研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2018年01月

仕事へのやる気を高めるには(ファウラー著「会社でやる気を出してはいけない」より)

仕事に対するやる気やモチベーションを高めれば、その仕事がうまくいく確率は高まるでしょう。従って、マネジャーとしては自分の部下をはじめ関係者のやる気、モチベーションをなるべく高め、その状態を維持することを心がけるべきだと言えるでしょう。本ブログの「ノート」(第18回第19回)でもご紹介したとおり、様々な要因がやる気、モチベーションに影響を与えることが知られています。従って、その知識を状況に応じて活用していけば、人々のやる気を高めることが可能になると考えられるのですが、いざそれを実践しようとすると、具体的にどうすればよいのか悩ましく感じられるようことが多いように思います。

実践が難しい理由の一つには、モチベーションに影響を与える因子がうまく整理されていないこともあるのではないでしょうか。そこで今回は、何がモチベーションに影響し、どんなモチベーションが望ましいのか、という観点からモチベーションのとらえ方を整理し実践の方法を述べた、ファウラー著「会社でやる気を出してはいけない」[文献1]の内容をご紹介したいと思います。この本で述べられている方法は、モチベーションを高めようと考えるのではなく、モチベーションを分類し、個人が持つ後ろ向きのモチベーションを、成果を生む前向きのモチベーションに変えて行こうとする点に大きな特徴があると思われ、実践的に有用な方法ではないかと感じました。なお、原著の表題は「Why Motivating People Doesn't Work . . . and What Does: The NewScience of Leading, Energizing, and Engaging」となっていて、モチベーションの本質についての議論や示唆にも富んだ内容になっています。以下、本書の構成に沿って内容をご紹介したいと思います。

はじめに:アメとムチはやめなさいStop Beating Your People with Carrots
・「私は長いあいだ、モチベーションとは単に『行動を起こすためのエネルギー』だと考えてきました。でもこの考え方には、ほかに山のように存在するモチベーションの定義と同様、重大な欠陥があることがわかりました。モチベーションを『行動を起こすためのエネルギーや勢い』だととらえていては、人間がもともと持っているモチベーションの根本的性質はうまく伝わりません。それでは行動の根拠を理解するうえでまったく役に立たないのです。[p.11]」「モチベーションの本質を探り出そうとすると、あるひとつの重要な真実が浮かびあがってきます。それは、人間はどんなときでもモチベーションを持っている、ということ。問題は、モチベーションの有無ではなく、モチベーションの理由です。・・・そしてモチベーションには、自分自身や他人の幸福の向上に役立つものもあれば、残念なことに、それとは逆に役に立たないものもあります。・・・他人のやる気を引き出せないのは、モチベーションは人が持つもの、または持たないものだという短絡的な思い込みがあるからです。この思い込みが、モチベーションがあればあるほど目標達成や成功の可能性が高くなるという誤解を生んでいます。[p.12-13]」「モチベーションを従来どおりにとらえていると、『やる気があるのか? あるならどのくらいあるのか?』と問いかけたくなります。でもそれでは、『イエス・ノー』『たくさん・少し』といった単純な答えしか得られず、肝心なモチベーションの本質は探り出せません。一方で、『どうしてモチベーションがあるのか?』と問いかければ、さまざまな動機づけの理由が導き出せます。そうした動機付けの理由やその背景を正しく認識すれば、最新のモチベーション研究を活かして、より適切で高レベルのモチベーションを部下が抱けるよう導くことができるのです。[p.14]」(筆者注:ここでのモチベーションの理由、動機付けの理由とは、あることをやろうと思っている理由、というような意味合いと思われます。)
・「世界各国で膨大な数の実験が行われましたが、・・・たとえ従業員がお金や報奨を受け取ろうとも、そうした動機付けとパフォーマンスのあいだには否定的な相関関係しかないということがわかっています。すなわち、外的報酬を与えると、目標を達成しよう、優れた成績を獲得しよう、継続的に努力しようとするうえで必要な勢いや気力、喜びが損なわれてしまうというのです。職種や業種によっては、従来型の動機付けは有効であるかのように思えるかもしれません。たとえば工場の場合、ボーナスを増やせば、短期的には生産数が増えることがあります。とはいえ、生産性と会社の発展は区別して考えるべきです。会社が成長・発展を遂げなければ、短期的に生産数が増えたところで、長期的には機会損失につながります。[p.19-20]」
・「内発的モチベーションの利点と、外発的モチベーションの悪影響について関心を高めようという流れができています。しかし、正か誤か、内発的か外発的かという、2つにひとつのいずれかだとする単純思考では議論が深まらず、科学的な裏付けを有益なかたちで活用することはできません。[p.23]」
・「やる気を引き出そうとしても不可能です。そこで本書では、それを可能にする枠組み、モデル、行動指針を提案します。[p.24]」

第1章、モチベーション・ジレンマThe Motivation Dilemma
・「モチベーション・ジレンマとは、リーダーが自分の力ではどうにもできないこと――他人のやる気を引き出すこと――に対して責任を負わされる状態を指しています。[p.30]」
・「前向きなモチベーション(オプティマル・モチベーション)とは、意義ある目標を追求・達成し続けるために必要なプラスのエネルギーや気力、幸福感・満足感(ウェルビーイング)を持つことであり、それと同時に成長・成功する状態を指します。[p.36]」
・モチベーショ・スペクトラム・モデル[p.38]:心理的欲求(Psychologicalneeds)が高いか低いかを横軸に、自己制御力(Self-Regulation)が高いか低いかを縦軸にとり、モチベーションのタイプを6種類に分類。
後向きなモチベーション:無関心、外発的、義務的
前向きなモチベーション:協調的、統合的、内在的
(筆者注:それぞれのタイプの特徴は第4章で詳述されます)
・「高い志に根差したモチベーションを持つ・・・人々は、目の前に差し出されれば報奨を受け取りはしても、それを理由にやる気を出したりしません。・・・仕事に励むのは、ずっと深い理由があるからであり、報酬などでは得られない、より大きな満足感が得られるからです。[p.44]」

第2章、モチベーションっていったい何?What Motivates People: The Real Story
・「人間のモチベーションの背後には、心理的欲求が満たされているかいないかという、単純かつ複雑な問題があり、それはジェンダーや人種、文化、年代を問いません。[p.53]」
・心理的欲求その1、自律性(Autonomy):「自律性とは、選択肢が欲しい、自らの行動は主体的なものだと考えたい、自分の意思で行動を起こしたい、という欲求です。[p.54]」
・心理的欲求その2、関係性(Relatedness):「関係性は、年齢や社会的地位、文化を問わず、人間が持つ心理的欲求のひとつに数えられます。関係性とは、人とのつながりにおいて尊重したい、尊重されたいという欲求であり、下心や思惑を抜きにして他人とつながり合いたい、自分よりも大きな何かに貢献していると実感したい、という思いです。[p.57]」「部下が仕事に意義を見出し、社会的な目的の達成に貢献し、職場で健全な人間関係を持てるよう手助けをすることがリーダーに与えられた重要な役割のひとつです。・・・部下の気持ちなどおかまいなしに上司がプレッシャーをかければ、その行為は利己的だと解釈されるでしょう。圧力をかけるのはモチベーションをあげるための常套手段ですが、職場での関係性ならびに部下のパフォーマンスに悪影響を与えます。リーダーとしてなすべきは、職場で部下が関係性を実感できるように計らうことです。それは、互いに尊重し合っていると思えるよう、誠意をもってつながっていると感じられるよう、自分より大きなものに貢献できるよう導くことにほかなりません。[p.61]」「人のやる気を引き出そうとしてもうまくいかないのは、関係性を感じるように他人に無理強いすることができないからです。[p.62]」
・心理的欲求その3、有能感(Competence):「有能感とは、日常で問題やチャンスに遭遇したときに、自分には対処能力が備わっていると感じること、時間をかけてスキルを示すこと、成長している、成功していると実感することです。[p.63]」「人にやる気を起こさせようとしてもうまくいかないのは、他人に成長や学びを強いることが不可能だからです。[p.64]」
・「心理的欲求レベルが高いと、前向きタイプに分類されるモチベーションを持つことがわかります。言い換えれば、自律性、関係性、有能感への欲求が満たされていれば、協調的、統合的、内在的なモチベーションが生まれるわけです。一方、心理的欲求レベルが低いと、後向きタイプに分類されるモチベーションを持つことがわかります。言い換えれば、自律性、関係性、有能感への欲求が満たされないと、無関心・外発的・義務的なモチベーションが生じます。[p.65-67]」「人間に喜びを与えるプラスのエネルギーや活力、幸福感・満足感(ウェルビーイング)は、3つの心理的欲求がすべて満たされた時に生まれます。肝心なのは、その3つが互いに深く依存しているということです。・・・3つのうちのいずれか1つが欠けただけで一気に倒れます。自律性、関係性、有能感のすべてがそろわなければ何もかもだめになってしまうのです。[p.69]」
・「モチベーションとは本来、自律性、関係性、有能感を満たしたいという人間の心理的欲求です。・・・モチベーションの本来の姿とは、成長し、仕事を楽しみ、生産性を高めよう、積極的に貢献しよう、持続的な関係を築こうとする学習者なのです。そう望むのは、周りから圧力がかけられているからではありません。それが人間なのです。[p.73]」

第3章、何かに駆り立てられる「ドライブ」の罠The Danger of Drive
・「モチベーション分野でここ100年、もっとも受け入られてきたのが『動因理論(ドライブセオリー)』です。人は自分にはないものを手に入れようとするときにやる気を出すものだ、という理論です。・・・ところが、動因理論をモチベーションの一般理論として取り入れると問題が発生します。・・・心理的欲求はドライブではありません。・・・ドライブは満たされると消えます・・・。一方の心理的欲求は、それが満たされるとプラスのエネルギーや活力、幸福感・満足感(ウェルビーイング)が生まれ、もっと欲しいと思うようになります。・・・3つの心理的欲求が満たされている人は成長し生きがいを感じます。ほかの『何か』や『だれか』に駆り立てられる必要はないのです。[p.77]」
・「心理的欲求を満たそうとする私たちの足を引っ張っているのが、職場や生活における日常的な出来事です。企業は・・・自律性を蝕みます。人はつい感情的になって関係性を壊します。変化が速すぎるので有能感を感じている暇もありません。では、そういった横槍や障害を避けるにはどうしたらいいのでしょうか? その解決策となるのが、モチベーション・スペクトラム・モデルの縦軸で示された『自己制御力』です。自己制御とは、積極的な行動を直観的かつ継続的に起こすために、感情・意見・価値観・目的を意識しながら統制することです。・・・高い自己制御力は、心理的欲求を満たすうえで必要不可欠なものなのです。[p.80]」
・「従業員は職場に関して、頼りになるか否か、安心できる場か不穏な場か、信頼できるか否か、というふうに絶えず評価を下しています。そして、信頼性があり安心できる職場環境のほうが高い自己制御力を持てる可能性がずっと大きいのです。・・・従業員は・・・自己制御力を身につけていかなくてはなりません。『駆り立てられる』のではなく、自らを『駆り立てる』方法を学ぶ必要があるのです。心理的欲求を満足させることが目的だとすれば、自己制御は目的達成の手段なのです。[p.85-86]」「自己制御は、心理的欲求を蝕もうとする感情誘因や雑音を阻止するためのメカニズムです。前向きタイプのモチベーションを持ちたいのであれば、職場における出来事や状況をうまく処理できるよう高い自己制御力を身につけなくてはなりません。そのために効果的なのが、マインドフルネス(Mindfulness)、価値観(Values)、目的(Purpose)です。[p.86]」
・自己制御力を育む手段その1、マインドフルネス:「マインドフルネスとは『気づき』です。今この瞬間に起こっていること、体験していることについて、価値判断を下したり無意識に反応したりせずに、認め、受け入れ、順応することです。[p.87]」「自らの反応をコントロールできないと、マインドフルネスの欠如が自己制御力の低さとなって現れます。その結果、後向きタイプに属する3つのモチベーションのいずれかを抱くことになります。・・・前向きタイプのモチベーションが持つエネルギーは、後向きタイプのモチベーションが放つマイナスのエネルギーにはけっしてかないません。[p.88-90]」「マインドフルな状態にあると『自律』感覚が高まります。その瞬間を支配している自己概念が無関係な過去の経験のせいで歪曲されたり、事実と大きく隔たったりしている可能性が少ないからです。マインドフルな状態では、人は関係性をより適切に実感できるようになります。自分勝手な解釈を下したり偏見を持ったりすることなく、心から他人を思いやることができるからです。マインドフルな状態はさらに、有能感を高めます。とっさに判断せず、より適切に選択できるからであり、そのほうが、どんな状況でもうまく切り抜けられるからです。[p.91]」
・自己制御力を育む手段その2、価値観:「価値観は、過去の経験や事実認識をもとにした判断基準です。そして人はそれに照らし合わせて善悪やその度合いなどを決めています。価値観は、いかに働き、どう生きるべきかを決める指標として、永続的に守っていこうと決めた考え方なのです。価値観は高い自己制御力を支える柱です。[p.92]
・自己制御力を育む手段その3、目的:「目的とは、何らかの行動を起こすための深い意義を持った動機です。目的は、崇高な思いを胸に行なうものであり、その行動は社会的意義を帯びています。[p.94]」「個人的な価値観や夢を明確に掲げ、それを勤務先企業が謳う価値観やビジョンと結びつけ調和させている従業員はきっと、目的意識を持って生き生きと働いているはずです。[p.96]
・「『ドライブ』の罠は、外発的モチベーションを抱いているせいで心理的欲求の自律性、関係性、有能感が損なわれ、モチベーションの質と持続性が低下した状態を指します。外発的モチベーションは、金銭報酬やインセンティブ、立派なオフィスや肩書といった有形なもの、または周囲の承認や知名度、羞恥心や不安といった無形のものによって引き起こされます。従業員は外発的モチベーションに夢中になると、他人や物に操られるようになり、知らず知らずに自律性を失ってしまうのです。人は、自律性を損ねるような職場をつくるリーダーに対して憤りを感じます。そのうえ、結果を出せと部下を追いたてる上司を利己的だとみなします。そういった上司から支援されたところで、それはあくまでも条件付きであり、『言うとおりにすれば、何らかの見返りを与えてやる』と言われていると感じます。支援を受けてもそれが条件付きだと思えば関係性は蝕まれます。プレッシャーや緊張感を与えて結果を出すよう駆り立てると、人は創造性や能力が抑制され、集中力を欠き、状況に対処できるだけの実力は自分にはない、無力だと感じるようになります。自己制御力の高さと心理的欲求が満たされているという感覚は直結しています。心理的欲求を損なう日々の出来事を跳ね返すには、マインドフルネスと価値観、目的を通じて高い自己制御力を働かせなくてはなりません。[p.99-100]

第4章、モチベーションはスキルMotivation Is a Skill
・「自らが持つプラスのエネルギーや生命力、幸福感・満足感(ウェルビーイング)を活発化して前向きなモチベーションを起動するには、3つのスキルが必要です」「自らの幸福感・満足感(ウェルビーイング)と、目下の仕事や状況の背景にある理由を把握して、自分が現在抱いているモチベーションタイプを見きわめる。」「自己制御力を育むマインドフルネス・価値観・目的を働かせて3つの心理的欲求を満たし、前向きタイプのモチベーションにシフト(あるいは維持)する。」「後向きタイプのモチベーションと前向きタイプのモチベーションの違いに目を向けて、自らを振り返る。」[p.102]
モチベーションタイプの見きわめと目指すべきタイプへのシフト(維持)
①「無関心というモチベーション:・・・やるべき仕事をとりあえず片づけているだけで、目標に向けて真剣かつ継続的に取り組もうと心の底から思っているのではなければ、あなたは無関心というモチベーションを持っていることになります。[p.112]
②「外発的モチベーション:外発的モチベーションを持っているということは、有形あるいは無形の報酬と引き換えに行動を起こしていることにほかなりません。・・・手にできる外発的報酬が抗い難いものであるため、外発的モチベーションは大変魅力的です。ただし、このモチベーションは・・・3つの心理的欲求を損なうものだという点を忘れてはなりません。はじめこそは報酬が目の前にちらついてやる気がどっと湧き勢いよく仕事に取り組むでしょう。しかし、優れた仕事を成し遂げるための創造力や革新的アイデア、粘り強さは長続きしません。目標達成ではなく報酬を目当てにしているからです。[p.113-114]
③「義務的モチベーション:義務的モチベーションは、後向きタイプのモチベーションのなかでもっとも不健康なものだと言えます。・・・やらなければならないから、罪悪感や羞恥心、不安といったマイナスの感情を避けたいから、とりあえず仕事をしよう、目標に向かって取り組もう、と考えることが多々あるのです。[p.115]
④「協調的モチベーション:協調的モチベーションを持つとは、もはや目的達成を目指すというより、行動のなかに意義を見出している状態です。このモチベーションを感じるのは、取り組んでいる仕事と自らの価値観が結びついているときです。目的と価値観が調和しているという満足感が幸福感・満足感(ウェルビーイング)を生みます。・・・仕事と価値観を調和させるためには、価値観をしっかりと自覚していなければなりません。[p.117]
⑤「統合的モチベーション:統合的モチベーションを持っていると、自分の価値観をあまり意識せず、そうすることが当然であるかのように行動します。頼まれた仕事、求められていることに対して違和感も抵抗感も覚えません。大きな責任を感じ、きわめて前向きに取り組み、最善を尽くします。行動には崇高な目的が伴っています。・・・欠点をひとつだけ挙げるとすれば、目的意識を持たなくてはならない点です。・・・願いが最も満たされるのはこのモチベーションを持っているときです。[p.119-120]
⑥「内在的モチベーション:内在的モチベーションを持っているときは、目の前の仕事や活動になぜか自然に興味が湧き、楽しさを覚えます。・・・楽しすぎて時間がたつのを忘れてしまうことも少なくありません。・・・行為に没頭し、エネルギーを注ぎ、それを苦にすることなく集中して時間的な感覚を失ってしまうことを『フロー』といいます。フロー状態に入ると生産性と創造性が向上し、感情も安定します。・・・フローがきわめて有益なのは、意義と目的を伴った統合的モチベーションを持っているときです。内在的モチベーションの場合も有益だと言えますが、行為によっては困った事態になることもあります。・・・無心に楽しめる行為やもともと好きな活動に高い自己制御力は必要ないからです。楽しい行為がかならずしも3つの心理的欲求を満たすわけではありません。とりわけ関係性においてはそうです。[p.120-123]
・シフト:「前向きタイプのモチベーションのいずれかを持っている、あるいはそのひとつにシフトすると、プラスのエネルギー、健康、創造性、短期的な目標達成、長期的メリットという点で大変有益です。しかし現実的に考えれば、内在的モチベーションを持って取り組めるような純粋に楽しい仕事などほとんどありません。だからこそ、価値観や目的、意義を土台にした協調的あるいは統合的モチベーションが重要となってくるのです。[p.123]」「シフトの目標は、自律性、関係性、有能感という3つの心理的欲求を満たすことです。[p.124]
・自らを振り返る:「まずはモチベーションがシフトしたあとの自分の感情を見つめ直してみましょう。それが幸福感・満足感(ウェルビーイング)を実感するための近道です。そして幸福感・満足感(ウェルビーイング)の実感は、前向きタイプのモチベーションを維持するために不可欠です。[p.131]

第5章、モチベーションをシフトするMaking Shift Happen
・「モチベーションに関する対話とは、他人のモチベーションを前向きタイプへとシフトさせるためのきっかけの場です。・・・結局のところ、モチベーションのシフトは本人が目の前の状況と選択肢をいかに内在化するかにかかっています。他人のモチベーションを引き出すことができないのは、他人の内在化プロセスをコントロールできないからです。コントロールしようとすれば、相手には義務的モチベーションが生じるでしょう。モチベーションに関する対話が相手のモチベーションをかならず前向きタイプに変えてくれるという保証はありませんが、少なくとも成長と理解を促す機会にはなります。[p.143-144]
・モチベーションに関する対話でのタブー:問題を解決しようとしないこと。価値観を押しつけないこと。モチベーションをシフトできると期待しないこと。[p.146]
・「モチベーションに関する対話を通じてリーダーシップを発揮しようとするなら、準備が必要です。まずは『あなた自身』が相手や案件、対話に臨むうえで欠かせない責任感に対し、前向きなモチベーションを持たなくてはならないのです。[p.170]

第6章、前向きなモチベーションへのシフトを阻む5つの固定観念Rethinking Five Beliefs That erode Workplace Motivation
・悪しき固定観念①「仕事は単なるビジネスだ。私情は持ち込むな」:「この・・・固定観念を、前向きタイプのモチベーションを起動させやすい、次のような考え方に改めてみてください。『ビジネスには私情がつきものである』。どんな感情でも容認するが、どんな行動でも容認できるわけではない、という姿勢を持ちましょう。[p.177-178]
・悪しき固定観念②「ビジネスの目的は利益をあげることである」:「お金儲けをビジネスの目的に掲げると、数値目標ばかりが気になり、良質のサービスを提供しようと現場で仕事に励む従業員の存在を忘れてしまいがちです。また、過度に結果を重視するようになるので、プレッシャーを与えかねません。[p.179]」「代わりに前向きなモチベーションに根差した新しい姿勢を持ってみませんか。『ビジネスの目的は、従業員と顧客の双方に奉仕することである。利益はそこから生まれる副産物にすぎない』[p.181]
・悪しき固定観念③「リーダーとは権力を行使する立場の人間である」:「自分の権力を総動員して部下のモチベーションを引き出そうとしてもかまいませんが、相手に前向きなモチベーションを期待するなら失敗します。前向きなモチベーションへシフトできるのは本人だけだからです。・・・次のような考え方を取り入れてみてはどうでしょうか。『リーダーとは部下が心理的欲求を満たし得る職場づくりを担う人間である』[p.187-188]
・悪しき固定観念④「唯一大事なことは結果である」:「従業員は組織が掲げた数値目標と自分に割り当てられたゴールを達成しようとします・・・。ただし、そういった目標は与えられたもの、あるいは義務的なものだととらえる傾向があります。[p.189]」「もっと前向きなモチベーションが持てる目標を設定するよう部下を導かなくてはなりません。[p.191]」「目的のために手段を正当化させない[p.192]
・悪しき固定観念⑤「測定できなければ意味はない」:「測定可能な目標の設定は大変有益です。・・・しかし、私たちは・・・仕事には容易には測定できない側面があることを受け入れる必要があります。・・・人生と同様、仕事でもっともやりがいを感じられるのは、測定がなによりも難しいことなのです。[p.195-196]

第7章、前向きなモチベーションが約束するものThe Promise of Optimal Motivation
・「仕事の成功は健康や幸福感・満足感(ウェルビーイング)へとつながる――これこそ、前向きなモチベーションが約束するものです。[p.208-209]
---

モチベーションというものを多様なものと捉え、どんなモチベーションが何をもたらすのかを理解すること、それが著者の考え方の最も重要なことのように思います。さらに、抱くモチベーションは人によってもそれぞれ異なるし、やろうとする行為によっても異なるということも、言われてみれば当たり前のように思えますが、こうした点の理解が曖昧なことが、モチベーションを上げるための実践的方法がわかりにくかった原因なのではないかと思います。また、他人のモチベーションを変えたいと思っても、変えるのはその本人であって、本人に自覚を促さなければ変えられないということも重要な点だと感じました。

本書に述べられているモチベーションタイプおよび、それぞれのタイプと心理的欲求、自己制御力との関係、さらには心理的欲求の3つのポイント、自己制御力を育む3つの方法については、残念ながらどこまで実験や理論の裏付けがあるのかがはっきり書かれていませんので、それらを妥当なものとして理解してよいのかはわかりませんでした。ただ、ひとつのモデルとして捉え、実践のヒントを得ようとする上では非常に使いやすい考え方だと思いますし、少なくとも従来の考え方よりもその妥当性は大きく高まっている気がします。不確実で複雑な仕事に取り組まなければならない研究者にこそ、このようなモチベーションのとらえ方が有効なように思います。


文献1:Susan Fowler, 2014、スーザン・ファウラー著、遠藤康子訳、「会社でやる気を出してはいけない」、マルコ社、2017.

研究開発マネジメントノート(本ブログ記事)索引(2018.1.21版)

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意思決定:ノート2ノート12ノート13ノート補2ヒューリスティクス110103まさか121028ファスト&スロー130707意思決定理論140615決定力160522
一時的競争優位:ノート14競争優位の終焉160104
イノベーション:ノート序ノート1ノート4イノベーションとは何か120722Thinkers50イノベーション150607小さなイノベーション150823イノベーションって何?160403ノート全面改訂3研究の考え方160529イノベーション途絶170416イノベーションパス170717日本流イノベーション171001
イノベーションの方法:イノベーションの方法150923日常業務でのイノベーション151018イノベーションマネジメント170122
衛生要因:ノート7ノート11ノート補1
エコシステム:ノート14ノート補1ノート補2ノート補3エコシステムイノベーション170326ノート全面改訂14市場での不確実性克服170402ノート全面改訂15ビジネスモデル170501
エンパワーメント:ノート7ノート補2モチベーション管理110123
オープンイノベーション:ノート5ノート9ノート補2オープンイノベーション110110実践オープンイノベーション171224

か行
外発的動機づけ:ノート7ノート10ノート補1
科学技術社会論:科学との付き合い方101121科学技術と社会の関わり110718ダマされないための科学講義120122
科学哲学:科学哲学111010ソーカル事件111106感性の限界121111エコエティカ130127科学を語る140413
学習:ノート11ノート12ノート全面改訂24研究者育成180108
片づけるべき用事:ノート6ノート補1片づけるべき用事160828
活性化:ノート7ノート全面改訂18研究者活性化170723ノート全面改訂19モチベーション170820
技術:ノート2ノート11テクノロジーとイノベーション120401セカンドマシンエイジ160410
技術経営:ノート序技術経営の常識のウソ110417技術経営の実践的研究130429技術を武器にする経営150118教科書を超えた技術経営160911いまこそイノベーション161023
技術者流出:技術者流出121008中国への技術者流出151004技術流出161127
競争相手:ノート3ート補1ノート全面改訂7環境の不確実性160919
競争優位:ノート10ノート14ノート補2ノート補3持続的競争優位140316競争優位の終焉160104
協働:ノート9ノート10ノート補1
協力:ノート序ノート8ノート10不機嫌な職場111218利他性と協力120513支援130303協力と罰の生物学150222多組織イノベーション161120
グローバルイノベーションバロメーター:2011グローバルイノベーションバロメーター1102062012グローバルイノベーションバロメーター120205
経営学:世界の経営学131020ヤバい経営学140209ブラックスワンの経営学150104世界標準経営理論160619世界最先端の経営学161010
形式知:ノート6ノート9ノート14ノート補1ノート補2
計画:ノート序ノート8ノート12
研究者:ノート7ノート8研究報奨100912研究者処遇101003
研究テーマ:ノート1ノート4ノート5ノート6ノート全面改訂8テーマ選定161016ノート全面改訂9テーマ設定と不確実性161113ノート全面改訂11課題実現に関わるテーマ170109ノート全面改訂16興味に基づくテーマ170528ノート全面改訂17テーマ選択170625
権限委譲:ノート7ノート9ノート補2
コア・リジディティ:ノート補3コア・リジディティ100905
コミュニケーション:ノート8ノート9ノート10ノート11ノート13ノート補1コミュニケーション111113

さ行
シーズ:ノート4ノート6ノート全面改訂16興味に基づくテーマ170528
支援:ノート7ノート補2支援130303
試行錯誤:ノート1ノート12ノート補2試行錯誤120812
資源:ノート3ノート4ノート5ノート補2
持続的イノベーション:ノート2ノート4ノート補2
実験:ノート11ノート12ノート補2オンライン実験170910
失敗:ノート8ノート14知的な失敗120226偉大なる失敗150712経営の失敗150720失敗の科学170611
冗長性:ノート8ノート9ノート10
情報:ノート1ノート7ノート11製品開発の誤解121014情報の扱い方150524ノート全面改訂2研究とは160501
自律性:ノート2ノート7ノート8ノート9ノート10ノート補1ノート補2ナットアイランド症候群100926研究者の主体性120624
信頼:ノート10ノート13研究者の主体性120624
成長機会:ノート7ノート8ノート補2
セレンディピティー:ノート2ノート3ノート5ノート6ノート補1
専門性:ノート8ノート9ノート10ノート11
創発的戦略:ノート2ノート12ノート補2
組織的知識創造:ノート6ノート8ノート9ノート14ノート補2組織的知識創造101024

た行
多様性:ノート2ノート8ノート10ノート11ノート補1多様性130224
チーム:ノート7ノート8ノート補3ナットアイランド症候群100926チーム150426
知識創造:ノート10組織的知識創造101024知識創造経営のプリンシプル121224
適性:ノート7ノート8ノート全面改訂20適性と最適配置170918ノート全面改訂21研究適性171015
デザイン:デザイン130512人と「機械」をつなぐデザイン150614101デザインメソッド160221デザイン思考の進化160807
トップダウン:ノート4ノート6ノート9ノート10

な行
内発的動機づけ:ノート7ノート10ート補1
ニーズ:ノート3ノート4ノート6ノート補1ノート補2ノート全面改訂12ニーズ不確実性に関わるテーマ170205ノート全面改訂13ニーズ不確実性に関わるテーマ注意点170305

は行
破壊的イノベーション:ノート序ノート3ノート4ノート9ノート12ノート補1ノート補2破壊的イノベーションの現在130804日本のイノベーションのジレンマ160111破壊的イノベーションとは何か160131破壊的イノベーションへの対抗160417
発見:ノート5ノート9発見の条件101011
発明:ノート5ノート9ノート142010発明1012051年後の2010発明1112253年後の2010発明1312236年後の2010発明161225
ビジネスモデル:ノート序ノート10ノート14ノート補1ノート補2ホワイトスペース戦略120109ビジネスモデルイノベーション130526ビジネスモデル改善151115世の中を変えるビジネスモデル161002ノート全面改訂14市場での不確実性克服170402ノート全面改訂15ビジネスモデル170501
不確実性:ノート2ノート5ノート6ノート8ノート12ノート補1ノート補2ノート全面改訂4不確実性160626ノート全面改訂5不確実性考え方160724ノート全面改訂6環境の不確実性160821ノート全面改訂8テーマ選定161016ノート全面改訂9テーマ設定と不確実性161113ノート全面改訂10課題実現の不確実性161211ノート全面改訂12ニーズ不確実性に関わるテーマ170205ノート全面改訂13ニーズ不確実性に関わるテーマ注意点170305
不均等の意欲:ノート3ノート4ノート補2
複雑系:ノート2ノート10ノート補1ノート補2複雑系経営120506複雑系120610
ブルー・オーシャン戦略:ノート3ノート4ブルーオーシャン戦略160313
ポジティブ心理学:ノート7ポジティブ心理学110925実践ポジティブ心理学180103
ボトムアップ:ノート4ノート6ノート9

ま行
マネジャー:よいマネジャー140622ミンツバーグ マネジャー論150301ノート全面改訂22リーダーの役割171112ノート全面改訂2リーダーの役割各論171210
魔の川:魔の川、死の谷、ダーウィンの海120115ノート全面改訂9テーマ設定と不確実性161113
未来予測:ノート1ノート2ノート補1
無意識:ノート補2無意識のわな141228しらずしらず150322
モチベーション:ノート7ノート11モチベーション管理110123モチベーション110828ノート全面改訂18研究者活性化170723ノート全面改訂19モチベーション170820

や行
やる気:ノート7ノート補1ノート補2モチベーション110828

ら行
リーダー:ノート11ノート補1脱線した幹部100719ノート全面改訂22リーダーの役割171112ノート全面改訂2リーダーの役割各論171210
リーダーシップ:ノート10ノート11悪いヤツほど出世する170709
リバースイノベーション:ノート4リバースイノベーション101017リバースイノベーション121125実践リバースイノベーション151227


ワイドレンズ:ノート補2ワイドレンズ140119

最初の成功の次に考えるべきこと(「Finding Your Company’s Second Act」、Downes, Nunes著HBR2018, January-Februaryより)

最近の新製品やイノベーションには、急速に普及した後急速にすたれるものがある、という指摘があります。Downes,Nunesはそのようなイノベーションを「ビッグバン・イノベーション」と名付け、これからの時代にはそうしたイノベーションの特徴についても考慮が必要であることを指摘しています(本ブログでもその著書「ビッグバン・イノベーション」を紹介しました)。今回はその続編ともいえる同じ著者による最近のHBR論文「Finding Your Company’s Second Act」[文献1]をご紹介したいと思います。

この論文では著者らは普及も衰退も速いイノベーションにおいて、「第二幕」すなわち最初によい結果を得た(第一幕)の後に、どのような点に注意すべきかについて、様々な企業の事例に基づく洞察を述べています。主な分析対象は、初期段階で成功を収めたスタートアップ企業ですが、最初の成功を持続的な成功につなげるにはどうすればよいかを考える上で、スタートアップならずとも参考になる考え方もあると感じましたので、以下にその内容のポイントをご紹介したいと思います。

第二幕の危機(Second-ActCrisis)が起こる理由
・「技術進歩の加速は、新しいイノベーションが市場に浸透する速度を変化させた。時間に対してプロットすると、イノベーションの市場での採用は今やドラマチックなシャークフィンのようになる――これはEverett Rogersの有名なベルカーブ状の普及のモデルを危険なまでに変形したバージョンである。Rogersの5つの市場セグメント(Innovators, Earlyadopters, Early majority, Late majority, Laggards)はいまや2つ、すなわち製品の発展を助けてくれるトライアル・ユーザーとその他の人々になってしまった。破壊的な製品と、しばしばそれを宣伝販売するためのビジネスは、急速に盛り上がり、ほとんど同じ速さで失速し消え去ってしまう。」
(筆者注:前著「ビッグバン・イノベーション」の本ブログ紹介記事でも述べたように、このシャークフィンとRogersの普及過程は上述のようには比較できないと個人的には思っています。ただ、近年、普及と衰退がともに急速なイノベーションが出てきていることは事実のように思いますし、シャークフィンというのはイメージとしてはわかりやすいと思いますので、本論文の主張はそうした普及も衰退も速いイノベーションに関することと理解したうえで本記事をまとめます。)
・「Rogersのベルカーブを圧縮しているのは2つの力だ。ひとつめは、ほとんど瞬間的に新製品の飽和がおきる市場が増えていること。・・・ソーシャルメディアや他のデジタルチャンネルによる情報の拡散は、消費者が買おうと思っているものの評価に必要なコストを劇的に下げ、その結果我々が『ほとんど完全な市場情報』と呼んでいるような環境を消費者にもたらした。買い手は、製品について、他の買い手が好むか好まないかも含めて、発売と同時に(ときにはその前に)完全に知っている。その製品を欲しい人は、ただちに採用する。」「2つめは、デジタル部品のすたれる速度が速いことだ。・・・消費者とビジネスが物をリプレースしていく速度は、工業的標準の秩序だった改良ではなく技術の移行の劇的な速度によって決まってくる。」
・事例:Tesla

傷つきやすい企業の7つの習慣(TheSeven Habits of Highly Vulnerable Enterprises
・「第2幕の危機に見舞われた企業を調査した結果、早すぎる死の主な原因は皮肉にも、その経営者たちが熱心に最新のマネジメントアイデアを採用したことにあることを見出した。『デザイン思考』『リーン』『アジャイル』開発の考え方のもと、彼らは第一世代の製品をより説得力のあるものにして、ユーザーの顧客体験が『楽しい』とまではいかなくともより優れたものを提供ようと資源と創造力を集中する。しかし、それによって彼らは組織の資産を、単一のミッションを完成させることに制限してしまうことになる。もちろん、ビッグバン破壊の時代においてもマネジャーが固定費、固定資産、製品構成、人事といったビジネスの基本に注意を向けることは必要である。しかし、柔軟さを欠いて単一の製品や単一の顧客セグメントにとらわれると、たいてい第二幕の危機に陥る。」「我々の研究により、非常に成功した企業がひとつのビッグバン破壊を超えた製品を出せなかった理由を説明する7つの共通する失敗が明らかとなった。」
1、リーンを重視しすぎ(Thecompany is too lean
・「リーンスタートアップのアプローチは新旧とりまぜた企業で人気だが、彼らの資源を第一幕の製品だけに捧げすぎると失敗する。これは、市場の飽和が常により速いためで、その結果シャークフィンの急速な下り坂をもたらす。この下降をユーザーを満足させることに失敗したと悲しくも勘違いする企業があり、Riesのいう『ピボット』すなわち製品デザインの『構造的な方針修正』を始めることがある。しかし、市場が変わり、次のイノベーションを待っている状態なら、ピボットは助けにならない。マネジャーは飽和する前に新しいチームを作って一からサイクルを始めなければならない。」
・事例:GrouponZynga
2、資本構成が失敗を招く(Thecompany’s capital structure is built to fail
・「突然の市場飽和により外部資本が生産と拡大をかつてよりも早期に求めるようになる。」「第1幕の企業は必要になる前に長期負担を引き受け、将来の柔軟性を制限してしまう。スタートアップは通常、組合との契約や年金など古い企業の足枷となる負担がないが、しばしばランチのケータリングや寛大な休暇制度、無料デイケア、高額なオフィス賃料といった過剰な出費をしてしまうことがある。これらのコストは市場が突然変化する場合に特に危険だ。」
3、主導者を失う(Thecompany has lost its head
・「シリコンバレーのよくあるパターンでは、ベンチャー投資家は、製品投入まで、先見性のある起業家にしばしばゆきあたりばったりでもよい組織運営の自由を与える。しかし、一旦顧客を獲得するとすぐに、投資家は日々の運営のために経験豊富なマネジメントや『大人の監督』を要求する。・・・イノベーションを続けるような奨励をやめてしまうと創業者はすぐに信頼できる仲間を連れて辞めてしまい、別のスタートアップを立ち上げることが多い。・・・経験豊富なマネジャーは最初の製品の改善に注力し、それは同じような技術にアクセス可能で、より長期的に使えるビジネスモデルへの責任のない新規参入者の競争の標的となる。それに呼応して企業は既存の戦略への賭け金を上積みし、市場が変わった時の座礁のチャンスを増やしてしまう。」
・事例:YahooTwitterGoogleApple
4、投資家にサービスしすぎる(Thecompany is overserving investors
・「スタートアップはIPOで現金を得ると、利益が十分に速く現れてこない時には、より多くの破壊を求めながら株価が上がるマネジメントをもとめる投資家によって邪魔されることに気付く。第2幕は、マネジャーが投資家の要求に応えるまで延期される。」
・事例:SnapBlue ApronLinkedInEtsy
5、宝くじにあたる(The companywon the lottery
・「今日称賛を受けているいくつかのスタートアップは運が良かっただけだ。そのことはその企業が最初の人気に何も付け足すことができなかったときに明らかになる。最初のビッグバン破壊となった製品を出すことは、マネジャーに無敵である感覚をもたらしてしまう。その企業がたまたま成功したのは非凡な経営上の意思決定の結果だという後付けの歴史が書かれることが多いが、それは危険な思い違いだ。成功はしばしば失敗を生む。」
・事例:TwitterOculus
6、規制にとらわれる(Thecompany is held captive by regulators
・「シャークフィンのビッグバンフェーズで、製品が急速に受け入れられると、驚いた既存企業は反乱者の脱線によって時間を稼ごうと規制当局に頼る。・・・それに対応するため、スタートアップは今まで必要と思っていたよりもずっと早く法律顧問を雇って、少ない資源を企業を立ち上げることから、市議会、公益事業委員会、法的なヒヤリングに方向転換しなければならない。・・・スタートアップにとってこれは隠れたリスクともなる。・・・彼らが次の世代のイノベーターへの対抗のためのバリアとして規制を使えると思うようになるのだ。規制の戦いには勝てるかもしれないが、そうすることで、彼らは力を失い、かつては力となってくれた顧客の支持を失うのだ。」

・事例:UberAirbnb
7、存在しない顧客に期待する(Thecompany anticipates customers who don’t exist
・「勝者全取りの現状では、ビッグバン破壊の顧客は一斉に現れ、将来の売り上げや次の製品についての市場の好みについて混乱したシグナルを送ってくる。・・・ベルカーブに慣れたマネジャーは、より多くの顧客や新しい市場セグメントを予想して、実現性のない生産拡大や追加販売のために高価な資源を使ってしまう。」
・事例THQ

第2幕で生き残る
・「以上のような落とし穴を避けるだけでは、燃え尽きることなく傑出した存在となるには十分ではない。ひとつのシャークフィンから次に移るタイミングも同じように重要だ。」「第二の製品を売り出したり、第二の市場に参入したり、第二の技術的革命をリードしたりする企業は、特定の問題を1回限りで解決するのではなく、多くの実験を生むイノベーションエンジンとして創業者によって作られた組織を持っている。」
・「第2幕で生き残ることを確実にするため、長生きする破壊者のいくつかの戦略から学ぼう」
消耗する前に成功した製品を捨てる(Abandon the successful product before it runs out of steam
・「第2幕の企業はビッグバンの波の頂点を見ているだけではなく、その最後の価値の一滴を絞り出すより前に別のシャークフィンに跳び移る勇気を持っている。」「生き残るものは、実験に値する新しい技術を探し、変化を経済的に支える収入がまだあるうちに、できる限りの最高の資産の方向を転換する。」
・事例:Netflix
製品ではなくプラットフォームを作る(Build a platform, not a product
・「多くの第2幕の生存者は、単一の製品ではなく、エコシステムを立ち上げる。」
・事例:GoogleAmazonFacebookTencentUberAirbnbTaskRabbit
製品をサービスにする(Turnyour initial product into a service
・「破壊の真の価値は製造し、届け、サポートするできるインフラかもしれない。製品がつぎはぎの使い捨て品でない限り、多くのソフトウェアスタートアップでそうであるように、第2幕はコアとなるツールを貸しておそらく非常に異なるビジネスや業界に加工するところにあるかもしれない。」
・事例:Under ArmourAmazon WebServiceGoPro
新たに生まれた破壊者に投資したり買収したりする
・「第1幕で成功した企業は潤沢なキャッシュを持ちベンチャー投資家から比較的安く融資を受けられる環境にあるかもしれない。この資金は、早く使えば第2幕の燃料となる。人気の出た製品で顧客へのサービスを続ける企業でありつつも、次世代の破壊者に投資したり完全に買収することができる。・・・第2幕の企業にとっては、不確実な未来に対するヘッジとしてその価格に見合う。」

生きてまた戦うために(Livingto Fight Another Day
・「ビッグバン破壊は妙な見通しよりもすばらしいタイミングから起こることを成功したスタートアップが早く認めるほど、我々が調査した企業の多くを沈めてきた悪い習慣に抵抗するチャンスを高める。しかし、それは持続的な新しい企業となるための最初のステップにすぎない。消費者が熱狂的に第1幕の製品を受け入れたとしてもマネジャーは避けられない崩壊に対する準備をして、しっかりしたプラットフォームをビジネスの基礎の上に構築することに焦点を移さなければならない。第2幕のリーダーは不必要な資産や運営上の義務を採用する誘惑に抵抗し、市場が示すものにどのようにも、いつでも従うよう製品の構成を変えていく投資をする人だ。そのような徳のある行動の見返りは大きい。第2幕の早い時期の危機を乗り越えた企業は、イノベーションインキュベーターとなり、単一の製品や単一の市場ではなく、最高のエンジニアや才能あるマーケター、破壊を繰り返す長期的な投資を促進するステークホルダーを惹きつける企業文化にも焦点をしぼるようにもなる。簡単に言えば、彼らは最高の評価を受けるに足るブランドを創造するのだ。」
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シャークフィンの形がどうなのかという問題はさておき、本論文では、普及も衰退も早いビッグバン・イノベーションの特性と、そのどういう点に注意が必要かについて、以前の著書よりも具体的な見解が示されていると思います。これはスタートアップのみならず、既存企業にとっても有用な示唆だと言えるでしょう。どんなイノベーションでも必ずすたれる時は来ます。それに対してどのように対応すればよいのかは今まであまり議論されていなかったと思いますが、イノベーションによる持続的な優位確保を考えるならば、成功した後の第2幕以降にどのように行動すべきかはどんな企業にとっても重要なことだと思います。

 

もちろん、既存企業においては、第1幕の終了(製品の衰退)が見えにくいこともあるでしょうし、衰退イコール企業の破滅ということにはならない余裕があるのも事実だと思います。しかし、そうした衰退を放置することは長い目でみればその企業の競争力を損なうのは明らかでしょう。スタートアップの場合、衰退が見えやすく、教訓も得やすいのだとすれば、本論文に述べられた示唆は既存企業にとっても一考の価値があると思います。持続的な優位を構築するために、本論文の主張がどんな場合に妥当なのか、なぜそのようになるのかを自らの事業分野について考えてみることは必要なことなのではないでしょうか。


文献1:Larry Downes, Paul Nunes, “Finding Your Company’sSecond Act”, Harvard Business Review, Januaryr-February, 2018, p.98.
https://hbr.org/2018/01/finding-your-companys-second-act

研究開発実践のマネジメント第24回-研究メンバーの育成:研究開発マネジメントの実践と基礎知識2.2.4(「ノート」全面改訂)

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第7回
2、研究開発実践のマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
第8回第17回
2.2
、研究開発を行う人のマネジメント
2.2.1
、研究者の活性化
第18第19回
2.2.2
、研究者の適性と最適配置第20第21回
2.2.3
、研究リーダー、マネジャーの役割第22回第23回

2.2.4
、研究者の育成
研究メンバーの育成については第22回で研究マネジャーの役割のひとつとして触れましたが、研究メンバーの能力アップは、組織的におこなうべきことかもしれません。また、これからの時代、研究メンバーの能力は競争優位の源泉としてますます重要になってくる可能性も高いと思われます。もちろん、研究者は本人の努力で能力を伸ばすべきだ、という考え方もあるでしょうが、そうであったとしても環境や支援の方法によって能力の伸びが変わってくるのではないでしょうか。そこで今回は、研究メンバーの能力をいかに引き上げるかについて考えておきたいと思います。

1)
研究メンバーの育成のポイント
研究メンバーにどのような能力が求められるかは、研究分野やメンバーが担うべき役割、メンバーの個性によって変わってくるでしょう。従って、すべての場合にあてはまる画一的な育成手法を用いようとすることはあまり好ましくないと考えられます。そこで、以下の点をポイントとして挙げたいと思います。
・組織がメンバーに求めている役割に必要とされる能力、スキル、知識は何かを定める。
・そのメンバーに不足している(育成すべき)能力を定める。
・その能力を育成するための手段、方法を定める。
・育成の効果が上がるような環境を整備する。

その際、特に以下の点に注意が必要と考えます。
・育成対象メンバーの個性を損なわない範囲で、育成の方向性や期待と育成方法を納得してもらう。
・経験から主体的に学習、成長できるよう方向づける。
・必要に応じてフィードバックを与える。
・育成は時間をかけて取り組む必要があることを認識する。

「育成」というと、知識やスキルを身につける、いわゆる「勉強」の側面に注意が向きがちですが、研究者にとっては既存の知識やスキルは手段にしか過ぎないことがほとんどでしょう。新しいことの創造には、そうした知識やスキルを身につけたうえで、どう使うか、どう発展させるか、どう新しいものを創造していくかが重要になりますので、今までにない経験からいかに学習するかという能力の育成が特に重要と考えられます。

2)
育成に関するいろいろな考え方
科学技術の専門化が進むに従い、研究者育成の重要性は従来にも増して高まっているにもかかわらず、研究者の育成に焦点を絞った論考はあまりないようです。そこで、以下では「学習」の方法に関する議論の中から研究者の育成に役立ちそうな内容をまとめたいと思います。

近年の人材育成に関する問題認識
・中原淳氏は、1990年代後半から2000年代にかけての日本企業で人材育成が機能不全に陥ったと認識される原因として以下の変化による影響を指摘しています。
1)職場の社会的関係の消失:職場のスリム化とフラット化により「『教育係の機能を果たす人材』は職場から失われた[文献1、p.23]」

2)仕事の私事化、業務経験付与の偏り:「成果主義を背景に、個人が個人の業績だけを追求する風潮が生まれた結果(仕事の私事化)、職場の個人が他のメンバーの発達支援を担うという、いわゆる組織市民行動を担おうとしなくなった、・・・職場としての成果を出さなければならないために、個人の成長につながるような業務経験の付与に偏りが生じ、成長機会が阻害された[文献1、p.23]」。さらには、マネジャーのプレーヤー化による業務経験の偏りも指摘しています。

3)高度情報管理による学習機会喪失:業務のIT化は静かな職場をつくり、「潜在的な学習資源へのアクセシビリティを阻害する[文献1、p.31]」。ナレッジマネジメントによる「職場における知識共有」データベースを構築すると、「人は自らの手足を使って、経験したり、頭で思考したり、試行錯誤することをやめてしまう」ため、「学習は生起しない[文献1、p.31]」。個人情報保護法等の情報管理は、「内部統制の厳密な運用によって学習資源へのアクセシビリティが制限[文献1、p.36]」される事態を生む。


学習のメカニズム
・楠見孝氏は、熟達化の段階として次のプロセスを示しています。1)初心者(指導者からコーチングを受けながら、仕事の一般的手順やルールのような手続き的知識を学習し、それを実行する手続き的熟達化が行われる)、2)一人前における定型的熟達化(指導者なしで自律的に日々の仕事が実行できる段階)、3)中堅者における適応的熟達化(柔軟な手続き的熟達化によって、状況に応じて、規則が適用できる。さらに、文脈を越えた類似性認識(類推)ができるようになり、類似的な状況において、過去の経験や獲得したスキルを使えるようになる)、4)熟達者における創造的熟達化(高いレベルの完璧なパフォーマンスを効率良く、正確に発揮でき、事態の予測や状況の直観的な分析と判断は正確で信頼できる)、5)叡智(仕事場を含む幅広い人生経験に基づく深く広い知識と理解に支えられた知性)[文献2、p.35-39]。その上で、経験から実践知をどれだけ多く獲得できるかに関して、経験から学習する態度(挑戦性、柔軟性、状況への注意とフィードバック、類推)、省察(過去の体験に意義や意味を解釈して深い洞察を得る、実践の可能性について考えを深める)、批判的思考(基準に基づく合理的(理性的・論理的)で偏りのない思考)を指摘しています[文献2、p.45-51]。
・中原淳氏は、経験から学習するメカニズムについて、以下のコルブの経験学習モデルを紹介しています。コルブの経験学習モデルとは、具体的経験→内省的観察(「ある個人がいったん実践・事業・仕事環境を離れ、自らの行為・経験・出来事の意味を、俯瞰的な観点、多様な観点から振り返ること、意味づけること[文献1、p.94]」)→抽象的概念化(「経験を一般化、概念化、抽象化し、他の状況でも応用可能な知識、ルール、スキーマ、ルーチンを自らつくりあげること[文献1、p.99]」)→能動的実験(経験を通して構築されたスキーマや理論が、アクションされ、そこから新たな経験や内省が生まれる)、です。そのうえで、経験学習に影響を与える要因として、「経験を蓄積し、折にふれ、その出来事・経験の意味を内省し、抽象的原則に自らまとめることが能力形成にとっては重要[文献1、p.120]」、「個人の資質が高くても、当人の所属する組織的風土にそれが適合するか否かが、現場における経験学習に影響を与える[文献1、p.122]」、「部下の経験学習を促すために上司がなすべきことは、まず『仕事説明』を行うことである。仕事の前工程・後工程、また付与する仕事とプロジェクト全体の目的との関係などをしっかりと説明することが部下にストレッチの経験を与える。・・・そのうえで、現有能力を越えるストレッチの経験と定期的なモニタリングリフレクションが、部下の『能力向上』に資する可能性が高い[文献1、p.113]」と指摘しています。
・上記のメカニズムの中で、特に重要なのは、省察や内省ではないでしょうか。単に知識や経験を記憶するだけではなく、自分のこととして考え、意味を理解する、というプロセスが知識や経験を学習に結び付ける上で重要と考えられます。従って、有効な学習、育成には、そのような内省、省察を支援することが必要でしょう。

学習に影響する因子
・学習が最もうまくいく条件として、ニコラス・カーは、ヤーキーズ・ドッドソンの法則を紹介しています。それは、「刺激のレヴェルが非常に低いとき、人は注意も向かず意欲も起こらず不活発なままで、パフォーマンスもほぼゼロのままである。刺激の程度が上昇すると、それにつれてパフォーマンスも向上し、・・・やがて頂点に達する。すると、刺激が強まりつづけているにもかかわらずパフォーマンスは低下しはじめ・・・る。刺激が最高度に達したとき、人はストレスのせいで実質上麻痺してしまっており、パフォーマンスは再びゼロになる。・・・学習とパフォーマンスの質が最も上がるのはヤーキーズ・ドッドソン曲線の頂点にあるとき、すなわち、難題に直面してはいるけれども圧倒されていないときである。[文献3、p.118-119]」というもので、与えられる刺激(すなわち経験)の質が重要な意味を持つということと考えられます。
・別の因子としては「不安」が挙げられます。キーガンとレイヒーは、変革を阻む免疫機能として、不安を管理する心のシステムに注目しています。「人に不安を感じさせるもの、それは、先に待ち受けている脅威の前に無防備で放り出されるという感覚だ。・・・強力な免疫システムが作動していれば、不安から解放されるという恩恵がある反面、さまざまなことを自分には不可能だと思いこんでしまうという弊害もある。[文献4、p.71]」とし、不安を避けることで「視野が狭くなり、新たな学習が阻害され、特定の行動が取れなくなってしまう。その結果、実現したいと本当に思っている自己変革が妨げられるケースがある。[文献4、p.68-69]」と指摘しています。

学習を促進する環境づくり
こうした学習に関する知見に基づいて、学習を効果的に促進するにはどうしたらよいかに関する提案をご紹介しておきます。
・中原淳氏は、次のように述べています。「上司による『精神支援(精神的な安息を提供する)』と『内省支援(仕事のあり方を客観的に折りにふれて振り返らせることを可能にする)』、上位者・先輩によって担われる『内省支援』、同僚・同期によって担われる『業務支援(業務に関する助言指導を行う)』『内省支援』が、本人の『能力向上』に正の影響を与えている[文献1、p.133]」。「職場のマネジャーは、直接部下育成に関わるだけでなく、職場の互酬性規範を高め、様々な人々の部下育成支援を引き出すマネジメントを行う必要がある[文献1、p.138]」。「互酬性規範とは、一般に『もし、[職場メンバーの]AがBを助けたとしたら、AはBに限らず[職場の]他の人からも返報されるだろう』という社会的期待[文献1、p.137]」。「職場のなかで何気なく人々によってかわされている業務で成功した経験の語りも、失敗した経験の語りも、いずれも本人の学習にとってはポジティブな影響を持っており、さらには『信頼感』が相互に感じられる組織であればあるほど、その効果は高くなる[文献1、p.141]」。「そうしたコミュニケーションを通じた学習の『基盤』をなすのは、組織レベルの信頼である。[文献1、p.142]」「過剰な支援が今度は『依存』を生み出す可能性がある[p.145]」。「学習支援の観点からは支援と支援解除はセットで語られるべき問題である[文献1、p.146]」。
・キーガン、レイヒーは、成長を促すリーダーシップについて、次のような指摘をしています。「組織で人材が絶え間なく成長していくようにするためには、どうすればいいのか?・・・本当の変化と成長を促したければ、リーダー個人の姿勢と組織文化が発達志向である必要がある。・・・以下の7つの要素を満たしているべき」[文献4、p.400-418]。1、大人になっても成長できるという前提に立つ、2、適切な学習方法を採用する、3、誰もが内に秘めている成長への欲求をはぐくむ、4、本当の変革には時間がかかることを覚悟する、5、感情が重要な役割を担っていることを認識する、6、考え方と行動のどちらも変えるべきだと理解する、7、メンバーにとって安全な場を用意する。「試練と支援――この二つはセットで取り入れることが重要だ。あなたは、チームの全員が不安を感じずに試練に向き合うために、どの面でもっと安全性を高めるべきかわかっているだろうか?」
・金井壽宏氏は、熟達化への動機づけ要因として、有能感(その領域で有能で、効果的に環境に働きかけることができ、その領域をうまくマスターしているという実感[文献2、p.304])、用具性(熟達することがポジティブな諸結果(広義の報酬)をもたらす主観的確率)、自己決定と自己イメージ(自分で決めること、才能や有能さの自己イメージ)が重要であるとしています。また、熟達に必要な長期間、熟達へのモティベーションを維持するよう自己調整するための方法として、1)緊張系(未達成だと気づくと人は動く、欠乏動機、ハングリー精神、危機意識)、2)希望系(希望、達成感、達成に対する承認や賞賛、報酬への期待、成長感、楽しみや熱中)、3)持論(自分自身を自分で動機づけるためのモティベーションの持論)、4)関係系(他者との関係性の中で人は動機づけられる、親和動機、親密動機)[文献2、p.311-317]を指摘しています。
・エドモンドソンは、組織としての学習も考慮に入れ、次のように述べています。「『心理的安全』とは、関連のある考えや感情について人々が気兼ねなく発言できる雰囲気をさす。[文献5、p.153]」、「心理的安全があれば、厳しいフィードバックを与えたり、真実を避けずに難しい話し合いをしたりできるようになる。心理的に安全な環境では、何かミスをしても、そのためにほかの人から罰せられたり評価を下げられたりすることはないと思える。手助けや情報を求めても、不快に思われたり恥をかかされたりすることはない、とも思える。そうした信念は、人々が互いに信頼し、尊敬し合っているときに生まれ、それによって、このチームでははっきり意見を言ってもばつの悪い思いをさせられたり拒否されたり罰せられたりすることはないという確信が生まれる。[文献5、p.154]」、「心理的安全は、メンバーがおのずと仲良くなるような居心地のよい状況を意味するものではない。プレッシャーや問題がないことを示唆するものでもない。・・・チームには結束力がなければならないということでも意見が一致しなければならないということでもないのである。[文献5、p.155]」「パフォーマンスについて強いプレッシャーを与えることが優れた結果を確実に生む最良の方法だという誤った、しかし善意から生まれることの多い信念に従うマネジャーは、従業員が不安のあまりアイデアを提案したり、新しいプロセスを試したり、支援を求めたりできない環境を、知らぬ間に生み出してしまっているのだ。仕事が明確でかつ個人プレーであるなら、このやり方でもうまくいく。しかし不確実性や協働する必要性がある場合には、生み出されるものは成功ではなく不安である。[文献5、p.170-171]」。「心理的安全と責任のどちらもが高い場合は、人々はたやすく協働し、互いから学び、仕事をやり遂げることができる。[文献5、p.171]」「心理的に安全な環境をつくるために、リーダーは、直接話のできる親しみやすい人になり、現在持っている知識の限界を認め、自分もよく間違うことを積極的に示し、参加を促し、失敗した人に制裁を科すのをやめ、具体的な言葉を使い、境界を設け、境界を超えたことについてメンバーに責任を負わせる必要がある。[文献5、p.193-194]」、境界とは、「どんな行為が非難に値するか[文献5、p.188]」ということ。「好ましい行動の境界を当てずっぽうに想像している場合よりも心理的安全を感じることができる。[文献5、p.188]」

以上、研究分野によらないような育成の考え方を中心に述べました。研究者が具体的にどんな知識やスキルを身につけるべきかについては、取り扱う対象によって大きく変わる可能性がありますので、それぞれの状況に応じて考えるべきことと思います。例えば、目標が比較的はっきりした製品開発のような場合、解決すべき課題に応じて身につけるべき知識やスキルは比較的わかりやすく、育成の方針は比較的明確でしょう(ただし、現在必要とされるスキルが将来も必要なのか、長い目で見た研究者の育成に寄与するかは考えてみる必要があるかもしれません)。しかし、探索的な要素の強い、不確実性の高い研究については、基本的な考え方を身につけることが重要になってくると思われます。以下、不確実性の高い研究課題を扱う際に最低限身につけてほしいと思っている知識やスキル、視点について若干私見を述べさせていただきたいと思います。私が重視しているのは以下の点です。
・知識・スキル:専門知識、専門スキル、クリティカルシンキング(特にデータの扱い方、推論の方法)、対人スキル(マネジャー育成、協力関係構築を想定)
・ある現象に接した際に持っていてほしい視点:なぜそうなっているのか?(何が原因で、どういうメカニズムでそうなっているのか)、本当にそうか?(本当だといえる根拠はどこまであるのか)、本当だとしたらどうなるはずか?(本当だとしたらおかしなことはないか、本当だとしたらさらにこんなこともできるのではないか)

研究は画一的な仕事ではないためもあってか、研究者の育成は、あまり検討されていなかった気がします。しかし、技術が高度に発達し身につけるべき知識が増えてきたこと、技術伝承の必要性も高まっていることを考えると、うまく育成できるかどうかが、企業の競争優位に影響を及ぼすようになってくる可能性もあると思います。自分たちがいかに技術を開発するかだけではなく、組織としてその開発力をどう継続していくかも大きな課題ではないでしょうか。


文献1:中原淳、「経営学習論 人材育成を科学する」、東京大学出版会、2012.本ブログ紹介記事
文献2:金井壽宏、楠見孝編、「実践知 エキスパートの知性」、有斐閣、2012. 本ブログ紹介記事
文献3:Nicholas Carr, 2014、ニコラス・G・カー著、篠儀直子訳、「オートメーション・バカ 先端技術がわたしたちにしていること」、青土社、2015. 本ブログ紹介記事
文献4:Robert Kegan, Lisa Laskow Lahey, 2009、ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー著、池村千秋訳、「なぜ人と組織は変われないのか ハーバード流自己変革の理論と実践」、英治出版、2013. 本ブログ紹介記事
文献5:Amy C. Edmondson, 2012、エイミー・C・エドモンドソン著、野津智子訳、「チームが機能するとはどういうことか」、英治出版、2014.ブログ紹介記事

2018.4.30追記:「文献5」が抜けていましたので追記しました。>

「実践ポジティブ心理学」(前野隆司著)より

ポジティブ心理学については、以前の本ブログ(「ポジティブ心理学の可能性」)でも取り上げ、マネジメントへの利用可能性についての期待を述べました。その際には、具体的にどうすればよいかのレベルまではよくわからないという状況だったと思いますが、その後、ポジティブ心理学の有効性の認識も広がり、実践的な手法の検討も進歩しているようです。そこで今回は、前野隆司著「実践ポジティブ心理学 幸せのサイエンス」[文献1]に基づいて、研究マネジメントに役立ちそうな点を中心にその内容をまとめ、ポジティブ心理学の可能性について再度考えてみたいと思います。

はじめに
・「日本人は世界一不安になりやすい民族だという説があります。日本人は不安遺伝子と呼ばれる『セロトニン・トランスポーターSS型』を持っている人が多いからです。セロトニン・トランスポーターとは、脳内神経伝達物質であるセロトニンの量を調節している遺伝子です。セロトニンは人の気分に影響を与える働きがあるため、不足すると不安を感じるようになったり、うつ病になったりしやすいと言われています。・・・SS型の人は、・・・セロトニンの再取り込み機能が低く、セロトニンが不足しがちになり、不安を感じやすい傾向にあります。・・・実に、日本人の65%がSS型の遺伝子を持っています。ちなみに、アメリカ人のSS型はわずか19%・・・。・・・ものをちゃんとつくり込んだり、きめ細かなサービスを行ったりする面では、不安はプラス要素として働きます。・・・しかし、不安になりやすいということは、プレッシャーやストレスに弱いことでもあります。・・・不安を感じやすい日本人にこそ必要なのが、ポジティブ心理学なのではないかと思います。[p.3-5]」
・「幸せについての心理学研究が進んだ結果、幸福度が高いほど心の病にかかりにくいこともわかってきました。・・・幸せな人は、自己肯定感が高い、仕事のパフォーマンスが高い、目標が明確、利他的、楽観的、多様な友達がいるなど、どんな人でも活かせる知見が蓄積されています。すでにある程度幸せな人も、ポジティブ心理学を学ぶことで、さらに幸せになれる時代がやってきたのです。[p.7-8]」

第1章、ポジティブ心理学を知ろう
・「ポジティブ・シンキングとポジティブ心理学はまったく別のものです。ポジティブ・シンキングとは、ネガティブは排除してとにかく明るく前向きになろうというもの。・・・一方でポジティブ心理学は、ポジティブもネガティブも両方認めようというもの。ポジティブ・シンキングよりも、より広い視点に立って、落ち込んでいる自分や悲しんでいる自分、ネガティブになっている自分も含めて認めてあげようという世界観を持っています。[p.18-19]」
・「ノースカロライナ大学のバーバラ・フレドリクソン教授は、ポジティブ感情対ネガティブ感情の比率が3対1であれば、人生のあらゆる面が好転していくという研究成果を広めた人物として有名です。・・・このことからわかるのは、100%ポジティブでいる必要はないということです。ネガティブ感情はときに批評家精神を生み、社会の役に立つこともあります。・・・ネガティブな感情は、危機に対応するためにもともと人間に備わっているものです。・・・またポジティブになり過ぎると全体主義的になりがち、という研究もあります。[p.19-20]」
・「ポジティブ心理学でいうところのウェルビーイングとは『心身ともに充実した、よりよい状態』を指します。ですから、ウェルビーイングこそがポジティブ心理学のもっとも目指すべき姿といってもいいでしょう。ポジティブ心理学を知る上でもうひとつの柱となる重要なキーワードが『レジリエンス』です。・・・一言でいうと『回復力』。・・・レジリエンスを高めるためには、思考の柔軟性が必要なことが知られています。厳しい状況でも、ネガティブな面だけではなく、ポジティブな面を見出すことのできる人こそが、逆境を乗り越えられます。また、起こってしまったことに対して一喜一憂し過ぎないで感情をコントロールする力や、自分の力を過小評価しない自尊感情、自己効力感(自分が成長していると感じることができる力)や楽観性も大きく関係することが知られています。レジリエンスは必ずしも先天的な能力ではなく、誰でもが学習可能なスキルです。[p.p.22-23]」
・「フローとは、そのときにしていることに完全に浸りきって集中している精神的な状態をいいます。・・・スポーツの場合はゾーンという言い方もします。・・・フローもゾーンもポジティブ心理学を構成する概念のひとつです。・・・能力とタスクのバランスのいいところが、フローに入りやすい範囲だといわれています。自分の能力に対して、タスクが簡単すぎると退屈になってしまって特別な集中状態には入れません。逆に、能力に対してタスクが難しすぎると、ストレスを感じてしまうため、やはりフローには入れません。この二つの状態のちょうど中間の状態――自分の能力からすると少し難しいけれど、やり切れる――の場合にのみフローに入れるのです。[p.24-27]」
・「『マインドフルネス』を・・・一言でいうと、『今ここで起こっていることに集中し、自分が感じている感情や思考を判断せずに冷静に観察している心の状態のこと』です。・・・マインドフルネスは、瞑想をして心を整えて今ここに集中するという概念です。一方でポジティブ心理学は、ウェルビーイングという考えを中心に置き、よりよい心の状態になるために、レジリエンスやフローやマインドフルネス、感謝や人とのつながりなどを活用するという考えです。[p.28-29]」
・「楽観主義とは、何でもかんでもうまくいく、マイナスのことを考えるのはよくない、愚痴もよくない、悪いことは考えないでいいことだけを考える、というような考え方だと思われがちです。しかし本当の楽観主義は、愚痴を言いたいときは言いたいし、批判したいときはしたい――そういうネガティブで悲観的なところも含めて自分を認めてあげること。そして過去や今の出来事を分析し、強みやうまくいった原因を探したうえで、今自分のやっていることがうまくいくと考え、これからも何とか成し遂げられるだろうと思えることです。[p.39]」
・「調査・研究の結果、多様な知り合いがいる人のほうが幸せだということがわかりました。[p.44]」「その理由としては、多様だからそれぞれに違った刺激が得られるということと、多様だから楽観的になれるということの二つが挙げられます。・・・多様だから楽観的になれるとは、・・・みながそれぞれに違っていることを意識すると、わずかな差が気にならなくなる結果として、幸せを感じるということです。・・・人と比べて劣っていると不幸な気持ちになるものです。[p.28-29]」

第2章、幸せのための条件とは?
・セリグマンが提唱した幸せのための5つの条件PERMA:Positive Emotion(ポジティブ感情、「前向きな感情やよいフィーリングのこと」、Engagement(「何かに没頭して、ほかのことをすべて忘れて集中している状態のこと」)、Relationship(「周りの人々と本質的につながっていること」)、Meaning(「人生の意味・・・何のために生きているのか、ということ」)、Achievement(「何かを成し遂げ成功した感覚がある」)[p.60-61
・「レジリエンスは、困難に遭遇して強いストレスを感じたときに働く心理的プロセスで、ストレスからの自発的治癒力を意味します。目標を回避するようなクセを直すとともに、落ち込んだ気持ちから抜け出し、前向きな気持ちに回復させる力なのです。[p.64]」「ボニウェルが認知行動療法をベースに開発したレジリエンス(回復力)を高める『SPARK(スパーク)レジリエンス・プログラム』を紹介しましょう。・・・SPARKレリジエンス・プログラムは、何らかの出来事が起きたとき、人はそれをどのように捉え、どのような感情が湧き、どのような思考パターンに陥るのか、その結果どう行動し、そこから何を学ぶのかを示したものです。まず、Situationとは、何が起きたのか、事実に目を向け状況を把握することの大切さを表しています。Perceptionとは、起こった出来事を感情を入れずに受け止め解釈することです。Auto Pilotとは、・・・解釈によって自分の中でどのような感情が自動的に生まれてくるかを把握することを意味します。・・・その後、自分のとらえ方(Perception)のパターンを認識し、Reactionで捉え方のパターンがどのように行動に影響するのかを理解します。・・・捉え方のパターンについては、『心に潜む7種類の思い込みオウム』をイメージする方法が紹介されています。批判オウム:他人を非難しがちで、あいまいな状況を嫌う。ものごとを極端に考える。白黒をはっきりさせたいタイプで周囲に不満を持ちやすい。正義オウム:何が公平で正しいかを気にしがち。自分の意見を曲げず、『○○すべきだ』という思想を持っている。負けオウム:自分と他人を比較し、落ち込むことが多い。比べられること自体を恐れ、人前に出ることにも憶する。あきらめオウム:自分で状況を変えられると思っておらず、何をするにも『自分にはできない』と決めつける。心配オウム:将来に対して悲観的で、何かうまくいかないことがあると、すべてがうまくいかないのでは?と心配する。謝りオウム:問題が起きると、自己関連づけをしてしまいがち。自らを責めた結果、自己評価や自尊心を下げる。無関心オウム:何事にも『我、関せず』の立場をとる。面倒なことを避けようとするため、自分と周囲の意欲を喪失させる。・・・Knowledgeではその状況から何を学んだかを理解します。[p.64-67]」
・「カーネマンは・・・経済と幸せとの関係を研究したことで有名です。・・・収入の低い人にとっては、身の安全や健康、食料の確保という意味で、お金を得ることが長期的な幸せにつながります。・・・しかし、収入が一定限度を超えると、幸福度は上がらなくなります。というのは、そもそも金銭による幸せは長続きしないものだからです。人間は収入が増えれば増えるほど欲が出てしまう生き物なのですが、欲が満たされると満足感はすぐに消えてしまいます。[p.75-76]」

第3章、いいストレスは幸せにつながる
・「心身ともに充実していない不幸な状態に陥る原因の一つには、ストレスが挙げられます。・・・しかし、ストレスにはいいストレスもあります。・・・まったくストレスがなくて、お花畑みたいなところに住んでいて夢も目標もない状態よりも、自己実現や成長を目指して自分を高めるほうが幸せを感じます。自分を高めようと思っているときのストレスは、いいストレスなのです。・・・ストレスは、一般的にいいことやうれしいことが起こっても生じているものなのです。・・・つまり、ストレスは『変化』によって生じるものなのです。・・・いいストレスは、それを受けたとしても、もとの状態に戻れるものだといえます。[p.78-80]」
・「ストレスの要因や、ストレスがもたらす感情に働きかけて、ストレスを除去したり緩和したりすることをストレス・コーピングといいます。・・・私がお勧めするのは、ストレスとなる環境そのものを変えるのではなく、ストレス要因がもたらす不快な感情を軽減するために、ものごとのいい面を見るようにしたり、気晴らしをしたりするストレス・コーピング法です。[p.84-85]」「ただし、注意すべき点があります。いい面をただ表面的に見て『こうなんだ、だからしようがない』と自分に言い聞かせることは、自我を抑える環境に身を置くことになり、さらなるストレスにつながることもあるということ。実は、ものごとのいい面を見るというやり方は、自分が本当に納得した上でなければ、ストレス軽減にはなりません。[p.86]」
・「ストレスやトラウマは人々にとって良い側面もあることが、研究によって明らかにされています。その一つが心的外傷後成長と呼ばれるものです。・・・逆境を乗り越えるのは誰にとってもきついことですが、何もない平穏無事な人生よりも、逆境を乗り越え、心的外傷後成長を遂げた人のほうが、よりよい人生になっていることは間違いありません。[p.92-94]」
・「幸せな人が長生きする理由は、大きく分けて二つあると考えられています。一つは、『幸せな人は、よい生活習慣を持つ傾向にある』こと。裏を返せば、不幸な人はストレスが多いため、飲酒やたばこを吸うなどの不健康な生活習慣に陥りやすい、ということです。・・・もう一つの理由は、『幸せそのものが、身体に直接良い影響を与える』から。[p.95]」
・「利他的な人は利己的な人よりも幸せ、という研究は数多く行われています。・・・人は、幸せだと利他的になるとも、利他的だと幸せになるとも言えることが確認されています。[p.101]」

第4章、日本人のためのポジティブ心理学(幸せの4つの因子)
・「ポジティブ心理学で強調していることの一つは『幸せは原因にもなる』ということです。・・・幸せを最終目的にするのではなく、まず小さくてもいいから幸せな心をつくっておくと、次々にいいことが訪れるようになります。[p.106]」
・「地位財とは、所得、社会的地位、物的財のように、周囲との比較により満足を得るもので、長続きしない幸せだといわれています。いわゆる『金、モノ、地位』のことです。・・・非地位財とは、健康、自主性、社会への帰属意識、良質な環境、自由、愛情といった、いわゆる『よい環境、健康、心の幸せ』のことで、他人が持っているかどうかとは関係なく喜びが得られるものです。非地位財による幸せは長続きします。[p.110]」
・著者が日本人を対象に行った研究による、どの心的要因を満たしていれば幸せになれるかの4つの因子[p.107-108
第1因子:「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)
第2因子:「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)
第3因子:「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)
第4因子「ありのままに!」因子(独立とあなたらしさの因子)
・第1因子について:「『夢を実現した人は、実現していない人より幸せ』・・・面白いのは『夢を持っている人は、持っていない人よりも幸せ』なのです。・・・できれば叶いそうな範囲の身の丈に合った小さな夢を持っている人のほうが、叶わない夢を持っている人よりも幸せを感じるという研究があります。・・・要するに、ほどほどで満足する人の方が幸せだということです。・・・成長には・・・『一歩前進したな』と思うような小さな成長と、今まで何年もがんばってきた結果として得られた大きな成長があります。どちらも幸せに寄与します。・・・自分が達成したことに対して感動したり満喫できる人のほうが、そうでない人に比べて幸せなのです。・・・感動しないように気持ちを抑制すると、幸せもあまり感じなくなってしまいます。[p.133-135]」
・第2因子について:「人を喜ばせたり、人に感謝したり、人に親切にしたりすると幸せになれるというのが第2因子・・・。・・・利他性は、年齢が上がるとともに強くなります。・・・人とのつながりにおいては、弱く多様なつながり(弱い紐帯)がある人の方が、ない人に比べると幸せ・・・。組織でも弱い紐帯のある会社や集団は幸福度が高く、縦割りであると幸福度は下がります。[p.136-144]」
・第3因子について:「第3因子の中でも重要なものの一つが『自己受容』。自己受容とは、自分のいいところも悪いところも含めて自分を認め、好きであることです。自己受容ができていると、気持ちが安定しているので、悪いことが起きても『なんとかなる』と楽観的かつ前向きにとらえることができます。[p.149]」
・第4因子について:「『ありのままに!』とは人目を気にしないことです。自分らしく人目を気にせずにやっている人は幸せで、人目ばかり気にしている人は不幸であることが知られています。人目を気にする人は、人に勝ちたいと思いがちです。・・・人目を気にしない人は、・・・自分の内発的動機からがんばります。・・・人は歳をとると、若いときに比べて人目を意識しなくなる面はあります。[p.151-152]」
・「多様な選択肢がある場合、『常に最良の選択を追求する人』と、『そこそこで満足する人』を比較すると、後者のほうが幸福度が高い傾向があります。[p.156]」
・「幸福学は統計学です。・・・あくまでもある研究者による、あるデータの解析結果であって、『絶対的な真実』といった類のものではありません。統計とは違っていても、『私は幸せ』と思える人は幸せなのです。[p.161-162]」

第5章、実践のためのハッピーエクササイズ
・ポジティブ心理学の知識を実行に移すための実践方法として、three good things(毎晩寝る前に、その日あった『3つの良いこと』を書き出す)、グループでのワークショップなどの方法が紹介されています。

第6章、ポジティブ心理学をどう社会に生かしていくか
・「『幸せの4つの因子』を満たすような製品やサービス、経営、まちづくりをやっていけば、人々がより幸せに生きられる、より良い社会を実現できるのではないか[p.198]」
・「経営学の研究の中で、『社員を幸せにしておくと生産性や創造性が上がる』という結果が続々と出ています。・・・私は『儲かるから幸せにする』ではなく『幸せになれば、結果として儲かる』と考えるべきだと思っています。[p.204-205]」
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本書で解説されたポジティブ心理学の近年の進歩を見ると、単に幸せな気持ちで行動すればよい結果が得られる、ということから、それはどういうメカニズムに基づいているのか、とか、幸せな状態と幸せでない状態を分かつ要因は何か、どうすれば幸せになれるのか、といった知見が明らかになり、要点が絞り込めてきているように感じました。特に、著者が挙げている幸せの4つの因子は、実践的にも非常に示唆に富んでいると思います。もちろん、これで必ずうまくいく決定版、のようなものではないかもしれませんし、今後の研究によって変化していく可能性もあると思いますが、幸せを重視したマネジメントを考える上でのひとつの有力な出発点になるのではないかと思います。

研究開発という行為について、幸せの4つの因子の観点から考えてみると、研究開発は、自己実現と成長(第1因子)の源となり、協働が有効で人々への貢献が期待でき(第2因子)、なんとかなるという楽観性(第3因子)が重要で、人と違うことや内発的動機(第4因子)が重要である、というように、この4因子と深い関わりがあるように思われます。研究マネジメントには様々な方法がありうるでしょうが、研究者が幸せになれるようなやり方をすることが、よりよい成果を生むための基本になるのかもしれません。


文献1:前野隆司、「実践ポジティブ心理学 幸せのサイエンス」、PHP研究所、2017.

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