研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2019年05月

研究開発マネジメントノートIV「研究開発マネジメントの知識と不確実性に基づく研究マネジメント」第1回:はじめに

本ブログでは、研究マネジメントに関する基礎的な知識をまとめ、よりよい研究開発の進め方、マネジメント方法について考えることを目的に「ノート」と題した一連のシリーズ記事をおよそ月1回のペースで書かせていただいています。

今までのシリーズはおよそ以下のような感じでまとめました。
シリーズ1:2010年~、「ノート(研究マネジャー基礎知識)」と題して、一般的な知識の整理を試みました。(全14回)
シリーズ2:2013年~、「ノート改訂版」として、シリーズ1の補充改定に加え、私のコメントも入れた形でシリーズ1の各記事を改訂しました。(全14回+補遺3回)

シリーズ3:2016年~、題名を「ノート全面改訂『研究開発マネジメントの実践と基礎知識』」と変更し、全体の構成はシリーズ1,2と同じとして、研究開発マネジメントをうまく行う方法についての私の考え方も入れ、内容も増やしました(全41回)。

シリーズ3が約3年に及んでしまったこともあり、書いている最中から過去の記事の改訂の必要性を感じていましたし、シリーズ1~3で構成を変えなかったことも見直しの必要があるのではないか、とも思っていました。そこで、今回のシリーズ4では内容のアップデート、見直しに加え、全体構成の見直しも行いたいと思います。

具体的には以下のように見直すことを考えています。
内容の整理:シリーズ3をまとめてみて、私が考える研究マネジメントの根本は、研究に伴う「不確実性」を重視することにある、と思えてきました。そこで、今回は「不確実性」の視点をより強調して、その視点からマネジメント手法をまとめられるかを試みてみようと思います。ということで、今回のシリーズ4の副題は「研究開発マネジメントの知識と不確実性に基づく研究マネジメント」とさせていただくことにしました。ただ、この副題は長いので、通称は単に「研究開発マネジメントノートIV」で進めたいと思います。
構成の見直し:前3シリーズでは、研究開発とはどのようなものかについての議論をまず行い、実践のマネジメントについては、「テーマ選定」について考えた後、「組織と人のマネジメント」について考察し、その後に「研究プロジェクト運営」の議論をしていました。実践において重視すべき順番はこの順でよいと思うのですが、実務的観点からは、テーマを決めた後すぐプロジェクト運営の説明があったほうが役立てやすいのではないか、とも思います。

というわけで、以下のような構成としたいと思います。なお、各トピックスが、シリーズ3のどの回に対応するかもリンクとして加えてみました。シリーズ4において未改訂のトピックスは、シリーズ3の対応記事を見ていただければ(ちょっと古いですが)大体のことはわかる、というように改訂を進めていきたいと思います。

シリーズ4の構成(予定)と対応するシリーズ3の記事リンク
はじめに→第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと
1.1
、研究開発とは? →第2回第3回
1.2
、研究開発活動が本来(内生的に)持つ不確実性→第4回第5回
1.3
、研究開発活動に影響する外生的不確実性(環境要因)→第6回第7回
2、研究開発プロジェクトのマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
・課題実現の不確実性(技術)に関わる研究テーマの設定→第10回第11回
・ニーズの不確実性に関わるテーマの設定→第12回第13回
・市場で収益をあげる方法(ビジネスモデル)の不確実性に関わるテーマの設定→第14回第15回
・やりたいことに基づくテーマ設定→第16回
・テーマを選ぶ→第17回
2.2
、研究プロジェクトの運営
・研究プロジェクトの進め方→第30回第31回
・研究プロジェクトの方向転換と中止→第33
・可視化による運営のマネジメント→第34回第41回
・失敗を避ける→第35回第36回
・コラボレーションのマネジメント→第32回
2.3
、研究成果を次の段階に生かす
・研究成果を使ってもらう(普及させる)には→第37回第38回
・得られた知的資産の活用→第39回
3、研究開発を行う人と組織のマネジメント
3.1
、研究開発を行う人のマネジメント
・研究者の活性化→第18回第19回
・研究者の適性と最適配置→第20回第21回
・研究リーダー、マネジャーの役割→第22回第23回
・研究者の育成→第24回
3.2
、研究組織とそのマネジメント
・研究組織の構造が研究に及ぼす影響→第25回
・研究組織の仕組みや制度が研究に及ぼす影響→第26回
・研究組織の望ましい特性→第27回第28回
・研究組織の運営手法→第29回
4、まとめ→40回

各回の内容については、シリーズ3と同様、単なる知識の寄せ集めではなく、実際に第一線で研究を実践していた者としての私の観点を入れたものにしたいと思います。それが有益なものになるかどうかは、読者諸氏のご判断に委ねるしかありませんが、「実践」的立場から第一線の研究マネジャーにとって役に立つような知識の整理にしたいと思います。

まとめ方もシリーズ3と同様、多少正確さを犠牲にしたとしても、シンプルで使いやすいことを重視したいと思います。具体的には、以下のような構成でまとめたいと思います。

1)実践家にとって最も重要と思われる最低限のポイントをまず挙げます。
2)次いで、なぜそのポイントが重要だと考えるか、どこが活用のポイントなのか、およびその根拠(引用できる重要な理論や考え方)について述べます。
3)その上で、まとめに採用しなかったものも含めて様々な考え方を紹介したいと思います。シンプルな少数の原則にまとめることは、使いやすい反面、狭い考え方に囚われたり他の重要なポイントを見逃すことにもつながる可能性があります。今は重要でないと思う考え方でも、その考え方を無視してしまうことにはリスクがあるでしょう。異なる視点が重要になる場合もあるかもしれません。そこで、この段階では多少幅広く様々な考え方を集めるべきだと思います。加えて、その際に考え方の時代的変遷が感じられるような場合や、将来を暗示するような動き、未確立であっても仮説として注目すべき新しい考え方が提案されているような場合には、その点にも触れておきたいと思います。

このうち、1)と2)の部分は、多分に私の実践経験を反映したものとなると思いますので、読者各位にはその点をご理解いただき、ご興味に合わせて読んでいただければ幸いです。

さて、この新シリーズの開始にあたり、研究開発マネジメントの現状を概観しておきましょう。丹羽氏によれば、
・「技術戦略を効果的に構築しようと…(中略)…いろいろな領域で多大な努力が傾けられている。しかし、概してそれらはまだ手探りの試行錯誤の状態にある。」[文献1p.iii]
・「技術経営分野の個別の領域での議論や著作はあるものの、全体が見通せる体系を提示した書籍は見当たらない」[文献1、p.iv]
とのことであり、近著でも、
・「高度技術社会に入り技術経営学が新しい経営学として必要とされているのにもかかわらず、技術経営学はその確立が途上であり、また、そのためもあって企業での応用展開も十分に進んでいない」[文献2、p.6
と述べています。文献1と文献2はそれぞれ2006年と2013年の刊行ですが、現在もその状況は大きくは変わっていない感じです。しかし近年は、研究マネジメントの現状と時代背景を認識したうえで、なるほど、と思えるような様々な手法が提案されるようになっています。そうした近年の傾向を一言でまとめてしまうならば、持続的競争優位を目指すのではなく一時的な競争優位(本ブログ「競争優位の終焉」(マグレイス著)より)を目指していること、計画主導ではなく創発的戦略(シリーズ3第5回第31回)を重視していること、になると思いますが、新たな考え方と具体的手法の提案は、技術経営が実務家にも使える学問になりつつあるような印象を受けます。

研究を成功に導く処方箋、ハウツーが存在するならそれを知りたいものだとは思いますが、イノベーションの課題が時代とともに変化することを考えれば、決定版のような方法はそもそもあり得ないのかもしれません。ではどうしたらよいのか。現実的には、様々な方法について、その方法の試行により研究がうまく進んだかどうか、関係者の意欲が高まったかどうかを判断基準としてその手法の有効性を判断し、状況に応じてマネジメントを行っていくしかないかもしれません。そうした試行にあたり、本ブログによる知識の整理と私の仮説が少しでもお役に立てば幸いに思いますので、至らぬ点も多いとは思いますがよろしければおつきあいください。


文献1:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.
文献2:丹羽清(編)、「技術経営の実践的研究」、東京大学出版会、2013.


「イノベーターのジレンマの経済学的解明」(伊神満著より)

クリステンセンが発表したイノベーターのジレンマ、破壊的イノベーションの考え方は、イノベーションの進め方やメカニズムを考える際に非常に参考になる視点を提供してくれます。しかし、それらは、事例から帰納的に導かれた経験的な概念であって、「正しい」ことがデータによって裏付けられたものではありません。もちろん、実務家にとっては、自らの経験や考え方に照らして妥当だと思えればそれで十分、というところもあると思いますし、発表から20年以上を経ても多くの人にこの考え方が支持されている、という状況証拠によって正しさはサポートされている、と考えられないこともないとは思いますが、データに基づいて考えるとどうなんだ、という視点はやはり重要なのではないかと思います。

今回は、この問題に対し、経済学的手法を駆使して分析した結果が解説されている。伊神満著「イノベーターのジレンマの経済学的解明」[文献1]の内容をご紹介したいと思います。表題が示すとおり、本書ではクリステンセンが発表した「イノベーターのジレンマ」が検討の対象です。クリステンセンの著書の邦題は「イノベーションのジレンマ」で、さらにその中では「破壊的イノベーション」の概念も合わせて提案されているため世間では多くの誤解が生まれてしまっていますが、著者が取り上げているのは、クリステンセンがイノベーターのジレンマと呼んだ考え方、すなわち「旧時代の覇者は、まさに勝者であったがゆえに、新時代への対応スピードが遅くなる。こうした既存企業における組織的・心理的バイアスが、クリステンセン仮説の主眼であった。[p.19]」という点です。著者は、データに基づく分析によってこの仮説を検討し、この仮説の本質に迫る知見を得ている点、非常に興味深く感じましたので、以下にそのポイント、興味深い示唆をまとめてみたいと思います。

第1章、創造的破壊と「イノベーターのジレンマ」
・「新しい技術が現れると旧い技術が廃れていく。それと歩調を合わせるように、新世代の企業が台頭すると旧世代の企業が(時には産業ごと)没落していく。・・・そういう歴史的パターンを指して経済学者は『創造的破壊』と呼ぶ。『創造的』というのは技術革新や新規参入のことで、『破壊』というのは競争に敗れた旧来の技術や既存企業が滅びていくことだ。これが本書のテーマである。創造的破壊は、今に始まったことではない。[p.15]」
・「前時代の覇者が往々にして新しい技術に対応しきれないのはなぜか。・・・イノベーション(技術革新)を担うのは誰なのか、どうしてそうなるのか、私たちは(私たちの会社は、私たちの政府は)いったいどうしたらいいのか、・・・これが本書の(具体的な)テーマである。[p.17-18]」

第2章、共喰い
・置換効果:「既存の企業は、既存の技術を使って、既存の製品を売っているが、ここに新技術を使って新製品を投入したからといって、売り上げが突然、2倍、3倍になるわけではない。単に新旧製品が世代交代するだけかもしれない。つまり、旧製品からの利益が新製品からの利益に『置き換わる』だけで、新製品と旧製品が『共喰い』する分、利益は大して増えないかもしれない。翻って新参企業にとっては、ゼロからのスタートである。新技術ですること成すことすべてが利益の純増に繋がるのだから、それはやる気も出るだろう。[p.23]」
・「既存企業にとってイノベーションがしやすいのは、新旧製品が共喰いしないとき、経済学用語でいうと新旧製品間の『代替性が低い』ケースである。ところが、両製品のキャラ(キャラクター・特性)がかぶると、同じ消費者の奪い合いになるので共喰いが発生し、代替性は高い。要するに代替性とは商品間の競合する度合いのことである。新参企業にとってはどうだろうか。・・・肝心なのは、彼らには既存製品がないという点だ。旧製品をもたないので、共喰いが発生する余地がない。・・・かくして、新参企業はイノベーションに積極的になりやすい。[p.44-45]」
・「商品間の代替性が高いと共喰い現象が発生し、既存企業にとっては新商品を投入しても大して特にならないので、プロダクト・イノベーションをやる気が出ない[p.50-51]」。「同質財の市場で唯一有効なのはプロセス・イノベーション、つまり製造コストの低減である。[p.53]」「同質財よりも代替性がユルいケースとして『垂直差別化』あるいは『品質差別化』された財がある。・・・このような市場での技術革新には、プロダクト・イノベーション(より高品質な製品を生み出す)とプロセス・イノベーション(同じ品質の製品をより安価に作る)の両方があり得る。[p56-57]」

第3章、抜け駆け
・「『抜け駆け』のゲーム理論と呼ばれるもの」は「『置換効果』とは逆に、『既存企業こそが真っ先に新技術を買い占めてしまうはずだ』という仮説である。新参企業に先駆けて新技術を独占してしまえば、新たな競争相手の参入を未然に防止できる。一般論としては、競争相手は少なければ少ないほど儲かるのだから、是非そうすべきだ。[p.23]」
・「業界にいる主な企業の数が少ない場合(おおまかに言うと、大手5社とか10社以内のケースを想定してほしい)、ライバル同士がお互いの出方次第で損したり得したりする。こういう状況を『戦略的状況』とか『ゲーム理論的状況』という。あるいは『不完全競争』ともいう。ちなみに対義語は『完全競争』で、経済学の教科書で一番最初に登場するのは大体これである。完全競争の市場においては、ライバル企業がどうとか自分の戦略がどうとかいう余地はなく、『小さく無力な企業』が無数にひしめく、利益ゼロの地獄のような世界だ。そこでは参加企業に価格決定権は全くない。[p.84-85]」
・「不完全競争、つまり現実の市場においては、ライバルは少なければ少ない方がいい。[p.86]」「同じようなものを売っているプレイヤーが2社以上いれば、(原理的には)そこでの価格競争は利益がゼロになるまで続く可能性がある。この理論を提案したのは19世紀パリの数学者ジョゼフ・ベルトラン氏なので、『価格による不完全競争』のことを『ベルトラン競争』という。[p.89]」同質財の数量競争、差別化財の価格競争、差別化財の数量競争では、「『ライバルが増えると利益が減る』という基本パターンは同じだが、そのスピードがもう少し緩やかだ。[p.89]」「『数量競争』というのは、・・・『ある一定の生産量・売り上げ目標』ありきの競争である。[p.90]」(クールノー競争)。「クールノーのゲーム設定には、『一定期間に生産・販売できる数量には限りがある』という現実的な制約(あるいは『時間』の感覚)が織り込まれている。よって、いくらセールス部隊同士が安値競争を繰り広げても、『これ以上売ることは出来ない。そこそこの値段をキープして収益を確保しよう』というブレーキが最終的には働くのだ。[p.91]」

第4章、能力格差
・「イノベーションの程度を分類するなら、・・・『漸進的』(incremental)と『急進的』(radical)という形容詞で十分だし、イノベーションの経済的性格を分類するには『工程(プロセス)』と『製品(プロダクト)』を区別すればよい。・・・『破壊的イノベーション』は技術革新のタイプそのものと言うよりも、むしろ・・・一連のストーリーを指す、漠然とした現象名だと考えるべきである。・・・『大口顧客の当座の要望に耳を傾けているうちに、技術の波に乗り遅れてしまう』ということは、そういう経営判断は『短期的にはOK』でも、長い目で見たときには『不適切』な経営判断だったわけだ。・・・静的な資源配分という意味で『最適』にみえた方針が、・・・技術と産業のダイナミクスへの動的な対応という意味では『最適』ではない。きちんと先を見越した資源配分になっていなかった、ということになる。[p.96-97]」
・「カネであれ、技術であれ、人であれ、評判であれ、『貯めるのに時間がかかる資源』は通常、新興企業よりも既存企業の方がたくさん持っている。・・・こういう『貯めるのに時間がかかる資源』のことを、経済学用語では、まとめて『資本』(capitalまたはcapital stock)と呼ぶ。[p.110]」「シュンペーターの足跡をたどると、新参企業と既存企業のどちらの能力をより高く評価したらいいのかについて、彼にも多少の揺らぎが見られるのである。・・・『どちらのタイプの企業もそれなりに能力が高そう』に見えるのであれば、やはり測ってみるしかないだろう。[p.119]」

第5章、実証分析の3作法
・手法データ分析:「実証研究と言って経済学者がまっさきに思いつくのは、単純なデータ分析、いわゆる『回帰分析』という統計手法だ。[p.124]」「『相関関係』は生のデータの中に勝手に存在しているので、見つけるのは簡単だ。だが問題は、相関関係と『因果関係』は全くの別物だという点にある。[p.128-129]」「『因果関係を証明する完全無欠で絶対確実な統計手法』などというものは存在しない、と、そういうふうに一旦割り切っておいた方がいい。[p.130]」「データ分析の真髄とは、データ内『観測された』変数やその値に現れるようなものではなく、データには『観測されていない』『目には見えない』何かについて、どれだけしっかり考え抜いたかにある。[p.139-140]」
・手法②対照実験:「研究対象が『小規模』であり、『多数』存在し、『独立』である(個人間の相関関係を気にしなくて良い)場合には、きわめて好都合なアプローチだろう。ただし、・・・『現実の企業』や『産業全体』を扱う場合には、実験そのものが構想しづらい。またそもそも『過去の歴史的な出来事』をやり直すことは出来ない、という悩みがある。[p.143-144]」
・手法③シミュレーション:「シミュレーションに難点があるとすれば、それは複雑な事象について『模擬』すべき『重要な』側面と『無視すべき』側面を決めた上で、各要素について、賢明な理論的・実証的分析を下準備するという必要があるので、『分析結果が研究者の力量に大きく左右される』点かもしれない。また、・・・あまりにも大きくて複雑なモデル(数式の集まり)を作ると、計算にかかる時間とコストが膨らんでしまう。[p.148]」

第6章、「ジレンマ」の解明――ステップ①…需要
・操作変数法を用いた統計分析により、HDDの「新製品(3.5インチ)と旧製品(5.25インチ)の間には、相当の代替性がある。具体的には、新製品が1%値下がりすると、旧製品を買う人が2.3%減る。つまり『新旧製品間の需要の弾力性は2.3』と判明した。・・・『新旧製品間の代替性が高い』のたから、共喰いによる『置換効果』が発生していてもおかしくない。[p.170]」

第7章、「ジレンマ」の解明――ステップ②…供給
・「『同質財の市場』に、『2社以上のメーカーが競争』していて、なおかつ『それなりの利益が出ている』という3つの事実を矛盾なく説明できるのは、クールノー氏の世界観だけだ。[p.185]」
・利益と企業数の関係(利潤関数)の推計結果から、「ライバルに先駆けてイノベーションに踏み切ることのメリット、そして、(ひょっとしたら)新製品を引っ提げて新規参入してくる(かもしれない)起業家・新参企業の脅威を未然に阻止することのメリット」は大きく、「『抜け駆け』の誘惑は相当大きいであろうことが判明した。[p.205]」

第8章、動学的感性を養おう
・「単純な理屈を『補助線』のように活用することで、『人々が実際に取った行動』(データ)から幸福度やコストを逆算し、現実世界の『行間』を読み取ることができる。『人々の趣味・好みを、実際の行動パターンから読み解く』というこの着眼点を、経済学用語では、『顕示選好の原則』という。[p.228]」

第9章、「ジレンマ」の解明――ステップ③・④…投資と反実仮想シミュレーション
・「『イノベーション能力が高い』とは、言い換えるなら『イノベーションのコストが低い』ということだ。・・・結果はどうだったかというと、・・・『素のイノベーション能力』だけを比べた場合、既存企業は、新参企業よりも優れているようなのだ。[p.248-249]」
・「需要・供給・投資の3パーツからなる『私たちの世界観』には『データ分析の肉付け』がなされ、『推計済の実証モデル』として完成した[p.251-252]」。反実仮想シミュレーションによって明らかになったのは、「『既存企業は、抜け駆けの誘惑に強く駆り立てられている』『イノベーション能力も、実はかなり高い』『にもかかわらず腰抜けなのは、主に共喰いのせいである』[p.261]」

第10章、ジレンマの「解決」(上)
・「よくよく調べてみると既存企業に欠けていたのは『能力』ではなく『意欲』の方だったらしい。[p.265-266]」
・「もしあなたにとって既存企業のサバイバルが最優先事項ならば、『しがらみ』がどうのと言っている場合ではない。新参企業と同じように考え、行動するしかない。・・・既存事業のしがらみを無視することが出来れば、新技術の実装と商業化を新参企業に近いペースで進めることは十分可能だ。創造的破壊の荒波を生き延びるためには、創造的『自己』破壊が必要である。それが正論というものであり、正直それ以上に言えることは少ない。[p.275]」「だから正論の『何がどう難しいのか?』についても明らかにしておこう。[p.276]」
・難問①冴えない新事業の育て方:「新部門を分社化し、旧部門との共喰いをも辞さない、というやり方について。・・・クリステンセン氏が提案したのが、新事業部を本社から独立させ、どこか遠く離れたところで社長直属のプロジェクトとしてカネと人材と権限を与えるというアイディアだった。・・・だが実際には『絵に描いた餅』に終わることが多い。・・・社内ベンチャー的な制度がよほど深く根付いた会社でもなければ、『意欲』と『能力』を兼ね備えた人材の投入は、無理な施策かもしれない。[p.276-277]」
・難問②「育たないものは、買ってくればいいじゃない?:「MAというと、英米流の企業経営では、花形手法として確立しているかのようなイメージがあるが、実際にはアメリカでも失敗の方が多い。・・・システマティックにターゲットを選び、接触し、きちんとアフターケア部隊まで設置している会社(そして、まがりなりにもM&Aの成功実績を重ねている会社)は、シスコ以外ではあまり聞いたことがない。[p.280]」
・難問③あなたは本当に旧部門を切れるのか?:「旧部門は不採算で足手まといになるかもしれない。問題は、自分の手で旧部門を切るだけの決断力や『容赦の無さ』があるかだ。[p.281]」
・難問④生き延びるためには、一旦死ぬ必要がある:「生まれ変わった明日のあなたが『今日までとは全くの別人』だとしたら、それは果たして『あなたが生き延びた』ことになるのだろうか?[p.284]」
・難問⑤経営陣と株主の「最適」は違う:「なぜ私たち株主は、既存企業のサバイバルを手放しで喜べないのか?それは経営陣や従業員が、(私たち株主の利益ではなく)彼ら自身の保身のために、私たちの貴重な年金をムダ使いしているからだ。・・・一つ確かなのは、投資先の既存企業が、製品間の共喰いを是認してわざわざ旧事業の死期を早めたりすれば、『旧事業用に投資してきた株主資本はムダになってしまう』ことだ。[p.276-287]」

第11章、ジレンマの解決(下)
・「『損切り』と『創業』。事の本質はこれだけである。・・・本当の問題はシンプルなのだから、現実から目を背けるのは止めて、死に直面する肚を決めよう。[p.290-291]」
・「私たちの発見は、次の3点に要約される。①既存企業は、たとえ有能で戦略的で合理的であったとしても、新旧技術や事業間の『共喰い』がある限り、新参企業ほどにはイノベーションに本気になれない。(イノベーターのジレンマの経済学的解明)、②この『ジレンマ』を解決して生き延びるには、何らかの形で『共喰い』を容認し、推進する必要があるが、それは『企業価値の最大化』という株主(つまり私たちの家計=投資家)にとっての利益に反する可能性がある。一概に良いこととは言えない。(創造的『自己』破壊のジレンマ)、③よくある『イノベーション促進政策』に大した効果は期待できないが、逆の言い方をすれば、現実のIT系産業は、丁度よい『競争と技術革新のバランス』で発展してきたことになる。これは社会的に喜ばしい事態である。(創造的破壊の真意)
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イノベーターのジレンマがなぜ起こるか、についてはクリステンセンの言う「不均等の意欲」によって既存企業にはやる気がない分野に新規参入企業が入っていくことがカギなのではないか、という印象を持っていましたが、本書に示された経済学的分析によると「共喰い」がその背景にある、という点は非常に興味深く感じました。既存企業が新技術に消極的な理由は細かく見ればいろいろと考えられるでしょうが、仮に「共喰い」がすべての根源であるなら、そこを何とかすれば、既存企業でも新技術をうまく扱えるようになるのではないか、とも思います。共喰いが代替性の高さに深く関係しているのであれば、ある技術を代替性の低い製品に使うようにすれば、既存企業であってもその技術の導入に積極的になれるかもしれないという気がします。つまり、クリステンセンの言う「新市場型破壊」であれば、既存企業にとっても少しは積極的に取り組めるのかもしれません。

本書で解説されている「解明」自体非常に興味深いですが、今までぼんやりとしか認識していなかったことがクリアになったことで、新しい発想も生まれてくることもあるように思います。現象を経済学的にきちんと分析する手法も進歩しているようですので、そうした知見をどう活かしていくか、ということが実務家に求められているように思いました。


文献1:伊神満、「イノベーターのジレンマの経済学的解明」、日経BP社、2018.


研究開発マネジメントノート(本ブログ記事)索引(2019.5.12版)

本ブログ記事索引の改訂版です。このページでは頻出語に絞り、細かい索引は詳細ページにしています。リンクは各記事のタイトルの特徴的な言葉と記事投稿日です。(記事内の事項の索引化は少しずつ進めていきたいと思います)

人名・企業名索引詳細ページへ(英数)詳細ページへ(和文)
Adner
ノート補3破壊的イノベーションの現在130804ワイドレンズ140119技術革新タイミング170103
Anthony
ノート2ノート4ノート5ノート6ノート9ノート12ノート14ノート補2ニューグロースファクトリー111120スタートアップ131215ファーストマイル150412小さなイノベーション150823
Brynjolfsson
ビッグデータ130506機械との競争131124セカンドマシンエイジ160410
Christensen
ノート1ノート2ノート3ノート4ノート9ノート11ノート12ノート補1ノート補2イノベーターのDNA110515イノベーションのDNA120415破壊的イノベーションの現在130804イノベーションオブライフ140105資本家のジレンマ150215破壊的イノベーションとは何か160131片づけるべき用事160828ジョブ理論180617
Collins
ノート1ノート8ノート10ノート12ノート補3ビジョナリーカンパニー3 100920ビジョナリーカンパニー4 130120
Dyer
ノート11イノベーターのDNA110515イノベーションのDNA120415イノベーションの方法150923多組織イノベーション161120大胆な発想190317
Furr
小さなイノベーション150823イノベーションの方法150923多組織イノベーション161120大胆な発想190317
GE
リバースイノベーション1010172011グローバルイノベーションバロメーター1102062012グローバルイノベーションバロメーター120205
Govindarajan
ノート4ノート5ノート9ノート10ノート11ノート補2ノート補3リバースイノベーション101017リバースイノベーション121125イノベーション実行130908はじめる戦略141221実践リバースイノベーション151227日和見主義160718
Heath
ノート13アイデアのちから120716スイッチ1301016決定力160522
Kelley
ノート8発想する会社101107創造性と生産性141214クリエイティブマインドセット150510
Kimノート3ノート4ノート10ブルーオーシャン戦略160313ブルーオーシャンシフト190407
Leonard-Barton
ノート6ノート8ノート12ノート14ノート補3コア・リジディティ100905
0ベース思考160114
Martin
ノート補2科学的戦略策定130630勝つために戦う戦略140302科学を超えたマネジメント171022
Mauborgne
ノート3ノート4ノート10ブルーオーシャン戦略160313ブルーオーシャンシフト190407
McGrath
ノート14ノート補3知的な失敗120226複雑系経営120506持続的競争優位140316競争優位の終焉160104
Moore
ノート4ノート5ノート12エスケープベロシティ120819ゾーンマネジメント190224
Nunes破壊的イノベーションの現在130804ビッグパンイノベーション170226最初の成功の次180114
Rogers
ノート2ノート6ノート10ノート13ノート補2
Tidd
ノート1ノート3ノート5ノート6ノート8ノート9ノート10ノート11
Thomke
ノート1ノート補3製品開発の誤解121014小さなイノベーション150823オンライン実験170910
Trimble
リバースイノベーション101017リバースイノベーション121125イノベーション実行130908はじめる戦略141221


伊丹敬之:ノート12技術経営の常識のウソ110417技術を武器にする経営150118イノベーションって何?160403教科書を超えた技術経営160911
金井壽宏:ノート5ノート7ノート補2モチベーション110828戦略人事121118エキスパートの知130715
中原淳:ノート9ノート補3経営学習論130825フィードバック190114
丹羽清:ノート序ノート1ノート2ノート3ノート5ノート6ノート8ノート9ノート11ノート12ノート14技術経営の実践的研究130429
野中郁次郎:ノート6ノート7ノート8ノート9ノート10ノート14ノート補2組織的知識創造101024イノベーションの知恵110321フロネシス120129流れを経営する120325アジャイル120527知識創造経営のプリンシプル121224ビジネスモデルイノベーション130526全員経営160515
開本浩矢:ノート7ノート11ノート12モチベーション管理110123
三崎秀央:ノート7ノート8ノート10ノート11


事項索引
詳細ページ(英字、あ~こ)

詳細ページ(さ~と)

詳細ページ(な~わ)


英数字
Thinkers50
2011 Thinkers50 1111272013 Thinkers50 131117Thinkers50イノベーション1506072015Thinkers50 1511292017Thinkers50-171119
Time
2010発明1012051年後の2010発明1112253年後の2010発明1312236年後の2010発明161225

あ行
アイデア:ノート1ノート3ノート5ノート6ノート補2アイデアのちから120716
暗黙知:ノート6ノート9ノート10ノート14ノート補1ノート補2
育成:ノート9ノート11ノート補1ノート全面改訂24研究者育成180108
意思決定:ノート2ノート12ノート13ノート補2ヒューリスティクス110103まさか121028ファスト&スロー130707意思決定理論140615決定力160522意思決定の心理学180513
イノベーション:ノート序ノート1ノート4イノベーションとは何か120722Thinkers50イノベーション150607小さなイノベーション150823イノベーションって何?160403ノート全面改訂3研究の考え方160529イノベーション途絶170416イノベーションパス170717日本流イノベーション171001技術経営(一橋)180909
イノベーション普及:ノート13ノート補2ノート全面改訂37イノベーション普及190106イノベーションの核心190120ノート全面改訂38イノベーション普及論関連190203
エコシステム:ノート14ノート補1ノート補2ノート補3エコシステムイノベーション170326ノート全面改訂14市場での不確実性克服170402ノート全面改訂15ビジネスモデル170501
オープンイノベーション:ノート5ノート9ノート補2オープンイノベーション110110実践オープンイノベーション171224

か行
科学哲学:科学哲学111010ソーカル事件111106感性の限界121111エコエティカ130127科学を語る140413
学習:ノート11ノート12ノート全面改訂24研究者育成180108なぜヒトは学ぶのか190310
活性化:ノート7ノート全面改訂18研究者活性化170723ノート全面改訂19モチベーション170820
技術:ノート2ノート11テクノロジーとイノベーション120401セカンドマシンエイジ160410
技術経営:ノート序技術経営の常識のウソ110417技術経営の実践的研究130429技術を武器にする経営150118教科書を超えた技術経営160911いまこそイノベーション161023技術経営(一橋)180909
競争優位:ノート10ノート14ノート補2ノート補3持続的競争優位140316競争優位の終焉160104
協働:ノート9ノート10ノート補1ノート全面改訂32コラボレーション180819
協力:ノート序ノート8ノート1不機嫌な職場111218利他性と協力120513支援130303協力と罰の生物学150222多組織イノベーション161120エクストリームチーム190506

経営学:世界の経営学131020ヤバい経営学140209ブラックスワンの経営学150104世界標準経営理論160619世界最先端の経営学161010
形式知:ノート6ノート9ノート14ノート補1ノート補2
研究者:ノート7ノート8研究報奨100912研究者処遇101003
研究テーマ:ノート1ノート4ノート5ノート6ノート全面改訂8テーマ選定161016ノート全面改訂9テーマ設定と不確実性161113ノート全面改訂11課題実現に関わるテーマ170109ノート全面改訂16興味に基づくテーマ170528ノート全面改訂17テーマ選択170625
研究テーマ選択:ノート全面改訂17テーマ選択170625イノベーション課題選定170806
コミュニケーション:ノート8ノート9ノート10ノート11ノート13ート補1コミュニケーション111113

さ行
資源:ノート3ノート4ノート5ノート補2
試行錯誤:ノート1ノート12ノート補2試行錯誤120812
実験:ノート11ノート12ノート補2オンライン実験170910
失敗:ノート8ノート14知的な失敗120226偉大なる失敗150712経営の失敗150720失敗の科学170611失敗の法則180311ノート全面改訂35失敗回避181111ノート全面改訂36失敗原因181209
死の谷:魔の川、死の谷、ダーウィンの海120115ノート全面改訂9テーマ設定と不確実性161113
情報:ノート1ノート7ノート11製品開発の誤解121014情報の扱い方150524ノート全面改訂2研究とは160501
自律性:ノート2ノート7ノート8ノート9ノート10ノート補1ノート補2ナットアイランド症候群100926研究者の主体性120624
人工知能:人工知能の真実171009人工知能の哲学171126AI用180225AIとの協働180716人工知能時代の会社190414
セレンディピティー:ノート2ノート3ノート5ノート6ノート補1
専門性:ノート8ノート9ノート10ノート11
組織的知識創造:ノート6ノート8ノート9ノート14ノート補2組織的知識創造101024

た行
多様性:ノート2ノート8ノート10ノート11ノート補1多様性130224
チーム:ノート7ノート8ノート補3ナットアイランド症候群100926チーム150426エクストリームチーム190506
適性:ノート7ノート8ノート全面改訂20適性と最適配置170918ノート全面改訂21研究適性171015
デザイン:デザイン130512人と「機械」をつなぐデザイン150614101デザインメソッド160221デザイン思考の進化160807
トップダウン:ノート4ノート6ノート9ノート10

な行
ニーズ:ノート3ノート4ノート6ノート補1ノート補2ノート全面改訂12ニーズ不確実性に関わるテーマ170205ノート全面改訂13ニーズ不確実性に関わるテーマ注意点170305
ネットワーク:ノート9ノート11ノート13ネットワーク130331

は行
破壊的イノベーション:ノート序ノートノート4ノート9ノート12ノート補1ノート補2破壊的イノベーションの現在130804日本のイノベーションのジレンマ160111破壊的イノベーションとは何か160131破壊的イノベーションへの対抗160417イノベーションの核心190120
発明:ノート5ノート9ノート142010発明1012051年後の2010発明1112253年後の2010発明1312236年後の2010発明161225
ビジネスモデル:ノート序ノート10ノート14ノート補1ノート補2ホワイトスペース戦略120109ビジネスモデルイノベーション130526ビジネスモデル改善151115世の中を変えるビジネスモデル161002ノート全面改訂14市場での不確実性克服170402ノート全面改訂15ビジネスモデル170501
不確実性:ノート2ノート5ノート6ノート8ノート12ノート補1ノート補2ノート全面改訂4不確実性160626ノート全面改訂5不確実性考え方160724ノート全面改訂6環境の不確実性160821ノート全面改訂8テーマ選定161016ノート全面改訂9テーマ設定と不確実性161113ノート全面改訂10課題実現の不確実性161211ノート全面改訂12ニーズ不確実性に関わるテーマ170205ノート全面改訂13ニーズ不確実性に関わるテーマ注意点170305ノート全面改訂40まとめ190331ノート全面改訂41不確実性シート190501
複雑系:ノート2ノート10ノート補1ノート補2複雑系経営120506複雑系120610
ブルー・オーシャン戦略:ノート3ノート4ブルーオーシャン戦略160313ブルーオーシャンシフト190407
プロジェクトマネジメント:ノート12ノート補2ノート全面改訂30プロジェクト運営180624ノート全面改訂31プロジェクト運営各論180722

ま行
マネジャー:よいマネジャー140622ミンツバーグ マネジャー論150301ノート全面改訂22リーダーの役割171112ノート全面改訂2リーダーの役割各論171210
未来予測:ノート1ノート2ノート補1マッキンゼー予測180408シグナル180813
モチベーション:ノート7ノート11モチベーション管理110123モチベーション110828ノート全面改訂18研究者活性化170723ノート全面改訂19モチベーション170820やる気を高める180128

や行
やる気:ノート7ノート補1ノート補2モチベーション110828やる気を高める180128

ら行
リーダー:ノート11ノート補1脱線した幹部100719ノート全面改訂22リーダーの役割171112ノート全面改訂2リーダーの役割各論171210
リーダーシップ:ノート10ノート11悪いヤツほど出世する170709インスピレーショナルリーダーシップ180610
リバースイノベーション:ノート4リバースイノベーション101017リバースイノベーション121125実践リバースイノベーション151227


ワイドレンズ:ノート補2ワイドレンズ140119


最先端のチーム運営とは(ショー著「エクストリーム・チームズ」より)

新しいビジネスを新しい形で立ち上げ急成長している企業の中には、その組織の運営方法においても新しい試みを活用しているところがあるようです。なかでも、チームワークの活用は、協力関係の重視や新たな発想の源としての期待もあって組織運営の方法として注目されているようですが、具体的な方法論は確立されているとは言えないように思います。研究開発においてもチーム運営は重要ですので、まずは、最先端企業の状況を知っておくのもよいのではないか、ということで、今回はショー著「エクストリーム・チームズ」[文献1]の内容をご紹介させていただくことにしました。

この本では、ホールフーズ、ピクサー、ザッポス、エアビーアンドビー、パタゴニア、ネットフリックス、アリババという、特色ある7つの新興企業が分析され、著者はその成功の秘訣を独特のチーム運営にあると見ているようです。こうした成功企業の分析においては様々な理由が成功の要因として挙げられうると思いますので、チーム運営「だけ」が成功の理由だというわけにはいかないとは思いますが、それぞれ特色ある組織運営をしていることは確かなようです。これからの時代のチーム運営にとって示唆に富む知見が含まれているように感じましたので、以下、本書の構成に沿って内容をまとめてみたいと思います。

はじめに、働き方に革命を
・「ホールフーズのチーム体制には、指針となる3つの信念がある。第1の信念は、人間がそもそも社会的な存在であること。小さな集団の一員となっているときに、人は一番居心地よく感じられる――とホールフーズは確信している。・・・仲間意識を持たせることがチーム制の狙いではない。能力と労働環境が適切に整ったチームなら、会社のために発揮する力も最大化できると考えているのだ。[p.12]」「第2の信念として、ホールフーズは、チームが最高の働きをするためには会社全体の統率管理も必要だと考えている。チームにはかなりの範囲で自由裁量権を認められているが、従わなければならない標準の手続きもいくつかあるのだ。[p.14]」「第3の信念として、ホールフーズは会社としてオープンであること、透明性を確保することの利点を信じている。戦略や業務に関する情報を社内で開示する『秘密なし』の環境作りを意識している。・・・対象は給料も例外ではない。[p.15]」「ホールフーズのチーム制と企業文化は、数十年にわたる試行錯誤を経て進化してきたものだ。[p.15]」「ここから学び取れる教訓がある――チームワークに関する何らかのアプローチを導入するためには、実験を重ねていく必要があるのだ。[p.16]」
・「チームワークは良いものだ。・・・チームの運営がうまくいっていれば、他社に対する競争優位になるのは間違いない。[p.16]」「ただし問題もある。チームのデザインとマネジメントというのは、きわめて複雑で難しく、創造性と徹底した努力を要するのだ。・・・基本的かつ一般的な失敗のパターンは、第1に、チーム制が必要でない場面――すなわち個人が取り組んだほうがいい業務に対し、チームを導入してしまうことだ。[p.17]」「たとえチーム制が適した場面だとしても、チーム制を成功に導くサポート(ボーナスなど)を導入していないことも多い。陥りやすい第2の失敗だ。[p.18]」「チーム制を賢く活用している企業は、決して手放しにチーム制を礼賛しているわけではなく、チームには本質的に負の性質も伴うことを理解している。たとえば研究で明らかになっているとおり、チームの一員になると熱心に働かなくなり、自分の努力不足を他のメンバーに補わせる者も出てくる。社会学者はこれを『フリーローダー(タカリ屋)』や『ソーシャルローフィング(社会的な手抜き)』と呼ぶ。・・・ホールフーズの場合は、パフォーマンスを判断する明確な指標と、チームレベルの報酬制度を整えることで、この問題を予防している。[p.20]」「陥りやすいもう一つの失敗として、『チーム制は働きやすい』という決めつけが生じることがある。・・・見過ごしやすいのだが、フレンドリーな職場はたいていの場合、きわめて過酷な労働環境でもあるのだ。有能な人材が仕事に対して執着やこだわりを抱き、高い成果を出すよう、自分と他人を厳しく追い込んでいくからである。[p.20-21]」
・「ピクサーのような企業は、一般的な会社と比べて、よりソフトでもあり、よりハードでもある。学術的には『共同関係』と『交換関係』という言葉で研究されている特徴だ。共同関係とは、見返りを期待しないサポートを基盤として成り立つ人間関係のことを言う。・・・たとえば家族は共同関係である。・・・それに対して交換関係のほうは、・・・ギブ&テイクを基盤として成り立つ。・・・企業はもっぱら交換関係だと言われる。[p.30]」「交換関係と共同関係は両立しないという見解を先に紹介したが、実は、成功している企業ほど、ハイブリッド型の関係が成り立っているのだ。独自のやり方で2種類の関係を巧みに混ぜ合わせ、両方の良いところを組み合わせている。[p.31]」
・「本書が注目する先鋭的な企業は・・・チーム制の持つポテンシャルを理解し、新たなアプローチを実験していこうという意欲がある。こうした企業で活躍しているチームのことを、私は『エクストリーム・チーム』と呼びたい。一般的な企業の先を行く大胆かつ新しいアプローチを果敢に取り入れているからだ。[p.33-34]」
・「先鋭的企業は、革新的な方法でチーム制を活用し、ライバルを打ち負かしている。こうした企業のエクストリーム・チームには5つのサクセス・プラクティスがある。1、チームメンバーが強い執着心を共有している、2,採用では能力よりも企業文化への適性を重視、3,少ない優先順位に焦点を絞りつつ、新たなアイデアを求めて焦点を広げる、4,ハードかつソフトな企業文化を築く、5,リスクと衝突に伴う気まずさを恐れない。[p.49]」

第1章、成果と人間関係の両立 大きなリスクに挑むチームだけが、大きく前進できる
・「まずは『成果』の定義から考えてみよう。『成果』を広くとらえるならば、それはチームが生み出す製品やサービスの恩恵を受ける存在が期待している内容を、チームがきちんと届けることを意味している。・・・たが、実際には、属している組織の期待に応えているか(特に組織を支配するリーダーの期待に応えているか)という問題にすりかわっている場合が多い。[p.73]」
・「社会学者のロバート・パットナムは・・・『社会関係資本』という言葉を使って、・・・さまざまな環境での人間関係の働きを説明した。社会関係資本とは、簡単に言えば『糊』だ。人と人をくっつけ、集団や組織や社会の機能が効果的に回るようにする。そして何より、この糊は利他的な行為を後押しする。[p.79]」「
たとえばチーム内で社会関係資本が貯まっていると、メンバーがお互いにまたは集団の成功のために協力するので、試練にぶつかったときにも耐えられる。社会関係資本の貯まっていないチームでは、メンバー間の結びつきが薄い、あるいはこじれているせいで、効果的な解決策を導き出す能力が損なわれ、逆境に遭うと崩れてしまう。・・・社会関係資本があるからといって成功が保証されるわけではない。だがチーム内・組織内の成功の可能性を高めることは確かだ。[p.79-80]」「社会関係資本は、次に挙げる3タイプの人間関係で構成されると本書は考えている。タイプ1【結束型】仲間のチームメンバーとの絆・・・共通の目標を持った仲間とのあいだに結束意識が生まれる。タイプ2【橋渡し型】他のチームとの連携・・・お互いが頼り合っていることを自覚して、良い関係の維持のために努力する。タイプ3【意義信頼型】組織またはリーダーに『ついていこう』という決意・・・会社やリーダーが示す価値観と信念を、社員が共有できるのが理想的だ。会社や、その存在意義に対して、心理的に投資をする気になる。[p.84-85]」
・「社会関係資本は、成果を出すことと比べれば、あまり重要ではないと考えられやすい・・・。そう見られる理由はいくつかある。第1の理由は、組織にとってはとにかく結果を出して生き残ることが最優先となるからだ。・・・第2の理由は、それが曖昧であること。・・・計画しにくく把握しにくい。第3の理由は、・・・報酬の対象とはならないこと。・・・第4の理由は、グループやチーム内の人間関係を適切に管理しようとすると、チームやリーダーにとっては負担の増加となることだ。・・・第5の理由として、リーダーによっては、人間的なつながりはむしろ邪魔になると考えている。人やプロジェクトに対して厳しい決断をしにくくなるからだ。[p.86-88]」
・「成果だけを過剰に強調しすぎれば、チームとチームのパフォーマンスを損なうだろう。・・・第1に、成果に固執する文化はチーム内の個人を疲弊させやすい。・・・重要なのは、非生産的な形で社員同士が競い合ったり、職を失う不安につねに怯えながら働いたりするような、ぎすぎすした企業文化にならずに、成果を出せるようにすることなのだ。・・・第2の理由として、倫理的・法的な境界線を踏み越えやすくなるという点がある。[p.92-94]」
・「人間関係を過剰に重視するのも、また考えものだ。・・・団結心の強すぎるチームの欠点その1は、集団思考に陥りやすいことだ。・・・欠点その2として、チーム内の難しい問題や異論の生じる課題を避けようとする傾向がある。・・・その3は、『身内』と『部外者』を分けたがる傾向が生じることだ。・・・その4として、人間関係の過剰な重視は心理的な負担につながる傾向がある。・・・人間関係の構築と維持に多大なエネルギーを擁するので、結果的に『共感疲労』と言われる状態になるというわけだ。[p.96-98]」
・「チームで成果と人間関係のバランスをとるにあたっては、基本的に2種類の危険性がある。一つは、どちらかを過剰に追求し、極端すぎる結果を招いてしまうことだ。[p.100]」「もう一種類の危険性は・・・成果も人間関係も中途半端に追求し、成長できなくなることだ。・・・先鋭的なチームでは、均衡の罠を避けて、成果と人間関係の両方を極限まで追求する。[p.103]」

第2章、執着心の共有 ビジネス以上、カルト未満
・「必要なのは『オールイン[ポーカーで手持ちのチップをすべて賭けること]』をする人材、すなわち仕事と会社に全力投球し、強い熱意を注ぐ人材だ。[p.121]」「チームや企業内に、執着するほど熱心な社員が一定数以上いなければ、大きな成功をつかむことはほぼありえない。やたらと固執するのは健全ではないかもしれないが、執着心は偉大な企業とチームの中核的な性質でもある。[p.122]」「先鋭的企業のリーダーたち・・・は、他人から見れば異様としか言えないほどの熱心さで、目標に向けて力を尽くし続けるのだ。・・・執着と言えるほどの強いこだわりは、ハイパフォーマンスに到達するために必要不可欠なものだ。[p.124]」「画期的と言われる製品には、決まって、仕事と製品に並々ならぬ愛情を抱く少数精鋭のチームがかかわっているのだ。[p.126]」
・「強い執着心は、3つの形で発生する。・・・1つ目が一番重要で、仕事そのものと、仕事の結果として完成する製品やサービスに対するこだわりだ。先鋭的企業とそのチームにいる人たちは、仕事を自分のアイデンティティの中心に位置づけている。[p.127]」「2つめは、企業を卓越した存在にしていくために全身全霊で打ち込む、すなわち心理的投資をしていこうとする点だ。・・・成果だけに執着すると、製品やサービスに比べて人間関係を軽視することになりやすい。先鋭的企業はこうしたアプローチの危険性を理解しており、社員には、企業文化に対しても同等の強さで執着することを期待するのだ。[p.130]」「3つめの形は、社会に貢献したいという強い願望を持つことだ。[p.133]」
・「執着心は『やり抜く力(グリット:Grit)』にもつながっている。やり抜く力とは、『一つの仕事に情熱を持ってかかわり、揺らぐことなく専念できる資質』のことで、執着心が生産的な形で行動になる場合を指す。[p.136]」
・「執着するチームは、一般的なチームと比べて、長所も短所もスケールが大きい。欠点なしで利点だけ選ぶことはできないのだ。たとえばチームがつねに何かに対して固執するため、間違った対象を追いかけてしまう可能性がある。みんなで執着していても、その内容が正しいとは限らない。・・・厄介なことに、チームに執着心があれば、こうしたマイナスの影響も多少なりと生じるのは避けられない。だから社員やチームが仕事に執着することを望まない企業が多いのだが、マイナスの大きさで言えば、『社員がただ仕事をこなすだけ』のほうが深刻だ。黒にも白にも振り切れないグレーでは勝利はつかめない。執着心こそが、大きな成果を生み出す基盤となるのである。[p.139]」

第3章、能力より適性 最高の人材を探そうとするな。ふさわしい人材を選べ
・「企業やチームの文化が強固であればあるほど、独特であればあるほど、そこにフィットするかどうかというのは大問題なのだ。[p.145]」
・「企業文化とは、『その会社でのものごとの進め方』だ。・・・これらは単なる社内の習慣ではなく、・・・『グループとして成功するためには何が必要か』など、根本的な認識と結びついている。[p.146-147]」
・「先鋭的企業とそのチームは、次に挙げる3つの面で企業文化に適するかどうかを判断し、採用判断を行う。1,会社の目的を信じているか・・・その会社の存在意義に対し、情熱または執着心を抱いているか。2,成果を出す能力はあるか、3,人間関係を築く能力はあるか、チーム内外と協力してやっていく意欲や気質を備えているか。[p.163]」
・「ハードルが高い業務であればあるほど、協力関係は必要不可欠だ。人を雇うといのは、一つのポジションに一人の個人を迎え入れるというだけの問題ではない。多様な能力、価値観、スタイルを持ったチームを形成するという意味なのだ。・・・メンバー同士が補い合い、チーム制の本領が発揮されるよう、相性のいいチームにしなければならない。だからといって、クローンの集まりにすべきだということにはならない。・・・メンバー同士の複製ではなく、お互いに足りない性質を併せ持つチームを形成する。[p.164-165]」

第4章、焦点を絞る。焦点を広げる 難しいのは「何をしないべきか」を知ることだ
・「優先事項が増えるのが良いこととは限らない。・・・どんな企業でも人と時間と資金は限られているのだから、成長戦略に照らして、最も投資効果の高い領域に集中する必要があるのだ。・・・優先事項の乱立は業務の足を引っ張る。全部を網羅して、たくさんの賭けをして、リスクを広げてしまう。[p.170]」
・「優先事項に向けて全員の足並みをそろえるためには、まず前提となる流れや背景(コンテクスト)について、共通認識を育てなければならない。[p.174]」「優先事項を整理し社内で周知するにあたっては、『何を土俵に載せないか』という判断にも共通認識が必要となる。[p.180]」
・「社員に『もっと多く』と求めるほうが全体的なパフォーマンスが伸びる――と信じているリーダーもいる。・・・この理屈の問題点は、社員が真に重要な領域に集中できないせいで、あるいはリソースが適切に配分されないせいで、一番肝心な成果が損なわれる可能性があることだ。同様の失敗として、優先事項が複雑すぎる場合もある。[p.183]」「優先事項を明確に定める際の第1の注意点として、シンプルで説明しやすい内容にするほうがよい。・・・これが第2の注意点につながってくる。目指す結果は具体的に、そして可能なら数字で計測できる条件も合わせて提示しておくことだ。・・・第3の注意点として、説明責任のことも考えておかなければならない。・・・次はオーナーに許される自由裁量権の範囲を定める。・・・第4の注意点として、進捗のレビュー方法を決めておく必要がある。[p.183-186]」
・「先鋭的企業とそのチームには、一つ矛盾に見える特徴がある。彼らはこのように焦点を絞りながらも、基幹事業の内外に広く目を向けて、新しいアイデアをあれこれと試そうとするのだ。狭い領域だけに重点を置き、幅広い実験をせずにいると、ビジネスが新たな機会や脅威に適応できない可能性があると察しているのである。[p.189]」「同様の傾向として、先鋭的企業は、失敗から早めに学んでいくことを奨励する。[p.197]」

5章、ハードかつソフトな企業文化 すべての偉大な文化は、矛盾を孕んでいる
・「企業経営にはハードエッジ(システムやプロセスなど、実行にかかわる部分、数値に表れる部分)とソフトエッジ(社内の信頼関係や、理念・情熱など)がある。そしてほとんどの企業は、ハードエッジか、それともソフトエッジか、どちらかに重心が傾いている。[p.202]」
・「重要な点として指摘したいのは、そもそも企業文化のベースに感情があるという点だ。[p.204]」「『その会社でのものごとの進め方、考え方』だけでなく、それ以上に、『その会社で働く私たちの感じ方』という部分が大きいのである。[p.205]」「企業文化とは、頭で考える認識と、感情を伴う体験、その2つを組み合わせたものだと考えることができる。先鋭的企業はこの両方を意識しているが、卓越したチームほど、職場環境における感情の側面を重視する傾向がある。[p.209]」「ミシガン大学教授キム・キャメロン・・・は、人の感じ方が会社の業績に及ぼす影響を研究し、ポジティブな職場環境を生み出している企業は全般的に業績が高いことを突き止めた。キャメロンが言う『ポジティブな環境』とは、人と人が互いに助け合い、ものごとがうまくいかないときにも互いのせいにせず、感謝と尊敬を持って接する雰囲気のことを言う。こうした心のあり方は、協力し合う能力、創造的な発想力、逆境から立ち直る力を伸ばすので、結果的に仕事の成果が伸びるのである。[p.210]」
・「本書に登場する先鋭的企業のチームは、さまざまな形で、次の・・・特性6つをすべて備えている。・・・オールイン・・・自由裁量権・・・情報の透明性・・・説明責任・・・楽しむ・・・共同関係[p.220-221]」

第6章、気まずさを恐れない 私が聞きたくないであろうことも、聞かせてちょうだい
・アリババの「マーの考えによると、大企業が往々にして伸び悩む理由は、『小さな白ウサギ文化』が広がってしまうからだ。仲間同士で仲良く固まって、お互いに挑み合おうとしない。そのせいでパフォーマンスが伸びず、会社として衰退していくというわけである。[p.244]」「社会学者アーヴィング・ゴッフマンが、社会的相互作用を支配する非公式なルールについての研究をしている。人間の行動を左右する最も強力なルールは、彼いわく『メンツを保つこと』だ。ゴッフマンが言う『メンツ』とは、人が文化の中で作り上げる自分の役割のことで、特に公共の場や集団において見せている自己像を指している。・・・ゴッフマンの考察によれば、人はそうした役割を全うするために熱心に努力し、そのとおりに見られているというお墨付きを他人に求める。その役割に疑いの目を向けられると、たちまち不安になり、たいてい人間関係が緊迫して、集団内で大きな問題につながる。これを避けるために、人は他人の自己認識もサポートする形で行動しようとする。社内やチームにおける相手の立場を守ってやろうとするというわけだ。[p.245-246]」
・「チームが生産的に衝突していくためには、次に挙げる要素が必要となる。1,衝突に伴う気まずさは必要であり、生産的なものだという理解。ハイパフォーマンスを妨げるのは衝突ではなく自己満足だ。2,大胆な目標を追求していこうという主体的責任感。それがチーム内に健全な緊張関係をもたらす。3,目標達成につなげるため、チームの衝突を、少数・必須の最も違いを生み出す領域に絞り込む能力、4,生産的にぶつかり合えるメンバーの性質やスキル。[p.259-260]」
・「チームが優れた意思決定をできるかどうかは、心理的安全性があるかどうかに左右される。心理的安全性とは、ハーバード・ビジネススクールのエイミー・エドモンドソンが中心となって完成させたコンセプトだ。革新性のあるチームほど、安心して自己表現や意見表明のできる雰囲気を巧みに作り上げているという。そうしたチームでは、仲間が自分の考えや感情や見解を理解し尊重してくれる、という安心感が生まれるのだ。[p.267]」

第7章、エクストリーム・チームを作る 冒険なきチームは衰退する
・新しくエクストリーム・チームを作ろうとする場合には、正しい目的、正しい人選、正しい優先順位、正しいチーム・プラクティスを明確にすることを著者は推薦しています。[p.278-284
・停滞したチームをエクストリーム・チームに立て直すには、まず「現在のパフォーマンスを客観的に査定」して「何がどう不振なのか把握」し、次に「チームのパフォーマンスが伸びない原因を特定する」ことを推薦しています。[p.284-290
・「チーム制には魅力が多い。チームのデザインとマネジメントが理想的に整っていれば、よそから模倣されにくい競争優位が生じる。だが、卓越したチームがなかなか存在しない理由は、そうしたチームの構築には厳しい代償が伴うからなのだ――組織とリーダーが、支配力を多少なりとも手放さなければならない。組織も、リーダーも、多くの場合は前例のないことを試したがらない。チームに自由を与えることで生じる不安や不確実性を好まない。一方で、チームのほうが、自由を与えられることで生じる責任を好まない場合もある。・・・だが、ビジネスや社会における優れた成果というものは、ほぼ例外なく、野心的な目標のために協力し合う小さな集団が生み出すものだ。リーダーの役目はチームのメンバーを選び、そして、メンバー自身が行けると思うよりも一歩先へと背中を押していくことだ。・・・最高のチームはお互いを支え合う。どんな人間でも、誰かと一緒に大きなことを達成したいという欲求を抱いているものだが、優れたチームはそのニーズを満たすのだ。・・・何か大きな目的のために邁進しようというときは、強く結ばれた仲間の存在が必要となる。エクストリーム・チームなら、それが叶うのだ。[p.295-296]」
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この本に取り上げられた7つの企業は、一般の企業から見たら特殊な例だと思います。その企業でエクストリーム・チームがうまく機能していたとしても、その特徴をそのまま一般の企業に適用できるものかどうか、という疑問はあるでしょう。また、研究開発という仕事も新興企業の立ち上げとは異なる側面を持っているでしょう。しかし、これらの事例には、チーム運営の方法についてのヒントが多く示されていることは間違いないと思います。本書の手法について特に印象的だったのは、メンバーのやる気を引き出し、その方向を揃えつつ、個性を活かす手法です。研究開発に限らず、チームで仕事に取り組む意味は今後も大きくなっていくのではないでしょうか。チームが機能するメカニズムについての知見の発展には今後も注目していきたいと思います。


文献1:Robert Bruce Shaw, 2017、ロバート・ブルース・ショー著、上原裕美子訳、「エクストリーム・チームズ アップル、グーグルに続く次世代最先端企業の成功の秘訣」、すばる舎、2017.
原著表題:Extreme Teams: Why Pixar, Netflix, Airbnb, and Other Cutting-Edge Companies Succeed Where Most Fail


研究開発実践のマネジメント第41回-不確実性マネジメントシート:研究開発マネジメントの実践と基礎知識3.2(「ノート」全面改訂)

はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第7回
2、研究開発実践のマネジメント第8回第39回
3、まとめ-不確実性に基づく研究マネジメント
3.1
、不確実性に基づく研究マネジメント
第40回

3.2
、不確実性マネジメントシート
前回、本シリーズの特徴である不確実性に着目した研究マネジメントの考え方のまとめを述べました。しかし、実践の助けとなるようなツールも必要ではないかと思います。そこで、今回は、不確実性に配慮しつつ研究開発を遂行するための注意点を可視化するためのシートをご提案したいと思います。

検討シートは2種類用意しました。
・「研究テーマを選定するための不確実性検討シート」は、取り組む課題を決める段階で用いることを想定しています。ある研究のアイデアにどのような不確実性があるのかをリスト化して評価し、不確実性を考慮した研究のポートフォリオを構築するための検討材料を提供することが目的です。
・「研究テーマ遂行シート」は、取り組むべき課題を決定した後、その課題に付随する不確実性を減らしていく段階、つまり研究活動を実行していく段階で使うことを想定しています。どんな不確実性を減らすことが求められているのかを可視化し、見落としや検討漏れがないか、今、どの不確実性について検討すべきかに気づきやすくすることを目的としています。

いずれも、機械的にこのシートを埋めれば研究がうまくいくという問題解決手法のようなものではありません。なぜなら、未知のことに挑むためには「考える」ことが必須であり、考えなくても問題解決ができるような手法では研究の成功は得られないのではないか、と思っているからです。そのため、このシートは「考えることを促す」ことと、研究者が陥りがちな「視野狭窄を防ぐ」こと、「忘却を防ぐ」ことの役に立つように考えてみました。シートに挙げた各項目も研究課題に合わせて変更、取捨選択をしていただいてかまわないと思いますし、そのような工夫を通じて、研究開発課題についての考えを深めることこそが研究の成功につながるのではないか、という思いもあります。以下、それぞれのシートについて、私が想定した使い方を簡単にまとめたいと思います。

3.2.1
、研究テーマを選定するための不確実性検討シート
どんな研究テーマ、プロジェクトを選ぶかにあたり、どのようなことを認識し、検討するとよいかを可視化したものです。研究のアイデアについて、このような点に着目すれば、研究ポートフォリオの質の向上に寄与できるのではないかと思っています。

不確実性検討シート

各項目について
A、研究テーマ名:アイデアの内容、プロジェクト名、研究テーマ名を書きます。
B、研究目標(研究が成功したときに得られる世界):研究がうまくいけば、こんなことができる、世の中がこう変わる、といったようなことを書きます。
C、成果の意義:研究目標とは異なる意義があればあわせて記載(学習、宣伝、学術的意義など)します。
D、達成時期目標:中間目標もあればそれも記載します。
E、目標が達成できる推定確率の範囲:成功率20~80%などと、イメージで書きます。あるいは、「2025年の普及率5~25%」というような書き方もあり得ます。随時見直しをする前提で大雑把な記載でかまいません。
F、目標が達成できる推定時期の範囲:Dの達成時期目標が範囲に含まれるように、2025年~2035年、のようなイメージで書きます。研究完了がいつごろの範囲、市場投入がいつごろの範囲、黒字化がいつごろの範囲、という書き方もあり得ます。
G、不確実性のリスト:想定される(解決すべき)不確実性を、技術、ニーズ、ビジネスモデルに分けてH,I,J行に書きます。どの領域に書くべきかが明確ではない場合でも、とりあえずどこかに入れる。自分では制御できないと思われる環境要因(他の利害関係者の影響も含む)もどこかに入れる。環境要因は入れ場所がはっきりしなければとりあえずビジネスモデルに入れておけばよいと思います。
H、アイデアの起源となった事実や仮説:これを記入することによって、シーズ志向のアイデアなのか、ニーズ志向のアイデアなのかとか、他のアイデアとの結びつきがわかりやすくなります。また、研究の初期段階で、どのような領域の考慮が不足していたかを知る手がかりにもなります。
I、すでにわかっている情報:過去の知見、情報収集の結果などを記入します。研究開発によって不確実性が解消されたことがあれば、シートを見直す際に、Jの領域からこのIの領域に移します。暗黙の前提となるようなこともなるべくあぶり出すようにしてここに書いておきます。すでにわかっていると思っていたのに、その確実性に不安が出てくるようなことがあれば、IからJの領域に移します。
J、どんな不確実性があるか(わかっていないこと):よくわかっていないこと、研究によって明らかにすべきことを思いつく限りここに書きます。その時、不確実性の大きさによって分けて書く場所を変えるとわかりやすくなることが多いですが、それでは書きにくい場合は、不確実性の大きさは無視して、項目を羅列してもよいでしょう。この欄を埋める際には、オスターワルダー、ピニュールによるCanvas別記事第14回参照ください)に挙げられた検討項目について考えることをお勧めします。また、ポーターによる5つの力(サプライヤー、買い手、新規参入者、代替製品、既存企業間の競争状態)の分析(第6回参照ください)も有用な視点を提供してくれます。
K
、不確実性を下げるために取り組むべき調査や研究(サブ研究テーマ):不確実性の解消にあたっては、多くの場合、特定の不確実性をターゲットにした別の研究テーマ(サブテーマ)を設定することになるでしょう。そうした具体的な研究項目をリストアップします。ここで、今、どの項目に取り組むべきかを考えて取り組みの優先順位も書く方がよいと思います。また、とりあえずは何も検討しない領域もあるかもしれません。その場合でも「様子見」とか「○○になったら検討する」、「現状では検討不要と判断」などと記入しておき、技術、ニーズ、ビジネスモデルの3つの領域の欄は必ず埋めるようにしてください。
L、不確実性の大きさの総合評価:以上の記載内容をまとめて、不確実性の大きさとどの分野の不確実性が大きいかを記載します。

使い方
このシートは、研究課題を決める段階で考慮すべき事項の例をまとめています。研究課題を決めるプロセスは組織によって様々だと思いますが、およそ以下のような手順を想定しています。
・あるアイデアについて、まずはこのシートを埋める。
・総合的な不確実性の大きさと、その他の要因を考慮して、研究ポートフォリオを考え、そのポートフォリオに基づいてこのアイデアの採否を決定してください。なお、このシートでは、不確実性の大きさと、実現時期に基づいてポートフォリオを考える場合を想定しています。ポートフォリオで何を重視するかは、組織ごとに異なっていると思いますので、必要に応じてこれ以外の要因も検討項目に加えてください。例えば、研究が成功した場合の収益性、売り上げ、顧客満足度、社会への貢献やインパクト、競争優位、学術的価値など、組織によって評価すべき項目は異なると思います。ただし、あまりにも網羅的になりすぎるとポートフォリオが複雑になってしまい検討の焦点がぼやけてしまいがちですので、ご注意ください。ただ、テーマ検討の際に考慮されることの多い期待効果金額や予算額、推進スケジュールなどはここではあえて省いています。これは、創発的な研究開発を進める上では事前の計画はそれほど重要な意味を持たないという考え方に基づいたものですが、もちろん、必要に応じて加えていただいてもよいと思います(ただし、不確実性の高い課題に対して、厳密な計画を立てることにはほとんど意義はないと考えますので、多くの場合、不確実性の項目のひとつとしてJ欄に記載しておけば十分であろうと思います)。
・一度作成したシートは定期的に見直しを行ってください。この際、リストアップした不確実性の項目は原則として削除しません。不確実性の認識に変化があれば、項目を削除するのではなく、その項目の位置を移動させるようにします。例えば、検討により不確実性が解消されたなら、その項目を「わかっている情報」の欄に移して「○○により不確実性が解消された」というように記載すべきです。不確実性の項目が多すぎてシートが大きくなりすぎる場合も、プレゼンなどの目的のためにその要約版を作ることはかまいませんが、直接の担当者が検討を行う場合には、すべての項目を記載したシートを用いて行うべきです。

3.2.2
、研究テーマ遂行シート
研究テーマ遂行シートは、第一線の研究者(研究グループ)が日々の研究活動で使うことを想定したものです。一般に、第一線の研究者が行う研究は、大きな研究テーマの一部をなす研究であることが多いと思いますので、ここでは3.2.1の「サブテーマ」を実行することを想定したシートとしています。実行する際の特徴としては、不確実性を下げるためにどんな実験をし、どんな結果が得られ、その結果をふまえて次に何を行うべきかを可視化する点です。

研究テーマ遂行シート

各項目について
a、研究(サブ)テーマ名:実行する研究を表す名称を書きます。
b、この研究が貢献する大テーマ、課題:どの研究テーマや研究課題の一部として行われるかの関係や位置づけがわかるように書きます。探索的なテーマ、思いつきによる実験のように、大きなテーマの一部ではない場合には、大テーマの一部ではない独立性の高いテーマであることがわかるように書いておけばよいでしょう。
c、いつごろまでに何を明らかにしたいか:時間的目標を記載。他のサブテーマとの関係で達成時期の目標があれば明確に記載してください。急がないテーマなら「成り行き」としておくことも可です。
d、背景となる状況・他の研究との連携:この研究テーマの遂行に役立つような状況(例えば、すでに自社独自のノウハウを持っているとか、有利な設備を保有している、他社との提携関係があるなど)、他社との競争関係(優位にある分野、キャッチアップの必要性など)、このテーマが貢献できる可能性のある他のテーマ、他のテーマの成功がこのテーマに貢献する可能性があるなどの状況を記載すします。
e~h、不確実性の分析、アイデアの起源となった事実や仮説、すでにわかっている情報、どんな不確実性があるか:この部分の書き方は3.2.1、研究テーマを選定するための不確実性検討シートと基本的に同じです。研究テーマ遂行シートでは、その見直しのサイクルを短くし、随時、新たにわかったことに基づいて古い項目を書き換えていくことが特徴です。ただし、ここでも古い項目は決して削除せず、何らかの形で残しておいてください。
i、現状での不確実性総合評価:この項目は、技術、ニーズ、ビジネスモデルの各領域の不確実性のレベルをそれぞれ個別に評価し、どの領域の不確実性が現在もっとも懸案になっているのかを明らかにします。えてして技術者が行う研究では技術の領域にばかり注意が行きがちですので、ニーズやビジネスモデルの不確実性もしっかりと認識できるようにすることが狙いです。
j、不確実性を減らすために取り組んだこと(実験内容):ここから以下が実際に研究を行い、その結果に基づいて考えたことを書く欄です。まずは、どんな実験をやったかをここに書きます。
k、得られた知見・新たな発見(実験結果):実験を行って得られた結果をここに書きます。その結果、hに書いた不確実性が変化したなら、その結果を反映させて、hの項目の記載内容を変更します。
l、このテーマの推進のために次に行うべき実験:実験結果をふまえて、次にどんな実験を行うべきかをここに書きます。この時、いくつかの実験の候補が考えられることもあるでしょう。その実験アイデアはとりあえずここに書いておいて、その優先順位づけも行うべきです。場合によっては「とりあえず、一段落」とか「棚上げ」として、他の不確実性の解消に向けた検討を行う、というような判断も行います。そうして実験を繰り返していくことになります。
m、新たな発見を活かす次の研究のアイデア:ここは、得られた実験結果をこのテーマの不確実性の減少に使うのではなく、新たな別の研究のシーズとして使う場合の記入欄です。せっかく得られた実験結果ですから、結果を当初の研究テーマ以外にも使える可能性はないかと考えることは決して無駄なことではないと思います。その目的のため、この欄を設けてみました。セレンディピティに巡り会えればこの欄に書かれることもあるでしょう。

使い方
・実験計画を立案し、実験し、その結果を考察して次の実験に活かす、というサイクルで研究を進める際に使うことを想定しています。実験をうまく進めることが目的ですので、各項目を完璧に埋める必要はありません(ただし、現実的なテーマでh欄にあまりに空白が多いのは好ましくありません)。思いつくところを記入し、頻繁に見直すことで全体像を徐々に確実なものにしていく、という使い方がよいと思います。
・実験の結果を検討する際には、担当者単独やその上司とで利用するよりも、グループで検討することをお勧めします(個人で使えないこともないですが)。そうすれば、幅広い考え方が得られ、また、研究の進捗についての情報共有にも役立つのではないかと思います。
・進捗報告にこのシートを使う場合、j~mの部分を主に記入することになります。その他の部分は毎回レビューする必要はないと思いますが、ある程度の期間ごとに必ず全体を見直すことは、研究を正しい方向に進める上で必要なことではないかと思います。

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以上をもって2016年に開始した「研究開発実践のマネジメント」(研究開発マネジメントノート第3シリーズ)を「完了」としたいと思います。とはいえ、毎回の掲載を進めながら過去の記事を見直すと、改訂の必要な点も感じていましたので、早速来月からこの第3シリーズの改訂となる第4シリーズを開始したいと思っています。研究開発をうまく進める方法、などというものは決定版のようなものは決して得られることはないと思います。検討を継続的に繰り返すことでしか進歩は得られないのではないか、という気もしますので、よろしければ次のシリーズもおつきあい下さい。


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