近年のイノベーションにおいては、組織間の壁を越えた知識の交流や協力が重要な役割を担う、ということがよく指摘されます。例外的な場合を除いて、この指摘にはおそらくほとんどの方が同意されるのではないでしょうか。しかし、では、どうやったら壁が越えられるのか、どうすれば協力がうまくいくのか、といった方法論になると、まだまだ明確にはなっていないような気がします。

そこで、今回は、組織の壁を越えるためのリーダーシップについて議論したCasciaro, Edmondson, Jang著「Cross-Silo Leadership」[文献1]というHBR記事の内容をご紹介したいと思います。著者は、「ハーバード大学のHeidi Gardnerの研究によれば、境界を越えた協力がある企業ほど、顧客ロイヤルティが高く、利益幅が大きい」と指摘したうえで、「数十の組織における数百のエグゼクティブやマネジャーについて行った著者らの研究やコンサルティング結果では、協力のニーズと難しさの両方が確認されている。」と述べています。

そして、「サイロを壊すひとつの方法は、組織構造を再設計することだ。しかし、それはコストがかかり、混乱を招きやすく、遅い、という限界がある」と述べ、「さらに悪いことに、新しい組織はすべて、ある問題を解決できても別の問題を生んでしまう」とも述べています。では、どうすべきなのか。著者は、「組織境界を効率的に運用するための中心的課題は単純なものだ:境界の向こう側の人々について学び、彼らとうまく関わることだ。しかし、単純なことが易しいとは限らない;人類は異なる人々を理解しかかわることとずっと格闘してきた」とした上で、「リーダーは、人々が、個人のレベルでも組織のレベルでもこの困難を克服する能力を育まなければならない」とし、「つまり、組織間の境界で効率的に仕事ができるように、4つのことを実践できるよう、サポートし、訓練すること」が重要と指摘しています。以下、その4つについて見ていきたいと思います。

1,カルチャーブローカーを育成し配置するDevelop and Deploy Cultural Brokers
・「さいわい、多くの企業にはすでに境界での協力をうまくこなしている人々がいる。彼らは通常、複数のセクター、機能、分野にまたがる関係、経験を有し、非公式に組織間をつなぐリンクとなっている。我々は、そういう人々をカルチャーブローカーと呼ぶ。著者の一人であるSujinによる2000以上のグローバルチームの研究から、カルチャーブローカーのいる多様なチームは、そうでないチームよりも顕著に成果が高いことがわかった。」「カルチャーブローカーは、橋渡し(bridge)役となるか、接着剤(adhesive)となるかのどちらかの方法で、境界を越える活動を促進する。」
・「橋渡し役は、異なる機能や場所にいる人々の日々のルーティンの変更を最低限に抑えて協力できるようにするための仲介者となる。橋渡し役は両方についてのかなりの知識を持ち、それぞれのニーズが何かを理解できる場合に最も効果的になる。」「この種の文化的仲介は、他の組織のものの見方を学んだり仕事のやり方を変えたりする投資をせずに違いを超えて働けるため、効果的だ。特に、一回限りの協力や、結果を出すための時間的余裕がない場合に特に貴重なものだ。」
・「接着剤は、対照的に、人々を一緒にし、相互理解を助け継続的な関係を築く。・・・接着剤は人々の信頼関係を裏付け、互いの言語を翻訳することによって協力を促す。橋渡し役とは異なり、接着剤は、将来的に人々が手助けなしに境界を越えて働く能力を作り出す。」
・「リーダーは、あらゆるレベルの人に会社内の複数の部門と触れる役割を担うチャンスを与えることによって、ブローカーを育成することもできる。」「人々が2つ(以上)のグループに所属するようなマトリックス組織もカルチャーブローカーを育てるのに役立つ。」「固有の難しさ(強力なリーダーシップや責任がなければ率いるのが極端に難しい)があるものの、マトリックス組織は境界で活動することに人々を慣れさせる。」
・「組織の全員がカルチャーブローカーになる必要があるとは言わないが、協力の仕組みに潤滑油を与えるために意識的にブローカーの仲間を増やし、配置することで、長続きする活動が期待できる。」

2,正しい質問をするように促すEncourage People to Ask the Right Questions
・「多くの質問をせずに、境界を越えた仕事をすることはほとんど不可能だ。」「Tizianaの調査によれば・・・好奇心のレベルの高いマネジャーは、社内で結びつきのない部門にまで広がるネットワークを築きやすいことが明らかになった。」
・「しかし、我々は、出世するに従い、質問するという必須の習慣を忘れてしまいやすい。特に高業績をあげている人は、しばしば他の人の物の見方を気にかけることができなくなる。より悪いのは、自分が知らないことを認識すると、自分が無能だとか弱いとか思われてしまうのではないかという(誤った)おそれから、質問をしなくなってしまうかもしれないということだ。」「リーダーは2つのやり方で質問を促し、質問をしてもよいという心理的な安全のある組織を作ることができる。」
ロールモデルとなる
・「リーダーが質問をすることで、他の人がものごとをどう見てどう考えるかに興味を示せば、めざましい効果が得られる:それによって自分の組織の人が同じことをするよう促されるのだ。」「質問をすることで、謙遜を他者に伝えることができる。この謙遜は成功の必須の条件であるとするビジネスリーダーや研究者が増えつつある。」
HBSの「Gino氏は、部下が質問をしやすくなるようにするひとつの方法は、リーダーが答えを知らないときにははっきりとそれを認めることだという。別の方法としては、日常的に部下が『なぜ?(Why?)』『もしそうだとすれば?(What if,,,?)』『どうすれば?(How might we...?)』という質問をすることを明示的に促すことだという。」
質問の技法を部下に教える
・「できるだけバイアスがかからないようにして、情報を求める方法を学ぶことが重要だ。すなわち、yes-or-noの質問よりも先入観を最小にするオープンエンドの質問をすることだ。」
・「協力が進むに従い、他の人が特定の問題により深く関わることを促す、あるいは関連したアイデアや経験を表明できるような質問をチームリーダーやプロジェクトマネジャーが行うとよい。『あなたはxについて何を知っているか?』とか『どんな風に機能しているかを説明してもらえるか?』という質問がその例だ。」
・「人が聞いていることは、その人の専門や経験によってバイアスがかかっている。従って、『私がこのように受け取った。何か抜けているところはないか?』『不足を補ってもらえるだろうか?』『あなたが言っていることは、プロジェクトが予定どおりだということだと思う。それで正しいか?』などの質問で、仲間の意図を正しく受け取っているかをチェックするトレーニングをすることが重要だ。」
・「最後に、協力プロセスの温度(雰囲気)を定期的に測定する必要がある。他者がプロジェクトでどんな経験をしているかやどんな関係かを知るには、『プロジェクトの進行はどうだと思うか?』とか『より効率的に協力するために何ができるだろうか?』のような質問をするしかない。

3,他者の視点で世界を見るようにさせるGet People to See the World Through Others’ Eyes
・「リーダーは他のグループについて興味を持つよう、彼らの考え方とやっていることについて質問をするよう部下に単に促すだけではだめだ;積極的に他者の視点を考慮するように求めなければならない。異なる組織のメンバーは、物事を同じようには見ない。研究は、・・・こうしたことが仕事の接点における誤解に繫がることを一貫して示している。従って、他者の物の見方を学ぶための支援をすることが肝要だ。」「心理学研究は、ほとんどの人が他者の見方を受け取ることができることを示しているが、そのように動機付けされることは希だ。リーダーは、多様な専門性の統合が新しい価値の創造にどれほど有益かをチームに強調して動機づけすることができるが、他にもいくつかの戦術が役にたつ。」
部門間の対話を組織するOrganize cross-silo dialogues
・「リーダーは、一方通行の情報交流セッションに変えて、部下が顧客や会社の他部署のメンバーの目を通じて世界を見ることの助けとするため、部門間での議論を設定すべきだ。」
好奇心と共感を考慮した採用Hire for curiosity and empathy
・「他者の感覚、考え方、態度を理解し、共感する人を採用することで、異なる見方で世界を捉える企業の能力を拡大することができる。」

4,従業員の視野を広げるBroaden Your Employees’ Vision
・「多くの組織はしらずしらずのうちに、従業員に身近な環境、例えば自分の分野やビジネスユニットを越えた見方をしないように促してしまい、その結果、より広いネットワークを調べていれば得られたであろう洞察を見逃してしまう。リーダーは次のような方法で従業員が自らの視野を広げる機会を創ることができる。」
多様なグループからの社員をイニシアチブに集めるBring employees from diverse groups together on initiatives
・「原則として、クロスファンクショナルチームは、分野を越えた人々にその組織の中の様々な専門性を特定するチャンスを与え、それらがどう繋がるかあるいは繋がらないかをマップ化し、価値のある協力を可能にするように内部の知識ネットワークをどう繋ぐかを検討する。」
離れたネットワークを探索するように従業員を促すUrge employees to explore distant networks
・「従業員はまた、社外あるいは業界外まで広げて専門性を活用する必要がある。」「難しいのは、カギとなるビジネス目標に最も関係のある分野を見つけることだ。多くのイノベーションは、Abraham Flexner・・・が『役に立たない知識の有用さ(the usefulness of useless knowledge)』と呼んだものから生まれているが、ビジネスはオープンエンドな探索だけに頼るわけにはいかない。この運命を避けるため、リーダーは2つのアプローチのどちらかを採用できる。」
・「トップダウンアプローチは、知識創造の可能性が高い知識分野がすでに特定されている場合にうまくいく。」「ボトムアップアプローチはリーダーがどの外部の分野と組織を結びつけるべきかが見つけられない場合に好ましい。・・・外部の分野を調査し、コネクションをつくるために従業員に時間と資源を与えることも重要だ。」

サイロを壊すBreaking Down Silos
・「今日の経済では、組織の多様な知識を組み合わせる新しい方法を見つけることが、持続的な価値を創造するための必勝戦略だと誰もが知っている。しかし、サイロを越えて生産的に協働する機会とツールが従業員に与えられていなければそれは不可能だ。水平協力の可能性を引き出すために、リーダーは、文化的、物理的な壁を越えた関連づけと学習をおこなうことを人々に身につけさせなければならない。それにはここで説明した4つの手法が役にたつだろう。」「リーダーがこうした手法を促し、支援する条件を創造する時に、境界を越えた協力は第二の天性と呼べるようなものになるだろう。」
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技術の分野では専門性が必要とされることが多いため、どうしてもサイロ化して分野の境界に壁ができてしまいがちです。しかしそれを越えた協力ができれば新たなイノベーションのチャンスに巡り会えるかもしれません。もちろん、本書に述べられた手法だけで組織の壁が壊せるものかどうかはわかりません。ちょっと単純化しすぎているような感じもしないわけではありませんが、試してみる価値はあるのではないでしょうか。もし、リーダーの心に、著者の手法を適用してみることに対する躊躇があるなら、そこから変えていかなければならないのかもしれないと思います。


文献1: Tiziana Casciaro, Amy C. Edmondson, Sujin Jang, “Cross-Silo Leadership”, Harvard Business Review, May-June, 2019, p.130.
https://hbr.org/2019/05/cross-silo-leadership