ビジネスモデルを考える上で、「プラットフォーム」という概念は特に近年重要になってきていると思います。もちろん過去にもプラットフォームという考え方で整理できるビジネスの仕組みはあったでしょうが、最近の技術の進歩によってその適用が大きく発展し、様々な成功例が生まれているように思います。

そこで今回は、そのプラットフォームの考え方を整理した根来龍之著「プラットフォームの教科書」[文献1]の内容をご紹介したいと思います。著者はイントロダクションで次のように述べています。「プラットフォームは次のような特徴を持っている。急速に成長することができる、一人勝ちすることがある、一人勝ちが突然くつがえされることがある。なぜ、こういう特徴が生じるかということを説明し、これから様々な分野で欠かせないコンセプトとなるプラットフォームの戦い方について本書は解説する。つまり、プラットフォームのビジネスとしての成立メカニズム、成功原理、特に一人勝ちになりやすい理由、後発企業の挑戦の仕方について論じる。[p.4-5]」、「プラットフォームの特徴をもたらす大きな要因を挙げると、それは主として次のようなものである。レイヤー構造、ネットワーク効果、エコシステム、アマチュアエコノミー[p.7]」。以下、本書の構成に沿って、重要と思われるポイントをまとめたいと思います。

PART1
、プラットフォームの基本
01
、プラットフォーム革命
 何が起きているか?
・プラットフォームの暫定的な定義:「お客さんに価値を提供する製品群の土台になるもの・・・つまり、『他のプレイヤー(企業、消費者など)が提供する製品・サービス・情報と一体になって、初めて価値を持つ製品・サービス』を意味する。[p.17]」
・「プラットフォーム型ビジネスの特徴が満載の事例と言えるのが、シェアリングエコノミーの世界的拡大である。[p.20]」「プラットフォームという考え方が経営学者の間で注目を浴びるようになった理由の1つは、パソコンのOSにおけるウィンドウズの圧勝だった。なぜウィンドウズが一人勝ちしたかというと、それはウィンドウズを前提にしたハードやアプリケーションソフトなどの製品があふれて、ほかのOSを前提にするエコシステムの価値が低くなってしまったからだ。[p.23]」「一人勝ちという現象は、アマチュア化によって加速される。[p.23]」「爆発的な成長は、プラットフォーム特有の経済原理によって加速される。ネットワーク効果や収穫逓増などの経済原理が働きやすいのだ。[p.24]」「新しいプラットフォームの登場と成長のきっかけとなるのは、多くの場合、技術的な要因である。具体的に言えば、新しいデバイスの登場はプラットフォームを劇的にシフトさせる。[p.25]」「プラットフォームのビジネスは、その構造に特徴がある。産業の構造を『レイヤー構造』と捉えることができるのだ。レイヤー構造とは、ある価値を提供する製品やサービスの構造がいくつもの階層(レイヤー)に分かれていくことである。そして各階層にはそれぞれに担い手がいて、上下の階層のプリやーと協力し合いながら、それぞれが独立したプレイヤーとして行動する。[p.27]」「自分だけですべてを提供するのではないから、コントロールがしにくい。協力プレイヤーをやる気にさせないと、あるいは協力プレイヤーを十分に確保できないと、自分の製品がどんなによくせも成功しない。プラットフォームは、『エコシステムマネジメント』という新しい経営課題を持っている[p.29]」。

02
、レイヤー構造化 従来型ビジネスとの決定的な違い
・「単独で機能を発揮するのではなく、何か他のものの存在や利用を前提にしているものがプラットフォームである。・・・組み合わせて使うものを『補完製品』という。[p.32]」
・「産業内の補完関係が縦に積み重なった構造を『レイヤー構造』と呼ぶ。レイヤー構造になると、消費者の選択の範囲が広がる。[p.37]」「各消費者が各レイヤーの製品・サービスを自由に組み合わせて購入・利用できるのがレイヤー構造を持つ産業の特徴である。レイヤー構造の中で、製品・サービスの多様性の基盤となるレイヤーが『プラットフォーム階層』になる。[p.39]」
・「産業のレイヤー構造化の大きな原因は、モジュール化、ソフトウェア化、ネットワーク化だ(他に、規制緩和なども原因になりうる)。[p.43]」
・「プラットフォームと総称されるビジネスの構造は2つの種類に大別することができる。1つは『基盤型プラットフォーム』である。これはゲーム機のように補完製品(ゲーム機の場合は、ゲームソフト)が存在することを前提にするプラットフォームである。・・・もう1つは『媒介型プラットフォーム』である。これはユーザー間の仲介、コミュニケーションや取引の媒介などの機能を持つものである。[p.46]」

03
、ネットワーク効果 成長を加速する経済原理
・「プラットフォームビジネスは成長が加速されやすい。他社を引き離して一人勝ち(Winner Takes All、以下WTA)する強大な企業が誕生する事例も目立つ。[p.52]」「伝統的なものづくりにおいてよく見られる『技術が優れていることによって競争相手を圧倒する』という戦略は、プラットフォームの競争においても存在する。・・・逆に、技術以外の要因、たとえば『先行したから』とか『最初にシェアを獲得したから』というような『非』技術要因の働きで成長し、さらにシェアトップを維持しているように思える事例が存在する。この傾向はプラットフォームビジネスにおいて特に多いと思われる。[p.53]」
・「ネットワーク効果とは、利用者が増えるほど製品やサービスの価値が上がることを意味する経済原理のことである。[p.62]」「ネットワーク効果にはサイド内ネットワーク効果とサイド間ネットワーク効果の2種類がある。[p.65]」「サイド内ネットワーク効果:ユーザーの数が増えると、そのユーザーが属するグループにとって、プラットフォームの価値が向上あるいは下落する現象[p.65](電話の例)」「サイド間ネットワーク効果は、プラットフォーム上の異なる種類のプレイヤー間で働くネットワーク効果・・・『片方のグループの利用者が増加すると、もう片方の利用者グループにとって製品やサービスの価値が向上あるいは下落する現象』・・・『売り手が多いオークションサイトに買い手が多く集まる』というように[p.66-67]」
・「ネットワークのサイドは、収益貢献度によって分類することもできる。収益源となるプレイヤーグループのことをマネーサイド(Money Side)、無料あるいはコスト割れでサービスや製品を提供されるプレイヤーグループのことをサブシディサイド(Subsidy Side)と呼ぶ。[p.72]」
・「ネットワーク効果に類似した概念として、『バンドワゴン効果』がある。・・・本書ではバンドワゴン効果を『ある選択が流行しているという情報が流れることで、その選択がさらに促進されること』と定義し、実質的な価値(便益)の向上が存在するネットワーク効果と区別し、流行に引っ張られる群衆行動の一種と位置付けることにしたい。[p.74]」

04
、クロスプラットフォーム 任天堂vsスマホゲーム
・「任天堂が目論んでいるのは、ゲーム専用機の進化と、専用機とスマホの両方にまたがるプラットフォームを作ることだ。前者は、据置型ゲーム機とポータブルゲーム機の合体を図るもので、後者は、ゲーム専用機とスマホのユーザーが行き来できるようにして、特にスマホの利用者をゲーム専用機に誘導しようという戦略である。どちらも、複数のプラットフォームにまたがる『クロスプラットフォーム戦略』の一種だと考えられる。[p.82-83]」

05
、デバイス転換 スマホシフトをテコにしたLINEの成長
・「LINEの成功は、プラットフォームを成長させる戦略的発想の勝利といえる。[p.85]」「他社よりも遅れてきたLINEは、スマホ化の波にうまく乗り、画面の操作もスマホに特化した機能をベースに、使いやすさにこだわった。[p.86]」「デバイスは、時代とともに変化していく。その転換にどのようにうまく乗り、誰でも使えるようにハードルを下げ、どう使いやすさを追求するか。そしてユーザーを飽きさせない斬新で画期的なサービスを、マネタイズも実践しながらタイミングよく投入し続けられるかが、成長のためのカギとなる。[p.90]」

PART2
、プラットフォームの広がり
06
、シェアリン
グ スマホが支えるアマチュアエコノミー
・「シェアリングは、一般の住宅への宿泊(民泊)、自動車の相乗り(ライドシェア)などのように、主に個人が事業主となってサービスを提供するという形態のものが多い。[p.92]」「シェアリングの拡大は、『アマチュアエコノミー』の増殖を意味する。[p.93]」「シェアリングエコノミーの事業を成功させるには、信頼(Reliability)と信用(Credibility)の2つが重要になる。信頼とは『品質の確保』のことだ。・・・信用とは『悪意の排除』だ。[p.99]」「個人間取引のマッチングをするプラットフォームは、米国で次々と生まれている。[p.103]」

07
IoT あらゆる産業にプラットフォームが出現する
・「筆者はアカデミックな研究では、『プラットフォームビジネス』を次のように定義している。『その製品・サービスを前提にして利用される、他社(者)の製品・サービス・提供情報(補完製品・サービス・情報)が存在し、ユーザーが多様な選択を直接行えるようにしている製品・サービス』。厳密には、さらに(1)製品の品質責任が『補完製品・サービス・情報』の提供者(補完プレイヤー)にある、(2)プラットフォームとの間ではなく、補完プレイヤーと消費者との間で取引契約がなされる、の2点のうちどちらか1つの条件を満たす必要があると考えている。[p.106-107]」
・「IoT・・・あらゆるものをネットでつなぐという発想は、産業のソフトウェア化、ネットワーク化、モジュール化を推進することになり、ビジネスがレイヤー構造になりやすくなる。IoTは、製造業ビジネスを『もの』の提供だけではなく、『もの』+『サービス』へと変化させつつある。・・・製造業から見たIoTというのは、製品を『こと』化する力がある。[p.110-111]」

08
WTAへの布石 ソフトバンクのアーム買収
・「私見では、ソフトバンクがアーム・ホールディングスを買収した狙いは、IoTの核心を握ることにある。そこには様々な産業がレイヤー化していく中で、アームのチップ設計技術によって、IoT全体のプラットフォームのレイヤーを握ろうという発想があると考えられる。[p.115]」

09
、プロフィットプールの攻防 自動車産業のレイヤー構造化
・「産業のレイヤー構造の変化は、利益源(プロフィットプール)の移動をもたらすことがある。・・・レイヤー構造の変化が起きるときは、『どのレイヤーを握ることが産業の支配権を高めるか?』『どのレイヤーを手放してはいけないのか?』という問いかけが重要である。自動車産業は伝統的なものづくりのビジネスだが、そこでもレイヤー構造化が起きようとしている。[p.122]」

PART3
、プラットフォームの戦略
10,
、エコシステムのマネジメン
ト チキンエッグ問題を解決する
・「産業のレイヤー構造化が進んできた場合は、戦略にプラットフォームの考え方を取り入れることが有効だ。ただし、・・・あえてプラットフォーム型のビジネスにしないという戦略もあり得る。[p.132]」「その典型が『消耗品モデル』である。[p.133]」「他の人に補完製品を作ってもらいたいときでも、特許などで自社製品を保護することで、生産するメンバーや生産内容をコントロールする場合がある。[p.134]」
・「プラットフォームビジネスでは、自社の事業領域だけでなく、『他社にオープンにする範囲』を決めることが重要である。つまり、どのレイヤーについて、どの程度まで他社(者)の補完製品を受け入れるかという意思決定をする必要がある。[p.135]」「どこをオープンにして、どこに参入するか。それを考えることがレイヤー戦略の重要なポイントだ。[p.136-137]」
・「補完プライヤーの協力はプラットフォームの成功に欠かせない。しかし、補完プレイヤーに『協力してください』と声をかければ素直に反応してくれるというわけではない。・・・1つのポイントは、補完プレイヤーにとって『ビジネスしやすい環境』を提供することだ。[p.140]」
・「プラットフォームの成長は『ぐるぐる回り』の構造になっている。魅力的なユーザーがたくさんいないと、補完プレイヤーはやる気になってくれない。補完プレイヤーがやる気になってくれないとプットフォームの規模や機能、価値は向上しない。プラットフォームの規模、機能、価値が向上しないと、ユーザーは集まらない。[p.146]」「そのときに重要なのがView(展望、世界観)である。もう少し具体的に言うと、『将来に関する市場の見方および予測』『自社エコシステム構築に関する方針』『自社エコシステムの社会的貢献』などを提示することによって、エコシステムへの参加を促すことが大切だ。[p.148]」

11
、攪乱要因 プラットフォームの不確実性
・「プラットフォームの勝者が必ずしも一人勝ち(WTA)になるとは限らない。・・・市場には、WTA要因以外に、いろいろな攪乱要因があるからである。[p.152]」
・攪乱要因の例:マルチホーミング、スイッチングコスト、市場の成長、デバイスなどの転換、政府の規制[p.153
・「マルチホーミングとは、ユーザーが複数のプラットフォームを並行して使用することである。[p.154]」
・「スイッチングコストとは、顧客が、現在利用している製品・サービスから別の製品・サービスに乗り換える際に負担しなければならないコストのことだ。『金銭的コスト』『心理的コスト』『手間コスト』などが組み合わさっている。・・・先発優位が働く場合には、スイッチングコストは先行企業にとってWTA要因になる。しかし、先発優位があまり働かない場合は、スイッチングコストによって市場シェアが分散された状態を固定化する要因になる。[p.158]」「新しく市場に加わる新規ユーザーにはスイッチングコストが存在しない。したがって新規ユーザーは、たとえば後発企業の低価格戦略などに反応しやすい。また後発企業が先発にない機能やサービスを持っている場合は、その機能やサービスの魅力に新規ユーザーは反応しやすい。つまりユーザー数が増えている成長市場では、スイッチングコストがあっても、それが影響しない新規顧客を中心に顧客を獲得できるので、WTA要因が働きにくくなる。[p.160]」
・「グッドイナフによる移行は、新しいデバイスが登場したときに起こりやすい。・・・デバイスの変化、つまり土俵替えは、新規企業がシェアを奪ったり逆転するきっかけになることがある。[p.161]」

12
、マルチホーミング 宿泊予約&グルメサイトの追い上げ
・「ネット上のプラットフォームはマルチホーミングがしやすいという特徴がある。言い換えれば、ネット上のプラットフォームビジネスにおいては、必ずしもユーザーの利用サイトのスイッチを目指さなくても、並行利用してもらうことでシェア拡大が可能である。ただし、チャレンジャーがリーダーの提供する機能について、『対等化』をまず実現することが前提になる。必ずしも優位になる必要はないが『グッドイナフ』となることは必要だ。[p.169-170]」

13
、5つの対抗策 強大化したライバルへの追随と逆転
・「プラットフォーム間競争においては、技術が優れていても必ずしも勝つとは限らない。[p.173]」
・「非技術要因でWTAに対抗したり、WTAの進行を妨害する戦略には、次のようなものがある。[p.174]」(1)収益モデルの破壊と拡張:「多くの場合、先行企業の利益源(マネーサイド)に対して『無料化』で攻撃する。そして自社のプラットフォームには、収益源として異なるサイドを追加する。[p.174]」、(2)プラットフォーム包囲:「他社のサイド間ネットワーク効果を抑制するための戦略。階層の異なる製品・サービスによる『包み込み』を行う。[p.174]」、(3)プラットフォーム間橋渡し:「つながりのなかったプラットフォーム間を、隣接階層を利用して橋渡しをすることで、ユーザーのマルチホーミングコストを下げる[p.175]」、(4)プラットフォーム互換:「他社、特に先発企業のプラットフォームのコンテンツやアプリケーションなどをそのまま使えるようにする。クローン戦略とも呼ばれる。[p.175]」、(5)プラットフォーム連携:「連携することによって新たなサイド間ネットワーク効果を得る。他社が持たないサイド間ネットワークを持つことでライバルのWTA要因に対抗する。水平連携では、同じ機能を持つプラットフォームが連携して顧客基盤や補完業者基盤を共有する。これにより、たとえば弱者連合によって、後発企業側のサイド内・サイド間ネットワーク効果を向上させることができる。[p.175-176]」

14
、包囲戦略 マイクロソフトの勝因と敗因
・「クラウドコンピューティングの進展に伴い、ブラウザ上で動作するアプリケーションが、企業でますます使われるようになってきている。・・・こうした状況変化によって、マイクロソフトが得意としてきたプラットフォーム包囲戦略(隣接上位階層の製品を売り込む戦略)のパワーは低下した。一人勝ちの大きな要因となってきたPCOSでのシェアの高さが、必ずしもブラウザのシェア維持に十分貢献しなくなってきているのである。[p.200-201]」
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本書を読むと、プラットフォームは単なる成功しやすいビジネスモデルの一形態、一時期の流行にとどまらず、IT技術の進歩にともない必然的に大きく発展した現代におけるビジネスのひとつの潮流であるように思われます。ただ、注意すべきは、プラットフォームという形態がビジネスの成功を保証するものではなく、プラットフォームをいかにうまく作り、運営していくかが成功の鍵をにぎっている、ということだと思います。そうした成功のための方法論が徐々に明らかになってきている、というのが現状なのでしょう。

研究開発にとっても、プラットフォームを活用したビジネスモデルをいかに作れるか、ということだけでなく、プラットフォームを構成する各レイヤーでいかに価値のある活動を実現するか、エコシステムをいかにうまく維持していくかなど、著者の指摘は重要な示唆を含んでいるように思います。特に、エコシステムに関しては、プラットフォーム以外のモデルでも今後企業間の協力関係は重要になっていくであろうことを考えると、プラットフォームの事例を理解することによるエコシステムの運営全般に関する示唆も今後重要になっていくように思われます。

プラットフォームの事例は今後も蓄積され、理解もますます深まり、新たな戦略もさらに出現していくでしょう。そこから何が学べるか、何を学ぶべきかを今後も注目していきたいと思います。


文献1:根来龍之、「新しい基本戦略 プラットフォームの教科書 超速成長ネットワーク効果の基本と応用」、日経BP社、2017.