研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2017年05月

研究開発実践のマネジメント第16回-やりたいことに基づくテーマ設定:研究開発マネジメントの実践と基礎知識2.1.4(「ノート」全面改訂)

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第3回第4回第5回第7回
2、研究開発実践のマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
どこに不確実性があるかの見極め第8回第9回
2.1.1
、課題実現の不確実性に関わる研究テーマの設定)第10回第11回
2.1.2
、ニーズの不確実性に関わるテーマの設定第12回第13回
2.1.3
、市場で収益をあげる方法の不確実性に関わるテーマの設定第14回第15回

2.1.4
、やりたいことに基づくテーマ設定
これまで、ある研究目標を立て、その目標達成のために解消すべき不確実性を検討する、というアプローチでのテーマ設定の方法を検討してきました。この方法は、取り組むべきテーマを比較的論理的に選定しやすいという利点があると思われるものの、有望な研究テーマを見つける方法としてはこの方法だけでは十分とは言えないと思われます。

そこで今回は、必ずしも論理的とは言えないテーマ設定の方法、すなわち「担当者がやりたいこと」に基づいてテーマ設定を行なう意義について考えてみたいと思います。具体的には、例えば、「うまくいくかどうかわからないが、やってみたいという願望がある」「どこに不確実性があるのかもよくわからないがなんとなくよさそうに思う」「こうしたら、こうなるのではないかという予想があるが当たっているか確かめてみたい」「なぜそうなるのかを確かめてみたい」「ただ単に、こうしたらどうなるだろう、という好奇心がある」などの担当者の気持ちが根底にあるようなテーマです。担当者が技術者の場合、いわゆる学術的好奇心から行なう基礎研究的なテーマや、シーズ先行のテーマが含まれることになりますが、もちろん、イノベーションの発案者は技術者に限定されるものではありません。

こうした基礎研究的なテーマについては、「直接実用化に結び付かない」とか、「売れる見込みのない製品を作ってしまう」という批判があります。しかし、やりたいことを研究する、という方法が成果をあげる事例も知られていて、例えば、3Mの「15%ポリシー」、すなわち「社員に対して勤務時間の15%以内であれば、個人的に興味のあるテーマの仕事をすることを認める[文献1、p.58]」という制度は、多くの新製品の開発に寄与したことが知られており、このようなやり方は、Googleをはじめとして、現在でもイノベーションを重視する多くの企業で用いられているようです。

つまり、やりたいことをテーマとして自由に研究するアプローチは、そのやり方次第で効果をあげたり、そうでなかったりする、ということだと考えられます。そこで、まずはこうしたアプローチの利点を考えてみたいと思います。まっ先に思い浮かぶ利点としては、自由な発想によって研究の内容が多様化することがあげられるでしょうが、これは指摘するまでもない当たり前のことですので、以下では、マネジメント面での利点を主に考えてみたいと思います。

やりたいことに基づく研究テーマのマネジメント上の利点
まず、やりたいこと、すなわち「好き」なことを行なう場合、やる気を維持しやすいことが第一にあげられると思います。「好き」なことに取り組む効果について、楠木建氏は次のように述べています。「インセンティブがあれば人は努力する。しかし、裏を返せば、インセンティブが効かないと努力しなくなってしまう。ここに問題がある。・・・どうすれば普通の人々が高水準の努力を持続できるのか。・・・これに対する筆者の答えは、『努力の娯楽化』という発想の転換である。・・・趣味の世界では誰もが身に覚えのある『努力の娯楽化』、これを仕事の世界にも持ち込むことができれば話は早い。・・・『好き』は自分のなかから自然と湧き上がってくるドライブ(動因)である。・・・良し悪しに軸足を置くインセンティブに対する、好き嫌いドライブの決定的な優位はネガティブな状況にやたらに強いということにある。・・・そのことが好きであれば、すぐに成果や報酬に結びつかなくても苦にならない。ここに『努力の娯楽化』の本質がある。[文献2、p.iv-ix]」楠木建氏は努力によって才能を身につける方法に関して述べているのですが、努力の継続が必要なことは研究も同じでしょう。研究の難関を越えるためのドライブ(動因)がやりたいことに取り組むことで得られる、これが第一の利点だと思います。

次にあげたいのが能動性です。入山章栄氏は、「マインドフルネス」について次のように述べています[文献3]。「マインドフルネスとは『新しいことに能動的に気づけるように、認知をコントロールする』ことである。」「この逆は、新しいことに対する能動的な認知コントロールをしないこと、すなわち『起きていること、言われたこと、見たことを、そのまま受け入れて行動してしまうこと』だ。たとえば、自社の業務プロセスを最初から『これはこうやるものだ』と決めつけて、行動するような態度である。心理学分野では、マインドフルネスを高く持つことのさまざまな効能が示されている。」やらされている研究ではなく、やりたい研究が能動性を促しマインドフルネスの維持に効果的に作用すると考えられないでしょうか。

第三の点は暗黙知の活用です。山口栄一氏は次のように述べています。「江崎によれば、科学はロゴス面とパトス面の『ヤヌス的二面性』を持っている。すなわち、できあがって『形式知』(言葉にされた『知』)として教科書などに載ってしまった『昼の科学』と、まだまだ言語化されておらず、『暗黙知』にすぎない『夜の科学』という二面性である。・・・ブレークスルーに連なるイノベーションは、常に土壌の中で行なわれる『夜の科学』を契機とする。[p.109-111]」やりたいことというのは、多くの場合、暗黙知から出てくるでしょう。生まれたてのアイデアは、形式知化して上司や仲間に説明したり、不確実性について詳細に検討できるようなものではないはずです。もちろん、暗黙知はいずれは形式知化しなければならないのは事実ですが、やりたいことに自由に取り組める環境は、暗黙知の状態での試行を可能にし、アイデアの成長を促す作用があると言えないでしょうか。

第四の点は社内政治からの保護です。ミラーとウェデルスボルグは「ステルスストーミング」について、「ブレーンストーミングにヒントを得た言葉だが、ブレーンストーミングよりもさりげなく、秘密裏にイノベーションを追求するアプローチである。」と述べ、ステルスストーミングの5つのアプローチの中で、「アイデアの『ストーリーづくり』をサポートする、早い段階でアイデアの価値を証明させる[文献4、p.160]」ことの重要性を指摘しています。社内の正式な承認を得る前の、いわゆる「ヤミ研究」を活性化させる効果が期待できるでしょう。

第五の点は信頼感です。やりたいことを自由にできる、自主性を認めてもらえる、ということは、企業が研究担当者を信頼していることを意味します。信頼されれば、信頼に応えようとする気持ちが芽生えることもあるのが人の常ではないでしょうか。

研究内容が多様化することに加えてこのような利点が考えられるにも関わらず、自由に研究を行なうことに関して強い抵抗があるのはなぜでしょうか。私見ですが、その原因は、過剰に自由を与えすぎることによる失敗への恐れと、事業に繋がらない成果の扱いにくさからだと思います。確かに過剰な自由は研究担当者の暴走を招き、資源の無駄遣いや、研究戦略の統一感を損なう可能性があるのは事実で、例えば、ミラーとウェデルスボルグは「完璧な自由を部下に与えることで、真に個性的なアイデアをまったく思いがけない角度から見つけるチャンスが増す場合もある。しかし自由を得た部下が会社に(適切なタイミングで)価値をもたらさないアイデアに無駄なエネルギーを注いでしまう可能性も劇的に増す(・・・大部分のアイデアはただのゴミだ)。・・・従って完璧な自由を与えるのは、R&Dなどのハイリスク・ハイリターンなプロジェクトも可能な現場により適したアプローチだと言える。[文献4、p.61]」と述べています。しかし、そうした問題点をきちんとマネジメントできれば、成果を享受することは可能ではないでしょうか。そこで、次に、やりたいことに基づく研究テーマを設定する場合の注意点を考えてみたいと思います。

やりたいことに基づく研究テーマのマネジメントにおける注意点
まずは、与える自由の範囲を限定することでしょう。3Mの15%ポリシーは、使ってよい資源(マンパワー)の制約を課しています。また、費用的な制限も設けられているようです。さらに、研究成果を実用化するために、プロジェクトを正式に立ち上げる際の手続きなども決めておくべきでしょう。成果の報告を求めることも考えられますが、報告を求めることが自由な研究を阻害することに繋がる場合もあることには注意が必要でしょう。

加えて、研究担当者には、やりたいことを進めながら、実用化の可能性と、実用化のためにどんな不確実性を解決すべきかという視点を持ち続けることを促すべきだと思います(ここでは、真理追究を目的とする純粋基礎研究はとりあえず対象外にしています)。少なくとも、成果を実用化につなげるための次のステップに移る段階では様々な不確実性についての全体観が必要になることを考えれば、研究実行段階からそうした視点を持っておくことは、研究の速やかなステップアップにつながる可能性も高いと思います。

やりたいことに基づいて行なった研究成果の活用
研究成果が実用化に向けた次のステップに進めれば言うことはありません。もちろん、自社で実用化しない場合には成果を外部に販売することや、知的財産権を確保してそれをライセンスするなどの方法もありうるでしょう。

残念ながらそういう成果が得られなかった場合、特に、学術的貢献のような成果が得られた場合には、成果の活用は悩ましいかもしれません。ここではそんな場合の成果の活用方法として「宣伝」(よい評判の形成)を提案したいと思います。例え、成果が得られた時点で実用化の見通しがなかったとしても、研究成果の社会へのアピールがうまくできれば宣伝効果は十分に期待できるのではないでしょうか。Tiddらはアライアンスのマネジメントにおいて、「ある技術、もしくはその技術のソースが企業に与える信用度は、企業の技術取得方法に影響を与える重要な要素」と述べています[文献1、p.272]。また、星野竜也氏は、「オープン・イノベーションの世界では、『相手から選ばれる企業になる』(Partner of choice)という言葉がよく使われる。・・・相手から見て『一緒に働きたい』と思われる企業にならなければいけないのである。[文献5]」と述べています。例え実用化ができなくとも、技術的な成果は技術水準の「宣伝」になるでしょうし、「宣伝」を通じて得られる、成果についてオープンな姿勢は協業関係の構築にとって有利に働くかもしれません。

以上のように、研究担当者が「やりたい研究をやる」という自由度の高い研究テーマの設定は、必ずしも無駄を生むとは限らないと考えます。うまくマネジメントできれば研究戦略のなかで一考の価値のある可能性もあるのではないでしょうか。特に独創性の高い研究アイデアのインキュベーション段階のマネジメントを考える上で、担当者がやりたいと思っている研究テーマをどう扱うかは重要な意味をもつと思われます。


文献1Tidd, J., Bessant, J.,Pavitt, K., 2001、ジョー・ティッド、ジョン・ベサント、キース・パビット著、後藤晃、鈴木潤監訳、「イノベーションの経営学」、NTT出版、2004.
文献2:楠木建、「『好き嫌い』と才能」、東洋経済新報社、2016.ブログ紹介記事
文献3:入山章栄、「世界標準の経営理論 第16回 組織学習・イノベーションの理論③ 知の創造を導く『マインドフルネス』を高める法」、Diamond Harvard Business ReviewJanuary 2016p.126.ブログ紹介記事
文献4:Paddy Miller, Thomas Wedell-Wedellsborg, 2013、パディ・ミラー、トーマス・ウェデル=ウェデルスボルグ著、平林祥訳、「イノベーションは日々の仕事のなかに 価値ある変化のしかけ方」、英治出版、2014.ブログ紹介記事
文献5、星野竜也、「オープン・イノベーションという新たな武器 製造業復活を賭けて自前主義を脱却せよ」、DiamondHarvard Business Review, June 2015, p.84ブログ紹介記事

コピーとイノベーション(ラウスティアラ、スプリグマン著「パクリ経済」より)

研究開発では、他者の結果やアイデアに刺激を受けることは多いものです。それだけでなく、先行する他者に追いつくために、やり方を真似したり、同じような製品を作ろうとしたりすることもあるでしょう。もちろん、法的に保護された知的財産を侵害することは問題ですが、イノベーションにおいて真似すること、コピーすることがどのような意味を持つのかはきちんと理解しておくべきことではないかと思います。

今回は、この問題をとりあげた、ラウスティアラ、スプリグマン著「パクリ経済 コピーはイノベーションを刺激する」[文献1]の内容から興味深く感じた点をまとめておきたいと思います。一般的にはコピーは好ましくないものと思われているのに対し、コピーが行なわれ、時にはそれが許され、役に立つ場合もあることが示され、また、著作権などの保護の有効性や意義をも含んだ本書の議論は、単なるコピーの善悪の問題を越えてコピーすることの意味について考えさせられるものがあると感じました。

はじめに
・「著作権法(コピーライト)――もっと一般的には知的財産法――は、コピーを防止するために存在し、その根幹には自由なコピーは最終的にクリエイティブ産業を壊滅させるという考えがある。[p.8-9]」
・「アメリカ法制度がコピーを規制する第一の理由は、道徳的ではなく現実的な問題のせいだ。・・・特許権は、イノベーション誕生にコピーの制限は欠かせないという考えに基づいている。イノベーションには、誰がそれをコピーしてよいかを・・・生み出した人がコントロールできる取り決めが必要だ。つまり創作者にはコピーを作る権利の独占権が必要だということだ。この本では、これをイノベーション独占理論と呼ぶ。・・・独占理論によると、もしもコピーが許されるなら、模倣者が――創作に必要なコストを負担しなくてすむため多くの場合ずっと安価に――オリジネーターの成果を複製するため、新しいイノベーションと創作への投資は妨げられる。[p.12]」
・「この本では、イノベーションとイミテーションに関する世間一般の通念に異議を申し立てる。・・・私たちはむしろ、著作権や特許権が適用されない、あるいは利用されないファッション、データベース、コメディといった様々な産業や芸術を検証する。・・・これらの産業では他人が自由にコピーできても、驚くくらい創造性が繁栄している。・・・いくつかの産業では、コピーがイノベーションを促進している――この効果を私たちは『著作権侵害のパラドックス』と呼ぶ。[p.13]」
・「確かにコピーは創造を損なうこともあるし、何らかの規則は必要だ。私たちは知財権廃止論者ではない。だからといってコピーの創造への影響は、独占理論が示すほど単純ではない。・・・創造性は一般に信じられているよりもずっと強固で、コピーにも知られざる美徳があり、自由で簡単なコピーの隆盛は結局のところ、多くの人が信じている大破局などもたらさないことがわかるのだ。[p.14]」

第1章、コピー商品とファッションの虜たち
・「アメリカではこれまでファッション・デザインのコピーが違法であったことはなく、・・・今も変わらない。・・・アメリカ人一般の著作権法に対する考え方の特徴である、いわゆる実用物なら自由にコピーしてかまわないという姿勢から生まれたものだ。[p.41]」
・「コピーを許している法的ルールは、スタイルの普及を加速させる。そして普及が早ければ早いほど、衰退も早い。衰退が早ければ早いほど、新しいデザインへの欲求も早く、強くなる。・・・つまり、コピーとはファッション・サイクルを加速する燃料なのだ。・・・新しいトレンドの隆盛こそは携帯電話の優れた新しい特徴に相当するものだ。つまり消費者に何ら不具合のない物を捨てさせ、何か新しいものを買わせるものだ。私たちはこれを『誘発された衰退』と呼んでいる[p.65-66]」。

第2章、料理、コピー、創造性
・「シェフが創り出す中心商品――食物――は、・・・レストランという『パッケージ』から簡単には切り離せない・・・あなたが望む料理は、もっと大きな多面的な取引の一部として、様々なコース料理、飲料、小皿料理などが添えられたセットとしてのみ買える。そこにはムード、サービス、エネルギー、その他の目に見えないものが混ざりあっている。・・・一つの側面――メインディッッシュ――をコピーするのは簡単だ。たが、体験全体をコピーするのはほぼ不可能だ。・・・その結果、単にレシピがコピーされたという事実だけでは、必ずしも本家を脅かすことにはならない。[p.127]」
・「シェフたちがたとえその中核となる創作物――レシピとそれから作りあげた料理――が自由かつ合法的にコピーされても、創造し続ける理由を三つ検証してきた。●客と大衆がますます重視するようになった、シェフの創造性に対する評価が、コピーの氾濫によって高められるため。●料理界におけるコピーは必然的に再解釈であって、まるごとコピーではないので、ただちにオリジナルと競合せず、それどころかオリジナルを宣伝する役目さえ果たしている。●そして、熟練シェフたちの社会規範が、最悪な形でのコピーを抑制し、その影響を弱めている。[p.131-132]」

第3章、コメディ自警団
・「コメディ産業には、ファッション産業以上に強力な、効果的にコピーを抑制する一連の社会規範が存在する。・・・コメディの物語が示すのは、大がかりな模倣が行なわれても――確かにスタンダップ・コメディ草創期にはそういうこともあったが――イノベーションは生まれるということではなく、法律だけが模倣を抑制する唯一の方法ではないということだ。[p.144-145]」

第4章、アメフト、フォント、金融、ファイスト裁判
・「アメフトのように、イノベーションが成功すれば潜在的な報酬が巨大で、報酬が得られるまでの時間が短く、うまく真似るのに必要な期間がそこそこあるなら、先行者優位だけでもイノベーションのインセンティブとして十分かもしれない。[p.195-196]」「改変屋たちはアメフトの継続的な創造的刷新において重要な一部だ。根本的なイノベーションを限界にまで広げることで、改変屋たちは創造性の次のラウンドを拓く。[p.201]」
・「フォントはそれほど急激には変わらない。でもサイクルの拡がる速度を除けば、フォントのトレンド周期はファッションのものと似ている。[p.230]」
・「金融サービス産業で見るイノベーションの多くは、企業が市場インセンティブに応答した結果として生まれたものであって、知的財産権ルールによるインセンティブで動かされているのではない。・・・競合他社が発明をコピーするという見込みがあっても、そもそもそれを作り出そうというインセンティブは破壊されないし、場合によってコピーはそのイノベーションの市場を拡大してくれることで、その価値を高めてくれることさえある。[p.238-239]」
・「データベースのコンテンツは少なくともアメリカでは、基本的な事実の集まりでしかないので著作権がつかない。対照的なのはヨーロッパで、事実を集めたデータベースでもコピーから保護されている。でも驚くこととして、データベース産業はアメリカでは成長しているのに、ヨーロッパでは停滞しているのだ。[p.240]」「ファイスト判決は、完全に事実だけしか載っていないデータベースですら、著作権がつくというそれまでの一連の判例をひっくり返すものだった。[p.241]」「EUのアプローチは個々のデータベース生産者に高い利潤を与えてくれるかもしれない。でも、産業全体の成長にはつながっていない。その原因の一つは、他の多くの例と同様にこの場合でもイノベーションにきわめて有益な改変やつくり直しを、この規制が絞め殺してしまうからなのだ。[p.245]」

結論、コピーと創造性
・「現在のコピー技術でも収益をあげる方法があると信じている。そのためにはコピーについて別の見方をする必要がある――排除すべき災厄として見るのではなく、危害と同じくらい有益にもなれる複雑な現象として考えるべきなのだ。コピー阻止だけに焦点を絞ってしまうからこそ、これまで以上に簡便になったコピーは単なる危機にしか見えない。しかしイノベーションの促進に焦点を当てれば――そうすべきなのだ――たとえコピーに直面しても、方法がたくさんあることにすぐに気づくだろう。[p.254]」
・イノベーションとイミテーションに関する6つの教訓

トレンドと流行はいくつかの創造的産業で大きな役割を果たす。ファッションなどの世界では、トレンドが引き起こす力学はコピーに関する従来の考えを完全にひっくり返すことさえある。
一部の産業では、法的措置が無力だったり非実用的だったりする場合でも、社会規範がコピーの抑制や方向付けに重要な役割を果たすことが実証されている。
いくつかの産業では、創作者や所有者がその財を、製品ではなくパフォーマンスであると再定義することでコピーの悪影響を鈍らせた――そしてそれにより、コピーによる経済的成功への影響を低減させた。
さらに他の創造的産業では、イノベーションのコストを下げるオープンソース方式の持つ力を重視している――そしてそれによりイノベーションを増やしている。
先行者優位性は、たとえあとでコピーされても十分な価値を一部の生産者に与えることで、イノベーションが十分に収益をもたらすものとしている。
最後に、いくつかの事例ではブランドと商標の力が示されている。ブランドはコピー製品の市場シェアを抑えられるが、コピーはブランドを宣伝する役割も果たす。このような効果は、コピーの費用についてまったく違う見方をもたらすものだ。[p.255-256]」
・「イノベーションは他の経済財同様に、費用と便益の産物だ。・・・イノベーターたちは便益を見積もる際に、過度に楽観的だと信じるべき多くの証拠がある。多くの創造的産業が持つトーナメント市場的な特質が、この傾向をさらに際立たせる。これら二つの力が対になって、まるで補助金のようにイノベーションを促進する。・・・確かに技術はコピーを可能にすることで、便益を減らしかねない。しかし、それはまたイノベーションと流通の費用も下げる。[p.312-313]」

エピローグ 音楽の未来
・「インターネット上の著作権侵害が『音楽産業』を殺そうとしているという時、実際に論じられているのはメジャーレーベルのことだ。・・・メジャーレーベルは不法ダウンロードから大きな被害を受けてきた。それでも音楽そのものはしっかり生きている。[p.316]」
・「音楽産業は、そのビジネスモデルのなかにコピーへの抵抗力を作る――そしてできればコピーから利益を出せるようにする――ことを目指せば、仕組を変えられるのだ。[p.316]」
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技術系の企業研究者にとっては、盗用や独創性の問題は、まず「特許」という視点でとらえることが普通だと思います。オリジナルであることが成功に結び付きやすいという傾向も「特許」がとりやすくなるという観点で理解しやすいですし、アイデアのコピーはいけないという規範も、コピーでは「特許」がとれないという視点で妥当性の判断ができるように思います。しかし、アイデアのコピーはよくないという規範の一方、先行技術の模倣が新しいイノベーションの源泉になることも事実であり、コピーは研究者にとっては避けて通れるものではありません。加えて、技術の市場への投入や、ビジネスモデルを考える際には、本書で扱っているようなコピーの効能の視点も重要ではないでしょうか。

例えば、競合に先んじてオリジナルな製品を市場に投入しようとする場合、真似をしてくる競合もあるでしょう。また、先行者利益をどう確保するか、製品ではなく周辺サービスも合体させた顧客の経験をどう作るか、有利な「評判」をどう得てどう活用するのか、オープンソースの開発も含めた改変をどのように活用していくのか、といったことも考えなければいけないのではないでしょうか。そう考えると、本書の指摘は、単にコピーの問題にとどまらず、コピーという視点から創造のプロセス、方法についての示唆を与えてくれるもののように思います。技術の発達によってコピーが簡単になったことを問題視し、対抗するだけではなく、コピーを積極活用するような視点もイノベーションには求められているのかもしれません。


文献1:Kal Raustiala, Christopher Spigman, 2012、K・ラウスティアラ、C・スプリグマン著、山形浩生、森本正史訳、「パクリ経済 コピーはイノベーションを刺激する」、みすず書房、2015.
原著表題:The Knockoff Economy: How Imitation SparksInnovation

イノベーションがもたらす害:複雑性の増大(「The Problem with Product Proliferation」、Mocker、Ross著HBR2017, May-Juneより)

顧客のニーズに応える新しい製品やサービスを提供すること、新しいイノベーションを起こすことが害になるというようなことはあるのでしょうか。もちろん、イノベーションが引き起こす悪い影響を見落していたような場合は害となるでしょうし、イノベーションによって競争力を失う既存技術の側からみれば害になることはあるでしょう。しかし、それなりにうまくいき、市場からも受け入れられたイノベーションが害になるとすればどういう状況が考えられるでしょうか。

今回取り上げる論文(Martin Mocker, Jeanne W. Ross著「The Problem with Product Proliferation」[文献1])では、イノベーションによって製品のバリエーションが増えることで発生する問題について議論しています。我々はつい、イノベーションの明るい面ばかりに注目してしまいがちですが、実はイノベーションには暗い面、害になる面もある、というのが著者らの主張です。著者は、製品を増やすことによって複雑性が増し、顧客や社員がその複雑性に対応できない場合に害が生まれ、それは企業全体のパフォーマンスに悪い影響を及ぼす可能性があると指摘しています。このような視点はイノベーションの実行段階において特に重要だと思いますので、以下に論文のポイントをご紹介したいと思います。

イノベーションの害DarkSide of Innovation
著者は、2000年代のPhilipsLEGOなどの業績低迷の分析から、次のようなイノベーションの害(よくない面、Dark Side)を指摘しています。
Philipsの業績低迷の「問題点は、過剰なイノベーションであることがわかった。2000年代初め、経営陣は、内部の研究開発と買収で製品ポートフォリオの拡充を行ない、製品とサービスの品ぞろえが極端に多くなった。・・・しかし、Philipsは、様々な製品ラインや地域のリーダーたちに、彼らの製品と顧客をサポートするスタンドアロンのシステムをデザインすることを許したため、ビジネスの複雑性――サプライチェーン、マーケティング、製品開発、管理プロセス――は大きく増大し、より多くの出費を必要とするようになった。」
・イノベーションのダークサイドとは次のようなものだ。「顧客が同じデータを2回入力しなければならなかったり、企業の異なる部門に接した時に一貫していない経験をしたり、目的を達するために多くの人にコンタクトしなければならなかったりするたびに、会社に害をもたらす。従業員が重要な顧客情報にアクセスできなかったり、多くの部門の多くの人の決定や承認を待たなければならなかったりするたびに、会社に害をもたらす。」
・「顧客と最前線の社員は、製品のバラエティが増えることによってもたらされるこうした問題がよくわかっている。しかし、リーダーたちは利益の可能性にばかり注目してしまいがちだ。・・・ほとんどの企業は、他の製品とのカニバリゼーションは検討するが、複雑さを加えることのコストはほとんど考慮しない。」
・「著者らは、平均して、製品のバラエティは企業の収益性とは相関がないが、顧客と従業員の困難さとは相関があることを見出した。結論はこうだ:企業のポートフォリオに価値を生む可能性のあるイノベーションを加えるほど、価値を損なう複雑性がビジネスに埋め込まれやすくなる。」

イノベーションのダークサイドに立ち向かう
Philipsは「運営とポートフォリオの変革が必要なことを悟った。・・・Philips2016年にHealthTech事業にのみ集中することになった。ひとつの事業部門にのみ集中するという決定は業務の複雑性による困難のみに端を発したものでないことは事実だが、著者と話した経営者によれば、それが最も大きな要因のひとつだったということだ。」

問題点を修正する
・「価値を損なう複雑性を管理する方法は、イノベーションをやめることではない。イノベーションは成長になくてはならないものであり、それによって技術や市場の変化に対応できるようになる。・・・しかし、イノベーションの害より益を確実に増やすには、顧客と従業員の困難を最小化しなければならない。我々は、成功するイノベーターがイノベーションの弊害から立ち直り、害を避けるために採用している3つの原則を見出した。」
1、バラエティよりも統合(integration)にフォーカスする
・「我々の研究では、製品のバラエティではなく統合は、よい業績と相関し顧客や従業員の困難を発生させないことがわかった。製品統合には多くの方法がある:クロスセリングやバンドリングはあきらかな選択肢だ。企業は、顧客の問題を解決するための情報やサービスを製品に付加することで統合することもできる。」
・「製品のバラエティより統合を強調することは戦略的な選択だが、短期的な新規収入から離れることも意味する。」
・「統合を通じたイノベーションは企業にとって狭い範囲に集中するように思われるかもしれないが、製品を組み合わせることは、取り除くより数多くの、より価値の高い機会を生む可能性がある。」
2、イノベーターと複雑性に対処する人との間の分断をなくす
・「企業は、製品の開発者と、それによって仕事が影響を受ける従業員との間の壁を壊すクロスファンクショナルチームを作るべきである。」
・「クロスファンクショナルチームは、プロセスの隅から隅までの洞察を与えてくれ、それは顧客と従業員の困難さを大幅に軽減できる。」
・「クロスファンクショナルチームは、遠い将来の問題について警告し、価値を生まない製品を導入することを避けることができる。」
・「クロスファンクショナルチームが効率的に機能するには、リーダーは、企業のすべての人がイノベーションの目的を確実に理解するようにする必要がある。」
3、イノベーションに向けてのビジョンにコミットする
・「企業が明確なビジョンなしにイノベーションを行なうなら、イノベーションのためのイノベーションに陥る危険がある。すべてのイノベーションは良く見えるものだ。これに対し、明確なミッションは、目的のためのイノベーションを促す。」
・「ミッションの言葉は、好ましくない種類のイノベーションを明確にし、優先順位づけを可能にする。」

どのように行なうか
・「革新的な新製品を導入して得た成長の歴史――あるいは成長に関する好み――を持つ企業は、運営上の困難さに対する再検討が必要である。従業員が物事を成し遂げるのがどのぐらい大変か?、顧客があなたの会社と取引するのがどのくらい大変か?。特に、我々の研究では、企業は、従業員が直面する難題に焦点を絞るべきだ。」
・「多くの組織変革と同様、企業は、実験的な、学習指向のアプローチを必要とする;おそらく最初のやり方ですべてがうまくいくことはないだろう。」
・「このプロセスは困難ではあるが、イノベーションのダークサイドを克服することは努力の価値があることを示す証拠は多い。」

あなたのビジネスは複雑すぎないか?
「以下の質問への答えが「Yes」なら問題のあるシグナルだ。
従業員
・仕事をこなすのに、いくつかのシステムにアクセスしたり手作業的回避策を取らなければならないか
・仕事をこなすのに複数の人に接触しなければならないか
・必要な時に、社内の適当な専門家を見つけるのに苦労するか
・しばしば決定や承認を待たなければならないか
顧客
・それぞれの製品やサービスに応じた複数の人やコールセンターに接触しなければならないか
・オンラインで異なる製品やサービスにアクセスするのに違うログインが必要か
・やりとりの間に、あるいは複数のルートを切り替える際に同じデータを何度も必要とされるか
・ある部門と別の部門で違う経験をするか」

結論
・「デジタルエコノミーは無限のイノベーションの機会を提供している。ある企業は、顧客と従業員の生活を改善し、持続可能なビジネス上の利益を提供している。他の企業は長期的に企業によい影響より悪い影響の方が多いイノベーションに資源を無駄遣いしている。あなたの顧客と従業員の難題を正直に評価すれば、どちらに向かっているかがわかるだろう。」
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イノベーションは実行する段階にも困難があることは多くの研究者、実務家が指摘しています。社内での反対にあうこともありますし、市場投入、実用化後にそのイノベーションが維持できなかったり、思うように受け入れが進まないこともあります。うまくいかない原因は様々ですが、その一つに著者が指摘する「複雑さ」があるかもしれないというのは、実践的にも非常に興味深い指摘だと思います。

実際に、多くの新技術、新製品の中には複雑さが増えるものがあります。製造工程が増えたり、考慮すべきデータや場合分けが増えたりして、製品やサービス提供が複雑になりコストが上がってしまうこともあります。そのような場合、実行部隊にその複雑性を吸収する余裕があればよいのですが、実行部隊は現行製品に合わせてプロセスを合理化していることが多いので、必ずしも複雑性に対応しきれない場合があるでしょう。総資源と効率が一定の前提のもとでは、何か新しいことを始めれば、何かを止めなければならない、というのは当たり前のことですが、イノベーションを投入する段階でその点への考慮が不足すると、思わぬ障害や、オペレーションへの悪影響が発生しかねないということだと思います。

従って、実務家は、研究成果の実用化にあたって、複雑性の増加の程度を見積もり、それをどう克服するかを考える必要があることになるでしょう。複雑性の増加が大きいと予想されるなら、その複雑性に対応する資源を確保することが必要になりますし、逆に複雑性が大きく増えないようなプロセスを工夫することもできるかもしれません(本論文で著者があげている3つの原則も役に立つと思います)。IT技術の進歩に伴い「パーソナライズ」のニーズも高まっていると言われる中、イノベーション実行において克服すべき重要課題として、複雑性の増大の問題を認識しておくことは、イノベーションによる弊害の発生を防ぎ、持続可能なイノベーションを確立する上で重要なことだと思います。


文献1:Martin Mocker, Jeanne W. Ross, “The Problem withProduct Proliferation”, Harvard Business Review, May-June, 2017, p.104.
https://hbr.org/2017/05/the-problem-with-product-proliferation


マネジメントについての考察など・目次(2017.5.7版)

「マネジメントについての考察など」というカテゴリーではマネジメント全般の話題や研究マネジメントに関する私見などを書かせていただいています。この目次は記事表題とリンクのリストになっていますが、別ページに要約入りの目次(「その1」「その2」)を設けています。
本ブログ記事目次・参考文献リスト・索引の最新版はこちら


その1・・・要約入りはこちら
研究総論
技術の的、研究の役割2010.7.25
苦しいときの術開発頼み
2011.9.4
「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」(入山章栄著)より
2016.10.10)、参考リンク
研究とアイデア
創造性を引出すしくみ2010.10.24
アイデアの扱い方と知の呪縛(「アイデアのちから」より)
2012.7.16)、参考リンク
キュレーションと研究開発(勝見明著「キュレーションの力」感想)
2012.3.11)、考リンク
「クラウドストーミング」(エイブラハムソン、ライダー、ウンターベルグ著)より2015.2.1)、参考リンク
アンラーニングの重要性(杉野幹人著「使える経営学」より)
2015.3.29)、参考リンク
研究の管理
研究の管理と評価再考2010.8.1)、参考リンク
数値目標の功罪
2012.5.20)、参考リンク
研究者と金銭的報奨2010.9.12)、参考リンク
研究者と金銭的報奨再考:処遇をどうすべきか
2010.10.3
モチベーションは管理できる?
2011.1.23
報連相と研究開発
2011.10.2
技術者流出考
2012.10.8)、参考リンク
続・技術者流出考(谷崎光著「日本人の値段」より)2015.10.4)、参考リンクは上記と同じ
「技術流出の構図」(藤原綾乃著)より
2016.11.27)、参考リンク
「ゲーミフィケーション集中講義」(ワーバック、ハンター著)より
2014.10.13)、参考リンク
研究と人の問題
研究者の齢限界?2010.12.12)、参考リンク
競争心と究開発
2011.3.6)、参考リンク
研究開発とフラトレーション:ルーチンワークの罠
2011.5.8)、参考リンク
幸福感と成果
2012.9.9)、参考リンク
成功体験の意味
2012.12.9
人事のプロへの期待(八木洋介、金井壽宏著、「戦略人事のビジョン」より)
2012.11.18)、参考リンク
変化の方法(チップ&ダン・ハース著「スイッチ!」より)2013.1.6)、参考リンク
エキスパートになる、育てる(金井壽宏/楠見孝編、「実践知」より)2013.7.15)、参考リンク
「経営学習論」(中原淳著)より2013.8.25)、参考リンク
「イノベーション・オブ・ライフ」(クリステンセン著)とマネジメント理論
2014.1.5)、参考リンク
一技術者からみた「源泉」(ジャウォースキー著)感想
2014.4.27)、参考リンク
「GIVE & TAKE」(グラント著)より
2014.5.25)、参考リンク
「ORIGINALS」(グラント著)より
2017.4.9)、参考リンク
「なぜ人と組織は変われないのか」(キーガン、レイヒー著)にみる変革の方法
2014.7.27)、参考リンク
ピープルアナリティクスとマネジメント(ウェイバー著「職場の人間科学」より)
2014.9.7)、参考リンク
「『好き嫌い』と経営」(楠木建著)と研究開発
2014.11.16)、参考リンク
好きの力(楠木建著「好きなようにしてください」「『好き嫌い』と才能」より)
2017.1.15)、参考リンク
創造性考(「創造性と生産性」DHBR誌2014年11月号特集より)
2014.12.14)、参考リンク
タレントとイノベーション(「『タレント』の時代」(酒井崇男著)より)
2015.8.16)、参考リンク
リーダーの精神状態が及ぼす影響(「コーチングが必要な困ったリーダーたち」ケッツ・デ・ブリース著DHBR誌論文より)
2015.9.13)、参考リンク
これからの雇用の形?(「ALLIANCE」(ホフマン、カスノーカ、イェ著より)
2016.5.8)、参考リンク
霧の晴れる瞬間を求めて(マスビェア、ラスムセン著「なぜデータ主義は失敗するのか?」より)
2016.9.4)、参考リンク


その2・・・要約入りはこちら
研究と組織の問題
プレイングマネジャーの功罪2011.4.10)、参考リンク
研究組織におけるコミュニケーションの難しさ
2011.11.13
研究における企画という仕事
2012.2.12
部下を守る?組織を守る?技術を守る?
2012.4.30)、参考リンク
研究者の主体性
2012.6.24)、参考リンク
研究とプレッシャー2013.2.3):チームへの影響、参考リンク
データが語るよいマネジャーとは(ガービン著「グーグルは組織をデータで変える」DHBR2014年5月号より)
2014.6.22)、参考リンク
「ミンツバーグ マネジャー論」より
2015.3.1)、参考リンク
「チームが機能するとはどういうことか」(エドモンドソン著)より
2015.4.26)、参考リンク
集合天才を導く(ヒル他著、「グーグルを成功に導いた『集合天才』のリーダーシップ」DHBR2015年5月号より)
2015.6.21)、参考リンク
研究の進め方
の川、死の谷、ダーウィンの海を越える2012.1.15)、参考リンク
技術を維持する-イノベーションの負の側面への抵抗2010.11.14
研究開発におけるスピードと俊敏さ-「加速の罠について」
2011.2.13)、参考リンク
思考停止をもたらすもの
2011.7.31)、参考リンク
研究開発と会議
2011.10.23
協力的環境と研究-「不機嫌な職場」に学ぶ
2011.12.18)、参考リンク
正しい現場主義と研究開発
2012.4.8)、参考リンク
試行錯誤のプロ
2012.8.12
協力と支援(シャイン著「人を助けるとはどういうことか」より)
2013.3.3)、参考リンク
ファシリテーションの意義
2013.4.14)、参考リンク
よりよい話し合いのための心理的課題(ドレスラー著「プロフェッショナル・ファシリテーター」より)(2016.6.12)参考リンク
デザインとイノベーション(エスリンガー著「デザインイノベーション」より)
2013.5.12)、参考リン
不確実な状況に対処する方法(ケイ著「想定外」より)2013.9.29)、参考リンク
目的工学とは
2013.11.4)、参考リンク
チェックリストの力(ガワンデ著「アナタはなぜチェックリストを使わないのか?」より)
2013.12.1)、参考リンク
持続的競争優位をもたらす戦略とは(ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー2013年11月号より)
2014.3.16)、参考リンク
「競争優位の終焉」(マグレイス著)より
2016.1.3)、参考リンク
「ブラックスワンの経営学」(井上達彦著)と技術研究
2015.1.4)、参考リンク
失敗を知る(菅野寛著「経営の失敗学」より)
2015.7.20)、参考リンク
フューチャーセンターとは
2013.6.9)、参考リンク
イノベーション・ファシリテーターの手法に学ぶ(野村恭彦著「イノベーション・ファシリテーター」より)2016.2.7)、参考リンク
ハッカソンの可能性(大内孝子編著「ハッカソンの作り方」より)
2015.11.1)、参考リンク
「ブルー・オーシャン戦略のすべて」(DHBR2015年10月号)より
2016.3.13)、参考リンク
研究における判断と説得
イノベーションとあいまいな意思決定(判断の根拠は何か?、ヒューリスティクスの活用?)」2011.1.3)、参考リンク
意思決定の罠(モーブッサン著「まさか!?」より)
2012.10.28)、参考リンク
気づきと意思決定(ベイザーマン著「ハーバード流『気づく』技術」より)2016.7.31)、参考リンク
ビジネス書の間違い?-『なぜビジネス書は間違うのか』
2010.8.11):Rosenzweig著、参考リンク
経営判断の頼りなさと経営学(ヴァーミューレン著「ヤバい経営学」より)2014.2.9)、参考リンク
情報の扱い方(ハーツ著「情報を捨てるセンス選ぶ技術」より)
2015.5.24)、参考リンク
スローな解決策の意義(オノレイ著「難題解決の達人たち」より)
2017.2.19)、参考リンク
研究開発事例
2010年のベスト50発明(「Time」2010.11.22号)2010.12.5)、参考リンク
1年後のTime誌「2010年のベスト50発明」
2011.12.25)、参考リンク(上と同じ)
3年後のTime誌「2010年のベスト50発明」
2013.12.23)、参考リンクは上と同じ
6年後のTime誌「2010年のベスト50発明」
2016.12.25)、参考リンクは上と同じ

研究開発実践のマネジメント第15回-ビジネスモデルを考える際の注意点:研究開発マネジメントの実践と基礎知識2.1.3.3)(「ノート」全面改訂)

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第3回第4回第5回第7回
2、研究開発実践のマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
どこに不確実性があるかの見極め第8回第9回
2.1.1
、課題実現の不確実性に関わる研究テーマの設定)第10回第11回
2.1.2
、ニーズの不確実性に関わるテーマの設定第12回第13回
2.1.3
、市場で収益をあげる方法の不確実性に関わるテーマの設定、1)市場で収益をあげる方法の不確実性に関わる研究テーマの特徴とポイント、2)ビジネスモデル、エコシステムとイノベーションの関わり第14回

3)
ビジネスモデル、エコシステムを考える際の注意点
ビジネスモデルの検討において考慮すべき要因
前回は、ビジネスモデルの諸要因を考える手法の例として、オスターワルダー、ピニュール(Osterwalder,  Pigneur)によるビジネスモデルキャンバス(Canvas)をご紹介しました。Canvasでは、顧客セグメント、価値提案、チャネル顧客との関係、収益の流れ、リソース、主要活動、パートナー、コスト構造という9つの要素が取り上げられていますが、今回はまず、ビジネスモデルの諸要因に関する他の考え方をご紹介したいと思います。

Mark Johnson
は「ビジネスモデルの基本要素」について次のように述べています。[文献1、p.52-85
・顧客価値提案:一定の金銭的対価と引き換えに、顧客がそれまでより有効に、あるいは確実に、便利に、安価に、重要な懸案を解決したり、課題を成し遂げたりするのを助ける商品やサービスの提供。
・利益方程式:企業がどのように自社と株主のために価値をつくり出すかという青写真。収益モデル、コスト構造、商品やサービス一単位あたりの目標利益率、経営資源の回転率の四つの変数で構成される。
・主要経営資源:顧客価値提案を実現するために必要な人材、テクノロジー、商品、施設・設備、納入業者、流通経路、資金、ブランドなど。
・主要業務プロセス:持続可能、再現可能、拡張可能、管理可能な形で顧客価値提案を実現するための手段。
その上で、これらの要素をまとめあげ、システムのバランスを保つために、ビジネスのルール、行動規範、評価基準が必要とされます。

Mullins
Komisarは検討すべきビジネスモデルの要素として次の5つを挙げています。
1、売り上げモデル[文献2、第3章]:「買う人がいなければ、会社は生き残れない」。誰が、どのくらいの頻度で、どのくらい早く、どのくらいの対価で買ってくれるか、など。顧客の悩みを解決することや喜びを与えることが重要。
2、粗利モデル[文献2、第4章]:「事業を続けるには、粗利をあげるのが肝心」。売り上げから直接経費をひいた残りの収益が粗利であり、粗利増のためには、原価を下げる(webの可能性は大きい)、コスト低減、高い価値を顧客に認めてもらうアプローチがある。
3、運営モデル[文献2、第5章]:「運営にかかわる諸費用を見直して、型破りなビジネスを」。売り上げを支えるための費用をコントロールする。
4、運転資金モデル[文献2、第6章]:「キャッシュフローこそ、事業の生命線。現金があればこわくない」。入金、支払いタイミングの調整で運転資金を確保しておけば、初期投資や借り入れを抑えることができ、環境変化への対応や投資家の介入を小さくできる点でも有利になる。
5、投資モデル[文献2、第7章]:「最初の投資額は少ないほどよい。なるべく投資家の手は借りない」。ビジネスがしっかり回りはじめるまでの資金をどう確保するかを考える。

Furr
Dyerは、ビジネスモデルキャンバスの部分集合として以下の6つの要素を抽出しています。[文献3、p.196-198
価値提案(提供するソリューション)
価格戦略(ソリューションの価格をどうするか)
顧客との関係(顧客獲得の方法)
チャネル(顧客がソリューションを手にいれる方法)
主要活動(コスト構造)、「固定費は前払い資金が必要になり、量に左右されやすい。不確実な状況下では、このような投資は危険[文献3、p.220-221]」。
リソース
ここで、顧客への影響は、自社に近く、コントロールしやすいものから、ターゲット顧客に近く顧客への影響が大きいものまであり、自社に近いものから、1、パートナー、2、広告、プロモーション、ソーシャルメディア、3、インフルエンサー(参照顧客、専門家、同僚、出版物、メディア)、4、直接の推薦や口コミ、と指摘しています。(顧客影響ピラミッド)[文献3、p.213-217

どのようなビジネスモデルを作るか、という観点からはCanvasに指摘された要因が他の考え方でも支持されているようです。その上で、ビジネスモデルをどう実現し、維持していくか、という観点から、資金や投資受け入れをどうするか、顧客への訴求方法をどうするか、などへの考慮が必要といえるでしょう。

ビジネスモデルづくりの進め方
Osterwalder, Pigneurは、次のようなビジネスモデルづくりの進め方を提案しています。[文献4、5章]
リソースの結集(目的を決め、初期アイデアのテスト、計画立案、チーム結成を行なう。初期アイデアの過剰評価、既得権益との調整に注意。トップマネジメントの関与が望ましい。)
理解(環境調査、顧客の研究、専門家へのインタビュー、先行例の調査、アイデアと選択肢の収集を行なう。調査しすぎによる「分析への麻痺」に注意(進捗報告を怠らないように)。)
デザイン(ブレインストーミング、プロトタイプ、テストによりビジネスモデルの選択肢を考え、評価し、最善のものを選択する。大胆なアイデアを排除、抑圧しないように、アイデアに簡単に惚れこまないように、短期的な視野にならないよう注意。)
実行する(プロトタイプを実際に実行する。不確実性の管理、スポンサーの支援、新しいビジネスモデルに適した組織構造、コミュニケーション(社内キャンペーンなどが有効)に注意。)
管理する(ビジネスモデルを市場の反応に合わせて調整する。既存モデルの再考は継続的な活動となる。ビジネスモデルの寿命が急速に短くなっている現在の傾向、ビジネスモデルの連携、ポートフォリオ管理、環境変化、初心に帰ることを忘れないように注意。)

Johson
の考え方は次のとおりです
・第1ステップ:未解決の重要なジョブを抱える現実の顧客のニーズを満足させる方法を考える。顧客のジョブの発見には、顧客の希望を調査するよりは解決したい課題を調査することが重要。この時、機能面だけでなく、情緒的、社会的な面も考慮する。[文献1、第6章]
・第2ステップ:顧客のジョブを解決しながら利益をあげる青写真を描く(ビジネスモデルの枠組みを活用)。顧客価値提案として、何をどのように売るかを考える。売る方法については、顧客が商品やサービスを手に入れる方法、料金を支払う方法を考え、顧客価値提案の実現によって力強い成長が生まれるという筋書きを描けるかを確認する。利益方程式の設計は、試行錯誤を含む仮説のマネジメントが必要であることを意識し、成長を実現させるための財務シナリオを複数描けるかを確認する。[文献1、第6章]
・第3ステップ:顧客価値提案と利益方程式を現実化するためにどのような経営資源、業務プロセスを準備すべきかを明らかにする。ビジネスモデルを実際に導入しながら仮説を検証して修正していく。収益性の確認のため、早期に安価に頻繁にテストをおこない、利益をあげることは過度に急がない。ビジネスモデルの育成期に既存事業の干渉を許さないようにする。既存企業の場合、既存の組織と統合するか分離するかを慎重に判断する。[文献1、第7章]
特に既存企業特有の課題として、イノベーションに対する既存のビジネスモデルの抵抗があることを認識しておくべきであって、既存のルール、行動規範、評価基準が新事業への進出を阻むことがある点には注意が必要としています[文献1、第8章]

これらは、ビジネスモデルを作ることを目標とした進め方の例と考えられますが、ビジネスモデルを検討する際には、変化への対応が重要と考えられます。ビジネスモデルの検討には考慮すべき要因が多く、それらが複雑に影響しあうことも多いためそのプロセスの不確実性は高く、上記のような計画が予定どおりに進むとは限りません。上記のOsterwalder, Pigneurの考え方にも、ビジネスモデルの調整や既存モデルの再考が含まれていますが、MullinsKomisarによれば、「起業家には必ずプランAがあり」、「起業家たちはプランAがうまくいくと思っている」が、「不幸なことに、たいてい予想ははずれる」、そして「成功の秘訣はそうしたプランAにあるのではなく、プランBにある」[文献2、p.21]と述べています。また、Riesもリーンスタートアップの考え方のなかでピボット(pivot、方向転換)という考え方を重視し、「仮説にひとつでも誤りがあると・・・わかった場合は、根本的に見直して新しい戦略的仮説へと方向転換する必要がある。[文献5、p.108]」と述べています。計画通りにビジネスモデルを作り上げようとすることよりも、試行錯誤的に、あるいは創発的に進めることが必要な場合が多いように思われます。

エコシステムに関わる不確実性とエコシステム構築、改善の進め方
上記のビジネスモデルの考え方ではあまり強調されてはいませんが、不確実性が高くなる要因としてエコシステムは重要と考えられます。例えば、Johnsonはビジネスモデルに対する既存のビジネスモデルの抵抗があることを指摘していますし(上述)、パートナーがイノベーションを分担する場合(第14回の記事を参照ください)には、その結果が全体のビジネスモデルに影響してくることもあります。一方で、オープンイノベーションをはじめ、パートナーとの連携が重要な役割を果たすイノベーションが増えてきていることを考えると、エコシステムをうまく制御できるかどうかは、イノベーションの成否に大きな影響を与えるものと思われます。

エコシステムをうまく構築し、改善していく方法としては、Adnerは以下のような提案をしています。
・価値設計図作成:エンドユーザー、実現のために必要なこと、必要なインプット、仲介者、補完者、リスク(コーイノベーション・リスク、アダプションチェーン・リスク、パートナーのやる気)、強く参加を希望していないパートナーに対するソリューションをはっきりさせ、定期的に更新する。[文献6、p.77-78
・「価値提供を成功させるためには、全員が勝たなければならない[文献6、p.112]」。「リーダーシップの試金石は、他の皆がついて行くことに合意することだ。他の皆も成功するときにのみ、リーダーシップは生じる。[文献6、p.133]」
・エコシステムを巻き込んだイノベーションでは、最小限の要素によるエコシステム(MVE: MinimumViable Ecosystem、商業的な価値を創造できる最小限の要素を組み合わせる)→段階的拡張(すでにあるMVEから利益を得ることができる新たな要素を付け加え、価値創造の可能性を増加させる)→エコシステムの継承と活用(エコシステムの成功要素を活用して次のエコシステムを構築する)、という方法が提案されています[p.192-193]。


ビジネスモデルを変えるイノベーションは往々にして、ビジネスモデルに参加するメンバーや、利害関係の変化を伴います。となれば、当然そのイノベーションに反対する者が出てくる可能性もあるでしょう。そうした困難、不確実性をいかに克服するか、という問題はそれ自体が新たな研究テーマと言えるのではないでしょうか。もちろん、既存のビジネスモデルのごく一部を改善するだけで達成できるイノベーションもあるでしょうが、そんな場合にも、ビジネスモデルのどこをどのように改善すればよいのかをはっきりさせるために、ビジネスモデルの視点から自らのアイデアを検証してみることは有意義なことだと思います。にもかかわらず、ビジネスモデルイノベーションの手法は未確立、ビジネスモデルを検討するための組織構造も未確立、というのが現状のようです。この原因の一つには、ビジネスモデルを誰が、どのように分担すべきかがはっきりしていないことがあるのかもしれません。ビジネスモデルの理解とそのマネジメント手法についての議論は、今後ますます活発になっていくのではないかという気がしますので、今後の発展には目していきたいと思います。


文献1Mark W. Johnson, 2010、マーク・ジョンソン著、池村千秋訳、「ホワイトスペース戦略 ビジネスモデルの<空白>をねらえ」、阪急コミュニケーションズ、2011.本ブログ紹介記事
文献2:John Mullins, Randy Komisar, 2009、ジョン・マリンズ、ランディ・コミサー著、山形浩生訳、「プランB 破壊的イノベーションの戦略」、文芸春秋、2011本ブログ紹介記事
文献3:Nathan Furr, Jeff Dyer, 2014、ネイサン・ファー、ジェフリー・ダイアー著、新井宏征訳、「成功するイノベーションは何が違うのか?」、翔泳社、2015. 本ブログ紹介記事
文献4:Alexander Osterwalder, Yves Pigneur、アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール著、小山龍介訳、「ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書 ビジョナリー、イノベーターと挑戦者のためのハンドブック」、翔泳社、2012. 本ブログ紹介記
文献5:Eric Ries, 2011、エリック・リース著、井口耕二訳、「リーン・スタートアップムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす」、日経BP社、2012.ブログ紹介記事
文献6:Ron Adner, 2012、ロン・アドナー著、清水勝彦監訳、「ワイドレンズ イノベーションを成功に導くエコシステム戦略」、東洋経済新報社、2013. 本ブログ紹介記事

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