研究開発マネジメントノート

研究開発とそのマネジメントについてのいろいろ

2019年06月

ノート記事目次(2019.6.30版)

本ブログでは研究開発マネジメントの実践に有用な知識を「ノート」としてまとめています。2010年にシリーズI、「ノート:研究マネジャー基礎知識」を開始し、2013年からはその改訂版(シリーズII)を書きました。2016年からさらにその改訂を行って(「研究開発マネジメントの実践と基礎知識」(ノート全面改訂))2019年5月に完結(シリーズIII)、現在は、さらにその改訂版(シリーズIV)を書き始めています。今回は、この5月に完結したシリーズIII「研究開発マネジメントの実践と基礎知識(ノート全面改訂)」の目次を整理しました。他の記事の目次は本ブログ記事目次・参考文献リスト・索引の最新版はこちらをご参照ください。

ノート全面改訂記事「研究開発マネジメントの実践と基礎知識」(2016年~2019年、シリーズIII
はじめに
2016.3.27)(全面改訂第1回)
ノート記事改訂の趣旨、研究開発マネジメントの現状
参考リンク

全面改訂1.1、研究開発とは
2016.5.1)(全面改訂第2回)
新しいことを扱い情報を得ようとする活動としての研究開発、マネジメントのポイント
キーワード:研究開発の必要性、研究開発活動と研究開発ではないこと
参考リンク

全面改訂1.1.3)、研究とイノベーションをめぐる様々な考え方
2016.5.29)(全面改訂第3回)
Schumpeter
の考え方、それにとらわれない考え方、イノベーションにおける技術の役割
キーワード:新結合、創造的破壊、企業家、イノベーションの歴史的変遷、ビジネスモデル
参考リンク

全面改訂1.2研究の不確実性をどう考えるか
2016.6.26)(全面改訂第4回)
研究対象(新しいこと)には不確実性がある、不確実性はどんなものでどこにあるのか(内部と外部)
キーワード:リスク、意思決定、因果関係、内部の不確実性、外部の不確実性、複雑系、行動経済学、セレンディピティ、創発的戦略、
参考リンク

全面改訂1.2.3)研究の不確実性に関する様々な考え方
2016.7.24)(全面改訂第5回)
不確実性への対処、不確実性を減らす具体的手法
キーワード:内生的不確実性、外生的不確実性、知の探索、知の深化、コンピテンシー・トラップ、限定的合理性、両利き、組織学習、イノベーション・ポートフォリオ、リアル・オプション、創発的戦略、イノベーション実現メソッド、プロトタイピング、リーン・スタートアップ、MVP、デザイン思考、失敗を活かす
参考リンク

全面改訂1.3研究開発活動に影響する環境要因
2016.8.21)(全面改訂第6回)
不確実性に影響する環境要因として重要な競争相手の存在、競争相手から得られる洞察
キーワード:環境要因、競争相手、ポーター、5つの力、SCP理論
参考リンク

全面改訂1.3.3)研究開発活動に影響する環境要因と競争
2016.9.19)(全面改訂第7回)
競争に影響を及ぼす環境要因は変化する。競争に有利な状況をどうつくるか。
キーワード:競争戦略の問題点、ブルー・オーシャン戦略、非対称的モチベーション、破壊的イノベーション、セレンディピティー、競争相手の意図
参考リンク

全面改訂2.1不確実性に着目した課題設定のすすめ
2016.10.16)(全面改訂第8回)
研究テーマ設定は、課題実現、ニーズ、市場への供給と競争の視点から考えるとよい。
キーワード:研究テーマ設定、どこに不確実性があるかの見極め、課題実現の不確実性、ニーズの不確実性、市場に届ける方法、競争に勝つ方法の不確実性、ビジネスモデル、アイデアの源、ニーズ志向、シーズ志向、カップリングモデル、破壊的イノベーション、持続的イノベーション、ローエン型破壊、新市場型破壊
参考リンク

全面改訂2.1.3)研究テーマ設定を不確実性の観点から考える
2016.11.13)(全面改訂第9回)
不確実性がどこにあるか、その重要性を見極め、自分たちで解決できるかを考えて課題を決める。
キーワード:ファーストマイル、挑戦の要、コーイノベーション・リスク、魔の川、死の谷、ダーウィンの海
参考リンク

全面改訂2.1.1課題実現の不確実性に関わるテーマ設定の特徴と注意点
2016.12.11)(全面改訂第10回)
課題実現(技術)以外の不確実性、効果的に学習することに注意、不確実性の大きい課題、小さい課題のバランスをとることが重要。
キーワード:課題実現の不確実性、技術の不確実性、研究部門、未知のこと、既知のこと、頭を使う、体を使う、他部署からの依頼、分業、学習、真のセレンディピティー、擬セレンディピティー、不確実性の程度、中核事業と新規事業のバランス、パフォーマンスエンジン、技術維持、イノベーションポートフォリオ
参考リンク

全面改訂2.1.1.3)、技術的課題実現に関わるテーマ設定の注意点
2017.1.9)(全面改訂第11回)
課題を実現する研究開発の際には、単に技術的分野を分担するだけでなく、総合的な観点からイノベーションを推進することも必要。
キーワード:専門性、10年ルール、分業、技術維持、普及、死の谷、FFE、学習、不確実性

全面改訂2.1.2、ニーズの不確実性に関わるテーマ設定の特徴と注意点
2017.2.5)(全面改訂第12回)
ニーズのないところに研究の成功はないが、顧客の真のニーズを知ることは容易ではない。どんな手法が活用できるか。

キーワード:ニーズ、片付けるべき用事、エスノグラフィー、行動観察、デザイン思考

全面改訂2.1.2.3)ニーズの不確実性に関わるテーマ設定において考慮すべきこと
2017.3.5)(全面改訂第13回)
ニーズに基づく研究テーマを考える際の注意点。誰のニーズか、市場規模、ニーズ発生のタイミングも考慮が必要。
キーワード:片付けるべき用事、クラウドファンディング、イノベーション普及、ユーザー・イノベーション

全面改訂2.1.3市場で成功するための不確実性をどう克服するか
2017.4.2)(全面改訂第14回)
市場で成功するには価値を市場に届け、収益をあげる仕組み(ビジネスモデル)と協力関係(エコシステム)をいかにうまく作るかが重要。
キーワード:市場、ビジネスモデル、エコシステム、協力、Vehicle for InnovationSource of InnovationCanvas、コーイノベーション・リスク、アダプションチェーン・リスク

全面改訂2.1.3.3)ビジネスモデルを考える際の注意点(2017.5.1
(全面改訂15回)
ビジネスモデル、エコシステムをうまく作るための様々な提案を紹介。作り上げたビジネスモデル、エコシステムの改善も重要。
キーワード:ビジネスモデル、エコシステム

全面改訂2.1.4やりたいことに基づくテーマ設定
2017.5.28)(全面改訂第16回)
研究者の興味に基づくテーマは直接的なビジネスへの貢献は期待しにくいかもしれないが、うまく進めれば企業にとって有益になりうるのではないか。
キーワード:3M、15%ポリシー、努力の娯楽化、マインドフルネス、暗黙知、社内政治、信頼、自由、宣伝、Partner of choice

全面改訂2.1.5テーマを選ぶ
2017.6.25)(全面改訂第17回)
実施するテーマを選ぶ際には、必要性、重要性、興味、実現性が重要。さらにポートフォリオを意識すべき。
キーワード:ハイルマイヤー(Heilmeier)の基準、ポートフォリオ、不確実性、資源配分

全面改訂2.2.1研究者の活性化
2017.7.23)(全面改訂第18回)
モチベーションに影響する因子には、欲求、環境や仕事の性質、仕事の進め方、期待、論理的あるいは非論理的な気持ちなどが影響する。それらをうまく組み合わせることが必要。
キーワード:モチベーション、外発的動機、内発的動機、欲求、ニーズ理論、Maslow、欲求階層理論、動機付け要因、衛生要因、職務特性理論、期待理論、ゴール設定理論、自己効力感、感情

全面改訂2.2.1.3)研究者の活性化とモチベーション
2017.8.20)(全面改訂第19回)
モチベーションに影響する要因には様々なものがある。置かれた状況や個人の考え方に応じてモチベーションを高める工夫をする必要があり、そのためにモチベーションの本質的理解が有用。
キーワード:モチベーション、エンパワーメント、心的活力、働きがいのある会社、外発的動機づけ

全面改訂2.2.2研究者の適性と最適配置
2017.9.18)(全面改訂第20回)
個人の適性にあった仕事を担当してもらうことには利点がある。そうした仕事の進め方を可能にするのが、多様性を尊重する考え方なのではないか。
キーワード:未知か既知か、頭を使うか体を使うか、適材適所、多様性、新規性、実行

全面改訂2.2.2.3)研究適性についての様々な考え方
2017.10.15)(全面改訂第21回)

研究者の適性については様々な考え方がありますが、不確実性に耐えられること、協力できること、失敗から学べること、自律的であること、新しいことへの意欲があることが重要と思います。
キーワード:パーソナリティ、チーム

全面改訂2.2.3研究リーダー、マネジャーの役割
2017.11.12)(全面改訂第22回)
マネジャーに求められることは、他の人に影響を与え他の人の適切な判断と好ましい行動を促すことと考えられます。そのためには、ビジョンを掲げること、多様性を確保すること、コミュニケーション促進などが必要とされるでしょう。
キーワード:リーダー、マネジャー、ビジョン、TFL(トランスフォーメ―ショナル・リーダーシップ)、多様性、コミュニケーション、連携、調整、育成、指導、ロールモデル

全面改訂2.2.3.3)リーダー、マネジャーの役割とあり方に関する様々な考え方
2017.12.10)(全面改訂第23回)
リーダーのあり方に関する様々な考え方の紹介。様々な考え方を参考に状況に応じたマネジメントを考えて実行することが重要か。
キーワード:シェアード・リーダーシップ、シリアル・イノベーター、10X型リーダー、賢慮、グーグル

全面改訂2.2.4研究メンバーの育成
2018.1.8)(全面改訂第24回)
技術の高度化、技術伝承の必要性を考えると、研究者育成をうまく行なう必要性は今後高まっていくと考えられます。学習のメカニズムの理解に基づく効果的な育成を目指す必要があると思われます。
キーワード:育成、能力、学習、コルブの経験学習モデル、経験、ヤーキーズ・ドッドソンの法則

全面改訂2.3.1研究組織の構造
2018.2.4)(全面改訂第25回)
技術志向、機能志向、マトリックス構造など、組織の特性を理解した上で、状況に応じてマネジマントの方法を工夫していくことが必要。
キーワード:技術志向、機能志向、マトリックス、ピラミッド組織、フラット組織、ネットワーク組織、連携、エコシステム

全面改訂2.3.2研究組織の仕組み
2018.3.4)(全面改訂第26回)
組織運営の仕組みも研究開発の進め方を考える上では重要です。制御された自由を研究者にどう与えるかが重要な視点になると思われます。
キーワード:トップダウン、ボトムアップ、自由、制度、組織文化

全面改訂2.3.3研究組織の望ましい特性
2018.4.1)(全面改訂27回)
どんな特性を持つ組織が研究にとって好ましいのか。自律性と多様性があり、コミュニケーションが活発で、学習、協力ができること。それにより知識が創造できるような組織、ということになると思います。
キーワード:自律性、多様性、コミュニケーション、学習、協力、知識創造、SECIモデル、場

全面改訂2.3.3.3) 研究組織の望ましい特性に関する様々な考え方2018.4.30)(全面改訂28回)
研究組織の望ましい特性についての様々な考え方の基本は、
研究開発に携わる人々が自らの可能性を最もよく発揮できる組織特性、それを担保する「信頼」であると思われます。
キーワード:ビジョン、自律性、多様性、コミュニケーション、学習、実験、協力、信頼

全面改訂2.3.4研究組織の運営手法
2018.5.27)(全面改訂29回)
成果を引き出すための運営手法について考えました。特にコミュニケーションを促進するため、報告、連絡、相談、ミーティング、会議をうまく運営することが有効だと考えます。

キーワード:報告、連絡、相談、ミーティング、会議、アジャイル、スクラム

全面改訂2.4.1研究プロジェクトの運営
2018.6.24)(全面改訂30回)
研究プロジェクトの運営については、近年では、事前に綿密な戦略と計画を立てそれに従って進めることよりも、試行からの学習と臨機応変な方向転換を重視する考え方が増えてきているようです。
キーワード:不確実性、実験、試行、学習、見直し、方向転換、協力

全面改訂2.4.1.3) 研究プロジェクトの進め方に関する様々な考え方
2018.7.22)(全面改訂31回)
試行を重視するプロジェクトの進め方、計画重視の考え方、従来のプロジェクトマネジメント手法の得失を整理しました。
キーワード:創発的戦略、リーン・スタートアップ、デザイン思考、計画、プロジェクトマネジメント、ステージゲート

全面改訂2.4.2コラボレーションのマネジメント
2018.8.19)(全面改訂32回)
他組織とのコラボレーションの遂行では、分業と協力を分けて考えること、win-winの関係を維持できるようにすること、信頼を重視することが重要であると考えます。
キーワード:コラボレーション、協働、分業、協力、win-win、信頼、オープン・イノベーション、イノベーション・エコシステム、

全面改訂2.4.3プロジェクトの方向転換と中止
2018.9.17)(全面改訂33回)
研究開発においてプロジェクトの中止や方向転換は必須のものであるにもかかわらず、なかなか実行は難しいようです。うまく中止、方向転換するには人間の心理的抵抗をなるべく小さくすることが必要でしょう。
キーワード:中止、方向転換、失敗、ピボット、予測市場、死前検証

全面改訂2.4.4可視化による運営のマネジメント
2018.10.14)(全面改訂34回)
創発的な研究開発では、
「現在どこにいるのか」という現状認識と、「それに基づいてどこに進むべきか」という判断が重要と考えられます。その認識のため、どんな不確実性があって、それがどう変化するかをわかりやすくまとめることは有意義だと思われます。
キーワード:可視化、Canvas、ダッシュボード、HOPE実験テンプレート、確実性の推移表

全面改訂2.4.5失敗を避ける
2018.11.11)(全面改訂35回)
研究開発に伴う失敗は、重要ポイントの見落とし、イノベーションの本質の理解不足、思い込み、現状維持、能力の過信、不完全な実行の仕組みなどが原因と考えられます。まずは失敗を避けられるという過信をしないことが重要でしょう。
キーワード:失敗、見落とし、現状維持、過信

全面改訂2.4.5.3) 失敗の様々な要因
2018.12.9)(全面改訂36回)
さまざまな失敗原因についての考察を集めました。失敗原因は様々ですので、事例や様々な視点からの考察から学ぶことも必要と考えます。

キーワード:失敗、衰退の5段階、幹部の脱線、判断のバイアス、チーム、最初の段階

全面改訂2.5.1研究成果を生かすために必要なイノベーション普及の考え方
2019.1.6)(全面改訂37回)
研究成果を使ってもらうための重要な視点であるRogersのイノベーション普及学をレビューしました。
キーワード:Rogers、イノベーション普及、採用者カテゴリー

全面改訂2.5.1.3) イノベーション普及に関連した様々な考え方
2019.2.3)(全面改訂38回)
イノベーション普及論の限界、キャズムへの発展などを議論しました。普及の考え方は有効ですが、
Rogersのモデルは製品の変化を考慮しない単純化されたモデルである点には注意が必要でしょう。

キーワード:イノベーション普及、キャズム、ネットワーク

全面改訂2.5.2得られた知的資産の活用
2019.3.3)(全面改訂39回)
暗黙知を含む知識の移転、特許の活用など、研究によって得られた知的資産を活用して、新たな知識の創造につなげていく努力はますます必要になっていくと思われます。
キーワード:暗黙知、形式知、知識伝承、知的資産、ナレッジマネジメント、特許

全面改訂3.1まとめ(不確実性に基づく研究マネジメント)
2019.3.31)(全面改訂40回)
研究開発を不確実なものと捉え、重要な不確実性をうまく減らしていくことが研究開発をうまく進めるために必要なことだと思います。その視点で特に重要なポイントをまとめました。
キーワード:不確実性、研究マネジメント

全面改訂3.2不確実性マネジメントシート
2019.5.1)(全面改訂41回)
不確実性に基づく研究マネジメントの実践のための、「研究テーマを選定するための不確実性検討シート」と、「研究テーマ遂行シート」の2つのツールを紹介しました。
キーワード:不確実性、ツール、シート


シリーズIV(現在改訂執筆中)記事
「研究開発マネジメントの知識と不確実性に基づく研究マネジメント」
ノートIV第1回:はじめに2019.5.26)<対応するシリーズIII記事:第1回
シリーズIIIとは構成も若干変えて、不確実性に基づく研究マネジメントの視点で全体をまとめます。シリーズIVの予定と、シリーズIIIとの対応リンクを入れました。
キーサード:不確実性


ノートIV第2回:1.1研究開発とは?
2019.6.23)<対応するシリーズIII記事:第2回
新しいことを扱い情報を得ようとする活動としての研究開発、マネジメントのポイント。
キーワード:研究開発の必要性、不確実性、研究マネジメントがなすべきこと、イノベーション


シリーズII「ノート記事改訂版」(2013-4目次はこちらの後半を参照ください。
シリーズI「研究開発マネジメントノート」(2010目次はこちら


研究開発マネジメントノートIV第2回:1.1研究開発とは?

「研究開発マネジメントの知識と不確実性に基づく研究マネジメント」

はじめに

1,研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと
1.1
、研究開発とは?

世の中には研究開発を分類した様々な概念があります。そういう分類や概念は研究開発というものの理解には役立つかもしれませんが、実践家にとっての研究開発の進め方の指針になるか、というと必ずしもそうとは限らないように思います。本ブログは実践家にとって役に立つことを最優先にマネジメントを考えていきたいと思いますので、「研究開発とは何か」についてもまずは実践家の使いやすさを重視した定義をしておきたいと思います。

1)研究開発とは?:実践のためのシンプルな理解
研究開発とはどのようなものかをシンプルにまとめると以下の2点になると思います。
・「新しい」ことを対象にした活動である
・「情報」を得る活動である

このうち「新しい」ことを対象とするという考え方からは、研究開発には「不確実性」がある、ということが導かれるはずです。そして、その「不確実性」を何とかうまく処理できれば、それが研究開発の成功につながるのではないか、というのが本シリーズでの議論の根幹になっていきます。今回はまずこの定義について考えたいと思います。

2)
研究開発とは何かを考える
「新しい」ということ
企業における仕事には様々なものがあります。例えば、新製品の開発は一般に研究開発部隊の仕事でしょう。では、工場の操業改善や新たなビジネスモデルの構築はどうでしょう。市場調査や営業活動は?。それぞれ専門の部隊に任されることも多いでしょうが、研究部隊が参加することもあるかもしれません。そうした様々な場面で「研究開発」的な仕事の進め方が求められるとすれば、既成の仕事の分類にとらわれることなく、様々な仕事に現れる「研究開発」的な仕事の特性に着目し、その特性を有する仕事を「研究開発」と定義した方が実践的に便利なのではないかと思います。この考え方で研究開発を特徴づけようとすると、まず「新しい」ということが挙げられるのではないかと思います。

例えば、世の中にないものを対象にするならそれは文句なく「新しい」と言えるでしょう。また、操業のちょっとした改善であっても、それが世の中にないチャレンジであるならその部分は「新しい」と言えるはずです。さらに、世の中では知られていても、自分たちがそれを知らなければ自分たちにとっては「新しい」ことになります。外部から技術を導入するような場合であっても、自社の状況に合わせる工夫が必要な場合には「新しい」と言ってもよいのではないでしょうか。

こうした「新しい」ことには、共通の特徴があり、「新しい」ことを扱う上で必要なノウハウには重なるところがあると思います。そこで本稿では、研究開発の範囲を広く捉え、「新しい」ことを対象とする活動と考えたいと思います。

「情報」を得るということ
「新しい」ことは「知らない」ことでもあります。なぜ「知らない」ことを扱うかと言えば、それは「知る」ため、すなわち、対象に関する「情報」を得るため、「学習」するためと言えるでしょう。ただし、学校での通常の学習のように一方的に外部から情報が与えられてそれを受け取るだけの場合は、研究とは異なる活動だと思われます。つまり研究開発とは、「情報」を取りに行く能動的、積極的な活動によって「情報」を得る活動と理解できると思います。例えば、先生や文献から何かを学ぶとしても、その情報を能動的に探しにいく過程には研究の要素があるでしょう。また、ふと思いついたり、狙い以外の役に立つ情報がたまたま得られたような場合でも、何らかの情報を探しに行って見つけたものであったり、その情報をもとに実際に使える情報を得ようとする意図や行為があれば、それは研究開発と言ってよいと考えます。(なお、この考え方は、ThomkeReinertsenの「製品開発は、情報を生み出す非定形の業務」とする考え方[文献1]にヒントを得たものです。また、酒井崇男氏は、「情報視点で見ると、企業活動を通して私たちが生み出している価値とは、本質的には次の3つの情報資産である。・・・1、設計情報:『商品』に相当する情報資産、2、設計情報をつくりだし、生産(媒体に転写)するためのノウハウ、3、人材の頭脳に残っていく知識・経験の蓄積[文献2、p.80]」「人間の労働(付加価値を生む人間の活動)は情報視点で見れば、『情報を収集し』『情報を創造し』『情報を転写し』『情報を発信する』というビジネスプロセスのどこかに割りつけられている。[文献2、p.112-113]」と述べています。)

研究開発を以上のように捉えることにより、研究開発に関わるいくつかの問題がうまく整理できると私は考えています。以下、それらの点について考えてみましょう。

なぜ研究開発は必要なのか
なぜ研究開発が必要なのかは時々議論になります。研究開発などしなくても企業が収益をあげられればいい、とか、研究開発は他者に任せておけばよい、というような意見を持つ人もいるようですが、研究開発を上記のようにとらえると、そうした意見に反論しやすくなると思います。研究開発はなぜ必要なのか。その最も重要な理由は、「世の中が変わるから」、と言ってよいのではないでしょうか。世の中が変わればそれに対応するには「新しい」取り組みが必ず必要になるはずです。もちろん、世の中が変わって今の事業が成り立たなくなれば、その事業を捨てるという経営戦略もあり得ますので、その場合には研究開発は要らないかもしれませんが、逆に言えば、研究が不要なのはそういう決断をしたときのみ、と言えるでしょう。

おそらく研究に対する懐疑的な見方は、研究開発という行為と、研究開発部隊を混同していることに端を発しているのではないかと思います。実は、研究者でも研究開発部隊と研究開発行為を同一視する人もいるのですが、研究開発を上記のようにとらえると、「新しい」ことへの挑戦は誰がやってもよいし、誰もがそれなりに行い得ることだと考えることができます。上記のように研究開発を広く捉えることにより、研究開発の必要性について意味のある議論ができるようになるのではないでしょうか。

経済学では、研究開発は経済成長の原動力と捉えられることが多いと思いますが、そのように考えても実践的にはそれほど有意義な示唆を導けない気がします。経済成長は研究開発の成果のひとつであって、経済成長を目指した研究開発という考え方は、あまりに研究開発の可能性を狭く捉えすぎているのではないでしょうか。研究開発に携わる人々の意欲を、社会の変化に適応した「新しい」取り組みや社会の変化を生み出す「新しい」取り組みに方向づけることこそが、研究開発を実践する研究者、マネジャーが行うべきことだと思います。経済成長の原動力になるから研究をしなければならないのではなくて、「新しい」ことが必要とされるから研究が必要になり、その結果が経済的な利益を生むのだと思います。

研究開発を定義することの実利的な意味
さらに、研究開発を上記のように定義することには実利的な意味もあります。それは、「何が研究開発ではないか」を明確にできることです。上記の定義に従えば、例えば、やればできるとわかっていることをその通りにやることは「新しく」ないので、研究開発ではないということになります。例えば、工場での定常的な生産、変化のないルーチンワークの仕事、「新しい」ことや「情報」を得ることに繋がらない報告業務などが挙げられるでしょう。もちろん、こうした業務は研究部隊が行った方が効率的な場合もあるでしょうが、研究開発の本来の仕事ではないと考えます。他部署からこうした業務の依頼を受けたような場合、それが研究開発には該当しないという理由で断ることも可能かもしれません。また、どうしても研究部隊がそうした活動に関わらなければならないとしても、単に依頼をこなすだけでは研究者の存在意義はないことを研究者に意識づけるべきでしょう。他部署のお手伝いであって、そこから何か「新しい」こと、有益な「情報」を見つけられてはじめて一流の研究者なのだ、というように研究者を意識付けすべきだと思います。何が研究開発であって何が研究開発でないのかを明らかにしておくことは、研究部隊の仕事を正しく方向づけることにも使えると言えるのではないでしょうか。

加えて、研究部隊は何も生んでいない、という乱暴な批判に反論することもできます。確かにモノを生んではいないかもしれませんが、研究をすれば何らかの「情報」を生んでいるはずです。その「情報」が利益に結び付いていないとすれば、その情報の質が悪いか、情報を利益に結び付ける活動がうまくできていないかのどちらかでしょう。決してモノを生んでいないから意味がないわけではないはずです。

研究マネジメントは何をすべきか
研究開発を、「新しい」ことを扱い、「情報」を得ようとする活動であると考えるとき、そのマネジマントはどうあるべきでしょうか。まず確認しておくべきことは、研究開発を誰がどうやるかによって成果の大きさが変わるということです。そうであるなら研究開発をうまく行い、なるべく効率よく大きな成果を挙げることがマネジメントの重要なポイントとなるでしょう。

具体的に、「新しい」「情報」という視点からマネジメントのポイントを考えると以下のようになると思います。
・何が研究開発で何が研究開発でないかを明らかにするにする
→研究開発部隊がやるべきことと他部署に任せるべきことを区別して効率的な運用を行う
→研究開発部隊がやるべきことから逸脱することを防ぐ
→アウトプットすべきは「情報」。モノでもカネでもない。
(モノやカネ、社会への貢献など、企業活動の改善に結び付く「情報」が重要になるでしょう。)
→研究開発に役立つ手法と、研究開発でないことに役立つ手法は異なる
(例えば、シックスシグマによる品質管理は決まったこと(「新しく」ないこと)をうまく進めるのに適した手法なのではないでしょうか。だとすれば、「新しい」ことの管理には向かないかもしれません。実際、Radjouらは、3Mでシックス・シグマの導入によってイノベーション能力が損なわれた事例を紹介しています[文献3、p.78-82]。また、目標による管理は、「新しく」て明確な目標が立てにくい場合には向かないと思います。)
・どんな「新しい」ことに注目すべきか
→世の中の変化から求められる(と予想される)「新しい」こと
(例:ニーズやシーズ、環境(競争環境、法令、社会的要請など)の変化など外因性の変化への対応)
→世の中を変えるような「新しい」こと
(先手を打って世の中を変えていく、現状のままではダメだから変える、など自発的な変化)
・どんな「情報」がよいのか
→「こうすれば、こうなる」というような因果関係の情報
→現象の理解、原理解明
(特に、企業活動にとっては因果関係のヒントになるような側面の理解・解明が重要)
→試行のきっかけとなるような「情報」(こうしたらよいのではないか、など)
→精度の高い情報、応用範囲の広い情報、インパクトの大きい情報

結局のところ、上に述べたような新しく有用な情報を、なるべく効率よく(多く、速く、少ない資源で)得ること、それが研究開発マネジメントのポイントなのではないかと思います。

イノベーションと研究開発
研究開発に関連して、「イノベーション」という言葉がよく用いられます(というより、こちらの方が人口に膾炙しているように思われます)。その違いをどう考えるかについて簡単に触れておきます。イノベーションに関しては様々な定義がなされていますが、例えば青島矢一氏は次のように定義しています。「イノベーションとは、一般に『何か新しいものを取り入れる、既存のものを変える』という意味をもっている。[文献4、p.1]」「シュンペーターは、イノベーションを、『新規の、もしくは、既存の知識、資源、設備などの新しい結合』と定義している[文献4、p.2]」。「われわれは、・・・シュンペーターの古典的な定義を踏襲しつつ、イノベーションを『社会に価値をもたらす革新』と定義することとする。[文献4、p.3]」このように、本稿での「新しい」という定義に加え、「社会に価値をもたらす革新」という社会的な視点が加わっているのがイノベーションであるという定義が多いように思います。これは、本稿の「新しい」という視点と重なる部分が多いと考えられるのですが、「社会に価値をもたらす」かどうかは、あくまで結果です。実践家が研究開発に取り組む際には、社会に価値をもたらすことを意図していたとしても、結果はわかりません。そのため本稿では、イノベーションを含むより広い概念で「新しい」ことに挑む行為を「研究開発」と呼ぶことにしたいと思います。本シリーズの今後の記事では、両者を特に区別することなく使うことがあると思いますが、実践的な観点からはこのような違いをちょっとだけ意識した用語法とお考えいただければありがたいです。


文献1Thomke, S., Reinertsen, D.、有賀裕子訳、「製品開発をめぐる6つの誤解 製造プロセスでの効率性は通用しない」、Diamond Harvard Business Review, 2012, 8月号、p.76本ブログ紹介記事
文献2:酒井崇男、「『タレント』の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論」、講談社、2015.ブログ紹介記事
文献3:Navi Radjou, Jaideep Prabhu, Simone Ahuja, 2012、ナヴィ・ラジュ、ジャイディープ・プラブ、シモーヌ・アフージャ著、月沢李歌子訳、「イノベーションは新興国に学べ! カネをかけず、シンプルであるほど増大する破壊力」、日本経済新聞出版社、2013.本ブログ紹介記事
文献4:一橋大学イノベーション研究センター編、「イノベーション・マネジメント入門 第2版」、日本経済新聞出版社、2017.ブログ紹介記事


「残念な職場」(河合薫著)より

研究の成果は、研究者がその研究にどれだけコミットし熱心に関わったかによって左右されまるところがあります。そして、その研究者のやる気には、働く環境も影響を与えます。では、どんな環境が望ましいのでしょうか。逆にどんな環境はよくないのでしょうか。

このような職場環境と仕事の成果の問題は研究開発に限ったことではありません。もちろん、研究に独特の要因が存在する可能性はありますが、研究開発と一般の仕事の共通点も多いはずです。そこで、今回は、こうした職場環境の問題を議論した、河合薫著「残念な職場」[文献1]の内容をご紹介したいと思います。著者は次のように述べています。「職場には『意味不明』が蔓延し、部下たちは、『なんでこんな意味不明なことばかりなんだ!』とうっぷんを溜め込んでいます。[p.9]」「しかしながら、より厄介なのは現場で『これって意味ないじゃん』と口をとがらせていた社員までもが、出世したとたん、意味不明の世界に埋没していくという現実です。[p.13]」「職場にはびこる数々の意味不明においても、『知覚とは習慣(=文化)による解釈』であり、『心は習慣』で動かされていることが深く関係しています。[p.17]」「価値観には『意識できるもの』と『無意識のもの』があります。社会に長年存在した価値観や、外部から刷り込まれた価値観は『無意識のもの』となり、自覚しないまま言動に反映されがちです。[p.24]」「『無意識の価値観』と『確証バイアス』で、真の問題が隠れ、間違った決断が容易に下されていまいます。しかも困ったことに、職場で、当たり前とされているものの多くが、効果の検証がされていなかったり、研究結果をチェリーピッキング(都合のいい事例の抜き出し)したものだったり、たまたまA社で上手くいったものだったり、運よく成功を収めたカリスマ経営者の後付けの成功体験だったり、有名コンサルタントが言っているだけのことだったり・・・・・・。とにもかくにも科学的根拠に乏しい思い込みや慣例が氾濫し、それが当たり前として広がっているのです。[p.26]」「こういったいくつもの当たり前を疑いもなく信じ込むことで、残念な職場が出来上がるのです。職場の意味不明を撲滅するには、当たり前が当たり前じゃなかったことを知ることしか道はありません。[p.27]」「本著では、・・・人の心の動き(=心理学)と、社会の窓(=社会学)の両面から『残念な職場』脱却の策を考えます。[p.27-28]」以下、本書の構成に沿って興味深く感じた点をまとめたいと思います。

第1章、無責任な人ほど出世する職場
・「『記憶は川のように流れているもので、書き換えが可能で、全く信頼するに値しないものだ』・・・これは20世紀で最も一般人に知られた心理学者という異名をもつ、米国のエリザベス・F・ロフタスの名言です。・・・ロフタスは、・・・『記憶の塗り替え』が起きることを繰り返し実験し、証明し続けました。[p.36-37]」「人間の記憶は川のように流れていて書き換えが可能であるなら、いかに『言った言わない』『聞いた聞いていない』の議論が不毛で、権力なきものに勝ち目のないことか、おわかりいただけると思います。そのうえ自分の主張を裏付ける意見しか耳に入らないので(確証バイアス)、『無責任な上司』は相当手強い。こうやって意味不明な職場が出来上がっていくのです。[p.40]」
・「実績と昇進の関係を検証した調査は国内外で数多く出揃っているのですが、それらをレビューすると、実に残念なファクトを突きつけられます。なんど、『大きな組織では、几帳面さや責任感は昇進にマイナスに作用する』というのです。[p.41]」「責任感の強さがなぜ、マイナスに作用するのか? 理由の一つは正義感です。責任感の強い人は正義感も強いため、自らの責任に加え、他者への責任追及も厳しくなりがちです。・・・誰かが正直に告白することで困る人も少なからずおり、正義の人は厄介な存在なのです。[p.46]」「『無責任なヤツほど出世する』という傾向は、海外の多くの研究でも示されています。米国ではその責任感を個人のパーソナリティ特性と明確に位置づけ、『他責型』と『無責型』に分けるのが一般的です。具体的には、多責型は『人を責める』『人のせいにする』タイプ、無責型は『自分の関わりを否定する』タイプを示します。米国企業のトップの7割はこのどちらかに属するとされ・・・無責任な人たちはたびたび嘘をつきます。しかしながら彼ら彼女らには、『嘘をついている』という罪悪感がいっさいありません。・・・嘘を貫き通すことができると、次第にチーターズ・ハイと呼ばれる高揚感に満たされ、どんどん自分が正しいと思い込むようになっていくのです。人は他人の嘘には厳しい一方で、自分の嘘に寛容な傾向が強い。『この嘘は必要』だと考え、自らを正当化する。その確信が強ければ強いほど、嘘を重ねてチーターズ・ハイに酔いしれます。それに拍車をかけるのが、『説得力のある嘘つきほど支配力を持ち、嘘をつくという行為自体が、その人に力を与える』という困った心のメカニズムです・・・私たちは嘘を嫌い、無責任な人を嘆く一方で、嘘をつく人の高圧的な態度に信頼感を抱くという、きわめて矛盾する心をもっています。それが嘘つきにますます力を与え、権力者の足場を強固にすることが・・・心理実験でわかっています。[p.48-50]」
・米国の教育学者で社会階層学者のローレンス・J・ピーターによる「ピーターの法則」:「『働く人は仕事で評価されると、一つ上の階層に出世していく。そして、いずれは自分の仕事が評価される限界の階層まで出世する。・・・そのレベルで無能と化す』・・・ピーター博士は、仕事の最高の褒美が『ヒエラルキーを上がる』ことである限り、無能化は避けられないとしたのです。[p.56-57]」「そして、『有能な上司は、アウトプットで部下を評価するのに対し、無能レベルに達してしまった上司は、組織の自己都合という尺度で部下を評価する』とピーター博士は喝破しました。[p.57-58]」

 

第2章、現場一流、経営三流の職場
・「『現場一流、経営三流』――こんな言葉が使われるようになったのは1990年代後半のことです。[p.74]」「そもそも高度成長期は急激な人口増加に加え、世界的にも好景気で、企業は現場の技術力だけで楽に食っていくことができました。経営者が経営をしなくとも、時代の風に乗っているだけで売り上げは伸び、会社はどんどん大きくなりました。しかし、今はきちんと経営をしてくれないとダメ。そのことに気づかない経営者のせいで、不祥事、不正、挙げ句の果てには倒産、と残念なほころびがさまざまなカタチで見える化しています。そもそもこれだけ長時間労働をし、社畜なんて言葉がずっと使われている日本なのに、生産性は世界最低レベル。・・・1時間あたりの労働生産性はOECD加盟35ヵ国中20位、主要先進7ヵ国中最下位。・・・また一人あたりの労働生産性はOECD加盟国35ヵ国中21位です。[p.75-76]」
・「技術者の『仕事へのやりがい』と『企業への忠誠心』を1994年と2005年で比較すると、どちらも急速に低下していました。[p.77-78]」「残念なことに、『技術力』そのものも低下していると指摘する調査結果が存在しているのです。2009年に日経BP社が製造業の技術者を対象に、『技術力』に関する調査を実施したところ、『この5~10年間で技術者の実力が低下したと感じますか?』の問いに、8割近くが『はい』と回答・・・技術者自身が『自分たちの技術力の低下』を実感していたのです。[p.80-81]」
・「国内の調査で『一人当たりの教育訓練費』が減少傾向にあることが認められています。・・・理由は、以下の3つです。非正規雇用の増加・・・社会保障負担の増加・・・省力化投資(AIやロボットの導入)を優先・・・どれもこれも『人は単なるコストでしかない』という企業側の本音を、改めて痛感させられる数字です。『生産性を上げる=長時間労働を減らす』『生産性を上げる=AIに投資する』といった方程式ばかりが強調されがちですが、働いているのは人なのだから人材投資は必要不可欠。特にミドル層の『再教育』は極めて重要です。・・・人員削減のようなわかりやすいコストカットは、目に見えない力を育む土壌を自らの手で壊しているようなもの。短期的に救われても長い目でみればアウト! いわば『企業の自殺』なのです。[p.97-100]」「かつて、米スタンフォード大学経営大学院教授を務めた組織行動学者のジェフリー・フェファー氏は、経営学を労働史から分析し、こう説きました。『企業経営で一番の問題であり、経営者が気をつけなくてはならないのは、経費削減が実際には錯覚でしかないことだ。この錯覚こそが企業の力を弱め、将来を台無しにする』と。そして、『人件費を削るなどの経費削減が、長期的には企業の競争力を低下させ、経営者の決断の中でもっともまずいものの元凶であることは、歴史を振り返ればわかる。・・・』[p.102]」「残念な日本の経営者は人件費を減らすことばかりに傾注するようになってしまいました。1990年代に輸入された『成果主義』も、その目的はコストカットでしかなかったといわざるを得ません。[p.103]」
・「人は『自分の存在』を他者を通じてしか知ることができません。・・・人は誰しも過ちをおかします。感情的になることもあれば、傲慢になったり、保身に走ることもあります。その弱さを克服するために、人は他者とつながり、他者と協力することで生き延びてきました。『信頼』という関係性を築くことで、愚かになったり、自分勝手になった際の保険を掛けたのです。『経営者は孤独』とよく言いますが、物理的に孤立していることが問題なのです。孤立してれば孤独だろうし、『孤立してちゃ、経営はできない』のです。[p.107]」

第3章、「女はめんどくさい」と思われている職場
・「ストレスを感じたときに分泌されるコルチゾール値・・・を使用する」研究によると、「性別、既婚・未婚、子どもの有無に関係なく、『家庭』にいるときより『職場』にいるときの方がコルチゾール値が低い[p.126-127]」という結果がえられている。
・「性差にまつわる実証研究では、一般的にいわれている『女性の特性』のエビデンスは得られていません。統計的手法で分析すると、『男女差はない』ことがわかっているのです。[p.134]」「男性の中にも『めんどくさい人』はいて、その割合は女性の中の『めんどくさい人』とさして変わらない。なのに、私たちは『性差はある』と感じるパラドックスを、日常的に経験します。私はその理由の一つに『数』の問題があると考えています。・・・男性であれば・・・個人の問題とされることが、女性の場合には・・・女性の問題として片付けられる。[p.135]」「もう一つの原因は、・・・男性たちは自分たちの集団に女性がひとり入ると、自分たちがという同質な集団だったことに気づき、その一枚岩を壊したくない、壊されたくないという思いが無意識に働き、『男性性』をまとった発言や行動をとるようになります。[p.136]」
・「私たち人間は『他者と関わる』ことで自分の存在意義、存在価値を確立します(自己アイデンティティ)。その関わり方にこそ性差が存在するのです。男性は他者と一緒に『する(do)』ことによって、女性はその他者とともに『いる(be)』ことで、『自分の存在』を確かなものにする傾向が強いことがわかっています。[p.140]」「『do』に価値を置く男性は『解決』をゴールにしますが、『be』に価値を置く女性は『共感』がゴール。[p.142]」
・一般的に『労働』とは有償労働ですが、国を成長させ、社会を支え、人を守る労働は、『市場労働』と『ケア労働』の二つに分けることができます。市場労働(market work)=商品として売買される労働力としての『有償の労働』。ケア労働(care work)=家事、育児、介護、ボランティア活動などの『無償の労働』。・・・どちらも、男とか女に関係なく、私たちが生きていくためには必要不可欠な労働です。[p.145-146]」市場労働とケア労働を同等に評価する国では男女格差が小さく、市場労働のみを評価する国(日本など)では格差が大きい傾向にある。[p.149]「今の日本の政策は『市場労働』に女性を参加させるために、例えば『保育サービスを充実させよう』としているだけで、男性が主な働き手だった『市場労働』に、女性がどうかすることが目的となってしまっているのです。[p.151]」

第4章、残業のリスクを知らない職場
・「過労死は長時間労働と直結していますが、過労自殺はその他のストレス要因の影響が大きく、長時間労働はあくまでも引き金です。[p.159]」
・「日本が世界に誇るのは長時間労働だけではありません。睡眠時間が、世界最短なのです。[p.163]」
・「労働時間と生産性に関する研究はたくさんあります。・・・スタンフォード大学のジョン・ペンカベル教授が発表した論文」は、「『週50時間以上働くと労働生産性が下がり、63時間以上働くとむしろ仕事の成果が減る』ことを統計的分析により明らかにした[p.171]。」
・「睡眠不足は、認知能力や記憶力、対人関係の対応能力を低下させます。[p.172]」
・「過労死が長時間労働による突然死であることは、国内外を含め多くの研究で確かめられていますが、睡眠不足がその危険度をより高めることを九州大学の研究グループが明らかにしました。[p.174]」
・「過労自殺する人の多くはうつ傾向やうつ病などの精神障害を発症しているとされていますが、長時間労働と精神障害との直接的な関係は『ない』とする研究結果も、少なくありません(量的調査による統計的な分析)。ただし、”overwork”、すなわち『自分の能力的、精神的許容量を超えた業務がある:』という自覚と精神障害との関係性は多数報告されています。[p.190-191]」
・「近年、若者の過労自殺が増加している背景には『組織社会化』、すなわち『適応の途中なのに、一人前の仕事を期待されている』という問題があると私は考えています。組織社会化(organizational socialization)とは、『個人が組織内の役割を引き受けるのに必要な社会的知識や技術を獲得するプロセス』で、新入社員の組織社会化の最大の課題は『役割の獲得』です。会社で確固たる居場所を得て、自分がやるべきことを見いだし、自分の役割を獲得していくことで新入社員は組織に適応します。このプロセスには最低でも3年、長い場合は10年かかるとされています。年功序列が当たり前で、人員的な余裕もあった時代には組織社会化が自ずと行われていました。・・・ところが、プレイングマネジャーが当たり前になり、人的余裕も時間的余裕もなくなった現代社会では、新人はすぐに『一人前になる』ことが強要されます。[p.193]」「この組織社会化過程の欠如こそが、若者たちを追いつめているのではないでしょうか。[p.194]」

第5章、残念な職場を変えるには
・「煎じ詰めて考えれば、残念な職場とは、『働いているのは人である』という至極当たり前のことを忘れている職場なのです。[p.204-205]」
・「私が考える『理想の職場』を提案します。・・・『人生(=Lifetime)の邪魔をしない職場』です。[p.205]」「働くことは『生きている価値』と『存在意義』をもたらす、とても大切な行為です。残念な職場では、仕事が仕事としての役目を果たしていないので、本来の『仕事ができる』職場を目指せばいいのです。[p.206]」「『働く』という行為には、『潜在的影響(latent consequences)』と呼ばれる、経済的利点以外のものが存在します。潜在的影響は、自律性、能力発揮の機会、自由裁量、他人との接触、他人を敬う気持ち、身体及び精神的活動、1日の時間配分、生活の安定などで、この潜在的影響こそが心を元気にし、人に生きる力を与えるリソースです。リソースは、専門用語ではGRRs(Generalized Resistance Resources=汎抵抗資源)。世の中にあまねく存在するストレッサー(ストレスの原因)の回避、処理に役立ち、リソースを手に入れることでウェルビーイング(個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態)が高まります。[p.210]」「『人生を邪魔しない職場』では、仕事が提供するリソースを存分に享受できるので、仕事にやりがいを感じ、もっとがんばろう!とヤル気が高まります。困難やストレスを感じることがあっても、なんとかふんばれます。リソースは『元気になる力(salutary factor)』。仕事のリソースを手に入れることは、SOC (Sense of Coherence)を高めます。SOCは、『人生であまねく存在する困難や危機に対処し、人生を通じて元気でいられるように作用する人間のポジティブな心理的機能』のこと。[p.213]」
・「これまで世界中で行われた実証研究で『SOCの高い人』は、職務満足感や人生満足感が高い、仕事上の疲労感が少ない、欠勤が少ない、抑うつや不安が少ない、バーンアウトをおこしにくい、などの傾向があると確かめられています。・・・そして、SOCを高める職場の土台を作るのが『職務保証(=job security)』です。職務保証とは、第1に、『会社のルールに違反しない限り、解雇されない、という落ち着いた確信をもてる』、第2に、『自らの職種や事業部門が、対案の予知も計画もないままに消滅することはない、と確信をもてる』と働く人が感じることで成立します。[p.217-218]」
Googleでの成功するチームと失敗するチームの分析では、「『心理的安全性(Psychological Safety)』が鍵を握っていることがわかりました。・・・『こんなことを言ったら上司に叱られるのではないか?』『こんな意見では同僚からバカにされるんじゃないか?』『もっと立派なことを言わなきゃいけないんじゃないか?』そういった不安をチームメンバーが抱かないチームこそが成功する。失敗を素直に言え、他者への心遣いや同情、あるいは配慮や共感が当たり前のチームだったのです。成功するチームは、年齢や役職やスキルの差に関係なく、チームメンバー全員がほぼ同じ時間だけ発言していました。[p.232-234]」
・「そもそも『キャリア』とは、『人生のある年齢や場面のさまざまな役割の組み合わせ』です。家庭や社会における様々な役割の経験を積んでいくことがキャリアです。[p.248]」「人生を邪魔しない職場とは、『人生を仕事に生かす職場』です。[p.250]」
・「疲れは、時間がたてば自然に消えていくものではありません。特に心的な疲れを癒やすには、適度な運動、精神的ゆとり、遊び、おしゃべり、笑い、などのリソースが必要不可欠です。疲れは放っておけばどんどんと利子がつき、借金のように増え続けます。・・・借金は頭痛や肩こり、イライラ、眠れない、ケアレスミスなどの症状に代表される蓄積疲労につながります。蓄積疲労は、最悪の場合、うつや突然死につながる極めて深刻な状態なのです。[p.257]」「まさしく私たちのストレスは社会(=残念な職場)の病なのです。[p.257-258]」
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本書で解説されている残念な職場の特徴と、それが生まれる原因を考えてみると、残念な職場は人間の特性に基づいて自然発生的に生まれる可能性があるもののように思われます。残念な職場は、過労死問題などの労働環境の問題や非効率な働き方につながるだけでなく、メンバーのコミットメントを低下させ、創造性を阻害する環境でもあると思います。残念な職場をなんとかよい職場に変えることは働き方改革や女性をはじめとする多様な人々の活用だけでなく、イノベーションを起こすためにも重要なことなのではないでしょうか。本書に示された残念な職場を変えるための著者の提案は唯一絶対のもの、というわけではないように思いますので、このような職場環境ができるメカニズムを理解することで、それぞれの状況に応じて効率的、創造的で、働く人の充実感、幸福につながる職場作りができるようになるのではないかと思います。研究マネジメントにとっても重要な視点だと思いますがいかがでしょうか。


文献1:河合薫、「残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実」、PHP研究所、2018.


組織の壁を越えるリーダーシップ(「Cross-Silo Leadership」、Casciaro, Edmondson, Jang著HBR2019, May-Juneより)

近年のイノベーションにおいては、組織間の壁を越えた知識の交流や協力が重要な役割を担う、ということがよく指摘されます。例外的な場合を除いて、この指摘にはおそらくほとんどの方が同意されるのではないでしょうか。しかし、では、どうやったら壁が越えられるのか、どうすれば協力がうまくいくのか、といった方法論になると、まだまだ明確にはなっていないような気がします。

そこで、今回は、組織の壁を越えるためのリーダーシップについて議論したCasciaro, Edmondson, Jang著「Cross-Silo Leadership」[文献1]というHBR記事の内容をご紹介したいと思います。著者は、「ハーバード大学のHeidi Gardnerの研究によれば、境界を越えた協力がある企業ほど、顧客ロイヤルティが高く、利益幅が大きい」と指摘したうえで、「数十の組織における数百のエグゼクティブやマネジャーについて行った著者らの研究やコンサルティング結果では、協力のニーズと難しさの両方が確認されている。」と述べています。

そして、「サイロを壊すひとつの方法は、組織構造を再設計することだ。しかし、それはコストがかかり、混乱を招きやすく、遅い、という限界がある」と述べ、「さらに悪いことに、新しい組織はすべて、ある問題を解決できても別の問題を生んでしまう」とも述べています。では、どうすべきなのか。著者は、「組織境界を効率的に運用するための中心的課題は単純なものだ:境界の向こう側の人々について学び、彼らとうまく関わることだ。しかし、単純なことが易しいとは限らない;人類は異なる人々を理解しかかわることとずっと格闘してきた」とした上で、「リーダーは、人々が、個人のレベルでも組織のレベルでもこの困難を克服する能力を育まなければならない」とし、「つまり、組織間の境界で効率的に仕事ができるように、4つのことを実践できるよう、サポートし、訓練すること」が重要と指摘しています。以下、その4つについて見ていきたいと思います。

1,カルチャーブローカーを育成し配置するDevelop and Deploy Cultural Brokers
・「さいわい、多くの企業にはすでに境界での協力をうまくこなしている人々がいる。彼らは通常、複数のセクター、機能、分野にまたがる関係、経験を有し、非公式に組織間をつなぐリンクとなっている。我々は、そういう人々をカルチャーブローカーと呼ぶ。著者の一人であるSujinによる2000以上のグローバルチームの研究から、カルチャーブローカーのいる多様なチームは、そうでないチームよりも顕著に成果が高いことがわかった。」「カルチャーブローカーは、橋渡し(bridge)役となるか、接着剤(adhesive)となるかのどちらかの方法で、境界を越える活動を促進する。」
・「橋渡し役は、異なる機能や場所にいる人々の日々のルーティンの変更を最低限に抑えて協力できるようにするための仲介者となる。橋渡し役は両方についてのかなりの知識を持ち、それぞれのニーズが何かを理解できる場合に最も効果的になる。」「この種の文化的仲介は、他の組織のものの見方を学んだり仕事のやり方を変えたりする投資をせずに違いを超えて働けるため、効果的だ。特に、一回限りの協力や、結果を出すための時間的余裕がない場合に特に貴重なものだ。」
・「接着剤は、対照的に、人々を一緒にし、相互理解を助け継続的な関係を築く。・・・接着剤は人々の信頼関係を裏付け、互いの言語を翻訳することによって協力を促す。橋渡し役とは異なり、接着剤は、将来的に人々が手助けなしに境界を越えて働く能力を作り出す。」
・「リーダーは、あらゆるレベルの人に会社内の複数の部門と触れる役割を担うチャンスを与えることによって、ブローカーを育成することもできる。」「人々が2つ(以上)のグループに所属するようなマトリックス組織もカルチャーブローカーを育てるのに役立つ。」「固有の難しさ(強力なリーダーシップや責任がなければ率いるのが極端に難しい)があるものの、マトリックス組織は境界で活動することに人々を慣れさせる。」
・「組織の全員がカルチャーブローカーになる必要があるとは言わないが、協力の仕組みに潤滑油を与えるために意識的にブローカーの仲間を増やし、配置することで、長続きする活動が期待できる。」

2,正しい質問をするように促すEncourage People to Ask the Right Questions
・「多くの質問をせずに、境界を越えた仕事をすることはほとんど不可能だ。」「Tizianaの調査によれば・・・好奇心のレベルの高いマネジャーは、社内で結びつきのない部門にまで広がるネットワークを築きやすいことが明らかになった。」
・「しかし、我々は、出世するに従い、質問するという必須の習慣を忘れてしまいやすい。特に高業績をあげている人は、しばしば他の人の物の見方を気にかけることができなくなる。より悪いのは、自分が知らないことを認識すると、自分が無能だとか弱いとか思われてしまうのではないかという(誤った)おそれから、質問をしなくなってしまうかもしれないということだ。」「リーダーは2つのやり方で質問を促し、質問をしてもよいという心理的な安全のある組織を作ることができる。」
ロールモデルとなる
・「リーダーが質問をすることで、他の人がものごとをどう見てどう考えるかに興味を示せば、めざましい効果が得られる:それによって自分の組織の人が同じことをするよう促されるのだ。」「質問をすることで、謙遜を他者に伝えることができる。この謙遜は成功の必須の条件であるとするビジネスリーダーや研究者が増えつつある。」
HBSの「Gino氏は、部下が質問をしやすくなるようにするひとつの方法は、リーダーが答えを知らないときにははっきりとそれを認めることだという。別の方法としては、日常的に部下が『なぜ?(Why?)』『もしそうだとすれば?(What if,,,?)』『どうすれば?(How might we...?)』という質問をすることを明示的に促すことだという。」
質問の技法を部下に教える
・「できるだけバイアスがかからないようにして、情報を求める方法を学ぶことが重要だ。すなわち、yes-or-noの質問よりも先入観を最小にするオープンエンドの質問をすることだ。」
・「協力が進むに従い、他の人が特定の問題により深く関わることを促す、あるいは関連したアイデアや経験を表明できるような質問をチームリーダーやプロジェクトマネジャーが行うとよい。『あなたはxについて何を知っているか?』とか『どんな風に機能しているかを説明してもらえるか?』という質問がその例だ。」
・「人が聞いていることは、その人の専門や経験によってバイアスがかかっている。従って、『私がこのように受け取った。何か抜けているところはないか?』『不足を補ってもらえるだろうか?』『あなたが言っていることは、プロジェクトが予定どおりだということだと思う。それで正しいか?』などの質問で、仲間の意図を正しく受け取っているかをチェックするトレーニングをすることが重要だ。」
・「最後に、協力プロセスの温度(雰囲気)を定期的に測定する必要がある。他者がプロジェクトでどんな経験をしているかやどんな関係かを知るには、『プロジェクトの進行はどうだと思うか?』とか『より効率的に協力するために何ができるだろうか?』のような質問をするしかない。

3,他者の視点で世界を見るようにさせるGet People to See the World Through Others’ Eyes
・「リーダーは他のグループについて興味を持つよう、彼らの考え方とやっていることについて質問をするよう部下に単に促すだけではだめだ;積極的に他者の視点を考慮するように求めなければならない。異なる組織のメンバーは、物事を同じようには見ない。研究は、・・・こうしたことが仕事の接点における誤解に繫がることを一貫して示している。従って、他者の物の見方を学ぶための支援をすることが肝要だ。」「心理学研究は、ほとんどの人が他者の見方を受け取ることができることを示しているが、そのように動機付けされることは希だ。リーダーは、多様な専門性の統合が新しい価値の創造にどれほど有益かをチームに強調して動機づけすることができるが、他にもいくつかの戦術が役にたつ。」
部門間の対話を組織するOrganize cross-silo dialogues
・「リーダーは、一方通行の情報交流セッションに変えて、部下が顧客や会社の他部署のメンバーの目を通じて世界を見ることの助けとするため、部門間での議論を設定すべきだ。」
好奇心と共感を考慮した採用Hire for curiosity and empathy
・「他者の感覚、考え方、態度を理解し、共感する人を採用することで、異なる見方で世界を捉える企業の能力を拡大することができる。」

4,従業員の視野を広げるBroaden Your Employees’ Vision
・「多くの組織はしらずしらずのうちに、従業員に身近な環境、例えば自分の分野やビジネスユニットを越えた見方をしないように促してしまい、その結果、より広いネットワークを調べていれば得られたであろう洞察を見逃してしまう。リーダーは次のような方法で従業員が自らの視野を広げる機会を創ることができる。」
多様なグループからの社員をイニシアチブに集めるBring employees from diverse groups together on initiatives
・「原則として、クロスファンクショナルチームは、分野を越えた人々にその組織の中の様々な専門性を特定するチャンスを与え、それらがどう繋がるかあるいは繋がらないかをマップ化し、価値のある協力を可能にするように内部の知識ネットワークをどう繋ぐかを検討する。」
離れたネットワークを探索するように従業員を促すUrge employees to explore distant networks
・「従業員はまた、社外あるいは業界外まで広げて専門性を活用する必要がある。」「難しいのは、カギとなるビジネス目標に最も関係のある分野を見つけることだ。多くのイノベーションは、Abraham Flexner・・・が『役に立たない知識の有用さ(the usefulness of useless knowledge)』と呼んだものから生まれているが、ビジネスはオープンエンドな探索だけに頼るわけにはいかない。この運命を避けるため、リーダーは2つのアプローチのどちらかを採用できる。」
・「トップダウンアプローチは、知識創造の可能性が高い知識分野がすでに特定されている場合にうまくいく。」「ボトムアップアプローチはリーダーがどの外部の分野と組織を結びつけるべきかが見つけられない場合に好ましい。・・・外部の分野を調査し、コネクションをつくるために従業員に時間と資源を与えることも重要だ。」

サイロを壊すBreaking Down Silos
・「今日の経済では、組織の多様な知識を組み合わせる新しい方法を見つけることが、持続的な価値を創造するための必勝戦略だと誰もが知っている。しかし、サイロを越えて生産的に協働する機会とツールが従業員に与えられていなければそれは不可能だ。水平協力の可能性を引き出すために、リーダーは、文化的、物理的な壁を越えた関連づけと学習をおこなうことを人々に身につけさせなければならない。それにはここで説明した4つの手法が役にたつだろう。」「リーダーがこうした手法を促し、支援する条件を創造する時に、境界を越えた協力は第二の天性と呼べるようなものになるだろう。」
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技術の分野では専門性が必要とされることが多いため、どうしてもサイロ化して分野の境界に壁ができてしまいがちです。しかしそれを越えた協力ができれば新たなイノベーションのチャンスに巡り会えるかもしれません。もちろん、本書に述べられた手法だけで組織の壁が壊せるものかどうかはわかりません。ちょっと単純化しすぎているような感じもしないわけではありませんが、試してみる価値はあるのではないでしょうか。もし、リーダーの心に、著者の手法を適用してみることに対する躊躇があるなら、そこから変えていかなければならないのかもしれないと思います。


文献1: Tiziana Casciaro, Amy C. Edmondson, Sujin Jang, “Cross-Silo Leadership”, Harvard Business Review, May-June, 2019, p.130.
https://hbr.org/2019/05/cross-silo-leadership


「ゲーム理論はアート」(松島斉著より)

研究開発・イノベーションには様々な人の意思が関与します。少なくとも、開発された製品やサービスを顧客が採用する気になってくれなければ始まりませんし、さらに競争相手がどう出るかも重要・・・という具合に、様々なステークホルダーの意思を考えて進めなければなりません。このような人の意思とその相互作用を考える上でゲーム理論は有効な考え方だと思いますが、実務家にとってはまだ簡単に使えるレベルには至っていない感じがします。

そこで、今回は、松島斉著「ゲーム理論はアート」[文献1]に基づいて、まずはどんな可能性がありそうかを考えてみたいと思います。著者は次のように述べています。「我々は、芸術家がすばらしい作品のアイデアを思いつくように、社会のしくみを思いつかなければならないのだ。・・・そして、このような行為の実践は、『ゲーム理論』という名の数学を使うことによって、理想的になされることを解き明かしたい。ゲーム理論は、問題の背後に潜む社会のしくみを、簡潔で首尾一貫した『数学』に見立てる。この数学を、社会のしくみをとらえるための『仮説的モデル』として、具体的な調査や問題解決のための基本方針に据えるのだ。[p.iii]」以下、本書の中から興味深く感じた点をまとめたいと思います。

第1部、アートとしてのゲーム理論
第1章、ゲーム理論はアートである

・「ゲーム理論とは、狭義の意味においては、社会を、チェスやサッカーといったゲームの仲間に見立てて、独自のアプローチで分析する数学のことだ。[p.21]」
・「ゲーム理論の創造性は、具体的な問題解決の手助けこそすれども、それだけでは最終的な問題解決に至らない・・・例えば、ゲーム理論の創造性は、コンピュータサイエンス、人工知能、倫理学、心理学といった、別の分野のテクノロジーや知性と結びつくことによって、はじめてその有用性の真価を発揮できることがある。[p.26]」「仮説的モデルの形成という、いささか中途半端にも思える仕方で役に立つ、こんなゲーム理論は、しかしながら、そのことが仇となって、以下のように、『悪い官僚主義』に利用される可能性がある。要注意である。仮説的モデルは、研究者が具体的な問題に踏み込んだ際には、もっと検証可能なスタイルにブラッシュアップされなければならない。この工程を経て、モデルは、仮説形成の段階から、正しいモデルかどうかの真偽を問う『実証的段階』に進むことになる。このような研究のステップを軽視した場合、ゲーム理論は悪い官僚主義に利用される恐れがでてくる。官僚主義的悪用とは、問題解決の答えが先に決まっていて、後から、その答えの裏書きができるような、真偽は定かでないがもっともらしく聞こえるような仮説的モデルを、御用学者に見繕ってもらうことである。[p.26-27]」
・「ゲーム理論は、経済学に必要となる理論的、数理的基礎を構築するため、数学者ジョン・フォン・ノイマンと経済学者オスカー・モルゲンシュテルンによって、1944年に創始された。[p.28]」
・「経済学では、概して、経済主体の『選好(preference)』が『外生的』に与えられていることが前提とされる。つまり、各経済主体がどの商品を他のどの商品より好むかといった判断基準(これを経済学やゲーム理論では『選好』と呼んでいる)は、あらかじめ個人ごとに生得的に与えられていて、社会的関係の在り方が変わっても不変に保たれる、と仮定されるのである。しかし、実際の経済主体の選好には、社会的関係の在り方に影響されて、『内生的に』 決まる側面がある。[p.32]」「経済主体は、自身の立場のみならず、他者の立場にも立って、他者がどのように考え、どのように行動を決定するかを、シミュレーションしようとする。こうすることで、自分にとって最適な行動は何かを、よりよく導くことができる。なぜならば、自分にとって最適な行動は、他者がどのように行動するかに依存するからである。[p.34]」「『他者の立場に立って考える』ことによって、経済主体の心の中に、『同胞感情(同感、sympathy)』が芽生える[p.35]」。「社会科学の使命は、『社会の隠された病理』を解明することにある。・・・社会に隠されているかもしれない潜在的な病理にかかわる、さまざまな話題に向き合うためには、犠牲を払ってでも、ゲーム理論において内生的選好を追求するべきである。従順にふるまう、同調する、といった感情の作用は、内生的選好の重要なケースとして、とりわけ真摯に分析されるべきである。[p.36]」

第2章、キュレーションのすすめ
キュレーション1:PK戦からテロ対策へ
・「ゲーム理論は、人々の行動を正確に予測するための学問ではない。むしろ、ゲーム理論は、人々の行動を正確に予測することは難しく、正しい予測ができると吹聴するのはまやかしにすぎないことを、論理的にあばく学問だといっても差し支えない。・・・ゲーム理論の有用性は、予測がどの程度可能かについての目安を、正確に示すことにある。その目安として、ランダムな、確率的な予測の仕方が、とりわけ重要になる。[p.46-47]」
・「PK戦では、2人のプレイヤーの利害は正反対である。そのため、ゲーム理論は、PK戦のことを、利害の和が常にゼロになるゲーム、つまり『ゼロサム・ゲーム』と呼ぶ。また、相手に裏をかかれることを考慮した上で、被害を最小限にとどめる行動様式のことを、ゲーム理論は、『マックスミニ戦略』と呼ぶ。PK戦において半々の確率でランダムに左右いずれかを決めるやり方は、このマックスミニ戦略に該当する。仮説的なテロ対策のゲームで最善策とされたランダムで機械的な戦略もまた、マックスミニ戦略である。[p.52]」
キュレーション2:経済の秩序と繁栄とインセンティブ
・「長期的に関係をもつ状況をモデル化した『繰り返しゲーム』においては、良好な協調関係が、全員の利己的動機と矛盾することなく継続されることが、ゲーム理論によって証明されている。[p.68]」「お互いの行動パターンを正しく予測した上で、全員が自己実現的にこの予測通りの行動パターンをとるインセンティブをもつ状況のことを、ゲーム理論は『ナッシュ均衡』と呼んでいる。繰り返しゲームにおいては、・・・協調的関係がナッシュ均衡になるのである。・・・繰り返しゲームは、同じゲームを考えながらも、さまざまな関係がナッシュ均衡になる。ナッシュ均衡によって説明できる関係性がたくさんある、という性質をもつのである。しかし、その中でどの関係が実際に起こるのかについては、ゲーム理論だけでは、うまく答えられないのだ。ナッシュ均衡がたくさん存在するという性質は、ゲーム理論の黎明期からよく知られている性質である。・・・ゲーム理論かは、それを『フォーク(folk)定理』と呼んでいる。今日では、フォーク定理は、きちんと証明されていて、繰り返しゲームにおけるナッシュ均衡の範囲を特定する、重要な数学的命題になっている。[p.69]」
・「私は、このキュレーションにおいて、・・・何らかの『歴史的経路(historical path)』が、協調関係を誘発していることをほのめかしてきた。・・・どのような経路を実際にたどったかを実証するために、真摯な歴史研究が、ゲーム理論の形式論理とは厳密に区別されて、ゲーム理論の形式論理を補完する重要な役割をなすのである。[p.70]」
キュレーション3:社会理論へのステップ
・「予測の内容によって、なんらかの感情が生まれ、それゆえに個人が内生的選好をもつようになることを明示的に扱うゲーム理論のアプローチがある。それは、『心理ゲーム(psychological game)』と呼ばれている。[p.79]」

第3章、ワンコインで貧困を救う
・アビリーンのパラドクス:「集団で合意したはずの決定は、実は、場の空気を読んで遠慮がちな態度をとる『事なかれ主義』によってもたらされた悲劇であり、みんなに不利益をもたらしてしまうことがある[p.87]」
・「集団的決定の失敗の核心は、同じゲームをプレイしているのに、良い均衡と悪い均衡がどちらも存在する点にある。どのナッシュ均衡が実際にプレイされるのか・・・先験的にはわからないことに、事の本質がある。[p.89]」
・「ルールを少しだけ変更することで、いらないナッシュ均衡をすべて排除でき、しかも望ましいナッシュ均衡だけを残すような、うまい工夫はないだろうか。これが、ゲーム理論家の目指すべき、ここでの目的になる。[p.90]」「最終的な解決策として提案されるのが、『アブルー・松島メカニズム』と称されるメカニズムデザインである。[p.91]」「アイデアの基本は、『最初の嘘つき(のみ)が罰せられるとする』ということである。[p.113]」「現実に役立てるためには、アブルー・松島メカニズムを単に機械的に当てはめてはいけない。・・・アブルー・松島メカニズムには、・・いつでも容易に実行可能とは言えないような、『人工的』にデザインされたしくみが使われている。このことは、さまざまな局面で、現実的な利用可能性を制限してしまうだろう。[p.111-112]」

第4章、全体主義をデザインする
・「全体主義とは、個々人が、自立的に判断する自由や意思を失って、政策当局や権威者といった『地位の高い』人の意図に、無思慮に従っている社会を意味する。[p.116]」
・「本章は、全体主義のしくみを明らかにするため、集団的決定を、従順や同調といった内生的選好を組み入れて、『心理ゲーム』として検討していく。・・・心理ゲームと全体主義との関係がわかってくれば、ナチスによる大量虐殺のような大問題に限らず、もっと日常的なハラスメントなどについても、その背景に秘密裏に『全体主義もどき』が成立していて、邪悪な意図が実行されていることを、暴くことができるようになる。[p.121]」
・「本章のプロセスでは、自分が最初に嘘をつく人だと予測される場合には、自分が最初に嘘をつく人だと予測されない場合よりも、より心理的負担がかかるという心理的性向を利用するのである。[p.130]」「同調感情のために、最初の嘘つきになることを嫌う。このことが、ドミノ倒しのように作用して、誰も嘘をつかないという状況を生み出すのである。[p.133]」「ここに、全体主義を日常的に利用することができるトリックが宿る。[p.138]」

第2部、日本のくらしをあばく
第5章、イノベーションと文系

・「イノベーションは、『コロンブスの卵』のような発明発見ではかたづけられない。もっと『文系』の発送にみちあふれていると思っている。[p.145]」

第6章、オークションと日本の成熟度
・「せり上げは、各参加者に、どのくらい欲しているかについて、正直に表明させることができる。・・・本当に一番欲している人に品物を割り当てることができる。[p.163]」「オークションのような透明性の高い決め方のルールを、困難でも、成果が見えにくくても、積極的、具体的に取り入れる姿勢を政府はもつべきだ。[p.165]」

第7章、タブーの向こう岸
・「世間体を気にして、人と違うことはしない、偉い人にはさからわない。・・・しかしこれらは、タブーを守るための世界共通手段でもある。だから、・・・もっと注意しないといけない。なぜなら、こんな性向の人物は、悪玉権威者のいいなりになる典型だからだ。[0.170]」
・「日本人にとってお金の話はタブーそのもの。[p.177]」「社会にはさまざまな選択肢がある。どれが社会にとって必要か。比較検討すれば見定めることができる。・・・このような比較検討のための価値尺度として、お金は大いに役立つ。しかし、日本人は、お金のこの機能を、とりわけ社会に対して、ちっともあたりまえに使いこなせていない。・・・だから、このままでは、日本人は、矛盾にみちた言動や行動に終始しかねない。[p.178]」

第8章、幸福の哲学
・「私は、一市民として、そして経済学者として、いや社会科学者として、幸福の実現とは、自立的であり続けたいとするエンドレス・ファイトだと定義したい。[p.189]」

第3部、「制度の経済学」を問いただす
第9章、「情報の非対称性」の暗い四方山話
・「各経済主体は、各々の私的情報(自分だけが入手する情報のこと・・・)をもっている。私的情報・・・は、『私的価値(private values)』のケースと・・・『相互依存価値(interdependent values)』のケースに大別される。・・・相互依存価値のケースでは、・・・もはや、品質についてあらかじめコンセンサスはない。そのため、勝者の呪いに代表されるような、やっかいな問題が出てくる。[p.197-198]」

第10章、早いもの勝ちから遅刻厳禁へ
・「現行の証券取引のルールでは、連続時間取引が、隙あらば、トレーダーをおかしな行動にかりたてる『早い者勝ちレース』をつくり出すしくみになっている。ならば、『高頻度バッチオークション』のような、根本原因そのものを取り除くような抜本的改革について、今後現場において本格的に討議されることが望まれる。[p.230]」「本当に学ぶべきことは、『メカニズムデザイン(制度設計)する』ということの、もっと『本質』的な意味についてだ。[p.230]」

第11章、繰り返しゲームと感情
・「長期的に協調関係が維持されるためには、相手の選択が観察できることが必要不可欠である。この前提をみたす状況のことを『完全モニタリング』という。[p.243]」モニタリングの「精度が低いと、概して協調はしにくい。だから、少しでも相手のいい情報が入れば、やさしくしてあげたくなる。逆に、精度が高いと協調しやすいので、いいシグナルがくるのはあたりまえに思えている。だから今度は逆に、悪いシグナルにやけに敏感になる。[p.255]」

第12章、マーケットデザインとニッポン
・「日本の現場には、経済学やゲーム理論が必要とされる問題が山積している。[p.263]」「ウーバーのビジネスモデルには、メカニズムデザインのエッセンスがぎっしり詰まっている。・・・ウーバーのプラットフォーム・ビジネスは、十分な『厚み』をキープでき、安全運転を守る『暗黙の協調』のインセンティブを、ドライバーからうまく引き出している、ガバナンスにずいぶん成功しているように、私には思える。[p.272-273]」「ゲーム理論によるマーケットデザインは、今後、『厚い、そして熱い、市場を創る』作法をもっと模索する学問になろう。情報システムによるガバナンス効果を、マーケットデザインによっていかに創発するかが、これからの日本のビジネスの成功の1つの重要なカギを握ることになる。[p.273-274]」
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ゲーム理論を使った社会システムの創造の可能性は今後ますます増えていくでしょう。イノベーションに関していえば、特にビジネスモデルの創造に直接的な寄与が期待できるのではないでしょうか。また、イノベーションの興し方自体にもゲーム理論的な発想が求められるようになるかもしれません。どんな社会システムならイノベーションのインセンティブになるのか。本書でも特許制度の問題点は議論されていますが、現行の制度にもかなり改善の余地があるように感じました。ゲーム理論を制度設計に用いる手法やツールは、まだ実務家が使いやすいものにはなっていないと思いますが、適用事例が増えてくれば、こんな場合には、こんな制度が良い(とか悪い)とかのような形で実践に役立つようなノウハウも蓄積されていくかもしれません。ゲーム理論を活用するにはそれなりの専門的スキルも必要でしょうが、ゲーム理論的発想を参考にして考えることは、現時点でもできるかもしれません。イノベーションの成功確率を上げるために、そうした考え方も試してみる価値があるように思いましたが、いかがでしょうか。


文献1:松島斉、「ゲーム理論はアート 社会のしくみを思いつくための繊細な哲学」、日本評論社、2018.


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