、つまみ食い的な引用になっている点はご容赦ください。

1、いまこそイノベーション(渡辺孝)
・「日本で起業家精神と言うとベンチャー企業設立をイメージしやすく、『新しい企業を興してチャレンジし、成功すれば大金持ちになる』的な理解のされ方をしているような感じがします。チャレンジに軸足があるのか、大金持ちに軸足があるのか、曖昧で誤解を生みます。米国のベンチャー企業設立に関する教科書などでも、金儲けを優先する精神からは成功事例はなく、自律的に自分のアイディアの実現に邁進する精神(思い入れ)を優先する場合に成功すると言っています。他社が考えつかない、あるいは可能性はないと思っているアイディアを追求することが創造ですので、必ず大きな壁に遭遇します。金儲け優先だとアイディアが良くないと考え、壁を乗り越える努力をしないで、別のアイディアに飛びついて方針を変更してしまう。思い入れを優先するとき、その実現のために必死で壁を乗り越える方策を編み出します。この思い入れの実現が起業家精神であり、ベンチャー企業を興すことに限らず、既存組織の中でも発揮されることが期待される概念です。[p.15-16]」
感想:壁を乗り越える努力と別のアイデアに飛びつくことを二者択一のように考える必要はないように思いました。自分のアイディアに対する思い入れは確かに強力ですが、要はその力をどう利用するかが重要なのではないかという気がします。

2、イノベーションを起こす人、起こす組織(町田尚)
・「イノベーションを起こす人とは誰にもマネのできない自分独自のものを創りあげて、それにこだわり続けて、徹底的に努力して結果を出そうとする人なのです。・・・そしてイノベーターに共通していることは、常に世界を目標においていることです。[p.29]」
・「長期にわたって優良事業中心に事業展開してくると製品がコモディティ化するころには会社の人材もコモディティ化してしまって、会社自体がイノベーションを起こしにくくなってしまうのです。・・・優良な大企業ほどイノベーションが起こせないと言われる原因はここにあるのです。・・・企業の持続的成長を続けるには無駄と思われても多様化が絶対に必要なのです。集中経営のリスクはコダックの倒産を考えれば理解できます。・・・イノベーションを起こす組織には、異才を放つイノベーターの存在とそれを認めるマネジャーの存在が絶対に必要な条件なのです。[p.32-34]」
感想:優れたイノベーターがいれば確かに成功の確率は上がるでしょうが、優れたイノベーター人材を探すよりも、優れたイノベーターになりうる人材をうまく活用することの方が重要かもしれません。

3、一生懸命リラックス 新幹線は必要だったのか?(堀内義秀)
・「理想化設計のプロセス(エイコフ1983)では、(1)まず現状を予断なしに把握する『状況把握』をします。(2)次に、あくまでも空想ですが、現状に一切手を加えないで放置しておいたら、そのシステムがどんなふうになっていってしまうかを空想する『参考投影』をします。この空想の狙いは、システムの崩壊までを想像することによって、そのシステムの本質的な問題点を明らかにすることです。そして(3)『理想像の策定』をします。これは、物理的に可能であり、そのシステムが外からの助けなしに自立していけること、の2点以外には制約を考えない、自由な発想でのそのシステムのあるべき姿の定義です。[p.36]」
・「新幹線を理想化設計すると、本当に仕事などで急ぐ人は別にして、そもそも、そんなに急いで何を達成したいのか、という疑問に到達します。[p.48]」
感想:イノベーションによって捨てられてしまう価値観があることは考えてみる必要がありそうです。価値観の多様化とも関係のあることかもしれません。

4、イノベーションの時代を乗り切る社会とは(安岡孝司)
・「イノベーションには企業がリスクをとってチャレンジすることが必要ですが、イノベーションに伴うリスクは立場によってさまざまです。[p.52]」「ビジネスリスク以外に、その企業に資金を出す側の投資リスクがあります。[p.53]」「イノベーションによって勝ち組が現れると、同時に負け組の企業や地域が生まれるので、イノベーションと無関係な地域に雇用やコミュニティの消滅リスクが存在することになります。[p.67]」
・「夕張市の財政破たん・・・の重大な要因は地域経済が一つのビジネスに集中しすぎていたことです。[p.70]」
感想:イノベーションの負け組が与える影響を考えることは興味深い視点だと感じました。とにかく、できる限り広い範囲でリスクへの対応を考えておくことが重要なのだろうと思います。

5、創造的で元気な社会こそが強みになる(平野真)
・「分業化された技術を推し進めるためには、技術者は技術に専念し高度な研究能力を養う必要がありました。スミスのいう分業の促進が、こうした世界の発展を今でも牽引していることは間違いありません。しかし・・・専門化が進めば進むほど、ひとつの仕事を担当している人には、全体像が見えにくくなるという問題が発生します。・・・全体を見通す経営的視点も弱くなり、場合によってはその専門性の中で暴走していくという問題が起こります。・・・単に分業を推し進めるだけでは利益は生まれないのであり、市場に合わせた経営的な統合化の能力が問われることになるのだと思います。[p.79]」
・「単にGDPや有形的な経済力だけでなく、人々の連携力や人を思いやる姿勢、専門性に凝り固まるのではなく広く外部の人との交流を許容する文化、教育を重視し人間の人格的な成長を見据えた教育手法の開拓など目に見えない様々なアスペクトも含め、社会全体が創造的で活力に富むような仕組みになっていくことが、これからの私たちに大きな強みとなるのではないでしょうか?[p.93]」
感想:近視眼的な考えになってしまう一因に分業システムがある、というのは興味深い視点だと思います。部分最適の総計が全体最適になるとは限らないことはよく認識しておくべきことでしょう。

6、どうやって企業を変えるのか(稲村雄大)
・企業が変われない理由:①有能性の罠(competency trap、「それまで競争優位の源泉となってきた資源が、とりわけ経営陣の環境の変化や自社の優位性に対する認識に影響し、結果として変化の必要性に対する認識、すなわち危機意識を低下させてしまう[p.103]」)、②経路依存性(path dependency、「特定のルールや仕事のやり方を採用する人が多くなればなるほど、それらの人々が一緒に仕事を行なう際の調整に必要な手間や時間(調整コスト)を節約することができ[p.105]」るという調整効果、「新たな活動を行なう際には、当然ながら社内で構築されている能力を活用することが期待され、それによっていかにシナジーを効かせるかということが重視され[p.105]」る補完効果、「特定のオペレーションが繰り返されることによって効率性が高まり、スキルが向上し、結果として単位当たりの平均的なコストが低下するという[p.106]」学習効果、「その組織でこれまで成功してきたやり方、すなわちベストプラクティスを他のメンバーも採用することを期待[p.106]」する適応的期待効果)、③組織の構造慣性(structuralinertia、「ステークホルダーが求める信頼性や説明可能性を確保するためには、企業はその活動や構造を安定的で再現可能なものにする必要があります。そしてそれが、目標の形式化や活動パターンの標準化を促進します[p.110]」)
・「企業において変化を妨げる原因やメカニズムにはいろんなものがありますが、それらすべてに共通しているのは、企業が変化を機会ではなく脅威としてとらえているという点です。・・・企業を変えるためのカギは、変化を脅威ではなく機会ととらえることにあるのかもしれません。[p.114]」
感想:コンピテンシートラップについては、知の探索よりも知の深化を重視する傾向という理解もあるようですが、過去の競争優位によって探索や変化が妨げられるという点で同じなのだろうと思います。知の探索のために機会を重視するというのは興味深い視点だと思いました。

7、イノベーションを推進するリーダーの育成(野村和宏)
・「長らく終身雇用、年功的処遇の中で仕事をし、滅私奉公的な働き方や価値観をいろいろな場面で求められ、刷り込まれてきた社員は、自由と自己責任、自立した個としての生き方・働き方を求められても、一朝一夕にそちらへの切り替えをすることは大変難しい。・・・日本企業の、将来を見据えた戦略的な人材育成は今後も鋭意努力が必要となりますが、・・・企業のみならず国としての本格的な取り組みが求められることは間違いありません。[p.129]」
感想:リーダーの育成は確かに重要な問題だと思います。実践家にも何かできることがあるのか、考えてみる必要があるかもしれません。

8、顧客とつくるイノベーションビジネス(小平和一朗)
・「イノベーションといわれる革新的な新規のビジネスをつくり出すには、開発段階から顧客の潜在ニーズを積極的に掘り起こして、具体的なビジネスを顧客と共に作り上げることで競合社との競争に優位に立つことができます。その対応策としてモノづくりやコトづくりの分かる人間が、顧客と一緒になって顧客の求める技術開発に取り組むことが有効です。[p.131]」
・「過去の経験や知識に基づく経営だけでは、売上を伸ばすことが難しい変革の時代、マーケティングは営業部門の仕事という固定観念は通用しません。・・・技術が分かり、市場の創生に取り組めるエンジニアが、変革の時代を牽引していきます。・・・経営課題は、顧客から信頼される、誠実で有能な人材を育成することです。[p.150]」
感想:顧客、とは限らず、様々なステークホルダーとの協働は、これからのイノベーションの進め方として重要になっていく気がします。

9、知的財産権をイノベーションに活用する(田中秀穂)
・技術を活用して「もの」や「サービス」を生む価値創造の活動:Alliance(合従連衡)、Entry Barrier(参入障壁)、Customer Value(顧客価値)、Differentiation(差別化)[p.154
・「特許権は、技術(発明)を保護するための手段として大変重要です。・・・しかし、当然ながら参入障壁を構築すること自体は目的ではありません。目的はあくまで付加価値を獲得することです。そのためには、他社の参入を阻止するばかりではなく、他社と協働して市場を拡大したり、他社との分業もしくは取り込みによって効率化を図ることも重要です。ここではこれを『合従連衡』という言葉で表しています。・・・この合従連衡のプロセスにおいても、特許権などの知的財産権はパートナー間の取引の基礎として重要な役割を担っています。[p.158-159]」
・「多くのデータが、情報伝達速度の上昇や、それに伴う模倣のタイムラグが急速に短くなっていることを示しています。」「特許権の通常の有効期間である20年間という時間の価値は、情報伝達速度が上がれば上がるほどますます上昇していくことになります。[p.159]」
・「発明の内容が公開されることにより、その情報を活用して新たな事業を立ち上げることが可能です。模倣的事業です。・・・この中には、使用した発明情報の単なる延長上にあるもの以外に、新たな顧客価値の創造を生み出した、いわゆる創造的模倣も含まれます。[p.165]」
感想:技術を収益化する手段のひとつとして、特許を合従連衡に使うという視点は、もっと考えられてもよいのかもしれません。

10、これからの建設ビジネス戦略(谷口博昭)
・「建設ビジネスは、他産業と異なる取組みが必要であるが、・・・完工高のみを追求するのでなく適切な利益を確保し、長期的視野に立っての環境整備が不可欠である。[p.186-187]」
感想:インフラのイノベーションは一企業内で考えるイノベーションとは違う側面を持つという視点は興味深く感じました。

11、豊かな世界の実現に向けて――適正技術イノベーション――(渡辺孝)
・適正技術:国際援助に「必要なのは成熟国の技術ではなく、その国の社会経済環境に見合った技術の導入[p.192]」。「現地の生活に不可欠な最重要なニーズへの対応を、現地で発想し、現地で実用化し、現地の人々が生産し、現地の人々が購入する。[p.193]」
・「世界を豊かにするには、ピラミッドの底辺に対応するイノベーションが求められ、その鍵を握るのが『適正技術』です。[p.203]」
感想:適正技術という考え方は、特にリバースイノベーションやフルーガルイノベーションの基礎となる考え方として重要だと思います。
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上記それぞれの考え方の有効性についてはそれぞれ議論があると思います。特定の状況のみに対応した考え方で適用の汎用性が限定されるものもあるでしょうし、異論のある考え方もあるかもしれません。しかし、もし、自分とは異なる視点からの考え方があるなら、よりよい選択肢を考えるヒントになることもあるのではないでしょうか。イノベーションの多様性を改めて認識させられるとともに、技術者であっても広い視野を持つことの重要性を感じます。


文献1:芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科編著、「戦略的技術経営入門2 いまこそイノベーション」、芙蓉書房出版、2013.

研究開発実践のマネジメント-不確実性に着目した課題設定のすすめ:研究開発マネジメントの実践と基礎知識2.1(「ノート」全面改訂第8回)

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと
1.1
、研究開発とは?
第2回第3回
1.2
、研究開発活動が本来的に持つ不確実性第4回第5回
1.3
、研究開発活動に影響する環境要因第7回

2、研究開発実践のマネジメント
前回まで、研究開発を進めるにあたり認識しておくべき最も基本的なことを議論してきました。今回からは、研究開発実践のマネジメントについて考えていきたいと思います。研究開発を進める場合、一般的には、まず何に取り組むかを決め(いわゆる研究テーマ設定)、研究に取り組み(研究の実行)、得られた成果を活用する(実用化、その後のフォロー)、という過程をたどります。もちろん、これらの過程はこの順番に進むとは限らず、実行段階や実用化段階から振り出しに戻ってテーマを見直したり、それぞれの段階が並行して進められる場合もありますが、研究をどう進め、どうマネジメントすべきかを考える上で、上記のように区別して考えるのは便利ですので、以後、およそこの順番に沿って、各過程でのマネジメントの問題を考えていきたいと思います。

2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
まず今回からしばらく、研究課題(研究テーマ)設定の問題について考えます。研究テーマはどんなことに注意してどのように決めるのがよいのでしょうか。そのポイントを考えてみたいと思います。

1)テーマ選びのポイント:どこに不確実性があるかの見極め
研究開発課題とされるものには通常次の2つのレベルがあります。
・達成すべき目的自体を研究課題と捉える:例えば、こんな機能を持った新製品を開発する、こんなイノベーションで世の中をこう変える、等。
・目的達成のためにブレークダウンして具体化された課題:例えば、その製品をうまく生産する方法を探る、市場に受け入れられるような機能やスペックを作り込む、等
そして、その両者において、本シリーズの第4回で研究開発において最も重要なこととして指摘した「不確実性」が重要な要素になると考えられます。

研究開発を成功させるには、なるべく不確実性の少ない課題を選び、残された不確実性をうまく解決していくことが早道でしょう。従って、達成すべき目的のどこにどの程度の不確実性があるか、その不確実性が解消できそうかを見極める必要があります。そして、大きな不確実性を構成している要因を分析して、小さな不確実性にブレークダウンして選別し、解決すべき小さな不確実性を具体的な研究テーマとして研究を進めていくのが常識的なやり方でしょう。そのためには、まずは課題の持つ重要な不確実性を漏れなく抽出し、その重要度を評価する必要がありますが、私は以下の3つの要因に基づいて考えることを提案したいと思います。
①課題の実現における不確実性:例えば、製品を製造する技術は確立されているのか、技術的な課題を解決するための手がかりはあるのか、など。要は「できるのか?」ということです。
②ニーズの不確実性:例えば、提供する価値を顧客が評価してくれるのか、顧客のニーズはわかっているのか、など。要は「売れるのか」です。
③市場に届ける方法、競争に勝ち残る方法に関する不確実性:例えば、どんなビジネスモデルを使えばよいのか、どのようなしくみで収益をあげ、競争に勝ち残るのか、など。要は「儲けを出し、持続させる仕組み」です。

ごく単純化すると、①は技術、②はニーズ、③は市場、ビジネスモデル、ということになりますが、それぞれの種類によって、不確実性を減らすための方法がある程度類型化できると思っています。世の中には様々な研究の分類がありますが、研究の性質に従った分類は必ずしも実践に必要な情報を与えてくれるとは限りません。不確実性に基づいた研究の分類には、研究の進め方についての指針が得られやすいという利点があるのではないかと思っています(具体的な進め方は2.1.1以降で考えます)。

2)不確実性の分析の例

アイデアの源と不確実性のパターン
研究のアイデアがどこからもたらされるかによる研究テーマの分類方法があります。例えば、「サイエンス・プッシュ」「テクノロジー・プッシュ」vs.「マーケット・プル」「デマンド・プル」、あるいは「シーズ志向」vs「ニーズ志向」というような分け方ですが、一般的には、その両者の要素を組み合わせることが重要だ、という指摘が多くなされているようです。(例えば、「サイエンス・プッシュ」と「マーケット・プル」を組み合わせる「カップリングモデル」[文献1、p.119-121]、テクノロジー・プッシュ型とニーズ・プル型の相互作用が重要であるとの指摘[文献2、p.54]など。)

これを不確実性の観点から考えると次のように理解できると思います。自社が保有している技術シーズを活用して新しいことをしようとする場合、技術の不確実性(上記①)はそれほど高くない状況でしょう。これに対して、ニーズがあるかどうか(上記②)、市場にうまく届けられるのかどうか(上記③)に関する不確実性は高いことが多いでしょう。これとは異なり、ニーズに基づいたテーマを考える場合は、ニーズはある(実現できれば売れる見込みがある)とすると、ニーズの不確実性は(上記②)は低く、技術的に実現できるか(上記①)に関する不確実性は高く、市場への届け方や市場での勝ち方(上記③)の不確実性はプロジェクトによる(従来の販路と競争環境が前提なら不確実性は低く、新たな顧客のニーズを想定している場合には不確実性は高い)ということになるでしょう。

こう考えると、研究テーマのアイデアの源は、不確実性が最も小さい(小さく見える)要素と言えると思います。つまり、技術の不確実性が低い場合がシーズ指向、ニーズの不確実性が低い場合がニーズ指向、ということです。ちなみに、市場への届け方(上記③)の不確実性が低い例としては、いわゆる品質改善のような研究が挙げられるでしょう(高品質化するための技術は不確実性が比較的高いが、従来と同じ顧客に届けることを想定して、市場への届け方の不確実性が低いという状況)。しかし、不確実性の小さな要素に基づいたテーマ設定は、重大な不確実性を見落してしまうリスクがあります。例えば、従来の販路を用いた改善研究で、品質さえ上げられれば、ニーズはあると思っていたのに、実際はそんな高い品質を求めるユーザーがいなかったことが判明するような場合です。結局のところ、上記①~③のすべての不確実性を解消しない限りイノベーションの成功が難しいことを考えると、アイデアの源にだけ注目して、ニーズ指向とシーズ指向の優劣を考えるようなアプローチでは、成功するイノベーションの創出には限界があるのではないかと思われます。

破壊的イノベーションはなぜ成功しやすいか
不確実性の視点から「成功しやすいテーマ」を考えてみると、①~③のどの不確実性も低いテーマということになります。しかし、そんなテーマがもしあったとすると、参入者が増える可能性が高くなるでしょうから、競争が激しくなり、将来的には、市場で勝てるかどうか(上記③)の不確実性が高くなってしまうことが予想されます。つまり、不確実性を考える際には現在の不確実性だけではなく、将来どうなるか、競争相手がどう動くかも含めて考慮する必要があると言えます。

どのようなイノベーションが成功しやすいのかについては様々な意見がありますが、私が最も成功しやすいと考えているのは、いわゆる「破壊的イノベーション」です。そもそもイノベーションの類型化は、それほど厳密に行われているわけではないので、破壊的イノベーションが最も成功しやすい、というのは非常に乱暴な議論ではありますが、破壊的イノベーションという類型に分類されるようなイノベーションが成功しやすいことは比較的多くの方が認めておられるように思います。ここでは、その理由を上記の不確実性の観点から考えてみたいと思います。

まず、破壊的イノベーションの概要をまとめておきましょう。
Christensen
は、業界をリードしていた優良な企業が、ある種の市場や技術の変化に直面したとき、特段の経営上の失敗もないのにその地位を守ることができなくなった事例の分析を行ない、次のようなメカニズムが存在することを示しています。[文献3に基づき要約]

・ある技術の改良の速度が技術的要求(ニーズ)の進歩の速度を上回ることがある。

・その結果、技術はオーバースペックになる。

・オーバースペック技術であっても、収益率は高いことが多いし、ハイスペックを求める顧客も存在するので、企業はその技術をさらに進歩させようとする。

・往々にして収益性の高さや、既存顧客の確保のために、オーバースペック技術の開発に資源を集中させる。

・その結果、ハイスペックを求めない市場への興味を失い、対応が手薄になる。

・ハイスペックを求めない市場に新たな企業が参入する。

その参入方法は、以下の2通りの場合があるとされます。[文献4、p.493500に基づき要約]

a)ハイスペックを求めない顧客(ローエンドにいる顧客)に対し、それまで以上の利便性か、低い価格を用意する場合

b)従来のスペックで重視される尺度から見れば限界はあるものの今までにない特性からすれば様々な恩恵を与えてくれる製品で新たなマーケットを創造する場合

・いずれの場合も既存企業から見れば利益率が低かったり、市場が小さかったりして魅力の薄い市場であるため、既存企業と新規参入企業間での競争は起こりにくく、新規参入企業の成長は妨げられない。

・新規参入企業の進歩により、既存企業は従来の市場を奪われ、限られた顧客向けのハイスペック市場に追いやられたり、新規参入企業が開拓した新たなマーケットに参入を試みても失敗したりする。

・その結果、既存企業は優位な地位を失う。

 

このメカニズムにおいて、新たに参入する企業が武器として活用する製品ないしビジネスモデルは「破壊的(disruptive)イノベーション」と呼ばれ、既存企業が狙うハイスペックな技術、製品、ビジネスモデルは「持続的(sustaining)イノベーション」と呼ばれます。さらに破壊的イノベーションのa)の場合が「ローエンド型破壊」、b)の場合が「新市場型破壊」と呼ばれています[文献5、p.55]

 

Christensenはこのメカニズムに基づき、「既存事業を成長させるためには持続的イノベーションが重要だが、新成長事業として成功する確率が高いのは破壊的戦略である」[文献5、p.125]と述べています。さらにChristensenの共同研究者らは「持続的イノベーションだけを行なっている企業は、破壊的イノベーションを行なう他社に市場奪回の機会を提供してしまったり、すばらしい成長機会が間近にあるにもかかわらずそれを逸してしまったりという結果になる」[文献6、p.9]、「学術的研究によれば、持続的イノベーションにおける戦いでは常に既存プレーヤーが勝利する」が、「破壊的イノベーションの戦いにおいては、ほとんどの既存のプレーヤーが敗れることを示唆する調査結果がある」[文献6、p.26]という見解も述べています。

この破壊的イノベーションを上記の不確実性の観点から考えるとどうなるでしょうか。興味深いのは、Christensenが、「刺激的な成長事業に乗り出そうと奮闘する企業にとっての根本的な問題が、優れたアイデアの不足であることはほとんどない」[文献5、p.19]、と述べている点です。この「優れたアイデア」とは、技術的なアイデアも含むと考えられますので、破壊的イノベーションでは技術的不確実性の高い分野にあえて入っていく必要はなく、不確実性の低い技術アイデアを使っていても十分に成功は可能であると言っていると考えられます。ニーズの不確実性についてはどうでしょうか。新市場型破壊ではニーズの不確実性は比較的高いと言えるでしょう。しかし、ローエンド型破壊では、ハイスペックを求めない顧客をターゲットにしている点で、ニーズの不確実性は低いと見込めるでしょう。市場についての不確実性はどうでしょうか。新たなビジネスモデルを作る必要がある場合もあるでしょうから、それなりの不確実性はあると考えられますが、市場での競争の面では、既存企業が破壊的な新規参入者に戦いを挑んでこない可能性が高く、市場での生き残りにおける不確実性は比較的低いと考えられます。つまり、破壊的イノベーションの不確実性は全体的にみるとそう高くないと言えると思います。

この時のポイントは、特定の要因についての不確実性の低さのみに依存するのではなく、3種類の不確実性をうまく下げているところだと思います。これに対して、その他の研究テーマでは往々にして、特定の要因の不確実性の低さを武器にして、残りの不確実性にはいい加減な仮定をおくケースがあります。例えば、品質を上げれば、顧客は欲しがるはず(ニーズがあるはず)といういい加減な仮定で研究を進めたり、ニーズもあって技術的にも実現できたのに、市場での競争で敗れ去ってしまうということもあります。このように重要な不確実性を見落してしまうと、研究の成功の確率はぐっと下がってしまうでしょう。

要は、どんな研究に取り組むかを考える際には、3つの観点から不確実性に着目して研究の目的を選び、ブレークダウンした不確実性のどれを解消すべきかを見極めることが重要と考えます。もちろん、アイデアの源、研究の足がかりとして、不確実性が低い点を特徴にしたテーマを設定することはかまいませんが、そんな時にも他の不確実性の評価を忘れずに、ブレークダウンしたテーマを適切に設定して、全体の不確実性を下げていくことが必要なのではないかと思われます。


文献1:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.
文献2:Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K., 2001、後藤晃、鈴木潤監訳、「イノベーションの経営学」、NTT出版、2004.
文献3:Christensen, C.M, 1997、クレイトン・クリステンセン著、伊豆原弓訳、「イノベーションへのジレンマ」、翔泳社、2000.
文献4:Christensen, C.M, Anthony, S.D., Roth, E.A., 2004、クレイトン・M・クリステンセン、スコット・D・アンソニー、エリック・A・ロス著、宮本喜一訳、「明日は誰のものか」、ランダムハウス講談社、2005. (現在は櫻井祐子訳による改訳版「イノベーションの最終解」、翔泳社、2014が市販されていますが、本ブログ記事での引用部分は旧訳によるものです)
文献5:Christensen, C.M, Raynor, M.E, 2003、クレイトン・クリステンセン、マイケル・レイナー著、桜井祐子訳、「イノベーションへの解」、翔泳社、2003.
文献6:Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V.,Altman, E.J., 2008、スコット・アンソニー、マーク・ジョンソン、ジョセフ・シンフィールド、エリザベス・アルトマン著、栗原潔訳、「イノベーションへの解実践編」、翔泳社、2008.

「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」(入山章栄著)より

技術者が仮説の妥当性を判断しようとする場合、普通、何らかの裏づけとなる根拠を求めます。しかし、学校で習うことや教科書に書いてあることを適用、応用するだけでは答えが出ない、最先端、未開拓の分野では、判断の根拠が十分にあるとは限りません。そんな不確実な状況ではどのように考えるべきなのか。そんなときは、「本当にそうか」(根拠を求める)、「なぜそうなるのか」(原因を推定する)、「そうだとしたらどうなるはずか」(検証すべき新たな仮説を導く)という質問をするとよい、とよく言われます。

不確実性の度合いは、分野によって異なりますが、経営学はどうなのでしょうか。経営学は人間と人間の集まり(組織)の行動に深く関わる分野ですので、まだ未開拓のところが多いように感じます。そんな経営学の最先端でどんなことがどのように議論されているのか、どこまでわかっていて(多くの専門家の合意が得られていて)何がわかっていないのかを知ることは実務家にとっても有用なことだと思います。今回は、最先端の経営学の動向からいくつかの興味深いポイントを解説した「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」(入山章栄著)[文献1]の中から、マネジメントの実践に役立ちそうな考え方を見てみたいと思います。

Part
1、いま必要な世界最先端の経営学
第1章、なぜビジネススクールでは最先端の経営学が学べないのか
第2章、「経営学は役に立たない」についての二つの誤解

・「現在の経営学では、『経営学者(=ビジネススクールの教員)が授業で教えていることと、彼らがいま最前線の研究で得ている知見の間に、きわめて大きなギャップが存在する』[p.14]」。
・「経営学は何を提供できるかというと、それは(1)理論研究から導かれた『真理に近いかもしれない経営法則』と、(2)実証分析などを通じて、その法則が一般に多くの企業・組織・人に当てはまりやすい法則かどうかの検証結果、の二つだけです。そして、この二つを自身の思考の軸・ベンチマークとして使うことが、経営学の『使い方』だと私は考えてます。[p.34-35]」

Part
2、競争戦略の誤解
第3章、あなたの会社の戦略がうまくいかない、最も根本的な理由
第4章、成功しやすいビジネスモデルの条件とは何か

・「経営学は、企業の戦略を『競争戦略(事業戦略)』と『企業戦略』に大別します。前者は『特定の業界・市場で、企業がどのような戦い方をしていくか』を考えるもので、後者は『複数の業界にまたがってビジネスする企業が、全体としてどのように戦略を進めるか』を考える分野です(広義の多角化戦略といえます)[p.43]」。
・ポーターの競争戦略(SCP戦略):「代表的なフレームワークが、『ポジショニング戦略』です。ポジショニングとは『業界内のライバルと比べて、自社がどのような製品・サービスを顧客に提供していくか』を考えるものです。この『ポジション』は2種類に分かれます。一つは、同業他社と差別化した製品・サービスを提供して顧客に追加価値を提供する『差別化戦略』であり、もう一つはコスト削減に注力して、例えば同業他社よりも低い価格をつけて市場シェアをとる『コストリーダーシップ戦略』です。[p.44]」
・リソース・ベースト・ビュー(RBV):「『企業の競争優位に重要なのは、製品・サービスのポジションではなく、企業の持つ経営資源(リソース)にある』とする考え方です。[p.45]」
・3つの競争の型と有効な戦略:①IOIndustrialOrganization、産業組織)型(「業界構造が比較的安定した状態で、その構造要因が企業の収益性に大きく影響する業界」で「有効な戦略は、ポーターのSCP戦略[p.46]」。②チェンバレン型(「IO型よりも参入障壁が低く、複数の企業がある程度差別化しながら、それなりに激しく競争する型」)では「技術・人材などの経営資源に注目するRBVに基づく戦略が有用[p.47]」。③シュンペーター型(「特徴は、『競争環境の不確実性の高さ』[p.48]」)で、「SCP戦略やRBVに基づいた戦略は通用しなくなります。なぜなら、この手の戦略は『競争環境が当面変わらない』『顧客ニーズに対応するための自社の強み(リソース)は、当面変わらない』といった前提で立てられるからです。・・・このシュンペーター型の競争で必要なのは、・・・例えばリアル・オプションを基礎においた考えは有用かもしれません。[p.52]」
・「競争戦略論では通常、『コスト優位戦略よりも、差別化戦略のほうがよい』とされます」。ビジネスモデルの観点からは「新奇性」が重要。[p.64-65

Part
3、先端イノベーション理論と日本企業
第5章、イノベーションの絶対条件!「両利きの経営」を進めるには
第6章、なぜ大企業は革新的イノベーションについていけないのか
第7章、「チャラ男」と「根回しオヤジ」こそが、最強のコンビである

・知の探索(Exploration)と知の深化(Exploitation)を「バランスよく進めていくことを、両利き(Ambidexterity)という[p.76]」。「実証研究では、『イノベーションにたけた企業ほど、この両利きの経営をうまく実現している』といった結果が発表されるようになってきています。[p.76]」
・タッシュマンとオライリーによる両利きの組織体制の提案:「新しい事業を探求する部署には、(1)そのビジネスに必要な機能(例えば開発・生産・営業)をすべて持たせて『独立性』を保たせること、(2)他方でトップレベル(例えば担当役員レベル)では、その新規部署が既存の部署から孤立せずに、両者が互いに知見や資源を活用し合えるよう『統合と交流』を促すこと、が重要[p.82]」
・タッシュマンらによる両利きのリーダーシップ:「(1)自社の定義する『ビジネスの範囲』を狭めず、多様な可能性を探求できる広い企業アイデンティティーを持つこと、(2)『知の探索』部門と『知の深化』部門の予算対立のバランスは経営者自身がとること、(3)そして『知の探索』部門と『知の深化』部門の間で異なるルール・評価基準をとることをいとわないこと[p.84]」。
・ヘンダーソン、クラークによる知の区別:「『コンポーネント(部分的)な知(ComponentKnowledge)』とは、製品・サービス開発における『特定部分の設計デザイン』についての知識・・・他方で、それらの部分を組み合わせて一つの最終製品にするための知が、『アーキテクチュラルな知(Architectural Knowledge)』です。・・・業界で新しい製品が生まれてからしばらくは、部品同士の最適な組み合わせについて試行錯誤が続きますから、企業に主に求められるのは『アーキテクチュラルな知』になります。しかし時間がたつにつれ、組み合わせについて業界で標準化が進んでいきます。これを『ドミナント・デザイン』と呼びます。一旦ドミナント・デザインが確立されると、その後は部品それぞれの機能を高めるための『コンポーネントな知』が重要になっていきます。ここで重要なのは、製品やサービスのドミナント・デザインが確立するにつれ、企業の組織構造やルールもそれに順応していくことです。・・・表面上の組織構造に加え、企業内でのふだんのインフォーマルな情報交換の緊密さなども、ドミナント・デザインに影響されてしまう[p.86-87]」。「イノベーションの源泉の一つは新しい組み合わせを生み出せる『アーキテクチュラルな知』[p.93]」
・「ペリースミスらの研究が示すように、そもそも人がクリエイティブになるには『弱い人脈』が重要です。しかし、いざ創造的なアイデアを出したら、それを社内で売り込むため、むしろ『強い人脈』を多く持つことが求められる[p.103]」
・どうしたら知の探索を促しながら組織学習を高められるかについてのマーチの分析:メンバーが組織の考えを学ぶスピードは遅いほうがよい、学ぶのが速いメンバーと遅いメンバーが混在しているほうがよい、メンバーは一定の比率で入れ替えがあったほうがよい。[p.108-109

Part4、最先端の組織学習論
第8章、組織の学習力を高めるには、「タバコ部屋」が欠かせない
第9章、「ブレスト」のアイデア出しは、実は効率が悪い!
第10章、「失敗は成功のもと」は、ビジネスでも言えるのか

・トランザクティブ・メモリー:「組織のメンバーが『ほかのメンバーの誰が何を知っているか』を知っておくこと」[p.113
・「ホリングスヘッドは、目と目を合わせる『アイコンタクト』や顔の表情を通じてのコミュニケーションが、トランザクティブ・メモリーを高める効果を主張[p.118]」
・「経営学研究では、『ブレストでアイデアを出すのは、実は効率が悪い』という結果が得られています。[p.122]」ブレストは、トランザクティブ・メモリー強化と、シェアード・メンタル・モデル(基本となる思考体系の共有)を強化することで、企業全体の学習能力を高める。[p.127-129
・成功体験と失敗体験の効果:「失敗を経験すればするほど・・・新しい知見を求めてサーチ行動をするようになります。・・・逆に成功体験を重ねると『自分のやっていることは正しい』と認識しますから、いつのまにかサーチ行動をとらなくなる[p.138-139]」。「『失敗をほとんどしないまま、成功だけ積み重ねる』と、サーチ行動が十分でないまま成功してしまうので、結果長い目で見た成功確率が下がる[p.140]」。

Part
5、グローバルという幻想
第11章、真に「グローバル」な企業は、日本に3社しかない
第12章、「世界がグローバル化した」「フラット化した」を疑え

・「海外の経営学(と経済学)では、『現在の世界は、我々が何となく思い込まされているグローバル化とはかなり違う状況になっている』という事実が、次々に示されています。[p.158]」
・「ゲマワットの分析などから、いま世界は完全なグローバル化からはほど遠く、むしろセミ・グローバリゼーション(中途半端なグローバル化)の状況に近いことが分かっています。・・・ゲマワットが提示しているのは、『AAA(トリプルエー)』というフレームワークです。[p.171]」それは、集積(Agglomeration、生産・開発拠点などを一国に集中させ、スケールメリット・集積による学習効果を高める)、適応(Adaptation、一国一国の顧客や経営環境の違いに、細かく対応することに注力する)、裁定(Arbitrage、労働コストの低い国に生産拠点を移すなど、国と国の格差をあえて活用する)[p.171-172]「ここで大事なのは、AAAのうち『どれを選び、どれを組み合わせ、どれを捨てるか』のメリハリをつけることだと、私は考えています。[p.172]

Part
6、働く女性の経営学
第13章、日本企業に、ダイバーシティー経営は本当に必要か
第14章、男性中心職場での「できる女」の条件

・「『組織メンバーの多様性の効果』について・・・近年になって、学者の間でも大まかな一つの合意が形成されてきた、というのが私の認識です。それは『ダイバーシティーには二つの種類があり、その峻別が重要である』ということなのです。その二つとは『タスク型の人材多様性』と『デモグラフィー型の人材多様性』です。『タスク型の人材多様性(Task Diversity)』とは、実際の業務に必要な『能力・経験』の多様性です。例えば『その組織のメンバーがいかに多様な教育バックグラウンド、多様な職歴、多様な経験を持っているか』などがそれに当たります。他方、『デモグラフィー型の人材多様性(Demographic Diversity)』とは、性別、国籍、年齢など、その人の『目に見える属性』についての多様性です。[p.178-179]
・「世界の経営学で分かってきているのは、組織に重要なのはあくまで『タスク型の人材多様性』であって、『デモグラフィー型の人材多様性』ではない、ということです。[p.181]
・「『デモグラフィーが多次元にわたって多様であれば、組織内の軋轢はむしろ減り、組織パフォーマンスは高まる』という命題を支持する結果が得られています。[p.184-185]」(フォルトライン理論からの示唆)
・組織の深化の視点からは、「組織は成長ステージなどによってバリエーション(変化)→セレクション(選択)→リテンション(維持)というメカニズムを経験します。・・・セレクションとリテンションの段階で、組織は同質(homogeneous)の人材をそろえがちになります。・・・しかし、組織の成長ステージがさらにこれ以上進むと、周囲の環境変化に対応できなくなるなどの理由から、むしろ今度は再びバリエーションが必要になります。・・・企業が多様性を求めるべきか否かには、その会社が成長ステージのどこにあるかを見極めることが重要になります。[p.198-199]

Part
7、科学的に見るリーダーシップ
第15章、これからのリーダーシップに向くのは、どのような人か
第16章、成功するリーダーに共通する「話法」とは

・2種類のリーダーシップ:トランザクティブ・リーダーシップ(「部下の自己意思を重んじ、まさに取引のように(=トランザクティブ)部下とやりとりするリーダー・・・部下に対して『アメとムチ』をうまく使えるタイプ」、成果をあげた部下に対して正当な報酬をきちんと与えるコンティンジェント・リワード、部下の失敗に対処するのに問題を起こす前に介入する能動型マネジメント・バイ・イクセプション、失敗してから対処する受動型の3つの資質がある)、トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(啓蒙を重視、ミッションを明確に掲げ、部下の組織に対するロイヤルティ―を高める、事業の将来性や魅力を前向きに表現し、部下のモチベーションを高める、新しい視点を持ち込み、部下のやる気を刺激する、個別に向き合いその成長を重視する4つの資質がある、内発的な動機を高めやすい可能性がある)[p.203-205,225]
・全般的な傾向として、『相対的に『トランザクティブ型』よりも、『トランスフォーメ―ショナル型の4資質』を持ったリーダーのほうが、高い組織成果につながりやすい』[p.206]」(特に不確実性の高い環境において)
・「『カリスマ』『偉大なリーダー』と評価される人は、自身のビジョンを伝えるために、イメージ型の言葉やメタファー、すなわち『相手の五感に訴える』言葉を使う傾向があります。[p.221]

Part
8、同族企業とCSRの功罪
第17章、日本最強の後継社長は「婿養子」である
第18章、CSR活動の思わぬ副次効果とは

・「同族企業は業績が悪くないどころか、非同族企業よりも業績が高くなる可能性も主張されている。[p.228]
・「『CSRは企業収益に貢献する』という研究結果が、近年多く出てきています。[p.240]

Part
9、起業活性化の経営理論
第19章、日本の起業活性化に必要なこと(1)簡単な「キャリア倒産」
第20章、日本の起業活性化に必要なこと(2)サラリーマンの「副業天国」
第21章、成功した起業家に共通する「精神」とは

・事業のたたみやすさ、キャリアのたたみやすさが起業のオプション価値を高める。
・「ハイブリッド起業とは、『会社勤めを続けながら、それと並行して起業すること』・・・世界的にみると、ハイブリッド起業はきわめて一般的な形態であることが、近年の調査で明らかになりつつあります。[p.264]
・クリステンセンらによるイノベーティブ・アントレプレナーに共通する思考パターン:クエスチョニング(現状に常に疑問を投げかける)、オブザーヴィング(興味を持ったことを徹底的にしつこく観察する)、エクスペリメンティング(仮説を立てて実験する思考)、アイデア・ネットワーキング(他者の知恵を活用する)[p.280-281]

Part
10、やはり不毛な経営学
第22章、「もうかる理由って結局なに?」を突き詰める学者たち
第23章、「リソース・ベースト・ビューが捉えきれないこと」とは何か

・「経営学者の多くは、・・・複雑な経営にひそむ真理を探究するために、まずは『部分の分析』に力を注いでいる[p.311]

Part
11、海外経営大学院の知られざる実態
第24章、ハーバードを見て、米国のビジネススクールと思うなかれ
第25章、米国の大学の裏事情は、中国人が一番知っている
第26章、来たれ!世界最先端の経営学を語る人材よ

・アメリカのビジネススクールを中心とした経営学研究と教育システムについての著者見解。
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いわゆるビジネス本で語られる内容ではない、このような経営学研究の最先端の情報を知ると、自然科学の研究との共通性を強く感じます。経営学が社会科学として、科学的な真理の追求、理解を目指しているがためにアプローチが自然科学と似てくる、ということもあるかもしれませんが、そもそも未知の領域に分け入って、少しでも真実に近づこうとすると、そのアプローチは自ずと似てくるのかもしれません。最先端の分野では、学界でも意見が定まらないこともあり、そんな知見や仮説は、教科書にも載りませんし、授業で講義されることもありません。紹介されたとしても、「こんなこともあるよ」という程度になるので、最先端のことが学校で学べないのは自然科学でも同じです。もちろん、分野によって用いる手法は異なりますが、根拠を求め、原因の妥当性を検討し、仮説を立てて検証するというアプローチは新たな知見を得て物事を理解するための重要な方法になります。そう考えると、経営学は、いわゆる理系の研究者にこそ馴染みやすい学問分野のような気もしてきます。

ただ、自然科学の世界では、大学の研究者も企業の研究者も同じ学会に出席して基礎と実務の世界での交流があります。しかし、経営学の世界では経営学者と経営者の交流は(日本では)それほど活発ではないと思います。まずは、このような最先端の研究の知見を実務家に届ける機会がもっと増えることを望むとともに(経営学者の皆さんは研究の競争でそれどころではないのかもしれませんが)、実務家はそれを活用し、実務家の視点からのアイデアのフィードバックができれば、経営学の実用性ももっと高まるのではないかと感じました。


文献1:入山章栄、「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」、日経BP2015.

参考リンク


世の中を変えるビジネスモデルとは(「The Transformative Business Model」、Kavadias, Ladas, Loch著HBR2016, Octoberより)

大きなイノベーションは世の中を変えます。世の中が変わるということは、そのイノベーションが多くの人に受け入れられたことを意味しますので、多くの場合それはそのイノベーションの成功と結びついているでしょう。では、どんなイノベーションに世の中を変える力があるのでしょうか。そして、その際の技術の役割はどのようなものなのでしょうか。

今回は、技術とビジネスモデルの観点から、世の中を変える可能性のある要因を分析した論文「Thetransformative Business Model」、Kavadias, Ladas, Loch著[文献1]に基づいて、近年のイノベーションの成功要因について考えてみたいと思います。

技術とビジネスモデルの関係
・「我々はたいてい、業界の変容を新技術の適用と関連づける。確かに新技術が主要因であることもしばしばだが、それだけでは業界の変化は起こらない。真に変化をもたらすものは、新技術と現れつつある市場のニーズを結びつけることができるビジネスモデルだ。」
MP3の例:「MP3プレーヤーがオーディオデバイス市場に革命をもたらしたのは、AppleiPodiTunesを組み合わせて新しいビジネスモデルを作った後だった」。

ビジネスモデルの働き
・「ビジネスモデルの定義は様々だが、企業がどのように価値を創造し、獲得するかを示すものであることには多くの人が同意するだろう。」「新しいモデルを導入するほとんどの試みは失敗する――しかし、多くの場合技術の力を借りて、優勢なモデルを覆すことに時に成功する。」「新しいビジネスモデルは、技術が可能にすることと、市場が求めるものとをつなぐインターフェースとして働く。」
Airbnbの例:「従来のホテルチェーンとは異なり、Airbnbは資産を保有したり管理したりしない――Airbnbは宿を求めている人と、部屋や家をシェアしたい家のオーナーとを結びつけるオンラインプラットフォームを通じてユーザーが居住スペースを貸せるようにしている。」

成功するビジネスモデルの6つの特徴
40のビジネスモデルの分析から得られた成功するビジネスモデルの6つの特徴は以下のとおり。この特徴の多くに当てはまるほど成功のチャンスが高くなる。
1、よりパーソナライズされた製品やサービス:A more personalized product orservice
・「従来のモデルよりも顧客の個別で差し迫ったニーズに対応する」。
2、循環型プロセス:A closed-loop process
・使われた製品のリサイクルによってオーバーオールの資源コストを下げる。
3、資産のシェア:Asset sharing
・「2面性のあるオンライン市場で、両サイドの価値を解き放つのが代表的」
4、使用に応じた課金:Usage-based pricing
・「いくつかのモデルでは、顧客に何かの買い取りを求めるのではなく、製品やサービスの使用に応じて顧客に課金する。」
5、協力的なエコシステム:A more collaborative ecosystem
・「いくつかのイノベーションは、新技術によりサプライチェーンパートナーと協力してリスクを適正に配分して成功した。」
6、機敏に適応できる組織:An agile and adaptive organization
・「イノベーターは時に、市場のニーズをよりよく反映させ、ニーズの変化にリアルタイムで対応するために技術を用いる」。

技術トレンドと市場ニーズをつなぐ
以上の成功する6つの特徴は、以下の技術トレンドと市場ニーズを結びつけるもの。
・技術進歩のトレンド:1)センサー、インターフェース、材料技術、2)最適化技術(AI、ビッグデータ、ロボット工学)、3)接続のプラットフォーム(IoT)、4)モバイル、クラウド技術、5)分散型小規模製造技術(3Dプリンティング)。
・市場ニーズ:1)製品やサービスに対する需要増(新興国)、2)顧客の嗜好の多様化、3)コスト上昇(資源、労働、輸送)、4)規制強化

イノベーションを変革へ
・40のビジネスモデルについて、上記の成功する6つの特徴のいくつに当てはまるかを調査。マーケットシェアの獲得(既存企業からの置換)と他の企業により模倣された程度に基づいて、業界を変革した程度を評価。「我々の結果は、変革の力を持つビジネスモデルは、6つの特徴のうち3つ以上を満足している(統計的解析から最もはっきりと得られた傾向)ことを強く示唆した。」
Uberの例:6つの特徴のうち、「循環型」を除く5つを満足。(各事例の採点表は論文にあります。有名なところでは、4つを満足しているビジネスモデルは、AirbnbAmazonDellGoogle AdWordsIKEALegoFactoryなど、3つを満足しているのは、AlibabaAppleiPadCanonRicoh (pay per page)Salesforce.comZaraなどとなっています)
・「我々の発見が示すことは簡単なことだ:もし、ビジネスモデルを変えたいとか新しいビジネスモデルで業界に参入したいと思うなら、そのモデルが6つの特徴をにどのぐらいよく適合しているかを評価するとよい。もしどの点においても競争相手を打ち負かすことができていないなら、成功のチャンスは低いだろう。しかし、あなたのモデルが3つ以上の点で既存のモデルよりはっきりとよいなら、あなたは成功に近い位置にいる。」

Healxのケーススタディ:個別化医療(オーダーメイド医療)で患者数の少ない難病に立ち向かうベンチャー企業Healxを支援している事例紹介。
・「イノベーションの成功は保証できないものだ(成功の意味がたいしたことのないとても小さいニッチ市場を選ぶのでない限り)。しかし、あなたのビジネスモデルを、市場ニーズと新技術とを確実に結びつけるように細工することはできる。この結びつきを多く作れれば、あなたが業界を変革できる可能性は高まる。」
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本論文での事例分析は、最近の技術と最近のトレンドを基準に考えていますので、論文で挙げられた成功のための6つの特徴も、最近の状況において、という条件付きになるとは思いますが、最近のイノベーションの成功要因をよく捉えているように感じました。ただ、その要因の多くを満たすビジネスモデルは成功しやすい、という結論は当たり前のような気もしますし、成功の6つの特徴も定性的にはどこかで指摘されているような気がして、意外な発見のようなものはあまりなかったと思います。それでも実務家にとってはビジネスモデルを工夫する際の注意点が整理されているところは参考になると言えるでしょう。

論文を読みながら、成功の6つの要因のうち、どれが重要なのか、という疑問を感じましたので、論文のデータを基に少し考察してみます。
6つの要因のうち、2つを満たすビジネスモデルは全部で11件あります。その11件のうち何%がそれぞれの要因を満足しているか(満足率)を調べてみると以下のようになります。
1(パーソナライズ)36%、2(循環型)18%、3(シェア)18%、4(使用ベース課金)45%、5(協力)45%、6(機敏)27%
同様に、3つを満足するビジネスモデルは全部で16件。
1(パーソナライズ)69%、2(循環型)25%、3(シェア)38%、4(使用ベース課金)56%、5(協力)81%、6(機敏)31%
4つを満足するビジネスモデルは11件。
1(パーソナライズ)82%、2(循環型)27%、3(シェア)45%、4(使用ベース課金)82%、5(協力)82%、6(機敏)82%
これを見ると、6つの特徴のうちいくつ満足しているかのレベルによらず、2(循環型)の比率はあまり変わらないことがわかります。これに対し、4つの特徴を満足している事例の中で特に有名なAirbnbAmazonDellGoogle AdWordsIKEALegoFactoryは、いずれも1(パーソナライズ)、5(協力)、6(機敏)を満足しており、これらが成功の条件として特に重要性が高いことが推定されます。また、2つ満足と3つ満足の事例を比較すると、1(パーソナライズ)、3(シェア)、5(協力)で比率が大きく増えています。3つ満足と4つ満足を比較すると、1(パーソナライズ)、4(使用ベース課金)、6(機敏)で増加が大きくなっています。
この傾向から直ちに特定の示唆を導くことはできませんが、ひとつの仮説として、低い合計満足数のレベルで満足率が高いものは比較的達成しやすく、4つ満足のレベルで満足率がやっと高くなる要因は達成が難しいと言えるかもしれません。ということはそういう要因(まず1、3、5、ついで4、6)を目指すことはビジネスモデル改善の糸口になるかもしれません。2(循環型)とか3(シェア)がそれほど満足率が高くないのは、満足率を上げるのが困難なのか、あるいは満足率を上げる必要性が比較的低いのか、まだ注目度が低いのか、様々な原因が考えられますが、もし、そういう特徴を持ったビジネスモデルを想定しているのなら、差別化の要因とならないかを考えてみるのもよいかもしれません。あるいは、その必要性を再検討し、本当に必要かどうかを見極めることも必要かもしれません。

細かい点はさておき、技術とニーズを結びつけるのがビジネスモデルである、という著者らの考え方は、技術とニーズの間を短絡的に結びつけてしまいやすい技術者にとって注意すべき点だと思います。技術の改善とともに、それをどうビジネスモデルに組み上げていくかは、これからの時代、技術者にとってますます重要な課題になっていくのではないかと思います。


文献1:Stelios Kavadias, Kostas Ladas, Christoph Loch, “TheTransformative Business Model”, Harvard Business Review, October 2016, p.90.
https://hbr.org/2016/10/the-transformative-business-model

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