研究開発をはじめ創造的活動には、「多様性」が必要、とよく言われます。三人寄れば文殊の知恵ということわざを引くまでもなく、知識の組み合わせが問題解決に役立つこと、発想の源になりうることは多くの方が認めるところでしょう。加えて最近では、群衆の予測が専門家よりも正確である、ということからも多様性が注目されているようです。

しかし一方で、現実の企業経営や組織運営においては「均一性」の方が重要視される場合や、「選択と集中」という考え方により多様性が軽視される場合もあるように思います。そこで、今回は、スコット・ペイジ著「『多様な意見』はなぜ正しいのか」[文献1]に基づいて、多様性の意義や役割、多様性をどう使えばよいのかなどについて考えてみたいと思います。

著者は、「多様性はより良い結果をもたらす」という「多様性予想」について、「この予想が例外なく成り立つのでないことは明らかだ。」といい、「多様性を定義して、それが恩恵をもたらすと思われる課題を特定しなければならない。」として、「いつ、そしてなぜ多様性が恩恵をもたらすかを理解することが、本書の目的である」[p.26]としています。多様性について真剣に考えるなら、まさにこの点を知っておく必要があるでしょう。以下、特に上記の点について、本書の構成に沿って内容をまとめてみたいと思います。

パート1:ツールボックスを分析する

著者は「“多様性”という言葉を認識的な多様性という意味で使う[p.29]」とし、まず、第1~4章で述べられる4つの枠組みで多様性を分析して、これらをひとまとめにした「ツールボックス」の多様性がどのように恩恵を生むのかを説明しています。

第1章:多様な観点Perspective、世界を表現する方法[p.46])

観点とは、「状況や問題を表現する方法」[p.29]であって、「多様な観点を持つというのは、ありうる事柄の集合をそれぞれ異なる形で捉えている、あるいは心に描いている」という意味[p.29]。観点によって知識が体系づけられ、「正しい観点は、難しい問題を単純にしてくれる[p.78]」(当然、問題を難しくしてしまう観点もありうる)。

第2章:ヒューリスティックHeuristics、向上させるための手法やツール[p.46])

ヒューリスティック(発見的方法[p.30])とは、「問題の解を見つけるために使う思考ツール[p.82]」。「一つの観点が与えられたとして、ヒューリスティックは、新たな解をどこで探せばいいのか、どんな行動を取ればいいのかを教えてくれる[p.82]。例えば、トポロジカル・ヒューリスティック(観点の構造に基づいて近くの解を探索する)、グラジエント・ヒューリスティック(価値関数の傾きが最大の方向へ移動する)、エラー許容ヒューリスティック(ランダムにトライする、初めのうちはあまり大きくないエラーを受け入れて探索する)、ポピュレーション・ヒューリスティック(別の解の一部を流用する、進化のメカニズムのように複数の解を同時に探索してよいものを残す)などがある[p.91-104]。

第3章:解釈Interpretation、カテゴリーを作る方法[p.46])

「“解釈”は、人々が出来事や結果や状況を分類するときに使う、それぞれ異なるカテゴリーに重点を置いている[p.30]」。「一つの観点からいくつかの次元を無視したり(投影解釈)、観点を塊に分割(塊解釈:似たような物事、状況、問題、出来事のカテゴリーを作る)したりすることで我々は解釈を作る[p.118,126]」。「世界を同じ形で見ていても、その分け方が異なっていることがある。それがたくさんの多様性を生み出す。」「こうした多様な解釈のおかげでわれわれは、それぞれ異なる推論を導き、それぞれ異なる予測を立てることができる」[p.126-127]。

第4章:予測モデルPrediction Methods、相関と因果関係に関する推論[p.46])

「予測モデルはその解釈のもと、ある場面で起こると考えられる事柄を描き出す[p.129]」。「予測モデルとは、一つの解釈と、それによって作られる集合やカテゴリー一つ一つに対する予測を合わせたもの」。「予測モデルは思考で、ヒューリスティックは行動」[p.132

第5章:物差しとツールボックス

「観点、解釈、ヒューリスティック、予測モデルを組み合わせれば、”認識的なツールボックス”ができる[p.31]。「ツールボックスの枠組みは、知能を捉える上でIQのスコアに代わる解釈となる[p.170]。」

パート2:多様性の恩恵

第6章:多様性と問題解決

多様性が一様性に勝る定理:「集団に含まれるソルバーが多様、すなわちローカル・オプティマムに何らかの違いがあれば、平均すると多様なソルバーの集団が一様なソルバーの集団より良い出来を示す[p.204]」。「最初のソルバーがグローバル・オプティマムを見つけられなくても、他のソルバーがその解を向上させるかもしれない。向上させることが可能だというこの特徴が、多様性が一様性に勝る理由[p.201]」。「一様な集団はたった一人の人を含んでいるのと変わらない[p.200]」

多様性が能力に勝る定理:以下の「条件1から4が満たされれば、ランダムに選ばれたソルバーの集団は個人で最高のソルバーからなる集団より良い出来を示す。[p.206-211

条件1、問題が難しい:どのソルバーも個人で必ずグローバル・オプティマム(全体の最適解)を見つけられることはない。

条件2、微積分条件:すべてのソルバーのローカル・オプティマム(局所最適解)をリストに書き出すことができる。すなわち、すべてのソルバーが賢い。(微積分を知っている人ならピークを見つけることができる、という意味)

条件3、多様性条件:グローバル・オプティマム以外のすべての解が、最低一人のソルバーにとってローカル・オプティマムでない。(ローカル・オプティマムから向上法を見つけられるソルバーがいる、という意味。人々が多様でなければならない、ということ。)

条件4、大勢のソルバー候補からかなりの大きさの集団を選ぶ:ソルバーの母集団は大きくなければならず、一緒に取り組むソルバーの集団にはある程度の人数のソルバーが含まれていなければならない。

「この定理は・・・論理的な真実[p.211]。「問題解決においては多様性が個人の能力と同じく、あるいはそれ以上に重要」、「多様性の恩恵は個人の中にも当てはまる」、「ツールは多様でなければならないが、多様すぎて互いに組み合わせられないようではいけない」、「最もふさわしいのは、多様性が多様であること、すなわち多様な人もいれば専門化した人もいて、それでも全員が数多くのツールを持っていること」、「多様な観点とヒューリスティックは、楽しさの原動力にもなる」[p.224-225

第7章:情報寄せ集めモデル(集団による予測)

情報寄せ集めモデルでは、「人々は答えをある程度の確率で知っているか、答えの一部分を知っているか、あるいは答えのおおざっぱなシグナルを受け取ると仮定する。[p.233]」。しかし「予測モデルを寄せ集めるのは、情報を寄せ集めるのとは違う[p.33]」。

第8章:多様性と予測

多様性予測定理:予測モデルの集団において、集団的誤差=平均個人誤差-予測多様性[p.265]。

「個人の能力(右辺第1項)と集団の多様性(第2項)は、集団の予測能力に等しく寄与する。[p.266]」

群衆が平均を負かす則:多様な予測モデルの集まりがあるとして、その集団的予測は個人的予測の平均より正確である[p.267

「群衆が賢いためには、そのメンバー一人ひとりが賢いか、あるいは集団として多様でなければならない。[p.295]」。確実に群衆が専門家より高度な予測ができるのは「群衆が考慮して専門家が無視した属性や変数の一つが予想外の値を取った場合[p.295]。(それ以外の場合にも起こりうる)

パート3:多様な価値

第9章:多様な好み

「好みの多様性はツールボックスの多様性とは違う。[p.34]」「基本的好み(結果に関する好み)が多様だからといって、必ずしも手段的好み(行動や方針に関する好み)も多様とは限らない[p.300]」。好みの多様性が問題になるのは、基本的な好み。手段的好みは役に立つ[p.301

第10章:好みの寄せ集め

「多様な好みは、うんざりするほど多くの問題を生み出す。・・・”集団的な好みは存在しないかもしれない”、”強制的でない投票プロセスではどんな選択にも行き着きうる”、”人々は選択プロセスを操作しようとする動機を持つかもしれない”、”共通の資源(公共財)の供給が少なくなるかもしれない”」[p.320

第11章:ツールボックスと好みの相互作用

「多様な観点には影の面があって、考えうる選択肢を数多く発見させてしまう」。「考え得る選択肢が多いと合意する確率は低くなる」。一方、「多様な好みを持つ人々の集団は、意見を一つにした人々の集団よりも問題解決に優れていることが多い。意見の違いはつばぜり合いを生むだけでなく、ときに争いを好むものの効果的なチームを作る」[p.35

パート4:多様性は恩恵をもたらすか?

「本書が示す中心的な主張は3つある。(1)多様な観点とツールは、人々の集団により多くのすぐれた解を見つけさせ、全体的な生産性に寄与する。(2)多様な予測モデルは、人々の群衆に価値を正確に予測させる。(3)多様な基本的好みは、選択のプロセスをくじかせる。」「これら3つの主張を裏付ける大量の証拠がある。」[p.36

第12章:認識的な多様性の原因

何が認識的な多様性をもたらすか。「多様な訓練、経験、アイデンティティーによって、我々は違う風に考えるようになる。そして異なる認識的ツールを持つようになる。[p.383]」

第13章:経験的証拠

「多様性の正味の恩恵=多様なツールの恩恵の合計-多様性のコスト」[p.401]。

「アイデンティティーの多様なグループやチームは、グループのダイナミクスに伴う問題を起こして出来を損なうことも多い。・・・コミュニケーションの問題や基本的好みの多様性の持つ負の面が現れ、それが操作や偽りをもたらしうる場合、グループは生産的でなくなる[p.401]。」「多様なグループの方が出来のばらつきが大きい[p.401」]、「アイデンティティーの多様性が恩恵を生むのは、それが認識的な多様性と相関しているか、認識的な多様性を引き起こす場合だけ[p.403]」「多様なグループが良い出来を示すには、自分のアイデンティティーが認められていて、自分の寄与も受け入れられていると人々が感じなければならない[p.404]」、「人類の歴史を通じた経済成長、現在の国家や都市の生産性、小さなグループの出来、いずれを見ても認識的多様性が集団の出来を向上させるという結論に達せざるを得ない[p.412]」、「多様性の恩恵は確かに存在する。それは大きくはない。大きいと期待すべきではない。しかしそれは現実のもので、時とともに高めていけば、我々ははるかに幸せになれるだろう。」[p.413

パート5:積極的になる

第14章:実り多いロジック

「多様な観点と多様なヒューリスティックは、一つ一つ連続的に組み合わされて適用される。・・・1+1が2より大きくなることも多い。・・・多様性は超加算的[p.418]」。「(基本的好みの多様性が)問題を引き起こすのは選択においてだけである。グループが問題解決や予測をおこなっているときは、それが実際に恩恵をもたらすかもしれない[p.430]」。「多様性を追求する際には、多様性と能力のバランスを取ることを忘れてはいけない。・・・能力は多様性と同じく重要だ[p.444]」。

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このように見てくると、どんな多様性が、どんな状況で、どのように重要なのかはがわかってくるように思います。例えば、研究開発については、問題が難しく、微積分条件が満足されている場合が多いでしょうから、問題解決のメカニズムから考えて、単独で解決に至るよりも多様なソルバーがいる方が好ましいと言えるでしょう。ただし、多様なグループでは出来のばらつきが大きいということは、マネジメントのやり方が重要、ということになるのではないかと思います。例えば、本書の指摘に基づけば、ツールの多様さを重視すること、独自性とメンバーの寄与を尊重し、コミュニケーションを大切にすることが必要と言えるのではないでしょうか。また、選択と集中については、目標を絞ることで本質的な好みは均一にし、手段的な多様性(ツールの多様性)を維持すべきなのだろうと思います。さらに、オープンイノベーションの進め方についても(本書でもイノセンティブ社の例が挙げられていますが)、どのようなパートナーとどのように協力するかについての示唆が得られるように思います。単なる下請けではなく、多様性をもたらすパートナーとしての関係をつくるべき、と言えるのではないでしょうか。

今後、研究開発が取り組むべき課題はますます複雑化し、一人の天才によって成し遂げられるような課題ではなくなるでしょう。好むと好まざるとにかかわらず、多様な環境が求められるようになっていくのではないでしょうか。多様性が効果を発揮するメカニズムをよく理解することで、複雑な課題に対する効果的なマネジメントが可能になるのではないかと思います。

 


文献1:Scott E. Page, 2007、スコット・ペイジ著、水谷淳訳、「『多様な意見』はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき」、日経BP社、2009

原著表題:”The Difference, How the Power of Diversity Creates Better Groups, Firms, Schools, and Societies

参考リンク