人材育成はマネジャーの重要な仕事のひとつですが、研究開発において人材育成はどうあるべきでしょうか。もちろん、研究開発課題は様々ですので、人材育成などには力を入れず外部から必要な人材やノウハウを持ってくれば十分、という場合もあるかもしれません。しかし、継続的な技術的基盤に頼る既存事業を持つ場合や、長期的な研究開発を行う場合には、世代を越えて技術を引き継ぎ過去の蓄積の上に新たな発展を築いていかなければならないこともあるでしょう。さらに、研究開発をうまく進める企業文化の維持が必要とされる場合もあるでしょう。組織の望むような方向に人材を育成していくことは、結局多くの場合で重要なことなのではないでしょうか。

人材育成の手法として最近注目されるようになってきた方法に「フィードバック」があるようです。そこで今回は、中原淳著「フィードバック入門」[文献1]の中から、そのポイントをまとめてみたいと思います。

はじめに
・「本書は、日々の仕事に追われ、部下育成が後回しになってしまっているというマネジャーの方々に向けて、効果の高い部下育成法である『フィードバック』の技術を一から説明した本です。[p.3]」
・「『フィードバック』は、あまたある部下育成手法の中で最も重要なものにもかかわらず、日本ではあまりこれまで注目されてこなかったものだと思います。フィードバックとは端的に言ってしまえば、『耳の痛いことを部下にしっかりと伝え、彼らの成長を立て直すこと』です。[p.4]」
・「私が、なぜ今、フィードバックについて筆をとり、一冊の書籍を編まなければならないと思いたったのか。・・・ここでは5つの理由を述べさせていただきましょう。まず第一の理由は、企業の現場において、フィードバックのニーズが非常に高まっているからです。・・・最近、『部下育成が上手くいかない』『経験の浅い部下がなかなか育たない』といった声を、あちこちの企業で聞くようになりました。・・・第二の理由としては、『年上の部下』に代表される、職場の多様な人材に悩まされているマネジャーが増えているということが挙げられています。・・・外国人人材、雇用形態の多様な人々など、『職場の多様性』は広がり続けています。・・・第三の理由は、ハラスメントに対する意識が職場で過剰に高まったことが挙げられます。・・・ハラスメントに対する意識が強まり、世の中がフィードバック不足になっています。・・・第四の理由は、2000年代に広まったコーチングなどの『気づき』を重視する部下育成手法の普及によって、言うべきことをしっかり言うという文化がおざなりになってしまったことです。・・・第五の理由は、近年、外資系の企業を中心に、目標管理制度の運用を見直すところが増えてきていることです。[p.6-9
・「フィードバックに関する研究は非常に古い歴史があります。・・・それらの成果をきちんと紹介したビジネス書や一般書が日本には存在しませんでした。[p.10]」
・「人間の行動は、ひずみやバイアスがかかっています。その中で、まっすぐの方向に進んでいくには、自分に関するさまざまな情報を受けながら、すなわちフィードバックをしっかりと受容しながら、それを元に、自分を立て直していかなければなりません。いつかは自律して、自分で自分を律さなければならないにしても、・・・成長するためには、正しく進んでいるかどうかを誰かにチェックしてもらい、指摘してもらうこと、つまりフィードバックが欠かせません。[p.12-13

第1章、なぜ、あなたの部下は育ってくれないのか
・「この20年間で日本企業の職場環境は激変しました。かつては、職場で長く仕事をしていれば、とりわけ意図的に会社が人材開発を行わなくても『人が育った環境』が、急速に失われてしまったのです。[p.26]」「当時の職場には・・・『部下が育つ』諸条件が一通りそろっていたからです。その条件とは、『長期雇用』『年功序列』『タイトな職場関係』の三つです。[p.29]」「第一に『長期雇用』だと、すぐに結果が出なくても、長い目で見てもらえます。[p.31]」「第二に、『年功序列』の会社では、定年までの道筋が一定なので、・・・今、何をすべきかが明確にわかりますから、正しい方向で努力できます。第三に、『タイトな職場関係』だと、上司や先輩が部下と職場で長い時間を一緒に過ごすので、上司や先輩の仕事ぶりをじっくりと観察できます。反対に、上司や先輩社員も、若手社員のことを長時間見ていたので、特に意識しなくても、改善すべき点を的確に指摘できました。・・・当時の部課長には時間的にも精神的にも余裕があったと述べる実務家も少なくありません。[p.32]」
・「90年代から・・・いわゆる『組織のフラット化』が進められてきました。[p.33]」「階層が減れば、当然、中間管理職の数は少なくなります。その結果、一人の中間管理職が抱える部下の数が増え・・・ました。[p.34]」「一人のマネジャーが管理できる部下の数には限界があり、それを超えて過剰な人数を管理しようとするとパフォーマンスが下がってしまうという研究群があります。『スパン・オフ・コントロール(Span of control)』という古典的な研究です。この研究群の知見によれば、『同じ目標を共有する5~7人の部下を直接管理することが一人の上司の限界』とされています。[p.34]」「組織がフラット化したことで、今の中間管理職はマネジャーとしての仕事をする準備期間がないまま昇進してしまっています。『マネジャーになる』ということが突然起こるので、これを私は『突然化』と呼んでいます。[p.36-37]」
・「くわえて、企業によっては、マネジャーの『若年化』も進んでいます。[p.38]」「さらにマネジャーの変化はこれだけにとどまりません。中でも最も大きな変化は『二重化』つまり『マネジャーである中間管理職も、プレーヤーとして成果を求められるようになったこと』でしょう。[p.39]」「しかし、一般社員と同じ業務量をこなしていれば、それだけで時間はあっという間に過ぎていきます。これでは、部下とじっくり向き合って育成することができないのも無理はありません。[p.41]」
・「コーチングにはさまざまな流派があり、またさまざまな定義があります。が、コーチングを最も簡潔に要約してしまえば『他者の目的達成を支援する技術』です。それは、育成する相手に『現状』と『めざすべきゴール』のギャップを、第三者からの『問いかけ』によって意識化させ、振り返り(リフレクション/内省)を促し、『今後、何を為していくべきか』の行動指針や行動計画をともにつくっていく技術です。[p.62]」「コーチングが導入される前の『管理職による現場での部下指導』といえば・・・『ティーチング』の傾向が強かった[p.62-63]」。「部下育成には、ティーチングが必要な局面も、コーチングが必要な局面も存在するのです。それは『ケースバイケース』なのです。[p.67]」「コーチングのような『相手本位』の手法を取り入れるということ自体は、間違っていません。・・・しかし、・・・ときには、ティーチングのように、こちらの意図や意見をしっかりと伝達することも必要です。・・・一方、『一方的に情報を伝達すること』だけを行っても人は育ちません。しっかりと相手に必要な情報を伝達したあとには、彼らに問いを投げかけ、『考えさせること』が必要ですし、自分の仕事のあり方を『振り返らせること』が必要です。要するにコーチング的な要素も必要なのです。この十年の迷走を踏まえ、私たちは今一度この『二極化した思考』を改める必要があります。[p.69]」「かくして注目されているのが、これら二つを大きく包含する概念であるフィードバックです。[p.70]」
・「フィードバックに関する定義は、・・・本書では、次の二つの要素から成立するものであると考えます。・・・1,【情報通知】たとえ耳の痛いことであっても、部下のパフォーマンス等に対して情報や結果をちゃんと通知すること(現状を把握し、向き合うことの支援)、2,【立て直し】部下が自己のパフォーマンス等を認識し、自らの業務や行動を振り返り、今後の行動計画をたてる支援を行うこと(振り返りと、アクションプランづくりの支援)[p.70]」

第2章、部下育成を支える基礎理論 フィードバックの技術 基本編
・「部下育成の基礎理論・原理原則とは何でしょうか。・・・私が管理職の方々にお伝えしたいものは、二つだけです。それは『経験軸』と『ピープル軸』です。[p.76-77]」
・「『経験軸』とは、『部下を育成するためには、実際のリアルな現場での業務経験が最も重要である』という考え方です。・・・実は、30年ほど前まで、人材開発の世界では、研修や教育プログラムの研究や評価が非常に盛んでした。・・・それが20年ほど前に見直され、やはり『業務経験こそが最も大きな成長の資源である』という考え方が広まってきました。[p.77]」「どんな業務経験を与えれば、着実に成長できるのか。正解は、コンフォートゾーンとパニックゾーンの中間に位置する『ストレッチゾーン(挑戦空間)』の心理状態になるような仕事を与えることです。ストレッチゾーンとは、適度にチャレンジや背伸びをしているときの心理状態のことです。できるかできないか多少の不安はあるけれど、それよりも成長している実感や、新たな仕事を遂行できるワクワク感の方が勝っている心理状態です。[p.82]」
・「ピープル軸とは、・・・『人が業務の中で成長するのは、職場の人たちから、さまざまな関わりを得られたときである』という考え方です。[p.84]」「筆者の研究によれば、職場で人が育つためには、三つの他者からの支援が必要であることがわかりました。大きく分けて『業務支援』『内省支援』『精神支援』の三つです。・・・『業務支援』とは、相手が持っていない専門知識やスキル、情報などを教えることや助言することです。・・・『内省支援』は、客観的な意見を通知したり、俯瞰的な視点や新たな視点を提供して、本人の気づきを促す支援のあり方です。[p.85]」「『精神支援』は、励ましたり、褒めたりすることで、部下の自己効力感や自尊心を高めることです。[p.86]」
・「私たちは、部下にストレッチを含む経験を提供し、結果に関する情報通知や振り返りを促し、彼らの自律をサポートしていかなくてはなりません。フィードバックを通じて、成長に資する資源を部下に提供しなくてはならないのです。[p.92]」
・「フィードバックを実際に行うには、どんなことを意識すればいいのでしょうか。結論から示せば、【事前】・・・情報収集【フィードバック】①信頼感の確保、②事実通知:鏡のように情報を通知する、③問題行動の腹落とし:対話を通して現状と目標のギャップを意識化させる、④振り返り支援:振り返りによる真因探求、未来の行動計画づくり、⑤期待通知:自己効力感を高めて、コミットさせる→【事後】・・・フォローアップ[p.93]」
・「フィードバックは、・・・事前準備が最も大切・・・なぜなら、相手に刺さるようなフィードバックをするためには『できるだけ具体的に相手の問題行動の事実を指摘すること』が必要だからです。[p.95]」「必要になるデータとして、『SBI情報』を準備しておくのがよい・・・シチュエーション(どのような状況で、どんな状況のときに)、ビヘイビア(部下のどんな振る舞い・行動が)、インパクト(周囲やその仕事に対して、どんな影響をもたらしたのか。何がダメだったのか)、この3点を具体的に伝えることで、初めて、相手はあなたの言いたいことを理解してくれます。[p.96-97]」「成績不振やミスなどの原因は、自分ではわからないものです。それを突き止める手助けをすることは、フィードバックをするときには必須といえます。[p.98]」「SBIを具体的に伝えるためには、常日頃から、部下の行動を観察し、SBI情報を収集することが必要です。その上で欠かせないのが『1on1』(ワン・オン・ワン)、すなわち一対一で行う『上司-部下』の面談です。[p.100]」
・①信頼感の確保:「フィードバック面談のオープニングでは、まず、部下の『心理的安全』や『信頼感』を確保することが求められます。[p.106]」「まずは相手の成長を願い、相手の意志をリスペクト(尊敬)する態度から始めましょう。どんなに厳しいことを言うにしても、そうしたものがベースにならなければ、人は行動を変えません。[p.107]」
・②事実通知:「大切なことは、このセッションの『目的』を最初にストレートに述べてしまうことと、『一緒に話し合っていこう』『一緒に改善策を考えよう』と述べることです。[p.108]」「次にいよいよ収集したSBI情報を提示していきます。ここで最も重要なのは、収集した相手の問題行動を、いわば『鏡』にように相手の目の前に映しだし、客観的かつ正確に事実を通知していくことです。[p.109]」「フィードバック研究の中には、・・・効果のあるフィードバックが『ポジかネガか』で研究者のあいだに論争があります。しかし、両者の決着はまったくついていません。[p.110]」「フィードバック後に、変に褒める人がいますが、これは逆効果であることの方が多いことが実践知としても知られています。[p.111]」
③問題行動の腹落とし:「こちらが思っていることを、額面通り、そのまま受け取る人はそういません。[p.113]」「上司と部下の考えていることや思っていることが違うということを『前提』として、相互の理解が一致する段階まで、時間をかけて『対話』を行うことが求められます。[p.114]」「重要なのは、今の現状が、めざすべき目標と相当かけ離れていることを、しっかり認識してもらうことです。[p.115]」
・④振り返り支援:「次のステップとして行われるのが、・・・未来の新たな行動計画や目標をつくりだしていくことです・・・こうした上司の行動のことを『振り返り支援』といいます。・・・ポイントは、部下が自らの姿を客観的に見られるように、部下自身に自分の過去・現在の状況を『言葉にさせること』です。[p.116]」「具体的には次の3つのポイントについて話してもらうように、導いていきます。それは『(1)What?(何が起こったのか?)』『(2)So what?(それは、なぜなのか?)』『(3)Now what?(これからどうするのか?)』の3つです。[p.118]」
・⑤期待通知:「第一のポイントは、上司がしっかりと期待を伝えることです。[p.121]」「上司の指導の局面では、『やればできる』という感覚(自己効力感)をいかに高めるかが最大のポイントになります。そして上司は『もしあなたが本当に立ち上がろうとする』ならば、最大限支援をすると約束することが重要になります。第二のポイントは『再発予防(Relapse prevention)』をすることです。・・・『問題が再発することを前提』にして、その『予防策』を事前にたてさせるということです。[p.122]」
・【事後】フォローアップ:「フィードバックは一度きりで終わることは希です。・・・人を変えるためには、このように『手間暇』をかけ、かつ、『あの手この手』を尽くさなければなりません。[p.124]」

第3章、フィードバックの技術 実践編
・5つのチェックポイント:「相手としっかり向き合っているか?」「ロジカルに事実を通知できているか?」「部下の反応を見ることができているか?」「部下の立て直しをサポートできているか?」「再発予防策を立てているか?」[p.131
・フィードバックのコツ:①「フィードバック前にはかならず『脳内予行演習』[p.142]」、②「フィードバックの内容も記録する[p.144]」、③「耳の痛いことを言った後で無駄に褒めない[p.145]」、④「フィードバックは『即時』と『移行期』にこそ行う[p.147]」(「仕事における役割が変わることを人材開発の用語で『トランジション(Transition:移行期)』といいます。このトランジションがあった直後というのは精神的に不安定になる一方、外からの声を受け入れて変わりやすいときでもあります。[p.148]」)、⑤「フィードバックで沈黙されたときには時空間を変える[p.149]」、⑥「フィードバックがもたらす強烈なストレスと向き合うには?[p.150]」(万全の体調で臨む、中堅の部下を活用して担当数を減らすなど)、⑦「『嫌われるのも仕方がない』という覚悟を持とう[p.152]」、⑧「どうしてもフィードバックが難しいときもある[p.155]」(「部下が自分を変えようとしないならば、いわば『外科的手術』しか方法はありません。・・・フィードバックは、配置転換、降格、退出などの血生臭い人事施策とセットで考えるのが『鉄則』です。[p.156-157]」、

第4章、タイプ&シチュエーション別フィードバックQ&A
・「すぐに激昂してしまう『逆ギレ』タイプこちらから具体的に改善策を聞く、何を言っても黙り込む『お地蔵さん』タイプこちらも負けじと黙り込む、上から目線で返される『逆フィードバック』タイプ『もし君が上司だったら~』と仮定法で意見を求める、言い訳ばかりしてくる『とは言いますけどね』タイプどんどんしゃべらせて、矛盾をあぶり出す、『根拠なきポジティブ』タイプ/すぐに『大丈夫です!』タイプなんとかなると思う理由を具体的に聞く、別の話題にすり替える『現実逃避』タイプ根気よく話を元にもどして、何度でも同じことを述べる、上司のおまえが間違っている!『思い込み』タイプ部下の日頃の行動を元に具体的に指摘する、なんでも他人のせいにする『傍観者タイプ』『傍観者に見えるよ』とそのまま指摘する、都合よく解釈する『まるっとまるめちゃう』タイプ『私の言いたいことはそうではない』とはっきり言う、お膳立てしても挑戦しない『ノーリスク』タイプ『挑戦しなくてもいいけど、現状維持はできないよ。このままだとこうなるよ』と伝える、昔取った杵柄を振りかざす『元○○の神様』タイプ『立場上、私はこう言わざるを得ないのですが』と前置きしてから、率直に述べる、前評判と働きが違う『他では優秀』タイプ『郷に入れば郷に従え』とはっきり伝える[p.209

第5章、マネジャー自身も成長する! 自己フィードバック・トレーニング
・フィードバック力を上げる方法:「『自分のフィードバックを観察する』ことと『自分自身もフィードバックされる機会を持つ』[p.213]」
・「フィードバックを受ける機会をつくることは、・・・自分を成長させ続ける上でも非常に重要なことです。・・・あなたが自ら成長を願う仕事人でありたいと思うならば、『フィードバックを他者から与えられる存在』ではなく、『自らフィードバックを求めにいく人材』になりたいものです。[p.226]」

おわりに
・「この世には、ごくごく自然にフィードバックがなされる組織と、そうでない組織がある・・・学術研究の知見によると、フィードバックをするためには、組織が受け入れなければいけない3つのコストがある・・・。一つは、『エフォートコスト(Effort cost)』・・・耳の痛いことでもしっかり言ってくれる・・・貴重な人材を組織の中に確保するために、組織は一定のコストを支払う必要があります。第二のコストとして『フェイスコスト(Face cost)』の問題もあります。・・・フィードバックは・・・それなりの時間をかけて話し合わなければなりません。・・・実際に他者と対面するコストを積極的に払ってくれるかどうか・・・。第三のコストは。『インフファランスコスト(inference cost)』・・・時間的・精神的余裕がなければ、フィードバックを正しく受け止め、実行するのは困難です。[p.242-243]」
・「たとえば、超官僚主義的で、超多忙で、かつ隣り合って仕事をしている人に1ミリも興味・関心のないような組織では、もともとフィードバックは得られません。得られたとしても、じっくり話せるような時間はとれないでしょうし、解釈する余裕を持つこともなかなか難しいでしょう。・・・経営者や人事責任者は、・・・自らの組織を『フィードバックに満ちあふれた組織』にする責務があります。[p.244]」
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冒頭にも述べたように、研究開発において、人材の育成は重要な課題だと思っています。であれば、ティーチング、コーチングとあわせてフィードバックもうまく活用していくことが求められるのは疑いのないところでしょう。ただ、研究開発の場合、フィードバックの基準となるべき目標自体が正しく妥当なものであるという保証がない場合がある点には注意が必要でしょう。組織の目標自体や上司の認識が間違っていることもありますし、頻繁に目標を変更しなければならない状況もあるでしょう。さらに、特定の方向に人材を育成していくという行為そのものが、個性を潰し、人材や考え方の多様性を失わせる方向に作用してしまうというリスクもあるかもしれません。

そうは言っても、うまく使えばフィードバックは人材育成の重要な手法であることは間違いのないところだと思います。さらに、フィードバックのための話し合いの場は、マネジャー自身や組織の方向性、人材育成の方向性に対するフィードバックの機会にもなりうる気がします。人材育成は人を変えていく行為だと考えられるでしょうが、これからの時代、人だけでなく、組織も変えていく必要があるかもしれません。また、変えていく方向自体、見直しが求められることもあると思います。そんなとき、フィードバックの基本である、情報通知と行動の立て直しという考え方は様々に応用が可能な手法、考え方になりうるのかもしれません。フィードバックという手法は、人間の理解の深まりに伴って発達してきたように思いますが、研究開発行為の理解の深まりに伴って、研究開発手法が試行の結果(情報通知)に基づいた戦略の修正、という方向に変わってきていることとの類似も感じます。人が関与する何かを変えるにはどうしたらよいか、ということにもつながる、広がりのある手法のようにも思いますがいかがでしょうか。


文献1:中原淳、「フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術」、PHP研究所、2017.