研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2019年04月

イノベーションの方程式(「The Innovation Equation」、Bahcall著HBR2019, March-Aprilより)

どんな条件を満たせばイノベーションが成功しやすくなるのか、つまり、イノベーションの成功にはどんな変数が関わっていて、その関係はどのようなものなのか。現在までのところ、イノベーションの成功確率に関わる因果関係や相関関係を単純なモデルで理解することはできていないように思われますが、もし、それができるとすれば、イノベーションをマネジメントする手法はかなり進歩するのではないかと思います。

今回は、最近のHBR誌に発表された、こうした観点に関する興味深い記事、Bahcall著「The Innovation Equation」[文献1]をご紹介したいと思います。著者は、イノベーションに適した文化を持っていたはずの企業がなぜ、急にそれができなくなってしまうのかを考察し、イノベーションに必要な4つの管理パラメータを定式化しています。「文化」というとらえにくいものだけではなく、組織の仕組みについても注意を払う必要がある、という著者の指摘は、どのような研究組織の仕組みが重要なのかを考える上でも示唆に富んていると感じましたので、以下にその内容をまとめてみたいと思います。

イノベーションの方程式
・著者はまず、イノベーションに適した文化を持つとされていたGENokiaRIMのような企業、すなわち、「探索的で、『楽しく』、失敗に寛容で、独創的な仕事を育成する能力のある企業を例に挙げ、これらの企業が急に不調に陥ったことを指摘し、「このような企業が、業界を一変させるような『loonshots(筆者注*)』つまり『クレイジーな』プロジェクトを育てることから、なぜあまりにも突然、重要なイノベーションを拒絶するようになってしまうのか?」と問うています。
・そして、自身の経験や調査に基づいて、その変化過程を物理現象の相転移に喩え、「人間のグループが、ある大きさになると、過激なアイデアを採用することからそれを棄ててしまうことに変化することを見出した」として、それを「マジックナンバーM」と呼んでいます。

・このMは、M=(E×S2×F)/G と定式化されています。

ここで、EEquity fractionFFitness ratioSManagement spanGSalary Growthです。
・そして、「リーダーは、4つの制御パラメータを調整することでバランスを変えてMの値を上げ、大企業においてもラジカルなイノベーションを確実なものとすることができる。」と主張しています。

4つのパラメータの機能
・著者は、開発担当者が、実験などの研究開発活動と、上司や有力者のご機嫌取りの活動のどちらに時間を使うかの選択に注目しています。
・「企業におけるイノベーションの実際のレベルを決定づけるのは、トップが決める文化の変革ではなくて、すべての従業員が直面する、このような日々の選択である。イノベーションの構成要素となるloonshotは、壊れやすく、幅広いサポートが必要だ。机を叩いて鼓舞する主導者ひとりではアイデアを市場化することはできない。・・・『クレイジーな』アイデアを製品として成功させるには、組織全体の人々が彼らの時間をプロジェクトを進めるために――彼ら自身のためでなく――使うように刺激する必要がある。」

Equity fraction
・「この変数は、インセンティブが組織内の地位ではなく、仕事の成果をどの程度反映するかの程度を表す。・・・Equityはハードとソフトの2種がある。ハードequityには、ストックオプション、報酬、手数料、ボーナスなどがある。・・・金銭的なものではなく、同僚の承認といったソフトequityも重要だ。」「equityとして与えられるものがハードであってもソフトであっても、この比率が高いほど、政治的活動よりもプロジェクトの仕事に追加的な時間を費やすようになる。」

Fitness ratio
・「この変数には、プロジェクトとスキルの一致度(project-skill fitPSF)と、政治的活動からの利益(return on politicsROP)の関係が含まれ、F=PSF/ROPである。分子がプロジェクトに費やした時間から得られる報酬であり、分母は政治的活動から得られる報酬である。」
・「あなたのスキルとプロジェクトがよく合っている場合(PSFが高い)仕事に多くの時間を費やすことが有利になる。・・・一方、あなたのスキルがいま一つで、時間を費やしてもあまり効果が得られない場合、つまり、担当業務があなたに合っていない場合(PSFが低い)には、政治的活動に時間を使った方がよいことになる。」「ある場合には、プロジェクトの適合性が悪いのは、スキル不足だ。・・・しかし、プロジェクトのニーズに比べてスキルが高すぎて、能力のごく一部しか貢献に使われない場合も問題だ。・・・政治的活動をするための多くの時間を持ってしまうことになる。」
・「分母のreturn on politicsは、・・・ロビー活動やネットワーキング、自己宣伝が昇進に影響する度合いだ。」

Management span
・「span of controlとも呼ばれることのあるこの変数は、企業の幹部が抱える直属の部下の数の平均値だ。」
・「組織が多くの階層を有している場合――つまり、spanが狭い――、誰もが昇進を考え、『研究者は問題解決よりも肩書きやステータスのことを心配してしまう』とインターネットのパイオニアであるBob Taylorはかつて述べた。」管理範囲が広ければ、階層が少なく、「昇進はめったに起こらないので、誰もそのことを考えず、その代わりに仕事に集中する。同じ階層の仲間による大きなグループは、『継続的なピアレビュー』が形成される、とTaylorは言う。『エキサイティングでチャレンジングなプロジェクトは、金銭的あるいは管理上のサポートより多くのものを獲得し、他の研究者の参加と援助を受ける。その結果、価値ある仕事が繁栄し、面白くない仕事は衰えていく。』」
・『狭いスパンは、広いものより本質的に悪いわけではない。エラーの率を下げ、高度に卓越した運用を求めるならば狭い方がよい。実験や、loonshotや新技術の開発を促すには広いスパンの方がよい。』

Salary growth
・「従業員が昇進するにつれて受け取る基本給(とその他の特典)の平均上昇も、もうひとつの重要なファクターだ。・・・昇級率が小さければ、人々はその日の最後の時間を政治的活動以外のことに使うようになるだろう。最近の学術研究も同じ結論に至っている。『(給与の)格差の増大は、生産性の低下、協力の減少、離職率の増加と関連がある』とのことだ。」

総合する
・「企業がこれらの制御因子を調整してM値を大きくし、イノベーションを促すには多くの方法がある。いくつかを以下に示す。」
・「職階ではなく結果を称える」「equity fractionを増やし、salary growthを下げるには、管理者は、階層のレベルではなく結果により基づいた報酬構造にすべきだ。今日ほとんどの企業は逆のことをしている。・・・職階ではなく結果を称えるということは、報酬の仕組み、さらにはデラックスな幹部用保養所、特別な食堂、便利な駐車場といった、多くの人の目に見える特権をなくす(か減らす)ことを意味する。
・「soft equityを使う」「多くの研究は、何に動機付けされるかは人によって違うことを示している。・・・企業は従業員が担当するプロジェクトの成功により献身するように、金銭的であるかどうかを問わず、使えるすべての手段を特定して使うべきだ。」
・「方程式から政治を取り去る」「従業員には昇給や昇格を求めてロビー活動をしても無駄なことを理解させる必要がある。」
・「トレーニングに投資する」「新しいことを学べば使ってみたくなる。トレーニングは、従業員がプロジェクトに多くの時間を使い、ロビー活動やネットワーキングに使う時間を減らすことを促す。」
・「完璧な従業員の配置」「定期的に組織がproject-skill fitを達成できているかを監視し、新人からベテランまですべての人が、適切な時に適切な仕事に就くようにするために、個人や小さなチームを任命する。」
・「スパンの微調整」「ラジカルイノベーションを目指すグループには、管理スパンを広げ、統制を緩めるようにすべきだ。」
・「最高インセンティブ責任者を任命する」「組織には、インセンティブの微妙な調整ができるように訓練され、最新の報酬システムの実現に専念するトップレベルの役員が必要だ。」

結論
・「我々は、企業が突然、不思議な変化をするのを見てきた。・・・人も、文化も同じなのに、人々が突然チャンスを掴まなくなるのだ。・・・会社が大きくなったとしても、よりイノベーション志向的なチームを育てるために、カギとなる要因を管理していくことはできる。
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著者の指摘の特に興味深い点は、一口に「やる気」と行っても、昇進や好待遇を求める政治的活動と、プロジェクトを成功するための活動のそれぞれに対するやる気を区別して考えることだと思います。おそらく、今までの社会では、昇格や昇級と、プロジェクトの成功はつながっていることが多かったのではないでしょうか。しかし、イノベーションの成功のための努力と、昇級昇格のための努力の方向性が違っているとすれば、どちらを促すべきなのかはきちんと考えておく必要があるでしょう。

著者の提示する式がすべてのイノベーション活動を説明する式だとは思いませんが、イノベーションの成功要因のうち、担当者のモチベーションの影響を理解する上では新しい視点を提供してくれるものだと思います。例えば、成果主義を目指すとしても、ロビー活動の努力が成果の評価に入り込んでくるような制度では問題があるということになるでしょう。また、組織の大きさも、管理が重要なのか、自由が重要なのかによって調整する必要があるように思います。

私の経験から言っても、不確実性の高い研究の実施には高いモチベーションとコミットメントが求められると思います。もし、モチベーションやコミットメントの邪魔になるような要因があるなら、それが政治的活動への欲求であったとしても、それ以外の欲求であったとしても、それは極力減らす工夫をすべきなのではないでしょうか。それが、長くイノベーティブな組織である上で重要だ、ということになるのでしょう。


文献1: Safi Bahcall, “The Innovation Equation”, Harvard Business Review, March-April, 2019, p.74.
https://hbr.org/2019/03/the-innovation-equation

筆者注*:著者は近著”Loonshots: How to Nurture the Crazy Ideas That Win Wars, Cure Diseases, and Transform Industries”, 2019で、moonshotloonshotを次のように定義しています。
Moonshot: (1)The launching of a spacedraft to the moon; (2) an ambitious and expensive goal, widely expected to have great significance.
Loonshot: A neglected project, widely dismissed, its champion written off as unhinged.
Loonahot
の部分を訳せば、「無視されたプロジェクト、広く忘れ去られ、その主導者は錯乱していると見なされている」という感じでしょうか。


「人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う!」(サリヴァン、ズタヴァーン著)より

ビッグデータやAIの活用が、人々の活動に大きな影響を与えつつあることは最早間違いのないことのように思います。未知のことに挑戦し、将来をよりよくしていくことが研究者の責務の一つであるとすれば、こうした技術の流れを無視することはできないでしょう。しかし、AIの活用にはどんな課題があり、どのように使いこなしていくべきかという問題についてはまだ手探りのところも多いような気がします。

今回は、サリヴァン、ズタヴァーン著「人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う! リーダーの発想と情熱がデータをチャンスに変える」[文献1]から、AI活用の問題を考える上で参考になりそうな内容のポイントをまとめてみたいと思います。著者は、アメリカのコンサルティング会社、ブーズ・アレン・ハミルトンでデータサイエンス関連の業務に携わっている方で、単なるAIへの期待ではなく、機械と人間がどう協力していくべきかという視点も含めて議論がなされており、安直な未来予測とは異なり企業の実務家にも役立つ指摘がなされていると感じました。以下、興味深い点をまとめたいと思います。

はじめに:マセマティカル・コーポレーションの巨大なる知性(ビッグマインド)
・「マシンインテリジェンス(機械知能。MI)を利用すれば、これまで覆い隠されていて不明瞭だったいくつもの規則性、変則性、あるいは関連性が見えてくる。だが、この能力は技術だけに由来するものではない。それは新たなかたちのリーダーシップの結果でもある。こういうリーダーシップこそが、我々が長いあいだとらわれてきた考え、とりわけ、『最善の決断は常に直感と経験に基づいている』という頑なな信念による制約を打ち破り、暗闇を照らす。・・・数百もの組織を調べた結果、未来で成功する組織モデルの構築に必要な要素を抽出することができた。私たちはそうした新たな組織を『マセマティカル・コーポレーション(MI活用組織)』と名付けた。[p.9]」
・「決して、人間がリーダーシップの役割をいずれマシンに明け渡すという意味ではない。むしろ、その逆である。マシンがそのレベルに到達するまでの道のりは、まだまだ遠い。マセマティカル・コーポレーションは、人間だけが持つ資質をより高いレベルで活用するために、新しく刺激的な方法を提供する組織だ。つまり、デジタル世界のマシンによる人間の思考とよく似た作業によって、我々が実世界で役立てたい高度な人間の創意工夫を生み出すということである。とはいえ、この絶妙な組み合わせによる便益を実現できるのは、各マシンの作業結果を組み合わせて、可能性を引き出す方法を身につけたリーダーだけだ。そのために必要なのは、自身の成長と組織の改革である。両者なしには、マセマティカル・コーポレーションを成功させることはできない。[p.19]」

第1章:秘められた世界-埋もれている細かさを攻略する
・「マシンインテリジェンスという新たな時代で利益を生むために必要なものは何だろうか?・・・従来、人間の思考は、理解を助ける道具として手に入る技術の水準に縛られてきた。・・・データサイエンスというツールに人間の見識、創造性、革新的な思考を組み合わせれば、我々は現実を深く細かく具現化してまったく別の視点を手に入れ、新たな問いを立てることができる。[p.38]」
・「これからのコンピュータは協力し合う仲間として、我々が働いて暮らしている複雑なシステムの新事実を発見するための道筋を示してくれるだろう。[p.54]」「世界が変化してデジタルデータエコシステム(デジタルデータを共有しながら発展する社会)が生まれているなか、我々には複雑さを活用して人間の能力の新段階を目指すという選択肢が与えられるだろう。だが、それはあくまでマシンと連携した場合のみだ。[p.69]」

第2章:類いまれな連携-マシンと人の知性を融合させる
・「人間の認知能力」として「心理学者エドウィン・フライシュマンが挙げた21の能力を本書の目的に沿って再編し、それぞれが5つの項目からなる2つのグループに分けた。[p.78]」マシンが得意とする能力は、「言語の理解と言語による表現」「詳細や規則性の把握」「数値演算処理」「記憶」「情報の記録と整理」。人間の頭脳が勝っている能力は、「想像」「創造」「演繹的推論」「帰納的推論」「問題解決手法の構築」[p.79]」
・「技術者たちは人間のように考えて行動するマシンの開発に力を注いでいるが、マシンが本物の人間を模倣できるようになるのは、はるか先のことだ。とりわけ、我々の日々の原動力となる熱い思いは、とうてい真似できない。[p.115]」「高い理想をかなえようと必死で努力する。負けつづけても根性で困難を跳ね返す。実現不可能に思える発想を信じる。マシンはそんな数字では表せない衝動や憧れの気持ちを、人間から奪い取ることはできない。・・・熱い思いは世界をよりよい方向へ一変させる。我々はこの思いによって、貴重な何かを達成できるのだ。[p.116]」

第3章:不可能を可能にする問いかけ-制約があるという思い込み
・「本章では、もはや意味のない6つの制約を、我々が自身に課していることを示していく。・・・マセマティカル・コーポレーションの時代には、人は6つのガラスの箱を叩き割って飛び出し、自由の身になることによって、答えを出すのは不可能と思われていた問いを新たなかたちで立て直して、答えを見つけられる。[p.121]」
・「我々が自分の目の前につくる第一の壁は、世の中を枠にはめてしまうことだ。[p.121]」「第二の壁は、発見への取り組み方である。我々はおおむね、演繹的推論を使おうとする。つまり、真実を基に仮説を立て、それが正しいかどうかデータを検証して確認する。・・・一方、仕事の現場で帰納的推論を使うことはあまりない。・・・だが、マシンインテリジェンスを活用すれば帰納的推論を使う機会が増え、人間の知からだけでは見つけられなかった見識を手に入れられるだろう。[p.128]」「手持ちのデータを利用するのが最も有利だと思い込むという第三の制約を打ち破れば、何かを発見しようとする作業の重要性は、急速に上昇する。[p.133]」「限られた視野しか持たない人間に委ねてしまう[p.139]」「根拠よりも直感を優先させることは、リーダーがマシンインテリジェンスから最大の恩恵を受けることに対する、もうひとつの制約となっている。[p.144]」「多くのリーダーにとっての最大の心理的制約は、ひとつの問題解決法に固執してしまうことかもしれない。・・・一度で答えを出そうとするやり方はたいてい、あまりに狭量で近視眼的だ。[p.151-152]」

第4章、不可能を可能にする技術-最新の技術を使いこなす
・「問題は、組織は複雑なシステムに関する重要なデータを入手するために何ができるか、いや、何をやらなければならないかということだ。[p.164]」「現代の社会は・・・ありとあらゆる種類のデータを収集するデジタル機器が急増している。・・・多くのリアルタイムシステムから、新しい種類のデータが登場している。爆発的に増えるデータ量と、組織の垣根を越えて外部のデータがかつてないほど手に入りやすくなったことを組み合わせれば、発見、予測、最適化のとうてい放っておけないチャンスをつかめるだろう。[p.168]」「データレイクでは・・・データを説明する『メタタグ』というラベルがつけられている。・・・データレイクの第一の大きな利点は、検索や分析に役立つラベルであるメタタグを、各要素にいくつでもつけられるということだ。[p.170]」「一般的には、あらゆるデータを保存しておくためには、保管料が余計にかかってしまう。だが、この形式を利用すれば、思いがけない見識を手に入れる可能性を残しておける。[p.172]」「次は分析に向けたデータの準備だ。・・・各種のアルゴリズムを用いて、データの整理や訂正をする(データクリーニング)作業である。・・・データクリーニングにおけるさらなる注意点は、データの信頼性だ。・・・データを扱うときの基準となる『ごみを入れれば、ごみしか出てこない』の原則は、依然として的を射ている。[p.173]」「関係性を見つけるためのアルゴリズムの種類は、多岐にわたっている。最も簡単な例を次に紹介する。クラスタリング・・・回帰・・・分類・・・配列[p.179-180]」「事例によっては、マシンは人間にブラックボックス化された論理、つまり経緯の説明なしに結果だけを受け入れるよう迫ってくる。しかし、人間の思考回路は、結論に到達するために使われた論理を理解せずに、結果を受け入れるようにはできていない。[p.183]」「機械学習は、人間にとって従来の筋道をたどることができない例である。[p.184]」「通常データ準備と分析ツールの威力は、可視化というもうひとつのソフトウェア要素と組み合わせて初めて明らかになる。[p.192]」「最も気をつけなければならない落とし穴は、技術を先に導入してしまうことだ。組織は使い道を検討する以前に、データ準備、管理、分析、可視化用のツールに魅了されてしまうことがある。ツールを購入しさえすれば、宝を掘り当てられるだろうと思い込んでしまうのだ。だが実際には、探索を先導するうえで今なお欠かせないのは、リーダーの人間としての能力と理解力だ。手に入る技術の種類は増えたが、技術の特化も進んでいる。技術の導入でお粗末な選択をすれば、将来の組織に何の価値もないインフラがいとも簡単につくり出されてしまうことになる。[p.198]」

第5章:不可能を可能にする戦略-新たな「大きなもの」を生み出す
・「不可能を可能にする戦略を考えるにあたり、次の4つの問いかけを行ってみてほしい。(1)自身のマセマティカル・コーポレーションを、どんなエコシステムのなかで運営するのか?(2)解決不可能とされているどの問題を解決できれば、あらゆるものを一変させられるだろうか?(3)どういった『不可能を可能にする』解決策が考えられるか?(4)解決策を検証して、失敗から学ぶための最も優れた方法は何だろうか?実際の取り組みは、一直線に進むわけではない。4つのステップを経て、その後試作(プロトタイプ)と検証をひと通り行ったら、再び検証実験を繰り返すことになる。[p.206-207]」「多くの問いを立てるためのエネルギーや意欲はどこから湧いてくるのだろうか?・・・好奇心。それが鍵となる要因Xの答えだ。・・・好奇心を人間の創意工夫、マシンの学習、推測、検証を行う能力と組み合わせれば、誰もが賛同する、不可能を可能にする戦略を見つけて実行する力を身につけることができる。[p.236]」

第6章:力を広める-実現のとき
・「リーダーがマセマティカル・コーポレーションの構想を実現するための有効な手立てをいくつか紹介しよう。・・・『構想を広める』『組織文化の改革を引き起こす』『才能を開発する』の三つは、他のどんな手立てよりも効果が高いことがわかっている。[p.244]」「マセマティカル・コーポレーションが成功するためには、リーダーは組織のどの階級においても、次の3つの目標を達成しなければならない。第一の目標は、『間違う権利』を守るという意識を浸透させること。第二の目標は、・・・多種多様なチームを組んで仕事を進めること。三つめは、成功例を語って、マシンインテリジェンスの影響力を広めることである。[p.251]」「不可能を可能にする戦略の遂行における第三の大きな課題は、優秀な人材を発掘することだ。[p.268]」「最も重要な特徴は・・・失敗を乗り越えられる柔軟性と、古いアイデアを捨てて新しい手法を試そうとする意欲だ。[p.270]」

第7章:善か悪か。議論は突然涌き起こる-不可能を可能にする戦略と倫理
・「倫理的な意思決定の試金石として利用できる、二つの主要な学派の倫理的推論がある。すなわち、行動に基づく推論では、行動が正しいか間違っているかの判断の基準は行動自体にあり、他の要因とは切り離して考える・・・。帰結に基づいた推論では、行動が間違っているかどうかは将来の結果にかかっている。功利主義と呼ばれる、最大多数の最大幸福をもたらす判断は倫理的と考えられている。[p.290]」
・「倫理的な問題の対処にどの倫理的推論を使うかを事前に決めておくために、次の4つについて考えることを強く勧める。データの取り扱いにおける透明性、プライバシーの保護、データの所有権、データの機密保護[p.291-292]」

第8章:不可能を可能にする解決策-社会の最大の問いに答える
・「伝統を打ち破る変化を起こすためには、次の4つの点で変わらなければならない。世界規模の問題を、自分のものとして捉える。保有している大量のデータの価値をより多くの精鋭に見つけてもらうため、データを公開する。組織の使命が世界規模の使命にどう関わっているかを理解する。企業の価値観や目的と方向性が一致する、優先度の高い慈善目的を追求する方法を考える。[p.330-331]」
・「マシンインテリジェンスの未来力を手に入れるために必要な基本的な変化は、過去のリーダーのやり方を前に進めても起こらない。新しく生まれたマセマティカル・コーポレーションのリーダーとしての手法を身につけ、使いこなすことで変化が訪れるのだ。これが、あと何年かのちに、不可能を可能にする方法である。[p.361]」

おわりに:-直感に逆らう
・「本書によって、マセマティカル・コーポレーションを率いるためのリーダーの能力を、より迅速に身につけてもらえたら幸いだ。・・・新しい原則のなかでも、私たちがとくに気に入っている、絶対に忘れてはならないポイントがいくつかある。・・・ここで改めていくつか紹介しよう。複雑さは重荷ではなく恩恵である・・・マシンは直感より信頼できる・・・マシンモデルはメンタルモデルより優れている・・・解決策に理屈はいらない・・・与えることで価値を創造する・・・経験なしで飛躍する・・・完璧なスタートはそうでないものに勝てない[p.365-368]」
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AI
やデータサイエンスの効能が喧伝されるとともに、それですべての問題が解決できるかのような錯覚にとらわれてしまう場合もあるように思います。しかし、実際は、著者が指摘しているように、機械と人間が互いの能力のよいところを組み合わせてデータを使うようにしない限り、大きな成果は得られないのではないでしょうか。それには当然、マネジメント上の困難もあるはずです。データサイエンスは現在も発展途中の技術だと思いますので、これからも姿を変え、著者の指摘の妥当性も変わっていくかもしれませんが、著者の考え方は実務家にとっても示唆に富んだもののように思いますがいかがでしょうか。


文献1:Josh Sullivan, Angela Zutavern, 2017、ジョシュ・サリヴァン、アンジェラ・ズタヴァーン著、尼丁智津子訳、「人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う! リーダーの発想と情熱がデータをチャンスに変える」、集英社、2018.
原著表題:The Mathematical Corporation: Where Machine Intelligence [+] Human Ingenuity Achieve the Impossible


「BLUE OCEAN SHIFT」(キム、モボルニュ著)より

ビジネスにおいて競争の激しい分野をレッド・オーシャン、競争のない分野をブルー・オーシャンと呼び、ブルー・オーシャンで活動すること、ブルー・オーシャンを創造していくことが重要だとする考え方は広く知られていると思います。競争がなければ成功しやすいだろうことは直感的にわかりやすいですし、競争に勝つことが経営戦略のポイントだとする考え方に一石を投ずる意味あいもあって、この考え方は多くの方の支持を得ているようですが、ブルー・オーシャンであるというだけで成功が保証されるものなのか、ブルー・オーシャンは永遠にブルーでいられるのか、など、実践の立場としては疑問がないわけではないと思います。

今回は、2005年に「ブルー・オーシャン戦略」を出版したキム、モボルニュによる、その続編ともいえる「BLUE OCEAN SHIFT ブルー・オーシャン・シフト」[文献1]の内容をご紹介したいと思います。本書では、ブルー・オーシャンをいかに見つけ、作り出すかという手法に重点をおいて述べられていて、実務の役に立つ点も多いと感じましたので、そのような点を中心に以下にまとめてみたいと思います。

第1部、ブルー・オーシャン・シフト
第1章、至高の先へ

・「ブルー・オーシャン・シフトは、血みどろの競争が展開する非情な市場、つまり多くのサメが棲むレッド・オーシャンから、競争のない新規市場、すなわちブルー・オーシャンへと、人々と一緒に移行するための、体系的な行程なのである。[p.7]」
・ブルー・オーシャン・シフトを成功させる3つのカギ:1,「ブルー・オーシャンの視点:人々の視野を広げ正しい方向へと導く」、2,「市場創造ツールと活用指針:創造性を培い、新たな価値コスト・フロンティアを開拓するためのツールとその使い方、3,人間らしいプロセス:効果的な実行に向けて、皆が一人称でプロセスに取り組み推進していけるよう、自信を培い強めていく」[p.27]」「アメとムチや組織改編にはそれぞれ役割があるが、大胆な変革を起こすうえで不可欠な自信を人々に植え付ける効果は乏しい。[p.24]」
第2章、市場創造戦略の基本
・「我々は『攪乱的創造』(disruptive creation)という造語を考案した。幅広い意味を持つこの造語は、代替によって生じる市場創造機会を、部分的にではなくすべて包含する。攪乱的創造は、創造的破壊と攪乱的イノベーション、どちらに起因するにせよ重要ではあるが、市場創造機会はこれだけではない。我々の研究が示すように、既存市場を攪乱せずに新規市場が生まれた事例は多々ある。[p.35-36]」(筆者注:本書ではdestructiveという用語との区別のため、クリステンセンの破壊的イノベーション(disruptive innovation)を「攪乱的イノベーション」と訳しています。[p.54訳者注])
・「研究からは、市場創造戦略ひいてはブルー・オーシャン・シフトの実行には、三つの基本手法があることが判明した。業界の長年の懸案を打開する解決策を示す、業界の長年の懸案を再定義したうえで解決する、真新しい問題を見つけて解決するか、真新しい事業機会を掴み取る[p.41]」「業界の従来からの課題に打開策を提供すると、一般に攪乱的創造が実現する。真新しい課題を見つけて解決したり、真新しい事業機会を掴み取ったりすると、たいていは非攪乱的創造が起きる。そして、既存の課題を再定義して解決するには、攪乱的と非攪乱的、両方の創造の特徴を活かすことになる。[p.47]」「実のところ、優れた市場創造戦略は往々にして、技術イノベーションにはまったく頼らない。[p.49]」
第3章、ブルー・オーシャン戦略家の発想
・「ブルー・オーシャン戦略家は、業界の置かれた状況を当然だとは見なさず、むしろ、自分たちに有利に変えようとする。[p.64]」「競合他社を叩きのめそうとはしない。彼らの狙いはむしろ、競争を無意味にすることである。[p.68]」「既存顧客の奪い合いではなく、新たな需要の創造と確保に注力する。[p.70]」「差別化と低コストを同時に追求する。価値とコストのどちらかを選ぶのではなく、二兎を追うのである。[p.72]」
第4章、人間らしさ、自信、創造性Humanness, Confidence, and Creative Competence
・「人間は逆説に満ちた存在である。変化を起こしたいと切望する。・・・ただし、それと同時にたいていの人は『できないのではないか』と不安を抱く。不安を取り除く必要があるのだ。・・・組織においては、隙を見せたり、自分の殻を破ったりすると、たいてい『地位、尊敬、安全、権力を失うのではないか』という不安が湧いてくる。このため、私たちは可能性を探るのではなく、現実にしがみつく傾向がある。[p.75]」「こうした人間の根本的な真実に対処しなかったり、ないものとして扱ったりするせいで、創造性や革新性の向上を目指す変革の努力や試みは失敗続きなのである。そのような施策は、『人間らしさ』を意識してプロセスに組み入れていない。[p.76]」
・「ブルー・オーシャン・シフトのプロセスには、行動への自信を培う助けになるよう、人間らしさのさまざまな側面に対応した三つの要素が組み込まれている。細分化、体験に基づく発見、公正なプロセスである。[p.78]」「ブルー・オーシャン・シフトの実践は、市場へのアプローチの大胆な変更を意味するが、あえて、組織内ではそう受け取られないよう配慮している。目標があまりに遠大で斬新だと分かっているからだ。[p.78]」「取り組み全体を小さな具体的ステップに分けて、少しずつ前進しながら自信を引き出し、深めていくのである。・・・我々はこれを『細分化』(atomization)と呼んでいる。[p.79]」「組織においてたいていの人が目にし、真実として受け止めているのは、競争の熾烈なレッド・オーシャンであり、これが感性と理性、両方にとっての避難先である。このため、たとえ望ましくないと分かっていても、レッド・オーシャンにしがみついてしまう。・・・『既存戦略をどう変える必要があるか』と質問して人々の世界観に挑むのは、以上のような自然な傾向に反する。・・・我々の研究から得られた答えは、『人々が変革の必要性を、誰かから教わるのではなくみずからの体験から悟るような状況を、生み出す』というものだ。[p.80]」「公正なプロセスは、私たちの人間としての本質的な部分に関わるものである。信頼という贈り物をくれ、緊張を解き、熱意や自発的な協力を引き出してくれる。[p.81-82]」「公正なプロセスとは要するに、・・・関与、説明、明快な期待内容に凝縮される。・・・関与とは、戦略的判断に皆を積極的に巻き込むという意味である。・・・説明とは、ブルー・オーシャン・シフトのプロセスや各ステップの戦略判断の基本をなす考え方を、分りやすく説くということだ。・・・明快な期待内容は、・・・何を期待できるのか、役割と責任は何かを、皆にはっきり説明するのだ。[p.82]」「公正なプロセスを通して『自分は尊重されている』と知ると、心の奥底で何かのスイッチが入る。公正なプロセスにより、私たちは理性的になる。性急な判断を避けて信用を築き、他者の意見に耳を傾け、学習と比較をし、貢献するようになる。さもないと、侮辱されたと感じて、内心では他人の意見など受け入れまいと誓いながら、表向きは受け入れる素振りをいとも容易にしてしまう。[p.83]」

第2部、ブルー・オーシャン・シフトの5つのステップ
STEP
 1、準備に取り掛かる

第5章、出発地点を決める
・「ブルー・オーシャンの創造に乗り出すに当たっては、必ず『何から始めるか』が問題になる。・・・つまり、どの事業または製品・サービスに挑むかを見極めるのだ。[p.99]」
・「複雑な組織でもブルー・オーシャン戦略の対象範囲を決められるよう、PMSマップ(pioneer-migratior-settler map)・・・を考案した。[p.100]」「『買い手にどれだけ革新的な価値を提供しているか』という切り口で製品やサービスを品定めすると、自社のポートフォリオがいかに戦略的に脆弱ないし健全であるか、本当の姿が見えてくる。・・・これを探るために、PMSマップには以下の3つのセグメントが用意されている。[p.102]」「パイオニア:バリュー・イノベーションを体現する事業や製品・サービスを指し、その購入者や利用者は顧客ではなく愛好者(ファン)と呼ぶにふさわしい。かつてない素晴らしい価値を提供し、新たな価値コスト・フロンティアを買いたくする、ポートフォリオ刷新のカギを握る存在である。戦略は競合他社と一線を画し、利益を伴う力強い成長が見込まれる。安住者(settler):パイオニアの対極をなし、顧客にもたらす価値は二番煎じによるものである。製品や価格を少しずつ変える競争手法をとり、戦略は同業他社と横並びである。業界自体が成長し利益を上げていない限り、大きな成長は見込めない。移行者(migrator):パイオニアと安住者の間に位置する。競合他社よりも優れた価値を提供し、業界内で最高水準かもしれないが、『革新的』と呼べるほどではない。[p.103]」「ポートフォリオを強固にするには、健全なパイオニアが必要だが、その反面、市場の期待に応えたり経営資源を準備するために、安定的な売り上げも求められる。この点で大きな付加価値をもたらすのが安住者と移行者である。[p.117]」「理想的には、以下の四つの基準すべて(あるいは最も多くの基準)を満たす事業ないし製品・サービスを選ぶとよい。第一の基準は、安住者または安住者に非常に近い移行者であり、現在はレッド・オーシャンで競争していることだ。第二の基準として、責任者がレッド・オーシャンからの脱出を強く願い、そのためには戦略の抜本的な最高が不可欠だと認識していること。・・・第三の基準は、他に大きな施策が進行していないことである。・・・第四の基準は、事業や製品、サービスが背水の陣を敷いていることである。[p.118-119]」
第6章、望ましいブルー・オーシャン・チームの構築
・「誰をチームに入れるべきだろうか。・・・全体で10~15人のチームを目指すべきである。少なくとも、主な職能部門すべてが人材を出し、貢献の機会を得て、変革の必要性を実感する必要がある。[p.125-126]」「彼らは変革の各ステップにおいて、自分の属する職能部門や階層とのパイプ役を果たし、チームの最新の知見をみずから広める。こうして知見が信頼され、変革プロセスの健全性が証明される。[p.127]」

STEP
 2、現状を知る
第7章、現状を明確にする

・「戦略キャンバスは、自社の製品・サービスが何にどれくらい力を入れているかを、他社製品と比較、分析し、一枚にビジュアル化したものである。[p.139]」「現状の戦略キャンバスを作成するために、最小で5つ、最大で12の競争要因を特定しよう。[p.147]」「比較対象とする企業を選んだら、次は、自社と他社の事業ないし製品・サービスが各競争要因をどれだけ提供しているかを評価する。・・・1は『非常に低い』、3は『平均』、5は『非常に高い』というような、5段階のリッカート尺度(あるいはその派生形)を用いて、競争要因ごとに自社と他社の製品を評価する[p.153]」
・「現状の戦略キャンバスが出来上がったら、競争の現状、業界の前提、既存企業の戦略の類似度合いが、その一枚の図から見てとれる。[p.162]」

STEP
 3、目的地を思い描く
第8章、業界の規模拡大を妨げる苦痛を探り当てる

・「苦痛とは・・・事業、製品、サービスの特徴のうち、買い手が意識しているかどうかは別として我慢せざるを得ず、買い手にとっての効用を減らしたり、あまりに不便であるため非顧客層を代替物に向かわせたりするものを指す。・・・苦痛は制約にはならない。競争状況を変えるための紛れもない機会なのである。[p.166-167]」
・「買い手の効用マップは、『自分たちの業界を含むほぼすべての業界が、解決すべき大きな問題を抱えている』という気づきを引き出す役割を果たす。・・・まずは顧客経験の全体を概観する。・・・顧客経験は6つのステージに分けることができ、概ね、購入、納品、使用、併用(製品を使う際に必要となる他の製品やサービスとの併用)、保守管理、廃棄という順序を辿る。[p.169]」「買い手の効用マップは、効用を高めるために使用可能な主なテコ(手段)をも示す。横軸に顧客経験の6つのステージが並ぶのに対して、縦軸には6つのテコが並び、全体として36の『効用スペース』ができる。[p.171]」顧客の生産性、シンプルさ、利便性、リスク低減、楽しさや好ましいイメージ、環境への優しさ、が挙げられています。「効用を妨げる要因が見えてきたら、問題が明らかになった欄に『×』を記入していこう。・・・仕上げに、業界が重視する分野に『』を記入しよう。[p.176-177]」「呆れるほど多くの組織が、顧客経験の全体像あるいはその途中で顧客が感じる不便や苦痛について、幅広く理解せずにいる。[p.182]」
第9章、非顧客層の海を見つけ出す
・「我々は非顧客層の3つのグループを定義、特定するためのフレームワークを開発した。[p.193]」「非顧客層の第1グループは、すぐにでも離反しかねない顧客全体を指す。仕方なくあなたの業界の製品やサービスを購入しているだけで、望んでそうしているのではない。[p.194]」「非顧客層の第2グループは、あなたの業界の製品やサービスについて、あえて検討したうえで購入や利用を控えるという結論を出した人や企業を指す。つまり、拒絶しているのだ。理由は、別の業界がよりよくニーズに応えているか、あなたの業界の価格水準が高すぎて手が出ないか、どちらかだろう。[p.195-196]」「第3グループの『未開拓の』非顧客層は、現状では一見したところ無関係な市場にいる。[p.194]」「目的は、非顧客層の各グループを構成するのは主にどのような人または組織なのか、チーム全体の見解を引き出すことである。[p.204]」

STEP
 4、目的地への道筋を見つける
第10章、市場の境界を体系的に引き直す

・「6つのパスというフレームワークは、市場を見るためのレンズを変えて、新しい価値コスト・フロンティアを開拓するための、6つの体系的な手法からなる[p.220]」
・「パス1:代替業界に学ぶ・・・このパスの狙いは、・・・同じ目的のために非顧客層が頼る解決策や業界を数え上げることである。重要なのは業界内の代替案ではなく代替業界である。[p.222]」「ここでの狙いは、自分たちの業界ではなく別の業界の製品やサービスが選ばれる理由を掘り下げ、購入の決め手となる要素をうまく組み合わせる方法を探し、他の要素は減らすか取り除くかして、新しい市場空間を開拓することである。[p.223]」「パス2:業界内のほかの戦略グループから学ぶ[p.225]」「パス3:別の買い手グループに目を向ける・・・誰が購入判断に関わるかを考える際には、現在は無関係だがこれから判断プロセスに関わる可能性がある、潜在的な影響者を考慮すると有意義である。小売店は、複雑な購入判断に関わる場合があるが、往々にして見過ごされている。[p.230]」「パス4:補完財や補完サービスを見渡す・・・顧客が求めるトータル・ソリューションを見渡して、製品やサービスの価値を増減させる補完財や補完サービスについて理解する[p.232]」「パス5:機能志向と感性志向を切り替える[p.236]」「パス6:外部トレンドの形成に加わる・・・環境変化に応じて顧客が重視するものがどう変わるか、それによって長期的に企業のビジネスモデルにどのような影響が及ぶかを探るとよい[p.239-240]」
第11章、代替となるブルー・オーシャン戦略の立案
・「4つのアクションという分析枠組みを紹介する。この枠組みを用いると、チームが市場調査を通して突き止めた事柄を、差別化と低コスト両方を実現するための、具体的行動につながる戦略オプションへ落とし込むことができる。[p.252]」
・「取り除く:業界常識として製品やサービスに備わっている要素のうち、取り除くべき物は何か」「減らす:業界標準と比べて大胆に減らすべき要素は何か」「増やす:業界標準と比べて大胆に増やすべき要素は何か」「創造する:業界でこれまで提供されていない、今後創造すべき要素は何か」[p.253

STEP
 5、戦略を絞り込み、実行に移す
第12章、ブルー・オーシャン戦略の選択と短期の市場テスト

・「実行に向けて戦略を絞り込むには、ブルー・オーシャン見本市を開催するとよい。・・・このイベントでは、チームが考案した戦略案について、公開の場でフィードバックや評価を募る。それをもとにどの戦略案を実行に移すかを決め、新しい価値コスト・フロンティアを開拓するには、どういった点を改善ないし克服する必要があるかを見極めるのだ。[p.275]」
・「ブルー・オーシャン・チームに対しては、・・・顧客になってほしい潜在顧客層を対象に最終候補製品の試作品を使って短期の市場テストを行うよう、せひとも要請すべきである。[p.296]」
第13章、ブルー・オーシャン戦略の完成と実行
・「次はビジネスモデルを完成させる番である。その目的は全体像を示すことにある。つまり、戦略の価値やコストが、どう顧客にとっての有用性を飛躍的に高め、自社に利益あるい力強い成長をもたらすのか、その経済ロジックを説明するのだ。[p.298]」
・「最初は小さく始め、その後スピードを上げて規模を拡大するのが、最も賢明な展開戦略である。[p.315]」

むすび:国家によるブルー・オーシャン・シフトの実例
・マレーシア・ブルー・オーシャン戦略研究所(MBOSI)の例、「マレーシア政府は2009年以降、合計100以上のブルー・オーシャン施策を始動[p.329]」

付録:日本企業での事例:ニューズピックス、JINS、ソラコム、パーク24(ムーギー・キム、川上智子、ミ・ジ)
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ブルー・オーシャン戦略を考える場合、クリステンセンの破壊的イノベーションとの違いはやはりひとつの論点になると思います。著者らは既存企業に取って代わるかどうかを大きな違いとしているようですが、破壊的イノベーションにおいても「新市場型」の破壊の場合には、直ちに取って代わるというものでもないと思いますので、結局のところ大きな違いはないのではないか、というのが率直な感覚です。ブルー・オーシャン戦略では基本的に既存企業との競争は想定されていないのに対し、破壊的イノベーションでは、既存企業と新興企業との競争の力学までが考慮されている点が大きな違いかもしれませんが、その違いは単に新しい市場が置かれた状況(競争環境の激しさ)の違いによって、どこまでを考慮対象とすべきかが変わる、ということのように思います。

ただ、ブルー・オーシャン戦略において、競争をあまり考慮していない点については、気になることもあります。新市場を創造して最初に参入する段階では、もちろんブルー・オーシャン戦略に問題はないと思うのですが、その後、後発者が模倣してきた場合にどうなるのか、レッド・オーシャンになってしまうのではないか、という点です。それに対する明確な回答は本書には示されていないと思いますが、単なる思いつきでブルー・オーシャンに参入する場合と、本書に述べたようなプロセスを辿って参入する場合ではビジネスの完成度が違うだろうという点がヒントになるかもしれないと思います。つまり、著者が主張する人間らしいプロセスをも構築した上で新市場に進出するなら、単に表面のみを模倣してくる後発参集者に対して優位に立てる可能性があるように思います。破壊的イノベーションの場合は、既存企業の不均等の意欲(新規市場に参入しにくい事情)により、破壊者は初期段階で優位に競争を進めることができるとされていますが、著者が提案している参入プロセス自体がブルー・オーシャン戦略における競争力の源泉となりうるのかもしれません。

いずれにせよ、ブルー・オーシャン戦略は、新規市場に参入する方法としては実務的にも有用な方法だと思いますし、参入後もレッド・オーシャンになりにくい場合(例えば、国の政策などは企業間競争とはあまり関係しないように思われます)にも有用な方法なのではないかと思います。また、本書に示されたツール類には、普段のマネジメントにおいても活用可能なものもあるように思います。実務面でも使える手法になりつつあると思いますが、いかがでしょうか。


文献1:W. Chan Kim, Renée Mauborgne, 2017W・チャン・キム、レネ・モボルニュ著、有賀裕子訳、「BLUE OCEAN SHIFT ブルー・オーシャン・シフト」、ダイヤモンド社、2018.
原著表題:Blue Ocean Shift: Beyond Competing - Proven Steps to Inspire Confidence and Seize New Growth


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