ビッグデータやAIの活用が、人々の活動に大きな影響を与えつつあることは最早間違いのないことのように思います。未知のことに挑戦し、将来をよりよくしていくことが研究者の責務の一つであるとすれば、こうした技術の流れを無視することはできないでしょう。しかし、AIの活用にはどんな課題があり、どのように使いこなしていくべきかという問題についてはまだ手探りのところも多いような気がします。

今回は、サリヴァン、ズタヴァーン著「人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う! リーダーの発想と情熱がデータをチャンスに変える」[文献1]から、AI活用の問題を考える上で参考になりそうな内容のポイントをまとめてみたいと思います。著者は、アメリカのコンサルティング会社、ブーズ・アレン・ハミルトンでデータサイエンス関連の業務に携わっている方で、単なるAIへの期待ではなく、機械と人間がどう協力していくべきかという視点も含めて議論がなされており、安直な未来予測とは異なり企業の実務家にも役立つ指摘がなされていると感じました。以下、興味深い点をまとめたいと思います。

はじめに:マセマティカル・コーポレーションの巨大なる知性(ビッグマインド)
・「マシンインテリジェンス(機械知能。MI)を利用すれば、これまで覆い隠されていて不明瞭だったいくつもの規則性、変則性、あるいは関連性が見えてくる。だが、この能力は技術だけに由来するものではない。それは新たなかたちのリーダーシップの結果でもある。こういうリーダーシップこそが、我々が長いあいだとらわれてきた考え、とりわけ、『最善の決断は常に直感と経験に基づいている』という頑なな信念による制約を打ち破り、暗闇を照らす。・・・数百もの組織を調べた結果、未来で成功する組織モデルの構築に必要な要素を抽出することができた。私たちはそうした新たな組織を『マセマティカル・コーポレーション(MI活用組織)』と名付けた。[p.9]」
・「決して、人間がリーダーシップの役割をいずれマシンに明け渡すという意味ではない。むしろ、その逆である。マシンがそのレベルに到達するまでの道のりは、まだまだ遠い。マセマティカル・コーポレーションは、人間だけが持つ資質をより高いレベルで活用するために、新しく刺激的な方法を提供する組織だ。つまり、デジタル世界のマシンによる人間の思考とよく似た作業によって、我々が実世界で役立てたい高度な人間の創意工夫を生み出すということである。とはいえ、この絶妙な組み合わせによる便益を実現できるのは、各マシンの作業結果を組み合わせて、可能性を引き出す方法を身につけたリーダーだけだ。そのために必要なのは、自身の成長と組織の改革である。両者なしには、マセマティカル・コーポレーションを成功させることはできない。[p.19]」

第1章:秘められた世界-埋もれている細かさを攻略する
・「マシンインテリジェンスという新たな時代で利益を生むために必要なものは何だろうか?・・・従来、人間の思考は、理解を助ける道具として手に入る技術の水準に縛られてきた。・・・データサイエンスというツールに人間の見識、創造性、革新的な思考を組み合わせれば、我々は現実を深く細かく具現化してまったく別の視点を手に入れ、新たな問いを立てることができる。[p.38]」
・「これからのコンピュータは協力し合う仲間として、我々が働いて暮らしている複雑なシステムの新事実を発見するための道筋を示してくれるだろう。[p.54]」「世界が変化してデジタルデータエコシステム(デジタルデータを共有しながら発展する社会)が生まれているなか、我々には複雑さを活用して人間の能力の新段階を目指すという選択肢が与えられるだろう。だが、それはあくまでマシンと連携した場合のみだ。[p.69]」

第2章:類いまれな連携-マシンと人の知性を融合させる
・「人間の認知能力」として「心理学者エドウィン・フライシュマンが挙げた21の能力を本書の目的に沿って再編し、それぞれが5つの項目からなる2つのグループに分けた。[p.78]」マシンが得意とする能力は、「言語の理解と言語による表現」「詳細や規則性の把握」「数値演算処理」「記憶」「情報の記録と整理」。人間の頭脳が勝っている能力は、「想像」「創造」「演繹的推論」「帰納的推論」「問題解決手法の構築」[p.79]」
・「技術者たちは人間のように考えて行動するマシンの開発に力を注いでいるが、マシンが本物の人間を模倣できるようになるのは、はるか先のことだ。とりわけ、我々の日々の原動力となる熱い思いは、とうてい真似できない。[p.115]」「高い理想をかなえようと必死で努力する。負けつづけても根性で困難を跳ね返す。実現不可能に思える発想を信じる。マシンはそんな数字では表せない衝動や憧れの気持ちを、人間から奪い取ることはできない。・・・熱い思いは世界をよりよい方向へ一変させる。我々はこの思いによって、貴重な何かを達成できるのだ。[p.116]」

第3章:不可能を可能にする問いかけ-制約があるという思い込み
・「本章では、もはや意味のない6つの制約を、我々が自身に課していることを示していく。・・・マセマティカル・コーポレーションの時代には、人は6つのガラスの箱を叩き割って飛び出し、自由の身になることによって、答えを出すのは不可能と思われていた問いを新たなかたちで立て直して、答えを見つけられる。[p.121]」
・「我々が自分の目の前につくる第一の壁は、世の中を枠にはめてしまうことだ。[p.121]」「第二の壁は、発見への取り組み方である。我々はおおむね、演繹的推論を使おうとする。つまり、真実を基に仮説を立て、それが正しいかどうかデータを検証して確認する。・・・一方、仕事の現場で帰納的推論を使うことはあまりない。・・・だが、マシンインテリジェンスを活用すれば帰納的推論を使う機会が増え、人間の知からだけでは見つけられなかった見識を手に入れられるだろう。[p.128]」「手持ちのデータを利用するのが最も有利だと思い込むという第三の制約を打ち破れば、何かを発見しようとする作業の重要性は、急速に上昇する。[p.133]」「限られた視野しか持たない人間に委ねてしまう[p.139]」「根拠よりも直感を優先させることは、リーダーがマシンインテリジェンスから最大の恩恵を受けることに対する、もうひとつの制約となっている。[p.144]」「多くのリーダーにとっての最大の心理的制約は、ひとつの問題解決法に固執してしまうことかもしれない。・・・一度で答えを出そうとするやり方はたいてい、あまりに狭量で近視眼的だ。[p.151-152]」

第4章、不可能を可能にする技術-最新の技術を使いこなす
・「問題は、組織は複雑なシステムに関する重要なデータを入手するために何ができるか、いや、何をやらなければならないかということだ。[p.164]」「現代の社会は・・・ありとあらゆる種類のデータを収集するデジタル機器が急増している。・・・多くのリアルタイムシステムから、新しい種類のデータが登場している。爆発的に増えるデータ量と、組織の垣根を越えて外部のデータがかつてないほど手に入りやすくなったことを組み合わせれば、発見、予測、最適化のとうてい放っておけないチャンスをつかめるだろう。[p.168]」「データレイクでは・・・データを説明する『メタタグ』というラベルがつけられている。・・・データレイクの第一の大きな利点は、検索や分析に役立つラベルであるメタタグを、各要素にいくつでもつけられるということだ。[p.170]」「一般的には、あらゆるデータを保存しておくためには、保管料が余計にかかってしまう。だが、この形式を利用すれば、思いがけない見識を手に入れる可能性を残しておける。[p.172]」「次は分析に向けたデータの準備だ。・・・各種のアルゴリズムを用いて、データの整理や訂正をする(データクリーニング)作業である。・・・データクリーニングにおけるさらなる注意点は、データの信頼性だ。・・・データを扱うときの基準となる『ごみを入れれば、ごみしか出てこない』の原則は、依然として的を射ている。[p.173]」「関係性を見つけるためのアルゴリズムの種類は、多岐にわたっている。最も簡単な例を次に紹介する。クラスタリング・・・回帰・・・分類・・・配列[p.179-180]」「事例によっては、マシンは人間にブラックボックス化された論理、つまり経緯の説明なしに結果だけを受け入れるよう迫ってくる。しかし、人間の思考回路は、結論に到達するために使われた論理を理解せずに、結果を受け入れるようにはできていない。[p.183]」「機械学習は、人間にとって従来の筋道をたどることができない例である。[p.184]」「通常データ準備と分析ツールの威力は、可視化というもうひとつのソフトウェア要素と組み合わせて初めて明らかになる。[p.192]」「最も気をつけなければならない落とし穴は、技術を先に導入してしまうことだ。組織は使い道を検討する以前に、データ準備、管理、分析、可視化用のツールに魅了されてしまうことがある。ツールを購入しさえすれば、宝を掘り当てられるだろうと思い込んでしまうのだ。だが実際には、探索を先導するうえで今なお欠かせないのは、リーダーの人間としての能力と理解力だ。手に入る技術の種類は増えたが、技術の特化も進んでいる。技術の導入でお粗末な選択をすれば、将来の組織に何の価値もないインフラがいとも簡単につくり出されてしまうことになる。[p.198]」

第5章:不可能を可能にする戦略-新たな「大きなもの」を生み出す
・「不可能を可能にする戦略を考えるにあたり、次の4つの問いかけを行ってみてほしい。(1)自身のマセマティカル・コーポレーションを、どんなエコシステムのなかで運営するのか?(2)解決不可能とされているどの問題を解決できれば、あらゆるものを一変させられるだろうか?(3)どういった『不可能を可能にする』解決策が考えられるか?(4)解決策を検証して、失敗から学ぶための最も優れた方法は何だろうか?実際の取り組みは、一直線に進むわけではない。4つのステップを経て、その後試作(プロトタイプ)と検証をひと通り行ったら、再び検証実験を繰り返すことになる。[p.206-207]」「多くの問いを立てるためのエネルギーや意欲はどこから湧いてくるのだろうか?・・・好奇心。それが鍵となる要因Xの答えだ。・・・好奇心を人間の創意工夫、マシンの学習、推測、検証を行う能力と組み合わせれば、誰もが賛同する、不可能を可能にする戦略を見つけて実行する力を身につけることができる。[p.236]」

第6章:力を広める-実現のとき
・「リーダーがマセマティカル・コーポレーションの構想を実現するための有効な手立てをいくつか紹介しよう。・・・『構想を広める』『組織文化の改革を引き起こす』『才能を開発する』の三つは、他のどんな手立てよりも効果が高いことがわかっている。[p.244]」「マセマティカル・コーポレーションが成功するためには、リーダーは組織のどの階級においても、次の3つの目標を達成しなければならない。第一の目標は、『間違う権利』を守るという意識を浸透させること。第二の目標は、・・・多種多様なチームを組んで仕事を進めること。三つめは、成功例を語って、マシンインテリジェンスの影響力を広めることである。[p.251]」「不可能を可能にする戦略の遂行における第三の大きな課題は、優秀な人材を発掘することだ。[p.268]」「最も重要な特徴は・・・失敗を乗り越えられる柔軟性と、古いアイデアを捨てて新しい手法を試そうとする意欲だ。[p.270]」

第7章:善か悪か。議論は突然涌き起こる-不可能を可能にする戦略と倫理
・「倫理的な意思決定の試金石として利用できる、二つの主要な学派の倫理的推論がある。すなわち、行動に基づく推論では、行動が正しいか間違っているかの判断の基準は行動自体にあり、他の要因とは切り離して考える・・・。帰結に基づいた推論では、行動が間違っているかどうかは将来の結果にかかっている。功利主義と呼ばれる、最大多数の最大幸福をもたらす判断は倫理的と考えられている。[p.290]」
・「倫理的な問題の対処にどの倫理的推論を使うかを事前に決めておくために、次の4つについて考えることを強く勧める。データの取り扱いにおける透明性、プライバシーの保護、データの所有権、データの機密保護[p.291-292]」

第8章:不可能を可能にする解決策-社会の最大の問いに答える
・「伝統を打ち破る変化を起こすためには、次の4つの点で変わらなければならない。世界規模の問題を、自分のものとして捉える。保有している大量のデータの価値をより多くの精鋭に見つけてもらうため、データを公開する。組織の使命が世界規模の使命にどう関わっているかを理解する。企業の価値観や目的と方向性が一致する、優先度の高い慈善目的を追求する方法を考える。[p.330-331]」
・「マシンインテリジェンスの未来力を手に入れるために必要な基本的な変化は、過去のリーダーのやり方を前に進めても起こらない。新しく生まれたマセマティカル・コーポレーションのリーダーとしての手法を身につけ、使いこなすことで変化が訪れるのだ。これが、あと何年かのちに、不可能を可能にする方法である。[p.361]」

おわりに:-直感に逆らう
・「本書によって、マセマティカル・コーポレーションを率いるためのリーダーの能力を、より迅速に身につけてもらえたら幸いだ。・・・新しい原則のなかでも、私たちがとくに気に入っている、絶対に忘れてはならないポイントがいくつかある。・・・ここで改めていくつか紹介しよう。複雑さは重荷ではなく恩恵である・・・マシンは直感より信頼できる・・・マシンモデルはメンタルモデルより優れている・・・解決策に理屈はいらない・・・与えることで価値を創造する・・・経験なしで飛躍する・・・完璧なスタートはそうでないものに勝てない[p.365-368]」
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AI
やデータサイエンスの効能が喧伝されるとともに、それですべての問題が解決できるかのような錯覚にとらわれてしまう場合もあるように思います。しかし、実際は、著者が指摘しているように、機械と人間が互いの能力のよいところを組み合わせてデータを使うようにしない限り、大きな成果は得られないのではないでしょうか。それには当然、マネジメント上の困難もあるはずです。データサイエンスは現在も発展途中の技術だと思いますので、これからも姿を変え、著者の指摘の妥当性も変わっていくかもしれませんが、著者の考え方は実務家にとっても示唆に富んだもののように思いますがいかがでしょうか。


文献1:Josh Sullivan, Angela Zutavern, 2017、ジョシュ・サリヴァン、アンジェラ・ズタヴァーン著、尼丁智津子訳、「人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う! リーダーの発想と情熱がデータをチャンスに変える」、集英社、2018.
原著表題:The Mathematical Corporation: Where Machine Intelligence [+] Human Ingenuity Achieve the Impossible