本ブログでは、研究マネジメントに関する基礎的な知識をまとめ、よりよい研究開発の進め方、マネジメント方法について考えることを目的に「ノート」と題した一連のシリーズ記事をおよそ月1回のペースで書かせていただいています。

今までのシリーズはおよそ以下のような感じでまとめました。
シリーズ1:2010年~、「ノート(研究マネジャー基礎知識)」と題して、一般的な知識の整理を試みました。(全14回)
シリーズ2:2013年~、「ノート改訂版」として、シリーズ1の補充改定に加え、私のコメントも入れた形でシリーズ1の各記事を改訂しました。(全14回+補遺3回)

シリーズ3:2016年~、題名を「ノート全面改訂『研究開発マネジメントの実践と基礎知識』」と変更し、全体の構成はシリーズ1,2と同じとして、研究開発マネジメントをうまく行う方法についての私の考え方も入れ、内容も増やしました(全41回)。

シリーズ3が約3年に及んでしまったこともあり、書いている最中から過去の記事の改訂の必要性を感じていましたし、シリーズ1~3で構成を変えなかったことも見直しの必要があるのではないか、とも思っていました。そこで、今回のシリーズ4では内容のアップデート、見直しに加え、全体構成の見直しも行いたいと思います。

具体的には以下のように見直すことを考えています。
内容の整理:シリーズ3をまとめてみて、私が考える研究マネジメントの根本は、研究に伴う「不確実性」を重視することにある、と思えてきました。そこで、今回は「不確実性」の視点をより強調して、その視点からマネジメント手法をまとめられるかを試みてみようと思います。ということで、今回のシリーズ4の副題は「研究開発マネジメントの知識と不確実性に基づく研究マネジメント」とさせていただくことにしました。ただ、この副題は長いので、通称は単に「研究開発マネジメントノートIV」で進めたいと思います。
構成の見直し:前3シリーズでは、研究開発とはどのようなものかについての議論をまず行い、実践のマネジメントについては、「テーマ選定」について考えた後、「組織と人のマネジメント」について考察し、その後に「研究プロジェクト運営」の議論をしていました。実践において重視すべき順番はこの順でよいと思うのですが、実務的観点からは、テーマを決めた後すぐプロジェクト運営の説明があったほうが役立てやすいのではないか、とも思います。

というわけで、以下のような構成としたいと思います。なお、各トピックスが、シリーズ3のどの回に対応するかもリンクとして加えてみました。シリーズ4において未改訂のトピックスは、シリーズ3の対応記事を見ていただければ(ちょっと古いですが)大体のことはわかる、というように改訂を進めていきたいと思います。

シリーズ4の構成(予定)と対応するシリーズ3の記事リンク
はじめに→第1回
1、研究開発とはどのようなものか:研究開発マネジメント実践の観点から認識しておくべきこと
1.1
、研究開発とは? →第2回第3回
1.2
、研究開発活動が本来(内生的に)持つ不確実性→第4回第5回
1.3
、研究開発活動に影響する外生的不確実性(環境要因)→第6回第7回
2、研究開発プロジェクトのマネジメント
2.1
、取り組む課題を決める(研究テーマの設定)
・課題実現の不確実性(技術)に関わる研究テーマの設定→第10回第11回
・ニーズの不確実性に関わるテーマの設定→第12回第13回
・市場で収益をあげる方法(ビジネスモデル)の不確実性に関わるテーマの設定→第14回第15回
・やりたいことに基づくテーマ設定→第16回
・テーマを選ぶ→第17回
2.2
、研究プロジェクトの運営
・研究プロジェクトの進め方→第30回第31回
・研究プロジェクトの方向転換と中止→第33
・可視化による運営のマネジメント→第34回第41回
・失敗を避ける→第35回第36回
・コラボレーションのマネジメント→第32回
2.3
、研究成果を次の段階に生かす
・研究成果を使ってもらう(普及させる)には→第37回第38回
・得られた知的資産の活用→第39回
3、研究開発を行う人と組織のマネジメント
3.1
、研究開発を行う人のマネジメント
・研究者の活性化→第18回第19回
・研究者の適性と最適配置→第20回第21回
・研究リーダー、マネジャーの役割→第22回第23回
・研究者の育成→第24回
3.2
、研究組織とそのマネジメント
・研究組織の構造が研究に及ぼす影響→第25回
・研究組織の仕組みや制度が研究に及ぼす影響→第26回
・研究組織の望ましい特性→第27回第28回
・研究組織の運営手法→第29回
4、まとめ→40回

各回の内容については、シリーズ3と同様、単なる知識の寄せ集めではなく、実際に第一線で研究を実践していた者としての私の観点を入れたものにしたいと思います。それが有益なものになるかどうかは、読者諸氏のご判断に委ねるしかありませんが、「実践」的立場から第一線の研究マネジャーにとって役に立つような知識の整理にしたいと思います。

まとめ方もシリーズ3と同様、多少正確さを犠牲にしたとしても、シンプルで使いやすいことを重視したいと思います。具体的には、以下のような構成でまとめたいと思います。

1)実践家にとって最も重要と思われる最低限のポイントをまず挙げます。
2)次いで、なぜそのポイントが重要だと考えるか、どこが活用のポイントなのか、およびその根拠(引用できる重要な理論や考え方)について述べます。
3)その上で、まとめに採用しなかったものも含めて様々な考え方を紹介したいと思います。シンプルな少数の原則にまとめることは、使いやすい反面、狭い考え方に囚われたり他の重要なポイントを見逃すことにもつながる可能性があります。今は重要でないと思う考え方でも、その考え方を無視してしまうことにはリスクがあるでしょう。異なる視点が重要になる場合もあるかもしれません。そこで、この段階では多少幅広く様々な考え方を集めるべきだと思います。加えて、その際に考え方の時代的変遷が感じられるような場合や、将来を暗示するような動き、未確立であっても仮説として注目すべき新しい考え方が提案されているような場合には、その点にも触れておきたいと思います。

このうち、1)と2)の部分は、多分に私の実践経験を反映したものとなると思いますので、読者各位にはその点をご理解いただき、ご興味に合わせて読んでいただければ幸いです。

さて、この新シリーズの開始にあたり、研究開発マネジメントの現状を概観しておきましょう。丹羽氏によれば、
・「技術戦略を効果的に構築しようと…(中略)…いろいろな領域で多大な努力が傾けられている。しかし、概してそれらはまだ手探りの試行錯誤の状態にある。」[文献1p.iii]
・「技術経営分野の個別の領域での議論や著作はあるものの、全体が見通せる体系を提示した書籍は見当たらない」[文献1、p.iv]
とのことであり、近著でも、
・「高度技術社会に入り技術経営学が新しい経営学として必要とされているのにもかかわらず、技術経営学はその確立が途上であり、また、そのためもあって企業での応用展開も十分に進んでいない」[文献2、p.6
と述べています。文献1と文献2はそれぞれ2006年と2013年の刊行ですが、現在もその状況は大きくは変わっていない感じです。しかし近年は、研究マネジメントの現状と時代背景を認識したうえで、なるほど、と思えるような様々な手法が提案されるようになっています。そうした近年の傾向を一言でまとめてしまうならば、持続的競争優位を目指すのではなく一時的な競争優位(本ブログ「競争優位の終焉」(マグレイス著)より)を目指していること、計画主導ではなく創発的戦略(シリーズ3第5回第31回)を重視していること、になると思いますが、新たな考え方と具体的手法の提案は、技術経営が実務家にも使える学問になりつつあるような印象を受けます。

研究を成功に導く処方箋、ハウツーが存在するならそれを知りたいものだとは思いますが、イノベーションの課題が時代とともに変化することを考えれば、決定版のような方法はそもそもあり得ないのかもしれません。ではどうしたらよいのか。現実的には、様々な方法について、その方法の試行により研究がうまく進んだかどうか、関係者の意欲が高まったかどうかを判断基準としてその手法の有効性を判断し、状況に応じてマネジメントを行っていくしかないかもしれません。そうした試行にあたり、本ブログによる知識の整理と私の仮説が少しでもお役に立てば幸いに思いますので、至らぬ点も多いとは思いますがよろしければおつきあいください。


文献1:丹羽清、「技術経営論」、東京大学出版会、2006.
文献2:丹羽清(編)、「技術経営の実践的研究」、東京大学出版会、2013.