研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2018年04月

研究開発実践のマネジメント第28回-研究組織の望ましい特性に関する様々な考え方:研究開発マネジメントの実践と基礎知識2.3.3.3)(「ノート」全面改訂)

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第7回
2、研究開発実践のマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
第8回第17回
2.2
、研究開発を行う人のマネジメント第18第24回
2.3
、研究組織とそのマネジメント
2.3.1
、研究組織の構造が研究に及ぼす影響
第25回
2.3.2
、研究組織の仕組みや制度が研究に及ぼす影響第26回
2.3.3
、研究組織の望ましい特性、1)研究組織の特性を考える際のポイント、2)研究にとって望ましい組織の特性第27

3)
研究にとって望ましい組織の特性についての様々な考え方
前回(第27)は、研究にとってどんな特性を持つ組織が望ましいのかについてのポイントと、なぜその特性が重要なのかについて主に野中郁次郎氏らの知識創造理論に基づいて考えてみました。今回はその他の様々な考え方を見て行きたいと思います。

研究組織の望ましい特性に関する様々な考え方
Tiddらは、イノベーティブな組織に関する先行研究に基づき、ビジョンの共有、リーダーシップ、イノベーションへの意欲、鍵となる個人、効果的なチームワーク、個人の能力向上の継続と拡充、豊富なコミュニケーション、イノベーションへの幅広い参画、顧客指向、創造性ある社風、学習する組織、といった要素が重要と認識されていると述べています[文献1、p.371]
・板谷和彦氏は、発見を支援するマネジメントの方法として、以下の施策を試行し有効性を確認しているといいます。[文献2、p.25-27
1、破格の実行権限の委譲(締め切りを設けずフォローもしない、計画段階から結果の解釈に至るまで拡大的に研究者に委譲し、報告義務を負わせない)

2、ビジョン的表現による目標の共有(リーダーと研究者が、目標達成の社会的インパクトや夢などをビジョン的表現による目標として共有する、目標を広く捉えて共有することにより、企業との価値貢献の道筋は共有しつつも微細な目標による束縛感や制約感は抑制する)

3、ゆるやかなコミュニケーション(階層構造上の上下関係に対する意識を感じさせないコミュニケーションを図る、階層構造がもたらす遠慮、義務感や躊躇を取り払った議論や情報交換を促進する)

4、臨機応変な既存組織との整合(成果評価、業績評価を発見のタイミングにあわせて行う、資源確保を臨機応変に行う、既存組織との不整合を臨機応変な対応で解決をはかる)

・山口周氏は、イノベーティブな組織の創り方として以下の提案をしています。
人材採用/育成/配置:多様性を重視した採用、若手に対しては自分の意見をもつこと、シニアに対しては人に意見を求めること、バックグラウンドの多様性を高める配置換え、コンピテンシーの違いに応じた業務配分[文献3、p.268-278
評価/報酬システム:目標管理は弊害大、フレキシブルな評価、仕事そのものを報酬にする[文献3、p.279-282
意思決定プロセス:撤退についての定量的基準を設けた上で、直観に基づいて判断、過度なコンセンサス重視からの脱却、集合知の活用、余計なアドバイスの排除[文献3、p.282-287
価値観:多様性を尊重する風土[文献3、p.288-289
リーダーシップ:聞き耳のリーダーシップ、サーバント・リーダーシップ、ビジョンの提示[文献3、p.289-292
・逆に、イノベーションを阻害する環境要因としてKanterは、統制的な垂直的関係の蔓延、水平的コミュニケーションの欠乏、限られた手段と資源、トップダウンの命令、形式的で限定的な改革方法、劣等感を助長するような文化、焦点の定まらないイノベーション活動、望ましくない会計上の慣行を挙げているとされています。[文献1、p.397]
Steven Johnsonは、イノベーションを導くメカニズムの推定から、以下のようなイノベーションが生まれやすい環境の7つの特徴を挙げています。
1、隣接可能性:「グッドアイデアは、何もないところからひねり出されるのではなく、既存の部品の集合からできるもの[文献4、p.44]」。「グッドアイデアを得るこつは、孤高の高みにおさまって、大きなことを考えようとすることではない。こつはテーブルに並べる部品を増やすところにあるのだ。[文献4、p.53]」
2、液体ネットワーク:「液体のネットワークは、組織が隣接可能性を探るのには有望な環境を生み出す。分子どうしがでたらめに結びつくことで新しい組み合わせが生じることがありえるが、その新しくできたものがすぐに壊れるほどひどく不安定ということはない。[文献4、p.63]」「研究室で一人で仕事をして顕微鏡を覗いていたのでは、考えが一カ所にひっかかって、最初にあった自分自身の偏見から抜けられない。集団での会話にある社会的な流れが、個人の固体的な状態を液体のネットワークに変える。[文献4、p.73]」
3、ゆっくりとした直感:「直感による瞬時の判断は――とんなに強力になることがあっても――世界を変えるようなアイデアの歴史ではめったにない。重要なイノベーションとなる直感の大半は、もっと長い時間の幅で展開されるものだ。[文献4、p.87]」
4、セレンディピティ:「閉じた環境の問題点は、セレンディピティを抑止して、一つの問題に潜在的にかかわれる人の全体としてのネットワークを小さくするところにある。[文献4、p.139]」「組織的なひらめきのこつは、直感が消えずに広がり、あれこれ組み合わせられるような情報ネットワークを作ることだ。直感をブレインストームや研究開発部門の枠の中に閉じこめるのではなく、背景でいつも、組織全体で、ブレインストームが行われているような環境を作ることである。[文献4、p.143]」
5、間違い:「意図的に間違った情報で汚染した集団は、純粋な情報だけを与えられた集団と比べて、独創的な関連づけをする・・・。イノベーションに関するグッドアイデアは、一定量のノイズや間違いを含んだ環境のほうが生まれやすい[文献4、p.158]」「イノベーション度が高い環境は、有益な間違いによって栄え、品質管理の要請が過大になると、立ちゆきにくくなる。大企業は、完璧主義的な制度、たとえばシックスシグマとか全社的品質管理とか、会議室や組み立てラインから間違いを除去するための全社的方式に従いたくなるが、ウェブ関連企業の呪文の一つが『さっさと失敗する』だというのも偶然ではない。間違いが目標だというのではない・・・。しかしその間違いは、真のイノベーションに至る道筋では避けられない一歩でもある。[文献4、p.165]」
6、外適応:「ある目的のために進化の圧力で生まれた道具に予想外の特性があって、それが別の新たな形で生き残りを助けることになる。[文献4、p.171]」「暗い部屋を照らすためにつけるマッチには、開けた部屋に薪と炉があれば、まったく別の使い途ができる。ある状況では見るのを助ける道具が、状況が違えば暖まるのを助ける道具になる。これが外適応の要諦だ。[文献4、p.174]」
7、プラットフォーム:「誰でも利用できるプラットフォームであれば、グッドアイデアはどこからでも出てくるものだ。[文献4、p.216]」「創発的プラットフォームは、その創造性の多くを、既存の資源を創意工夫で経済的に再利用することから引き出している。[文献4、p.222]」

前回(第27)提案した望ましい研究組織の特性を表すキーワードである、ビジョン、自律性、多様性、コミュニケーション、学習、実験、協力は、前回と今回でご紹介したような考え方を参考に導いたものですが、最も基本的な問いは、研究開発に携わる人々が自らの可能性を最もよく発揮できる組織特性は何か、ということのように思われます。

以下、個々の特性について参考になりそうな考え方をご紹介しておきたいと思います。

ビジョン
組織にとって、基本理念、ビジョンを持つことの有効性は、CollinsPorrasの指摘で多くの方が認識するところとなったと思いますが [文献5]、特に研究活動においては守るべき基本理念、ビジョンを持つことによって、目的・感情・価値観の共有が実現され、それによりメンバー相互の意思疎通が効果的になり、また、細かな管理をしなくても行動の方向性が統一されやすくなることが創造性の発揮によい影響を及ぼすと考えられます。また、ビジョンの共有によって細かな指示が不要になり、自律性を高める効果も期待できるでしょう。さらに、Collinsは組織飛躍のためには、単純明快な概念(針鼠の概念)すなわち、世界一になれる部分、情熱をもって取り組めるもの、経済的原動力になるものの重なる部分を理解し、この概念を確立することが必要と述べています[文献6、p.130]。この考え方は研究開発活動の具体的な進め方を考える上で重要な示唆を与えるものと思われます。

自律性
研究組織には自律性が必要であるという指摘は多くあります。例えば、ホンダでは、「自立(自律)、平等、信頼」が「人間尊重の哲学」として重視されている[文献7]そうです。自律、というと周囲から独立した自由な世界を築いているという印象もあるかもしれませんし、そもそも研究組織にとって自由は不可欠だという考え方もありますが、自由あるいは自律と放縦は区別されるべきでしょう。前述のビジョンと、そのビジョンを守るという信頼関係が、放縦ではない自律の裏付けとなっているのではないかと思います。KimMauborgneは、関与、説明、明快な期待内容、という3つの要素で構成される「公正なプロセス」の重要性を指摘しています[文献8、p.227、(新版p.248]。このプロセスをとることによって、自分の意見が重んじられているという信頼と関与が生まれ、自発的な協力が発生することによって、期待を超える水準の献身が期待できるということですが、このようなプロセスは意義ある自律性を確保するための方法として参考になると思われます。

多様性
野中氏らは、前回記事でご紹介した「場」の概念とともに、組織的知識創造を促進する要件として、組織の意図、自律性、ゆらぎと創造的なカオス、冗長性(当面必要としない仕事上の情報を重複共有すること)、最小有効多様性(複雑多様な環境に対応するためには、組織は同程度の多様性を内部に持っている必要があることを指す)を挙げています[文献9、p.118-123] [文献10、p.77]。また、多様性によって問題解決や予測がうまく行えるようになりうることが、複雑系の研究者によって指摘されています[文献11]。ただし、「多様性を追求する際には、多様性と能力のバランスを取ることを忘れてはいけない。・・・能力は多様性と同じく重要だ[文献11、p.444]」、という指摘はよくわきまえておく必要があるでしょう。なお、第22回で述べたように、「組織に重要なのはあくまで『タスク型の人材多様性』であって、『デモグラフィー型の人材多様性』ではない[文献12、p.181]」ことにも注意が必要でしょう。(ここで、「『タスク型の人材多様性(Task Diversity)』とは、実際の業務に必要な『能力・経験』の多様性」、「『デモグラフィー型の人材多様性(Demographic Diversity)』とは、性別、国籍、年齢など、その人の『目に見える属性』についての多様性[文献5、p.178-179]」です。)さらに、グラノベッターにより提唱された「弱い絆」の重要性(例えば[文献13、p.303])も考慮する必要があるでしょう。これは、これは重要な新しい情報は親密な関係の人よりも、それほど親しくない関係の人からもたらされやすいというもので、親しくない人との接触機会は少なくても、得られる情報は親密な人からの情報に比べて新しいことが多いことに基づいていると理解でき、多様な視点、情報の重要性を指摘しているものと考えられます。

コミュニケーション・学習
多様な人々を集めたとしても、コミュニケーションにより情報をやりとりし、その情報を自分のものとして学習するプロセスがうまくいかなければ新しい知識の発生につなげることは難しいでしょう。コミュニケーションのプロセスに必要な条件を単純化して考えると、まず誰かが情報を提供すること、その情報を他者が理解できるような形で他者に伝えること、そして情報を受けた人がそれを自分に役立てること(学習)となると思われます。第24回で学習のプロセスを議論した際にも触れましたが、このプロセスで重要な点の一つに、「心理的安全」があります。Edmondsonによれば、「『心理的安全』とは、関連のある考えや感情について人々が気兼ねなく発言できる雰囲気をさす。[文献14、p.153]」とのことであり、情報を提供してもらうため、あるいは、情報が欲しいと質問を発するためにはこうした環境が必要と考えられます。また、「コミュニケーション理論においては、実際に顔を合わせないような場合、相手を本当に理解するのは非常に難しいとされています。[文献15、p.12]」という指摘もIT技術の進歩に伴い気に留めておく必要があるように思われます。コミュニケーションを促進するための具体的な方法としては、アメリカの研究機関SRIで実施されている「ウォータリング・ホール」という横断的かつ協力的なミーティングによる価値創出の方法[文献16]のような仕組みが参考になるかもしれません。

実験
不確実性の高い状況において従うべきプロセスとして、Anthonyらは、「正しい戦略を知っているかのように意図的に行動するのではなく、正しい戦略が市場から『わき出る』、つまり創発するようなアプローチを採用すべきということだ。[文献17、p.236]」と述べています。また、実験による学習と方針変更を重視したリーン・スタートアップ手法[例えば文献18]も有効な方法としての認識が広まってきたようです。こうした実験を行う際にも、失敗をしてもその失敗から学習することが重要だという「心理的安全」が必要だと思われます。

協力
組織内での協力、組織外部との協力をうまく進められることが研究組織として望ましい特性のひとつであるという認識は近年特に高まっているように思います。例えばSRIは、コラボレーションの3つの基本要素として、戦略ビジョンの共有、スキルの相互補完、報酬の共有をあげ、それらをまとめる役割を担うのは「敬意のこもった継続的なコミュニケーション」[文献16、第12章]としているそうです。

以上のような考え方を見ると、ひとつのキーワードとして、「信頼」が上がってくるように思われます。自律性を与えるのも信頼に基づいていますし、多様性を認めるということも、他者の考え方の妥当性を信じてみることに繋がっているのではないでしょうか。また、信頼感がコミュニケーションを活性化することも指摘されています。こうした「信頼」を重視することは、上意下達を重視する従来のマネジメント手法とは相容れず、「信頼」を重んじるにはマネジメント層の考え方の転換が求められる場合もあるかもしれませんが、これからのひとつの方向性を示しているのではないでしょうか。もちろん、研究開発は様々ですので、従来の手法が効果的な場合も当然あるはずですが、不確実性が高い新規の課題に挑戦しようとするならば、「信頼」を重視するという新たなマネジメント手法を採用する勇気も必要なのかもしれません。


文献1:Tidd, J., Bessant, J., Pavitt, K., 2001、ジョー・ティッド、ジョン・ベサント、キース・バビット著、後藤晃、鈴木潤監訳、「イノベーションの経営学」、NTT出版、2004.
文献2:丹羽清編、石黒周、板谷和彦、白肌邦生、清野武寿、手塚貞治著、「技術経営の実践的研究 イノベーション実現への突破口」、東京大学出版会、2013.ブログ記事へ
文献3:山口周、「世界で最もイノベーティブな組織の作り方」、光文社、2013.ブログ記事へ
文献4:Steven Johnson, 2010、スティーブン・ジョンソン著、松浦俊輔訳、「イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則」、日経BP社、2013. ブログ記事へ
文献5:Collins, J.C., Porras, J.I., 1994、ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス著、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー」、日経BP出版センター、1995.
文献6:Collins, J., 2001、ジェームズ・C・コリンズ著、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」、日経BP社、2001.
文献7:小林三郎、「ホンダイノベーション魂 第16回 自律、信頼、平等」、日経ものづくり、2011年7月号、p.103ブログ記事へ
文献8:Kim, W.C., Mauborgne, R., 2005W・チャン・キム、レネ・モボルニュ著、有賀裕子訳、「ブルー・オーシャン戦略」、ランダムハウス講談社、2005.(新版:Kim, W.C., Mauborgne, R., 2015、入山章栄監訳、有賀裕子訳、ダイヤモンド社、2015.
文献9:Nonaka, I., Takeuchi, H., 1995、野中郁次郎、竹内弘高著、梅本勝博訳、「知識創造企業」、東洋経済新報社、1996.
文献10:三崎秀央、「研究開発従事者のマネジメント」、中央経済社、2004.
文献11:Scott E. Page, 2007、スコット・ペイジ著、水谷淳訳、「『多様な意見』はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき」、日経BP社、2009ブログ記事へ
文献12:入山章栄、「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」、日経BP2015. ブログ記事へ
文献13:Rogers, E.M., 2003、エベレット・ロジャーズ著、三藤利雄訳、「イノベーションの普及」、翔泳社、2007.
文献14:Amy C. Edmondson, 2012、エイミー・C・エドモンドソン著、野津智子訳、「チームが機能するとはどういうことか」、英治出版、2014.ブログ記事へ
文献15:Edgar H. Schein、エドガー・H・シャイン、尾川丈一、石川大雅著、松本美央、小沼勢矢訳、「シャイン博士が語る 組織開発と人的資源管理の進め方 プロセス・コンサルテーション技法の用い方」、白桃書房、2017. ブログ記事へ
文献16:Carlson, Curtis R., Wilmot, William W., 2006、カーティス・M・カールソン、ウィリアム・W・ウィルモット著、電通イノベーションプロジェクト訳、「イノベーション5つの原則 世界最高峰の研究機関SRIが生みだした実践理論」、ダイヤモンド社、2012. ブログ記事へ
文献17:Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V.,Altman, E.J., 2008、スコット・アンソニー、マーク・ジョンソン、ジョセフ・シンフィールド、エリザベス・アルトマン著、栗原潔訳、「イノベーションへの解実践編」、翔泳社、2008.
文献18:Eric Ries, 2011、エリック・リース著、井口耕二訳、「リーン・スタートアップムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす」、日経BP社、2012.ブログ記事へ

「行動探求」(トルバート他著)より

研究をやっていると思い通りにいかないことにはしばしば遭遇します。そんな時は、ただ同じことを続けるよりも何かを変えてみたり、自分の考え方を変えてみたりすることが必要な場合がありますが、変わること、変えることはそれほど簡単なことではないと思います。

今回は、そうした変化をもたらすプロセスの基礎となる「行動探求(Action Inquiry)」という考え方を、トルバート著、「行動探求」[文献1]に基づいてご紹介したいと思います。著者によれば、「『行動探求(アクション・インクワイアリー)』とは、何かを生み出すと同時に自己評価する行動パターンである。複数のことを同時に行なうのだ。展開していく状況に耳を傾ける。優先順位が高いと思う、やるべきことをやる。そして必要であれば、そのやるべきこと(と自分自身の行動)を目的に遡って修正する。[p.34]」とのことで、要するに、行動しながら周囲のことに注意して次の行動に生かす、ということを指している概念のようです。本書ではリーダーシップに焦点が当てられていますが、個人や組織の行動全般に適用可能な考え方と言えるでしょう。以下、本書の内容から、研究の実践に役立ちそうな考え方を中心に内容をまとめてみたいと思いますが、本書の説明が難解だった部分については私の個人的解釈を(注)として付記させていただきました。著者の意図を正しく汲めていない部分があればご容赦いただければ幸いです。

4つの体験領域p.49
第1領域:外部の出来事(結果、評価、観察される行動結果、環境への影響
第2領域:自分が認識する行動パフォーマンス(具現化の過程で認識される挙動、スキル、行動パターン、行為)
第3領域:行動論理(戦略、スキーマ、策略、行動計画、典型的な経験についての内省の様式)
第4領域:意図に関する注意(プレゼンシングの注意、ビジョン、直感/直観、目的)

体験の領域と3つのフィードバックp.43など]
一次ループのフィードバック:「自分の直近の行動が自分を目標に近づけたかどうかを示す情報[p.39]」
二次ループのフィードバック:戦略/構造/目標((注)上記第3の体験領域が結果にどう影響するか)
三次ループのフィードバック:注意/意図/ビジョン((注)上記第4の体験領域が結果にどう影響するか)
・「たいていの人は、自分の現在の構造や戦略、行動論理を自分のアイデンティティそのもののように扱う。・・・フィードバックを受け入れることは、私たちのアイデンティティを失うも同然に感じられるかもしれない。[p.42]」
・(注)例えば、第2領域の体験として、自分が認識している行動が、どういう外部の出来事(第1領域の体験)をもたらすかを探求して行動を修正していくようなことがフィードバックと理解できると思います。研究の例で言えば、何かうまくいかない結果が出たとき、スキルに問題があったのではないかと考えるのが一次のフィードバック、研究の進め方(戦略)に問題があったのではないかと考えるのが二次、研究の意図やビジョンを疑うのが三次、という感じではないかと思います。

話し方としての行動探求(二者間関係)
話し方の4つの構成要素
1、枠組み:「その場の目的は何で、どんなジレンマを解決するためにこの会議に皆が出席しているのか、どんな前提が共有されていて、どんな前提が共有されていないと思うか・・・を明確に述べる[p.57]」(第4領域の体験に対応)
2、主張:「行動のための選択肢、認識、感情、または戦略をはっきりと主張する[p.58]」(第3領域の体験に対応)((注)例えば、こうしたいという主張だけでなく、自らの弱さ、困っていることをさらけだすことも主張に含まれると考えられます)
3、説明:「主張に肉付けする、ちょっとした具体的なストーリーを話し、それによって相手に、より明確な動機と方向を与える[p.59]」(第2領域の体験に対応)((注)例えば具体的に何をするか、など)
4、問いかけ:「相手から何かを学ぶために、相手に問いを投げかけること[p.60]」(第1領域の体験に対応)「相手に答える機会を与えなかったり、声のトーンで、別に本当の答えを聞きたいわけではないということをほのめかしたりする」ような場合は要注意。また、「問いかけは、その前に枠組み、主張、説明が行われていなければ、効果が上がる可能性がはるかに低くなる・・・露骨な質問をすると、相手は、どんな枠組みや主張や説明がほのめかされているのかといぶかり、慎重かつ防御的な反応を起こすことが多い[p.60-61]点は要注意。

組織化する方法としての行動探求
・「使命・戦略・実行・評価という4つの体験領域にわたって明確さと調和を高める[p.100]」(注)二者間の関係である会話を組織全体に拡張。それぞれが第4→第1の体験領域に対応。

7つの行動論理

・「私たちは気づいていないことを知ることはできないし、知らないことを判断に織り込むこともできない。・・・気づくために必要な意識の働きを知り、意図的にその意識をコントロールできたならば、飛躍的に学習能力を高め、効果的な会話、関係性、行動、そして結果を導き出すことができる。こうした意識の働き方について、成人の発達理論に基づいて類型化したのが本書で紹介する7つの行動論理である。多くの成人は機会獲得型を経て外交官型、専門家型、達成者型へと発達する。そして一部の人たちはそれ以降の行動論理である再定義型、変容者型、アルケミスト型へと発達を重ねる。[訳者まえがきp.6]」
1、機会獲得型:「自己に有利な機会を見出し、結果のために手段を問わず行動する。[編集部注p.18]」「物理的あるいは外の世界における結果の体験領域(第1領域)を主な現実として扱い、そこで物事をコントロールすることに重点を置く。[p.108]」「短期的には、良い面がある。・・・だが長期的には、負の側面があらわになる傾向がある。短期的に勝利を手にするために用いるごまかしや操作は、他の人からの信頼を失うという点で長期的なコストとなるだろう。・・・外部に転嫁するミスや判断の誤りの責任は短期的なコストの典型である。[p.115]」
2、外交官型:「周囲の状況・既存の秩序に合わせて調和を重んじて行動する[編集部注p.18]」「自分自身が察知する行動の体験領域(第2領域)を現実の重要なものとして扱い、効果的に行動するために自制心を働かせることに重点を置く。[p.108]」「自分自身の社会的パフォーマンスをコントロールし、それが自分にとって重要な参照集団(家族、仕事上のチームなど)の一部または全員の承認を確実に得ることに注意の焦点を当てる。・・・重要人物の価値観が最高善である。・・・良い性質としては、・・・組織内の接着剤としてモラルや機能を高める信頼や忠誠心や親善といった特性を提供することができる。[p.118]」「自分自身についての修正のフィードバックを求めることはない。むしろ逆に、それをかわそうとする。彼らにとって、修正のフィードバックは、面子や地位を失うのと同じことなのだ。[p.119]」
3、専門家型:「自己の論理・効率を重視し完璧を目指して行動する[編集部注p.18]」「戦略の体験領域(第3領域)を主な現実として扱い、経験的に体得した特定の分野・・・を1つ以上習得することに重点を置く。[p.109]」「問題解決に関心がある。原因を追及する。自分自身が練り上げた論理を根拠にして自分や他人に対して批判的である。目立ちたがり屋で、独自性を求める完璧主義者。効果よりも効率を選ぶ。独断的。定評のある客観的な名人からのフィードバックしか受け入れない。[p.137
4、達成者型:「目標を掲げ、効果を得るために他者を巻き込んで行動する[編集部注p.18]」「行動のフィードバックを歓迎する。手先ではなく主唱者でありたい。[p.137]」「組織のより大きな目標についての自分自身の限定的な概念に疑問を投げかけることができない[p.137]」
5、再定義型:「戦略・手段・意図の一貫性を問いながら独創的に行動する[編集部注p.18]」「外交官型、専門家型、達成者型は、『在来型の行動論理』と呼ばれる段階を進んでいく。この在来型の行動論理は、社会的カテゴリーや規範、権力構造を、確固たる現実の性質そのものとして、当たり前にとらえる。[p.148]」「ポスト在来型の行動論理は、次第に相違と、行動論理の進行中の創造的変容への関与を大事にするようになる。したがって、ポスト在来型の行動論理は、人の選択を制限する暗黙の枠組みという性質をますます失い、行動論理の多重性や発達の自由度、それぞれの場合において行動論理を選択する『対応能力』ともいうべきものを強調する・・・明白な枠組みに近づいていく。[p.149]」「判断や評価をしたいとあまり思わない。見解の主張よりも、耳を傾け、パターンを見つけることによって影響を与える。[p.162]」
6、変容者型:相互性と自律性を好み、時宜を得て発達を促しながら行動する[編集部注p.18]」「変容者型の世界観を持つ人は、その人自身のニーズを満たすことを超えたところに、人生の目的を見出す。自身や他者の継続的な発達が第一の関心事である。[p.169]」「正しい意思決定を行い、それを維持するためには――単なる規則、習慣、例外ではなく――道義、協定、理論、判断が重要であることを認識している。時宜にかなった行動探求、相互性、自律性に高い価値を置く。[p.172]」
7、アルケミスト型:「意図を察知し直観的・タイムリーに他者の変容を促しながら行動する[編集部注p.18]」「絶えず自分自身の注意を働かせ、直感、思考、行動、外の世界への影響の相互作用に対する一次ループ、二次ループ、三次ループのフィードバックを追求する。・・・歴史的・精神的な変容という作業に意図的に参加する。[p.265]」
・「連続的な行動論理のそれぞれにおいて、・・・以前の行動論理すべての可能性も含まれる。[p.110]」
・「私たちにはそれぞれ、概して、支配的な行動論理に加えて、強迫観念を受けたとき・・・に陥る、ある特定の二次的な(つまり代替的な)行動論理がある。[p.110-111]」

個人と組織の発達上の行動論理の類似性
・著者は、個人と組織の発達における行動論理の類似性について、組織においては、構想→1投資→2結合→3実験→4体系的な生産性→5社会的ネットワーク→6協働的な探求→7基盤となる探求コミュニティ(数字は個人の行動論理の7類型に対応)という発達を遂げることを示しています。
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人が変化するためには、自分の行動から予測される結果と、現実に起こった結果を比較し、そこから自分の行動や考え方を変えていくことが必要であることに異論はないでしょう。著者はそうした変化のプロセスと、人間の発達のプロセスとの類似性を手がかりに、どんな考え方(行動論理)を持った人が、どのような結果やフィードバックから自分の行動や考え方、信念をどう変えるのか(あるいは変えられないのか)を議論し、どうしたら変えさせることができるのかを示していて、実務家にとっても参考になる指摘は多いと感じました。それぞれの概念やモデルの妥当性にはよくわからないところもありましたが、ひとつの整理のしかた、注意すべきポイントが挙げられている点は考えるヒントとして非常に役に立つように思います。ただ、変化のプロセスを敷衍したと思われるアルケミスト型とされる行動倫理や、個人の変化プロセスを組織変化に拡張した議論は、特に納得しにくかったため、紹介は簡略化したり省略させていただいたりしています。

世の中が変化する以上、組織や個人にも何らかの変化が求められるのは間違いないと思います。しかし、変化することは簡単なことではないとも思います。変化にうまく対応するには、試行錯誤の方法論が有効である、という指摘が最近はよくなされていますが、試行した後、その結果からいかにうまく学び、いかにうまく自身の変化と次の試行につなげるかこそが真に重要なのではないでしょうか。著者が提示しているモデルや類型、パターンをヒントに、自らを改め次の試行の精度をいかに高めていくかは、研究者にとっても重要な意味をもつのではないかと思います。


文献1:Bill Torbert and Associates, 2004、ビル・トルバートほか著、小田理一郎、中小路佳代子訳、「行動探求 個人・チーム・組織の変容をもたらすリーダーシップ」、英治出版、2016.
原著表題:Action Inquiry: The Secret of Timely andTransforming Leadership

よりよいブレーンストーミング(「Better Brainstorming」、Gregersen著HBR2018, March-Aprilより)

ブレーンストーミングを新しいアイデアの創出に活用されている方は多いのではないかと思います。ただ、例えばIDEOのようにブレーンストーミングを重視して積極的にイノベーションを進めている企業がある一方で、ブレーンストーミングはアイデア創出の方法としてはあまり効率的でないとか、定義が明確で限定的な目的でないと効果が少ないという指摘もあります。様々な人の知恵を活用する手法としてのブレーンストーミングの有効性については疑いの余地はないように思いますが、要は、やり方とそれに適した課題の選定が重要、ということなのでしょう。

そこで今回は、通常とは少し異なるブレーンストーミングのやり方が提案されているHBR誌の論文「Better Brainstorming」(Hal Gregersen著)[文献1]の内容をご紹介させていただきたいと思います。この方法の新しい点は、ブレーンストーミングで質問を生み出そうとするところ、というところになると思いますが、従来の手法すなわち解決策を生み出すことを狙ったやり方ではうまくいかない場合に使える可能性があり、またその発展性も大きいのではないかと感じました。以下にそのポイントをまとめておきたいと思います。

質問のブレーンストーミング(Brainstormingfor questions)の特徴
・「答えではなく質問を求めるブレーンストーミングは、過去の認知バイアスや事業を未踏の領域に推し進めることを容易にします。」
・「基本的に、私が開発したこの方法論は、問題を価値ある新しい方法で創り直すプロセスです。それにより人々がブレークスルーを探し求めている時に、より創造的な考え方を適用しやすくし、コントロールしているという感覚を与えやすくします。ただ座ってひらめきが訪れるのを待つだけではない方法なのです。・・・行き詰りを感じたり新しい可能性をイメージしようとする時に、グループでも個人でもいつでも使えます。もしあなたの組織でこれを常時実践するようにすれば、集団での問題解決と真実を追い求める強力な文化を育むことができるでしょう。」

質問のブレーンストーミングのプロセスWhat Process Should We Follow?
・「現在、私はこのプロセスを『質問バースト(question burst)』と呼んでいます。それは3つのステップからなります。」
1、舞台を設定するSetthe stage
・「まず、あなたがとても気にかけている問題を選択してください。」
・「あなたが、その問題について新鮮な観点から考える手助けをしてくれる何人かの人を招待してください。」「あなたが質問バーストへの参加を依頼する時には、問題を分かち合うことであなたに弱点があることを示しつつ、共感を呼び起こすようにもしてください。こうすることがアイデア生成の助けとなることは、デザイン思考からも学べます。」
・「その問題について直接の経験がなく、あなたとは全く違う認知スタイルや世界観を持った人を2、3人含めるのがベストです。」
・「伝統的なブレーンストーミング――答えを出すことに焦点をあてたもの――では、平均してグループよりも個人のほうが成績がよい。これは、『社会的手抜き(social loafing)』(他者の貢献に乗る)ことや社交不安(アイデアがどう評価されるかについての恐れ)といった強いグループダイナミクスが独創的な考え方を邪魔し、内向的なメンバーの声をかき消してしまうからです。しかし、質問バーストでは、人々を社会的相互作用の通常の習慣から切り離すことを促すことによって、こうした破壊的なダイナミクスの多くを逆転させるよう設計されています。ひとつには、おとなしい人も含め、異なる見解を提示するのに誰にとっても安全な場所を作り出すことがあげられます。・・・質問だけに焦点をあてることは、答えを出さなければという自然な気持ちを中断させ、最終的に問題の世界を深く広げて探究しやすくすることにもつながります。」
・「エクササイズに参加するパートナーを集めたら、彼らに問題を提示する時間を2分だけとってください。しばしば、問題を詳細に説明する必要があると思いがちですが、問題を分かち合ったらそのすぐ後にあなたは質問を制限も方向づけもしないような高いレベルで問題を捉えることをしなければなりません。従って、要点を示すだけにしましょう。もしこの問題が解決されたらどんなよいことがあるかを伝えるようにしましょう。そして、なぜあなたか行き詰っているか――なぜ解決できていないかを簡単に述べましょう。」
・「開場の前に、2つの重要なルールを明記しておいてください。第一に、質問だけを出せること。解決策を提案しよう――あるいは他人の質問に答えよう――とする人は、議長にしてしまいましょう。第二には、質問を出す際の前置きや理由は不要なこと。これはそうしたことをすると、聞いている人が問題をあるやり方で見るように誘導してしまうからで、これはあなたが避けるべきことです。」
・「あなたの感情がポジティブか、中立か、ネガティブか、あなたのベースとなる気持ちをとらえる言葉をメモしましょう。10秒以上かける必要はありません。そしてセッションが終わったら同じことをもう一度行います。気持ちは創造的なエネルギーに影響するのでこのチェックは重要です。エクササイズの目的は、価値ある新たな質問を発することだけではなく、あなたがそのフォローをしやすくなる気分の高まりを得ることにもあります。」

2、質問のブレーンストーミングを行うBrainstorm the question
・「4分間で集中して問題に関するできるだけ多くの質問を出します。他のブレーンストーミング同様、出された質問への反論は許されません。驚きが大きく、議論になるような質問ほどよいものです。」
・「大企業と仕事をしていると、特に上級リーダーは人々が質問しだすと4分の間ですら答えを出さないでいることがひどく難しいことにしばしば気づきます。・・・特に直観に反する質問は、多くの人を不安にさせ、あわててデフォルトの答えを口にしてそこから回復するために時間を浪費しまいます。しかし、問題に突き当たっていると感じるとき、質問にこのように答えることは時間の無駄なのです。結局のところ、我々がいらいらする理由は、定番の答えがどこへも我々を導いてくれないからです。」
・「このエクササイズでは量を重視します。与えられた時間にできるだけ多くの質問をすることで――最低15個が目標――質問を短く、簡潔でフレッシュに保てるでしょう。すべての質問をそのまま紙かノートパソコンかタブレットに正確に書き留めます。そして間違いないかメンバーに確認しましょう。そうでないとあなたは無意識のうちに、すぐに理解できなかったり、聞きたくなかったりする質問の表現を無視するように修正してしまうかもしれません。」
・「記録中には、あなたの質問も加えます。」
・「4分で質問を15個、という基準には魔法はありませんが、時間のプレッシャーは、『質問のみ』のルールを守るのに役立ちます。・・・また、経験の少ない人の場合3分半ぐらいでエネルギーが衰えます。・・・こうした理由から、一回の長いセッションに多くの活動を詰め込むより、複数回の質問バーストをするのがよいでしょう。」
・「タイマーが止まったらすぐ感情をチェックしてください。・・・4分前よりポジティブになっていなければ、状況が許せば、もう一度エクササイズをしてもよいかもしれません。あるいは休憩して翌日に再設定してもよいかもしれません。違う人で試みるのもよいでしょう。」

3、追究すべきことを特定し、コミットするIdentify a quest—and commit to it
・「あたなが一人でメモを調べ、新しい道を示唆するものを探してください。約80%で問題を捉え直し、問題解決の新たな見方を提供するのに役立つ少なくとも一つの質問が見つかります。あなたの興味を惹くもの、あなたが今までやってきた方法とは異なるもの、時にはあなたが少し不快になるものを選んでください。」
・「そしてそれらを拡張して関連する、あるいは続きとなる独自の質問にしてください。そのための古典的な方法にはトヨタの創業者豊田佐吉による『5つのなぜ』――あるいはそのバリエーションとしてStanfordMichael RayThe Highest Goalがあります。」
・「最後に、あなたが気づいた、真実を追求するために行なう一つの新たな道を少なくとも一つ追い求めることにコミットしてください。」

よい質問とは
・「よい質問とは何かについて明確に言うことはできないですが、質問には新たなソリューションをもたらす能力の違いがあることは事実です。成功確率を上げるため、以下の原理を心にとめてください:
・伝統的な多様な発想のテクニック(例えばランダムな連想、異なる人格的特徴を持つ人の採用)は、新たな質問と究極的に新たな領域を解き放つことに役立つ。
・オープンクエスチョンの方がクローズクエスチョンより、短い方が長いより、単純な方が複雑なものより生産的。
・記述的な(何が有効で、何がダメか、なぜか)の方が推測的なもの(もしそうだとしたら、何がありうる、なぜそうでないか)よりの方がよい。
・単に思い出せばよいだけの単純な質問から、創造的な統合が必要な質問にシフトするとよりよいブレークスルー思考を生む。
・組織が達成したいことについての深い確信から出ていない質問は迷惑で気持ちをそらす。
・アグレッシブに押し付けられ、ある場所に押し込め、アイデアに根拠のない疑いを投げかけ、恐怖の文化を強化するような質問は害がある。」

習慣を根付かせるには
・「ある問題について、私は通常、最低でも3回の質問バーストを行うことを勧めています。」
・「子どものころから人々は質問しないように条件づけられています。」「UC Riversideの名誉教授James T. Dillonは言っています。・・・『それは教師やクラスメートからのネガティブな反応の経験によるところが大きい』」
・「さらに権力闘争が状況を悪くしています。社会的なグループでは、支配的な個体が必然的に出現し、誰にも邪魔されずにその力を築き永続させるための方法を見つけます。よくある方法は、やっかいで好奇心溢れる質問者――リーダーが完璧には理解していないようなことを示すような質問をしてくる人――を黙らせることです。」
・「もちろん、多くのビジネスリーダーはイノベーションを続けるために不可欠なものとして質問を奨励しようとしているでしょう。しかし従業員は、特に難しい質問をしない、という習慣をすでに内面化しています。この習慣を変える必要があるでしょう。・・・MITRobert Langerは、『学生のうちは、いかに質問にうまく答えるかで評価されます。誰かが質問をし、あなたがよい答えをすれば、よい成績を貰えます。しかし、人生では、あなたの質問がいかによいものかで評価されるのです。』と言っています。」
・「私の経験では、日々の仕事で創造的摩擦が重視されている環境では、人々がよい質問者になることが見出されています。例えば、AmazonASOSIDEOPatagoniaPixarTeslaZapposでは、人々が、廊下や食堂、会議室でさえも互いに難しい質問をして課題への挑戦に協力しています。」
・「また、真実がどんなものであっても安全に真実を根気強く追究できる組織文化のもとでは、人々はよい質問者になります。このような文化を創るには、MITEd Scheinによれば、リーダーは謙虚さ、脆弱さ、信頼性を示す必要があり、他者に力を与え、公平に扱わなければならない、と述べています。」
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実際のブレーンストーミングの場面では質問が出てくることもままあるとは思いますが、ブレーンストーミングは答えを求めて行うことが多いというのは確かにそのとおりでしょう。著者の視点の興味深い点は、答えを得ようとすることを完全に止めて、質問を出すことに特化したブレーンストーミングを行う、という点だと思います。よい質問が発想の可能性を広げることは事実ですので、この方法は実践的にも意味のあることだと思いますし、既存のバイアスや先入観を打ち破ることが必要な場合には特に有効なのではないでしょうか。従来型のブレーンストーミングに行き詰った時、問題点のとらえ方を見直してみようと思った時など、著者の提案する質問バーストを試してみる価値は高いと思います。

さらに著者の指摘で興味深いのが、人間には質問を出すことに対するためらいがあり、組織には第一線からの質問を封じてしまう傾向がある、という点です。社員に自由な発想を求めたところで、自由に質問すらできない環境で自由な発想が出てくるものなのか、ということは冷静に自省してみる必要があるのではないでしょうか。もし、質問バーストを試してみて、思うように質問が出なかったとすれば、組織のコミュニケーション、発言や提案をする環境に問題があることになるかもしれません。そう考えると、著者の提案には、単なるブレーンストーミング手法の改善以上の意味が含まれているようにも思います。

どんな手法でも形式的にやっただけではよい成果は得られないような気がします。その手法がどんな状況で、どんな目的に対し、なぜ効果を発揮するのかを理解した上で、効果的にそれを実施し、改良していく、ということがこれからますます求められるようになるのではないでしょうか。


文献1:Hal Gregersen “Better Brainstorming”, Harvard BusinessReview, March-April, 2018, p.64.
https://hbr.org/2018/03/better-brainstorming

「マッキンゼーが予測する未来」(ドッブス、マニーカ、ウーツェル著)より

未来の予測など人間には不可能なことだとわかっていても、予測しようとすること、可能性のある未来を想像して必要な対策を考えてみることは決して無駄なことではないでしょう。ただ、その時に、予測の根拠となるべきデータが、新しく正しいものでなければ意味がありません。いいかげんな根拠に基づく予測は、いいかげんなものにしかならないはずです。

今回は、「マッキンゼーが予測する未来」(ドッブス、マニーカ、ウーツェル著)[文献1]に書かれた未来の予測をご紹介したいと思いますが、その特徴は「マッキンゼーは常にファクトを重視しており、一見大胆だと思われるような未来の超長期予測についても、必ずデータの裏付けがあります。[p.i]」という手法にあると思います。もちろん、マッキンゼーだからといって集めたデータやその解釈が常に正しいとは限りませんが、ひとつの見解として参考になると思いましたので以下にそのポイントをまとめてみたいと思います。なお、本書に数多く示されている根拠となるデータのほとんどはここでは省略させていただいていますので、ご興味のある方はぜひ本書をご参照ください。

イントロダクション、我々は、直観力をリセットしなければならない
・「現在のリーダーの多くが地位を築く基礎となる経験を重ねたのは、グローバル経済環境が珍しく温和で、穏やかな時代であった。2008年の世界金融危機にいたるまでの25年間は、ジェームズ・ストックとマーク・ワトソンという2人の経済学者が名づけ、正当な評価と考えられる『グレート・モデレーション』、すなわち『大温和』の時代として知られている。[p.7]」
・「おしなべて見れば、グレート・モデレーションの時代の物語は、継続性と一貫したトレンドにより語ることができるものであった。だが、この慣れ親しんだ世界は、もはや消滅してしまっている。[p.8]」
・「私たち共著者の考えでは、世界は今、破壊的な力を持つ4つの根本的なトレンドによりもたらされた、劇的な変化のほぼ中途にある。この4つの破壊的な力のどれか一つだけをとっても、グローバル経済がこれまで経験してきた経済的変化、たとえば先進国における産業革命のようなものの最大の力と比べたとしても、おそらく比肩しうる規模である。[p.9]」
・「私たちの過去の経験から構築された直観に基づいて意思決定を行ったとすれば、間違えてしまう可能性がかなり高い。新世界では、企業経営者、政策決定者、そして個人の誰もが、自分の持つ直観を精密に見直し、もし必要とあれば大胆に直観をリセットする必要がある。このことは、過去に大きな成功を収めてきた組織にとって、とりわけ必要性が高い。[p.20]」

I部、4つの破壊的な力
第1章、上海を超えて――異次元の都市化のパワー

・「最初のトレンドの変化は、経済活動とダイナミズムの重心となる場所の移動である。移動先は中国のような新興国市場であり、そうした市場の中の都市である。[p.10]」
・「都市というものが成長を推進する強力なエンジンであることの理由は、数々存在する。高密度の人口集中地域には、規模の経済、労働の専業化、知識の拡散および売買により、生産性の向上が生まれる。そして、こうした生産性の向上は、ネットワーク効果によりさらに強化される。最近の研究成果によると、都市の持つ高い人口密度により、社会的・経済的な交流機会が生まれ、その結果、時が経つにつれ直線的ではなく幾何級数的な生産性の向上が生まれることが示唆されている。[p.43]」
・新たな都市化の時代を攻略する5つのカギ:予期せぬ新規参入者を知る、新しいサービスのニーズをつかむ、都市に住む才能を発掘し、イノベーション集団を組織する、都市を実験室だと考える、複雑になりがちな事業運営をマネジメントする[p.43-58

第2章、氷山のひとかけら――さらに加速する技術進化のスピード
・「第2の破壊的な力は、技術の発展がその範囲、規模、経済的インパクトにおいて、加速し、増大することである。[p.12]」
・過去のトレンドを破壊する力を持った12の技術[p.74]:
「すべての物事の構成要素を変えてしまう」:1、次世代のゲノム科学、2、新素材の開発
「エネルギーを考え直す研究が実用段階に」:3、エネルギーの貯蔵、4、石油とガスの採掘、回収技術の進歩、5、再生可能エネルギー
「人類のために働いてくれる機械」:6、ロボット工学の進展、7、自律的あるいは自律的に近い自動車、8、3-Dプリンティング
「IT技術とどのようにIT技術を活用するか」:9、携帯機器によるインターネット、10、IoT:モノのインターネット、11、クラウド技術、12、知識作業のオートメーション化
・「企業経営者は、自社の社員がさまざまなスキルを最先端のレベルに保てるよう、そして経営陣と取締役会のメンバーが、最新の技術開発の状況について常に報告を受けて理解しているように、システマチックな体制を築かなくてはならない。戦略企画プロセスも見直す必要がある。具体的には、信頼できるさまざまなトレンド情報を監視し、今後起こりうる変化のさまざまなシナリオを考え、対応策を立てておくこと、そしてどこから競合が出現し、どこにリスクがあるのかに関して、古い仮説はバッサリと捨て去ることである。[p.86
・技術的転換点に適応する5つのカギ:自社の保有するデジタル資本を最大限活用する、デジタルの持つ低い限界コストの活用を考える、消費者余剰の一部を、消費者に負担させる、混乱が落ち着くまで待ってはならない(「ハイテク業界以外の大企業も、生命力にあふれた新規設立の技術系企業と共棲関係を結ぶことが、技術に対する賭けに勝つ方法としてますます効果的になってきたと気づき始めている。・・・多くの企業が採用している方法は、自社組織の中に技術革新研究所を埋め込み、技術開発を加速する仕組みを取り入れることだ。具体的には、そうして埋め込まれた組織が、将来性の高い起業家たちを支援する環境を提供し、メンターとして助言や育成・指導を行い、研究機器や資金の提供を行う活動を既存組織機構の中で行なうのである。[p.99]」)、自社の人材、組織、投資に技術がどう役立つのかを考える。[p.86-102

第3章、年齢を重ねる意味が変わる――地球規模の高齢社会の課題に対処する
・「第3の力は、人口動態の変化である。簡単に言ってしまえば、人類の平均年齢が上昇してきているのだ。[p.15]」
・「世界各国の歴史を振り返ると、国が豊かになるにつれ出生率が低下する傾向がうかがえる。[p.107]」「世界人口はもうすぐ転換点を迎えようとしている。今後何十年かのうちのどこかで、アフリカを唯一の例外として、世界中の大多数の国の人口カーブが、近代史の流れにおいて初めて横ばいになる。世界中で幅広い年齢帯は高齢人口となり、労働人口も高齢化し、政府の社会保障費用が膨らんでいくのである。この人口動態予測の点で、人口がすでに減り始めている日本は、今後変わっていく世界の姿を、先行して実際に見せてくれると言えるだろう。こうした数々の変化の方向を理解すれば、私たちがこれまで経験から導いてきた直観をリセットしなければならないことがわかるだろう。とくに老人について持っている考え方を変えなければならない。[p.107]」
・高齢化トレンドに適応するための3つのポイント:従業員の高齢化に真剣に対処する(高齢にさしかかった社員を、過去のしがらみによる負の遺産であるレガシーコストと見なすのではなく、会社の資産であり経営資源なのだと考えなければならない)、高齢化する人口構成を狙い撃ちするマーケティング、高齢者のための製品やサービス[p.121-135

第4章、貿易、人間、金融とデータの価値――音速、光速で強く結び付く世界
・「最後の破壊的な力は、私たちが『流れ』と呼んでいる、貿易に加え、資本、人々それに情報の移動を通じ、世界が相互に結合する度合いの高まりである。[p.16]」
・「世界経済がクモの巣のようにつながる関係は、かつてなかったほど精緻で複雑なものとなっている。こうしたさまざまな流れは、機会とともに危機の可能性も生み出すものである。企業は、かつてなかったほど新しい顧客に売り込むことができるようになり、新たな資金の出し手を見つけ、新たな供給者や需要者を見つけることができるようになった。・・・この流れのエネルギーを、ショックを受けないように活用していくには、こうした相互結合が自社の事業にどのような影響を与えるのかを理解し、読者自身の直観力をリセットすることが必須なのだ。[p.138-139]」
・新たなグローバル化の潮流:1、モノやサービスの貿易(「対象となる製品のタイプも大きく変わってきている。昔は、製造コストの低い場所からの労働集約財か、資源の豊富な国からの商品資源が貿易の大半を占めていた。今日では、薬品、半導体、航空機といった知識集約型の製品が、総貿易額のほぼ50%を占めている」、2、金融マーケット、3、移り住む世界の人々、4データと通信[p.139-151
・事業活動にとってグローバルなつながりが重要な理由:「相互につながればつながるほど、ユーザーにとって有利になる[p.151]」、「競争のルールが書き換えられてしまい、競争の基本を形成してきた主な要素が変わってしまった[p.153]、「グローバルなつながりと流れにより、企業は自社の持つ資産をより生産性の高い使途に用いる、新たな方法を手にすることができる[p.153-154]」、「これまで予想もしなかったような新しい結果が生まれてくる可能性がある[p.154]」
・相互結合の強まった世界に対応する4つのポイント:どこから現れるかわからない新参者に備える、グローバルに、しかもデジタルなエコシステムを築け、グローバルな結合と流れによる競争優位を活用せよ、相互に連結した世界で、敏捷であれ(「昔の方法論であれば、規模を拡大すれば、不意の混乱に襲われても企業は身を守れるようになり、これまで成功してきたように自社の強みに依存し、自社の持つコア・コンピタンスにしがみついていればよかった。ところが今日では、敏捷性に焦点が当たることが増えてきている。発生した問題に対して、素早く身軽に行動が取れる敏捷性は、加速するグローバルなフローの時代には、企業存続の成否を分ける特質である。突然の危機に備え、事前に対応策に投資し、危機の到来を察知し、素早く対応できる企業こそが、生死を分ける競争優位を持つことになる。[p.168]」[p.158-168

II部、直観力をリセットするための戦略思考
第5章、次に来る30億人――新たな消費者層の力を引き出す

・「世界人口の過半数が消費者層になろうとしている[p.174]」
・「世界中で起こっている新しい消費者層の勃興が、既存の確立した企業にとっては達成の困難な、新たな要求を突きつけている。自国市場で築いた優位な要因は、はるか離れた市場には、簡単には移転し構築することができないし、当然のものと受け入れられもしない。だが、新市場の提供する成長機会は非常に大きく、無視するわけにはいかない。・・・自社のアプローチと管理のやり方を系統的に見直し、世界中のすべての有望市場に自社事業を展開していこう、という賢明な企業であれば、今の顧客がどこにいるのかを見つけ出し、出会うことができるだろうし、将来の顧客も見つけられるだろう。[p.202-203]」

第6章、逆回転が始まった――資源に訪れる新たな機会
・「資源のほとんどは増産能力の余裕が少なく、開発までのリードタイムが長く、さらに産出コストが高額であることから、短期的に柔軟に増やせる供給余力がないために、資源価格の不安定な変動につながっている。[p.215-216]」
・「効率向上、リサイクル、自然保護などは、カネのかかる邪魔なことだと考えられることがこれまで多く、とくに法律や規則により強制された場合には、そうした反応になりがちだった。しかし、資源価格変動の時代には、こうした努力は競争優位性の源泉であり、必要なことなのだ。[p.220]」

第7章、1つの時代の終わり――資本コストが下がり続ける時代よさらば
・「資本コストを取り巻く著しい変化は、短期的な道筋がどちらに向かうのか不確実なままである。・・・金利を引き上げるのか、それともこのまま低金利が続くのか、確実性を持って判断することは困難である。どちらであるにせよ、企業は自分たちの乗る舟が浸水し、沈まないように、自分たちの考え方、実践する行動、そして保有する能力を見直し、方針を決定しなくてはならない。[p.267]」

第8章、労働力需給のギャップを解消する――技術革新が生み出す新たな労働市場のミスマッチ
・「アメリカ型の『雇用なき経済回復』のパターンは、過去30年間に他の先進各国でも見られた。[p.270]」
・「今後、世界には高度なスキルを持つ労働者が不足し、一方で低スキルの労働者には就業機会が不足する可能性が高い[p.281]」。「アメリカ企業のほぼ3分の2が、優秀な採用候補人材を見つけられずに空いたままのポジションがあると答えており、その筆頭が科学、技術、工学、数学というSTEM分野である。[p.283]」
・「政府、企業、職を求める個人が注目しなくてはならないのは、進化し変化する技術のベースに追いついていけるよう、スキルと制度を開発強化していくように努力することである。そして、敏捷に対応するには、採用する企業の側もまた、新たな人材源を探索し、採用を続けながら、採用プロセスと教育訓練を常に最新のものに保つようにしなければならない。[p.282]」
・「会社と社員の両者は、一体と考えているものをばらばらに分解する、という概念を理解しなければならない。・・・非常に複雑な職務を担当するポジションを職務分解してみると、そこから中程度スキルの、新たな専門性のある職務がいくつも創り出されるのである。[p.290]」

第9章、小魚がサメに変貌するとき――新たな競合の出現と競争のルールの変化
・「技術発展が過去のトレンドを破壊するものとなり、小規模の敏捷なアタッカーが地歩を確立した既存大企業を相手に、互角に戦うことを可能にした。[p.307]」「新規の競合に不意打ちを食らうと、大企業は素早く方向転換して対応できないことが多い。[p.309]」
・「競争の性格が変化していくのに適応することはそもそも簡単ではないが、古いグローバル競争の世界で自社の企業文化、戦略、プロセスを築いてきた企業にとっては、とりわけ難しいことになる。・・・最も重要な課題は、一群の伝統的競合企業を超えて自社の思考範囲を拡大し、新しい競合企業の成長をモニターし、新たに生まれてきた産業や業種の経済性、利益構造やビジネスモデルを理解しようと、努力を傾けることである。それに加えて、自社が持つ資産、コア・コンピテンシーと呼ばれる中核能力、競争優位の源泉が何なのかを突き詰め、明確に理解することに、時間と知的エネルギーを注がなければならない。[p.314]」

第10章、国家の政策こそ問題だ――社会と政府にとっての戦略的課題
・「過去のトレンドが破壊されることにより、企業が自社の戦略を再評価し、事業の前提となる過程の数々を再度見直すことを迫られたように、政府もまた同じことをしなければならない。[p.342]」

エピローグ、戦略的思索の果てに
・「すべてのリーダーに必要な最初のステップは、自己再認識である。自分が変化に効果的に対応しようと考えるのなら、自分自身の傾向やバイアスを理解し、自分の意思決定プロセスを推進する要素に気づくことこそが、根本的な問題である。[p.367]」「もう一つの生存のカギは、好奇心と学ぶ気持ちとを組織の中に埋め込むことだ。[p.367]」
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本書で挙げられた未来予測はいずれも興味深く、その多くに技術の進歩がかかわっているという点で、技術者にとっても示唆に富んだものだと感じました。加えて、以下のような考え方のアプローチも重要だと思います。
・データに基づいて考えること。特に最新のデータと、変化の方向に注目すること。
・様々な変化の兆候をとらえる努力をすること。
・変化のメカニズムも考えてみること。

・変化の影響を多面的に考えてみること。
・従来の考え方にとらわれないこと。従来の考え方、先入観、バイアスの問題点を正しく認識すること。

・予想される未来に適応する努力をすること。
このようなアプローチは、実は研究開発においても重要だと思います。いずれも言われてみれば当たり前の考え方だとは思いますが、こうした考え方を実践することで、研究成果がより有意義なものになるのではないかとも思います。技術を通じて未来をより望ましい方向に変えていくことにも役立つような気がしますがいかがでしょうか。


文献1:Richard Dobbs, James Manyika, Jonathan Wetzel, 2015、リチャード・ドッブス、ジェームズ・マニーカ、ジョナサン・ウーツェル著、吉良直人訳、「マッキンゼーが予測する未来 近未来のビジネスは、4つの力に支配されている」、ダイヤモンド社、2017.
原著表題:No Ordinary Disruption: The Four Global ForcesBreaking All the Trends

研究開発実践のマネジメント第27回-研究組織の望ましい特性:研究開発マネジメントの実践と基礎知識2.3.3(「ノート」全面改訂)

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第7回
2、研究開発実践のマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
第8回第17回
2.2
、研究開発を行う人のマネジメント第18第24回
2.3
、研究組織とそのマネジメント
2.3.1
、研究組織の構造が研究に及ぼす影響
第25回
2.3.2
、研究組織の仕組みや制度が研究に及ぼす影響第26回

2.3.3
、研究組織の望ましい特性
前回、前々回では組織の構造や仕組み、制度が研究に及ぼす影響を考えました。一方、どのような特性を持つ組織が研究にとって望ましいか、望ましくないか、という視点での考察も多くなされています。このような特性は構造や制度ほどは明確に規定できない点も多いですが、その分現場の運用上の自由度が高い場合も多く、実践家にとっては参考になることも多いと思います。望ましい研究組織の特性についての議論は、第22回で述べた、研究マネジャーが目指すべき姿の内容と重なる部分もありますが、今回はより一般的な視点からまとめてみたいと思います。

1)
研究組織の特性を考える際のポイント
研究組織には様々な役割が求められますが、本シリーズでは、「新しいことを扱い、情報を得ること」(第2回)を最も重要な役割と考えています。そうした役割をうまく担える、望ましい研究組織の特性として、私は以下の点を挙げたいと思います。
・組織の方向性を統一するビジョンを持ち、統一性を維持する自律性をすること
・多様な考えを有し、多様な考えを尊重できること(多様性
・内部でのコミュニケーションが活発なこと
・外部の考え方を取り入れられること(学習
実験を重視し、失敗から学べること(学習)
・他部署との協力、連携ができること

このように考えるのは以下の理由からです。
・新しいアイデアを生むためには、異なる考え方の組み合わせが有効
 →内部の多様性とコミュニケーションが重要
 →外部の知識の導入、外部に学ぶことが重要
・不確実性の高い課題に対応する必要性
 →実験重視(検証、探索)、失敗から学ぶことが重要
・新しいアイデアの実現のために、協力や連携が重要

2)
研究にとって望ましい組織の特性
まず、1)で挙げたような特性がなぜ研究開発にとって望ましいと考えているかについてまとめたいと思います。

イノベーションを取り巻く社会環境の変化
これからの時代のイノベーションを考える上では、以下のような社会環境の変化を考えておかざるを得ないでしょう。
・個々の技術が専門化して、個人の理解には限界があること
・技術が複雑化し、様々な要因がからみあって、未来の予測が困難になっていること
・技術の交流が活発化し、一旦確立した競争優位の維持が難しくなっていること
・技術的優位だけでは成功を得にくくなり、ビジネスモデルのイノベーションが求められること
要するに、これからの時代、イノベーションは天才的な一個人の活躍や、個人および研究部隊の努力だけでは実現しにくくなり、組織内外での協力、協働が不可欠になってきているのではないかと思います。もちろん、個人が先導し、指揮をとるようなケースはこれからもあるでしょうが、その個人に情報を与えて新しい発想と正しい判断を導き、実行面でその個人を支える協力関係なしにはイノベーションは難しいのではないでしょうか。すなわち、個人よりも組織としてイノベーションを起こす必要性が高まっているように思われます。

組織で新しいアイデアを生み出すメカニズムの例
では、どうしたら組織でイノベーションを生むことができるのでしょうか。新しいアイデアを生み出すには、「組み合わせ」が有効であることはよく指摘されます。例えば、入山章栄氏は次のように述べています。「イノベーションとは言うまでもなく、新しい知を生み出すことである。そしてシュンペーターによると、「新しい知とは常に、『既存の知』と別の『既存の知』の、『新しい組み合わせ』で生まれる」のだ。[文献1]」しかし、その「組み合わせ」を行うのは人であり、例えば野中郁次郎氏らによれば、「厳密にいえば、知識を創造するのは個人だけである。組織は個人を抜きにして知識を創り出すことはできない。組織の役割は創造性豊かな個人を助け、知識創造のためのより良い条件を作り出すことである」[文献2、p.87]、です。つまり、組織が個人をうまく助けることが個人による知識創造を促すことにつながることになります。

この、組織が関与する知識創造について、野中氏は次のようなメカニズム(SECIモデル)を提案しています。(なお、SECIモデルの説明は文献によって少しずつ違いますので、厳密に定義されるものというより、個人と集団の間、暗黙知と形式知の間での知識の変換や受け渡しのパターンに関するモデルと理解すればよいように思います。)
「人間が行う最も知的な営みである知識創造は、暗黙知と形式知が互いに作用し合い、相互変換し、それがスパイラルに循環していくなかで行われます。この知の循環運動が組織やチームで起きる場合、知識創造理論では次のような4つのモードをたどると考えます。
(1)まず、個人はまわりの世界との相互作用のなかで暗黙知を組織的に共創する。これを『共同化』(Socialization)と呼ぶ。
(2)次に、暗黙知を形式知に変換する『表出化』(Externalizaion)。
(3)続いて、形式知を組織内外の他の形式知と組み合わせ、一つの体系としての新たな形式知をつくり出す『連結化』(Combination)。
(4)こうして体系化された形式知は行動や実践を通して、新たな暗黙知としてメンバー全員に吸収され、体化されていく。つまり、形式知からまた暗黙知へと変換される。『内面化(Internalizaion)』と呼ばれる。
この知識変換の4つのモードを、・・・それぞれの頭文字をとって『SECI(セキ)モデル』と呼びます。[文献3、p.41-43]」
ここで暗黙知とは、「特定状況に関する個人的な知識であり、形式化したり他人に伝えたりするのが難しい[文献2、p.88]」知識であり、自分の頭の中の暗黙知はそのままの形では他者には伝えることができないことがポイントです。これに対し、形式知は「形式的・論理的言語によって伝達できる知識[文献2、p.88]です。

知識創造を促進するための組織の特性
知の新しい組み合わせを行うのは個人の頭の中ですので、組み合わせるべき材料は両方とも頭の中になければなりません。他者から何かを学んでそれを自分の頭の中に入れる、というプロセスは、他者の頭の中にある暗黙知を形式知に変換してもらい、その形式知を自分が他者から学び、暗黙知という形に変換して自分の頭の中にしまい込む、ということが必要になります。このように、ある人が持っている暗黙知をうまく形式知にして他者に伝えること、他者から受け取った形式知を自分の暗黙知とすることが組織的知識創造には必要となります。それをうまく行えるよう手助けができる組織が、すなわちイノベーションを生みやすい組織である、といってもよいでしょう。

このような知識創造のメカニズムから、知識が生まれやすい組織の特徴が導けるでしょう。すなわち、異なる知識が出会うためには、まず異なる知識が存在することが必要であり、知識や考え方の多様性が必要であることがわかります。また、組織内での知識のやりとり、すなわちコミュニケーションが存在しなければならないことも当然です。また、個人が持つ暗黙知を形式知化して他人に伝えようとするためには、知識を共有して組織に貢献しようとするモチベーションが個人になければなりません。この時、組織としての方向性がはっきりしていなければ、どんな暗黙知を表出すべきかがわからないでしょう。そして、自ら進んで暗黙知を組織内で共有することを促すには、単なる個人の目標を超えるような組織のビジョンがしっかりしていることが有効だと思われます。知識を受け取る立場で考えれば、組織の外部から形式知を学ぶことも重要ですし、周囲の観察や実験からの洞察という形で直接に暗黙知を身につけること、すなわち学習することも有益でしょう。そして、なによりも、こうした知識創造を進めるには、すでに決まっている以外のことを自由にやってもよいと認められつつ自分勝手な行動に陥ることがないということ、すなわち自律性も必要でしょう。

野中氏は、こうした組織の特徴として「場」というコンセプトを提示しています。その考え方は次のようなものです。
対話と実践という人間の相互作用により、知識を継続的に創造していくためには、そうした相互作用が起こるための心理的・物理的・仮想的空間が必要であり、そうした空間を「場」と呼ぶ。そこでは、参加者の間で自他の感性、感覚、感情が共有される相互主観が生成し、個人は自己の思惑や利害などの自己中心的な考えから開放され、全人的に互いに向き合い受け容れあう。場は動的文脈であり、常に動いている。「よい場」の条件は、
1)独自の意図、目的、方向性、使命などを持った自己組織化(=自律性が必要)された場所でなければならない、
2)参加するメンバーの間に目的や文脈、感情や価値観を共有しているという感覚が生成されている必要がある、
3)異質な知を持つ参加者が必要、
4)浸透性のある境界が必要。文脈共有には一定の境界設定が必要だが、必要に応じて境界を開いて新しい文脈を取り入れ、あるいは必要に応じて境界を閉じて中の文脈を守る、というのが「浸透性のある境界」の考え方、
5)参加者のコミットメントが必要。場において生成する「コト」に「自分のこととして」かかわることによって知識は形成される。こうしたコミットメントを得るためには、信頼、愛、安心感、共有された見方や積極的な共感などが必要。知識創造には内因的モチベーションが必要(外因的要因には暗黙知の表出化を推奨する効果は期待できない)。内因的モチベーションが有効に機能するには、仕事において創造性を要求されること、内容が広範囲で複雑で幅広い知識が必要とされること、暗黙知の移転と創造が不可欠であることのいずれかが含まれなければならない[文献4、p.59-79]。

さらに野中氏は「組織のメンバーには、事情が許すかぎり、個人のレベルで自由な行動を認めるようにすべきである。」と言い、そうすることによって、組織は思いがけない機会を取り込むチャンスを増やし、個人が新しい知識を創造するために自分を動機づけることが容易になる、と述べています[文献2、p.112]

なお、研究組織の望ましい特性を考えるにあたって注意すべきこととして、研究以外の組織との違いをどう扱うか、という問題があります。例えば、研究組織に自律性を与えることや、多様な考え方を許容することは、トップダウンの仕組みと相容れない場合もあるでしょう。いくら望ましい研究組織を目指したとしても、システムや考え方の違いにより既存組織との連携がうまくいかないのであれば成果を挙げるのが難しい場合もあるでしょう。望ましい研究組織を目指すということは、既存組織にとってはそういう研究組織の存在を認める必要がある、ということにもなります。既存組織の理解を得るためにも、研究側としては、なぜこのような特性が望ましいのかを理解し、説明できるようにし、できれば経営層の了解を得ておくことは必要と考えます。


文献1:入山章栄、「世界標準の経営理論 第14回『両利き』を目指すことこそ、イノベーションの本質である」、DiamondHarvard Business Review, Nov. 2015, p.124.
文献2:Nonaka, I., Takeuchi, H., 1995、野中郁次郎著、竹内弘高著、梅本勝博訳、「知識創造企業」、東洋経済新報社、1996.
文献3:野中郁次郎、勝見明著、「全員経営 自律分散イノベーション企業 成功の本質」、日本経済新聞社、2015.
文献4:野中郁次郎、遠山亮子、平田透、「流れを経営する――持続的イノベーション企業の動態理論」、東洋経済新報社、2010.

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