イノベーションをうまく進める方法を知るには、実際にイノベーションや新規事業の立ち上げ、研究開発をうまく進めている企業の方法に学ぶことは重要でしょう。もちろん、イノベーションには様々な側面があり困難も様々ですので、あるやり方がすべての場面で通用するということはないでしょう。しかし、ある状況で成功している企業のノウハウを分析し、そこから成功確率を上げる手法についての示唆を得る、ということは可能なのではないかと思っています。

今回ご紹介したいのは、杉田浩章著「リクルートすごい構“創”力 アイデアを事業に仕上げる9メソッド」[文献1]です。リクルートといえば、数多くの新規事業を世に出していることで名高い企業ですが、本書ではそのノウハウをボストンコンサルティンググループの杉田氏が分析してまとめ、そのノウハウが解説されています。リクルートが立ち上げる新規事業は主にサービス関連のビジネスモデルに属するものが多いと思いますので、いわゆる製品開発、モノづくり的開発とは異なる点はあるとは思います。しかし、新規事業の進め方、特にビジネスモデルをいかに立ち上げ、それを拡大していくかの方法論はすべての企業にとって役に立つのではないかと感じました。著者は次のように述べています。「リクルートが、多くの新規事業を世に出し、継続的に収益を上げ続けているのは、一握りの『天才』たちの力によるものでもなければ、偶然の産物でもない。できるだけたくさんの、新規事業の『種』を見出し、それを高速で磨き上げながら市場に出すための仕組みや、市場に出た後も事業の衰退を許さず、継続的に成長させていく手法を、しっかりと社内に根付かせ、愚直に、しつこく実行しているからだ。・・・本当のリクルートの強さの理由を解き明かすことは、多くの悩みを抱えるほかの企業にとっても、大きな学びになり、社会的な意義も深いはずだ。これが本書を執筆しようと考えるに至った理由である。天才たちのひらめきに頼るのではなく、仕組みフレームワーク=『構え』でアイデアを事業へと創り上げていく。こうした『構“創”力』について解説したのが本書である。[p.8-9]」以下、特に重要と感じた点を中心に本書の構成に沿ってまとめてみたいと思います。

序章、なぜ、あなたの会社の新規事業はうまくいかないのか
・「多くの『新規事業が生まれない』『うまくいかない』と嘆く企業には共通点がある。どれも、意思決定のやり方が間違っていることが大きな原因だが、それによって表面化する症状は複数あり、多くの企業ではこのうちのいくつか、またはすべてが見られる。代表的な症例を見てみよう。[p.25]」
【症状1】PDSサイクルの『P』に時間をかけすぎる
【症状2】計画が変えられない
【症状3】時間をかけて計画を立てる割に、ツメが甘い(次に進む決断がうまくできない)
【症状4】当事者も、経営陣も本気でない
【症状5】うまくいかなくなったとき、撤退の決断ができない
・「リクルートの新規事業開発には、こうした症状に陥らないような工夫が巧みに組み込まれている。後述するリボンモデルで業界構造全体を捉え、それを共通認識として社内での議論ができる。PDSの『P』の段階で、どう成功させるかではなく、何を検証するかに議論を集中させ、とりあえずテストマーケティングやスモールスタートの形で市場に出して、テストマーケティングを行う。・・・新規事業を開発する手法・メソッドが確立されている。事業を生み出す『01』だけではなく、事業をスケールアップする『110』の段階にも、きちんとしたノウハウがある。・・・たとえ既存領域を脅かすことになったとしても、ボトムアップによる新規事業開発をやるとトップマネジメントがコミットメントする。ある一定の段階まで来たら、予算組みと権限を新規事業開発のトップに渡す。うまくいかない事業は、ある段階で見切られ、すぱっと撤退する。・・・アイデアを出し、チャレンジすることが称賛される文化がある。たとえある事業で失敗したとしても、それが本人の致命的なマイナス評価にはならず、何度でもチャレンジが許される。[p.33-34]」
・「リクルートの最大の強みは、・・・『リボンモデル』にある。・・・リボンモデルは、蝶ネクタイのような形をしている。左側の三角が、個人や一般の消費者(カスタマー)、右側の三角が、企業や事業者(クライアント)で、両者をつなげる結び目がリクルートだ。左右両サイドの橋では、まず個人や企業を『集め』、何らかの働きかけをすることで両者の行動を変化させて『動かし』、中央のマッチングポイントで『結びつける』ことでリクルートが収益を上げる。この結び目が大きければ大きいほど、マッチングの総量は大きくなる。・・・結び目を最大化するためには、左右両端のリボンの幅を広げる(より多くの個人、より多くの企業を集める)ことに加え、マッチングのプロセスの途中で脱落する率を下げて、中央の結び目に至る際の減衰を押さえる(コンバージョン率を最大化する)ことが必要だ。・・・リクルートの役割は、左側の個人と、右側の企業を、両端でより多く集め、より確実に動かしてたくさん結びつける『ベストマッチング』の仕組みを提供することだと定義される。[p.35-38]」
・「リクルートのビジネスは、リボンモデルの構築に沿った3つのステージで表すことができる。まず、ゼロから1を生み出す新規事業の創出である『01』。ビジネスの種の発見と言い換えることもできる。[p.41]」「次にビジネスの種を、単なるアイデアから『事業』に成長させるのが、次の『110』のステップだ。・・・この『110』の前半に当たるのが、事業の『価値』を定義し、『勝ち筋』を見つけるステージ2だ。・・・ステージ2で発見した勝ち筋やKPIを実行し、爆発的な拡大再生産につなげるのが『110』の後半に当たるステージ3だ。[p.42]」「『10』になっても、リクルートは磨き込みをやめない『しつこさ』を持っている。・・・この『10Next』のステップでは、・・・事業領域を拡大するなどして、さらなる成長を図る。[p.44]」

第1章、ステージ「01」 「不」を発見し、事業性を見極める
・「何もないところから新しいものを生み出す、『01』のステージについて解説する。・・・メソッドは、新規事業開発の起点となる『不の発見』である。・・・メソッド②は『テストマーケティング』。・・・メソッド③は、『New RING』という、アイデアを事業に育てる仕組みだ。[p.50]」
・「リボンモデルを描く第一歩となるのが、メソッド1にあたる『不の発見』だ。リクルートにおける『不』とは、『不便』『不満』『不安』など、あらゆるネガティブな概念の象徴。[p.53]」「筆者の分析によるとリクルートでは、3つの条件で『不』をふるいにかけ、ブラッシュアップしているように見える。[p.60]」「1つ目が、見過ごしがちだが誰も目をつけていなかった『不』かどうか。・・・2つ目は、その『不』は、本当に世の中が解決を求めているものなのか。既存の産業構造を変えるほどの、大きな可能性を秘めているのか。・・・3つ目が、その『不』を解消することが、収益につながるかどうか。[p.61]」
・「メソッド①で発見した『不』や、それを解消するためのアイデアが、本当に人の心を動かすものなのか。また、・・・ビジネスとしての市場性が存在するのかどうか、収益を生み出す事業性があるのかどうか・・・これらを見極めるため、限定的な規模でテストマーケティングを設計する。[p.64]」「例えば、RECRUIT VENTURESでは、2014年より、『ステージゲート方式』が取られている。『この時期までにこういう状態にならないと撤退』というゲート(関所)が段階的に設けられているのだ。ゲートを越えて次のステージ(段階)に上がると、徐々に投下される資金や人材などのリソースが増える仕組みだ。[p.67]」
・「リクルートは、アイデアをどう集めるか、集まったアイデアをどう磨き、育てるかを仕組み化し、たくさんの新規事業を世に出してきた。・・・イノベーションの仕組み作りにエネルギーを注ぎ、時代の変化に合わせて進化させてきたのだ。その代表的なものが、新規事業提案制度『New RING』だ。[p.71]」「事業会社ごとのNew RINGでは、それぞれの事業ドメインに応じた新規事業を年1回審査する。[p.72]」「新規事業を集めてブラッシュアップし、事業にまで育て上げる仕組みが、New RINGなどの形で完備されている。それがメソッド③だ。一般的に新規事業立ち上げの支援や起業支援を『インキュベーション』と呼ぶが、・・・新規事業のアイデアを卵だとすると、New RINGは孵化より前の、アイデアを集めて選別し、ブラッシュアップする段階もサポートするし、孵化した後、ひなを育てて事業を軌道に乗せるところまでも含む。[p.73]」「New RINGの最初の審査で問われるのは、おおまかに『市場規模』『ユニークかどうか』『志』の3点だ。・・・リクルートでは、数億~数十億規模では、『小さすぎる』と判断されてしまうことが多い。『ユニークかどうか』の問い方も・・・『国内で初』『世界で初』レベルを求める。さらに特徴的なのが『志』だ。・・・あるべき社会の姿に照らし合わせて、真に解決すべき『不』が存在しているのだということを、説得力を持って伝えられるか。そして、自分自身がその解消に向けて、粘り強く取り組む覚悟を持っているかが問われる。[p.75-76]」「『志』は、本人の心の中からしか生まれない。トップダウンの新規事業は、それを遂行する社員の中に志が生まれにくく、『やらされ仕事』になる。リクルートでも、成功し、成長した新規事業のほとんどは、社員から生まれたボトムアップのものばかりだ。[p.79-80]」
・「リクルートは、会社として『必ずアイデアを出せ』と強制することはないが、『新規事業のアイデアを出す人はカッコいい』という機運を盛り上げていることも大きい。[p.81]」

第2章、ステージ2「110」その1 勝ち筋を見つける
・「リクルートの新規事業開発の圧倒的な強さは、『110』の段階の前半であるステージ2で、『勝ち筋』を見つけるところにある。・・・ステージ2は、『フィジビリ』を行うことによって、事業を一気に拡大するための仕組作りを行う段階だ。ここでポイントとなるのは、3つのメソッドだ。メソッド④は、継続的に収益を上げる仕組を作る『マネタイズ設計』。・・・事業として市場で圧倒的なシェアを獲得し続けるような大きな収益を生み出すためのモデルの設計を行う。メソッド⑤は、次のステージ3で、爆発的な拡大再生産を実現するために必要な、『価値KPI』を探し出す。どの指標を上げれば事業価値を上げることにつながるのか、カギとなる行動や指標を発見するものだ。メソッド⑥の『ぐるぐる図』は、フィジビリを通して、現場で感知したさまざまな情報を素早く共有し、PDSを高速に回す手法を指す。[p.88]」
・「リクルートでは・・・成功の可能性が高い仮説のことを『勝ち筋』と呼んでいる。・・・リクルートにおける『勝ち筋』の定義は、大きく3つあり、・・・1つ目は、『そのサービスに対して誰がお金を払ってくれるのかが、明確であること』だ。[p.99-100]」「2つ目は、・・・『誰がお金を出すか』だけでなく、『誰が、どのお財布からお金を出すか』までを突き詰める。[p.101]」「不満を解消することで、どの予算をどれくらい削減でき、削減分のどれくらいをリクルートの新規サービスに振り向けようという気持ちがあるかを突き詰めるのだ。[p.102]」「3点目は、コスト優位性のあるオペレーションを継続的に行える仕組ができることだ。[p.103]」
・「マネタイズできるかどうかを検証し、見極め、勝ち筋を見つけるために行うのが『フィジビリ』だ。[p.105]」「一般的な起業で行われているフィジビリと、リクルートのフィジビリの決定的な違いは、KPIにある。[p.106]」「KPIとは重要業績評価指標と訳され、一般的には事業の進捗や効果を図るうえでカギとなる指標を指す。・・・中でも、フィジビリの最重要の目的とされるのが、KPIの中で最も事業価値に直結する(つまり、勝ち筋に直結する)『価値KPI』だ。これは勝ち筋の成否を図るための指標であり、事業の価値に直結する指標でもある。・・・価値KPIがわかれば、リボンモデルで、個人や企業・事業者を『集め』『動かし』『結ぶ』ために、リクルートのそれぞれの担当者がどんなプロセスで、どんな行動をすればよいのかがわかるのだ。[p.108]」「勝ち筋とはつまり、事業化して本格展開するための構造作りだ。[p.117]」
・「PDSを高速に回し、新規事業開発の成功確率を上げるためのフィジビリをスピーディーに実行できるのは、現場の有用な情報の収集や仮説の検証、判断などの一連のプロセスが、スムーズに行われているからにほかならない。これがスピード感を持って実行できるのは、リクルート社内で『ぐるぐる図を回す』という行動習慣が根付いているからだ。実際に『ぐるぐる図』という図が存在するわけではない。『ぐるぐる図を回す』とは、次のような行動パターンだ。ひたすら顧客の現場を観察し、ヒアリングすることで得た気づきやヒントを、上司や経営層に上げていく。そうして最前線の現場でつかんだ市場の変化の兆しを、経営者と現場が一緒になって考え、仮説を進化させる。そしてその進化させた仮説を、現場の最前線で実行し、もう一段深く見つめて結果をまとフィードバックしてさらに仮説を磨き込む。こうした、現場と経営層をつなぐ、縦の情報の行き来を、『縦ぐるぐる図を回す』と読んでいる。[p.118-119]」「ぐるぐる図は縦方向だけではなく、『横ぐるぐる』も存在する。特に新規事業の立ち上げ時期においては、異なる役割の社員が一丸となって横方向にも情報をやりとりし、洞察を重ねていく。[p.121]」
・「リクルートでは基本的に、自社で開発して大きく育てることを前提にしており、・・・0から1になったところで売却するという選択はない。[p.124]」「だからこそ、『勝ち筋』が見つかるまで、しつこくフィジビリを行うし、勝ち筋が見つかりそうな兆しがなければ、遠慮なく見切る。[p.125]」
・「KPIに必要な条件は次の3つ・・・①整合性・・・最終的な目標に向かって、きちんとロジックが通っていること。・・・安定性・・・指標が、安定的・継続的にとれること。検証しづらいものをKPIにしてはいけない・・・③単純性・・・指標が少なく(できれば1つ)、覚えやすいかどうか[p.133]」

第2章、ステージ3「110」その2 爆発的な拡大再生産
・「ステージ2で、勝ち筋やKPIが発見できれば、あとは粘り強く実行するだけだ。しかし、しつこく、ブレずに実行するのは、そう簡単なことではない。リクルートではそのための仕組みがある。・・・まずはメソッド⑦の『価値マネ』。・・・『価値KPI』を使ってPDSサイクルを回してマネジメントする手法だ。そして、価値マネを社員全員が高い精度で実践するためにあるのが、メソッド⑧の『型化とナレッジ共有』だ。・・・基本的な行動を、『型』に落とし込んで『型化』して広めたり、個人個人が持つ成功体験やノウハウなどを共有するさまざまな仕組みを持っている。メソッド⑨の『小さなS字を積み重ねる』は、いったん成長軌道に乗った事業が持続的に成長し続けられるよう、現場でつかんだ“兆し”を吸い上げる行動パターンを指す。これがあるからこそ、絶えず小さな革新を積み重ね、新たに参入してくる競合に対する競争優位性を保つことができるのだ。[p.136]」
・「リクルートが提供する価値は何かを見極め、その価値を高めるためにすべきことについて、進捗を数値の指標で表す『価値KPI』を設定し、実行する。・・・これをわざわざ、『価値マネジメント』と呼ぶところに、リクルートならではのこだわりが見受けられる。[p.146]」「多くの起業では、『この事業の何が本質的な顧客への提供価値なのか』ですら、意識合わせができていない。[p.146]」「ここがズレたままでは、事業の価値を表すKPIを定めたところで、社員に迷いが生じるので、KPIを上げるための行動を集中してやりきることはできないだろう。[p.147]」「『価値KPI』をモニタリングし、『ぐるぐる図』を回して現場の兆しを吸い上げるための、一つのツールとなっているのが『ヨミ会』だ。[p.148]」「ヨミ会は、『今週の売り上げはどうだった?』ではなく、『今週なぜ売れたのか?』『なぜ売れなかったのか?』が問われる。『なぜ』を解き明かすための会議だ。[p.150]」
・「一気にアクセルを踏むためにリクルートが行うのが、『型化』だ。KPIを上げるために効果があった個人の『ふるまい』を、成功事例を分析することで見つけ出し、誰もが真似できる『型』に落とし込んで横展開するのだ。これは勝ち筋に沿った行動とはどういうものかを、それぞれの役割にあった形でわかりやすく標準化したものと言い換えてもいい。[p.152]」「リクルートは・・・個々の成功事例を吸い上げて横展開し、組織全体の力に変えることに長けている。[p.153]」「全員が『型』を身につけたうえで、個々が自由な工夫を行うことによって、さらにパフォーマンスを上げることが狙いだ。[p.157]」
・「ビジネスの成長は、まっすぐな線を描いて伸びていくわけではない。アルファベットの『S』を斜めに倒したような『S字カーブ』を複数重ねないと、成長は続かない。[p.160]」「アクセルを踏み込んでいるのに成長スピードが上がらない、その兆しをつかむうえでも、縦ぐるぐると横ぐるぐるが威力を発揮する。現場とマネジャーや経営層、営業部門や制作、エンジニア部門などの間でぐるぐる行ったり来たりしながら情報が行き交う中で、不の予兆をいち早くつかむことができる。・・・単に集客数を増やしたり、売り上げを上げるという成果だけを追い求めていては、・・・成長減衰の予兆をつかんだりすることはできない。[p.162]」
・「現場の能力を最大限に伸ばすために何をすべきかを考え、必要なリソースを投入することが、リクルートの経営層の一番のミッションなのだ。[p.170]」

第4章、10を超えて、さらに飛躍するために
・「どれだけ成功した企業・事業にも、衰退の波はやってくる。その兆候をいち早く察知し、余裕があるうちに次のビジネスモデルを進化させられるかどうかが生き残りのカギとなる・・・市場の不をもう一度見つめ直し、自らの提供価値を再定義し、『スピードで圧倒する』『マネタイズポイントを変える』『周辺領域に拡大する』『他社のビジネスプロセスに入り込む』などの形で進化させることで、新たな成長を生み出すことができる[p.206]」

第5章、経営陣の役割 「リクルートモデル」を活かすために
・「新規事業創造はトップダウンではうまくいかない。・・・では、経営陣は何をすればいいのだろうか。ただ自由にやらせればいいというものではない、というのはご理解いただけただろう。・・・著者は、リクルートの経営陣が行っているのは『人を活かす』『若さを保つ』『器をそろえる』という3つに集約できると考えている。[p.218]」
・人を活かす:「共通の理念を徹底的にすり込み、個人を追い込むことでその潜在力を引き出さなければならない[p.238]」
・「『若さを保つ』ためには、常に内部での競争を奨励し、成功者を称え、全員がそこから学べる仕組みを埋め込んでおくことが有効[p.238]」
・「『器をそろえる』こと・・・は、事業環境を詳細に分析し、将来必要になると予想される組織的ケイパビリティをブラッシュアップし、組織的な器をそろえるということ[p.230]」
・「さらなる飛躍をするには、自らをディスラプトし、産業構造を変えることへのチャレンジに向かうことは避けられない。リクルートは、過去にもこうしたディスラプトを繰り返しながら成長してきたからこそ、これが実体験として社内に根付いている。新規事業の立ち上げでも、国内外の成長企業の買収でも、自社の既存事業との競合やカニバリ(競合、食い合い)はまったく恐れない。[p.239]」「自らで、自らのディスラプターとなり得る死神集団を生み、育てることで、成長し続けているのだ。[p.243]」

終章、新規事業を育てる企業風土
・「『リクルートはコミュニケーションに膨大なコストをかける会社です』と、リクルートホールディングス峰岸真澄社長は語っている・・・。[p.246]」「『何が自分たちの強みであり、目指すものなのか』を、手間を惜しまず常に共有しておくことが、変化の時代に迷わないための道しるべになってくれるのだ。あなたの組織は、会社は、皆が自らの意思で同じ方向を向いているだろうか。そして、そこに向かって失敗を恐れずに試行錯誤を繰り返しているだろうか。[p.247]」
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著者の分析によるリクルートの手法で私が最も興味深く感じた点は、考え方が仕組みや「型化」されて、全社に浸透しているという点です。イノベーションの手法についての論考では、既存事業との協力や共存、あるいは社内政治の重要性がしばしば課題として取り上げられますし、実際に既存事業を効率的に進めるための考え方によって、イノベーションにうまく対応できない事例も指摘されています。では、既存事業の何が問題なのでしょうか。本書の指摘を参考にすると、既存企業と新規事業の効果的な進め方には本来的に異なる部分があり、そうした異なる部分の扱いについて、組織内の考え方が統一されていないことが、問題の本質なのではないか、という気がしてきます。

リクルートの手法についての個別の指摘は、リーン・スタートアップなど、最近指摘されている考え方にも近い部分があると思いますし、状況や業態の異なる企業では、そのまま使えるとは限らないところもあると思います。しかし、新規事業の扱い方についての考え方を組織内で統一することはどのような企業においても重要なのではないでしょうか。そうした統一を実現するのはトップマネジメントの仕事だとしても、それを支える仕組みとして考え方を整理し、「型化」して組織に埋め込んでしまう、というやり方も有効なのかもしれません。それこそがイノベーティブな文化の根本を支えてくれるものなのかもしれないと思います。

文献1:杉田浩章、「リクルートすごい構“創”力 アイデアを事業に仕上げる9メソッド」、日本経済新聞出版社、2017.