はじめに第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと第2回第7回
2、研究開発実践のマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
第8回第17回
2.2
、研究開発を行う人のマネジメント第18第24回
2.3
、研究組織とそのマネジメント第25回第29回
2.4
、研究プロジェクトの運営
2.4.1
、研究プロジェクトの進め方
第30回第31回
2.4.2
、コラボレーションのマネジメント第32回
2.4.3
、研究プロジェクトの方向転換と中止第33回
2.4.4
、可視化による運営のマネジメント第34回
2.4.5
、失敗を避ける、1) 失敗を避けるために注意すべきポイント、2)具体的事例第35回

3)
様々な失敗要因についての指摘
イノベーションやマネジメントにおける失敗の原因については様々な指摘があります。前回記事では失敗の原因をある程度整理してみましたが、それ以外にも重要な指摘は多いと思います。そこで今回は、実践家が失敗を避けるために活用可能と思われる、様々な失敗の要因についての指摘を集めてみました。

偉大な企業が衰退する5つの段階

Collins
は偉大な企業が衰退する段階を以下のように整理しています。[文献1]
第1段階、成功から生まれる傲慢:成功により現実の厳しさから隔離され、真の成功要因を見失い、成功を当然視する。成功した理由が通用しなくなる条件を理解しなくなったり、運が良かっただけで成功したという可能性を認識せず、自分たちの長所と能力を過大評価する傲慢に陥る。
第2段階、規律なき拡大路線:当初に偉大さをもたらしてきた規律ある創造性から逸脱し、偉大な実績をあげられない分野に規律なき形で進出するか、卓越性を維持しながら達成できる以上のペースでの成長を目指す。
第3段階、リスクと問題の否認:内部では警戒信号が積み重なってくるが、外見的には業績が十分に力強いため、悪いデータを小さく見せ、良いデータを強調し、曖昧なデータを良く解釈する、ということが起きる。
第4段階、一発逆転策の追求:問題点と失敗が表面化し、衰退が明らかとなり、一発逆転狙いの救済策にすがろうとする。カリスマ的指導者、大胆だが実績のない戦略、抜本的な改革、大ヒット狙いの新製品、ゲームを変える買収などに頼る。しかし、こうした策による効果は一旦業績を好転させても長続きしない。
第5段階、屈服と凡庸な企業への転落か消滅:後退を繰り返し、巨費を投じた再建策が失敗に終わったことで、財務力が衰え、士気が低下し衰退、消滅、身売りなどに至る。

このうち、成功体験に基づく傲慢、規律の喪失、問題点の否認、一発逆転への依存はすべての既存企業が注意すべき要因ではないでしょうか。

経営幹部の脱線パターン
McCallは、脱線した経営幹部のパターンについて以下のような指摘をしています[文献2]。これも成功体験が生む問題点に関連していると言えるでしょう。
すべての「強み」は「弱み」になりうる:たとえ周囲の状況が変わったとしても、昔役立った「強み」を捨てることは難しく、成功に導いた「強み」が問題になる。
表面に現れていなかった弱みが、最終的に問題になる:以前は問題とならなかった、あるいは、「強み」や業績に隠れていた「弱み」や欠点は、新たな状況では重要な問題となる。
次々に成功を重ねると傲慢になる:自分は絶対であり、他の人の助けを必要としないという誤った信念が生まれる。
「不運」が生じたとき、つまり、物事が悪い方向に動いたとき、どのような行動をとるかが決定要因になる:「不運」を「私の失敗ではない」と解釈することで、「不運」の原因として自分が関与しているという事実を隠してしまうことがある。

判断に影響する7つのバイアス
Govindarajan
Trimbleは判断に影響する以下の7つのバイアスを指摘をしています。[文献3、第6章]
バイアス1、予測の過信:「失敗は予測の間違いではなく実行の欠陥にあると説明したがる傾向は、イノベーションにとって普遍的な、そして最も危険な敵であるとわたしたちは考えている[文献3、p.238]。」
バイアス2、エゴ・バイアス:「人は実験に成功したときには計画して実行した行動のおかげだと考え、失敗すると外部の影響のせいと考える傾向がある[文献3、p.261]
バイアス3、新近性バイアス:「実験の結論を出すときには直前の出来事に注目してしまい、実験の最初から終わりまでの出来事をトータルに検討するのを怠るという過ちを犯す傾向がある。[文献3、p.262]
バイアス4、慣れのバイアス:「慣れ親しんだ説明に流れる[文献3、p.262]
バイアス5、サイズのバイアス:「大きな結果は大きな行動によって生まれると頭から思いこむ[文献3、p.262]

バイアス6、単純性バイアス:「単純にパフォーマンス・エンジンの数値指標と基準をイノベーション・イニシアチブに適用する[文献3、p.263]
バイアス7、政治的バイアス:社内の競争に基づくバイアス。

イノベーションチームを結成するときのよくある7つの間違い
さらに、GovindarajanTrimbleはイノベーションチームを結成する場合の注意点(罠)として以下の項目を挙げています[文献3、第2章]。彼らの指摘は特に、企業内の既存事業を担当する部署と、イノベーションを担当する部署がうまく連携する上で重要と思われます。
第1の罠、インサイダー重視のバイアス:プライド、なじみ、気楽さ、便利さ、報酬規定、社内の人間にチャンスを与えたいという思いなどから内部の人間をチームに入れたくなるが、スキル不足のリスク、組織の記憶(古いやり方、慣れ親しんだやり方、習慣やバイアス、行動パターン、思考パターンなど)に妨げられて失敗するリスクがある。
第2の罠、役割や責任について、それまでの規定を援用する→新しい肩書、過去の知識を一掃する業務分担、専用スペースなどが効果的。
第3の罠、パフォーマンス・エンジン(既存事業の安定的な収益を生み出す仕組み)のパワーセンターの支配を再強化する→力を持っている部署の影響力を変化させるために、外に見える形式的な手段などを用いるとよい。
第4の罠、それまでどおりの数値目標で業績評価を行う:「パフォーマンス・エンジンではとても意義のある数値目標でも、専任チームにも同じように意義があるという場合はごく少ない」。
第5の罠、異なる社風の創造に失敗する:「イノベーション・リーダーは新たな価値観を表現する新しいストーリーを創造し、広めたほうがいい。」「専任チームは自分たちだけにイノベーションの気風があると主張してはいけない。」
第6の罠、できあがったプロセスを使う:「専任チームがパフォーマンス・エンジンをコピーすべきだという状況はありえない。」
第7の罠、同質化圧力に負ける:「あらゆる手段で効率を最大化しようとするサポート機能のリーダーがいると、専任チームは組織の記憶を克服することがほぼ不可能になるだろう。」

イノベーションにおいて陥りがちな罠(Anthonyらによる)
Anthonyらが挙げている「イノベーションにおいて陥りがちな罠」は以下のとおりです[文献4、p.356-361]。
プロジェクト関連の罠

1、早期に過大な投資を行なってしまう(欠陥がある戦略にチームが貼りつけられてしまう可能性がある)
2、「何をなすべきか」よりも「何ができるか」を優先してしまう(市場のニーズの存在確認が必要)
3、実現不可能な完全性を追求する(完璧な製品というものは後になってみなければ判断できない)
4、分析過剰症候群(成功を阻む重要課題にフォーカスを絞ることが必要)
5、従来型の市場予測ツールの使用(既知の市場で機能するツールが新事業にも使えるかわからない)
6、コア・コンピタンスへの固執(コア・コンピタンスが組織の硬直化に結びつくことがある)
企業関連の罠
1、バランスを欠くポートフォリオ(中核事業に近いもの、同じようなリスク特性のものだけになりやすい)
2、長期化したプロジェクトが多くなりすぎる(プロジェクト中止の決断は有効)
3、中核事業によるフォーカスの拡散(独自性の高いプロジェクトが過去と同じようなものになってしまう)
4、誤った意思決定基準の使用(数字にこだわった意思決定では大きな成長機会を見失いやすい)

既存企業のイノベーションの問題点の例
Riesによる)
Ries
は既存企業におけるイノベーションの進め方について以下のような問題点を指摘しています。
・「やってみよう(ジャスト・ドゥー・イット)」型起業[文献5、p.80
・虚栄の評価基準[文献5、p.174
・成功劇場(偽りの成長で成功しているかのように見せる)[文献5、p.118
・不備な計画をきちんと実行してしまう「失敗を達成する」[文献5、p.321
・巨大バッチ死のスパイラル[文献5、p.261
・プロフェッショナルになろうというまちがった欲望を持ち、柔軟性を失って官僚的になる[文献5、p.293
・起きる可能性のある問題をすべて防止しようとした結果、いつまでたっても製品が出荷できなくなる過剰アーキテクチャー[文献5、p.293

主にイノベーションのスタート段階での困難
Wulfen
は、イノベーションスタート段階での困難を指摘しています。
「イノベーションをふいにする6つのパターン[文献6、p.52-53]」:1、必要ないのに始める、2、最初にイノベーターを選ぶ、3、あなたのアイデアを出発点にする(批判的な意見が出るのは「アイデアがあなたのものであって、彼らのものではないから」)、4、ひとつのアイデアに賭けてしまう、5、ブレーンストーミングから始めてしまう(ブレーンストーミングがうまくいかないのは古いものを捨てられないから)、6、顧客を無視して始めてしまう。
「イノベーションのスタートで起こる10の問題[文献6、p.62-63]」:1、方向性の欠如、2、アイデアの固定化、3、常識への固執、4、仕切り屋の存在(参加者のあいだに力関係があるとよくない)、5、負のスパイラル(ネガティブ発言で黙ってしまう)、6、付せんはたまった、じゃあ次は?(どう活用したらいいかわからない)、7、アイデアのあいまいさ、8、上層部による封殺、9、開発チームによる改変(開発チームに受け渡された後)、10、生産ラインからの抵抗
「アイデア創出の5つのジレンマ[文献6、p.64-65]」:1、いつ(「財政と文化の両面で、社内にイノベーションの機運が高まらない限り成功しない」、2、誰が(内部か外部か)、3、何を(革新的か発展的か)、4、どの基準を採用すべきか(クリアすべき明確な基準は?)、5、どうやって(自由に行くか理詰めでいくか)

イノベーションの最初の段階での課題
Anthonyが挙げるイノベーションの最初の段階(ファーストマイル)での課題は以下のようなものです。
課題1、道を間違える:「イノベーターが道を間違える最大の理由は、みせかけのホワイトスペース(空白地帯)に魅了されてしまうことだ。[文献7、p.154]」、「まず自問してみるべきだ。これまで誰も実行しなかったのはなぜだろう?[文献7、p.158]」
課題2、燃料切れ:「ファーストマイルにおいて特に致命的となり得る障害は、心理学者が言うところの計画錯誤によって引き起こされる[文献7、p.159]」。計画錯誤とは、「タスクの日程とコストを予測する際に、組織の内部の人間は不正確な予測をしがちである[文献7、p.231]」ということ。「計画錯誤が原因でイノベーションのファーストマイルで燃料切れとなり、目的地に到達できないというケースがよくある。[文献7、p.159]」、「スタートアップビジネスに対して私はいつも、『必ず予定より長くかかり、必ず予定より多くの資金が必要となる』と考えている。[文献7、p.161]」
課題3、ドライバーの選定を間違える:「イノベーションを起こすということはきわめて人間的な営みであるため、その車を運転するための才能を持っていることがきわめて重要だ。理想とされるドライバーに求められる資質が2つある。一つはターゲット市場に共感できること。二つめは関連分野での経験を有しており、イノベーションのファーストマイルに対処できることだ。[文献7、p.164-165]」。
課題4、スピンしてコントロールを失う:「『スタートアップ・ゲノム』リポートによれば、新しい企業が失敗する最大の理由は規模の拡大を急ぎすぎたことだという。要するに、実現性のあるビジネスモデルを構築する前に規模の拡大を図ったために、プロジェクトが崩壊してしまったのだ。[文献7、p.173]」
これらの課題は、イノベーションをスタートする段階で特に影響が大きいとは思いますが、どのような状況においても失敗の原因となりうるのではないでしょうか。

スタートアップが避けるべき7つのアイデア
田所氏が挙げている避けるべき7つのアイデアは以下のようなものです。
①誰が見ても、最初からいいアイデアに見えるもの、②ニッチすぎる、③自分が欲しいものではなく、作れるものを作る、④根拠のない想像上の課題、⑤分析から生まれたアイデア、⑥激しい競争に切りこむアイデア、⑦一言では表せないアイデア[文献8、p.36-37

以上に挙げたような失敗の要因やイノベーションにおける困難な点は、状況にもよるでしょうし、失敗の要因のすべてを系統的に網羅することは不可能でしょう。しかし、様々な事例からの知見が蓄積されてきているのは確実だと思います。研究開発の成功確率を高めるためのヒントとして、こうした失敗事例から学べることを振り返ってみることは有意義なのではないかと思います。


文献1:Collins, J., 2009、ジェームズ・C・コリンズ著、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー③衰退の五段階」、日経BP社、2010.本ブログ紹介記事
文献2:McCall, Jr. M.W.1998、リクルートワークス研究所訳、「ハイ・フライヤー」、プレジデント社、2002.本ブログ紹介記事
文献3:Vijay Govindarajan, Chris Trimble, 2010、ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル著、吉田利子訳、「イノベーションを実行する 挑戦的アイデアを実現するマネジメント」、NTT出版、2012.本ブログ紹介記事
文献4:Anthony, S.D., Johnson, M.W., Sinfield, J.V.,Altman, E.J., 2008、スコット・アンソニー、マーク・ジョンソン、ジョセフ・シンフィールド、エリザベス・アルトマン著、栗原潔訳、「イノベーションへの解実践編」、翔泳社、2008.
文献5:Eric Ries, 2011、エリック・リース著、井口耕二訳、「リーン・スタートアップムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす」、日経BP社、2012.本ブログ紹介記事
文献6:Gijs van Wulfen, 2013、ハイス・ファン・ウルフェン著、高崎拓哉訳、「スタート・イノベーション! ビジネスイノベーションをはじめるための実践ビジュアルガイド&思考ツールキット START INNOVATION! with this visual toolkit.」、ビー・エヌ・エヌ新社、2015.本ブログ紹介記事
文献7:Scott D. Anthony, 2014、スコット・D・アンソニー著、川又政治訳、津嶋辰郎、津田真吾、山田竜也監修、「ザ・ファーストマイル」、翔泳社、2014.本ブログ紹介記事
文献8:田所雅之、「起業の科学 スタートアップサイエンス」、日経BP社、2017.ブログ紹介記事