研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2018年11月

「プラットフォームの教科書」(根来龍之著)より

ビジネスモデルを考える上で、「プラットフォーム」という概念は特に近年重要になってきていると思います。もちろん過去にもプラットフォームという考え方で整理できるビジネスの仕組みはあったでしょうが、最近の技術の進歩によってその適用が大きく発展し、様々な成功例が生まれているように思います。

そこで今回は、そのプラットフォームの考え方を整理した根来龍之著「プラットフォームの教科書」[文献1]の内容をご紹介したいと思います。著者はイントロダクションで次のように述べています。「プラットフォームは次のような特徴を持っている。急速に成長することができる、一人勝ちすることがある、一人勝ちが突然くつがえされることがある。なぜ、こういう特徴が生じるかということを説明し、これから様々な分野で欠かせないコンセプトとなるプラットフォームの戦い方について本書は解説する。つまり、プラットフォームのビジネスとしての成立メカニズム、成功原理、特に一人勝ちになりやすい理由、後発企業の挑戦の仕方について論じる。[p.4-5]」、「プラットフォームの特徴をもたらす大きな要因を挙げると、それは主として次のようなものである。レイヤー構造、ネットワーク効果、エコシステム、アマチュアエコノミー[p.7]」。以下、本書の構成に沿って、重要と思われるポイントをまとめたいと思います。

PART1
、プラットフォームの基本
01
、プラットフォーム革命
 何が起きているか?
・プラットフォームの暫定的な定義:「お客さんに価値を提供する製品群の土台になるもの・・・つまり、『他のプレイヤー(企業、消費者など)が提供する製品・サービス・情報と一体になって、初めて価値を持つ製品・サービス』を意味する。[p.17]」
・「プラットフォーム型ビジネスの特徴が満載の事例と言えるのが、シェアリングエコノミーの世界的拡大である。[p.20]」「プラットフォームという考え方が経営学者の間で注目を浴びるようになった理由の1つは、パソコンのOSにおけるウィンドウズの圧勝だった。なぜウィンドウズが一人勝ちしたかというと、それはウィンドウズを前提にしたハードやアプリケーションソフトなどの製品があふれて、ほかのOSを前提にするエコシステムの価値が低くなってしまったからだ。[p.23]」「一人勝ちという現象は、アマチュア化によって加速される。[p.23]」「爆発的な成長は、プラットフォーム特有の経済原理によって加速される。ネットワーク効果や収穫逓増などの経済原理が働きやすいのだ。[p.24]」「新しいプラットフォームの登場と成長のきっかけとなるのは、多くの場合、技術的な要因である。具体的に言えば、新しいデバイスの登場はプラットフォームを劇的にシフトさせる。[p.25]」「プラットフォームのビジネスは、その構造に特徴がある。産業の構造を『レイヤー構造』と捉えることができるのだ。レイヤー構造とは、ある価値を提供する製品やサービスの構造がいくつもの階層(レイヤー)に分かれていくことである。そして各階層にはそれぞれに担い手がいて、上下の階層のプリやーと協力し合いながら、それぞれが独立したプレイヤーとして行動する。[p.27]」「自分だけですべてを提供するのではないから、コントロールがしにくい。協力プレイヤーをやる気にさせないと、あるいは協力プレイヤーを十分に確保できないと、自分の製品がどんなによくせも成功しない。プラットフォームは、『エコシステムマネジメント』という新しい経営課題を持っている[p.29]」。

02
、レイヤー構造化 従来型ビジネスとの決定的な違い
・「単独で機能を発揮するのではなく、何か他のものの存在や利用を前提にしているものがプラットフォームである。・・・組み合わせて使うものを『補完製品』という。[p.32]」
・「産業内の補完関係が縦に積み重なった構造を『レイヤー構造』と呼ぶ。レイヤー構造になると、消費者の選択の範囲が広がる。[p.37]」「各消費者が各レイヤーの製品・サービスを自由に組み合わせて購入・利用できるのがレイヤー構造を持つ産業の特徴である。レイヤー構造の中で、製品・サービスの多様性の基盤となるレイヤーが『プラットフォーム階層』になる。[p.39]」
・「産業のレイヤー構造化の大きな原因は、モジュール化、ソフトウェア化、ネットワーク化だ(他に、規制緩和なども原因になりうる)。[p.43]」
・「プラットフォームと総称されるビジネスの構造は2つの種類に大別することができる。1つは『基盤型プラットフォーム』である。これはゲーム機のように補完製品(ゲーム機の場合は、ゲームソフト)が存在することを前提にするプラットフォームである。・・・もう1つは『媒介型プラットフォーム』である。これはユーザー間の仲介、コミュニケーションや取引の媒介などの機能を持つものである。[p.46]」

03
、ネットワーク効果 成長を加速する経済原理
・「プラットフォームビジネスは成長が加速されやすい。他社を引き離して一人勝ち(Winner Takes All、以下WTA)する強大な企業が誕生する事例も目立つ。[p.52]」「伝統的なものづくりにおいてよく見られる『技術が優れていることによって競争相手を圧倒する』という戦略は、プラットフォームの競争においても存在する。・・・逆に、技術以外の要因、たとえば『先行したから』とか『最初にシェアを獲得したから』というような『非』技術要因の働きで成長し、さらにシェアトップを維持しているように思える事例が存在する。この傾向はプラットフォームビジネスにおいて特に多いと思われる。[p.53]」
・「ネットワーク効果とは、利用者が増えるほど製品やサービスの価値が上がることを意味する経済原理のことである。[p.62]」「ネットワーク効果にはサイド内ネットワーク効果とサイド間ネットワーク効果の2種類がある。[p.65]」「サイド内ネットワーク効果:ユーザーの数が増えると、そのユーザーが属するグループにとって、プラットフォームの価値が向上あるいは下落する現象[p.65](電話の例)」「サイド間ネットワーク効果は、プラットフォーム上の異なる種類のプレイヤー間で働くネットワーク効果・・・『片方のグループの利用者が増加すると、もう片方の利用者グループにとって製品やサービスの価値が向上あるいは下落する現象』・・・『売り手が多いオークションサイトに買い手が多く集まる』というように[p.66-67]」
・「ネットワークのサイドは、収益貢献度によって分類することもできる。収益源となるプレイヤーグループのことをマネーサイド(Money Side)、無料あるいはコスト割れでサービスや製品を提供されるプレイヤーグループのことをサブシディサイド(Subsidy Side)と呼ぶ。[p.72]」
・「ネットワーク効果に類似した概念として、『バンドワゴン効果』がある。・・・本書ではバンドワゴン効果を『ある選択が流行しているという情報が流れることで、その選択がさらに促進されること』と定義し、実質的な価値(便益)の向上が存在するネットワーク効果と区別し、流行に引っ張られる群衆行動の一種と位置付けることにしたい。[p.74]」

04
、クロスプラットフォーム 任天堂vsスマホゲーム
・「任天堂が目論んでいるのは、ゲーム専用機の進化と、専用機とスマホの両方にまたがるプラットフォームを作ることだ。前者は、据置型ゲーム機とポータブルゲーム機の合体を図るもので、後者は、ゲーム専用機とスマホのユーザーが行き来できるようにして、特にスマホの利用者をゲーム専用機に誘導しようという戦略である。どちらも、複数のプラットフォームにまたがる『クロスプラットフォーム戦略』の一種だと考えられる。[p.82-83]」

05
、デバイス転換 スマホシフトをテコにしたLINEの成長
・「LINEの成功は、プラットフォームを成長させる戦略的発想の勝利といえる。[p.85]」「他社よりも遅れてきたLINEは、スマホ化の波にうまく乗り、画面の操作もスマホに特化した機能をベースに、使いやすさにこだわった。[p.86]」「デバイスは、時代とともに変化していく。その転換にどのようにうまく乗り、誰でも使えるようにハードルを下げ、どう使いやすさを追求するか。そしてユーザーを飽きさせない斬新で画期的なサービスを、マネタイズも実践しながらタイミングよく投入し続けられるかが、成長のためのカギとなる。[p.90]」

PART2
、プラットフォームの広がり
06
、シェアリン
グ スマホが支えるアマチュアエコノミー
・「シェアリングは、一般の住宅への宿泊(民泊)、自動車の相乗り(ライドシェア)などのように、主に個人が事業主となってサービスを提供するという形態のものが多い。[p.92]」「シェアリングの拡大は、『アマチュアエコノミー』の増殖を意味する。[p.93]」「シェアリングエコノミーの事業を成功させるには、信頼(Reliability)と信用(Credibility)の2つが重要になる。信頼とは『品質の確保』のことだ。・・・信用とは『悪意の排除』だ。[p.99]」「個人間取引のマッチングをするプラットフォームは、米国で次々と生まれている。[p.103]」

07
IoT あらゆる産業にプラットフォームが出現する
・「筆者はアカデミックな研究では、『プラットフォームビジネス』を次のように定義している。『その製品・サービスを前提にして利用される、他社(者)の製品・サービス・提供情報(補完製品・サービス・情報)が存在し、ユーザーが多様な選択を直接行えるようにしている製品・サービス』。厳密には、さらに(1)製品の品質責任が『補完製品・サービス・情報』の提供者(補完プレイヤー)にある、(2)プラットフォームとの間ではなく、補完プレイヤーと消費者との間で取引契約がなされる、の2点のうちどちらか1つの条件を満たす必要があると考えている。[p.106-107]」
・「IoT・・・あらゆるものをネットでつなぐという発想は、産業のソフトウェア化、ネットワーク化、モジュール化を推進することになり、ビジネスがレイヤー構造になりやすくなる。IoTは、製造業ビジネスを『もの』の提供だけではなく、『もの』+『サービス』へと変化させつつある。・・・製造業から見たIoTというのは、製品を『こと』化する力がある。[p.110-111]」

08
WTAへの布石 ソフトバンクのアーム買収
・「私見では、ソフトバンクがアーム・ホールディングスを買収した狙いは、IoTの核心を握ることにある。そこには様々な産業がレイヤー化していく中で、アームのチップ設計技術によって、IoT全体のプラットフォームのレイヤーを握ろうという発想があると考えられる。[p.115]」

09
、プロフィットプールの攻防 自動車産業のレイヤー構造化
・「産業のレイヤー構造の変化は、利益源(プロフィットプール)の移動をもたらすことがある。・・・レイヤー構造の変化が起きるときは、『どのレイヤーを握ることが産業の支配権を高めるか?』『どのレイヤーを手放してはいけないのか?』という問いかけが重要である。自動車産業は伝統的なものづくりのビジネスだが、そこでもレイヤー構造化が起きようとしている。[p.122]」

PART3
、プラットフォームの戦略
10,
、エコシステムのマネジメン
ト チキンエッグ問題を解決する
・「産業のレイヤー構造化が進んできた場合は、戦略にプラットフォームの考え方を取り入れることが有効だ。ただし、・・・あえてプラットフォーム型のビジネスにしないという戦略もあり得る。[p.132]」「その典型が『消耗品モデル』である。[p.133]」「他の人に補完製品を作ってもらいたいときでも、特許などで自社製品を保護することで、生産するメンバーや生産内容をコントロールする場合がある。[p.134]」
・「プラットフォームビジネスでは、自社の事業領域だけでなく、『他社にオープンにする範囲』を決めることが重要である。つまり、どのレイヤーについて、どの程度まで他社(者)の補完製品を受け入れるかという意思決定をする必要がある。[p.135]」「どこをオープンにして、どこに参入するか。それを考えることがレイヤー戦略の重要なポイントだ。[p.136-137]」
・「補完プライヤーの協力はプラットフォームの成功に欠かせない。しかし、補完プレイヤーに『協力してください』と声をかければ素直に反応してくれるというわけではない。・・・1つのポイントは、補完プレイヤーにとって『ビジネスしやすい環境』を提供することだ。[p.140]」
・「プラットフォームの成長は『ぐるぐる回り』の構造になっている。魅力的なユーザーがたくさんいないと、補完プレイヤーはやる気になってくれない。補完プレイヤーがやる気になってくれないとプットフォームの規模や機能、価値は向上しない。プラットフォームの規模、機能、価値が向上しないと、ユーザーは集まらない。[p.146]」「そのときに重要なのがView(展望、世界観)である。もう少し具体的に言うと、『将来に関する市場の見方および予測』『自社エコシステム構築に関する方針』『自社エコシステムの社会的貢献』などを提示することによって、エコシステムへの参加を促すことが大切だ。[p.148]」

11
、攪乱要因 プラットフォームの不確実性
・「プラットフォームの勝者が必ずしも一人勝ち(WTA)になるとは限らない。・・・市場には、WTA要因以外に、いろいろな攪乱要因があるからである。[p.152]」
・攪乱要因の例:マルチホーミング、スイッチングコスト、市場の成長、デバイスなどの転換、政府の規制[p.153
・「マルチホーミングとは、ユーザーが複数のプラットフォームを並行して使用することである。[p.154]」
・「スイッチングコストとは、顧客が、現在利用している製品・サービスから別の製品・サービスに乗り換える際に負担しなければならないコストのことだ。『金銭的コスト』『心理的コスト』『手間コスト』などが組み合わさっている。・・・先発優位が働く場合には、スイッチングコストは先行企業にとってWTA要因になる。しかし、先発優位があまり働かない場合は、スイッチングコストによって市場シェアが分散された状態を固定化する要因になる。[p.158]」「新しく市場に加わる新規ユーザーにはスイッチングコストが存在しない。したがって新規ユーザーは、たとえば後発企業の低価格戦略などに反応しやすい。また後発企業が先発にない機能やサービスを持っている場合は、その機能やサービスの魅力に新規ユーザーは反応しやすい。つまりユーザー数が増えている成長市場では、スイッチングコストがあっても、それが影響しない新規顧客を中心に顧客を獲得できるので、WTA要因が働きにくくなる。[p.160]」
・「グッドイナフによる移行は、新しいデバイスが登場したときに起こりやすい。・・・デバイスの変化、つまり土俵替えは、新規企業がシェアを奪ったり逆転するきっかけになることがある。[p.161]」

12
、マルチホーミング 宿泊予約&グルメサイトの追い上げ
・「ネット上のプラットフォームはマルチホーミングがしやすいという特徴がある。言い換えれば、ネット上のプラットフォームビジネスにおいては、必ずしもユーザーの利用サイトのスイッチを目指さなくても、並行利用してもらうことでシェア拡大が可能である。ただし、チャレンジャーがリーダーの提供する機能について、『対等化』をまず実現することが前提になる。必ずしも優位になる必要はないが『グッドイナフ』となることは必要だ。[p.169-170]」

13
、5つの対抗策 強大化したライバルへの追随と逆転
・「プラットフォーム間競争においては、技術が優れていても必ずしも勝つとは限らない。[p.173]」
・「非技術要因でWTAに対抗したり、WTAの進行を妨害する戦略には、次のようなものがある。[p.174]」(1)収益モデルの破壊と拡張:「多くの場合、先行企業の利益源(マネーサイド)に対して『無料化』で攻撃する。そして自社のプラットフォームには、収益源として異なるサイドを追加する。[p.174]」、(2)プラットフォーム包囲:「他社のサイド間ネットワーク効果を抑制するための戦略。階層の異なる製品・サービスによる『包み込み』を行う。[p.174]」、(3)プラットフォーム間橋渡し:「つながりのなかったプラットフォーム間を、隣接階層を利用して橋渡しをすることで、ユーザーのマルチホーミングコストを下げる[p.175]」、(4)プラットフォーム互換:「他社、特に先発企業のプラットフォームのコンテンツやアプリケーションなどをそのまま使えるようにする。クローン戦略とも呼ばれる。[p.175]」、(5)プラットフォーム連携:「連携することによって新たなサイド間ネットワーク効果を得る。他社が持たないサイド間ネットワークを持つことでライバルのWTA要因に対抗する。水平連携では、同じ機能を持つプラットフォームが連携して顧客基盤や補完業者基盤を共有する。これにより、たとえば弱者連合によって、後発企業側のサイド内・サイド間ネットワーク効果を向上させることができる。[p.175-176]」

14
、包囲戦略 マイクロソフトの勝因と敗因
・「クラウドコンピューティングの進展に伴い、ブラウザ上で動作するアプリケーションが、企業でますます使われるようになってきている。・・・こうした状況変化によって、マイクロソフトが得意としてきたプラットフォーム包囲戦略(隣接上位階層の製品を売り込む戦略)のパワーは低下した。一人勝ちの大きな要因となってきたPCOSでのシェアの高さが、必ずしもブラウザのシェア維持に十分貢献しなくなってきているのである。[p.200-201]」
---

本書を読むと、プラットフォームは単なる成功しやすいビジネスモデルの一形態、一時期の流行にとどまらず、IT技術の進歩にともない必然的に大きく発展した現代におけるビジネスのひとつの潮流であるように思われます。ただ、注意すべきは、プラットフォームという形態がビジネスの成功を保証するものではなく、プラットフォームをいかにうまく作り、運営していくかが成功の鍵をにぎっている、ということだと思います。そうした成功のための方法論が徐々に明らかになってきている、というのが現状なのでしょう。

研究開発にとっても、プラットフォームを活用したビジネスモデルをいかに作れるか、ということだけでなく、プラットフォームを構成する各レイヤーでいかに価値のある活動を実現するか、エコシステムをいかにうまく維持していくかなど、著者の指摘は重要な示唆を含んでいるように思います。特に、エコシステムに関しては、プラットフォーム以外のモデルでも今後企業間の協力関係は重要になっていくであろうことを考えると、プラットフォームの事例を理解することによるエコシステムの運営全般に関する示唆も今後重要になっていくように思われます。

プラットフォームの事例は今後も蓄積され、理解もますます深まり、新たな戦略もさらに出現していくでしょう。そこから何が学べるか、何を学ぶべきかを今後も注目していきたいと思います。


文献1:根来龍之、「新しい基本戦略 プラットフォームの教科書 超速成長ネットワーク効果の基本と応用」、日経BP社、2017.

科学の話題・目次(2018.11.18版)

「科学の話題」というカテゴリーでは、社会や企業活動、研究開発と関係のありそうな科学の話題について書いています。本ブログ記事目次・参考文献リスト・索引の最新版はこちら

科学研究の動向
「GEグローバル・イノベーション・バロメーター」世界調査2012より2012.2.5)、参考リンク
「GEグローバル・イノベーション・バロメーター」世界調査2011より
2011.2.6)、参考リンクは上と同じ
論文から見た各国の科学力比較
2011.1.16)、参考リンク

科学と社会
科学と倫理(今道友信著「エコエティカ」より)2013.1.27)、参考リンク
「もうダマされないための『科学』講義」-科学でダマし、ダマされる状況について考える
2012.1.22)、参考リンク
科学技術と社会の関わり、これからのイノベーション
2011.7.18)、参考リンク
技術で仕事はどう変わる?
2011.8.21)、参考リンク
「機械との競争」(ブリニョルフソン、マカフィー著)感想
2013.11.24)、参考リンク
「ザ・セカンド・マシンエイジ」(ブリニョルフソン、マカフィー著)より
2016.4.10)、参考リンク
「データサイエンティストが創る未来」(ロー著)より
2017.7.30)、参考リンク
シンギュラリティが意味するもの(ガナシア著「そろそろ、人工知能の真実を話そう」より)
2017.10.9)、参考リンク
「人工知能の哲学」(松田雄馬著)より
2017.11.26
AI活用の実際(「Artificial Intelligence for the Real World」、Davenport, Ronanki著HBR2018, January-Februaryより)
2018.2.25
AIの活かし方(「Collaborative Intelligence: Humans and AIAre Joining Forces」、Wilson,Daugherty著HBR2018, July-Augustより)
2018.7.16

理系と文系、とイノベーション
2011.5.1)、参考リンク
「科学嫌いが日本を滅ぼす」(竹内薫著)感想
2012.10.21)、参考リンク
「エコ企業」雑感 (ニューズウィーク日本版、2011.2.9号、エコ企業100より)
2011.2.27)、参考リンク
「不完全な時代――科学と感情の間で」感想
2012.3.4)、参考リンク
「科学との正しい付き合い方」感想 (科学者とそれ以外の人との付き合い方?について)
2010.11.21)、参考リンク
科学的な考え方をシンプルに理解する(小飼弾著「『中卒』でもわかる科学入門」感想)
2014.5.18)、参考リンク
動的平衡
2010.10.31)、参考リンク
「知の逆転」にみる科学の課題
2014.7.21)、参考リンク
科学とエンジニアリング(「エンジニアリングの真髄」(ペトロスキー著)より
2014.10.5)、参考リンク
「<科学ブーム>の構造」(五島綾子著)から学ぶこと
2014.12.7)、参考リンク
誤解を生む原因は何か(垂水雄二著「科学はなぜ誤解されるのか」より)
2015.4.19)、参考リンク
「人と『機械』をつなぐデザイン」(佐倉統編)より
2015.6.14)、参考リンク
「オートメーション・バカ」(ニコラス・カー著)より(2015.9.6)
参考リンク
「技術大国幻想の終わり」(畑村洋太郎著)より
2015.9.27)、参考リンク
「マッキンゼーが予測する未来」(ドッブス、マニーカ、ウーツェル著)より
2018.4.8
「科学の困ったウラ事情」(有田正規著)より
2016.11.6)、参考リンク
こらからの専門家(サスカインド著「プロフェッショナルの未来」より)
2018.7.1

研究開発事例
2010年のベスト50発明(「Time」2010.11.22号)2010.12.5)、参考リンク
1年後のTime誌「2010年のベスト50発明」
2011.12.25)、参考リンクは上と同じ
3年後のTime誌「2010年のベスト50発明」
2013.12.23)、参考リンクは上と同じ
6年後のTime誌「2010年のベスト50発明」
2016.12.25)、参考リンクは上と同じ
「偉大なる失敗」(リヴィオ著)より(2015.7.12)
参考リンク

研究マネジメント事例
祝ノーベル賞:『発見の条件』by根岸英一教授2010.10.11)、参考リンク
iPS細胞研究に見る研究の進め方雑感
2011.12.11)、参考リンク
MITメディアラボの研究マネジメント考
2012.12.31)、参考リンク
「9プリンシプルズ」(伊藤穣一、ジェフ・ハウ著)より
2018.2.18

研究開発の方法
シチズンサイエンス考2012.7.1)、参考リンク
ロボットに研究ができるなら
2011.4.3)、参考リンク
ビッグデータ考
2013.5.6)、参考リンク
「オープンサイエンス革命」(ニールセン著)より
2013.10.27)、参考リンク
これからのモノづくり(アンダーソン著「MAKERS」より)
2014.3.9)、参考リンク
イノベーションを生む環境(ジョンソン著「イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則」より)
2016.2.28)、参考リンク
未来予測の方法(ウェブ著「シグナル」より)
2018.8.13
知識はネットで検索で十分なのか(パウンドストーン著「クラウド時代の思考術」より)
2018.9.24


科学哲学関連
「理性の限界」「知性の限界」2011.9.19)、参考リンク
「感性の限界」(高橋昌一郎著)より
2012.11.11)、参考リンクは上と同じ
科学哲学の使い方(「理系人に役立つ科学哲学」感想)
2011.10.10)、参考リンク
「なぜ科学を語ってすれ違うのか」に学ぶ
2011.11.6)、参考リンク
「テクノロジーとイノベーション」感想
2012.4.1)、参考リンク
「科学を語るとはどういうことか」(須藤靖、伊勢田哲治著)感想
2014.4.13)、参考リンク
クリティカルシンキングの活用(伊勢田哲治+戸田山和久+調麻佐志+村上祐子編「科学技術をよく考える」より)
2015.5.17)、参考リンク

判断、予測、行動経済学、複雑系周辺
いかに判断、予測するか(ダンカン・ワッツ著「偶然の科学」より)2012.7.29)、参考リンク
科学的判断の受け入れ(「代替医療のトリック」感想)
2012.9.23)、参考リンク
多様性の意義(スコット・ペイジ著「『多様な意見』はなぜ正しいのか」より)
2013.2.24)、参考リンク
複雑系の可能性(ニール・ジョンソン著「複雑で単純な世界」より)
2012.6.10)、参考リンク
ネットワークの力(クリスタキス、ファウラー著「つながり」より)
2013.3.31)、参考リンク
「ファスト&スロー」(カーネマン著)より
2013.7.7)、参考リンク
「ずる 嘘とごまかしの行動経済学」(ダン・アリエリー著)より
2013.8.11)、参考リン
「集合知とは何か」(西垣通著)より
2013.9.23)、参考リンク
ベキ乗則の可能性(バラバシ著「バースト」より)
2014.2.2)、参考リンク
「意思決定理論入門」(ギルボア著)より
2014.6.15)、参考リンク
よりよい意思決定プロセス(「決定力!」チップ&ダン・ハース著より)
2016.5.22)、参考リンク
「意思決定の心理学」(阿部修士著)より
2018.5.13
データから言えること(ソーバー著「科学と証拠」より)
2014.8.24)、参考リンク
ありえなさを理解する(ハンド著「『偶然』の統計学」より)
2017.4.23)、参考リンク
「誤解学」(西成活裕著)感想
2014.11.9)、参考リンク
「無意識のわな」(日経サイエンス2014年5月号特集)とマネジメント
2014.12.28)、参考リンク
「バグる脳」(ブオノマーノ著)-思考、判断のバイアスと誤りを理解する
2015.1.25)、参考リンク
無意識の作用(ムロディナウ著「しらずしらず」より)
2015.3.22)、参考リンク
「教養としての認知科学」(鈴木宏明著)より(2016.8.14)
参考リンク
「理性の起源」(網谷祐一著)より
2017.9.3)、参考リンク
「影響力の正体」(チャルディーニ著より)
2015.11.23)、参考リンク
「実践ポジティブ心理学」(前野隆司著)より
2018.1.3
「好き嫌い」(ヴァンダービルト著)より
2018.10.28
失敗に学ぶ(サイド著「失敗の科学」より)
2017.6.11)、参考リンク
データを使う前に(ファング著「ナンバーセンス」より)
2015.12.20)、参考リンク
「0ベース思考」(レヴィット、ダブナー著)より
2016.1.24)、参考リンク
心配と研究開発(島崎敢著「心配学」より)
2017.1.29)、参考リンク
不確実性と成功(ヨハンソン著「成功は“ランダム”にやってくる!」より)
2016.7.10)、参考リンク
不確実性とリスクの扱い方(サンスティーン著「恐怖の法則」より)
2016.9.25)、参考リンク
「リスク」(フィッシュホフ、カドバニー著)より
2017.3.12)、参考リンク
関連記事
意思決定の罠(モーブッサン著「まさか!?」より)
2012.10.28)、
参考リンク
複雑系経営(?)の効果2012.5.6)、参考リンク

ヒトの行動、社会、進化
「ヒトは環境を壊す動物である」感想2010.12.26)、参考リンク
「利他学」(小田亮著)より
2012.12.2)、参考リンク
進化心理学からの示唆(「友達の数は何人?」ロビン・ダンバー著)より
2012.8.26)、参考リンク
「働かないアリに意義がある」感想
2012.4.22)、参考リンク
利他性と協力
2012.5.13)、参考リンク
天才の創造性の源泉とその活用
2013.6.2)、参考リンク
協力とフリーライダーと罰(大槻久著「協力と罰の生物学」より)
2015.2.22)、参考リンク
「競争の科学」(ブロンソン、メリーマン著)より
2015.8.9)、参考リンク
脳科学の使い方(ミチオ・カク著「フューチャー・オブ・マインド」より)
2015.10.25)、参考リンク

研究開発実践のマネジメント第35回-失敗を避ける:研究開発マネジメントの実践と基礎知識2.4.5(「ノート」全面改訂)


はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第7回
2、研究開発実践のマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
第8回第17回
2.2
、研究開発を行う人のマネジメント第18第24回
2.3
、研究組織とそのマネジメント第25回第29回
2.4
、研究プロジェクトの運営
2.4.1
、研究プロジェクトの進め方
第30回第31回
2.4.2
、コラボレーションのマネジメント第32回
2.4.3
、研究プロジェクトの方向転換と中止第33回
2.4.4
、可視化による運営のマネジメント第34回

2.4.5
、失敗を避ける
研究開発では、失敗から学ぶことの重要性がよく指摘されます。特に近年は、結果が見通しにくい、不確実性の高い研究課題が増えているという見方も多く、うまく失敗してそこからうまく学ぶことが強調されているようです。一方で、様々な事例から、研究開発の失敗の原因自体についても様々な指摘が増えてきています。

もちろん、どんな失敗からも学べるのは事実だと思いますが、先例と同じ失敗からは先例と同じことしか学べないでしょうし、最初から失敗する可能性が高いとわかっていることに挑戦するよりも、成功するかもしれないチャレンジからの方が、よりよい洞察が得られやすいのではないでしょうか。

そこでここでは、失敗の原因に関する従来の指摘を整理し、どうしたらなるべく失敗が避けられるのかを考えてみたいと思います。

1)
失敗を避けるために注意すべきポイント
失敗の原因に関する論考を調べてみると、原因はいくつかの要因に分けられるように思います。もちろん、複数の要因が重なって失敗につながっている場合も多いわけですが、以下では、失敗の原因を単純化して、実践家の役に立つような注意のポイントとしてまとめてみたいと思います。以下のような状態を避けることが無駄な失敗を避ける上で重要になるのではないでしょうか。

・重要なポイントを見落すことで失敗する
・イノベーションの本質が理解できておらず、効果のない従来の手法や他分野で有効な手法、思い込みに頼って失敗する
・現状維持に流れてしまい、新しいことに取り組めない
・能力の過信
・イノベーションを進める仕組みが不完全

2)
具体的事例
重要なポイントの見落し
・本シリーズでは、研究開発のもつ不確実性に着目し、その不確実性を減らすことが研究開発をうまく進める上で重要、という考え方に立っています。具体的に着目すべき不確実性としては、①課題が実現できるか、②ニーズがあるか、③有効なビジネスモデルを構築し市場で勝てるか、の3点が特に重要と考えていますが(本シリーズ第8回第15回)、このうち、どれかひとつでも不確実性が解消できないとすると研究開発の成功は極めて難しくなると考えられます。
・例えば、上記の①課題実現(=技術的可能性)にばかり着目して失敗する例として次のような指摘があります。伊丹敬之氏、宮永博史氏は、技術者はどこで間違いやすいか、について次のように述べています。「『間違い』の共通キーワードは、『視野の狭さ』である[文献1、p.228]」。技術者が陥りがちな思いこみには、1)技術がよければ売れるという思い込み、2)自社技術だけが進歩するという思い込み、3)社内では新技術、世間では二番煎じ[文献1、p.192-198]がある。
・また、Adnerは、企業とエンドユーザーとの間に存在する多くのパートナーの認識と、それに伴うリスクへの注意が必要と述べています。具体的には自身のイノベーションの商業的成功が他のイノベーションの商業化に依存するリスクであるコーイノベーション・リスクによって、成功がパートナーに依存してしまい、その結果、協力、協働に伴って、遅延や妥協が発生しやすくなることを指摘しています。また、パートナーがまずイノベーションを受け入れなければ、顧客が最終提供価値を評価することすらできないリスクであるアダプションチェーン・リスクにより、パートナーにとっても有益な価値提供を行うことが必要になる、という指摘もしています[文献2、第2章、第3章]。こうした、パートナーとの関係を見落とせば失敗の原因となりうることは明白でしょう。

イノベーションの本質の理解欠如による思い込み
・ある方法が有効であると思い込んで、その方法を適用して失敗したという事例については多くの指摘があります。思い込みには様々なものがありますが、ある手法が研究開発に有効だと思い込んでしまうのは、研究開発が目指すイノベーションの本質が充分に理解されていないことが原因ではないでしょうか。
・例えば、McGrathは、持続的競争優位の構築において業務遂行の流儀を変えられない固定観念の例として、先手必勝の罠、品質追求の罠(「顧客が買いたいと考えるレベルを上回る品質を提供することに固執している」)を挙げています[文献3]。先手必勝、品質追求はどちらも、イノベーション以外の分野や、過去の一時期には有効な考え方であったかもしれませんが、現在はその有効性が薄れているとすれば、そうした本質の理解不足と、過去のやり方が現在も有効であるという思い込みが失敗の要因になりうると言えるでしょう。
・同様の思い込みとしては、Thomke,Reinertsenが、リソースの稼働率を上げれば成果が上がる、バッチ・サイズを大きくすると費用対効果が向上する、プロジェクトは早く始めれば完了も早い、製品の機能を増やした方が顧客は喜ぶ、一発でうまくいけばより成果が上がる、といった誤解が製品開発の場に存在することを指摘しています[文献4]。実際にはイノベーションのためには、リソースの稼働率を上げることよりも余裕を持つこと、リーン生産のようにバッチ・サイズを下げることが有効な場合もあること、プロジェクトの完了には注力の度合いも関係すること、一発でうまくいくことを狙うあまり失敗を許さない環境はよくないことが指摘されており、誤った思い込みが失敗の要因になることに注意が必要でしょう。
・思い込みには、やってみてうまくいったことをさらに徹底して行おうとしたり、未来は現在の延長上にあると思ってしまうというものもあります。例えば、Collinsは、ラバーメイドが過剰なペースで新製品の開発に注力した結果、野心的な成長目標に追いまくられて、コスト管理や納期管理といった基本的な部分で失敗が目立つようになった例を紹介しています[文献5]。同様に、Leonard-Bartonも「コア・ケイパビリティがコア・リジディティになってしまう最も一般的な理由は的を撃ちすぎることである。つまり、よいことはもっとたくさんすれば、もっとよいだろうという単純な考えに陥ってしまう」「それまで利益をもたらしていた活動もいきすぎると、成功の妨げになってしまう。」[文献6、p.49]と述べています。また、コア・リジディティの現象として、暗黙のうちに未来は現在と同じようなものであると仮定されてしまうことも指摘しています。
・また、他社や多分野で効果を上げた手法を無批判に取り入れることも思い込みと言えると思います。例えば、Radjouらは、3Mでシックス・シグマの導入によってイノベーション能力が損なわれた事例を紹介しています[文献7、p.78-82]。また、成果主義についても、中原氏は「成果主義を背景に、個人が個人の業績だけを追求する風潮が生まれた結果(仕事の私事化)、職場の個人が他のメンバーの発達支援を担うという、いわゆる組織市民行動を担おうとしなくなった、・・・職場としての成果を出さなければならないために、個人の成長につながるような業務経験の付与に偏りが生じ、成長機会が阻害された[文献8、p.23]」と指摘しています。スピードを重視し仕事の負荷を上げる手法についても、BruchMengesは、社員の消耗により会社業績の悪化につながるものとしています[文献9]。同様に、Gardnerは、プレッシャーを与えることについて、1)仕事の完了を急ぐうちに、チームは重要な情報を締め出す方向でコンセンサスを形成する:リスクの少ないオプションを選び、プロジェクトをつつがなく進めようとする、2)皆が無意識のうちに権威に寄り添う、3)専門的知識に基づくユニークな意見よりも共通の知識を重んじるという悪影響があると述べています[文献10]。高い目標(Stretch goal)を掲げることについても、Sitkinらは「組織が、資源的制約を無視して、最近の失敗を取り返すためにStretch goalを追い求める(有り金をはたく)なら、トラブルを求めているようなものだ。」として、失敗していて余裕のない状態ではStretch goalは避けるべきだと述べています[文献11]。

現状維持傾向
・現状維持の傾向については、McGrathは、「すでに確立された製品・サービスについては、それを改善するための投資が必要だとは考えない」、「新たなベンチャー事業にリソースを移そうというインセンティブが働かない」、「チャンスが到来しても、それが組織体制にフィットしなかった場合、組織を再編しようとせずに見送るだけ」という傾向を指摘しています[文献3]。こうした現状維持傾向は、既存製品との共食いを恐れるリスク回避志向[文献7]や、Leonard-Bartonがコア・リジディティの現象として指摘している、新技術の評価にバイアスがかかる(新技術の悪い面が強調される、など)こと、顧客の声に耳を傾けすぎること[文献6]などとも関連があると考えられます。

能力の過信
・これはなんといっても成功体験が代表的でしょう。Collinsは、偉大な企業が衰退する第1段階として、次のような傾向が見られるとしています。成功により現実の厳しさから隔離され、真の成功要因を見失い、成功を当然視する。成功した理由が通用しなくなる条件を理解しなくなったり、運が良かっただけで成功したという可能性を認識せず、自分たちの長所と能力を過大評価する傲慢に陥る。[文献5]

イノベーションを進める仕組みが不完全
McGrathは、散発的イノベーションの罠として、組織的に新たな優位性を次々に生み出す仕組みを持たない・・・結果、イノベーションが個人主導で行われる散発的なプロセスとなることを指摘しています[文献3]。これは、現状維持傾向とあわせてコンピテンシー・トラップとも関連する要因と思われます。コンピテンシー・トラップとは入山氏によれば、「企業組織は本質的に知の深化に傾斜しがちで、知の探索をなおざりにしやすい。事業が成功している企業ほどこの傾向が強く、これをコンピテンシー・トラップという」「イノベーションの停滞を避けるために、企業は組織として知の探索と深化のバランスを保ち、コンピテンシー・トラップを避ける戦略・体制・ルール作りを進めることが重要である。」[文献12]というもので、イノベーションをうまく進めることができない重要な原因のひとつと考えられるでしょう。

以上に挙げた様々な失敗の要因は複雑に絡み合っていますし、状況次第で失敗の原因となったり、ほとんど問題にならなかったりする場合もあると考えられます。従って、単純に「こうすれば失敗は防げる」というポイントを挙げることは実際には困難だと思います。とはいえ、ビジネスの実践において遭遇する様々な手法や考え方について、それがどんな失敗の原因になりうるのかを知っておくことは、失敗による傷を小さくし、失敗からうまく学ぶためには有意義なことだと思います。失敗は避けられればそれにこしたことはないですが、失敗は避けられると思うこと自体が自己の能力の過信につながりかねないと考えると、まずは失敗をよく知ることが必要なのではないかと思います。


文献1:伊丹敬之、宮永博史、「技術を武器にする経営 日本企業に必要なMOTとは何か」、日本経済新聞出版社、2014.本ブログ紹介記事
文献2:Ron Adner, 2012、ロン・アドナー著、清水勝彦監訳、「ワイドレンズ イノベーションを成功に導くエコシステム戦略」、東洋経済新報社、2013.本ブログ紹介記事
文献3:Rita Gunther McGrath、リタ・ギュンター・マグレイス著、辻仁子訳、「一時的競争優位こそ新たな常識 事業運営の手法を変える8つのポイント」、Diamond Harvard Business Review, November 2013, p.32.ブログ紹介記事
文献4:Stefan Thomke, Donald Reinertsen、ステファン・トムク、ドナルド・ライナーセン著、有賀裕子訳、「製品開発をめぐる6つの誤解 製造プロセスでの効率性は通用しない」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 8月号、p.76.ブログ紹介記事
文献5:Collins, J., 2009、ジェームズ・C・コリンズ著、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー③衰退の五段階」、日経BP社、2010.
文献6:Leonard-Barton, D., 1995、ドロシー・レオナルド著、阿部孝太郎、田畑暁生訳、「知識の源泉」、ダイヤモンド社、2001.
文献7:Navi Radjou, Jaideep Prabhu, Simone Ahuja, 2012、ナヴィ・ラジュ、ジャイディープ・プラブ、シモーヌ・アフージャ著、月沢李歌子訳、「イノベーションは新興国に学べ! カネをかけず、シンプルであるほど増大する破壊力」、日本経済新聞出版社、2013.本ブログ紹介記事
文献8:中原淳、「経営学習論 人材育成を科学する」、東京大学出版会、(2012)→ブログ紹介記事
文献9:Heike Bruch and Jochen I. Menges、ハイケ・ブルッフ、ヨッヘン・I・メンジス、「社員を追い詰める『加速の罠』」、Diamond Harvard Business Review, Dec. 2010, p.76.ブログ紹介記事
文献10:Heidi K. Gardner、ハイディ・K・ガードナー著、編集部訳、「メンバーのプレッシャーを克服させる法 大事な時に限って、萎縮してしまう」、Diamond Harvard Business Review, 2012年9月号、p.84
文献11:Sim B. Sitkin, C. Chet Miller, Kelly E. See, “The Stretch Goal Paradox”, Harvard Business Review, January-February 2017, p.92.ブログ紹介記事
文献12:入山章栄、「世界の経営学者はいま何を考えているのか 知られざるビジネスの知のフロンティア」、英治出版、2012.
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イノベーションに適した場所の活用(「Navigating Talent Hot Spots」、Kerr著HBR2018, September-Octoberより)

シリコンバレーは多くのイノベーションが育まれた場所として有名ですが、イノベーションを起こすのに「場所」はどれほど重要なのでしょうか。もちろん、イノベーターにとって環境のよい場所、協力や支援が得られやすい場所があるだろうことは想像に難くありません。であれば、「場所」がイノベーションに必須の要因かどうかはさておいて、イノベーション成功の確率を少しでも高めるためにそういう環境を利用しようと考えることはおかしなことではないと思います。

日本ではイノベーションを検討する「場所」を考慮することはそれほど一般的ではないかもしれませんが、そういう考え方をする企業はどうやら実際に存在するようです。今回は、イノベーションと場所の問題、特にイノベーションを担う人材が集積する場所の活用について議論したWilliam R. Kerr著の論文「Navigating Talent HotSpots」[文献1]の内容から興味深く感じた点をご紹介したいと思います。

著者は、GEがコネチカット州のFairfieldからBostonの中心部への本社の移転を発表したことや、その他の企業でも都市への本社機能の移転が起きていること、さらに特許出願の分析に基づいて、「ボストンやサンフランシスコなどに集積するトップクラスの才能がイノベーションに及ぼす影響は特に顕著」になっていると述べています。そして、「企業が、都市に集まる知識やスキルからの恩恵をいかにうまく享受するか」という方法論について、以下の3つのオプションが考えられるとしています。

オプション1、本社の移転Headquarters Moves
・「デジタル分野での中心的都市(hub city)での地元大学出身人材のシェアは、全国平均の2~3倍であるのが一般的なので、才能を持つ人材へのアクセスを増やすことは重要な意味を持ち得ることになる。さらに、有能な若者の多くは、広い駐車場のある郊外の複合施設ではなく、流行の先端にあるダウンタウンのこぎれいなオフィスで働きたがる。」
・「本社の移転にはいくつかのリスクがある。既存の大企業にとっては、信じられないほど困難で、時間もかかり、費用もかかる可能性がある。既存の従業員を捨て、地方の顧客を変更し、新しい場所での政治的な関係や責任を確立する必要があることは、移転が破滅的結果を招き、才能ある集団が提供してくれる利益を帳消しにしてしまうことも意味する。」「才能のホットスポットは、浮き沈みの変化が激しいので、一時的な競争優位に過剰に投資しすぎる結果となることもある。」「そのリスクを緩和する一つの方法には、イノベーションとトップの意思決定者の鍵となるニーズに焦点を当てた、小さな本社を設けることがあげられる。」
・「第2のリスクとしては、才能の中心地で生まれたアイデアが組織の他の部分に広がらないことがあるという点だ。」「才能ある人材のローテーションによってこのリスクは軽減しうる。」
・「第3のリスクは、否定的な報道と政治的な力の低下だ。」「企業が離れていくことを望む都市はないが、悪い評判を生む可能性は新しい場所にも広がっていく。」
・「第4のリスクは、・・・中心地で採用が容易になったとしても、アイデアと有能な人材の流出に直面する可能性もあることだ。」
・「最後のリスクは、意図せず、予期もできない結果を生む可能性だ。」

オプション2、出先機関やイノベーションラボを設けるCreating Outposts and Innovation Labs
・「多くの企業は業界の重要な人材源にアクセスするために出先機関を設けている。そこでは小さなチームがその地方で何が起きているかに耳を傾けたり、ビジネスの発展の機会を探し求めたりする。」「出先機関を設けるのは本社の移動よりも費用がかからず、創業して間もないスタートアップを買収することでそれを効率的に成し遂げることもある。」
・「出先機関に伴う主なリスクの一つは、土地を選ぶ際に『安物買いの銭失い』になる可能性だ。」広告業界のように企業が相互協力をしているような場合には、「地理的な距離が離れるに従い協力関係が急速に薄れ、0.5マイル以上離れた会社間では協力関係がなくなるという調査がある。」従って、都市の中のどの地区か、にも考慮が必要だ。「一方で、オフィススペースを月極めで提供するCICのような企業もある。」
・「出先機関の利点のひとつは、小さなチームで将来の投資の可能性を確保するための実験ができることにある。」「もし出先機関がうまくいかなければ、それを閉鎖することも可能だが、それにはリスクもある。企業が非現実的なほど早く結果を出すことを期待している場合には、事業がうまくいかないと信じて、あまりにも早くあきらめてしまうことがある。」「新しい出先機関がうまくいくためには多くのことを学ばなければならない。発見のプロセスには時間がかかるものだ。とりわけ、本拠地から離れた人材集団に投資する場合にはなおさらだ。」
・「本拠地から離れた小さなチームが本部から能力不足と判断されてしまい、出先機関の幹部が、ローカルの起業家やイノベーターへの興味を失ってしまうこともリスクのひとつだ。」
・「イノベーションの出先機関のもう一つのリスクは、最良のアイデアやイノベーションが親企業に効果的に還流しないことだ。・・・適切な条件が設定されていないと、成果は孤立してしまう。」「効果的な対策の一つは、地区をまたがる協働チームを分散させることで、国際的な知識の移転を促進させることだ。」

オプション3、経営陣の視察旅行と集中研修Executive Retreats and Immersions
・「才能の中心地(talent cluster)への経営幹部の訪問は、イノベーションの加速への努力やビジネスモデル、経営手法に幹部の注意を向け、興奮を高めるためのコスト効率の高い方法だ。1週間の旅行では企業の複雑なイノベーションに欠けているものを補ってくれる成果が得られるほどのことはないが、最先端で何が起こっているか、会社がどう対応する必要があるかを根本から理解する助けとなる。」「この時、CEOは、すべての参加者に研修の高いコスト――特に経営陣の時間に対する機会コスト――を強調する必要がある。」
・「稀ではあるが、没入した研修のひとつの方法は、リーダーシップチームを外国に長期間駐在させることだ。」「また、企業は、集められた洞察が会社に戻った後も確実に活用しつづけられるようにしなければならない。」
・ただし、「経営幹部が間違った洞察を持ち帰るリスクがある。没入研修に参加する経営幹部は、注意深く聞き、質問すべき時に、誤ったことに目がくらんでしまうかもしれない。」

結論
・「今日におけるビジネス環境の顕著な特徴は、並はずれた才能を伴う少数の地理的なクラスターにイノベーション活動が集中する度合いが高まっていることだ。新技術による業界の破壊が続くなか、企業の運命はこうしたホットスポットにますます支配されるようになるだろう。本論文に述べたいくつかのアプローチをとることで、企業は鍵を握る地域の知性にアクセスし、変化の速いペースについていけるようになる。」
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技術的知性が集中するホットスポット(地域)がイノベーションにどの程度影響を及ぼすのかをはっきりと予測することは難しいかもしれません。おそらくはその影響度は地域や業界によっても異なるのではないかと思います。しかし、技術や知識の集中によってイノベーションを起こしやすい環境が形成されつつあるなら、企業やマネジメントの形までも柔軟に変えてその力を活用しようとしている企業があることはどうやら事実のようです。既存企業の発想では、ともすると従来のやり方や組織形態にとらわれてしまうこともあるように思いますが、それで新しい時代についていけるのか、もっと大胆な改革が求められているのではないか、ということは常に考えていく必要があるのでしょう。


文献1:William R. Kerr, “Navigating Talent Hot Spots”,Harvard Business Review, September-October, 2018, p.80.
https://hbr.org/2018/09/navigating-talent-hot-spots

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