研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2018年05月

研究開発実践のマネジメント第29回-研究組織の運営手法:研究開発マネジメントの実践と基礎知識2.3.4(「ノート」全面改訂)

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第7回
2、研究開発実践のマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
第8回第17回
2.2
、研究開発を行う人のマネジメント第18第24回
2.3
、研究組織とそのマネジメント
2.3.1
、研究組織の構造が研究に及ぼす影響
第25回
2.3.2
、研究組織の仕組みや制度が研究に及ぼす影響第26回
2.3.3
、研究組織の望ましい特性第27第28回

2.3.4
、研究組織の運営手法
前回、前々回(第27第28回)では、研究にとってどんな特性を持つ組織が望ましいのかを考えました。では、どうしたらそういう組織を作ることができるのでしょうか。もちろん、トップダウンで仕組みを整えれば自然と望ましい組織ができる、という面もあるかもしれません。しかし、実際の組織運営が伴わなければ望ましい組織をつくり上げ、維持していくことは難しいのではないかとも思います。そこで、今回は、研究組織の運営手法に着目してよりよい研究組織のマネジメントを実現する方法について考えてみたいと思います。

1)
研究組織運営方法のポイント
第27
で、望ましい研究組織のポイントとして挙げた項目をさらに簡潔にまとめると、自律性と多様性を持ち、コミュニケーションが活発で、学習、協力がうまくできる組織、ということになると思います。そしてそのような組織を作り、うまく機能させる役割を担っているのがマネジャーということになります。では、マネジャーはどうすればよいのか。ポイントは、まず、
・メンバーとマネジャーのコミュニケーションをよくし、メンバーの状況を認識し、マネジャーの考えをメンバーに伝えてメンバーの行動や考え方をあるべき方向に導く

ことが重要と考えられます。

通常、組織にはそのようなコミュニケーションを強化する機会が設けられています。代表的なものとしては、報告制度(報告に対する上司からの指示も含む)、会議(ミーティングなど)、成果に対するフィードバックなどが挙げられるでしょう。マネジャーはこうしたコミュニケーションの機会をとらえてメンバーを導いていく必要があるわけですが、物事が計画通り進むとは限らない研究開発にとっては、既存の制度そのままでは不十分な場合もあるのではないでしょうか。そこで以下では、研究開発の特性を考慮した上でどのように会議や報告などを進めていけばよいのかについて考えてみたいと思います。

2)
研究組織運営の具体論
とはいえ、研究開発における会議や報告などの方法を議論した文献はあまりありません。研究開発の実施においては、こうした運営の各論よりも研究戦略やアイデア創造といった点に注意が向きがちであることがその理由のひとつと思われますが、実践家にとっては具体的な手法についての指針も必要です。以下の議論では、私の経験や考え方に基づく内容が主になってしまっていますが、ひとつの考え方としてご理解いただければと思います。

報告・連絡・相談・ミーティング・会議と研究組織の運営
研究組織内のコミュニケーションの機会には「報告・連絡・相談・ミーティング・会議」など様々なものがあります。おおざっぱには、情報の提供者が行うコミュニケーションの活動自体が報告・連絡・相談であり、そのコミュニケーションが行われる場、とくに情報の提供者、受け手以外の人もいる場がミーティング・会議ということになるでしょう。まず、報告・連絡・相談の特性と注意点を考えてみたいと思います。

報告・連絡・相談(報連相)による情報提供
一般的には報連相をうまく行なうことで以下のような効果が期待できると考えられます。
・第一線の情報がマネジャーに伝わりやすくなる。
・問題点に対する素早い対応、戦略変更が可能になる。
・相談を通じてタイムリーな指導、教育が可能になる。
・報連相するためにデータをまとめたり、考えたりする機会となる。
情報の受け手が多数の場合には、以下の利点も考えられます。
・チームワークが機能しやすくなる。総合力の発揮が促進される。
・情報の共有化が進む→異なる見解の融合によって新たなアイデアが生まれる。
・組織内の信頼関係が強化される。
そして、マネジャーは報連相への対応を通じて、研究組織の望ましい姿をメンバーに伝え、理解してもらうことができます。

しかし、やり方を誤ると次のような問題が発生することも指摘されます。
・報告(資料作成)に時間をとられ生産性が低下する。
・権限委譲が進まなくなる。
・問題を報告した後、問題解決の責任の所在が不明確。
・報告に対して対応策が指示されると、報告者が自主的に起きたことの原因を探ったり、問題解決策を考えたりしなくなる。指示待ち思考になってしまう。
・報告内容にとらわれて観察にバイアスがかかる。
・報告を求めすぎると信頼関係が損なわれる。モチベーション低下を招く。
・報告を受ける上司がオーバーフローすると機能しなくなる。

・必ずしも能力に問題があるわけではないのに、報告することを嫌う人がいる。

一般的に、こうした報連相を中心としたマネジメントが用いられるのは、第一線のデータを中央に集めてそこで判断や指示を行なう場合、プロジェクトのように目標や工程がはっきりしていてそれを実行するような場合、急ぎの対応が必要な場合、各々が分担した業務間の調整が必要な場合、報連相を通じて上司が部下を教育する場合、情報共有を進めたい場合など、ということになるでしょう。こうした場合に、上記の効果と問題点のバランスを考慮して、問題が発生しないようなやり方をする必要があると考えられます。研究開発においては、納期の決まった開発プロジェクトなどの場合には、多少のリスクを負っても報連相を強化することが必要かもしれません。しかし、未知への挑戦、急を要さない長期的なテーマ、探索的なテーマ、基礎研究に近いテーマなどを行なう場合には頻繁な報連相は不要と言えるのではないでしょうか。また、企業における研究開発の場合、部下の能力は様々です。特定の分野に限れば若くても研究マネジャーより詳しい研究員もいるでしょうし、専門職制度を設けている場合にはマネジャー以上の能力を持った第一線研究者がいる場合もあるでしょう。こうした専門家に対しては、過度の報連相の要求は信頼を損ないモチベーション低下につながりかねません。かといって、権限委譲して報告を受ける機会を減らせば、その業務に無関心と受け取られてモチベーションが下がることもあり、得失のバランスをうまく取ることが求められるといってもよいでしょう。ただ、仕事を通じた教育を行なう場合には直接的な報連相は必須と思われます。

ミーティングの活用
一方、多数のメンバーが参加するミーティング(会議)の場合、報告者と報告を受ける者以外の人のマンパワーが浪費されかねないというデメリットが発生します。しかし、組織的知識創造が必要とされる場合や、研究グループ内での情報交流が有効な場合、研究員同士の議論や交流が必要な場合、研究員の育成が必要でマネジャーと研究員の一対一のやりとりでは業務を通じた教育が不十分な場合、上司と部下という上下関係のマネジメントではうまくいかない場合には、ミーティングを通じたマネジメントが有効な場合が多いと考えられます。

ただし、次の点に注意が必要です。
・ミーティングの目的を明らかにすべき。上司から部下への伝達なのか、部下から上司への報告なのか、自分たちの成果についての情報共有なのか、社内外の情報の共有なのか、勉強のためなのか、アイデア出しのディスカッション(ブレーンストーミングなど)なのか、材料を与えて考える時間をとることが目的なのか。
 →その目的に応じて、参加者、時間、やり方を変えるべき。この時、参加者に目的を宣言して、進め方について意見を求めることは有効。
 →「情報共有」「創発」「教育」が特に重要な役割と認識する。
・上司から部下への情報伝達は有意義。ただし、要領よく。
 →文書によって伝達されたことであっても、言葉で再確認することは効果的。伝達の背景や上司の考え方、ポイントを伝えることができ、メンバーにとってもマネジャーにとっても自分の気付かなかった質問や意見を他のメンバーが言ってくれることは貴重。
 →人によって、文字によるコミュニケーション、言葉によるコミュニケーションのどちらが効果的かが異なる。
 →その場で部下の反応を観察し、意見を吸い上げることができる。
 →メンバーの参加の必要性を慎重に見極める必要がある。
・部下から上司への報告だけなら、同席しているメンバーにとっては意味がない。会議で報告しなくてもよい。
 →他メンバーの報告結果によって、自分の仕事が影響を受ける、あるいは自分が他メンバーの仕事に関与する可能性がある、結果が参考になる、などのような報告なら有意義になる。
 →他メンバーの報告によって、メンバー間の健全な競争心を刺激することが可能。ただし、足の引っ張り合いにならないよう、マネジャーがコントロールする必要あり。議論の成果をグループ全体のメリットにするような工夫ができれば有効。
・議論の種になる話題提供は有意義。
 →上司から部下に対する話題提供、相談も可能。
 →部下がかかえる問題をメンバー全員で考え、アドバイスすることができる。
 →ミーティングの場に拘束することで、強制的に考えるための時間を作ることができる(人によっては考えることよりも実行することを好む人がいるので)。「考える」ことが目的の場合、時間的効率を多少犠牲にしてもよい。
 →組織的知識創造、新たなアイデアの創発の機会となる。創発、発見の楽しさを実感させる。
 →ベテランの過去の経験や知識を引き出す機会となる。
 →教育、指導、相互啓発の機会となる。
 →リーダーがゲートキーパーとなって、外部の情報を翻訳してグループに伝えることができる。
・情報共有によって、メンバーのプロジェクトへの参加意識を高めることができる。
・報告(ミーティング)頻度が高すぎると負荷が多くなる。プロジェクトの性格に合わせた頻度設定が重要。
 →一般には13週間に1回程度がよい。それ以上の頻度では負荷が大きく、それ以下の頻度だと話題の経緯を忘れてしまう。もし、頻繁な報告が必要であればマネジャーが個別にヒヤリングすればよい。

なお、最近では、ミーティングを活用したソフト開発手法(アジャイル開発)の有効性が注目されています。例えば、「スクラム」という手法では、5~9人のチームが30日程度の期間を作業単位として計画を立て、毎日15分間の「日次スクラム」が全員参加で行なわれて、進捗と予定が報告され、調整が行なわれる、という手法で、作業単位期間ごとに成果物(動くソフト)を完成させ、それを改善していくという方法が取られます[文献1]。ミーティングを単なる報告や承認を得る場と考えるのではなく、メンバー間のコミュニケーションを活発にし、協力して組織としての能力を発揮するためのプラットフォームとしてミーティングを活用している事例とも考えられると思います。

マネジメントの議論においては、望ましい組織はどのようなものか、ということはよく取り上げられますが、では、そういう組織はどうやって作ることができるのか、という点に触れられることは少ないような気がします。もちろん、望ましい報告体制やミーティングの方法はその組織の環境や取り扱う業務によっても変わってくるでしょう。しかし、コミュニケーションを強化し、組織の考え方の方向性を揃えるための具体的方法として、報告のやり方やミーティングのやり方を工夫することは、実践家にとっては望ましい組織を実現するためのひとつの方法になりうるように思います。もちろん、マネジャーが組織を望ましい方向にもっていくための手法はミーティングに限られるものではありません。様々な工夫があり得るとは思いますが、多くの場合、ミーティングの持ち方は第一線のマネジャーに任されていることが多いのではないでしょうか。研究開発戦略には経営幹部の意向が強く作用するとしても、第一線から組織を作っていける方法を探る意味でも、このような具体的手法に関する検討は重要なのではないかと思います。


文献1:Ken Schwaber著(2004)、テクノロジックアート訳、長瀬嘉秀監修、「スクラム入門 アジャイルプロジェクトマネジメント」、日経BPソフトプレス、2004.→ブログ記事へ

研究マネジメント・トピックス目次(2018.5.20版)

このブログの「研究マネジメント・トピックス」というカテゴリで書いた研究マネジメントに関する話題についての記事の目次です。ここでは表題とリンクをリストにし、要約入りの目次は「その1」「その2」に分割して別ページにしています。要約入り目次はこちら:その1その2
本ブログ記事目次・参考文献リスト・索引の最新版はこちら


その
研究・イノベーション総論についてのトピックス
「イノベーションの神話」(Scott Berkun著)のまとめと感想2011.2.20)、参考リンク
Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2011年)
2011.11.27)、参考リンク
Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2013年)2013.11.17)、参考リンクは上に同じ
Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2015年)
2015.11.29)、参考リンクは上に同じ
Thinkers50 -経営思想家ベスト50(2017年)
2017.11.19)、参考リンクは上に同じ
「イノベーションとは何か」(池田信夫著)より
2012.7.22)、参考リンク
「知識創造経営のプリンシプル」(野中郁次郎、紺野登著)より2012.12.24)、参考リンク
「ビジョナリーカンパニー4」(コリンズ、ハンセン著)より
2013.1.20)、参考リンク
「世界の経営学者はいま何を考えているのか」(入山章栄著)より2013.10.20)、参考リンク
経営学者はイノベーションをどうとらえているか(入山章栄著「世界標準の経営理論(DHBR連載第14-17回」より)
2016.6.19)、参考リンク
「技術を武器にする経営」(伊丹敬之、宮永博史著)より
2015.1.18)、参考リンク
「教科書を超えた技術経営」(伊丹敬之編著)より
2016.9.11)、参考リンク
「先生、イノベーションって何ですか?」(伊丹敬之著)より
2016.4.3)、参考リンク
「資本家のジレンマ」(クリステンセン、ビーバー著)より
2015.2.15)、参考リンク
Thinkers50「イノベーション」より
2015.6.7)、参考リンク
イノベーションの様々な側面(芝浦工業大学MOT編「戦略的技術経営入門2 いまこそイノベーション」より)
2016.10.23)、参考リンク
「イノベーション・マネジメント」(野城智也著)より
2017.1.22)、参考リンク
ビッグバン・イノベーションとは(ダウンズ、ヌーネス著「ビッグバン・イノベーション」より)
2017.2.26)、参考リンク
「イノベーションはなぜ途絶えたか」(山口栄一著)より
2017.4.16)、参考リンク
「日本流イノベーション」(吉村慎吾著)より
2017.10.1)、参考リンク
シンガポールのイノベーション手法(「『イノベーション大国』次世代への布石」日経BP総合研究所編より)
2018.3.25)、参考リンク

研究・イノベーションの方針、着想、スタート段階についてのトピックス
破壊的イノベーションの現在(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー2013年6月号より)2013.8.4)、参考リンク
破壊的イノベーションとは何か?(「What Is Disruptive Innovation?」(Christensen他著HBR2015Dec.)より2016.1.31)、参考リンクは上にまとめました
顧客の片づけるべき用事を知る(「Know Your Customers’ “Job to BeDone”」、Christensen, Hall,Dillon, Duncan著HBR2016,Septemberより)
2016.8.28)、参考リンク
破壊的イノベーションに対抗するには(「The Other Disruption」(Gans著HBR2016,Mar.)より)
2016.4.17)、参考リンク
「日本のイノベーションのジレンマ」(玉田俊平太著)より
2016.1.11)、参考リンク
「『イノベーションのジレンマ』の処方箋」(ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー2016年9月号特集)より
2016.12.4)、参考リンク
リバース・イノベーション(DHBR2010年論文より)
2010.10.17)、参考リンク
「リバース・イノベーション」(ゴビンダラジャン、トリンブル著)より
2012.11.25)、参考リンクは上記と同じ
「[実践]リバース・イノベーション」(ウィンター、ゴビンダラジャン著、DHBR2015年12月号)に学ぶ2015.12.27)、参考リンクは上記と同じ
オープン・イノベーションは使えるか?2011.1.10)、参考リンク
「実践するオープンイノベーション」(トーマツベンチャーサポート著)より
2017.12.24)、参考リンク
エスノグラフィーとイノベーション
2010.12.19)、参考リンク
「東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた」
2010.11.28)、参考リンク
「ホワイトスペース戦略」-ビジネスモデルイノベーションの方法
2012.1.9)、参考リンク
イノベーションをビジネスへ(マリンズ、コミサー著「プランB」より)
2012.6.17)、参考リンク
複雑系経営(?)の効果
2012.5.6)、参考リンク
ビジネスモデル・ジェネレーション(オスターワルダー、ピニュール著)より
2013.3.17)、参考リンク
「バリュー・プロポジション・デザイン」(オスターワルダー、ピニュール他著)より
2015.7.26)、参考リンク
ビジネスモデルイノベーションの方法(ガスマン、フランケンバーガー、チック著「ビジネスモデルナビゲーター」より)
2018.5.6)、参考リンク
戦略策定の科学的アプローチ
2013.6.30)、参考リ
「P&G式『勝つために戦う』戦略」(ラフリー、マーティン著)より
2014.3.2)、参考リンク(すぐ上記事と同じ)
ジュガードイノベーション(ラジュ、プラブ、アフージャ著「イノベーションは新興国に学べ!」より)
2014.5.11)、参考リンク
リ・インベンションとは(「リ・インベンション」三品和広+三品ゼミ著より)
2014.7.13)、参考リンク
「行動観察×ビッグデータ」(ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー2014年8月号特集)より
2014.9.21)、参考リンク
「イノベーション戦略の論理」(原田勉著)より
2015.3.15)、参考リンク
「ザ・ファーストマイル」(アンソニー著)より
2015.4.12)、参考リンク
イノベーションのスタート段階とアイデア(ウルフェン著「スタート・イノベーション!」より)
2015.12.13)、参考リンク
有望なイノベーション課題の選び方(「What’s Your Best Innovation Bet?」、Schilling著HBR2017, July-Augustより)
2017.8.6)、参考リンク

その2
研究・イノベーションの進め方に関するトピックス
「流れを経営する」を読む2012.3.25)、参考リンク
「イノベーションの知恵」(野中郁次郎、勝見明著)感想
2011.3.21)、参考リンク
全員経営とイノベーション(野中郁次郎、勝見明著「全員経営」より)
2016.5.15)、参考リンク
アジャイル、スクラム、研究開発
2012.5.27)、参考リンク
アジャイルを採用する(「Embracing Agile」(Rigby, Sutherland, Takeuchi著HBR2016,May)より)
2016.6.5)、参考リンクは上の記事のリンクにまとめました
「技術経営の常識のウソ」感想
2011.4.17)、参考リンク
祝ノーベル賞:『発見の条件』by根岸英一教授
2010.10.11)、参考リンク
P&Gのすごさ-ニュー・グロース・ファクトリー
2011.11.20参考リンク
知的な失敗2012.2.26)、参考リンク
「エスケープ・ベロシティ」(ジェフリー・ムーア著)感想
2012.8.19)、参考リンク
「製品開発をめぐる6つの誤解」(トムク、ライナーセンの論文より)
2012.10.14)、参考リンク
「イノベーション5つの原則」(カールソン、ウィルモット著)より2012.11.4参考リンク
「イノベーションを実行する」(ゴビンダラジャン、トリンブル著)より2013.9.8)、参考リンク
「はじめる戦略」(ゴビンダラジャン、トリンブル著)に学ぶイノベーションの進め方
2014.12.21)、参考リンク
計画された日和見主義(「Planned Opportunism」、Govindarajan著HBR2016,Mayより)
2016.7.18)、考リンク
「ワイドレンズ」(アドナー著)にみる協働の方法
2014.1.19)、参考リンク
エコシステムイノベーションの進め方(「How to Get Ecosystem Buy-In」、Ihrig、MacMillan著HBR2017,Mar.-Apr.より)
2017.3.26)、参考リンク
技術革新のタイミング(「Right Tech, Wrong Time」、Adner、Kapoor著HBR2016,Novemberより)
2017.1.3)、参考リンク
「社会技術論」(堀井秀之著)より
2013.2.17)、参考リンク
「技術経営の実践的研究」(丹羽清編)より
2013.4.29)、参考リンク
「ビジネスモデルイノベーション」(野中郁次郎、徳岡晃一郎編著)より
2013.5.26)、参考リンク
スタートアップ企業と既存企業におけるイノベーションの方法(ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー2013年8月号特集「起業に学ぶ」より
)(2013.12.15)、参考リンク
「リーン・スタートアップ」(リース著)より
2014.4.6)、参考リンク
模倣の意義(シェンカー著「コピーキャット」より)
2014.6.8)、参考リンク
「DARPAの全貌(DHBR2014年7月号より)」に学ぶ革新的なイノベーションの進め方
2014.8.17)、参考リンク
小さなイノベーション(DHBR誌2015年6月号特集より)
2015.8.23)、参考リンク
イノベーションの方法(ファー、ダイアー著、「成功するイノベーションは何が違うのか?」より)
2015.9.23)、参考リンク
多組織によるイノベーションのマネジメント(「Managing MultipartyInnovation」、Furr、O’Keeffe、Dyer著HBR2016,Novemberより)
2016.11.20)、参考リンク
「イノベーションは日々の仕事のなかに」(ミラー、ウェデルスボルグ著)より
2015.10.18)、参考リンク
ビジネスモデル改善のポイント(ジロトラ、ネテッシン著「ビジネスモデル・イノベーションに天才はいらない」DHBR誌2015年7月号より)
2015.11.15)、参考リンク
「101デザインメソッド」(クーマー著)より
2016.2.21)、参考リンク
世の中を変えるビジネスモデルとは(「The Transformative Business Model」、Kavadias, Ladas, Loch著HBR2016, Octoberより)
2016.10.2)、参考リンク
イノベーションがもたらす害:複雑性の増大(「The Problem with ProductProliferation」、Mocker、Ross著HBR2017, May-Juneより)
2017.5.14)、参考リンク
研究開発プロセスの改善(岡部仁志、新井本昌宏、渡辺智宏著「製造業R&Dマネジメントの鉄則」より)
2017.6.4)、参考リンク
「イノベーションパス」(横田幸信著)より
2017.7.17)、参考リンク
実験の意義(「The Surprising Power of Online Experiments」、Kohavi, Thomke著HBR2017, September-Octoberより)
2017.9.10)、参考リンク
最初の成功の次に考えるべきこと(「Finding Your Company’s Second Act」、Downes, Nunes著HBR2018, January-Februaryより)
2018.1.14)、参考リンク
「Shift イノベーションの作法」(濱口秀司著DHBR誌連載)より
2018.2.12)、参考リンク
よりよいブレーンストーミング(「Better Brainstorming」、Gregersen著HBR2018, March-Aprilより)
2018.4.15)、参考リンク

研究・イノベーションの環境(仕組み、組織、人)に関わるトピックス
働きがいのある会社とは(Fortune誌「最も働きがいのある米国企業2011」No.1、SASの考え方)2011.1.30)、参考リンク
イノベーションに必要な人材-「イノベーションの達人! 発想する会社をつくる10の人材」
2010.11.7)、参考リンク
ナットアイランド症候群:自律的な組織を失敗に導く組織病
2010.9.26)、参考リンク
コア・リジディティ
2010.9.5)、参考リンク
リーダーがつまずく原因
2010.7.19)、参考リンク
イノベーターのDNA
2011.5.15)、参考リンク
イノベーションのDNA
2012.4.15)、参考リンクは上記と同じ
技術者が問題社員になるとき2011.7.24)、参考リンク
モチベーション再考
2011.8.28)、参考リンク
ポジティブ心理学の可能性
2011.9.25)、参考リンク
事業創造人材とは
2011.10.16)、参考リンク
フロネシス(賢慮)と研究開発
2012.1.29)、参考リンク
橋渡し役の重要性
2012.9.17参考リンク
イノベーションに関わる人々(「イノベーターはどこにいる?」豊田義博著より)2014.11.3)、参考リンク
「シリアル・イノベーター」(グリフィン、プライス、ボジャック著)を活かす
2014.1130)、参考リンク
創造力に対する自信(トム&デイヴィッド・ケリー著「クリエイティブマインドセット」より)
2015.5.10)、参考リンク
「世界で最もイノベーティブな組織の作り方」(山口周著)より
2015.6.28)、参考リンク
批判の力(「The Innovative Power of Criticism」(Verganti著HBR2016,Jan.-Feb.)より)
2016.3.6)、参考リンク
デザイン思考の真価を考える(DHBR誌2016年4月号特集「デザイン思考の進化」より)
2016.8.7)、参考リンク
高い目標のパラドックス(「The Stretch Goal Paradox」、Sitkin、Miller、See著HBR2017, Jan.-Feb.より)
2017.2.12)、参考リンク
研究営業の意義(夏目哲、所眞理雄著「研究を売れ!」より)
2017.8.27)、参考リンク
経営者とイノベーション(「The Board’s New Innovation Imperative」、Hill, Davis著HBR2017, November-Decemberより)
2017.12.3)、参考リンク

「意思決定の心理学」(阿部修士著)より

人間の意思決定の危うさについては本ブログでもたびたび取り上げてきました(例えば、カーネマン著「ファスト&スロー」など)。マネジメントの世界でも、心理学と関係の深い行動経済学への認識高まりとともに意思決定の危うさについて興味を持つ方も増えていると思いますが、一方、近年の脳科学の急激な進歩は、心理学、行動経済学にも大きな影響を与えつつあるようです。

そこで今回は、最新の脳科学の知見も入れて意思決定の問題を議論している、阿部修士著「意思決定の心理学」[文献1]の内容をご紹介したいと思います。話題の中には、まさに世界で研究が進められている最中で様々な議論があるものも含まれていますが、最先端の研究はそもそもそういう性格のものでしょう。すでに合意が得られているような点はなにか、研究中であってもどんな方向に理解が進みそうか、将来どんなことが期待できそうかなどのヒントが本書から得られれば、それは我々の役にも立つのではないでしょうか。以下、本書の構成に沿って興味深く感じた点をまとめたいと思います。

第1章、二重過程理論――「速いこころ」と「遅いこころ」による意思決定
・「意思決定に関わるこころと脳のはたらきについては、個別に挙げればたくさんの種類があるのですが、本書では特に、情動的反応や直感的思考、欲求などの、自動的な『速いこころ』のはたらきと、合理的判断や論理的思考、自制心といった、主に意思の力による『遅いこころ』のはたらきに焦点をあてていきます。[p.14]」「意思決定において、二種類のこころのはたらきを想定する理論を総称して、『二重過程理論』と呼びます。[p.15]」
・「二重過程理論や類似の理論は様々な研究者によって提唱されており、その言葉の使い方にも若干の違いがあります。・・・学術的によく使われる表現の一つが『システム1』『システム2』という分類の仕方です。素早く、無意識的で自動的な情報処理のプロセスがシステム1に対応し、遅く、意識的で統制された情報処理のプロセスがシステム2に対応します。[p.16]」「システム1とシステム2のそれぞれについて、例えば『自動的プロセス』と『統制的プロセス』、『ヒューリスティックプロセス』と『アナリティックプロセス』、『反射的プロセス』と『内省的プロセス』、『タイプ1プロセス』と『タイプ2プロセス』といった呼称が提唱されています。[p.17]」
・「システム1の存在によって、わたしたちは外界の刺激を素早く評価し、緊急時に迅速な行動を起こすことが可能になります。また、直感的な意思決定を導くことで、膨大な情報量に飲み込まれることなく、適応的な行動を選択することが可能となります。[p.29]」「一方、危機が迫っていない状況では、システム2が熟慮に基づく意思決定を導くことで、より合理的な行動を選択することができます。[p.30]」

第2章、マシュマロテスト――半世紀にわたる研究で何がわかったのか?
・「本章で紹介するのは『マシュマロテスト』と呼ばれるものです。・・・大好きなお菓子を、今すぐに1個もらうか、それとも20分待って2個もらうか、子どもたちがどちらを選択するかを調べます。・・・マシュマロテストは、米国スタンフォード大学の心理学者であるウォルター・ミシェルが、今から半世紀ほど前に始めました。[p.40]」
・「マシュマロテストで欲求の充足を先延ばしすることができた子供たち、つまり長い時間待つことができた子供たちは、周囲の他の子供たちに比べ、より強い自制心を持っているという評価を受けました。さらに、将来のことをよく考えて計画を立てたり、理性的な判断をくだす能力にも優れていました。[p.44]」「長く待てた子供ほど、SATの点数も高いという結果が得られたのです。・・・20歳代から30歳代での自己申告に基づいたデータによると・・・長い時間待つことができた子供たちは、待つことができなかった子供たちに比べ、高い教育歴を有しており、肥満の割合も大幅に低いことが判明しました。[p.44]」
・「前頭前野は、将来の行動の計画や、行動の切り替えなど、きわめて複雑な人間の心理過程を支えています。[p.48]」「皮質下領域は主に本書で取り上げている速いこころのはたらきを担っており、食欲、性欲、睡眠欲といった本能に根ざした欲求や、行動への意欲、つまりやる気などにも関わっています。また、いわゆるやる気スイッチとも呼べる領域として、側坐核があります。・・・側坐核は腹側線条体の一部です。[p.52]」「マシュマロテストで長い時間を待てた子供は、上手に行動を制御することができ、大人になってからも前頭前野が機能的に活動している・・・。一方、マシュマロテストで待つことができなかった子供は、目の前のマシュマロを獲得しようという行動が促進されやすい傾向にあり、それは大人になっても腹側線条体の活動の高さに反映されているのです。このように私たちの自制心と欲求の対立は、脳の中では前頭前野と皮質下領域との対立に対応しているようです。[p.53]」
・「欲求の充足の先延ばしを可能にする重要な方法として、ミシェルは気をそらすこと、そして抽象化をあげています。[p.56]」「誘惑に直面した場合に、それを回避するための戦略をあらかじめ準備しておくことで、効果的に自制心を発揮できるようになる[p.59-60]」。「ポイントは、誘惑とそれに対する抵抗手段との間に、自動的な結びつきを作ることです。[p.60]」
・「カーネマンの考えでは、システム1、すなわち速いこころのはたらきを、システム2、すなわち遅いこころのはたらきで制御するのは困難であるとされていました。一方、・・・ミシェルは生涯を通じて、自制のスキルを磨くことは十分可能であると主張しています。[p.64]」

第3章、「お金」と意思決定の罠――損得勘定と嘘
・「報酬期待の際に側坐核の活動がきわめて重要な役割を果たしている・・・。[p.70]」「報酬価値の計算は二重過程理論で言うところのシステム1、つまり速いこころのはたらきに依存しています。[p.71-72]」
・「短期的な報酬を求める場合には、速いこころのはたらきを担っていると考えられる報酬の処理に関連する脳領域(報酬系とよばれます)が、より長期的な報酬を求める場合には、遅いこころのはたらきを担っていると考えられる外側前頭前野が重要な役割を果たしているようです。[p.75]」
・「わたしたちは同額の利益と損失とでは、損失の方を過大評価する傾向があり、損失を回避しようという動機が強く働くのです。特に金額が大きくなると、この損失回避傾向は強まります。[p.94]」「2007年に報告された・・・研究からは、損失回避性の個人差は、腹側線条体の活動の個人差で説明できることが明らかにされています。[p.96]」

第4章、「人間関係」にまつわる意思決定――恋愛と復讐のメカニズム
・「恋愛の神経基盤として報酬系を挙げることは、学術的にもコンセンサスが得られていると考えて良いでしょう。恋愛、より正確に言うならば、恋愛対象となる相手は、『獲得』することが望ましい対象であり、その獲得を目指して行動選択に影響を与えます。これはまさに、報酬と同じです。生物の本能的欲求に関わる一次的報酬、あるいは金銭といった二次的報酬は共に、獲得すると快の情動をもたらし、その獲得のための行動を強化します。したがって、恋愛が報酬系の機能によって支えられていることは、生物学的な視点からは頷ける視点とも言えます。[p.105]」
・「脳の報酬系が関与するがために、なかなかその行為から抜け出せなくなる、と解釈できる例が他にもあります。それが『復讐』です。[p.112]」「他人の不幸は蜜の味の背景には、脳の報酬系が関わっているというわけです。・・・他人の不幸を喜んでしまうという、わたしたち人間の不謹慎さは、じっくりと考えて結論を導くような、遅いこころのはたらきによるものではないのです。自動的に、素早く、他人の不幸に喜びを見出してしまうように、速いこころが処理をしてしまうわけです。[p.123]」

第5章、道徳的判断の形成――理性と情動の共同作業
・「研究を振り返ってみると、理性と情動、そしてそれらのはたらきを支える脳の仕組みが、道徳的判断において重要な役割を果たしていることは間違いないといえるでしょう。理性が勝つか、情動が勝つか、それによってわたしたちの道徳的判断が最終的に決まっているようです。[p.148]」「ただし、このような理性と情動という分け方はシンプルでわかりやすい一方、実際に起こっている意思決定の仕組みを単純化し過ぎている危険性もあります。また、理性と情動という二つのこころのはたらきを、完全に別のシステムとして捉えて良いかという問題もあります。[p.149]」

第6章、意思決定と人間の本性――性善か性悪かを科学的に読む
・「人間にはどのような意思決定を導くシステムが備わっているのかを科学的に明らかにすることで、どういった振る舞いが人間にとって自然なのか、あるいは不自然なのかを、エビデンスをもとに議論することができる[p.132]」。
・「他者への協力は基本的には、遅いこころというよりは速いこころが、その主たる役割を担っているようです。ランドらは人間が自発的に協力的になれる理由として、わたしたちの日常生活の多くが繰り返しであり、他者へ協力することの方が結果としては戦略上有利であることを指摘しています。[p.160]」「近年の研究では、利他的行動自体が報酬的価値を持つことを示すデータが得られています。[p.163]」
・「嘘をつく行為が背外側前頭前野による高次な処理を必要とするプロセスであることに間違いはなさそうです。しかし、正直な振る舞いについては、『自然な正直さ』(正直者グループの正直さ)と『意図的な正直さ』(嘘つきグループの正直さ)が存在するようです。自然な正直さは背外側前頭前野の機能を必要としない一方、意図的な正直さは嘘をつく行為同様、背外側前頭前野の機能を必要とする、という図式が浮かび上がってきます。[p.168]」「報酬への反応性が低い個人は自然に正直に振る舞えるのに対し、報酬への反応性が高い個人は正直に振る舞う際に意思の力を必要としており、この違いは連続的なものとしてとらえることができる・・・。・・・二種類のこころのはたらきを照らし合わせてみると、速いこころの個人差によって、遅いこころがどのように働くかが影響を受け、その最終的な結果として意思決定が行われる、とも言えるでしょう。[p.171]」

第7章、「遅いこころ」は「速いこころ」をコントロールできるのか?
・「現代社会は著しく科学技術が発達したことにより、生活スタイルには大きな変化が生じ、従来は必要とされなかった様々な意思決定を迫られる場面が増えています。[p.174-175]」「当然ながら、狩猟・採集生活をしていた頃と比べれば、意思決定の質も量も、大きく異なっていると言えるでしょう。現代ほど情報量が多くなく、また意思決定の多くが生存に関わるものであれば、理性を必要としない、情動的・直感的な意思決定の方が効率が良かったのかもしれません。[p.175]」
・「いつも理性的に物事を考えるばかりでは、タイムリーな意思決定はできないでしょうし、心理的にも大きな負担になると考えられます。とはいえ、・・・ここぞという時には理性の力を効率的に駆使する必要があります。[p.179]」
・「理性と情動のバランスがどうにも取れない意思決定の局面はたしかに存在します。そこで無理に理性を働かせようとしても、決してうまくいくことはありません。むしろ、事前にそういった弱点があることを知っておくことで、意思決定を意図的に遅らせたり、あるいは他者からの意見を参考にしたり、といったより適切な意思決定にたどり着ける可能性が高まることでしょう。[p.183]」「速いこころと遅いこころは、どのような役割を持っているのか。両者はどのような長所と短所を持っているのか。どのような脳のシステムによって担われているのか。どういう状況であれば、速いこころに任せておけば良いのか。いつどこで、遅いこころのはたらきが必要になるのか。・・・まずは、遅いこころで速いこころをコントロールするのは、それほど簡単ではないこと・・・ただし、遅いこころが働きやすい環境を作ってあげることで、その状況は劇的に改善することも、理解することが重要です。さらに、そもそも遅いこころがまったく働けない場面があること・・・いついかなる時でも、速いこころと遅いこころの両者が機能するわけでないことを、よく知る必要があります。[p.183-184]」
・「こころのはたらきのメカニズムを知っておくことは、こころのバランスを保つ上ではきわめて有益と考えられています。わたしたちの意思決定には、主に速いこころの仕業によって様々なバイアスがかかっているわけですが、それをあらかじめ把握しておくことで、不要なトラブルを避けることが可能です。自分の意思決定をうまくコントロールできるようになれば、それは良い意味での自信にもつながっていくものです。こうしたことは、何も意思決定のメカニズムに限りません。たとえばわたしたちの記憶能力は、ビデオカメラのように正確なものではなく、後から再構成されるものだということが、多くの記憶研究から明らかになっています。この事実を正しく受け止めることで、自分自身の思い違いに気をつけたり、他人の思い違いに寛容になることができるでしょう。[p.184-185]」
・「『遅いこころ』は『速いこころ』をコントロールできるのか?・・・現時点で筆者は、『俯瞰的に二つのこころのはたらきをとらえ、遅いこころをサポートすることで、多くの場面ではコントロールが可能』としたいと思います。そしてこのこころのはたらきをより正確に理解し、より正しく使用するために、脳の取扱説明書が必要、ということももう一度述べておきたいと思います。[p.185]」
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人の考え方や行動を理解する上で、二重過程理論は非常に強力な手がかりになるという気がしていまますが、どうやら脳科学的な研究結果もそれを支持しているように思われます。もちろん、まだ体系的に意思決定を理解するには至っていないですが、科学的にもある程度整理されてきたとなれば、この知見を実践に使わない手はないような気もします。まずは自分の意思決定や考え方の傾向にシステム1とシステム2がどう関わっているのかを知り、それらの影響で悪い意思決定がなされていないかどうかを考えてみるのがよいかもしれません。さらに理解が進めば他者の理解や、組織の考え方、文化といったものに対する理解も深まる可能性があるような気がします。マネジメントが人を扱うものである以上、人の本質を理解することは避けて通れないように思います。そこに脳科学が役立つようになる時代がくるのではないかと思いますがいかがでしょうか。


文献1:阿部修士、「意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策」、講談社、2017.

ビジネスモデルイノベーションの方法(ガスマン、フランケンバーガー、チック著「ビジネスモデルナビゲーター」より)

イノベーション実現のためには「ビジネスモデル」が重要、という考え方は、本ブログでもたびたびご紹介してきました(例えばノート全面改訂第3回第14回など)。しかし、よいビジネスモデルを創造するためにはどうしたよいのか、という点についてはそれほど多くの議論はなされていないように思います。

そこで、今回は、ガスマン、フランケンバーガー、チック著「ビジネスモデルナビゲーター」[文献1]の方法をご紹介したいと思います。著者らは、「本書の目的は、ビジネスモデルイノベーションをシステマチックに進める『ビジネスモデル・ナビゲーター』の手法を紹介することである。我々の調査結果では、世界のすべてのビジネスモデルイノベーションは55パターンのビジネスモデルに基づいて構成されており、・・・ビジネスモデル・ナビゲーター最大の特徴は、他社の成功実績に基づく55種類のビジネスモデルを組み合わせ、新事業モデルを創造する機能である。[p.14]」と述べており、すでに存在するビジネスモデルに学ぶことからスタートすることを提案しているところが本書の特徴と言えるでしょう。これはかなり網羅的なビジネスモデルの調査結果があればこそのアプローチと言えるでしょうが、本書では単に55種類のビジネスモデルを紹介しているだけではなく、イノベーションの進める上での注意点についても詳細に触れられています。イノベーションの進め方についての指摘はビジネスモデルに限らずイノベーション全般の参考になると感じましたので、各論は本書をご参照いただくとして、本稿では進め方の部分を重点的にご紹介したいと思います。

PART1
、ビジネスモデル革新の手引き
1、ビジネスモデルとはなにか?

・「過去においては、技術的に卓越したソリューションや競合を圧倒する製品を市場投入できれば、間違いなく成功できた。[p.16]」「しかし今日、ほとんどの業界では製品やプロセスのイノベーションに注力するだけではもはや不十分である。なぜなら、競争が激化し、グローバル化が進み、アジアの強豪企業が急増し、製品のコモディティ化が進む、といった外的要因の数々が、卓越した技術を有する企業の価値を蝕んでしまったからだ。[p.17]」「もちろん、製品の品質やプロセスの重要性が低下したわけではないが、これからの時代において事業の成否を握る鍵ではなくなったと言える。[p.18]」
・「本書では、ビジネスモデルを表現するための単純明快で包括的な定義をご紹介する。・・・我々の考案した『マジック・トライアングル』では、ビジネスモデル全体が4つの軸で構成される。
1、顧客軸(Who/だれに?)――自社の対象顧客はだれか?
2、提供価値軸(What/なにを?)――自社が顧客にもたらす価値はなにか?
3、提供手段軸(How/どのように?)――自社の製品やサービスをどのように提供するか?
4、収益モデル軸(Why/なぜ?)――なぜ自社が儲かるのか?[p.19-20]」
「ビジネスモデルのイノベーションでは、これら4軸のうち2軸以上を刷新する。[p.21]」
・「企業がビジネスモデルイノベーションに取り組む際に直面する大きな障壁として我々が認識しているのは以下の3点である。[p.25]」
障壁1、業界の常識を打ち破ることの難しさ:「人間が社会的存在である以上、我々はルールに則って行動する傾向があり、またそのように育てられてきた。[p.25]」「既存習慣や文化を正とする考え方は、社会学上は正統性と呼ばれ、企業各社の基本信条としてDNAに刻みこまれている。正統性は歴史的に組織で共有されてきた信念であり、簡単に変えられるものではない。[p.26]」「既存のビジネスモデルが収益をあげ続けている状況において、現状の心地よい状況からなぜあえて飛び出さなければならないのか理解できない、という企業リーダーは多い。しかし、利益が最高の状態から減り始めたら、すでに新たなビジネスモデルを導入する機が熟した徴候と考えるべきだ。新たなビジネスモデルを開始するタイミングが遅れて会社が危機的状況に陥ってしまったら、取締役会にはリストラをしてコスト削減をする以外の選択肢がなくなってしまう。[p.25]」
障壁2、技術や製品でなくビジネスモデルという視点で考えることの難しさ:「目で見て理解できる物理的な技術や製品に思考を縛られがちで、より抽象的な世界であるビジネスモデルという視点で考えるのはそれほど容易な話ではない。[p.25]」「新技術はビジネスモデルの変革要因となり得るが、新技術は単なる機能であり一般公開されているものも多い。・・・こういった技術を自社のビジネスにうまく適用し、その結果としてビジネスをどう変革できるか? という点が頭の使いどころなのである。真の意味での革新とは、新技術に適したビジネスモデルを見つけることである。[p.28-29]」
障壁3、システマチックなツールの欠如:「いまだにビジネスモデルイノベーションはつかみどころのない業務であり、マネージャーの多くは恐れをなして近寄ろうとしない。マネージャーの間では、ビジネスモデルイノベーションに関する以下のような伝説がまことしやかに語り継がれている。[p.32]」
初登頂伝説(「商業的な成功はこれまでだれも思いつかなかったアイデアによってこそもたらされる」)、『大きく考えよ』伝説(「大転換を連想しがちだ・・・実際には、段階的であってもよい。」、技術革新伝説(「他社との差別化は、新技術の独自の活用法によって達成されるのである。技術のための技術開発がイノベーションのプロジェクトにおける一番の失敗要因である。」、幸運伝説(成否が運不運に左右されると思いがちだが、実際には「粘り強さと実行力が要求される」、アインシュタイン伝説(「革新的なアイデアをひらめくのは、天才的な想像力の持ち主だけである」「今やイノベーションは個人の成果でなく、チーム競技に変わったのだ。」)、大規模伝説(「大きなリソースが必要とされる」「適切なアイデアと健全な勇気の方が、リソースよりも重要である。」)、研究開発伝説(「イノベーションは研究開発部門から生まれる」「イノベーションを生む変化のきっかけは組織内のどこからでも発生する」[p.32-36
・「単に日々のビジネスを管理しているだけでは、マネージャーの高い給料に見合わない。ビジネスレベルでイノベーションを発想し、その原動力となることが単なる管理者と創造的なリーダーとの違いなのだ。[p.36]」

2、ビジネスモデル・ナビゲーター
・「ビジネスモデル・ナビゲーターの根本思想は、成功モデルの創造的模倣を行い、かつモデル組み換えを行うことで、成功するビジネスモデルを生み出すということである。[p.38]」
・「我々のチームが経験した過去のプロジェクトにおいて、55種類のビジネスモデルから新たなビジネスアイデアを作りだすために、以下の3つの基本戦略を利用している。
1、転用:既存のビジネスモデルを新しい業界に適用する。
2、組み合わせ:2種のビジネスモデルを転用し、組み合わせる。
3、再利用:自社で実績のあるビジネスモデルを他の製品に再利用する。」[p.42-43
「ビジネスモデルの単純な複製では奇跡は起きない。猿真似ではなく、学習効果を活かした創造的な模倣だけが自社業界に真の革命を起こすことができる。[p.43]」
・ビジネスモデル・ナビゲーターは以下の4ステップで構成される。
1、現状分析:「まずは現状認識を共有し、目指すべき方向性を定める。ビジネスモデルは外界から孤立した建造物でなく、常に変化し続けるエコシステムと自社ビジネスモデルが相互に依存しあう複雑なネットワークである。したがって、ビジネスモデルイノベーションを成功させるには、自社既存のビジネスと、ビジネスモデルを深く理解するたけでなく、自社ビジネスに関係する各プレイヤーの果たす役割や、自社ビジネスに影響を及ぼすさまざまな外的要因についても深く理解する必要がある。[p.45]」「自社のビジネスモデルを記述する際には、ビジネスモデルWho-What-How-Why(だれに・なにを・どのように・なぜ)の4軸を基準とすることを推奨する。[p.46-47]」「顧客のニーズこそが、ビジネスモデルイノベーションのアイデアを考えるうえでもっとも重要な情報源である。[p.49]」「パートナーは顧客と同じように新たなアイデアを発想するきっかけを与えてくれる可能性があり、また実際に新たなコンセプトを実現するうえでも役に立つことが多い。[p.51-52]」「エコシステム分析において検討すべき主張な影響因子としては、(1)新技術、(2)メガトレンドの2つがある。[p.53]」「新技術に関してもっとも重要なポイントは、常に将来を念頭に置き、備えを怠らないことだ。・・・ビジネスモデルイノベーションを起こす可能性がある技術変化に常に注意を払っておくことが必要であり、それを怠れば既存のビジネスモデルが大きく浸食されるリスクがある。[p.54]」
2、パターン適用:「基本的な考え方は55種類のビジネスモデルのパターンを既存のビジネスモデルに当てはめることで、新たなビジネスモデルのアイデアを生み出すというものだ。[p.66]」「55種類のパターンを適用する方法には、類似の原則と対極の原則がある。[p.67]」「類似の原則で考えるべき最重要事項」は「このパターンを自社に適用することで、既存のビジネスモデルがどのように変わるのか?[p.68]」だ。「対極の原則は、まったく関連のない業界のビジネスモデルと自社の既存ビジネスモデルを突き合わせ、現状のビジネスモデルに想定されるインパクトを検討する極端な手法である。[p.69]」「対極の原則は、自社の課題がわからない場合、あるいは課題が十分に明確でない場合に特に有効である。・・・潜在的なビジネスモデルイノベーションの可能性を積極的に探索したい場合にも、・・・優れた手法である。[p.70]」「ビジネスモデルのアイデアを評価し選定する際に、ベンチャーキャピタルがよく利用するNABC手法(訳注:Need[ニーズ]、Approach[取り組み方法]、Benfits[メリット]、Competition[競合]の観点でビジネスモデルの有効性を評価する手法)は非常に有用である。[p.79]」NABCのたたき台ができたら、発表を行い、フィードバックを受け、アイデアを再設計する、というプロセスを繰り返す。
3、事業設計:「イノベーションを実際に実行可能にするには新たなアイデアを、自社の内部要求と外部環境の両方に整合する形でビジネスモデル(Who-What-How-Why)に落とし込まなければならない。[p.81]」
4、事業立ち上げ:「ビジネスモデルイノベーションの展開を進める際には段階的に進めることを推奨する。一気に事業立ち上げを完了しようとせず、まずプロトタイプを開発して小規模なテスト導入をした方が賢明だ。プロトタイプから始めることでリスクを最小化し、またその機会を利用してプロセスについての学びを深め、戦略を適切に修正できる。[p.87]」「設計→プロトタイプ→検証のサイクルを成功させるための10の鉄則を以下に示す。1、心を閉ざさない:自分たちがやっていないことだからといって、それがダメだとは限らない。2、勇気・・・、3、繰り返し・・・、4、多様性:チーム組成では、拡散思考と収束思考の人をバランスよく組み合わせる。5、変革・・・、6、要点の整理:・・・学んだことを忘れずに記録する。7、失敗・・・、8:挑戦・・・、9、コーチ・・・、10、方向:まったく違う方向に話を進める『ダークホース』的アイデアも受け入れる。[p.90-91]」「事業立ち上げのプロセスでは、投資回収の計算に無駄な労力をかけるより、定性的な面から事業モデルの評価を行うべきである。[p.92]」

3、変革の管理
・「ビジネスモデルイノベーションにおける最大の障壁は社内の抵抗である。・・・従業員たちが変革に全力で抵抗してくるのはなぜなのか? 簡単に言えば変革に不信感を持っているからだ。・・・変革を嫌うのが人間の本質であり、この状況はずっと変わらない。・・・現状を失うのは、だれにとっても怖いことなのだ。[p.93]」
①変革の推進:「経営トップのコミットメントを示す[p.94]」「結局のところ、ビジネスモデルイノベーションの立ち上げは、トップダウンでなければ絶対に成功しない。大企業の現場レベルや中間管理職、中小企業の従業員が対して役に立たないと言いたい訳ではない。しかし、いざというときに経営トップの後押しの有無がプロジェクトの成否を決めることを肝に銘じておくべきだ。[p.96]」「変革の推進に従業員を巻き込む[p.96]」「変革推進のスターと変革推進リーダーを育てる[p.98]」「多くのイノベーションプロジェクトでは、15パーセントの反対派、5パーセントの支援派、そして80パーセントの無関心層が存在する。[p.98]」「認知バイアスを防ぐ・・・アイデアの選択時に合理的でない判断をしてしまう特定の心理学的パターンがあり、主だったものは以下の7つである。1、現状維持バイアス・・・。2、松竹梅の法則・・・真ん中のオプションを選ぶ。・・・3、アンカリング効果・・・。4、埋没費用・・・。5、刷り込み効果・・・何度も聞けば聞くほどそれは真実だと信じてしまう。・・・6、損失回避バイアス・・・。7、バンドワゴン効果・・・人は群衆に従いやすく、反対の声がなく、上司が懸命に説得することがなければ、多くの社員は考えなしに流行に乗ってしまう。[p.99-100]」「よい意思決定をするための鉄則・・・意思決定をする際には不確定要素の中にある事実を確実に押さえる。・・・意思決定に関与する人数は最小限にする・・・『なぜ?』と問い続けて、根本原因を分析する・・・直感を進んで取り入れる・・・認知バイアスを防ぐ・・・意思決定者間でコンセンサス・・・勇気を持って進む・・・主導権争いや利害の不一致について率直に話し合う・・・失敗から学ぶ・・・。[p.101]」
②アクションプランの定義:「アクションプランとしては、行動指針となる長期的なビジョンと、着実な前進を確認する短期マイルストン達成の2つを目標として掲げることが必要だ。[p.103]」「ビジョンとは実施期限つきの夢である。[p.103]」「失敗原因の多くはコミュニケーション不足でなく、コミュニケーション過多である。今日の従業員は電子メール、社内通達、週時ミーティングをはじめとする情報の洪水に流されており、どの情報が重要でどの情報がそうでないかを判断することは容易ではない。[p.103]」「自社が進む方向性について確固たる長期ビジョンを持つことに加え、短期目標を早期に達成することが重要だ。まず簡単に手に入る成果を収めよう。[p.104]」
③構造と目標の定義:「3つ目の重要な視点が、全体構造、プロセス、目標の正式な決定である。[p.105]」「具体的には、既存事業の一部としての実行、新たな事業組織としての実行、あるいは独立した新会社の設立などである。[p.105]」「新ビジネスをスピンアウトするかどうかにかかわらず、初期の段階においてイノベーションを既存事業から『守ってやる』ことが非常に重要である。[p.106]」「ビジョンと長期的なアクションプランに加え、インプットとアウトプットに関する具体的な目標設定も非常に重要である。目標設定の標準的な定義方法として、我々は以下のSMARTアプローチを推奨している。具体的(Specific)・・・測定可能(Measurable)・・・受け入れ可能(Acceptable)・・・現実的(Realistic)・・・実現期間(Time-Bound)[p.107]」
④実行能力の構築:「過去においてイノベーションの任務はエンジニアによる研究開発に限定され、『クリエイティブな』天才社員のみにイノベーションが委ねられていた。我々の理解では今日のイノベーションは、そしてビジネスモデルイノベーションの場合には特に、全社横断の相互作用的なプロセスであり、可能な限り多くの視点からの検討が求められる。[p.110]」「チームメンバー選定チェックリスト:1・・・すべての機能分野のメンバーが含まれているか?、2、顧客や潜在顧客、あるいは最低でもその代理となる人が含まれているか?、3、業界の常識や自社の常識にとらわれずに考えることができるメンバーが十分な人数含まれているか?、4、自社の業界出身でないチームメンバーを含んでいるか?、5、・・・社内のしがらみに打ち勝つために必要となるモチベーションを備えたメンバーか?、6、・・・実務に強いメンバーが十分な人数含まれているか?、7、・・・社内人脈は十分か?その一方で社内の人間関係に縛られずに自立した行動ができるか?、8、・・・プロジェクト推進役となるムードメーカーはいるか?、9、・・・十分なノウハウが社内にあるか?・・・社外の進行役が必要か?、10、経営トップの中にプロジェクト費用の面倒を見てくれる人がいるか?[p.111]」「特に技術志向の企業が甘く考え、あるいは完全に忘れがちであるのが、変革の推進における企業文化の影響力である。[p.114]」「ハーバード大学のマイケル・スターン教授は、強力なイノベーション文化を持つ企業に見られる具体的な特徴について研究を行った。●従業員の自発性:権限委譲が重視されている。●非正規プロジェクトへの作業許可・・・。●セレンディピティ:偶然の幸運というチャンスをものにする能力。・・・●従業員の多様性・・・。●徹底したコミュニケーション:ほぼすべてのイノベーションはコミュニケーションの結果として生まれている。[p.116]」「上記すべての特徴は経営陣が意図的に方向づけたり影響を及ぼしたりできる類のものである。企業の文化を特定の方向に形作ることは、新たなツールの導入よりもずっと難しいことだが、不可能ではない。自分の手でコントロールできる重要な操作レバーは、従業員、目標設定、失敗の扱い方、そして全体の手本としての自分自身のふるまいである。ビジネスモデルイノベーションの成功には開放的な文化と失敗を学習の源として前向きにとらえる能力が求められる。・・・危ないことには手を出さない主義の人が新たなビジネスモデルのアイデアを却下するとき、10回中9回は正しいのである。ただし、そのような人が会社をコントロールしてしまったら、その会社でイノベーションが生まれる可能性はゼロとなり、いつかは競合企業に負けることになる。[p.117]」

PART2
、ビジネスモデル全55の勝ちパターンp.119-397
本書の主要部分はPART2での各ビジネスモデルの紹介がですが、本稿ではそれぞれのキーワードのみ以下にご紹介させていただきたいと思います。
1、アドオン(追加オプションへの課金)、2、アフィリエイト(自社の代理店として機能するアフィリエイターの販売活動の支援に注力する)、3、合気道(相手の攻撃力を別の方向へ向ける・・・業界標準とは反対方向の製品やサービス)、4、オークション、5、バーター(製品やサービスの交換)、6、キャッシュマシン(支払いより前に販売代金を回収)、7、クロスセル(補完的なものまで販売する)、8、クラウドファンディング(大衆からの資金調達)、9、クラウドソーシング(大衆へのアウトソース)、10、カスタマーロイヤルティ(特典やディスカウントの提供を通じて顧客のロイヤルティを育む)、11、デジタル化(デジタル製品化)、12、直販モデル、13、Eコマース(実店舗の省略)、14、体験の販売(雰囲気を売る)、15、フラット料金(定額で利用無制限)、16、部分所有(共同で所有)、17、フランチャイズ、18、フリーミアム(無償版と有償追加機能の組み合わせ)、19、プル戦略への移行(オンデマンドでの生産、在庫補充など)、20、稼働保証(代替機や修理、メンテナンス対応を含む)、21、隠れた収益源(無償提供するサービスのスポンサーから収益を得る)、22、素材ブランディング(素材製品が最終製品の特徴的な機能をもたらしていることを宣伝する)、23、インテグレーター(垂直統合)、24、専門特化プレイヤー(プロのノウハウを提供)、25、顧客データ活用、26、ライセンシング、27、ロックイン(切り替え障壁の構築)、28、ロングテール(多種多様な製品を少しずつ販売)、29、保有能力の活用(ノウハウやリソースを外部企業にも提供)、30、マス・カスタマイゼーション(パターンメイド)、31、格安製品(価値提供を絞り安価化する)、32、オープンビジネス(共同開発)、33、オープンソース(公共コミュニティでの開発)、34、オーケストレーター(自社の得意分野以外はアウトソースし全体をコントロール)、35、従量課金、36、賽銭方式(製品やサービスへの支払額を顧客が決める)、37、個人間取引(取引仲介からの収益)、38、成果報酬型契約(製品やサービスが実際に生み出した価値に基づく支払い)、39、サプライ品モデル(本体は安く、サプライ品は高く)、40、レンタルモデル(買う代わりに借りる)、41、レベニューシェア(協業して売り上げを分け合う)、42、リバースエンジニアリング(競合製品の分析により類似製品、互換製品を開発)、43、リバースイノベーション(途上国での開発品を先進国へ)、44、ロビンフッド(金持ち層から利益を得て貧困層に安価に価値提供)、45、セルフサービス、46、店舗内出店、47、ソリューションプロバイダー(オールインワンパッケージの提供)、48、サブスクリプション(一定期間のサービス等をまとめて購入)、49、スーパーマーケット(様々な商品を1ヶ所で販売)、50、低所得層ターゲット、51、廃品リサイクル、52、両面マーケット(補完関係にある2つのグループ双方にメリットが出るよう仲介したりプラットフォームを提供)、53、究極の逸品(富裕層相手の高級品ビジネス)、54、プロシューマー(顧客がデザイナーと消費者の両方の役割を果たす)、55、OEM製品

ビジネスモデルイノベーションの10の鉄則p.400-403
1、経営トップの支援を得ること
2、組織横断チームで臨むこと
3、変化を受け入れ、他人の指摘を真摯に受け止めるべく、心の準備をしておくこと
4、55枚のビジネスモデルのパターンカードを使って社内の常識や業界の常識を乗り越えること
5、オープンな文化を作ること
6、繰り返しの手法を使い、何度も何度もやり直すこと
7、自分たちのビジネスモデルの仮説にのめりこまないこと
8、プロトタイプ手法でリスクを限定すること
9、新たなビジネスモデルがうまく成長するように必要な肉付けをしてやること
10、先頭に立って変革のプロセスを進めること
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著者が指摘するように、技術だけではイノベーションを起こしにくくなっていることは最近の傾向なのだろうと思いますが、よく考えてみれば、従来から技術を収益に結び付けるには何らかのビジネスモデルを利用していたはずです。ということは、近年新しいビジネスモデルを可能にするような技術や社会状況の変化が活発になってきたために、ビジネスモデルイノベーションの重要性が相対的に高まってきた、というのが本質のように思いますがいかがでしょうか。

では、どんなビジネスモデルを考えればよいのでしょうか。以前に本ブログでも紹介したオスターワルダー、ピニュールによる、ビジネスモデル・ジェネレーション」では、Canvasというツールでビジネスモデルを基本的な要素から考えていくというアプローチが取られていましたが、本書ではすでにあるビジネスモデルとの類似や相違をヒントに考えることから始めよう、というアプローチが特徴と言えるでしょう。本書に取り上げられた55種のビジネスモデルがビジネスモデルの全てであるとは限らないと思いますし、何より、技術の変化などによりこれからも新しいビジネスモデルが提案されるだろうことは予想に難くありません。従って一からビジネスモデルを考えることはこれからも必要だとは思いますが、これだけのパターンが揃えばまずそれを参考にしてみる、ということは特に実務的には意義深いことだと思います。

特に技術者にとっては、新しいアイデアが自社のビジネスモデルに合わないような時、自社のビジネスモデルに不満があるような時は、本書に基づいて他のビジネスモデルを考えてみることも有意義なのではないかと思います。技術者は技術のことだけ考えていればよい、と思ってしまうことはせっかくの可能性を狭めてしまうことになるかもしれません。これからは技術者であってもビジネスモデルまで視野に入れた研究開発が求められるようになるのではないでしょうか。加えて、本書では一般のイノベーションの進め方にも役立つ指摘が多くなされています。著者はマジックトライアングルの4つの軸のうち、2つ以上を刷新することをビジネスモデルイノベーションとしていますが、1つの軸のみの変化(著者はそれを従来型のイノベーションととらえているようです)であっても著者の指摘は有効な場合が多いと思われます。イノベーションに携わるあらゆる人にとって、ビジネスモデルという視点で考えてみることは有意義なことなのではないでしょうか。


文献1:Oliver Gassmann, Karolin Frankenberger, MichaelaCsik, 2014、オリヴァー・ガスマン、カロリン・フランケンバーガー、ミハエラ・チック著、渡邊哲、森田寿訳、「ビジネスモデルナビゲーター」、翔泳社、2016.
原著表題:The Business Model Navigator: 55 Models That WillRevolutionise Your Business

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